ゆきさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

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プロフィール
口コミ数 627
性別 男性
自己紹介  「監督の数ではなく、観客の数だけ映画が有る」という考えでアレコレ書いています。
 洋画に関しては、なるべく字幕版も吹き替え版も両方観た上で感想を書くというスタンスです。
 ネタバレが多い為、未見映画の情報集めには役立てないかも知れませんが……
 自分と好みが合う人がいたら、点数などを基準に映画選びの参考にしてもらえたら嬉しいです。

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461.  ディープ・カバー ネタバレ 
 潜入捜査を題材とした映画は好みなので、充分に楽しむ事が出来ました。   何といっても、主演を務めたローレンス・フィッシュバーン(ラリー・フィッシュバーン)の目力が素晴らしい。  冒頭、潜入捜査官を選抜する為、黒人警官達に面接を行うシーンがあるのですが、何の予備知識も無いと、ここで「んっ? こいつが主人公?」と思わせるような潜入捜査官候補が、次々に登場する形になっているんですよね。  でも、幾つかの面接が不首尾に終わり、フィッシュバーンが画面に現れた途端に「間違いなく、この男が主人公だ!」と納得させられてしまう。  それほどまでに、その精悍な顔付きと、鋭い眼差しには、独特の存在感が漂っていました。   父親が麻薬中毒であった為に、厳しく自己節制し、酒も飲まずにいる主人公。  そんな彼が、潜入捜査で麻薬の売人として振る舞い「悪」になりきろうとする内に、段々と自らの内面に眠っていた「悪の素養」とも言うべき一面と向き合う事になる脚本が、実に秀逸。  終盤、彼が酒を飲み干し、麻薬にも手を出してしまう場面では「とうとうやってしまったか……」という、人が堕落する瞬間の、後ろ向きなカタルシスさえ感じられましたね。  仮初めの生活を行う裏町のアパートにて、近所の少年を可愛がる主人公に対し、その子の母親から「あの子が好きみたいね。二千ドルで売ってあげる」と提案されるシーンなんかも、潜入した先の闇の深さが窺えて、印象深い。   また、売人としてコンビを組む事になった、ジェフ・ゴールドブラム演じるデビットとの、奇妙な友情も良いんですよね。  主人公に正体を告げられた後も「デカでもいい」と答え、一緒に悪党としてのし上がっていこうと誘い掛ける姿なんかも、忘れ難い魅力がありました。   あえて不満点を挙げるとすれば、主人公が最後の最後で「正義」を選ぶキッカケとなる「牧師さん」の出番が少なめである為、その決断に今一つ重みを感じられなかった事。  そしてラストシーンにて、上述の少年の母親の墓に、手向けの花と現金を添える行為によって、主人公が少年を引き取った事を示す演出が、ちょっと即物的に思えてしまったくらいでしょうか。   隠れた傑作と呼ぶに相応しい、もっと多くの人に観賞してもらいたくなるような、そんな一品でありました。
[ビデオ(字幕)] 7点(2016-08-21 19:55:16)
462.  ディーバ ネタバレ 
 1981年という制作年度を考慮すれば、非常に御洒落でスタイリッシュな映画なのだと思います。   主人公が暮らしている部屋なんて、如何にもな「秘密基地」テイストが感じられて、憧れるものがありましたね。  コーラの缶にガソリン臭いチューブを差し、それをストロー代わりにして飲んでみる少女のシーンなんかも、妙にお気に入り。   青と赤が巧みに配された画面。  そして、聴くだけで鳥肌が浮かぶような歌声と、視覚的、聴覚的にもセンスの良さを感じさせる本作。   ただ、ちょっと主人公が情けなさ過ぎるというか、変質的なストーカーにしか思えなかったりして、今一つ感情移入出来ないものがありました。  映画序盤における彼の行動はといえば、恋い焦がれる歌姫のコンサートを無断録音したり、衣装を盗んだり、その衣装を売春婦に着てもらってから一夜を共にしたりと、どう考えても単なる変態さんなのです。  にも拘わらず、演じている役者さんが爽やかで繊細な二枚目過ぎるせいで、やたらと嘘くさい。  主演俳優のルックスが優れているに越した事はありませんが、それにしても、本作のような主人公の場合、もう少し粘着質な感じがあった方が、キャラクターにリアリティが生まれたのではないか、と思います。   また、主人公とヒロインの二人が結ばれるまでの過程も、あまり説得力が感じられなかったりして、残念。  海賊版の存在を「泥棒、強姦です」「軽蔑します」と言い放つような歌姫のヒロインと、実は彼女の声を無断録音してしまっている主人公が結ばれるという「意外な結末」ゆえに、観ていて(えっ? 何でくっ付くの?)と思わされてしまった気がしますね。  劇中にて、主人公が目覚ましい活躍をして自信を手に入れるとか、死線を越えて生まれ変わるといった事もなく、映画序盤から特に性格なども変わっていないのだから、序盤の彼の罪の「帳消し」感が生まれてこないのです。  その結果、ヒロイン側の一方的な優しさによって「主人公の過ちを許してくれる」「求愛を受け入れてくれる」という形になっており、ちょっとばかし男性にとって都合の良過ぎる女性像に思えました。  これならば、最初から主人公をもっと誠実で善良な男として描くなり、ヒロインを海賊版には拘らない人物として描くなりしておいた方が、二人が結ばれる結末に対しても、違和感が生まれずに済んだかと。  「本来結ばれるはずのない二人が結ばれるストーリー」という難しい題材にして盛り上げた以上は、ハッピーエンドにする為の難易度も上昇してしまうのだな、と思わされました。   それでも、ラストシーンにて、生まれて初めて客観的に「自分の歌声」を聴く事になるヒロインの姿には、胸を打たれるものがありましたね。  彼女が彼の罪を許し、愛を受け入れた理由は「自分の歌声の素晴らしさを教えてくれたから」なのか、それとも別の理由か……などと考えるだけでも、色々と楽しい映画でありました。
[DVD(字幕)] 6点(2016-08-18 11:21:35)
463.  少年H ネタバレ 
