ゆきさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

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プロフィール
口コミ数 627
性別 男性
自己紹介  「監督の数ではなく、観客の数だけ映画が有る」という考えでアレコレ書いています。
 洋画に関しては、なるべく字幕版も吹き替え版も両方観た上で感想を書くというスタンスです。
 ネタバレが多い為、未見映画の情報集めには役立てないかも知れませんが……
 自分と好みが合う人がいたら、点数などを基準に映画選びの参考にしてもらえたら嬉しいです。

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501.  ちゃんと伝える ネタバレ 
 映画の最後にて表示されるメッセージから、本作が監督の実父に捧げられた品である事が分かります。   そういった経緯を踏まえて考えると、とても真面目に作られていた事には納得なのですが、園子温監督特有の力強い魅力が伝わって来なかったのは、何とも寂しいですね。  役者さんの演技に関しても、妙にわざとらしく感じられたりして、残念。   「余命幾ばくも無い父との別れを惜しんでいたら、実は自分の方が重度のガンであった」という設定は面白いのですが、今一つ効果的に作用していないようにも思えました。  結局、主人公の死までは描いていないし「ヒロインがプロポーズを受け入れてくれる事」くらいにしか影響が窺えません。  それにしたって、彼女に関しては「理想の恋人」以外の個性が窺えなかったりするものだから、短命なのを承知で結婚してくれても、それが当然の流れであるように思えてしまい、観ていて感情が揺さ振られないのです。   また、全体の流れを眺めてみても「父親の死と、約束の釣り」という泣かせ所の後に「主人公がガンである事を恋人に告白する」という泣かせ所が続いて、観ていて疲れてしまう形であり、しかも明らかに前者の方に比重を置いた構成だったりするものだから、どうにもチグハグな印象。   良かった部分としては、劇中の音楽が挙げられますね。  静かな旋律の中に、優しさを感じられます。  主人公の母を、いつも病院まで送り迎えする形となり、すっかり顔見知りになっていたバス運転手が、無人のバス停を見つめて、寂しそうにバスのドアを閉じるシーンなんかも印象的。   監督さんの力量は確かでしょうし「こういうタイプの映画も撮れるのか」と感心させられる気持ちはあったのですが、それが感動にまで繋がらなかった事が、寂しく思えてしまう一品でした。
[DVD(邦画)] 4点(2016-07-02 20:20:40)
502.  スタア ネタバレ 
 元々が舞台劇ゆえか、演出のテンポが非常に良いですね。  物語の殆どが、マンションの一室の中で進行するという作りも好み。   ただし、筒井康隆が原作の為か、強烈な毒を孕んだ作品でもあり「赤ん坊を殺して調理し、客に食べさせる」という展開には、流石に気分が悪くなりました。  勿論、画面には血の一滴どころか、その赤ん坊の顔すらも映らないように配慮されているのですが、泣き声を聞かされただけでも、文字媒体より遥かに生々しく感じられたのですよね。  他にも複数の殺人が発生し、それらに対しては「実は生きていた」オチが付いたりするのに「赤ん坊は、本当に殺されて食べられていた」という徹底振りなのだから、もはや呆れ半分、感心半分といった気持ち。   中盤にて主人公が叫ぶ「芸能人とはかくあるべき論」に関しては、正に熱演と呼ぶに相応しく、一見の価値があるかと思います  「芸能人は、悪い事だってしなきゃいけないんだ」 「後ろ暗い体験が、芸のプラスになっている事だって多いんだ」 「面白くも可笑しくもない清廉潔白な人間が、ドラマを演じたり、失恋の悲しみや庶民の苦しみを謳った歌謡曲を唄えるものじゃないんだ」 「私生児を産んだって良いんだ」 「人を絞め殺したって良いんだ」 「芸の為なんだ」   主張の正しさはともかくとしても、非常に印象深い場面でした。  