221. ソルジャーズ・アイランド
ネタバレ この映画、結構好きです。 好きなんだけど……それを差し引いても欠点の多さが気になっちゃいましたね。 金持ち連中が自慢のタネを得る為、節税の為にレジャー感覚で軍隊に参加するという「富豪部隊」の設定は面白いのに、それを活かし切れていない。 例えば冒頭、如何にも「普通の戦争映画っぽい場面」から始まって、それがあんまり面白くなかったりするもんだから、気勢を削がれる形になっているんです。 しかも、後に映画のラスボスとなる相手が冒頭にて主人公に一度倒されていたりするもんだから、緊迫感も失せてしまうという形。 これなら冒頭の部分はカットして、主人公が「富豪部隊」の護衛役に雇われる場面から始めた方が良かったんじゃないかな、って思えます。 主人公が「伝説の軍人」って割には「弾を避ける為に、ジグザグに走って逃げるべき」ってアドバイスを武器商人からされたり、内通者がいると分かっているのに基地を移動させようとしなかったりと、その能力に疑問符が付いてしまう辺りも残念。 物語を面白くする要因なはずの「内通者の正体」に関しても、どうも扱いが下手だった気がしちゃうんですよね。 作中で特にヒントも出していないから「犯人探し」を楽しむ事も出来ないし、犯人のキャラ付けに関しても「嫌味な金持ちその1」という没個性的な代物でしかなかったので「良い奴だと思っていたのに、裏切り者だったのか……」という意外性も無し。 そんな裏切り者を殺す際に「クソ銀行屋め」と言わせたりするのも、如何にもって感じがして、ノリ切れませんでしたね。 この手の「皆もサブプライムローン問題には怒ってるでしょ? だから映画の中で銀行屋を懲らしめておいたよ」というパターンは流石に食傷気味で、ちょっと興醒めしちゃったくらいです。 そんな欠点の多さに比べると、良かった部分を探すのは大変だったりするのですが……その数少ない「良かった部分」が、かなり自分好みなんですよね。 主人公が戦友と交わす会話「国のために戦ったのに報われない」「金のために戦おう」にはグッと来ちゃったし「今はトレーラーハウス暮らしの無精髭な主人公が、実は伝説の軍人だった」って設定も、男の浪漫をくすぐるものがあります。 ナイフを用いての決闘で、敵にトドメを刺すシーンも恰好良く決まっていたし、水上バイク同士を衝突させて爆発させるとか、アクション映画として見栄えの良い場面がしっかり詰まっているのは、文句無しで長所だと思いますね。 ラストシーンにて、花火を打ち上げたり、争いの種となっているレアメタルを海に投げ捨てたり、水鉄砲で子供達と遊んだりしている光景を描き「島を独裁者の手から解放した」喜びを感じさせて終わる辺りも、ハッピーエンド感があって良かったです。 そういった具合に、確かな魅力も秘めている映画であるだけに(ここは、もっとこうすれば良かったのに……)って、歯痒くなっちゃいますね。 せめて「富豪部隊」の面々が善意に目覚めていく流れだけは、もうちょっと丁寧に描いて欲しかったです。 例えば、事前に島民の子供との交流を描き、この子達を救いたいと思って金持ち連中が立ち上がるとか、そういう展開にしておけば、もっと感動出来たろうし、胸を張って「隠れた傑作」と言えた気がします。 「クリスチャン・スレイターが主演で、彼の恰好良い場面がちゃんとある」というだけでも、自分にとっては「良い映画」なのですが……中々他人には薦めにくい一品でありました。 [DVD(字幕)] 6点(2018-12-04 14:43:17) |
222. コップ・カー
ネタバレ 観終わった後に上映時間を確認し(えっ、88分しかなかったの?)と思ってしまった事が印象深い。 体感としては二時間越えの映画に思えた訳ですが、中身が濃かったというよりも「一時間以内に片付けられるストーリーを、無理矢理引き延ばした」感があったりしたのが辛いですね。 とにかく演出の「間」が長くって(早く次の展開に移ってくれないかなぁ……)って、じれったい気持ちになる場面が多かったです。 それが最高潮に達するのが、ケヴィン・ベーコン演じる警官が車泥棒する場面であり、ここは本当に観ていてキツかったですね。 窓の隙間から靴紐の輪っかを通して、それで車内のロックを解除しようとする流れなんだけど、観客を焦らすように繰り返し失敗したりするもんだから、やりきれない気分になっちゃいました。 それだけ時間を掛けた訳だから、成功の際の達成感も大きくなる……って訳でも無くて、成功の寸前にカメラが切り替わり、次の瞬間には靴紐の輪っかが不自然に小さくなっていたりしたもんだから(あっ、ズルしたな)と思えて、作り手の不誠実さに幻滅しちゃったくらい。 この場面に関しては、もうちょっと上手く撮って欲しかったです。 少年達が家出した理由を「義理の父親」「お婆ちゃん子」などの断片的な情報だけで片付けたり、警官達が具体的にどういう理由で殺し合ったのかが謎だったり、終いには負傷した少年の生死も曖昧なままエンディングを迎えたりと、やたら説明不足なのも気になりますね。 この辺りは「無駄な説明を削ぎ落とした、スタイリッシュな話作り」「観客の想像力に訴えかけ、余韻を残す終わり方」と褒める事も出来そうなんだけど、自分としては「投げっぱなし」って印象の方が強かったです。 ……とはいえ、良かった部分も色々あって、一概に「嫌いな映画」とも言えないんだから、全くもって困り物。 主人公となる少年二人が「悪ガキなんだけど、愛嬌があって憎めないタイプ」だった訳だけど、この映画も丁度そんな感じだったりするんですよね。 自分としては「間延びした演出」「説明不足なストーリー」は明らかに欠点だと思うんですが、それを補うだけの長所も備え持っているという形。 何と言っても「男の子達がパトカーを手に入れて、好き勝手に乗り回す」という楽しさを、きちんと描いている点が良かったと思います。 映画でこういう展開があっても、すぐに大人に見つかって止められたりするものなんですが、本作はたっぷりと尺を取って「子供がパトカーを使って遊びまくる」場面を描いているんですよね。 何せ二人きりの「子供の時間」が破られ、トランクの中から大人の男が出てくるのが88分中48分を過ぎてからというんだから、凄い話です。 作り手側にとっても、後半の銃撃戦やら何やらは余戯に過ぎず「子供がパトカーで遊ぶ」場面の方をメインにしたかったんじゃないかなぁ、と思えてきます。 少々ブラックな内容ではありますが、ある意味では「子供の夢を叶えてくれる映画」と呼ぶ事も出来そうな感じですね。 敵役のはずの警官に関しても、演者であるベーコンの力量ゆえか、妙な魅力があったりして、これまた憎めない。 身の破滅を悟り、自宅に隠しておいた金塊やら何やらを掻き集めて逃げ出そうとする件なんて、特に好きですね。 この場面では、つい彼を応援しちゃって、無事に逃げ延びて欲しいなと思わされたくらいです。 中盤「そんな風に銃で遊んでいたら危ないぞ」と観客に思わせておき、終盤にて「それみた事か」とばかりに、少年達の片方が弾を受けて負傷する展開になるのも、上手い伏線回収の仕方でしたね。 ラストシーンに関しても「友達を救おうとしてパトカーを運転し、それまで出せなかった速度を出してみせる」「大人に背を向けて家出した少年が、無線に応答して、今後は大人と話し合っていく未来を示唆する」といった感じの演出が行われており、投げっぱなしな終わり方ではありますが「独特の味わい深さ」のようなものは、確かにあったかと。 総評としては、才能ある若手監督の作品に相応しい「粗削りで欠点も目立つが、光るものを秘めた映画」って感じになるでしょうか。 正直「楽しかった」「面白かった」って印象は然程残っていないんですが、忘れ難い魅力を秘めた、記憶に残る一品ではあったと思います。 [ブルーレイ(吹替)] 6点(2018-12-02 09:47:38) |
223. グリース
