21. マン・ハント(1941)
ネタバレ ジョーン・ベネットのことだけで高評点とする。主人公が暗い路上で敵方に挟まれ万事休すかと思いきや、もたれかかったドアがふいに開き(ドアが内開きだからこそ可能)、建物の中に隠れる。その真っ暗な空間にやがてジョーン・ベネットが現れる。これは本当に素晴らしい。まさに亡命してきたフリッツ・ラングと組むために。 [映画館(字幕)] 9点(2025-05-19 13:36:12) |
22. パリでかくれんぼ
ネタバレ 無関係の三人の女性をいきなりばら撒く、するとこの三人がどこで出遭うのだろうかというミステリアスな関心が湧く。映画の並行編集の妙である。歌ありダンスありで、豊穣に作り込まれた痛快な織り物だ。面白い事例を一つだけ挙げると、女性の一人が盗みを働いた際その現場を偶然にとある男に見られたとのではないかと疑心暗鬼である(実は男は目撃していないことを観客は知っているのだが)ゆえ、男に近づき「目撃したかどうか」を確かめたいが果たせない(問題の性格上絶対に不可能である)のを、映画が決して説明的にならないでひたすら見守ること。 [DVD(字幕)] 8点(2025-05-19 08:52:01) |
23. 緑の光線
ネタバレ 緑の光線の瞬間へ、観客もこの「絶対」に向けて視覚の限りを尽くすというのがいい。それが二度あって、二度目の次に来るのは抱き合っている二人のシーンかと思いきや、このラストシーンは不在で、これが何故か泣かせる、素晴らしい。なぜ泣かせるのだろう。あのまさに存在論的に突き詰める緑の光線に匹敵するような恋の「絶対」はついに無いということなのだろうか。 [ビデオ(字幕)] 9点(2025-05-18 16:33:55)《更新》 |
24. 灼熱の魂
ネタバレ 凄すぎて評点を付け難いくらいだが、映画館に配給されるという検閲をパスした、「市民化」・ゴラク化されたものなわけなのだ。オイディプスの悲劇の連想がこの暗鬱・苛烈な映画世界を文化的に救出している。ギリシャ悲劇はエライ。 [ビデオ(字幕)] 8点(2025-05-18 13:42:53) |
25. コリーニ事件
ネタバレ 日本の戦後処理との比較でドイツは自らの手でも戦犯を裁いたとはよく引き合いに出されることである。だがそれも十分ではなかったという、厳密なメスが入れられたのがこの作品、というところ。法廷で、戦時の暴力が確認される時、三度ほど「シーン」となるのがこの作のクライマックスである。「シーン」が。事実は事実だ、なかったことにはできない。 [DVD(字幕)] 8点(2025-05-18 13:27:29) |
26. 日曜日が待ち遠しい!
ネタバレ 映画館で、このファニー・アルダンだけを観ていた感じ。あの「セラビ」(この軽やかさ良い!)を発しながら爽やかな「外部」を振りまく、元気よく。長身だから男にも体力的に負けない。で、探偵として、ややこしい人生模様・犯罪関係の「内部」に嬉々として顔を突っ込む。そのありようがいいのである、それだけである。正直、この映画のハナシはさっぱりわからない。いまどきのミステリーもののように、犯罪の人間関係を機能化しすぎで「こころ」が乏しい、という気がする。 [映画館(字幕)] 6点(2025-05-18 09:45:30) |
27. テルマ&ルイーズ
ネタバレ テルマの方がお馬鹿さんすぎる感じなのがどうもね(ルイーズはこんな相手を親友とするだろうか)、女性のプライドを背負ったルイーズの所作はいい感じだがラディカル調のゆえ日常に引き返せない行為をやらかしてしまう。「引き返せない」のは映画だから当たり前の設定だろうが、この映画の場合それを観たかったわけではない気がする。地道に、有効に、日常を作り変えることの方を。 [DVD(字幕)] 5点(2025-05-17 10:17:58) |
28. 都会の叫び
画面が綺麗に作り込んであるし、ちょっとイタリア・ネオリアリズム的な雰囲気(フィルム・ノワールというより)も備えていたりするのだが、どこか「ゲーム」というか「遊び」なのだな。たかが映画じゃないか、そう、たかが映画なのだが、マジになれない核心という少しザンネンなものを感じる。以上、直観的な印象にすぎないが。 [ビデオ(字幕)] 6点(2025-05-16 22:33:56) |
29. her 世界でひとつの彼女
SFではなくすでに現実に近い世界を地道に(リアルに)作品化した感じ。この映画を観てちょっとデカルトのことを考えた。AIは思考はできるが身体がないということが、まさにデカルトを批判するメルロ=ポンティの指摘する点である。AIはまだ今のところは「我思う」だけのデカルトだが、まさに身体的に(ぎこちないロボットのレヴェルではなく)「我存り」となる未来も遠いことではないだろう。 [DVD(字幕)] 6点(2025-05-15 23:08:51) |
30. 情事の終り
ネタバレ この映画は何かしら謝罪しているという面と、開き直っている面の二面性があるように思う。何に謝罪?そりゃもちろん赤狩りで仲間を売ったこと。それもあってか、このヒロインはもはや絶対夫を裏切ってはならないのである。開き直っている面というのは、個人的な神という設定である。個人的な神の問題に逃げ込んでしまえば、もうそこは聖域なのだ。 [ビデオ(字幕)] 6点(2025-05-14 22:18:59) |
31. アスファルト・ジャングル