けれど、その辺りから徐々に暗雲が立ち込め始めたというか、SF的な要素が色濃くなって「何でもあり」な空気になってしまった事は、とても残念。  一応は主人公夫妻の殺人行為をメインに据えており、終盤にて彼らが逮捕されそうになる流れなのに、そこで「空間のひずみ」がどうの「冷蔵庫の中が北極になっている」だのと、新たな要素を付け足されても、話の展開を阻害しているようにしか思えなかったのですよね。   ラストにおける「後藤さんの来訪」も、不条理劇の代名詞である「ゴドーを待ちながら」のパロディであるのは分かるのですが(だから何? 来ないはずのゴドーが来ちゃうのが一番の不条理って事?)と、ひたすら疑問符が浮かぶばかり。   とはいえ、出演者は非常に豪華であり、次々に登場する有名人の顔を眺めるだけでも、それなりに楽しめたりするのだから、全く以て困り物です。  筒井康隆自身も「犬神博士」なるマッドサイエンティストを、楽し気に演じており、彼の小説のファンとしては、それだけでも「素敵な映画」と呼びたくなってしまう。  何とも評価の難しい、さながら「好き」と「嫌い」の境界さえをも捻じ曲げてしまうような、独特な一品でした。
[DVD(邦画)] 5点(2016-07-02 05:53:45)
503.  うた魂♪ ネタバレ 
 「歌っている時の自分が好き」だったナルシストな主人公が「歌う事が好き」になるまでを描いた一品。   恋の妄想に耽り、興奮で鼻血を出してしまう女子高生という、ベタベタな演出を受け入れられるかどうかで、評価も変わってきそうですね。  コメディ映画というジャンルとも少し違っていて、コント映画という印象を受けました。  ゴリや間寛平といった面子が出演している事も、そんな雰囲気を濃くする効果があったように思えます。  そして、この二人がまた良い役どころを演じていたりするのだから、心憎い。   「必死になっている顔に疑問を持つような奴は、一生ダセェまんまだ」  という一言は、特に素晴らしくて、本作最大の名台詞でしょうね。  自らの歌う時の顔が、まるで鮭みたいだと悩む女子高生の孫娘に対し 「大きな口を開けて笑ったり、歌を唄ったりしている時の顔が、一番じゃ」  と話して、悩みを吹き飛ばしてくれる爺ちゃんも、これまた最高。   そんな具合に本作を「コント映画」として楽しんでいた自分としては、尾崎豊リスペクトである湯の川学院の合唱部を応援してしまう気持ちがあり、オオトリを飾るのが主人公達となる事を、残念に思っていたりもしたのですよね。  でも、クライマックスの「あなたに」を聴いた瞬間に、不満も吹き飛んじゃいました。   客席の皆も次々に立ち上がって歌い出す演出は、凄まじくベタで、観ていて恥ずかしいような気持ちになってくる。  それでも、そんなベタな王道演出を、しっかり正面から描いてみせたという作り手の熱意、勇気も伝わってきたりするものだから、自然に感動へと繋がってくれました。   あえて欠点を挙げるとすれば、ストーリーが王道の「部活もの」といった感じで、合唱を題材に選んでいるのに、特に目新しさは感じられない事。  主人公が恋している生徒会長の男子に、魅力というか、恋するに足る説得力を感じられなかった事。  そして、女性ディレクターに、生徒会副会長である恋敵の少女など、今一つ存在意義の薄い人物がいたりする事でしょうか。  全体的に、完成度が高いとは言い難いのですが、皆が楽しそうに合唱する姿を見れば、細かい点は気にならなくなりますね。   「必死になるのは、恥ずかしい事かも知れない」「でも、必死になる姿は間違いなく美しい」というメッセージが込められた、良い映画でした。
[DVD(邦画)] 7点(2016-07-01 05:46:05)(良:2票)
504.  アフロ田中 ネタバレ 