ネタバレ 青春映画の金字塔、なんていうベタな一言が似合う作品ですね。 日本での知名度はさほどでもないような気がしますが「後年の映画において頻繁に名前が出てくる事」「パロディの対象となるのも多い事」が、その影響力の強さを窺わせてくれます。 思うに、主人公とヒロインが最初から両想いであり、彼らの恋の行方そのものよりも「本当は真面目な自分」「でも仲間の前では強がって、不良ぶってみせる自分」という二面性の葛藤がメインになっている辺りが、当時としては新しく、革命的だったのではないでしょうか。 後の「ハイスクール・ミュージカル」「glee/グリー」にも通じるテーマ性があり、映画史やドラマ史について考える際にも、本作の存在は無視出来ないように思えます。 ……とはいえ、そんなアレコレは無視しちゃって、映画単体として観賞しても、しっかり楽しめる内容となっていますよね。 体操着姿が全然似合わないトラヴォルタが、彼女の為に不良からスポーツマンに生まれ変わろうと悪戦苦闘する姿は微笑ましいし、ラストにて不良少女なファッションに身を包むオリヴィアの姿も、実にキュート。 やたらと登場人物が多い映画なのですが、この主役二人のキャラがしっかり立っている為、安心して観賞出来た気がします。 俳優達が老けていて高校生役は無理があるとか、ラストまで引っ張った挙句に「妊娠してなかった」の一言で済ませちゃうのは酷いとか、欠点も色々目に付いちゃうんだけど、そんな完成度の低さ、隙の多さが、また「青春映画」らしくも思えるんですよね。 ダンスにレースと、山場が二つある事に関しても(どっちか片方に絞った方が、綺麗に纏まったんじゃない?)って感じてしまうんですが、そんな野暮な観客の疑問に対し「ダンスシーンもレースシーンも、両方やりたかったんだよ」と、作り手が堂々と答えているかのような大らかさ、潔さが画面から伝わってくるんです。 時代遅れなはずのファッションも、四十年後の目線で見れば斬新で恰好良く思えたりもするし、とんでもない火力のライターを使って煙草を吸うシーンなんかには、憧れちゃうものがありましたね。 ミュージカル部分も素晴らしく、ボロボロの車を綺麗に作り直して「グリース・ライトニング」と名付ける場面は本当にテンション上がったし「美容学校を落第」なんていう歌詞の曲を、物凄くロマンティックに唄ってみせるシーンなんかも、惚けた魅力があって好き。 ドライブインシアターで「絶対の危機」の予告編が流れているのも(監督の趣味なのかな?)と思えたりして、微笑ましかったです。 そんな中でも特筆すべきは「教師キャラ」の描き方であり、本作は不良少年達を主役にしておきながら「悪い大人」である教師が一切登場していないんですよね。 校長も、体育教師も、車の改造を手伝ってくる女教師も、揃いも揃って良い人であり、憎まれ口を叩く事はあっても、決して主人公達を見放したりはせず、温かく見守ってくれる。 それゆえに本作においては「大人は分かってくれない」と少年達が絶望する事もなく、悲劇的な結末は迎えずに、ハッピーエンドへと着地してくれるんです。 この手の「不良少年もの」で、ここまで優しい大人達が揃っている作品は初体験だったもので、本当に斬新に感じられたし、その歪さを感じさせない公正な世界観が、凄く心地良かったです。 卒業カーニバルにおける「生徒が教師にパイを投げつけるゲーム」も、そんな本作の「教師と生徒の関係性」を象徴する一幕であり(仲が良いなぁ……)と、観ていてほのぼの。 ラストにて「卒業したら、バラバラになるのよ」「そうなったら、もう会えないかも知れない」という会話シーンがあり、しんみりした寂しい別れが描かれるのかなと思ったところで「いや、心配ないって」と主人公が言い出し「いつまでも、みんな仲間」という歌詞の曲を歌って、明るく楽しく終わってみせるのも、実に気持ち良かったですね。 最後は主人公カップルが車に乗って、空を飛んで終わりというのも、普通なら(もしや、卒業式の夜に事故死して天国へ行ったという寓意?)なんて考えてしまいそうなものなのに「いや、この映画に限って、それは無い」と断言出来てしまうような、力強い明るさがある。 眩しいくらいの輝きを感じさせる、素敵な映画でありました。 [DVD(吹替)] 8点(2018-11-14 01:37:37)(良:2票) |
224. 天使のくれた時間
ネタバレ ちょっと早めの時期にクリスマス映画を観賞。 所謂「クリスマス・キャロル」形式の作品であり、主人公がクリスマスの夜に特別な体験をして人生観が変わるというストーリーなのですが「人生観が変わる前の主人公」を最初から肯定的に描いているというのが、新鮮に感じられましたね。 彼は確かに仕事人間で、女遊びだってしているけど、どう考えても「良い奴」だし、楽しそうに毎日を過ごしているもんだから(別に今の人生も悪くないじゃん)と思えてしまうんです。 これは意図的にそうしているのであり「ケイトと別れた場合の人生」「ケイトと結婚した場合の人生」どちらを選んだとしても自分は幸せだったと、そう結論付けるんじゃないかと予想していたのですが…… 結局は「やはりケイトと結婚するべきだった」「仕事よりも愛を選ぶべきだった」という王道エンドを迎えちゃうので、少々肩透かし。 この「今までの人生を否定する」オチに関しては「今までの人生は間違っていなかった」オチである名作映画「素晴らしき哉、人生!」に対するアンチテーゼだったのかも知れませんが、それって全然目新しく思えないし、落胆する気持ちの方が強かったです。 それというのも、そもそも「素晴らしき哉、人生!」からして「クリスマス・キャロル」に対するアンチテーゼ的な内容であり「今までの人生は間違いだった。新しく生まれ変わろう」から「今までの人生は間違っていなかった。これからも今まで通りに生きよう」という内容へと一歩進んでみた訳だから、この映画は「クリスマス・キャロル」の逆の逆を行こうとした結果、元に戻ってしまった気がするんですよね。 「仕事より家族が大事」というメッセージは自分も好きですし、大いに賛同したいけれど、そんなアレコレが脳裏をチラついてしまい、映画の世界に没頭出来なかった事が、非常に残念でした。 他にも「主人公が人妻と不倫しそうになる」という伏線が投げっぱなしなのも気になるし「元の世界には戻らない」と主人公が断言するまでに至る流れが、あんまり描けていないんじゃないかと思える辺りも、気になるところ。 後者に関しては、わざわざ時間を掛けて描かずとも「こんなに良い奥さんと可愛い娘がいるんだから、観客も納得出来るはずだ」という作り手の判断で短く纏めたのかも知れませんが、ちょっと説得力に欠けていた気がします。 せめて、妻と娘の事柄以外にも「親友との絆を確認する」「皆とボウリングする楽しさに目覚める」「義父を助ける事が出来て良かったと実感する」などのイベントを描いて「ケイトと結婚した場合の世界」ならではの魅力を、もっと感じさせて欲しかったですね。 ……と、何だか不満点を書き連ねる形になってしまいましたが、要所要所で(あぁ、良いなぁ)と感じる部分はあったし、決して悪い映画ではなかったと思います。 特に、銃を持った男相手に「ビジネス」を持ち掛ける件なんかは緊迫感があるし、主人公の恰好良さも伝わってくるしで、かなり好きな場面。 入れ替わった世界に元いた自分は、写真の中で幸せそうに笑ってばかりいるのに気が付き「何がそんなに嬉しいんだ、お前」と主人公が毒吐く姿なんかも、皮肉なユーモアがあって良かったです。 娘に「おかえりパパ」と言われる場面も切なくて、感動という意味では、あそこがクライマックスだったかも。 ラストシーンにおいても、安易に二人を復縁させたりはせずに「コーヒーを一杯だけ」という、束の間の一時を共に過ごす姿で終わらせた辺りも、上品で、オシャレな着地でしたね。 この後、二人は結婚して子供を授かるのか、あるいは「もしも結婚していたら」という可能性の話をするだけに留めて、再び別れてしまうのか、観客の解釈次第という、上手い終わらせ方だったと思います。 それと、捻くれ者な自分としては「ケイトと別れた世界」の主人公が「ケイトと結婚した世界」に転生している間「ケイトと結婚した世界」の主人公は「ケイトと別れた世界」に転生しており、入れ替わった先で「彼女よりも仕事を選んだ方が幸せだった」という結論を出しているんじゃないかと、そんな可能性についても考えちゃうんですが……まぁ、流石にそれは無いでしょうね。 その場合は、我に返った後、妻と子供達を抱き締めて「今ある自分の人生」の幸せを、実感していて欲しいものです。 [ブルーレイ(吹替)] 6点(2018-11-08 06:43:14)(良:2票) |
225. ライジング・ドラゴン
