201. デッドマン(1995)
ネタバレ 眼鏡をかけたジョニー・デップがまず映像的な要諦であり、その見た目(主観ショット)として淡々と風景が流れていく。が、ジョニーととりあえず同一化はできない。やがて、相変わらず淡々と、次から次へと暴力がある。ジャームッシュの一見「無意味な」ロードムービーだが、無意味ぶりに師匠ヴェンダースとは違った硬派な何かがある。ところで、「意味」はある、ネイティブアメリカンとの親近性こそが、それ。白人の眼鏡は「交換」され奪われなければならない。あとは眼鏡をはずしたジョニー・デップの顔で映画は進むが彼が「主体」では、ほぼ、ない、という凄さ、がこの映画の凄さ。 [DVD(字幕)] 5点(2012-07-02 14:29:54) |
202. ハピネス(2007)
ネタバレ 鏡像の巧い利用の二例。1)男への恋愛感情が定着した段階で、女が自らを鏡に映して幸福感を確かめる。2)男が去っていくとき、見送る女の背後のガラス戸に男の後ろ姿が写っている。後者の例は、この監督ホ・ジノの長回し手法の一環であって、見た目(主観ショットのモンタージュ)をできるだけ使わない結果である。長回しが、見た目ショットを切り詰めるのは、眼の話にしたくない、というか、身体や情況で映画が動いているのだよ、ということだ。とにかく、ホ・ジノ大好き。 [DVD(字幕)] 8点(2012-07-02 14:03:25) |
203. 1408号室
ネタバレ まだ何も生じていない段階で動くカメラが、何者かの視点であるかのようで、恐ろしい。やがてこれでもかとホラー攻撃が極端なものに成長(荒唐無稽化)していくとかえって醒めてしまう。そして結局この部屋から出られない(自分という檻からは出られない)としたら、それこそが最も恐ろしいのであり、作中触れられる「カフカ的」という形容詞にそのとき真に相応しいものとなる筈だった。残念賞。だが、「カフカ的」であろうとした点においては志を感じる。 [DVD(字幕)] 7点(2012-06-25 14:23:42) |
204. ミラーズ(2008)
ネタバレ 鏡ものサイコホラーなのだが、鏡から何か恐ろしいもの(beyond reality)が出るという発想は、お化け屋敷的に怖いことは怖いが、本質的な怖さではない。鏡のほんらいの怖さは、お互いを映し合う相対性の泥沼たる鏡面、鏡の外には出られないことにある。だから例えば『上海から来た女』(ウェルズ)は、凄い。 [DVD(字幕)] 4点(2012-06-18 15:13:14) |
205. アンダーカヴァー(2007)
ネタバレ 内容的には他愛のないもので「警察友の会」的ですらある(アウトローの人物を掘り下げた方がほんらい意味深いかもしれない)のだが、この重量感はどうだ。形式面のこの充実!怖いシーンのもの凄い怖さ。 [DVD(字幕)] 6点(2012-06-18 15:04:31) |
206. 映画は映画だ
ネタバレ かつてのハリウッドの「ヘイズコード」に対する返答ともなり得る。暴力表現は「映画という枠組み」で提出されているにすぎないと絶えずことわればアリ。ラストで「本物の」暴力として示されるものでさえ映画なのだ。ブレヒトの『都会のジャングル』という初期の名作も併せて想起した。つまり、ここでの暴力表現は「直接の」関係への欲求というせつないもの、なのである。 [DVD(字幕)] 8点(2012-06-11 16:15:16) |
207. マイ・ブルーベリー・ナイツ
ネタバレ しつこいまでの180度ライン越え(齟齬の表現)が明確なアクセントになっている「こだわり」感が、ハッピーエンドまでの時間を構成する。 [DVD(字幕)] 5点(2012-05-30 23:14:54) |
208. 探偵物語(1951)
ネタバレ 「ワイラーの階段」がでたー。『黒蘭の女』のラストの肯定的な大逆転の階段もあれば、『探偵物語』の暗転の階段もあるというわけだ。『女相続人』の、駆け落ちの相手にすっぽかされた主人公が自室へと戻る際の、失望の長い階段、というのもあった。 さて「内容」だが、罪に対する厳格主義の主人公について、「父を憎んでいるから」という「精神分析的な」説明がなされるとき、観客はなんだか大きく頷いてしまう仕組みなのであろう。エディプス期を円満に「卒業」できていないゆえに、マザコン男としてバランスを欠き、過酷な超自我を模倣してみせる、のだろうか。 [DVD(字幕)] 5点(2012-05-30 18:27:14) |
209. しあわせの隠れ場所
ネタバレ こういう映画の「偽善性」を言うのは簡単であるし、それがいいのである。きもちよく「偽善性」を見定めることにしよう。陰気にではなく。 [DVD(字幕)] 5点(2012-05-28 18:53:58) |
210. メリーに首ったけ
ネタバレ 上手なラブ・コメ。メリーの「大切なもの」に襲いかかる男がメリーその人ではなくその靴を獲得しようとしたり(換喩への位置ずらし)メリーに首ったけの男たちの競争であったり(悪事の数々の相対化、みんな一生懸命なんだし、と)。下ネタの濃厚さは、かつてのヘイズコード(映倫)のハリウッドでは考えられなかったもの。 [DVD(字幕)] 5点(2012-05-26 19:24:52) |
