21. 港々に女あり
気のいい海の男を演じるヴィクター・マクラグレンがいい。 見かけは無骨で喧嘩早い直情径行のキャラクター。 女性好きで荒くれたところもあるが、根の優しさが目元の表情と仕草に表れている。 酒場での喧嘩をきっかけとして無二の親友となる ロバート・アームストロングに保釈金を用立て、 二人一緒に海に落ちてずぶ濡れになりながら彼のタバコに火をつけてやり、 誤解があっても互いに小突き合いながら仲直りする、 その不器用な身振りの数々が気持ち良く、殴り合いのアクションも爽快だ。 そして、水夫の父を亡くした小さな子供の遊び相手をする彼がみせる 優しい表情が素晴らしく、情が滲み出ている。 歩哨やバンドを巻き込んだ酒場の乱闘の数々が楽しく、 妖艶なルイーズ・ブルックスの美貌が麗しく、 彼女をめぐる男二人のライバル関係と友情のドラマが痛快である。 [DVD(字幕なし「原語」)] 8点(2012-08-13 00:33:49) |
22. キング・オブ・キングス(1927)
豪華絢爛の衣装と、宮殿をはじめとする壮大な美術セットが圧巻。 人間の群衆だけでなく、登場する動物群も猿、馬、豹、ロバ、山羊、牛、鳩と多彩な上、各種の特殊撮影も融合し、ワイドスクリーンのニコラス・レイ版と比べても遜色ない。 妖艶なマグダラのマリア(ジャクリーヌ・ローガン)に憑依している7つの悪霊を視覚化する多重露光の見事さや、イエス(H・B・ウォーナー)の死後にエルサレムを襲う天変地異のスペクタクル(暗雲と雷光、地割れと土埃)の迫力が素晴らしい。 イエス復活シーンで、天然色となる趣向も意表を衝く。カラーによる朝焼けのショットが鮮烈だ。 そして全編通してイエスに当てられる格別美しい光が印象深い。 その初登場シーンは盲目の子供の眼を癒すエピソード。子供の主観ショットである闇の画面に次第に光がもたらされる。 その中にイエスの顔が浮かび上がる。 彼の輪郭線を眩く輝かせる斜め背後からの強い光線が荘厳かつ幻想的だ。 [DVD(字幕)] 8点(2012-02-14 21:23:12) |
23. 眠るパリ
《ネタバレ》 フランスの下町を魅力的に活写したクレールの第一作もまた、巴里の街が主役だ。(当時20代半ば) 主にエッフェル塔からの俯瞰で捉えられる様々な街の表情をはじめ、苦心が窺える無人のロケーション撮影に、若い作家の情熱と愛着が篭っている。 塔の鉄柱に取り付いてのアクションは、同年のアメリカ映画『ロイドの要心無用』の高所アクションにはたして影響したのか、されたのか。 高所のスペクタクルとスリルを十分に味あわせてくれる。 スローモーションの映画『幕間』に対し、ストップモーションで捉えられた『眠るパリ』の斬新な姿。 静止していた画面が動き出す瞬間のアクセントが、街の生気と映画(モーション・ピクチュア)の感動をダイレクトに伝えてくる。 当時の複葉機や、街路を走る自動車や馬車、セーヌ川を渡る遊覧船の動きを見るだけでも「新しさ」を発見させてくれる映画だ。 エッフェル塔の高層階に並び座る男女がパリの街を見下ろすラストのショットの幸福感がいかにもクレールらしい。 [ビデオ(字幕)] 8点(2011-08-09 20:35:08) |
24. 魔術師(1926)
《ネタバレ》 アリス・テリー(レックス・イングラム監督の妻)を苛む幻覚シーンは、ベンヤミン・クリステンセンの『魔女』(1921)の怪奇幻想イメージとも通じ合う鮮烈さ。フットライトの効果で不気味に浮かび上がるマッド・ドクター役:パウル・ヴェゲナーの形相がまた恐怖度満点である。 冒頭に登場する巨大な牧師の彫像のデザインと質感からして禍々しい。 さらに雨と稲光と炎、薬品から立ち上る過剰な蒸気、モンテカルロの村や崖上の「魔術師の塔」の佇まいと、怪奇ムードを煽るアイテムが目白押しだ。 『フランケンシュタイン』への影響も十分に納得性がある。 クライマックスは手術台の上で拘束されるアリス・テリーに迫る危機と、救助に向かうイワン・ペドロヴィッチらのクロスカッティング。 塔までの道中が少々もたついて、グリフィスの速度感と切迫感にはやはり及ばないが、格闘アクションはスピード感があり素晴らしい。 壁に突き刺さるメス。溶鉱炉の炎。燃え落ちる塔のロングショットが印象的だ。 [映画館(字幕)] 8点(2010-12-16 22:50:41) |