 冒頭、平和な時代にて楽しく絵を描く主人公の姿から始まって、戦中では鬼教官に「絵や音楽は戦争の訳には立たん」と言わせてしまう構成が、実に意地悪で、実に効果的。   「御国の為に」なんて言っていた近所の大人連中が、戦後は進駐軍に英語で話しかけて媚を売る姿なんかも、非常に嫌らしく描いているのですよね。  こういった「子供目線による悪役としての大人」を表現するのが、とても上手かったように思えます。  その一方で、主人公に好意的な大人達には、小栗旬や佐々木蔵之介といった「良い奴」イメージの強い有名所を起用しているのだから、バランスも良く、観ていて安心感がありました。   主人公の父親が極めて聡明で、寛大で、日本の情勢に対する先見の明まで持ち合わせているのは、ちょっとやり過ぎな気もしましたが、幼い主人公を導く役目、そして当時の情勢に疎い観客に対する「解説役」も兼ねているのだと思えば、何とか納得出来る範疇ですね。  演じているのが水谷豊というのも、非常にポイントが高い。  その知的な物言い、柔らかな物腰が、ハイスペックなキャラクターに説得力を与えていたように思えます。   特に印象深いのが、教室の机に「スパイ」と書かれた事を怒る息子に対し、冷静に、筋道を立てて説得してみせる場面ですね。  「アンタまで、やな人間になってしまうで」という言葉からは、面倒を避けようとする大人の配慮などではなく、本当に我が子を思いやり「息子には良い人間であって欲しい」と願っているからこその優しさが窺えて、胸に迫るものがありました。    そんな頼れる父との別れ、家族からの自立をクライマックスに配した気持ちは分かるのですが、結果的に「さぁ、これから主人公はどうやって生きて、成長していくのか?」という矢先に、映画が唐突に終わってしまった印象も受けてしまい、そこは残念。  恐らくは、演じている子役が幼過ぎて、社会人として自活している姿を濃密には描けなかったものと推測しますが、あそこはもうちょっと描写が欲しかったところです。   家族の中から死者が出ていなかったせいか、あまり陰鬱な展開にはならず、日本の復興を予期させる前向きなハッピーエンドであった事は、とても好み。  戦争が齎す不幸だけでなく、そこから立ち上がる人間の逞しさ、力強い美しさの片鱗を感じさせてもらいました。
[DVD(邦画)] 6点(2016-08-17 06:54:46)
464.  クライムチアーズ ネタバレ 
 どうやら自分は「チアリーダー」という存在が好きみたいだなと、遅まきながら自覚させてくれた一品。   何せ、劇中の四分の一くらいはチアリーダー衣装の女の子達が登場し、その魅力を振りまいてくれる内容なのだから、もう参ってしまいます。  と言っても、実際にチアリーディングのダンスを披露しているシーンは、極僅か。  その分、お金を盗む時もチア姿、留置場の檻の中でもチア姿と「そこまでやるか……」と思えるくらいに衣装に拘っており、殆どコスプレ映画といった趣がありましたね。   そんな品であるのだから、真面目にツッコミを入れる方が野暮かも知れませんが、一応は不満点なども。  同情出来る動機があると言えども、主人公達は犯罪行為を行っているのに、それに対して一切罰を受けない結末であった事には、驚かされました。  てっきり「無罪にはなるけど、証拠品のお金は燃やす破目になる」とか、そんなオチだろうなと予測していただけに、この完全無欠なハッピーエンド(?)っぷりには、唯々吃驚。  一応、無罪放免の代償としてチアリーダーのキャプテンの座を差し出した形にはなっているのですが、妊娠した以上は遠からず引退する事になっていたでしょうし、自己犠牲的な要素は希薄。  その能天気っぷりが意外性もあって良い……と言いたいところなのですが、正直、この「完全犯罪が成立しての大儲けエンド」には、後味の悪さ、若干の後ろめたさも感じてしまいました。   けれど、総じて考えると長所の方が多かった映画だと思いますね。   まず、キャスティングが良い。  「アメリカン・ビューティー」のミーナ・スヴァーリが、本作でもチアリーダー姿を披露しているだけで嬉しくなってしまうし、それよりも何よりも、ジェームズ・マースデン!  実写版サイクロップスなど、とかく不幸な役柄の印象が強い彼が、本作においては文句無しで幸せな結末を迎えているのだから、もうそれだけでも満足。  頭は軽いけど、底抜けに良い奴という旦那役を好演しており、その明るい魅力を見せ付けてくれていましたね。  「賢者の贈り物」めいたクリスマスのプレゼント交換の場面なんて、特にお気に入り。  結局、主人公のダイアンは罪を認めないままだし、強盗で得た金という秘密を抱えたまま生きていく事になる訳だけど、こんな旦那さんが一緒であれば、罪悪感に苛まれる事も無く、幸せな一生を送る事が出来そうです。   全編のあちこちに「銀行強盗映画」へのオマージュが散りばめられており、そのチョイスが「ハートブルー」「レザボア・ドックス」「ヒート」「狼たちの午後」と、自分好みなラインナップであったのも、嬉しかったですね。  映画を参考にして強盗を行うという、ちょっぴり際どいストーリーになるのかと思いきや、中盤にて 「映画は教材にはならない」 「映画から学べるのはセックスだけ」  と結論を出してしまう辺りも、皮肉なユーモアがあって素敵。   やはりコメディを楽しむ際には、道徳や倫理観に縛られていては駄目だなと再確認させてくれる。  良質な娯楽映画でありました。
[DVD(字幕)] 6点(2016-08-17 00:16:37)
465.  醜聞(1950) ネタバレ 
 とにかくもう、悪役となっているマスコミ側が徹底的に憎たらしく描かれていて、いっそ痛快。   「記事なんか少しぐらい出鱈目でも、活字になりさえすれば世間が信用するよ」 「(抗議されたら)誰も読まないようなところに謝罪広告を出せば、それで済む」   と言い放つ姿には、狡賢い悪党としての「大物」感すら窺わせました。   観客側としては、当然そんな彼らが敗訴して、溜飲を下げる展開を期待する訳なのですが、どうも毛色が違う結末。  分かり易い人情譚として纏められており、感動的と言えば感動的なのですが、正直ちょっと不満が残る形でしたね。   三船敏郎演じる原告側からすると「被告による買収が発覚して勝てた」という訳なのだから、どうも相手側の一方的な自滅というか、勝利のカタルシスに乏しくて、法廷物としては如何なものかと思われます。   志村喬演じる弁護士が、最後の最後で正義を貫く事になるキッカケが「愛娘の死」という点に関しても、申し訳ないのですが娘が登場した瞬間に(あっ、この子死んじゃうな……)と覚らせるものがあったせいで、どうにも予定調和な印象が拭えず、残念でした。   長所としては「横暴なマスコミに対し、決して泣き寝入りはしない毅然とした態度」を描いている事。  そして山口淑子演じる声楽家の「尊敬のない人気なんか沢山だわ」と言い放つ姿から、誇り高く生きる人間の美しさを感じられた事でしょうか。   新進気鋭の若き画家という、他の作品ではあまり見かけない役柄を演じている三船敏郎の姿にも、流石と思わせるものがあり、それだけでも観る価値がありましたね。  独特の渋い声音で  「僕達は生まれて初めて、星が生まれるところを見たんだ」 「その感激に比べれば勝利の感激なんて、ケチくさくて問題にならん」   と言われてしまえば、そういうものかと納得しかけてしまうのだから、全く不思議なものです。