ネタバレ ドイツ人の違った味、というのが目立っている。破滅まであれよあれよと自動的に進んでしまいがちな計画犯罪ものの流れを、首謀者のドイツ人は妙に遮ってみせる。その知的な発言「銃を持っていると撃ってしまうからね」は、今に至るまでアメリカ銃社会を照射する。とにかく計画が破綻した段階で終わってもいいはずの映画が、なかなか終わらないところにリアルなバランス感覚が働いている。 [ビデオ(字幕)] 6点(2025-05-14 09:21:09)《更新》 |
32. ジキル博士とハイド氏(1931)
ネタバレ 二重人格の話題は精神分析的な思考へいざなうのだが、抑圧された許されざる欲望をなんとか昇華して意識の側に統合してゆくという方角(フロイト)とは真逆の、「分離」することをジキル博士は目指すので、一見はラディカルなマルクーゼやヴィルヘルム・ライヒの革命的な運動のことを連想させるのだが、しかしこの世に有効性はなく結局は無惨な結果を招くだけである。ハイド氏にはミソジニーや格差志向などの要素がむき出しになっており、抑圧された「欲望」というものの批判的検証が必要だという、教訓的な映画にもなっている。 [DVD(字幕)] 6点(2025-05-11 23:13:46) |
33. 過去を逃れて
ネタバレ これぞフィルムノワールの女で、見事に利己的・自律的に男たちを利用する。夫を「主人」と呼んでおだてて仕えてみせるが実は思うがままに操る世の「主婦」たちの鑑だ(笑)。裏切ったな、と、彼女のプライドが主人公を撃ち殺すのも凄いし、主人公が殺されて終わる映画(男社会)のイサギヨサの見せかけも秀逸だ。 [ビデオ(字幕)] 8点(2025-05-11 08:41:04) |
34. あした来る人
らしくない三國連太郎、らしい三橋達也、で十分愉しめる。川島映画の三橋達也の魅力は、ボヘミアンな鈍感さのフリの表現にある。そういう鈍(にぶ)さが、成瀬の『女の中ににいる他人』における妙に「寛容な」寝取られ男像にも生きているような気がする。鈍くてホッとさせる人間、なのである。 [ビデオ(邦画)] 6点(2025-05-10 18:45:07) |
35. 秘められた過去
ネタバレ 圧倒的な、観客に覆い被さってくる映像である、ダッチアングル。ウェルズの「記憶喪失」を真に受けて、その過去を調査することによってまんまと殺人の片棒を担がされる主人公(狂言回し)つまりは観客。フラッシュバック形式が絶えず過去を意識させるが、実は片付いてはいない、並走する過去なのである。映画の最後でのウェルズとの格闘において、やっと「過去」が落着して観客の手に入るというわけだ。ウェルズは観客存在を見事にターゲットにしている。 [ビデオ(字幕)] 9点(2025-05-10 13:04:10) |
36. 絹の靴下
ネタバレ ダンスシーンはあまりないのかと思いきや、禁欲のヴェールを脱いで彼女が伸びやかに踊る、踊る! この映画の後三十年も経ってボウイの『レッツ・ダンス』の歌声がベルリンの壁を越えて「東」を挑発したのだった。 [ビデオ(字幕)] 7点(2025-05-06 23:18:51) |
37. 雨のしのび逢い
ネタバレ 原題に謳うように、中庸・節度を保つこと、踏みとどまること、が主題。ベルモンドの役柄が圧倒的に踏みとどまっている(あのジャンヌ・モローと駆け落ちしても先は知れている、のをわきまえている感じ)ので、映画らしい転落は起こらない。一見ジジ臭い(ピーター・ブルックは年輩だ)中庸つまり踏みとどまることを馬鹿にしてはいけない。それには自制の大きな力が必要なのである。 [DVD(字幕)] 6点(2025-05-06 16:54:55) |
38. 夏物語(1996)
ネタバレ 特徴ある「三種類」の女性が相手でいずれも捨て難いとなれば(実はあの本命はケシカランが)どれかに絞れない、主人公の「優柔不断」となる。この「優柔不断」は本来どの選択肢もキープしておきたいという欲望の表れ、ということだろうが、しかしこの場合はむしろビョーキに近い。だからこそ、この「優柔不断」の贅沢を転覆する外的事情があのような目覚ましい解放となる。皮肉なものである、というか、こういうアイロニー味こそロメールだ。 [DVD(字幕)] 7点(2025-05-06 08:18:23) |
39. タルチュフ
ネタバレ ドイツ表現主義映画の環境から出てきていながら、その繊細な表現が別物の水準であるムルナウ。ここでは、猫被りというものを映画内映画で表現し、論より証拠の「映画による教育」の効果を見せるかのよう。この映画内映画の、旅から帰宅した夫が聖なるものにかぶれているという話題は、あの『フォーゲルエート城』の再現である。脚本は同じカール・マイヤーで、階段のセットがここでも大きな役割を演じている。聖人を演じるタルチュフが階上から階段の誘惑に逆らえずに階下の肉欲へと堕ちる図は、あの名作映画『雨』(マイルストン)を連想させる。 [CS・衛星(字幕なし「原語」)] 9点(2025-05-05 15:30:15) |
40. 脱出(1944)
ボギーの、躊躇というものがないひたすらスピーディーな決断と行動が全編を貫く。そんな人間はいないし、いても困る面もあるだろう(周囲の者には)。まあ、銀幕の中にしかない憧れのようなものだ。『カサブランカ』とは違って、すでに戦況が定まってきている安心感という外的事情が大きいのかも。だが皮肉なもので、敵は内側にありで、3年後には赤狩りで、ボギー夫妻のたたかいもある。 [DVD(字幕)] 8点(2025-05-05 13:01:23)《更新》 |