ネタバレ 「アジアの鷹」シリーズの第三弾……なのですが、ちょっと毛色が違うというか、外伝のような印象も受けましたね。 それというのも、本作の主人公は「JC」と呼ばれており、彼が「アジアの鷹」であると判明するのは終盤も終盤、クライマックスの空中戦においてだったりするのです。 自分としては観賞前から「プロジェクト・イーグルの続編」という気持ちでいたもので、その辺ちょっとチグハグというか、ノリ切れないものがあって残念。 多分これ、作り手側としても意図的に「主人公の正体は不明」にしておき、ラスト間際にて「主人公は、あのアジアの鷹だった」と種明かしして、驚かせる構造にしていたんじゃないでしょうか。 過去二作における主人公のトレードマック「ガムを食べるシーン」が登場するのがラスト三十分ほどになってから、というのもそれを裏付けており、ここで(あのガムの食べ方は、もしかして?)と観客に思わせた後(やっぱり、そうだった!)というカタルシスを与えるつもりだったんじゃないかなぁ……と予想します。 基本的には単独で仕事をこなすイメージのあった「アジアの鷹」が、チームワークを活かして盗みを働く存在になっている事、何時の間にか奥さんまでゲットしていた事など、戸惑う展開が多い辺りも困り物。 さながら「プロジェクト・イーグル」と本作の間に何本も作品があって、その間に仲間が増えたり、ライバルの「禿鷹」と出会ったり、結婚したりしたかのようで、置いてけぼり感がありました。 そんなこんなで、中途半端な予備知識が仇となってしまったパターンなのですが……それでも充分楽しめる作品に仕上がっている辺りは、流石という感じ。 「世界に四枚しかない切手」の内の三枚を破り捨て「世界に一枚の切手」にして価値を高めるシーンなど「物の価値とは何だろう」と考えさせる脚本になっているのは、如何にも「アジアの鷹」シリーズっぽくて、嬉しかったですね。 税関を用いた本物と偽物を入れ替えて盗むテクニックには感心させられたし「薔薇を大切にしろよ」という台詞が伏線になっており、それが黒幕の逮捕劇に繋がっている流れも良い。 「戦争によって奪われた国宝を取り戻す」という、やや堅苦しいテーマの作品なんだけど、愛国心やら戦争犯罪やらを訴える役割は新キャラのココが担っており、主人公は「中国という枠組みに囚われず、時には英国贔屓な見解を示す事もある」「昔の過ちを今の考えで裁くなんて不可能だと主張する」という中立的な描き方をしている辺りも、上手いバランスだなと思えました。 全身ローラースーツや、カメラと脚立を駆使したアクション。 それに、画面を華やかに彩る美女達の存在も、忘れず盛り込まれており、このシリーズにおける「お約束」「娯楽性」を忘れていないなと感じさせる辺りも嬉しい。 また「戦っていた敵であっても、目の前で死にそうになると、咄嗟に助けてしまう」「最初は敵対していた相手とも、なんだかんだで仲良しになる」というシーンが印象的に描かれているのも本シリーズの特徴であり、その点はヒューマニズムならぬジャッキーイズムといったものを体現していた気がしますね。 生まれてきた赤ん坊に「世界平和」という意味の名前を付ける辺りも、如何にもジャッキーらしくて好きです。 一作目においては「何よりも金が大事」という考え方だった主人公。 そんな彼が、二作目において「金よりも大事なものがあるんじゃないか?」と疑問を抱くようになり、三作目において「金よりも家族が大事だ」という結論に着地する。 三つの映画を使って、少しずつ主人公の考えが変わっていく様を描いてきたからこその感動があり、妻と仲間に囲まれて幸せそうな「アジアの鷹」を描いて終わる本作は、やっぱり嫌いになれないです。 アクション大作からの引退を決意しての、記念すべき一品という事で、主人公の妻役にジョアン・リン(=私生活においてもジャッキー・チェンの妻である女優さん)を起用する遊び心なんかも「そう来るか!」という感じがして、ニヤけちゃいましたね。 自分としては(妻になったのは誰? メイ? エイダ? エルサ? 桃子?)と、過去作の女性キャラクターを色々思い浮かべていただけに、完全に意表を突かれた形。 この「主人公の妻」のチョイスに関しては、それだけ「アジアの鷹」というキャラクターがジャッキーに愛されており、文字通りの意味で「ジャッキーの分身」と呼ぶに相応しい存在である事を証明してくれたかのようで、ファンとしては感慨深かったです。 妻だけでなく、ジャッキーとしても、これまで頑張り続けてきた自分に「お疲れ様」と伝えてあげる……そんな意図があった映画なんじゃないかな、と思えました。 [ブルーレイ(吹替)] 7点(2018-10-18 11:43:47)(良:2票) |
226. プロジェクト・イーグル
ネタバレ 「サンダーアーム/龍兄虎弟」に続く「アジアの鷹」シリーズ第二弾。 始まって早々、お馴染みの「ガムを食べる」シーンを挟んでくれるのが、ファンとしては嬉しい限りですね。 (あのアジアの鷹が帰って来た!)と思えて、大いにテンションが上がりました。 「原住民達との追いかけっこ」「旅の移動時間に曲を流す演出」なども前作と共通しているのが嬉しい一方で、アランやメイといったキャラクター達が出て来ないのは寂しいですが……まぁ、バノン伯爵が続投しているだけでも良しとすべきでしょうか。 そんな本作は無論、アクション重視の冒険活劇なのですが、ストーリーに関しても優れていたと思います。 「宝石よりも水の方が価値がある」と、冒頭のシーンで伏線が張ってある事には感心させられるし、敵となる集団が仲間割れして「ラスボス」枠かと思われたアドルフが味方になってくれるという意外性も良い。 前作において「俺が信じる神の名は『金』さ」と嘯いていた主人公が「人間にとって、一番必要な物は何なのかな」と呟き「金」の無価値さ「水」の大切さを実感しつつ砂漠を彷徨って終わるというのも、皮肉が効いてて良かったですね。 そして何といっても……エンディング曲が素晴らしい! 数あるジャッキーソングの中でも、一番好きな曲じゃなかろうかって思えるくらいですね。 「世の中は、空気と水に満ちている」「無欲ならば、どこでも楽園さ」という歌詞は心に響くものがあり、映画の内容とも完璧に合っていて、実に味わい深い。 普段は笑いながら観賞する事が多いエンディングのNG集なのですが、この曲のお蔭で、涙が滲んでくる事さえあるほどです。 それと、本作の特色としては、もう一つ。 お色気要素が豊富な点も見逃せないですね。 キャリアウーマン風のエイダに、金髪お嬢様のエルサ、不思議な雰囲気漂う旅人の桃子と、個性豊かな三人の美女が揃っており、実に華やか。 彼女達の立ち位置が、これまた絶妙であり「主人公の存在感を食ってしまうほどには目立たない」「全くの役立たずという訳じゃなく、適度に活躍してくれる」っていう形に仕上がっているんだから、お見事です。 鉄の装備で身を固め、敵兵をボコボコにして倒しちゃう件は痛快だったし、ジャッキーに水を飲ませてもらう場面なんかは妙にエロティックで「ハーレム」な匂いすら漂っていたのも、凄く魅力的に思えちゃいました。 序盤のバイクに、巨大な送風機を駆使したラストの大立ち回りと、アクションパートの面白さも文句無し。 そういった「ジャッキー映画お馴染みの魅力」と「感動」「お色気」という本作独自の魅力とが、非常にバランス良く交じり合っている。 傑作と呼ぶに相応しい一本だと思います。 [DVD(吹替)] 9点(2018-10-04 02:38:30)(良:2票) |
227. サンダーアーム/龍兄虎弟
ネタバレ この頃のジャッキーは意外と皮肉屋な男を演じる事が多いのですが、その最たる例が本作における「アジアの鷹」でしょうね。 単なる「良い人」ではなく「俺が信じる神の名は『金』さ」と嘯き、時には卑怯な真似もやってみせる。 それでいてジャッキー特有の「愛嬌」「優しさ」は失っていないというバランスが絶妙であり、凄く魅力的。 後に本作がシリーズ化して三部作となるのは、映画の面白さだけが理由では無く、この「アジアの鷹」というキャラクターの魅力に依るところも大きかったんじゃないかな、と思えます。 それと、本作においては主人公ジャッキーと、親友のアラン、敵の人質になっているローレライ、金持ちお嬢様のメイによる恋の四角関係も描かれており「若者達による青春物語」といった趣があるのも良かったですね。 アランとローレライの絆を確かめる為、自身の失恋にケリを付ける為に、ジャッキーが悪役を演じてみせる終盤の件なんて、特に好き。 他にも、脱出機能付きの愛車コルト・スパイダーは恰好良いし、それを駆使したカーアクション有り、お馴染みのカンフーも有りで、とっても豪華な内容なんですよね。 ともすれば「ジャッキー版インディ・ジョーンズ」という一言だけで終わってしまいそうな映画なのに、単なる模倣で終わらず、ちゃんと独自の魅力を打ち出せているのが凄い。 撮影中、ジャッキーが命に関わる程の大怪我をした影響で、冒頭の短髪姿から一気に髪が伸びた形になるのが少し不自然とか、相棒役かと思われたアランが殆ど活躍しなかったのは寂しいとか、欠点と呼べそうな部分もあるんだけど、そんなの些細な問題。 