[DVD(邦画)] 5点(2016-08-15 20:35:56)
466.  永遠の0 ネタバレ 
 「上手い」と感じる部分と「ズルい」と感じる部分とが混在しており、評価が難しい一品ですね。   まず、本作はフィクションであるはずです。  にも拘らず、さながら事実をそのまま映像化したような印象を与えてしまう。  これは創作物として非常に優れた点であると同時に「現実と虚構の区別をつかなくさせる」作用も大きく、純粋に「映画」として楽しむ事を妨げているようにも思えました。   実質的な主人公である宮部久蔵というキャラクターは、非常に魅力的ですね。  軍人でありながら命を惜しみ、誰にでも敬語で礼儀正しく接して、端正な顔立ちの二枚目。  大人しくて卑屈な性格かと思いきや、仲間の尊厳が踏み躙られた時には上官に反抗だってしてみせるという、正にフィクションだからこそ許される存在。  この映画のタイトルに「実録」なんて付いていようものなら(これ、絶対美化しているよね?)と疑ってしまうのは避けられなかったはずです。  積極的に戦争に参加していないくせに、実は凄腕のパイロットであるという矛盾した一面も良い。  同僚と「模擬空戦」を行い、瞬時に相手の背後を取って、鋭い眼光で睨み付けている時の姿なんて、とても格好良かったです。   上述の「ズルい」部分に該当する話でもあるのですが、この映画って「戦争は良くない」という基本スタンスでありながら、空戦シーンは非常に面白く撮っていたりするのですよね。  主人公が零戦を宙返りさせる姿にも、思わず見惚れてしまうような魅力があり、そういった意味においては「軍人に憧れる子供」を生み出してしまう可能性はあるかも。   その一方で「上手い」と感じたのは、作中において大きな謎である「何故、命を惜しんでいたはずの宮部が特攻したのか」に対して、明確な答えを出さなかったという事。  作中の情報から推測する限りでは、教え子達が次々に特攻して死んでいくのに、自分だけが生き延びるという罪悪感に耐えられなかったからだと思えます。  ただ、自分としては、この「理由を知りたいのに決して知る事が出来ない」という現象が「何故なら、その人は死んでしまったから、訊きたくても教えてもらえないのだ」という答えに繋がっているようにも感じられたのですよね。  恐らくは戦争行為における最大の喪失であろう「人の死」が「決して明かされる事のない謎」を生み出してしまったという、何とも悲しい結末。  だからこそ、特攻していく宮部の姿を最後までは描かず、不思議な笑みを浮かべさせたまま、戦死の直前で終わらせたのだと思われます。  一度死んで0になってしまったものは、永遠に0のまま、1には戻らない訳です。   面白いというか、少々意地悪なユーモアを感じられたのは、現代パートにおいて宮部の孫が「特攻と自爆テロの違い」について語る場面。  ここは作中の流れを踏まえて考えれば「特攻は無差別に民間人を狙ったりしない。空母だけを狙うのだから、自爆テロとは違う」という結論で終わらせても良かったはずなのです。  けれど、本作においては議論の相手から「昔の日本軍を美化して考えるのは、今現在の自分に不満があるがゆえの逃避行動だ」という指摘が行われており、結局それに対して宮部の孫は反論出来ず、大声で怒ってから逃げ帰るというストーリーにしている。  この「特攻を美化して話す人間の格好悪さ」を、意図的に描いているような辺りは、良いバランスだなと思えました。   山崎貴監督は、基本的には好きな監督さんですし、本作においても家族愛を軸に据えて、万人が感動出来るような形に仕上げてみせたのは、実に見事だと思います。  ただ、どうも演出過剰な面もあり、ラストに零戦の幻影を見るシーンなんかは、それが悪い方向に作用してしまった気もしますね。  あそこは、もう少し静かに余韻を残して、平和になった現代の姿を映し出すだけでも良かったかも。   その一方で、過剰だからこそ良いと思えたのは、宮部の戦友である景浦が感情を発露させる場面。 「特攻がどんなものか、見ていますよね?」 「殆ど敵艦に辿り着けていないって!」 「殆ど無駄死にだって!」  と訴える姿には、大いに心を揺さ振られるものがありました。  もし、この映画に何らかのメッセージが込められているとしたら、それはこの叫びに尽きるのではないかな、と思う次第です。
[DVD(邦画)] 7点(2016-08-11 19:58:46)(良:1票)
467.  バウンス ko GALS ネタバレ 
 中盤におけるヤクザとコギャルとの問答シーンの緊迫感は凄いですね。  結果的には意気投合して「見逃してもらった」形となる訳だけど、殺されるなり殴られるなりしても全くおかしくない雰囲気だっただけに、息が詰まるような思いがしました。   今となっては古臭くなっているかも知れませんが、当時における「コギャル」の生態を描いた品としても、凄く貴重。  コギャル当人に言わせれば「私ら、こんなんじゃないし」という答えが返ってくるかも知れませんが、年代も性別も異なる自分の目線からすると、極めてリアルに描かれているように思えます。   援助交際を行っているグループの中でも、すぐに身体を許す子は「サセ子」と呼ばれて見下されてしまう辺りなんかも、非常に興味深い。  こういった場合、第三者の目線からは「コギャル」と、ついつい一括りにしてしまいがちだけど、彼女達の中にも差別やら区別やらが存在するんだなぁ……と、しみじみ感じました。  「別に自分達が特別な訳じゃない」 「常識ある大人が少なくなったんです」   などの台詞によって「援助交際とは、そもそも大人側の需要が存在しなければ子供側の供給も存在しない」という真理を突いてみせるのも、実に上手いですね。  男性であるヤクザ目線でも、女性であるコギャル目線でも、互いの言い分に一定の説得力があるというか、観ていて肩入れ出来るような感じに仕上げているのは、監督さんの力量なのだと思われます。  こういった世代差や性別を越えた「対話」を扱う際に、どちらか片方を貶める事なく描いてみせるのは、中々出来ない事かと。   「どうして子供が売春なんてするんだ?」という観客の疑問に対し「子供の内は捕まっても罪が軽いから、悪い事をするなら今の内。二十歳になったら悪い事は止める」と語る少女を作中に登場させて、一つの答えを示している辺りなんかも、色々と考えさせられましたね。   それまで大人の「欲望」を利用して金稼ぎしていた少女達が、終盤にて大人の「善意」によって救われる構造なども、面白かったと思います。  ただ、自分としては最後の最後で、妙に綺麗にまとめてみせたというか、ちょっと終盤の展開だけ映画の中で浮いているようにも感じられて、そこは残念。  あの終わり方だからこそ、青春映画としての魅力も強まっているのかも知れませんが、もう少し苦みを含んだハッピーエンドでも良かったかも知れませんね。  それまでの展開がリアルであっただけに、爽やか過ぎて非現実的に思えてしまいました。   エンドロールの最後に流れる笑い声が、凄く怖かったりもしたのだけど、あれの演出意図も気になるところ。  大人目線による「子供の得体の知れない不気味さ」を表したにしては、劇中でその「不気味な子供」を好意に近い目線で描いている訳だし、どうも不可解。   全体的にクオリティは高いのですが、最後まで謎や違和感も残るという、後味爽やかとは言い難い映画でありました。 
