1. ラスト・シューティスト
ネタバレ ジョン・ウェインはまさにガン(核実験の西部を仕事場としたために)でなくなったという説がある。西部劇の殉教者なのである。それはそうと、シブくまとまったいい映画である。ローレン・バコールは良い役だが、これぐらいの気位の高さは持ち前だったのだろう。赤狩りの時の姿勢でわかる。 [DVD(字幕)] 7点(2025-06-24 22:10:31)★《新規》★ |
2. イースター・パレード
ネタバレ 中期アステア40年代。盛りだくさんな、立派なもの。ジュディー・ガーランドは歌声良し。観客席を見せるミュージカルは、映画なのだと告げている。舞台劇の装置を借りている様に見せて、にもかかわらず徹底的に映画なのである。通常スピードのバックダンサーの前のアステアの動きだけがスローのシーンは、ステッキの存在がなければ、スローの演技を信じてしまうところだ。 [DVD(字幕)] 8点(2025-06-24 07:36:33)★《新規》★ |
3. ナイアガラ
ネタバレ 生きていたジョセフ・コットンがマリリン・モンローを追いかけるクロス・カッティングのみを問題にしよう。観客をハラハラさせて引っ張り込むこの追いかけの並行編集という技法は、まさに当のフィクションの登場人物たちが逃れられない罠である。この技法が、ベルトコンベアのごとく人物の理性を押し流す、復讐の殺人へと。 [ビデオ(字幕)] 7点(2025-06-22 22:54:23)《更新》 |
4. オットーという男
ネタバレ 駅のホームの線路に人が落下、のシーンで、みなが救出よりもスマホの撮影の方に気を取られるのはアイロニカルだし、youtubeのチャンネルもどきによる実況中継シーンというのも今日的。というわけで、何やら古めかしい感じのハナシにSNSの問題が溶け込んでいる。 [DVD(字幕)] 6点(2025-06-21 23:26:21)《更新》 |
5. 白昼の通り魔
ネタバレ 「愛は無償」という小山明子のごもっともの台詞が耳に残っている。この作品世界において、ひ弱なままの戦後民主主義が思い切りシゴキ直される感じだ。正しく美しい題目だけでは、弱い。実質的な力が必要だということ(どんな力?)、それには工夫が要るにしてもそれは各自の問題ということだ。 [映画館(邦画)] 8点(2025-06-21 17:41:11)《更新》 |
6. あいつと私(1961)
ネタバレ 鬼才中平康の裕次郎映画である。浮ついた日活青春映画の枠を脱していないな、とか、裕次郎は滑舌が明瞭ではないな、とかは、やはり感じるものの、そこは中平、あの嵐の中のキスシーンの描き方などは特に巧妙である。大島『日本の夜と霧』の後で60年安保を扱ったシーンを撮るとは、大変な勇気(?)だが、中平という監督はそのくらいの志のある人だったのだろう、『その壁を砕け』(1959)とか。 [DVD(邦画)] 7点(2025-06-20 22:41:53)★《更新》★ |
7. 東京戦争戦後秘話
ネタバレ 木が風にかすかに揺れている。それだけの映像を映画館で見るのが極上の気分である。そういう受容がこの時代の映画にはあった。政治の季節が一段落して、個々人が内的アイデンティティの模索へと突き返される時代の映画受容。大島映画はジェンダー論的に現在の鑑賞に耐え得ないところがあるのが惜しいが、その70年代初頭までの映像的凄みは今も圧倒的。 [映画館(邦画)] 8点(2025-06-20 08:49:53)《更新》 |
8. 恋の十日間
ネタバレ アステアの添え物ではなく、独立して、役者としての成熟を目指していったジンジャー・ロジャーズが見もの。ダンスシーンが少しあって観客としては興奮しかけたが、たんなる社交ダンスだった。やはり彼女の本格的な軽快なダンスを見たい気になった。ところで、戦時中の作品であり、厭戦的な表現(陰あるジョセフ・コットンを配して)が可能であるのは、アメリカの余裕(日本では考えられないこと)。敵国「ジャップ」の挿入されるイメージ画像が人間以前の醜い獣の姿で衝撃的だが、同じく日本の側からは「鬼畜米英」だったのだ。 [DVD(字幕)] 6点(2025-06-19 23:01:23)《更新》 |
9. バンド・ワゴン(1953)
ネタバレ ちょっとこれはなんだかゴチャゴチャしているのが(ハナシの構造上やむなし)惜しい(だからか、のちの『絹の靴下』はスッキリまとまっている)。とはいえ、シドはいい、不思議に切ない気持ちにさせるのはなぜなのだろう。あの細いウエストと、ダイナミックな動きのかねあいが。 [DVD(字幕)] 6点(2025-06-17 21:46:05) |
10. 静かなる男
ネタバレ まあ単純に楽しめばいいのだろう、歌あり踊りありのインド映画のようにロマンティックに。ロマンティックとはこの場合、それが束の間のことであっても、近代的個人が共同体との和合を回復し、孤独を解消するようなことである(ジョン・フォードにとっての「故郷」アイルランドへの帰還)。が、敢えて無粋を承知で言うなれば、これはまさにホモソーシャルな三角形の見本のような映画。「女性の交換」をめぐり、みずからすすんで瑕疵のない交換物たろうとして持参金にプライドをかけて固執する花嫁、この花嫁を挟んで対立する花嫁の兄と花婿。やがて、マッチョな「暴力」を介した男同士の相互承認関係で「ハッピーエンド」。あくまで男社会の支配なのだな。 [DVD(字幕)] 6点(2025-06-16 21:39:07)《更新》 |