当時のジャッキー映画お馴染みの「三菱マークが目立つ事」も「ちゃんと作中で宣伝しているからこそ、これだけ派手なカーアクションが出来たんだ」と思えるし「人気歌手のアラン・タムが準主役である事」も「彼ならではのミュージック・ビデオ風の演出が良いアクセントになっている」と思えるしで、なんていうか「大人の事情」が垣間見える部分も、きっちり「映画としての長所」に変えてみせたという、懐の深さが伝わってくるんですよね。 スポンサーを満足させるだけでなく、セクシーな巨乳女性軍団を登場させるファンサービスまでしてくれるし、そういった「清濁併せ呑む」スタイルが、本作の主人公の性格とも合致していて、実に良い味を出していたと思います。 コメディ面においても「アランからの手紙を読み、ホテルの二階からロビーに戻る」件はクスッとさせられたし、アクション面も「相手のドロップキックを、下から上に突き上げるドロップキックで撃退する」という場面があったりして、どちらも印象多い。 そして何といっても、主人公のガムを食べる仕草がやたら恰好良くて、自分としては、もうそれを観るだけでも満足しちゃうんですよね。 子供時代に、何度も練習して、その仕草を真似していた事を思い出します。 数あるジャッキー映画の中で「最も魅力的な主人公は?」と問われたら、本作の「アジアの鷹」を挙げたくなる。 粗削りだけど、若々しいパワーを感じる、良い映画です。 [DVD(吹替)] 8点(2018-09-25 12:55:33) |
228. ジャックとジル
ネタバレ 映画に関するジンクスの一つとして「ゴールデンラズベリー賞を取った映画は、意外と面白い」というものがあるのですが、これもそんな一本。 とはいえ「傑作」と断言出来る程ではなく「意外と面白い」の範疇に止まってしまうのが寂しいですね。 下品なギャグが多いし「おたのしみ箱」やアル・パチーノ(本人役)といったキャラの言動が不自然に感じられるしで、もうちょっと脚本を煮詰めてから映画化した方が良かったんじゃないかなーと思ってしまうのも事実です。 でも、ちゃんと面白かった部分もあって、自分としては結構満足。 マッチョな男性陣が苦労して上げていたバーベルを、ジルが簡単に持ち上げちゃう件なんかは、ベタだけど微笑ましいギャグだったし、本物のジルを女装したジャックと勘違いして胸を触った男が、豪快に殴られちゃう場面なんかも良い。 養子の少年も良い味出していたし、ドン・キホーテに扮したパチーノが風車ならぬ天井のファンを怪物と勘違いして、戦いを挑むシーンも好きですね。 最後は家族愛に着地して、ハッピーエンドで終わってくれるし、後味も爽やか。 「そりゃあ好きだけど、離れている時はもっと好き」 「君を愛しているのは間違いないが、死の間際に気付く愛だ」 等々、心に残る台詞が散りばめられている辺りも良かったです。 それと、自分はクルーズ旅行の描写がお気に入りだったので、あそこをもっと尺を取ってやって欲しかったという想いもあるんですが……まぁ、コレは我が侭というものでしょうか。 欠点を論ったらいくらでもあるんだけど、なんとなく本作に関しては「好きな部分」をメインに語りたくなる。 憎みきれない、愛嬌のある映画でした。 [DVD(吹替)] 6点(2018-09-23 20:48:55)(良:1票) |
229. フィリップ、きみを愛してる!
ネタバレ 「愛」と「脱獄」を描いた映画として、非常に良く出来ていると思います。 始まって十分程で「言い忘れてたけど、俺はゲイ」と主人公が告白し、本作における「愛」とは「同性愛」であると分かるんですが、それでも戸惑いは最小限で、楽しく観賞出来ちゃうんですよね。 冒頭、自分を養子に出した母親との対面シーンだけでも「ジム・キャリーだからこその魅力」を堪能出来ましたし「可憐な乙女」としか形容しようのないフィリップ・モリスを演じ切ったユアン・マクレガーも、これまた素晴らしい。 この二人が主演だからこそ「男同士のカップル」という際どい役どころでも、自然に感情移入出来た気がします。 ・それまでの恋愛対象は髭を生やしたタイプだったのに、女性的なフィリップに主人公が一目惚れするのには戸惑う。 ・「叫び屋」を殴らせた件でフィリップが感激しちゃうのは、違和感あり。 ・ゲイの男性って、ゴルフを毛嫌いするのが普通なの? などなど、不可解さを感じる部分もありましたが、それらを差し引いても面白い作品でしたね。 フィリップと出会う前の恋人であるジミーが、死の床にて「僕は生涯の恋人と出会ったけど、君は未だ出会ってない」と語り、自分の死後に出会うパートナーを大切にして欲しいと訴える場面は、特に感動的。 作中にて「フィリップ、きみを愛してる」と告げるシーンが二回ある訳だけど、最初の場面は思い切りドラマティックに叫び「燃え上がる愛」を感じさせて、二回目の場面では「愛の終わり」を連想させるような、静かな雰囲気の中で呟かせるという対比も、凄く良かったです。 そんな「愛」に比べると「脱獄」の方は添え物というか「フィリップに愛を伝える為には、脱獄する必要がある」という程度の描かれ方なんですが、これがまた滅法面白いんですよね。 最後の大技と言うべき「エイズ詐欺」も良かったけれど、ハイテンポで描かれる「判事の書類を偽装して保釈させる」「刑務所内で働く医療スタッフに変装して逃げ出す」「セクシー(?)な職員に変装して逃げ出す」という三つの脱獄シーンも、同じくらいお気に入り。 本当に、あの手この手で刑務所を抜け出そうとする様が愉快で、痛快でさえありました。 「約束を守る」事に拘って、看守達に止められても最後まで音楽を流そうとする囚人仲間も良い味出していたし、食堂にて特別に豪華なメニューを食べる事になり、フィリップが喜んでいる場面なんかも印象的。 ラストシーンにて、愛しい彼を忘れられない主人公が、再び脱獄騒ぎを起こし、笑いながら走る姿で終わるというのも良かったです。 実際の「フィリップ・モリス」が主人公の弁護士役としてカメオ出演している為「決定的な嘘をつく訳にはいかない」という配慮もあってか、最終的にフィリップ側は主人公に愛想をつかしたとしか思えない作りになっているのは、悲しいけれど…… それもまた、本作の魅力の一つと言えそうなんですよね。 実話ネタだからこその、ハッピーエンドになりきれない切なさが、物語に上手く作用していたように思えます。 たとえ愛を否定されたとしても、それでも求めずにはいられない男の愚かさ、滑稽さを、空に浮かんだ不思議な雲が、優しく見守っている。 この映画に相応しい、惚けた魅力のある終わり方でした。 [DVD(吹替)] 8点(2018-09-14 10:09:36)(良:1票) |
230. マイラ
ネタバレ 手術前の「切ったら生えてこないぞ。髪の毛やツメとは違うんだ」という台詞が、非常に生々しい。 ラクエル・ウェルチが性転換者を演じるブラックなコメディ映画という事で、ある程度覚悟した上で観たはずなのですが、冒頭のこの台詞の衝撃だけで、もう参っちゃった気がしますね。 想像以上に同性愛色が強く、しかもウェルチとファラ・フォーセットによる美女同士の絡みはおざなりなのに、男優のお尻はやたらと性的に撮っていたりするもんだから、ちょっと付いていけなかったです。 特に後半の、女性となったマイラが男性であるラスティのお尻を犯す場面なんかは、たっぷり時間をかけて、しかも力を込めて描かれており、正直言ってドン引き。 如何にもアメリカらしいマッチョ的な価値観「男らしさを誇示する男」に対する批判とか何とか、そういった建前があるのは分かるんだけど(これ、監督さんも同性愛者で性欲を発散させただけなんじゃない?)としか思えなくて、興醒めしちゃいました。 その一方で、今観ても斬新な場面が数多く存在しており、そちらに対しては素直に感心。 公開当時は結構な批判を受けたそうですが、その理由としては「演出が斬新過ぎて理解しきれなかった」ないしは「才能に溺れた自己陶酔的な作りが鼻についた」という面もあったんじゃないかなぁ……と思えました。 特に、古典映画の一場面やら曲やらを切り貼りして、登場人物の心象風景を表すというアイディアは、凄く良かったですね。 例として挙げると「マイラが耳を塞ぎたくなるような言葉を掛けられる」→「モノクロ映画で、耳を塞ぐシーンの映像が挟まれる」といった感じで、視覚的にも分かり易いし、非常にテンポが良く、御洒落でもある。 性転換前のマイロンの姿だったのが、ドアを潜ると同時にマイラの姿に変わったりする演出なんかも、楽しかったです。 