 原作漫画は未読なのですが、何十巻も刊行済みの御話を 「高校を中退してしまった」 「友人の結婚式に出席しなければいけない」  という二つの事柄を主軸に据えて、上手くまとめているように思えました。   一見するとメインテーマのように描かれている「彼女を作る」という行為は「結婚式に彼女を同伴すると約束したから」という理由での、オマケに過ぎない形ですよね。  それゆえに、ラストにて主人公が振られる事となっても、全くバッドエンドの香りがしない。  むしろ、その「本当は彼女なんて必要ない」という図式を活かして、明るいハッピーエンドに繋げてみせているのだから、脚本の巧みさが窺えます。   でも、振られる件に関しては、少し引っ張り過ぎたようにも思えましたね。  友人達との関係性を考えれば「他の皆は振られたのに、主人公だけが彼女と結ばれて終わり」なんて事は有り得ないはずなので、勿体ぶった告白シーンの演出には「いや、もう結果は分かっているよ」と、醒めた目線になってしまいました。   ただでさえ、その直前の結婚式にて、同じようなブラフの演出を、たっぷり時間を掛けて行われたばかりでしたからね。  二連続でやられてしまうと、流石に食傷気味。  こういうのは一度くらいに留めておいた方が「結果は分かっていても、やっぱり嬉しい予定調和」として、楽しめるんじゃないかなと思いました。  特に、この映画の場合はスピーチの場面が「ダメかと思ったら結果オーライだった」であり、告白シーンが「イケるかと思ったらダメだった」という順番なので、余計に辛い。   上述の不満点を考慮した上で判断するに、この映画のクライマックスは「主人公と男友達との絆が回復した瞬間」にあるのではないかな、と思う次第です。  それまで高校を中退した事に対し、後悔の念らしきものを窺わせなかった主人公が、初めて「高校卒業していれば良かった」という想いを口にする。  その理由が、学歴がどうこうといった話ではなく「そうすれば、卒業まで皆と一緒にいられたから」という辺りは、本当に良かったですね。  それまでの劇中にて、常に主人公の心情をモノローグで語る演出を取っていただけに、この「告白」には(そんな風に考えていたのか!)という意外性もあったりして、不意を突かれた形。  スピーチの場面では感動的な演出にするのだろうなと察して、ちゃんと身構えていたはずなのに、その予測を上回る感動を与えてもらいました。   劇中でアフロを貫く理由が今一つ分からないとか、友達と険悪になる流れが不自然だとか、気になる箇所は色々あったりもするのですが、楽しめる場面の方が多かったですね。  特に「女の子に送るメールの文面で悩む件」には、とても共感させられましたし「無断欠勤を社長に謝る件」なんかも、観ていて緊張感を抱かされ、社長が鷹揚な対応をしてくれた時には、心底からホッとさせられました。   基本的に作中人物が善人ばかりで、優しい世界を形成しているから、観ていて心地良い。  「失恋の傷なんて、友達同士で集まって騒げば、笑い話に過ぎなくなる」というメッセージが感じられるエンディングも、とても好みでした。
[DVD(邦画)] 6点(2016-06-30 08:22:19)(良:2票)
505.  あげまん ネタバレ 
 伊丹監督は作中にて、自らの妻である宮本信子を「良い女だ」「美人だ」と褒めさせる事が多いのですが、本作は「妻を賛美する為に撮った」という側面が、最も強い映画なのではないでしょうか。  「やりたい事、全部やってごらんなさいよ」  「ダメだって、良いじゃないの」「一文無しになったって良いじゃないの」 「貴方くらい、私が養ってあげるわよ」   これらの台詞って、きっと監督が奥さんに言ってもらいたかった事、あるいは実際に言われたり感じ取ったりしたメッセージなんじゃないかと思えて、微笑ましかったですね。  「人間にとって、人間を自由にするくらい面白い事はない」   という台詞もまた、映画監督である自らの価値観を示した一言だったのかと思えたりして、興味深い。   映画全体としては、主人公が売春したと誤解されてしまう件と、次期首相候補の政治家と対決する件、二つのクライマックスが終盤に立て続けに起きる形になっている辺りが、やや忙しない印象を受けましたね。  全編に亘って「伊丹節」とも呼べそうな、独特の楽しい雰囲気が漂っているのは間違いないのですが、肝心の山場に差し掛かっても、どうにも気持ちが盛り上がらない。  主役の男女二組が復縁するハッピーエンドに関しても、ちょっとオチが弱かったみたいで (えっ、これで終わり?)  と拍子抜けしてしまったのが残念です。   それでも、タイトルとなっている「あげまん」の説得力というか (こんな女性が傍にいてくれたら、自分も色々と成功出来るんじゃないかな……)  と感じさせるだけの魅力を、主人公がしっかり備えている辺りは、お見事でしたね。   個人的好みとしては、序盤における「恋人探しの香港&ヨーロッパ旅行」の件が、妙に楽しそうに思えたもので、そちらを主題とした映画も観てみたかったところです。