11. コット、はじまりの夏
ネタバレ 原題が The Quiet Girl、明らかに、同じくアイルランドを舞台にしているフォードの有名作『静かなる男 (The Quiet Man)』に因んでいるのだろうから、『静かなる少女』という邦題でいけただろう。満点の映画だが、このザンネンな邦題と、ラストシーンが事の重大な成り行きを敢えて放置していることで、一点減点。キャメラが美しく無駄なく(多い省略も有効)、俳優陣も瑕瑾なし。主演の少女のまさに抑制の効いた演技には、濱口竜介ふう演出の良きものを感じる。本当にいい映画だ、あの乱暴な『静かなる男』なんかより遥かに。比較ついでに、少女もの比較で『ミツバチと私』(2023)を参照すると、いかに『コット、はじまりの夏』の画面に快い緊張が溢れているかが感得できる。 [DVD(字幕)] 9点(2025-06-15 21:26:03)《更新》 |
12. トップ・ハット
ネタバレ あの『マダムと女房』の如く、冒頭から、サイレンスの要求とそれに対する騒音(タップの!)の挑発というかたちで、もはや遅ればせながらもトーキー化を高らかに宣しているのであろうか。何にも縛られない「自由」を口にしながら気ままに踊り出すアステアの音(タップと音楽)と共にある身体は、トーキー映画の意欲的な前途そのものを告げる。 [DVD(字幕)] 8点(2025-06-15 09:52:17) |
13. 晴れて今宵は(1942)
ネタバレ 鎧姿が一瞬出てきて、極めて当たり前ながら、それとは逆のミュージカルのしなやかな身体性を浮き彫りにする。この身体性と音(音楽)のコラボが、かつてトーキー化の必然性の後押しをしたのだった。リタ・ヘイワース、頑張ってるなぁ。踊れるフィルム・ノワールの女、なのである。 [DVD(字幕)] 8点(2025-06-13 21:51:51) |
14. 嘆きのテレーズ
ネタバレ 作り手はじっくりと説得的に描き込む、それを受け手もじっくり堪能する、というフランス映画だ。ハリウッド調とは異なった、バッド・エンドのアイロニーなんかもいい。 [ビデオ(字幕)] 8点(2025-06-11 10:56:00) |
15. 埋れた青春
ネタバレ 究極のバッド・エンド。映画館へ行って、この不条理なエンディングを観たいか、である。落ち込んでいるときに観たら帰路の電車がシンパイかも(笑)。しかし、映画観客が、「現在」の持続たる映像を乗り越えてゆく欲望に憑かれた存在ならば、バッドエンドもまた、地道に説得的に語られる「現在」の苦悩をついに「過去」へと送り込むのであるから、それは観客の「欲望」に合致するのである・・・などとあらためて確認したくなる映画。 [DVD(字幕)] 8点(2025-06-11 10:23:24) |
16. 素晴らしきかな、人生(2016)
作品を制作する上での脚本の手直しやらの情景が浮かんでくるような映画ではないか。ハリウッドらしい「無い設定、無い話」をどう入れるかの。この「無い話」はやはり「無い」ので、拍子抜け。見慣れた有名俳優たちの抑えめの演技だけをそれなりに愉しんで見ている感じ。 [DVD(字幕)] 5点(2025-06-10 23:18:33) |
17. ぼんち
宮川一夫のキャメラが炸裂する、実に凝り倒した素晴らしい画面だ。精神的内容は決して高尚でもなんでもない、が、映画の場合、形式そのものが「内容」なのである。この意味での「内容」をひたすら愉しむことができた。ほんの一例として、このシネマスコープの横広画面に仕掛けられた横の運動を、愉しむこと。 [DVD(邦画)] 9点(2025-06-07 22:03:39) |
18. 赤線地帯
ネタバレ 溝口の中でもこれはあんまり好きではない。流麗な動きのはずの宮川一夫キャメラも、この陋屋に閉じ込められている感じ。若尾文子と京マチ子がそれぞれ活発な役柄で浮いているのは、それで構わないのだが、やはり嘘っぽさが残る。 [DVD(字幕)] 7点(2025-06-06 21:08:00)《更新》 |
19. 我が至上の愛 ~アストレとセラドン~
ネタバレ 何かに到達するとは厳密な否定を経て、それを乗り越えてこそであるということなのだ、ロメール映画において。その厳密な否定に、パラドックスやアイロニーなどの通常のロメール味が付随する、ということが今わかる。あの、ピリピリ神経質になっている二人に最後に訪れる、彼女の口から「命令」としての愛の言葉が「自発的に」湧き出ずるのも、パラドックス。 [DVD(字幕)] 7点(2025-06-05 21:44:58) |
20. 瞳の奥の秘密
ネタバレ これはミステリーとしてはメリハリに欠けるし、人間ドラマとしてもとくべつ同一化できるようなものではなかった。ただあのちょっと倍賞美津子似の知的な上司は魅力的な役柄ではある。 [DVD(字幕)] 5点(2025-06-04 22:30:09) |