「アメリカ人は男も女もレイプされたがっている」といった過激な出張があるかと思えば「1935年から1945年の10年間、アメリカ映画にクズはありません」「あの頃が全盛期ね。音楽の衰退は悲しいわ。映画の衰退も悲しいけど」なんていう懐古主義的な発言があるのも興味深いですね。 主人公マイラは「古臭い男らしさ」を嫌っている訳だけど、その一方で「古臭い映画」は礼賛している訳であり、そんな矛盾した考えが「男なのに女でありたい」「男が好きなのに男らしさを否定したい」という主人公の性的欲求とも合致しているという形。 マイラは念願叶って女になっても、結局は不幸な結末を迎えてしまう訳で、そんな根本的な矛盾を抱え込んだキャラクターを丁寧に描いているな……と感じました。 性別の壁を越えて愛した女性から「もし、あなたが男だったらきっと恋をするわ」と言われてしまう展開も、とびきり皮肉が効いていて面白いし、マイラが机の上に立って、下着を脱ぎ捨て「女になった証の股間」を男共に見せ付ける場面なんかも、忘れ難い味がありましたね。 そんな終盤の展開は好みだっただけに、最後の最後で「結局全ては、マイロンが見た夢に過ぎなかった」という夢オチに着地するのが残念なのですが……まぁ、これに関しては「大して美男子でもないマイロンが、手術を受けたくらいでマイラみたいな美女になれる訳無いじゃん」って事で、仕方の無い結末だったんでしょうか。 そういった「現実的な夢オチ」の後だからこそ、理想の美女であるマイラと現実のマイロンとが仲良く一緒に踊るエンディングは、陽気な中にも物悲しさを秘めた、独特の味わいに仕上がったというプラス面もある訳で、本当に評価が難しいです。 色んな意味で衝撃的な作りであるのは間違い無いし、出演者もやたらと豪華で、伝説的なカルト映画となったのも納得。 「映画好き」というより「映画オタク」というタイプの人に合うんじゃないかなぁ……って、まるで自分は「映画オタク」ではないかのような感覚で考えてしまう、そんな一品でありました。 [DVD(字幕)] 6点(2018-09-05 07:32:59) |
231. そして誰もいなくなった(1945)
ネタバレ 原作者アガサ・クリスティ自ら手掛けた戯曲版に則り「最後に残った二人が結ばれて、島を去る」というハッピーエンドになっている本作品。 自分としては「全員が死亡するバッドエンド」な原作小説よりも、より好みな結末のはずなのですが……どうにも楽しみきれなかった気がします。 以下は、その理由について。 まず、原作の「そして誰もいなくなった」(1939年)は紛れも無い名作なのですが、実はセオドア・ロスコーによる「死の相続」(1935年)という先駆作があったりするんですよね。 ・外界と遮断された場所に集められた人々が、次々に殺されていく。 ・途中で死んだかと思われていた人物が、真犯人である。 という内容なのですが、実はそちらでも「主人公達は無事に生還し、カップル成立のハッピーエンド」を迎えていたりするんです。 つまり、原作小説の結末をハッピーエンドに改変した結果、元ネタの小説と同じような形になってしまった訳で、これには流石に(何だかなぁ……)と思っちゃいました。 「死の相続」と「そして誰もいなくなった」の最大の差異とは「容疑者全員が死んでしまうという衝撃」にあったのに、本作ではそれがオミットされているんですからね。 元ネタよりも一歩進んでみせた原作小説に対し、本作は更に一歩下がって元の位置に戻ってしまったかのようであり、非常に残念でした。 勿論、本作なりの良い点もあって、各所に散りばめられたユーモラスな場面なんかは、原作に無かったオリジナルの魅力だと思います。 「こんな話がある。二人の英国人が孤島で3年間暮らしたが、紹介者がいないため会話ができなかった」という小噺も好きだし、医者と判事とが「(医者なのに)薬を信じないのですか?」「(貴方は判事ですが)正義を信じます?」と語って、笑い合う場面なんかも好み。 室内にいる人物を鍵穴から覗き見するという、映画ならではの視覚的な面白さが盛り込まれている点も、良かったですね。 「探偵役かと思われた人物が、実は犯人」という意外性が、原作より強調されている辺りも、上手い演出だったかと。 総評としては「面白かったとは言えないけど、観ておいて良かったと思える一品」という感じに落ち着くでしょうか。 モノクロの世界観が心地良く、それだけでも「格調の高さ」「名作の香り」を感じさせてくれただけに、結末が期待外れであったのが、実に惜しいですね。 ハッピーエンドに失望しちゃったという、貴重な体験を味わえた一本として、記憶に残る事になりそうです。 [DVD(字幕)] 5点(2018-08-27 02:54:18) |
232. ROCK YOU! ロック・ユー!
ネタバレ 馬上槍試合にて、敵を倒すと同時に槍が砕け散るシーンの迫力が凄い。 もう、それだけでも(観て良かったなぁ……)と思えたくらいでしたね。 平民の主人公が貴族達を次々に倒していくというストーリーも、非常に分かり易くて、好印象。 普通の歴史物なら首を傾げたくなるような「リアリティの無い場面」があっても、本作に関してはあんまり気にならないって点も、大きな長所だと思います。 なんせ冒頭にて「中世の人々が、二十世紀のバンドであるクィーンの曲を合唱している」という奇抜なシーンを挟んでいるくらいですからね。 それによって「時代考証云々と五月蠅く言うようなタイプの映画じゃないよ」という作り手側のメッセージが伝わって来た為、リラックスして楽しむ事が出来ました。 特訓シーンも全然辛そうじゃなくて、仲間達と一緒に遊んでいるようにしか見えないくらい、明るく楽しそうに描いているというのも、この映画らしい特色。 如何にも「高嶺の花」といった感じのヒロインに、とことん嫌味で憎まれ役なライバルが出てくる辺りも、単純明快な魅力がありましたね。 後者に関しては、主人公のウィリアムが金髪の美男子であるのに対し、ライバルとなるアダマーは黒髪の優男ってルックスな辺りが(日本の作品とは逆だなぁ……)と思えたりもして、興味深かったです。 父子の再会シーンも感動的に仕上がっているし「We Will Rock You」を聴いたら「We Are the Champions」も聴きたくなったなと思っていたら、最後にしっかり後者を流してくれる辺りも、嬉しい限り。 どちらの歌詞も映画の内容と合っていましたし、素晴らしい主題歌の存在が、映画の面白さを何倍にも高めてくれていた気がします。 で、難点としては……そんなエンディング曲の後に挟まれる「オナラの大きさを競う勝負」にドン引きしちゃったと、その事が挙げられそう。 いくらなんでも下品過ぎると思うし、折角クィーンの曲で感動していたのに水を差される形になっており、非常に残念でした。 主人公の仲間が口にする「私の小説に登場させ、最低のクズとして描写してやる」って脅し文句は格好悪いとか、愛を証明する為に試合に負けるよう要求するヒロインには魅力を感じなかったとか、他にも細かい不満点は色々あったんだけど、それら全てを忘れさせるだけの威力が、クィーンの曲にあった訳ですからね。 折角「エンディング曲による感動」で映画本編の不満点を忘れさせてくれたのに、その後また「オマケ映像」で感動を台無しにしちゃうという、二重の上書き感があって、凄く勿体無い。 ちなみに、地上波放送版では上述のオマケ部分がカットされている代わりに、クィーンの曲もフルでは流れないという仕様みたいで、本当に痛し痒しですね。 せめて、もっと無難な内容のオマケであったならば「好きな映画」と言えそうだっただけに、惜しくなる一品でした。 [ブルーレイ(字幕)] 6点(2018-08-17 03:41:34)(良:1票) |
233. マーヴェリック