[DVD(邦画)] 5点(2016-06-30 04:27:38)
506.  もう頬づえはつかない ネタバレ 
 桃井かおりの存在感が素晴らしいですね。  あの喋り方、表情。気怠さの中に垣間見せる女の弱さ、強かさ。  考えてみれば、彼女が主演の映画は初体験のはずなのですが、観ていて全く違和感を抱かない。  彼女が主人公なのは当たり前、画面の中央に映っているのは当たり前、と思わせるような魅力がありました。   そんな彼女を観賞する為のアイドル映画とすら言えそうな一作なのですが、舞台設定なども中々に興味深く、画面に映る街並みを見ているだけでも物珍しくて、楽しかったですね。  七十年代後半の日本といえば、自分は生まれてもいない、近くて遠い世界。  学生運動も下火となり、若者達が「権力に反抗しても何も変える事など出来ない」という、無力感に包まれていたと思しき世代。  そこで暮らしている人々の姿が、時代を越えて自らの青春時代と重なる瞬間もあり、何とも言えず切ない気持ちに包まれました。   そんな普遍性を生み出している理由は、やはり丁寧な人物描写にあるのでしょうね。  同棲している男と女とが、狭いアパートの中で 「ちゃんと自分の歯ブラシを使って欲しい」 「口を濯いだ水を、食器を洗っている隣で吐き出さないで欲しい」  などと言い争ったりしている。  現代の目線からすれば、ベタで退屈とも受け取れる日常の一コマから、不思議な説得力を感じる事が出来ました。  主人公の女性がメロンを食べる姿を、如何にもエロティックに撮ってみせる辺りなど「あぁ、当時は目新しい表現だったのかもなぁ……」と、気持ちが醒めてしまう瞬間もありましたが、総じて新鮮に感じる場面の方が多かったですね。   「主人公に素っ気ないが、魅力的な男である恒雄」「主人公に馴れ馴れしくて、ダメ男な橋本」という構図であったのに、それが逆転していく辺りなんかも面白い。  特に前者の存在感は強烈で、終盤にて妊娠を告げる主人公に対し「堕ろしてくれ」と答える辺りなんかは(うわぁ、最低だ……)と心底から嫌悪。  対する後者に関しては、段々と真面目で優しい人柄が明らかになっていき、ちゃんと彼女と結婚して責任を取るつもりだったと判明した瞬間には(良い奴じゃん!)と、胸中で叫ぶ事になりました。   けれど、悲しいかな、主人公の女性は恒雄を愛しており、橋本には愛情に似た何かしか抱いていないのです。  だから橋本と同棲していながら、平気で恒雄と浮気してしまう。  橋本に結婚を仄めかされた事で、初めて「愛していない存在から愛される疎ましさ」を理解する。  こういった場合、自分は主人公の女性に嫌悪感を抱く事が多いのですが、何故か本作は、そんな彼女の気持ちが理解出来たというか、同情すらしてしまったのですよね。   中でも「私は、ただ男を待っているだけの女じゃないからね」という台詞が、実に物悲しい。  それは結果的に「置いてけぼりにされても、本心では待っていた」事を告白してしまっているというか「愛されていないと薄々感じながら、愛する男に対して強がってみせている」心情が伝わって来るかのようで、本当にやるせない思いがしました。  この世には「痛いほど気持ちが分かる」と思わせる女優さんが、確かに存在するのだと、強く実感させられましたね。   そんな行き詰った暮らしの中で、堕胎の悲しみを乗り越えた彼女が、二人の男と決別し、自立する事を示して終わるエンディングは、非常に爽やか。  荷造りの最中に転んでしまっても、すぐに笑顔になって立ち上がってみせる辺りに、女性の力強さを感じられました。   ただ、自分としては(主人公にとってはハッピーエンドかも知れないけど、振られちゃった橋本君が可哀想だよなぁ……)と思えてしまい、そこだけが残念。  彼女は彼を愛していないのだから、仕方ない事かも知れないけど、出来る事ならば、彼女が彼を愛するようになり、結ばれて幸せになる結末なんかも見てみたかったものです。
