1. 酔いどれ天使
もう4,5回は観ている作品で、それは何度も観たくなる魅力があるから。 飲んだくれの町医者が、結核を患ったヤクザの若頭を診てやるうちに、父性のような感情が沸いていき、翌年の『野良犬』における若造=三船敏郎、古株=志村喬というパターリズム的な関係性がこの作品ですでに十分に漂っている。 また、黒澤作品としては珍しく「任侠」の世界に踏み込み、かつ痛烈なヤクザ批判を観る者に浴びせているのも見どころである。 ただ、本質的なメッセージは、眞田医師が何度か口にしていた「理性」とは、松永のようなヤクザ者が欲しいままにする「欲望」とぶつかり合った場合、どちらが生きる上での「力」となるのか、という「人間」のあり方を問うところにあるように感じた。眞田にしても、松永にガミガミと「お前は病人なんだから、ああしろ、こうしろ」と説教しておきながら、自分は昼間から勤務中でも酒浸りなのだから。 それにしても、三船が前半のギラギラしたエネルギー満タンの風貌から、後半の病状が悪化して瘦せ衰えて死神のような風貌への変貌ぶりが凄まじい。この役作りもさることながら、「滅びの美学」ともいうべき松永の最期を体を張ったアクションで見事に飾ってみせた三船の役者魂。あれはかなり危険度の高い演技だったに違いないが、まさに日本映画屈指の名ラストシーンといえる。 そこには、敗戦後の日本が「何が何でも立ち上がってやる、簡単に死んでたまるか」という尖ったバイタリティを感じざるを得ない。 [DVD(邦画)] 10点(2025-06-22 03:36:46)《新規》 |