[DVD(邦画)] 6点(2016-08-10 10:11:46)(良:1票)
468.  淑女は何を忘れたか ネタバレ 
 先日観賞した「秋刀魚の味」が面白かったもので (これはいよいよ、自分にも小津映画を楽しめる器量が備わったのか?)  と調子に乗って手を出してみた本作。   で、結果はといえば……やっぱり、まだ早かったみたいですね。  監督さんの個性である独特のカメラワークだとか、演出だとか、会話の間だとかが、どうも退屈に感じられてしまう。  テーマとしては女性というか、主婦に対する皮肉なのかなと思いきや、最終的には「色々あるけど夫婦は仲良く」という結論に落ち着いてしまったみたいで、それが妙に物足りず、中途半端な印象を受けてしまいました。  「奥さんには花を持たせんきゃいかんよ」 「子供を叱る時にね、逆にこう褒めるだろ? あれだよ。つまり逆手だね」   などの台詞によって、一見すると尻に敷かれていた夫の方が、実は巧妙に妻を手懐けていると判明する件は面白かったけど、ちょっと女性を男性より下に捉え過ぎているようにも思えます。  夫に頬を打たれた妻が、その事を喜び、茶飲み仲間に話して羨ましがらせるというのも、何だか都合の良過ぎる話。  この辺りは、監督の価値観がどうこうというより、制作当時の時代性が大きいのでしょうか。   そんな風に、今一つ乗り切れない映画であったのですが、そこかしこに散らばるユーモアのセンスには、流石と思わせるものがありましたね。  特にお気に入りなのは、地球儀を使った地名当てクイズにて、周る地球儀の天辺を指差して「北極」と答えてみせる件。  その手があったかと、大いに感心させられました。   「バカ」「カバ」というやり取りに関しても、初出の場面では子供っぽさに呆れていたはずなのに、二度目に使われた際には(えっ? また使うの?)という意外性も相まって、思わずクスっと笑みが零れたのだから、不思議なもの。   ラストシーンに関しても、少しずつ部屋の灯りが消えていく様が幻想的で、好みの演出だったりするんですよね。  観賞中は退屈な時間の方が長かったはずなのに、この終わり方を目にするだけでも(良い映画だったなぁ……)と思えてくるのだから、全く困った話です。   小津安二郎という人は、今後も自分にとって評価の難しい監督さんであり続ける気がします。
[DVD(邦画)] 5点(2016-08-09 22:34:05)
469.  秋刀魚の味(1962) ネタバレ 
 小津監督作品というと、どうも肌に合わない印象が強かったりしたのですが、これは良かったですね。   序盤の部分に関しては、正直退屈。  でも、主人公の親父さんだけでなく、長男夫婦の日常も並行して描かれる辺りから、段々と面白くなってくる。  「ゴルフクラブを買いたいのに、妻が許してくれない」という悩みを抱える会社員が、購入を認めてもらった時の嬉しそうな様子なんて、実に微笑ましかったです。   また、途中で戦争批判と思しき箇所もあったりするのですが、そのやり取りも重苦しくはならず「負けて良かった」「馬鹿な野郎が威張らなくなった」なんて具合に、酒の席で上司に対する愚痴を零す時みたいな、軽いノリで描いてみせた辺りも好印象。   「娘の結婚問題」で、初老の主人公がアレコレと苦労しつつも何とか縁談を纏めようとする後半部分も面白かったのですが、惜しむらくは、終盤の「娘が嫁入りしてしまった後の寂寥感」を描くパートが、ちょっと長過ぎたように思えた事でしょうか。  あそこは「育てがいの、ないもんだ」「結局、人生は一人ぼっち」という台詞の後に、スパッと短く終わらせておいた方が、余韻が残って良かったんじゃないかな、と。   ただ、そこで「主人公の死」を連想させる演出が挟まれるのですが、安易に「酒に酔って交通事故に遭う」などの展開にはせず、まだまだ人生が続く事を示して終わってくれたのは、嬉しかったですね。  娘の嫁入りという、めでたくも寂しい出来事の後に「身体、大事にしてくれよな」「まだ死んじゃ困るぜ」と言ってくれる息子の存在には、救われる思いがしました。   タイトルの意味についても、作中で明確に言及されていない為、色々と推測する楽しみがありますね。  単純に晩年の三作を「秋」というワードで繋げてみせただけという可能性もありますが、それはちょっと作品単体への思い入れが感じられず、寂しい。  やはり「人生の味は秋刀魚に似たり」という意味ではないか、と思えるのですが、真相や如何に。   これが監督の遺作となった事も併せて、非常に味わい深い映画でありました。
[DVD(邦画)] 6点(2016-08-09 19:09:48)
470.  最も危険な遊戯 ネタバレ 
 コメディ調に始まり、コメディ調に終わるのだけど、劇中の大半はハードボイルド風アクションで構成されているという、何とも奇妙な一品。   松田優作演じる主人公の鳴海にとって、賭け麻雀で負けてヤクザに殴られたり、ストリップ嬢に振られたりする事こそが日常であり、銃撃戦などは非日常だからこそ、こんな作りにしたのだろうか……とも思ったのですが、主人公の職業は「殺し屋」なのだから、そんな推測も当てはまらないのですよね。  冒頭とラストシーンでの情けない姿と、スタイリッシュに殺しを行う中盤の姿とが、どうしても上手く重ならなくて「殺し屋としての活動は、全て主人公の妄想だったんじゃないか?」と、疑ってしまったくらい。   そんな振れ幅の大きさ、シリアスな演技もコミカルな演技も、格好良く見せられる度量の大きさこそが、俳優松田優作の魅力なのでしょうが、本作は今一つ肌に合わなかったみたいで、残念。  同監督作の「野獣死すべし」では気にならなかった拳銃の発砲音なども、本作では何故か玩具っぽく聞こえてしまったりして、肝心のアクションにも集中出来ず仕舞いでした。   それでも、流石は名優の貫録と言うべきか 「まぁ慌てなさんな、やるったらやりますよ」 「素敵なゲームをありがとう」  等々の台詞を口にするシーンでは、観ていて痺れるものがありましたね。  決めるべきところは、ちゃんと決めてくれる。  観客を裏切ったりはしない映画であると感じました。
[DVD(邦画)] 5点(2016-08-07 15:41:12)