ネタバレ ポーカーを題材にした映画は色々ありますが、その中でも本作が一番好きですね。 といっても、単純に「ポーカー映画」と評するのも躊躇われる程に色んな要素が盛り込まれており、それら全てが喧嘩せず綺麗に纏まっているんだから、これは凄い事だと思います。 最後の「実は親子だった」というオチも鮮やかに決まってるし、何より映画全体から「観客を騙そう」という意思よりも「観客を楽しませよう」という意思が伝わって来るんですよね。 自分は、この手の「どんでん返しオチ」に対しては拒否反応を抱く事もあるんですが、それって要するに「作り手が観客を楽しませる事よりも、観客を騙して悦に入る事を優先させている」と感じてしまうからこそ嫌な気分になる訳で、本作には、そういう気配が全く無いんです。 なんせメインとなる「ポーカーの勝負」に興味無い人でも楽しめるよう「銃撃戦」「暴走した馬車を止めようとするアクション場面」「ヒロインとのロマンス」などを、合間合間に盛り込んでるくらいですからね。 此度、久々に観賞してみて(こんなにポーカー以外の要素が多かったのか)と驚きましたし、多彩な魅力をバランス良く提示する監督の手腕には、改めて感服させられました。 メル・ギブソンも飄々とした主人公を魅力的に演じてるし「木曜日の夜に脚本を読み、金曜日の朝にOKの返事をした」というジョディ・フォスター演じるアナベルも、とびきりキュート。 原作ドラマで主人公ブレット・マーヴェリックを演じたジェームズ・ガーナーが「主人公の親父」役で登場するというファンサービスも、心憎いですね。 西部開拓時代の世界も雰囲気たっぷりに再現されており、音楽もそんな世界観を壊さぬようクラシカルな選曲がされている訳だから、もう画面を眺めているだけでも楽しくって……観賞中は、とても充実した時間を過ごす事が出来ました。 そんな中、あえて気になる箇所を挙げるとすれば「主人公のブレットが、弟のバートと名前を間違えられる理由」「ダニー・グローヴァー演じる銀行強盗の正体」の二つの謎が、作中で解き明かされていないという、その辺りが該当するでしょうか。 恐らく「原作ドラマ版では、兄弟によるダブル主人公であった為、本作の主人公が兄のブレットとも弟のバートとも解釈出来る余地を与えておいた」「実は生きていたポークチョップ」が正解だとは思うんですが、出来れば明確な答えを示して欲しかったです。 それと「エンジェル達が入念に身体検査して金を奪わなかったのは不自然」「ディーラーがトランプの束を摩り替えるシーンが分かり易過ぎる」って辺りも、不満点と言えそうですね。 前者に関しては、マックス・A・コリンズの小説版ではキッチリ金を奪われるシーンがあっただけに、余計に「なんで?」と思えてしまうし、あれだけの大金を奪われずに済む展開なら、もうちょい理由付けが欲しい。 また「最後にマーヴェリックがスペードのエースを引けた理由」に関しても、小説版では「母親が病死する際にも、母の為にスペードのエースを引いてみせると予告したのに、引けなかった過去がある」というドラマ性「保安官が密かにスペードのエースに摩り替えておいた」という裏付けがあったのに比べると、本当に「魔法で引き当てた」としか思えない作りになっており、ちょっと物足りなさがありましたね。 小説版では、第二のヒロインとして「蛇使いのバアさん」が登場し、この「とうとうスペードのエースを引き当てる事が出来た場面」を大いに盛り上げていたりもするので、興味が有る方には、是非ご一読してもらいたいです。 映画と同じくらい面白くて、オススメですよ。 [DVD(吹替)] 8点(2018-08-16 22:36:38)(良:2票) |
234. セブンティーン・アゲイン
ネタバレ バスケだけでなく、ダンスを披露するシーンまであるのは「ハイスクール・ミュージカル」ファンへのサービスなのでしょうか。 当時ザック・エフロンは既に二十歳を越えていた訳だけど、十七歳の主人公を爽やかに演じ切っており(やはり、この人は学園映画だと輝くなぁ……)と、しみじみ思えましたね。 本作のラストにおいて、主人公はバスケ部のコーチに就任していますが、ザック・エフロンがコーチ役を務める学園スポーツ物なんかも、何時かは観てみたいものです。 そんな与太話はさておき、映画本編はといえば「安心して楽しめる青春映画」そのものという感じ。 「もう一度、高校時代に戻って人生をやり直したい」という後ろ向きな願望を満たしてくれる内容なんだけど、しっかり前向きな結論に達して終わる為、後味も良いんですよね。 「これまでの自分が積み重ねてきた過去は、決して間違いじゃなかった。だから、やり直す必要なんて無い」という着地の仕方は、予定調和ではあるんだけど、やっぱり清々しくて気持ち良いです。 ・息子と友達になり、一緒にバスケ部に入って活躍する。 ・娘に惚れられ、近親相姦に陥りそうになる。 ・妻に愛を語ったら、熟女マニアと罵られてしまう。 といった具合に「家庭を持つ中年男が、十七歳に若返ったら……」というシチュエーションならではの面白い場面が、ちゃんと盛り込まれているのも嬉しいですね。 どれも目新しい展開という訳ではなく「こういう設定なら、当然こうなるだろう」と思えるような王道展開なのですが、そのベタさ加減が心地良い。 主人公の親友ネッドと、美人校長とのロマンスも良いアクセントになっており「主人公と妻は、どうせ復縁するだろうけど、こっちの恋が上手くいくかどうかは分からない……」という意味で、適度な意外性を与えてくれた気がします。 校長の台詞「孔雀ってるの?」という表現には笑っちゃったし、通信教育で習得したというエルフ語をキッカケに意気投合する流れも微笑ましくて、自分としては、もう大好きなカップルです。 ネッドに関しては、十七歳時点での小柄なオタク少年姿も可愛らしかったので、作中で大人の姿でばかり出ているのが、ちょっと勿体無いようにも思えましたね。 「一緒にカンニングしてバレた」「レイア姫をプロムに誘った」などの断片的なエピソードだけでも面白かったし、やり直す前の「一度目の高校生活」についても、もっと詳しく観てみたかったものです。 その他にも「主人公と選手交代した息子が試合で活躍して、勝つところまで描いて欲しかった」とか「娘の彼氏だったスタンと喧嘩したまま終わっているのが気になるので、和解するなり何なりして関係に決着を付けて欲しかった」とか、色々と不満点は見つかるんですが、それも「この映画の、ここが嫌」という欠点ではなく「ここは、もっとこうすれば良かったんじゃない?」という類の不満点に止まる辺り、自分好みの映画だったんでしょうね。 良い映画、好きな映画に対しては「これ一本で終わる映画ではなく、何十話も続くドラマであって欲しかった」と思う事があるんですが、どうやら本作もそれに該当する一本みたいです。 [DVD(字幕)] 8点(2018-07-30 08:36:59)(良:2票) |
235. プルーフ・オブ・ライフ
ネタバレ 誘拐を題材にした映画としては、かなり良く出来ていると思います。 ヒロインの旦那が拉致される場面は緊迫感があるし、人質が拘束されている粗末な小屋の描写なんかも良い。 最初の交渉人フェルナンデスが頼りない男であった分だけ、主人公のテリーが彼に代わって交渉する姿が、非常に頼もしく思えた辺りなんかも「上手いなぁ」と感心させられましたね。 終盤の武力突入による人質奪還シーンも迫力があり、そこは大いに満足です。 で、難点はというと……やっぱり「主人公とヒロインとが不倫する場面」って事になっちゃいますね、どうしても。 これに関しては、現実にラッセル・クロウとメグ・ライアンが不倫関係に陥ってしまったというスキャンダラスな側面もあり、映画の中だけの話として割り切って語るのは難しいのですが「映画単品で評価したとしても、この要素はいらない」という結論になる気がします。 そもそもヒロインの旦那が善人なので、不倫している二人に全く共感出来ないんですよね。 人質となり、過酷な状況の中でも、妻の写真を心の支えに生き延びようとする旦那の姿が描かれているのに、肝心の妻は他の男との許されぬロマンスを繰り広げているだなんて「ひでぇ話だ」と呆れちゃいます。 せめて関係を匂わせる程度で終わってくれたら良かったのに、ご丁寧にキスシーンまで挟んであるもんだから、決定的に幻滅。 試写会の段階ではキスどころか、もっとあからさまなベッドシーンまであったとの事ですが、それが本当なら「そりゃカットして正解だよ」という感想しか出て来ないです。 あるいは、命を懸けて人質を救出してみせた後「貸し借り無しだ」とヒロインに微笑んで見せるという「一度きりのキスの借りを返す為に、命を張った主人公」の恰好良さを描こうとしたのかも知れませんが、どうも受け入れ難いものがありましたね。 ラッセル・クロウも、メグ・ライアンも好きな俳優さんであるだけに、今作の二人が魅力的に思えなかった事が、非常に残念。 「父親に対し、敬語で話す息子」の存在が印象的で、最後は父子の和解で終わるのかなーって予想していたのに、それが外れちゃったのも寂しいですね。 ヒロインが流産していた過去が、単なるお涙頂戴のエピソードで終わっておらず、人質奪還の際の伏線になっている事には感心させられただけに、この「敬語で話す息子」の伏線も綺麗に回収して欲しかったなぁって、つい思っちゃいました。 酷な言い方をするなら「不倫するような男だから、息子も心を開かないんだよ」って事になっちゃいますし……やはり、どう考えても不倫の件は不要だったかと。 映画に道徳を求める方が変だし、どんなに不道徳でも面白ければそれで良いんですけど、本作みたいな描き方だと「主人公とヒロインが嫌な奴等に思えてくる」→「面白さが損なわれる」って形になっちゃう気がするんですよね。 傑作と呼べそうな部分も感じさせただけに、惜しい一品でした。 [DVD(吹替)] 6点(2018-07-24 19:48:01) |
