1. 私の中のあなた
対立する二つの意見があってもどちらかが正しくどちらかが間違っているというわけではない。それぞれに納得し得る言い分がある。ニック・カサヴェテスはいつもそこを丁寧に描く。けして誰かを悪者になんかしない。こういう描き方ってもう古い。古いけども、こういう優しさというか甘さは嫌いじゃない。ただ、この作品は物語自体が涙に溢れているので余計に甘っちょろくなっちゃってる。テーマに則した緊張がない。死の恐怖がない。親子のドロドロがない。ないないづくしで平坦。演技はみんな最高。そこだけで見られる映画になってる。もちろんその演技を引き出した監督の功。 [DVD(字幕)] 5点(2011-09-27 11:42:24) |
2. ワンダーラスト
どこかアキ・カウリスマキの映画のような印象を持ったのはけして主演を務めたパンクミュージシャン、ユージン・ハッツの容貌のせいだけではあるまい。この作品にはある程度本数をこなしてきた監督による作品としか思えないある種の余裕を感じる。なぜそう感じてしまうのかいろいろ考えてみたのだけど、たぶん「やりすぎていない」ってことに尽きるんじゃないだろうか。「スタイリッシュ」とか「お洒落」とかいう言葉が当てはまりそうな映像なんだけど、そこばかりが目立っちゃうほど「そこ」に力を入れてない。というかその加減ができるところにマドンナの凄さがある。これをきっと「センス」というのだ。こういう所謂センスのいい人というのは何やらせてもそれなりのものを作っちゃう。反面あまりに完成されすぎて面白みに欠けるなんて言うのは酷か。 [DVD(字幕)] 6点(2011-03-29 13:42:43) |
3. ワールド・オブ・ライズ
弟が監督した『スパイ・ゲーム』と似た構成なんだけど、痛快なフィクションであった『スパイ・ゲーム』とは違い、兄リドリーは原作がノンフィクションということもあり、痛快さよりもリアリティを選ぶ。と言ってももちろんフィクションで、社会背景など細部を丁寧に描きながらもほとんど社会派の色を持たないところは好感が持てる。ハリウッド二大俳優よりもヨルダン情報局のえらいさんが目立ってた。嘘だらけの世界でただ一人、嘘をつかない紳士ぜんとした人物なんだけど、言っても情報局のえらいさんなわけで、観客が何を信用してこの映画を見てゆけばいいのかわからないってところに面白さがあり、疲れるところでもある。CIA映画ではお馴染みの衛星からの偵察映像の使い方がうまく、最後もそこにオチをもってくるあたりがニクイ。現地の女とのロマンスとかかなり無理矢理だし、お話自体が古臭かったり、ラッセル・クロウの人となりが最後までよくわからなかったり、なんだけど、まずまず楽しめた。 [DVD(字幕)] 6点(2010-10-08 17:11:08) |
4. 我が至上の愛 ~アストレとセラドン~
《ネタバレ》 我が至上の愛。なんとも大層なタイトルがついているが、男女の恋愛を描くときのロメールのいつもの軽やかさは時代を5世紀にしたって変わらない。軽やかさはそのままに、時代を遡ることでより原初的な恋愛劇となっている。人を好きになることの至福と人に好かれることの至福がある、ただそれだけ。呆気にとられるほどのシンプル且つストレートさ。終盤、なぜ男は女装するのか。ロメールの真骨頂ともいえる女同士の会話をさせるためだ。そしてここで無防備に見せる乳房のなんて美しいこと。今までもロメールは若い女の体をとくに部位を強調して見せてきたがここまでモロに見せたことはなかった。愛の原初的な形を見せるにあたってこのストレートな見せ方になったのだろう。またそのストレートさに負けないほどの美がそこにある。若い男女の恋愛を、そしてそれに伴う「若さ」ゆえの肉体的反応を、美しく且つ健全に描ききった傑作である。軽いタッチでありながら、なるほどこれは至上の愛であった。ロメールの遺作にして最高傑作。 [映画館(字幕)] 9点(2010-05-14 15:16:17)(良:1票) |
5. ワルキューレ
これは暗殺計画というよりもクーデター計画であって、殺すことが目的ではなく殺した後に政府を掌握することが目的なのだ。つまり単純な「殺し」ではなく「殺し」も含めた複雑な「謀(はかりごと)」なのだ。映画は断然単純なものを描く方が面白い。それでもブライアン・シンガーはこの「謀」を面白く見せようと奮闘する。反ヒトラー派といってもその思想や思惑は人それぞれであって、当然そこには確執やら葛藤やらというドラマがあって、政治的なあれこれも絡んでくるはずなのだが、そこんところはあんまり描かない。極力、シンプルに。極力、事象だけを見せようとする。結果、面白かった。でも物足りなさもある。ドキドキはいっぱいあった。計画はうまくいくのだろうか。などと思ってドキドキするわけではない。計画がうまくいかなかったことで何が起こるのかでドキドキするのだ。じゃあ何が物足りないのか。おそらく「謀」を面白く見せることとドキドキさせることに関して完璧に過ぎるのだ。怒りとか恐怖とか執念とか、そういった人間的な感情が希薄、、いや違う、そんなもんいらんか、もっと、この映画に不似合いないかがわしいものでこの完璧さにひびを入れて欲しい。って思うのは変か? [映画館(字幕)] 6点(2009-12-17 16:40:14) |
6. once ダブリンの街角で
これ見てから8ヶ月以上が経過しているのにまだ楽曲がちゃんと頭に残ってる。それほどに響くものが「歌」にはあったということ。映画はおおげさな感動を煽らないんだけど、せっかくこんなに響く歌が歌われてるんだからもうちょっと盛り上げてくれても、という消化不良感が若干残る。例えばストリートでえらい人だかりができて、なんてだけで収まらず、ものすごい大盛り上がりを見せるとか、それぐらいあってもいいぐらいの歌だと思うんだけど。女性が最初、女性というより女の子にしか見えず、掃除機を散歩させてるようなシーンが可愛かったんだけど、途中から女の子どころか子持ちってことが判明し、なんだかお互いにややこしい事情を抱えてるという設定が明らかになってゆくんだけど、そのあたりのドラマが淡白。無くてもいいくらいに淡白。映画の作り手も「歌」に力入れてて、実際思ったよりもいいのが出来ちゃって、本来「歌」を介した大人の恋愛ドラマのはずが、「歌」がドラマを食っちゃった・・みたいな映画。 [映画館(字幕)] 5点(2008-08-25 17:24:14)(良:1票) |