471.  黒蜥蜴(1968) ネタバレ 
 美輪明宏こと丸山明宏の妖艶さに酔いしれる映画ですね。   とはいえ、あくまでも「女装した男性の美しさ」といった感じであり、劇中では純粋に女性として描かれている事に、多少の違和感もあるのですが、それでも文章にすれば「主演女優」「彼女」という表現が自然と飛び出してくるのだから、我ながら驚かされます。   そんな彼女と「人形」とのキスシーンにも「三島先生、何やってるの!?」と吃驚。  著作を読む限りでは、結構お堅い芸術家肌の人というイメージがあったのですが、こんな剽軽な一面もあったんだなと、妙に感心させられました。   脇役である松岡きっこも、主演女優とは正反対の、まだ初々しい純情な美しさがあり、画面に彩を添えている形。  その一方で、探偵の明智役には、もっと美男子を配しても良かったのでは? と思ったりもしたのですが……この物語において黒蜥蜴が惹かれたのは「明智小五郎の容貌」ではないのだから、知的さを漂わせる木村功で正解だったのでしょうね。  落ち付いた声音の魅力を、長椅子越しに黒蜥蜴と対話するシーンなどで、じっくり堪能する事が出来ました。   ラストシーンの耽美さも勿論素晴らしかったのですが、個人的に最も心惹かれたのは、黒蜥蜴が男装した姿を鏡に映し出し、その「もう一人の自分」に語り掛ける場面。  「返事をしないのね。それなら良いわ」  「また明日、別の鏡に映る、別の私に訊くとしましょう」  という台詞回しには、本当に痺れちゃいましたね。  本作における黒蜥蜴は、普段の姿は「女装した男」にしか思えず、そしてこの場面においては「男装した女」にしか思えないという、実に倒錯性を秘めたキャラクターなのです。  それゆえに「本当の私なんてない」という台詞も切なく聞こえ「男に生まれてしまった女の悲劇」あるいは「女に生まれてしまった男の悲劇」を感じさせてくれます。   存在自体が罪深く、哀しくも美しい人物として、観賞後も、何時までも心の中に残ってくれる。  そんな素敵なヒロイン、素敵な女優と出会えた、魅惑の八十六分でありました。
[ビデオ(邦画)] 7点(2016-08-07 08:32:28)
472.  江ノ島プリズム ネタバレ 
 「デロリアンは何処だ?」「(ドラえもん風に)タイムウォッチ~」などの台詞には、クスッとさせられました。   前半部分はコメディタッチで、明るいハッピーエンドを予想させる流れだったにも拘らず、後半からシリアス濃度が高くなり、自己犠牲を伴った切ないハッピーエンドに辿り着く……という流れだったのも、良かったですね。  作風が途中で百八十度変わる訳でもなく、ちゃんと冒頭から人死にを扱ったりしていて(この映画は完全にコメディという訳ではありませんよ)と伏線を張っておいた形だったので、作品の空気が徐々に変わっていく様も、自然と受け入れられた感じ。   個人的には、主人公の性格がワガママ過ぎるというか「相手が嫌がっていても、自分が決めた事はやり通す」ってタイプだったのが、ちょっと抵抗あったんですけど……  それよりも気になったのは、携帯電話の扱い。  途中(何で携帯を使わないの?)と思わされる場面が多くて、映画のストーリーに没頭出来なかったのですよね。  もしかして、この世界には携帯電話は存在しないのか……とも思ったのですが、そういう訳でもなさそう。  ならば、時代設定を1980年辺りにするか、あるいは劇中にて「誰かがタイムトラベルを行った副作用で、携帯電話が発明されない世界になっている」という設定を付け足した方が、自然に受け入れられた気がします。  後者の場合は、タイムパラドックスについて説明する際に「時間改変によって、元の世界に存在していた何かが失われてしまう可能性もある」「この世界も、既に変わってしまい、何かが失われた後なのかも知れない」「たとえば、手のひらサイズで持ち運べる電話とか」などと言わせるだけでも、かなり印象が違っていたんじゃないでしょうか。   あと、中盤辺りから完全にヒロインと化す「タイムプリズナー」の今日子ちゃんは可愛かったのですが、ちょっと扱いが大き過ぎたようにも思え、本筋から外れてしまった感があり、残念。  思い切って彼女が主役級の映画にするか、もっと主人公との絡みを減らして、脇役に留めておいた方が良かった気がしますね。  ラストにて、他の人物が主人公を忘れてしまったとしても、今日子ちゃんだけは憶えているというのは救われるものがあり、嬉しかったのですが……  本当に「ただ憶えているだけ」であり、その後に主人公と再会するのかどうか不明というのも、流石に中途半端なんじゃないかと。   主人公が最後に振り返り、もはや他人となった幼馴染の二人を見つめる演出なども、味わい深くて魅力的だとは思うのですが(本当にそれで良かったのか?)という疑問も残ってしまい、どうもスッキリしないんですよね。  元々親友の命を救うのが目的だったとはいえ、相手にとっては命よりも大切かも知れない思い出を、主人公の独断で失わせているってのが、納得出来なかったです。   ……とはいえ、そんな疑問、ちょっとした後悔まで味わえるという辺りが、結果的に、本作の青春映画としての完成度を高めていた気もしますね。  納得いかない事もあるし、正しい選択じゃなかったかも知れない。  それでも、学校での花火や、皆で記念写真を撮った瞬間など、楽しい事も確かにあった……と、しみじみ後から思い出せる形になっている点に関しては、好みの映画でありました。
[DVD(邦画)] 5点(2016-08-06 19:51:47)
473.  故郷(1972) ネタバレ 
 渥美清の演じる魚屋が「船長」と「労働者」の違いについて語る件が印象深いですね。  労働者よりも仕事がキツく、給料も安いと言われてしまうような、石船の船長という仕事。  それでもなお「叶うならば、ずっと船長のままでいたい」と願い続けていた主人公の姿に、切ない気持ちにさせられました。   途中、上述の魚屋が風邪を引いてしまい、ゴホゴホと咳込んでいる姿を目にした際には「もしや、彼が入院なり病死なりしてしまう展開じゃなかろうな……」と身構えてしまいましたが、そんな事も無く、最後まで明るく人懐っこい姿で映画に彩を添えてくれて、一安心。   主人公である夫は「船長」その妻は「機関長」という呼称も、何やら子供時代の遊びのような、不思議な楽しさがあり、彼らが石船の仕事に愛着を持っている理由も、分かるような気がしましたね。  冒頭の、船で大量の石を運び、それを海中に流し込むという一連の作業も、何だかアトラクションめいた趣きがあり、視覚的にも満足。  家族で力を合わせる姿を見ていると、それが単なる「仕事」の一言では片付けられない、互いの絆を強める為の儀式であるようにも思えてきました。   結局、この映画の一家は「都会の造船所で働く為」「大好きな船を捨てて、大好きな島からも去らなければいけない」という、辛い決断を下す事になります。  それでも、必要以上に陰鬱にはならず、どこか明るい空気すら漂っているのは「家族が生きていく為」という目的意識が、しっかりと描かれているからなのでしょうね。   ちょっと「田舎」や「船仕事」を美化し過ぎているというか、ともすれば「都会」や「工場作業」に否定的な印象を与えてしまう作りなのは気になるところですが、本作の場合は、そういった視点で描くのが正解だったのだろうな、と思えました。