236. 団塊ボーイズ
ネタバレ 「Wild Hogs」という原題が恰好良過ぎるので、邦題もそのまま「ワイルド・ホッグス」にして欲しかったなぁ……なんて、つい思っちゃいますね。 かつて「バス男」が「ナポレオン・ダイナマイト」と改題し再販されたように、こちらも再販して欲しいものですが、流石に難しいでしょうか。 そんなタイトルに関するアレコレはさておいて、映画本編はといえば、実に心地良い「旅行映画」であり「青春映画」であり、自分としては、もう大満足。 ツーリング中の風景は美しいし、音楽も良い感じだし、何より「水場を見つけて、そこで泳ぐ」「テントを張って、皆で焚き火を囲む」などのお約束場面が、しっかり盛り込まれているんですよね。 こういった映画である以上「良いなぁ、自分もツーリングしたいなぁ」と感じさせる事は必要だと思いますし、それは間違いなく成功していたんじゃないかと。 主人公のウディは「破産」に「離婚」にと、様々な問題を抱えているのに、ラストにおいてもそれらの問題が一切解決していないというのも、本作の凄い部分ですよね。 それが決して投げっ放しにならず、劇中で語られた通り「たとえ仕事も家族も失っても、俺には仲間がいる」という前向きな結論に繋がっているんだから、お見事です。 聞くところによると続編の予定もあったそうで、諸々の問題については、その続編にて解決するつもりだったのかも知れませんが、これ一作でも充分綺麗に纏まっていた気がしますね。 この「仲間がいる」という結論は「仲間との絆さえあれば、どんな逆境でも乗り越えられる」というメッセージに繋がっているように思えて、本当に好きです。 一緒に水浴びしたハイウェイポリスをはじめ、同性愛ネタが多いのは鼻白むし「イージー・ライダー」を鑑賞済みじゃないとクライマックスで盛り上がれないんじゃないかと思える辺りは欠点なのでしょうが……それでもやっぱり好きなんですよね、この映画。 特に後者については、元ネタありきのパロディ展開なのを承知の上でも、観ていて熱くなるものがありました。 ピーター・フォンダって、恰好良い歳の取り方をしているなぁって、惚れ惚れしちゃいましたね。 腕時計を投げ捨てて旅に出る「イージー・ライダー」と重ね合わせる為、携帯電話を投げ捨ててから旅に出るシーンも面白かったし、それを踏まえての「時計を捨てろ」というラストの台詞も最高。 敵役となるデル・フェゴスのアジトを爆発炎上させちゃったのは「やり過ぎ」感があり、これじゃあ主人公達が悪者みたいでスッキリしないなと思っていたら、最後の最後で「以前より素敵な住処をプレゼント」というフォローが入っていたのも嬉しいですね。 その後、仲間達による乾杯シーンで終わるというのも、凄く気持ち良い〆方。 この「後味の良さ」は、偉大な先達である「イージー・ライダー」には備わっていなかった部分であり、本作が単なる模倣ではない、オリジナルの魅力を備えた品である事を証明している気がします。 「バイク好き限定」「中年男限定」などの枠に囚われず、女性や子供が観たとしても結構楽しめるんじゃないかな、と思えてくる。 とても愉快な、浪漫のある映画でした。 [DVD(吹替)] 8点(2018-07-23 05:17:06)(良:3票) |
237. ベガスの恋に勝つルール
ネタバレ 色んな意味で「夢を叶えてくれる映画」って感じですね。 ベガスで一攫千金、お金持ちになりたい。 美女(美男子)と一緒に暮らしてみたい。 そんな庶民の願望を疑似体験させてくれる、心地良い映画だったと思います。 スロットで大当たりする場面もテンポ良く、気持ち良く描いているし、自宅でのパーティーや社員旅行などのイベントの件も、とても楽し気で良かったです。 二人が同棲する事になる部屋も「ここに住んでみたい」と思わせるような魅力があって、好きなんですよね~ ヒロインは嫌がっていたけど、バーカウンターやピンボールの台があるなんて素敵じゃないかと思えるし「ドアを開けると、そこからベッドが飛び出す」ギミックなんかも好み。 「相手に浮気させようと互いにアレコレ画策する」「便座の上げ下げを巡って争う」「夫婦カウンセリングに向かう二人」などの夫婦喧嘩パートも、軽快なBGMに乗せて楽しく描かれており、良かったと思います。 テーマがテーマだけに、ここで攻防が陰湿になり過ぎて観ていて引いてしまう可能性や、主役二人が「嫌な奴」に思えてしまう可能性もありましたからね。 そこを暗くなり過ぎず、明るく能天気なテンションで描き切ってみせた事には、大いに拍手を送りたいところ。 「自分でサイコロを振る勇気すら無かったけど、とうとう起業を決意した主人公」「仕事に依存していたけど、仕事が好きという訳じゃなかったと気が付くヒロイン」などの真面目な部分を、ライトなノリを失わないまま、さりげなく描いているのも良かったですね。 お約束だけど「今回の騒動を通して、二人は大金よりも価値のあるものを手に入れる事が出来た」と感じさせるものがあって、凄く後味爽やか。 主人公の男友達と、ヒロインの女友達も魅力的であり、喧嘩してばかりだった二人が、最終的にはカップルみたいに仲良くなっちゃう結末も、ハッピーエンド感を高めてくれたように思えます。 その他にも「夫婦どちらも『レイダース』が好きだったと分かる」「結婚指輪を填めた薬指を、中指を立てるようにして旦那に見せ付ける妻」など、印象的なシーンが幾つもあって、本当に観ていて楽しい。 夕暮れを迎えた海辺での「結婚してくれませんか、もう一度」という二度目のプロポーズも素敵で(あぁ、良いなぁ……良い映画だなぁ)なんて、しみじみ感じちゃいました。 あまり評判は良くない(ゴールデンラズベリー賞にノミネートされてる)のを覚悟の上で観賞したのですが、意外や意外、本当に面白くて、楽しくて、吃驚させられましたね。 やはり世間の評判なんかに左右されず、自分の感性で判断しなきゃ駄目だな……と、そんな当たり前の事を再確認させてくれた、非常に価値ある一本でした。 [ブルーレイ(吹替)] 8点(2018-07-12 08:54:37)(良:2票) |
238. SAFE/セイフ
ネタバレ 「パソコンは何を記憶させても探り出されてしまう」という台詞が印象的。 ハッキングやら何やらを警戒する余り「大切な情報は、記憶力の良い人間に憶えさせておくのが一番安心」という時代錯誤な結論に行き着くのが、実に皮肉が効いていましたね。 そんな「記憶力の良い人間」が幼い少女というのは非常に漫画的だけど、あんまり美少女過ぎない子役を起用しているのが、適度なリアリティを生み出していたと思います。 ちょっと目が細過ぎて、典型的な「欧米人から見たアジア人」ってルックスの子なんですけど、笑うと愛嬌があって可愛らしいし、映画を観終わる頃にはかなり好きになっていました。 こういったストーリーの映画である以上、子供の事を「守ってあげたくなるような存在」として描くのは大切だと思うし、それは成功していたんじゃないかと。 それと、本作は彼女の養父となるチャンを演じるレジー・リーも、凄く良い味を出していましたね。 悪人だし、ボスの命令には逆らえないんだけど、養女のメイの事は彼なりに大切に思っているというバランスが、実に魅力的。 彼がメイに対し「きっといい父親になってみせる」と語り掛け、笑ってみせる場面は、本作の白眉であったように思えます。 不器用ながらも愛情を示して、彼女の為に少しでも「良い人間」になろうとした事が伝わって来て、好きな場面です。 それだけに、その後すぐ彼が殺されてしまう展開になるのがもう、残念で仕方ないんですが…… やはり、この辺りは「一度でも娘を殺そうとした奴が、本当の父親になんかなれる訳が無い」って事なんでしょうか。 「怖いものから、目を背けたりするな」という彼の教えを、メイが守ってみせて「彼とメイが過ごした時間は、無駄じゃなかった」という落としどころになっただけでも、良しとすべきなのかも。 その一方で、ジェイソン・ステイサム演じるルークに関しては「タフガイ」「アウトロー」の王道を行く主人公となっており、安心して観賞する事が出来ましたね。 