[DVD(邦画)] 7点(2016-06-29 12:31:03)
507.  渚のシンドバッド ネタバレ 
 これほど赤裸々に同性愛を描いた内容だったのか、と吃驚。  それなりに耐性は出来ているというか、同性愛者が主人公の映画でも意外と楽しめてきた経験があるはずなのですが、本作に関しては生々し過ぎて、ちょっとキツいものがありましたね。   (邦画なので、洋画よりも身近で現実的に感じられて、物語として割り切れないのかも……)と途中までは思っていたのですが、終盤にて(いや、やはりコレは、この映画が特別なんだ)と確信。  何せクライマックスとなる浜辺のシーンが「男を愛せない男を徹底的に詰る」という内容だったりしますからね。  男を愛してしまう男が詰られるシーンなら何度も観てきましたが、その逆というのは珍しいし、何よりこの件だけで二十分近くも尺を取っていたりするものだから、もうお腹一杯。  長回し演出ならではの緊張感も相まってか、ラスト十分くらいは神経が擦り減ってしまい、観ているのが辛かったです。   終わり方に関しても、不思議な爽やかさがあり、好みな演出のはずだったのですが(でも、結局は明確な答えを出していないよなぁ……)という考えも頭をチラついてしまい、残念。  好意的に解釈すれば、観客に自由な解釈の余地を与えてくれる結末。  意地悪を言うならば、答えを出す事から逃げてしまった結末であるようにも思えました。   作中で最も印象的だったのは「優しいフリ」という言葉。  主人公が「自分は同性愛者である事」「キミを好きだという事」を親友の吉田君に告白した際に、彼は優しく受け入れてあげようとするのですが、抱き付いてキスされたりすると、最終的には主人公を拒否してしまうのです。 「本当に優しいなら、ちゃんと告白を断るべきだった」 「相手は親友だから傷付けたくない、などと遠慮するべきではなかった」  等々、色んなメッセージが込められているように感じられて、非常に興味深かったですね。   吉田君は、それまで基本的に「良い奴」として描かれていただけに、終盤にて本性が明かされるというか、その優しさが「フリ」でしかなかった事を暴かれてしまう流れが秀逸。  主人公の前では色々気遣っていても、当人のいないところで何気なく「あいつは変態」と言い放ってしまうシーンなんかは、特に衝撃的でしたね。  結局のところ「自分は同性愛者を差別するような人間ではない」と相手にアピールして、曖昧な反応をするだけでは、本質的に優しい人間とは言えないのかも知れない……と、身につまされるものがありました。   自分に告白してきた吉田君を無下に扱うヒロインに「私が女だから好きになっただけ」「ヤリたいだけなんだよ」と言わせた辺りは、本当に思い切ったなぁ、と感心。  ただ、これに関しては、ともすれば「同性愛者=肉欲に囚われない精神的な愛を求める人」という極端な美化に繋がってしまうというか、さながら「男を愛せない男は酷い奴だ」と言われているかのようで、やはり抵抗がありましたね。  そりゃあ同性愛を否定するのは間違っているけど、だからって異性愛を否定するかのようなメッセージを込めるのは、ちょっと違うんじゃないかなと。  他にも作中のアチコチにて、女性蔑視というか「男に比べて女は醜い」と訴えているかのような表現が目立ったのも気になりました。   主役の三人に負けず劣らず、脇役も個性が光っていたのは、青春群像劇といった趣があり、嬉しかったですね。  落ち込んでいる女子生徒を元気付ける為に、男子生徒が宙返りを披露するシーンなんかは、特に素敵。  後者の男子に関しては、第四の主人公とも言えそうなくらいにスポットが当たっており、作中で最も共感出来た人物かも知れません。  些細な誤解から、友達の自転車を川に沈めてしまうという間違いを起こした後、思い直して自転車を川から拾い上げる姿なども、何だか憎めない。   そんな具合に、好きなシーンと、嫌いなシーンとが綯交ぜになっており、非常に判断の難しい一品。  正直「良い映画だった」とは思えなかったのですが……  観ていて圧倒されるような、力強い映画であったのは間違いないと思います。