211. シザーハンズ
ネタバレ 長所は、異形の主人公がほとんど違和感もなく家族の一員として受け入れられる筋、である。この「越境」の有り様のみがオモシロイ。あとはすべて子供向け「アトラクション」映画である(非道の敵対者に対する死の報復もまた子供レヴェルのカタルシスである)。 [DVD(字幕)] 3点(2012-05-09 18:23:05) |
212. 素肌の涙
ネタバレ 性的虐待を行う父は二重人格のなかに罪意識を隠していたことがやがて判明し、被害者たる娘の主体性は隠れてしまっており、この犯罪を追及する弟の探偵的な自律性もなんともひ弱である。各人の主体性のこのような隠然たるありようは、あくまで暗く美しい画面とともに、たいへん映画向きなのである(演劇的ではないという意味で)。 [DVD(字幕)] 5点(2012-05-05 23:35:33) |
213. 17歳の夏
ネタバレ フランス映画らしい長回し手法で、人物配置やプロットもシンプルな造りながらも見事に充実している。中年になったあの風采の上がらないドニ・ラヴァン(かつての「アレックス」役俳優)にうら若き乙女が死に至る恋をしてしまうのである。これについて十分に納得のいくように構成されている、と言いたいところだが、やはり彼女が死ぬことはないから、その点では無理があるかな。とにかく、一瞬の厭世的なラディカリズムの罠といったところ。 [DVD(字幕)] 6点(2012-05-04 23:22:38) |
214. レインマン
ネタバレ ロードムービー部分が作品の「いのち」であろうしそこをもっと充実させてもいいかもしれないが、甘口のエンディングにしないようなんとか「ふみとどまっている」だけでも、さすがダスティン・ホフマン映画である。ダスティン・ホフマンが皆の一方的な「見た目」(客体)であって「切り返し」で 見返す主体ではないということ、これはこの映画の露出した特徴になっている。 [DVD(字幕)] 6点(2012-04-22 09:43:22) |
215. 日曜日には鼠を殺せ
ネタバレ あのジンネマンのスペイン市民戦争がらみの「真面目な」抵抗映画的な作品である。映画なので敵の悪役の視点からけっこう描かれたりもする(常套表現だが、このことのみがそれなりに興味深い)。人の生死が問題になるような話なのに子供の起用がまったく迫力を欠くのは、この作品のつまらなさの一例である。 [DVD(字幕)] 3点(2012-04-22 00:04:23) |
216. グラン・トリノ
ネタバレ 上手に無駄無く一本制作したという感じ。手慣れたものである。ところで、銃社会では老人でも銃を手にすれば本格的な暴力主体となりうる、ということの裏返しで「丸腰」の結末はある。 [DVD(字幕)] 7点(2012-04-14 13:23:28) |
217. ブラック・スワン
ネタバレ 女性同士の競争という話題が狭苦しい感じだし、親からの遅延した自立という話題も安易かな。 とにかくこれはもうホン(スジ)の問題。1スジ 2ヌケ 3ドウサ と言われる(マキノ省三)。 [DVD(字幕)] 4点(2012-04-09 01:16:30) |
218. サンザシの樹の下で
ネタバレ チャン・イーモウももはや「ザ・権力」なので『初恋の来た道』のような好意的な受け止め方をしないゾとこちらは身構えるところがあったのだが、やはり巧い。きちんと計算の行き届いた配置、とくに川をはさんだ別れのシーンはほんとうに深い感じで入っているとおもう。 [DVD(字幕)] 7点(2012-04-09 00:59:21) |
219. ロング・グッドバイ
ネタバレ カラーのフィルム・ノワールがいい、夜のシーンが多くて黒っぽいがそれもいい。フィルム・ノワールらしく長回しでそれこそタバコの煙ばかりで、とぼけた味もあっていいのだが、主人公が突然自分の判断で人を殺すのには驚く(これもフィルム・ノワール的な常識か、死刑廃止的な観点から見ているとびっくりすることになる、銃社会アメリカ)。アルトマン好き、なんだけど、少々登場する暴力シーンの重さは、かつてのフィルム・ノワール(40~50年代)では回避されたのである。 [DVD(字幕)] 7点(2012-04-06 22:51:45) |
220. ナイト&デイ
ネタバレ ドンパチにより死体でうようよの機内シーンで早くも『ショアー』における「死体の山」を思い浮べた。野暮は承知でやはりあえて言っておかなくてはならないでしょう、ひたすら快適な娯楽映画だからといって排除の暴力に無関心であっていいはずがないこと(もちろん「無関心」だからこそ「ひたすら快適」なのだが)や、どんな殺し合いがあってもおとがめなしに無傷で生き残る主人公はアメリカというものの隠喩であること、などを・・・というように受け取るよう挑発している映画だとはいえ。 [DVD(字幕)] 5点(2012-03-13 23:09:21) |