浮浪者として生活しなければいけない悲壮感、靴を譲った相手すらも「ルークと関わったから」という理由で悪人達に殺されてしまうという「誰とも親しくなれない」という孤独感が、ひしひし伝わって来て(やっぱりステイサムって良い役者さんだなぁ……)と、惚れ惚れさせられました。 ただ、そんなルークがメイを必死に守ろうとする動機が弱いようにも思えて、そこはもっと説得力が欲しかったですね。 自殺を止めるキッカケになってくれた恩返しというなら「たまたま目が合ったお蔭で、思い止まれた」という展開ではなく、もっと積極的にメイが彼の命を救ってみせた展開にしても良かったんじゃないでしょうか。 あるいは、冒頭にて殺されたのが「ルークの妻」ではなく娘だったという事にして、娘と同じ年頃の子だから助けずにはいられなかったとか、そんな形にしても良かった気がします。 一番悪どい存在に思えた中国マフィアのハンおじさんが、結局大したダメージを受けず「尻尾を巻いて中国に帰る」くらいで終わっちゃう事。 そして、黒幕のアレックス刑事とルークとの素手のタイマンが始まるかというところで、メイが銃でアレックスを撃ち、決着を付けちゃう事なんかも、欠点と言えそうですね。 そこは、もっとスッキリする形で〆て欲しかったです。 観賞前に期待していた「ジェイソン・ステイサムの骨太なアクション」は充分に堪能出来たし、ルークとメイが「父娘」ではない「友達」になるハッピーエンドは良かったしで、決して嫌いな映画じゃないんですけどね。 気になる点も多くて「そこそこ満足」くらいの感じで観終わってしまった…… そんな一品でありました。 [DVD(字幕)] 6点(2018-07-04 11:02:09)(良:1票) |
239. ホリデイ
ネタバレ 休日にノンビリ過ごしながら観賞するには、最適の映画なんじゃないかと思います。 それというのも、これって「面白過ぎて目が離せない」とか「続きが気になって仕方無い」とか、そういうタイプの作品じゃないんですよね。 話の展開は王道に則っており、主役の男女四人も予定調和で結ばれて、ハッピーエンドを迎える事になる。 いきなり大きな音がして吃驚させられる事も無いし、劇中の音楽も穏やかで、心地良いものばかり。 だから観賞中、ウトウトして眠くなったら、そのまま寝ちゃったとしても問題無いような、独特の包容力があるんです。 つまりは「退屈な映画」って事じゃないか……とも言えそうなんですが、自分としては好きなんですよね、こういう映画って。 まず、ホーム・エクスチェンジを題材にする事によって「夢のような豪邸」「お伽噺のようなコテージ」の魅力を、両方味わえる形になっているのが上手い。 しかも、劇中のヒロイン達にとっても、その豪邸とコテージは「初めて訪れる場所」である為、新鮮な反応を示す彼女達と観客とが、同じ気分になって楽しむ事が出来るんです。 旅行映画のお約束「新鮮な場所での、新鮮な恋」も描かれているし、素敵な異性以外にも「偏屈だけど、チャーミングな老人」「とっても無邪気で、可愛い子供達」と出会えたりするんだから、もう言う事無し。 「今いる場所から抜け出して、生まれ変わってみたい」という願望を満たしてくれる、実に良質な作品だと思います。 主演の四人も全員好きな俳優さんだし「予告編」や「劇中曲」の使い方も上手い。 リンジー・ローハンとジェームズ・フランコが出演しているという「危険な罠」についても(予告編だけでなく、本編も観てみたいなぁ……)と思っちゃったくらいですね。 老脚本家のアーサーが自力で歩き、階段を登ってみせる場面にて「マイルズがアーサーの為に作った曲」が流れ出す演出も、凄く好み。 正直、アーサーという人物については考え方が懐古主義過ぎて、あまり共感出来ずにいたのですが、この場面の感動によって一気に好きになれた気がします。 「映画は私にとって、永遠の恋人なのです」というスピーチも、心に響くものがありました。 タクシーが「Uターン出来ない道」と言っていたのに、その後に家から車で出掛けたりする場面があるのは戸惑ったし(多分、反対側の道なら普通に車で移動出来るって事なんだと思われます)折角の可愛い子犬が途中から空気になっているという不満点もあるんですが、気になるのはそれくらい。 アイリスが元カレへのメールで「Dear」と書きかけてから消す場面。 グレアムが「ナプキンヘッド」に変身して、幼い娘達を笑顔にする場面。 マイルズがビデオ店にて、色んな映画音楽を紹介する場面。 そしてアマンダが子供時代のトラウマを克服し、涙を流す場面と、主役四人にそれぞれ印象的な場面がある点も良いですね。 劇中の台詞に倣い「ホリデイ」は自分にとって「恋人のような映画」だと、そう紹介したくなるような、素敵な一品でありました。 [ブルーレイ(吹替)] 9点(2018-06-22 05:35:41)(良:1票) |
240. 愛しのローズマリー
ネタバレ ジャック・ブラックという俳優の魅力に気が付かされた、記念すべき一品。 元々はヒロインであるローズマリーことグウィネス・パルトロウ目当てで観賞したはずなのですが、終わってみれば主人公である彼の虜になっていた気がしますね。 それくらい衝撃的だったし、本当に良い役者さんだなと、しみじみ感じ入りました。 失礼ながら自分は「太った男優」を恰好良いと思った事が無かったもので、そんな自分の「太ってるのに、こんなに恰好良いんだ」という驚きが、劇中の「太っていても、ローズマリーはこんなに綺麗だ」という主人公の考えとに、上手くシンクロしてくれた気がしますね。 実際に観ている自分自身「外見に左右されない、内面の魅力」に気が付かされた訳だから、主人公の考えの変化にも自然に共感出来たし、そういう意味では非常に運が良かったというか、相性の良い映画だった気がします。 ・主人公が受けた暗示について「以前からの知り合いは従来通りの姿で見える」という部分が分かり難い。 ・ローズマリーと出会う前に色んな女性と絡む為、誰がヒロインなのかと混乱する。 ・美女は次々に登場する一方で、美男子は殆ど出て来ないので女性の観客にとっては物足りなさそう。 ・そもそも主人公の主観とはいえ「太ってる」「老けてる」などの特徴を「醜い」として劇中で扱ってるのは酷いんじゃない? 等々、欠点らしき部分はあるけど、それでも自分にとっては大好きな映画なんですよね。 音楽のセンスも好みだし、ファレリー兄弟の作にしては比較的上品な脚本なのも嬉しい。 ローズマリーの体重でボートが傾いている場面や、脱いだ下着が「パラシュート」サイズで驚く場面なんかも面白くて、コメディ映画としても、しっかり楽しむ事が出来ました。 そして何といっても「主人公が、火傷の女の子と再会する場面」が、本当に素晴らしい。 それまで見た目に囚われていた主人公が、彼女の真実の姿に大きなショックを受け、それでも相手を傷つけないようにと平静を装いつつ「元気かい? 美人ちゃん」と言って、優しく抱き締めてあげる。 その時の(俺は、どれだけ馬鹿な奴だったんだ)(こんな幼い子を見た目で判断して傷付けてしまうような、最低な奴だったのか)という「気付き」と「後悔」の演技とが実に見事で、ここが本作の白眉であったと思います。 それと、もう一つ。 ラストにてローズマリーに告白してみせた際の「鳩時計の真似」も、凄く素敵でしたね。 「本当に、それで後悔しない?」と不安そうに問い掛ける彼女に対し、お道化てみせるだけで、言葉では応えず、その後の優しい笑顔で「後悔なんてするはずないだろう」「だって、君を愛しているから」などといった、色んなメッセージを伝えてみせる。 凡百の台詞よりも遥かに雄弁な、その仕草と笑顔とを見せられた瞬間、この映画は傑作だと確信を抱く事が出来ました。 太っている女性が別人のように痩せた際「生まれ変わった」という表現を用いる事がありますが、本作のローズマリーは生まれ変わったりしません。 生まれ変わるのは、主人公のハルの方。 決して悪い奴じゃないんだけど、偏見に囚われてしまっていた彼が、心優しいヒロインのローズマリーと結ばれて、とびきり魅力的で恰好良い男へと、鮮やかに変身してみせる。 それが実に痛快で、皆が祝福してくれるハッピーエンドも心地良くて、観ているこっちまで幸せな気持ちになれるんだから、本当に良い映画だと思います。 「最初は勘違いから始まった恋が、真実の愛に帰結する」というラブコメの王道を、分かり易く表現してみせた、鮮やかな逸品でありました。 [DVD(吹替)] 9点(2018-06-19 22:22:02)(良:2票) |