[DVD(邦画)] 6点(2016-06-28 10:46:35)(良:1票)
508.  漂流教室 ネタバレ 
 監督は大林宣彦、主演は林泰文。  この組み合わせには「青春デンデケデケデケ」という傑作があった為、期待して観賞する事となった本作。   スケールの大きい原作漫画を、よくぞ二時間以内に纏めてみせた……と言いたいところなのですが、この映画に関しては、さながら短編漫画を無理矢理引き延ばして作ったかのような印象を受けてしまいましたね。  タイムスリップする場面など、やたらと冗長に感じられるし、主人公達が「探検隊」を結成して外界に足を運ぶ件も、あまり必要とは思えません。  その一方で、原作における「醜い大人代表の関谷との対決」「時空を越えて母から子の手に渡される武器」などを再現したシーンは、あっさりと簡略化されていたりするのだから困り物。   監督さんが監督さんなので、青春映画としての側面が強くなるのは分かるのですが、主人公とヒロインの恋愛模様に関しても、あまり好感は持てず、残念でした。  二人の距離が縮まるキッカケの場面については「飲料用に支給された水を、下着の洗濯に使っていただけ」だとは思うのですが、ここって「皆のリーダーであるはずの主人公が、水を無断で持ち出しているヒロインを目撃するも、それを二人の秘密として見逃してあげる」というトンデモない場面にも解釈出来てしまうのですよね。  「誰にも喋らないで」「水は大切だもんね」という両者の台詞も紛らわしかったし、ヒロインに「水泥棒」というイメージを与えてしまいそうな演出は、避けた方が良かったのではないかな、と。  シャワーシーンや、砂漠に降る雨など、色々な場面にて「水」を象徴的に描きたかったのかも知れませんが、少し配慮が足りないようにも感じられました。   主人公がリーダーとして不適当な人物ではないか、と思えてしまうのは、恐らく意図的な演出なのでしょうね。  終盤にて、それが理由で主人公は悩み、ヒロインに慰められる展開になるのだし、マークという生徒から力量を批判され、リーダーの座を賭けて決闘を申し込まれたりもしている訳ですから。  けれど、その場合「じゃあ、どうして中盤にてアッサリと皆のリーダーに選ばれたの?」という根本的な疑問が浮かんでくるのだから、やはり失敗であったように思えます。   一応、長所と呼べそうな部分も幾つかあって「キミの涙は、どんな水よりも綺麗だ」などの台詞は、中々ロマンティックで良かったですね。  映画冒頭の、自転車で登校するシーンなんかも、オシャレな魅力がありました。  ピアノがキーアイテムとして描かれている事もあってか、劇中曲のクオリティが高いのも嬉しい。  「砂の女」を連想させる砂まみれな教室風景や、砂のシャワーを浴びる少女の姿なども、幻想的な雰囲気があったかと。  舞台をインターナショナル・スクールにした理由も「未来に撒かれた種子」が全員日本人なのは不自然という考えゆえなのだろうなと、納得は出来ます。  ラストに関しては、ちょっと観ていて恥ずかしくなるような青臭さもあるけれど、絶望的な世界を前向きに生きていくという、ハッピーエンド風に仕上げてもらえたのは好み。   手放しで褒める事は出来ないけど「良い映画」「観客に感動を与える映画」を目指して、真面目に作られたのだろうな、という事は伝わってきました。
[ビデオ(邦画)] 4点(2016-06-27 22:06:34)
509.  ワイルド・ワイルド・ウエスト ネタバレ 