25. 月世界の女
犯罪映画として始まり、科学映画へ、そして最終的にはメロドラマへと落ち着いていく奇想天外さ。設定として前半のほとんどが夜の市街、後半が月世界となり、必然的に全体としてやや暗めで硬質の画調で統一されている。月砂漠のセットでは、さらに光源や光量を相当工夫して月面の冷ややかなムードを醸す。その中で一際印象的な場面。地球を飛び出したロケットの窓から、搭乗員たちが太陽を望むシークエンスがとりわけ美しい。地球の背後から太陽が昇りはじめ、大きな光輪を作る。悪役的人物、恋敵、密航少年を含め老若男女を網羅した6名がともに太陽の直射光を享受しながら陶然とそれに見惚れている。フリッツ・ラング作品としては異質な場面のようにも思えるが、後の様々なSF映画にも登場する「光への賛歌」とも呼べる感動的なシーンがここにもあった。 [DVD(字幕)] 8点(2009-01-04 22:27:04) |
26. チャールストン
球形の飛行船や類人猿の登場もユニークなルノワール唯一のSF映画、というよりほとんどダンス映画であり、何といっても大股開きで当時流行のチャールストンを踊る娘カトリーヌ・ヘスリングの奔放なエロティシズムにつきる。 女性のダンスは最初期の映画から登場する原理的かつプリミティブな題材であり、 本作の彼女はエジソンのキネトスコープに登場する『Serpentine Dance』(1895)のごとき振り付けで身体をくねらせ、脚を跳ね上げるのだが、より大胆な衣裳と野性的な動きがとにかく強烈だ。 球体から降りてきたジョニー・ヒギンスを尻餅つきながら興味深々に追いかけ回す彼女の動きがコミカルで楽しい。 やがて踊りによって意思疎通出来た二人のダンスセッションとなる。その即興感覚もルノワール的といえるだろう。 二人のダンスシーンに用いられるスローモーションとコマ落としもまた躍動感とリズムとエロティシズムを相乗させていい味を出している。 大らかな動きの楽しさに溢れた17分間だ。 [DVD(字幕なし「原語」)] 7点(2012-02-07 20:39:54) |
27. 天罰
ヒロインのキャラクターに聖女と悪女両面の魅力を盛り込むというのは旧来からハリウッド女優売り出しの戦略としてあるが、これはその男優版。 「邪」の顔を徹底的に見せ付けた上で、その最期に「聖」の側面を垣間見せることで逆転的に好感度が増す。後のギャング映画のアンチ・ヒーロー像を先取りしているともいえるだろう。 映画は両脚を切断された男を演じるロン・チェイニーの独壇場で、驚異的なアクションを見せる。 義足のまま椅子から床へ飛び降り、松葉杖で階段を上り、懸垂で壁をよじ登る。その過酷な熱演を全身フルショットで丹念に捉えるカメラの徹底ぶり。 役者の執念と、役柄の怨念がクロスしてその動作と表情には異様な迫力が満ちている。 帽子作りに関する伏線の回収が不徹底であったり、女性捜査員(エセル・グレイ・テリー)の恋愛感情の描写が不明瞭であったりというのはカットの問題か。 [映画館(字幕)] 7点(2011-01-09 20:22:27) |
28. 女優ナナ(1926)
冒頭で梯子を登るナナを追う上昇移動を始め、従来の短縮版(98分)と比べ復元版(140分)ではかなり多様な移動ショットがみられる。屋敷内の調度品や天井画まで映る大広間のセットなど美術(クロード・オータン=ララ)の豪勢ぶりを示すロングショットも増え、いかにも大作といった感が増している。後半でカンカン踊りに湧くダンスホールのルノワール的な賑やかさも壮観だ。大半は舞台的な室内セットを中心としたフィクス主体の空間造形ながら、ドアや衝立の背後といった見えない空間で起こるドラマを用いて空間の奥行きと広がりを感じさせるのはさすが。そして、ナナ役:カトリーヌ・エスランが見せる高慢かつ淫靡な悪女イメージの強烈さも見所のひとつ。邪気と無邪気の同居する、滑稽なまでに憎々しい表情と身振りが天晴れだ。ただこの作品、屋外シーンが少ないのが残念なところ。撮影上の制約ではあるだろうが、競馬の場面も『獣人』や『カトリーヌ』の荒々しい疾走感に比べるとやはり物足りない。 [DVD(字幕)] 7点(2010-05-27 20:47:47) |