[DVD(邦画)] 6点(2016-08-04 16:05:28)
474.  近松物語 ネタバレ 
 溝口健二監督作を幾つか観賞し終え「この人の映画って、登場人物が不幸になる話ばかりだなぁ……」という偏見を抱いていた自分を、痛快なまでに打ち倒してくれた一品ですね。   あらすじとしては、不義密通の濡れ衣を着せられた男女が、望まぬ逃避行を強いられる話になるのだと思います。  しかし、その過程で本当に愛情が芽生えてしまい、周囲の迷惑すらも顧みずに互いを求め合うようになるという、純粋極まる恋物語へと、鮮やかに変貌を遂げてくれるのです。  最後には「処刑場に連行される二人」という、悲壮感漂う場面になるのですが、そこには「逃亡の苦しみから解放された幸せ」「これで二人が引き裂かれる事は二度と無いという確信」といった感情も描かれており、不思議と後味は爽やか。  背中合わせに縛られた男女が、固く手を繋ぎ合い、満足気に笑みを浮かべる姿は、忘れ難い印象を与えてくれました。   なお、元ネタとなった「大経師昔暦」においては、主役の男女二人は死んでいません。  処刑の寸前、助けが入ってハッピーエンドを迎える事になっています。   それを「ほんまに、これから死なはんのやろか?」という呟き一つで、生存の可能性を示すだけで済ませてしまうのは、如何にも溝口監督らしく思えましたね。  「悲惨美」「芸術的な悲劇」を好む感性がそうさせた可能性もありますが、自分としては「殺されるのを承知の上で、愛を貫き通した二人の覚悟」こそが大事なのであり、この後に二人が死ぬか生きるかなんてのは、些細な事なんだ……というメッセージなのだと解釈した次第。   勿論、個人的好みとしては、二人はあのまま殺されてしまうのではなく、原作同様に危機一髪で助かったのだと思いたいところですね。  共に死ねる喜びではなく、共に生きる喜びを分かち合って、幸せな夫婦となって欲しいものです。
[DVD(邦画)] 7点(2016-08-04 10:47:22)
475.  狂った果実(1956) ネタバレ 
 「要するに退屈なのよ、現代ってのは」という台詞が、六十年前の映画にて発せられている事に驚きです。   2016年を迎えても、未だに「退屈な現代」が続いているように思える今日この頃。  ですが、退屈を感じる事が出来ない社会というのも、それはそれで落ち着かない気がするので、恐らくそれは歓迎すべき事象なのでしょうね。   本作の登場人物も、腹が減れば食事し、トランプで賭け事を楽しみ、海に出掛けてボート遊びに興じてと、一見すると裕福な、満たされた生活を送っているように思えます。  それでも若者特有の倦怠感、人生の諦観からは逃れられないみたいで、何だ哀しくなってきますね。  作中にて「時代遅れの年寄り」を皆で貶すシーンがあるけれど、この時代の若者達も、今では老人となり、現代の若者から白い目で見られているのだろうなと思えば、実に興味深い。   これが初主演作となる石原裕次郎に関しては、後の「嵐を呼ぶ男」などと比較してみても、まだ演技は拙い印象ですね。  他の出演陣にしても、年配の演技巧者が少ないせいか、全体的に棒読みに聞こえてしまう台詞、わざとらしい動きに思えてしまう場面が多かったりもして、そこは残念。   ただ、時代を越えて眩しさを与えてくれる「モノクロ映画の中の光」も確かに存在していて、それをおぼろげながらも感じ取る事が出来たのは、嬉しかったです。  先駆性の高い作品ゆえか、細部が粗削りで、現代の作品ほど洗練されていないのが気になったりもしたけれど、それもまた新鮮な感覚。   「ご縁と命があったら、また会いましょう」なんて台詞を、劇中の人物が、さらっと口にする辺りも御洒落ですし、裕次郎演じる夏久が、ヒロインの恵梨に頬を叩かれた後、無言で抱き締めてキスをする件も良かったですね。  後者に関しては、今となっては見慣れた演出なのですが「もしかして、この映画が元祖なのかな?」と思えるくらいのクオリティを感じられました。   衝撃的なラストシーンに関しても、大いに評価したいところなのですが、主人公の弟が冷徹に狂うまでの描写が、やや不足気味かも。  もう少し濃密に、兄に対する猜疑心や劣等感、ヒロインの恵梨に対する愛情や執着などを描いてくれていたら、もっと感動出来たように思えます。   そんな長所と短所が入り乱れる本作にて、最も印象深いのは、裕次郎が甘い歌声を披露する場面。  演技の巧拙などを超越した「大スターの片鱗」を窺わせてくれる、忘れ難い瞬間でした。
[DVD(邦画)] 6点(2016-08-04 06:22:58)
476.  祇園の姉妹(1936) ネタバレ 
 冒頭、タイトルが「妹姉の園祇」と表記されるのを目にして、これが戦前の映画である事を実感。   溝口監督作というと「雨月物語」が印象深いのですが、あちらと異なり、本作は「現代の観点からすると、ずっと昔の話」「しかし、制作当時からすると、紛れもない今の話」という時代設定なのが、何だか不思議な感じでしたね。  実に八十年前の映画でありながら「主人公の芸妓が、男どもを翻弄する姿の痛快さ」「ラストシーンにて、芸妓の存在そのものを嘆く姿の哀れさ」は胸に迫るものがあり、そこを考えると、やはり凄い作品なのだと思います。  涙を「不景気なもの」と表現するユーモア感覚なんかも、非常に新鮮に感じられて、良かったです。   ただ、歴史に残る名作に対して、こんな事を告白するのは心苦しいのですが、正直ちょっとインパクトが弱いというか、全体的に「平坦」な、盛り上がりに欠ける映画のようにも思えてしまい、残念でしたね。  上述のラストに関しても、ドン底の姉妹がここからどうやって立ち直っていくのだろうかと期待したのに、容赦なく「終」の字が飛び出すものだから、呆気に取られる思い。   この映画の悲劇的な結末を「芸術的である」「素晴らしい」と絶賛する人の気持ちも、分かるような気はします。  それでも、やはり自分としては、ハッピーエンドの方が好きみたいですね。   本作に関しても、たとえ逆境のまま終わるにせよ、主人公姉妹が我が身を憐れんで泣いて幕を閉じるのではなく、もっと力強く前を向いて生きる姿を示して欲しかったな、と思わされました。
[DVD(邦画)] 5点(2016-08-03 11:35:47)
477.  鬼畜 ネタバレ 
 これまた、何とも判断の難しい一品ですね。   まず、ストーリーは文句無しで面白い。  演出も冴えているし、主演の緒形拳も、難しい役どころを見事に演じ切っていると思います。  ただ、子役の台詞が……ちょっと棒読み過ぎて、辛かったです。   他人様が「棒読みだ」と指摘するような役者さんでも「これはこれで味があって良いじゃないか」と感じる事が多いはずなのですが、今回ばかりは白旗を上げてしまいましたね。  特にキツかったのが、岩下志麻演じる継母に折檻される場面で「痛い、痛い、痛い。放せ。やだよう」と言う息子の声が、どう考えても打たれている時の声じゃないんです。  それでも効果音で身体を叩く音が聞こえてくるし、岩下志麻の方は鬼気迫る熱演をしているしで、そのすれ違い様が実にシュールでした。   ただ、そんな子役達も、黙って大人を見つめる時の目力は凄いものがあって、それには素直に感心。  また、上述の棒読み演技が効果的に作用している面もあり、ラストシーンの「違うよ、父ちゃんじゃないよ」に関しては、感情が籠っていない声だからこそ良かったのだと思いますね。   この場面、脚本の流れを考えれば「息子の利一が嘘をついて父親を庇っている」はずなのです。 (父子で新幹線に乗っている時、父親の懐具合を思いやった息子が、車掌に嘘をついてみせるのが伏線)  けれども、その感情の窺えない、どこか突き放したような声色がゆえに「息子を捨てたりした人間は、父親なんかじゃない」という意味合いも含んでいるように聞こえてくるのですよね。  意図的な演出だったのかどうかは分かりませんが、結果としては、映画に深みを与える形になったんじゃないかと。   娘が東京タワーに捨てられるシークエンスにも、印象深い場面が幾つもありました。  父親が娘に対し「父ちゃんの名前、知っているか?」「お家はどこだ?」と確かめて、娘が幼く無知であり、我が身に警察の手が及ばない事を確信してから捨ててみせる流れなんて、観ていて恐ろしくなります。  何かを勘付いたのか、娘が中々父親から離れようとしない辺りの演技も良かったですし、父親が娘を置いてエレベーターに乗り込んだ際、閉じゆくドアの隙間越しに、一瞬だけ父娘の目が合うシーンの衝撃も、これまた凄まじい。  希望的観測ですが、あの娘さんに関しては、途中で出会った優しい着物の婦人に拾われて、幸せに暮らす事が出来たのだと思いたいですね。   利一が、楽しそうに笑い合う他の家族を見つめて「何故自分達はそうじゃないのだろう?」とばかりに、寂しげにしている姿も切なかったし、前半と後半にて「子供の口に無理矢理ものを押し込む親の姿」を二度描き、最初は同情的だったはずの父親さえも、継母と同じ鬼畜に堕ちてしまったのを、間接的に表す辺りも上手い。   全体的に息が詰まるような、苦しい映画だったのですが、そんな中、田中邦衛に大竹しのぶなど、子供達を保護する警官役が本当に善良そうで、優しそうで、観客にも癒しを与えてくれた辺りは、嬉しかったですね。  こういったバランス感覚の巧みさが、本作のエンタメ性を、大いに高めているのだと思います。   この映画を観終わった後、自然と脳裏に浮かんでくる「一番の鬼畜は、誰だったのか?」という問い掛け。  自分としては、父親でもなく、継母でもなく、三人の子供を残して姿を消した、小川真由美演じる菊代が一番酷かったと、迷いなく答えられますね。  彼女の顛末は語られず仕舞いですが、せめて遠く離れた場所で、子供達の幸せを祈っていたのだと思いたいところです。
[DVD(邦画)] 7点(2016-08-03 06:44:49)(良:4票)
478.  帰らざる日々 ネタバレ 
 アリスのベストアルバムで何度も耳にした「帰らざる日々」が、主題歌として流れるだけでも嬉しくなってしまうのですが、映画自体も中々好みの味わいでしたね。   高校生活が、退屈で仕方ない主人公。  そんな彼の片想いの対象である、年上の美人ウェイトレス。  中学の頃の同級生で、初体験の相手となる少女。  何故か自分を気に入って、妙に懐いてくる不良の男子生徒。  ……といった具合に、登場人物達が、現代の青春映画、小説、漫画などにも転用出来そうな普遍性を備えている事に、まず驚かされました。   主演の永島敏行に関しては、正直、ちょっと棒読みなんじゃないかとも思えたりして、そこは残念。  けれど、気だるげで白けたような態度、それとは対照的に情熱を秘めた眼差しなど、その独特の魅力も、確かに感じ取る事が出来たと思います。  彼をはじめ、高校生を演じるには全体的に老け過ぎな俳優陣にも思えたのですが、これに関しては、青春映画のお約束なのだから、ツッコむ方が野暮というものでしょうか。   序盤にて、級長が不良生徒に殴り掛かる展開に「何で?」と戸惑った事を筆頭として、当初は面白みを感じられなかったりした本作。  ですが、主人公達が首吊り死体を見つけ、残された金を盗み取るシーン辺りから、少しずつ良くなっていった……という印象ですね。  ちょっと主人公に都合の良い展開が多いような気もしますが、これくらいなら、何とか許容範囲内。   終盤、すっかり親友となった不良生徒の隆三が、主人公を庇い、事故で脚を潰してしまうシーンなどは、かなり衝撃的でしたね。  上述の窃盗に、飲酒などを含め「悪い事をしたら罰が当たる」という道徳的なテーマも窺わせる一方で、彼が友を庇う「善行」の結果として、不幸に見舞われてしまったのだという事が、何ともやるせなかったです。   二人が仲良くなったキッカケが、マラソンであった事。  競輪選手になる夢を隆三が語っていた事なども、上手く布石として活用している形なのですよね。  友情と希望の象徴であったはずの親友の「脚」が失われると同時に、過去を回想するパートが終わるという構成も、鮮やか過ぎて、意地悪に思えてしまうくらいに上手い。   あまりにも残酷な、青春の終わり。  そして現代で再び見舞われる「交通事故」「死別」という悲劇によって、二人の友情にも終わりが告げられる……と思いきや、それを主人公が否定する結末にしてくれた事は、嬉しかったですね。   過ぎ去りし日々、帰らざる日々の中で、二人で一緒に走った、あの道を、今度は一人で走り抜いてみせる。  それは友情が失われていないという証、今後も決して青春の日々を忘れる事などは無いという証明にも繋がっており、実に切ない余韻を与えてくれました。
[DVD(邦画)] 6点(2016-08-01 13:29:34)
479.  顔(1999) ネタバレ 
 喪服のままで強姦されて、純潔を散らす事となった主人公の正子。  そんな彼女が相手の男に対し「これ、あげる」と香典を渡すシーンが印象的でしたね。  流石に気味が悪かったのか、突き返そうとする男を罵倒するように「取っとけ!」と啖呵を切る姿なんかも、妙に格好良くて、惚れ惚れする思い。  美しい妹を殺してしまったがゆえに、逃亡犯としての旅に出る事となった正子だけど、本当の意味で「生まれ変わった」「旅する決意をした」のは、この瞬間であったように感じられました。   その妹との確執に関しても、短い尺の中で巧く描いており「お姉ちゃんの存在が恥ずかしかった」と言わせた辺りなんかは、大いに感心。  他人ならば何ともないのに、家族だからこそ「その存在が恥ずかしい」という感情が湧き出てくる訳で、それを的確に表現している台詞ですよね。   全体的に、暗い作風とも明るい作風とも言い難いものがあって、暗いというにはあっけらかんとしているし、明るいというには陰鬱過ぎるという、不思議なバランス。  この独特の空気感を心地良く感じる人もいそうですが、自分としては、ちょっと苦手だったりもしました。   妹殺害のシーンなども「直接殺した光景は描かないで、まず主人公が風呂場で自殺未遂を起こす姿を描く」→「その後に旅支度を始める主人公の足元で、妹が死体となって倒れているのを、サラッと映し出す」という演出になっており、上手いなぁと感心する気持ちと、ちょっと回りくどいよなと思う気持ちが半々になったりして、どうも素直に褒められない、肌に合わない部分が目に付いてしまったのです。  作中で最も悲劇的に描かれていた「流産」に関しても、主人公が信じる「輪廻転生」に共感が持てなかったりしたもので「あぁ、彼女なりに妹を愛していたんだなぁ……」と冷静に考える程度で終わってしまい、感動にまでは至らず、残念でした。   その代わりのように、主人公が成長するロードムービーとしての魅力は感じ取る事が出来て、そちらに関しての満足度は高め。  旅の中で、周りの人達と交流し、自転車の乗り方を習い、泳ぎ方を習い、それが結果的に「土壇場で逮捕の手を逃れる手段」に繋がるストーリーが、実に皮肉で面白いんですよね。  主人公のモデルになった、ホステス殺人事件の犯人と思しき女性と、喫茶店で会話を交わしていたと判明する瞬間なども、観ていて驚かされ、印象的な場面でした。   また、本作においては、実際の事件と違って「整形」という要素を用いなかった辺りも、良い判断だったかと。  何せ主演の女優さんが演技巧者なものだから、最初は生気を失った顔だった主人公が、段々と生き生きして魅力的になり、まるで別人のような「顔」に変わっていく様を、説得力満点に演じてくれているのですよね。  全体のストーリーラインをなぞれば、非常に胡散臭い話であるはずなのに、不思議なくらい真実味を帯びて感じられたのは、やはり彼女の存在が大きかったからなのだろうな、と思えます。   お世話になった女性の律子さんに電話を掛け 「ごめんなさい」「ありがとう」  という想いを伝える件なんかも、凄く良かったですね。 「死ぬぐらいやったら、逃げて」「お腹が減ったら、ご飯食べて」  という励ましの言葉を、手首に傷のある律子さんが口にするのだから、何とも切なくて、情感溢れる名場面。   恐らく、本作の主人公は「逮捕されてしまえば罪悪感に耐え切れず、留置場や刑務所で自殺してしまう」と分かっているからこそ、懸命に逃げ続けているのだと思われます。  そんな事情を加味したとしても、現実逃避、罪から逃れるという行いは、間違いなく悪い事なのでしょう。  それでも、たとえ悪だとしても死よりはマシだ、前を向いて走って、逃げ続けて生きるべきなんだ、というメッセージが窺える、味わい深い映画でありました。
[DVD(邦画)] 6点(2016-08-01 09:04:31)(良:1票)
480.  戦後猟奇犯罪史 ネタバレ 
 若き日の泉ピン子の喋りが、とにかく過激で気風が良くて、圧倒される思い。  バラバラ事件の加害者を指して「学校の先生だったみたいだけど、工作の先生だったんじゃないか」暴行を受けて殺された七歳の女の子を指して「被害者は私と同い年だったから、犯人が私のところに来てくれれば玉蹴りをしてやったのに」などと言い出すのだから、恐れ入ります。   当時人気だったバラエティ番組が元ネタの映画であるそうですが、その悪趣味さに辟易すると同時に、どことなく(これを毎週観たくなる気持ちも分かる)と思えたりもしましたね。  文句を言いつつもTVを点けちゃう、嫌な話でも聞きたくなってしまうという、人間の好奇心を巧みに突いた番組だったのではないか、と推測する次第です。   肝心の映画本編なのですが、三つの事件を扱わっているにも拘わらず、その全てにおいて濡れ場が用意されているのだから、サービス豊かというか何というか、ちょっぴり呆れる思い。  最初の「西本明事件」では、犯人逮捕のキッカケが十歳の女の子の通報であった件など、オチもコメディタッチとなっており、この映画らしい題材であったのですが、残りの二つは、少々異質。   「風見のぼる事件」に関しては、当時まだモデルとなった犯人が有罪確定していなかった為か、尺も短く、中途半端な作りなのですよね。  不倫相手に刃物で襲われた末の正当防衛のようになっていたり、作中で犯人がファンに土下座するシーンを交えたりと、妙に同情的に描いているものだから、何だか観ていて醒めるものがありました。   そして「久保清一事件」は、作中の半分以上を占める長尺となっており、明らかにバランスが悪い。  ただ、それゆえに力が込められているのも事実で、これ一本だけでも映画として成立しそうなクオリティがありましたね。  とにかく犯人を演じた川谷拓三の存在感が凄くて、本当に(うへぇ、気持ち悪い……)と思わされるのだから、お見事です。   女性を絞殺した時の事を思い出して自慰に耽る姿なんて、良く引き受けたなと感心しちゃいましたし、逮捕後、面会に訪れた社会評論家に入れ知恵されて、自分の行いは横暴な国家権力との闘いだと言い出す件なんて、本当に憎たらしい。 「権力と闘うんだったら、どうして総理大臣を殺さなかった!」 「罪の無い娘さんを、何故殺した!」 「お前は単なる助平な強姦殺人犯じゃねぇか!」  と激昂する刑事の言葉も、至極もっともでしたね。  その後に犯人は、暴力を交えた尋問を受けたり、民衆に石を投げられて血まみれになったりもするのだけど、全く同情出来ませんでした。   かくして、すっかりシリアスな実録犯罪映画と化したところで、唐突に画面は「泉ピン子ショウ」へと切り替わり「強姦した奴はチン斬りの刑にしよう」と客席の笑いを取って終幕となる訳ですが、このギャップの激しさに関しては、評価の分かれそうなところ。  自分としては、なんだかんだで最後まで楽しめたりもしたのですが(眉をひそめる人も多そうだなぁ……)と、完全に他人事感覚で思えた映画でありました。
[DVD(邦画)] 6点(2016-07-31 13:14:45)
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