 スチームパンクな世界観は好みだし、真面目に作った馬鹿映画という雰囲気も決して嫌いではないのですが、今一つノリ切れず。   背景の書き割りが物凄くわざとらしい辺りなんかは、恐らく意図的な演出なのでしょうけど(普通に撮って欲しかったなぁ……)と、つい思ってしまいましたね。  女装ネタが二回続くのも食傷気味でしたし、黒人差別問題やら虐殺やらの陰鬱なネタと陽気な作風とのギャップも気になります。  何よりの問題は、折角ケネス・ブラナーが印象的なラスボスを演じてくれていたのに、彼を倒すシーンが呆気無さ過ぎた点でしょうか。  そういった基礎的な部分をキチッと仕上げてこそ、ふざけた部分の魅力も引き立つと思っているので、クライマックスの消化不良感は、実に残念。   けれど、本作独自の魅力も幾つかあって、どうにも憎めない映画でもあるのですよね。  特に巨大な蜘蛛型ロボットのインパクトは凄まじく、西部劇風の荒野を雄大な機械が闊歩していく様は、実に素晴らしい。  自動追跡首切りマシーンの原理が「磁石」という馬鹿々々しさも良かったし、それらを倒す方法が「二つを衝突させて自爆させる事」という辺りにも、王道な面白さを感じられます。  主人公コンビが二人揃ってヒロインに振られてしまい、憮然とした表情のまま、シンクロした動作で帽子を被ってみせる場面なんかも良かったですね。  紆余曲折はあったけれど、最後の最後で二人は息の合ったパートナー同士になれたのだな、という事が伝わって来て、ほのぼのとさせられました。
[DVD(吹替)] 5点(2016-06-24 22:29:46)
510.  バレット(2012) ネタバレ 
 「女子供は殺さない」「義理人情に篤い殺し屋」というキャラクターを主人公に据える前時代的な潔さが、もう天晴。  とにかく勧善懲悪が徹底していて、敵を次々に殺しまくり「死んでも誰も悲しまない悪党が死んだだけ」と堂々と語ってみせるのだから、これは凄い事です。  上記の台詞に関しては、正直ちょっと引いてしまったりもしたのですが(きっと、この映画の世界では本当にそうなんだろうな……)と、納得させられる力強さがありましたね。  往年の名匠ウォルター・ヒルだからこそ、出来た事なのかも知れません。   そして、とっくに承知の上なはずだったのですが、それでもシルヴェスター・スタローンの風格と肉体美には、改めて惚れ惚れ。  主演俳優を格好良く撮るという意味合いにおいては、文句無しで合格だったかと思う次第です。   その一方で残念なのは、スタローンにばかり比重が偏り過ぎて、相棒となる刑事の影が薄く、バディムービーとしての魅力には欠けるように思えてしまった点でしょうか。  何せ一番印象に残る活躍が、携帯電話で警察のデータベースから情報収集するという、刑事なら誰でも出来そうな事だったりするのだから、何とも寂しい限り。  ラスボスとなる殺し屋を撃ってスタローンを救ってみせる場面も、あるにはあるのですが、正直そこに関しては「元相棒の形見であるナイフを首に突き刺す」という形で、復讐のカタルシスと共に終わらせておいた方が良かったんじゃないか、と思えてしまいました。   途中、クリスチャン・スレーターがアッサリ殺される展開に関しても(まぁ、スレーターだしなぁ……)と、彼を好きなはずの自分ですら納得してしまうような予定調和の中にあるのに、相棒の刑事は心底から吃驚して「何故殺した?」と動揺していたりするものだから、ちょっと感情移入出来なかったです。   そんな本作の価値を大いに高めているのは、斧を武器とした武骨なラストバトルでしょうね。  相手役となるジェイソン・モモアも雰囲気たっぷりで、非常に重量感のあるアクションとなっています。  ぶつかり合う斧の刃先からではなく、互いの筋肉から火花が飛び散っているかのような迫力には、大いに興奮させられました。   スタローンが相棒の肩を撃って、彼の無実を証明してみせた後に、悠然と立ち去っていく後姿なんかも、これまた素敵。  色々細かな不満はあったりしても、その格好良過ぎる背中を見つめるだけで、もう満足させられちゃうのですよね。  何とも罪作りな背中でありました。
[DVD(吹替)] 6点(2016-06-24 07:31:06)
511.  ヤング≒アダルト ネタバレ 
 序盤にて(うわぁ、嫌な女だなぁ……)とゲンナリ。  中盤辺りで(あぁ、でも結構可哀想だな。彼女なりに幸せになろうと頑張っているんだな)と同情。  そして終盤にて頭を抱え込まされるという、良くも悪くも、観賞中ずっと主人公に釘付けになってしまった映画ですね。   基本的には暗い作風なのですが、何処か軽快でオシャレな匂いも感じさせる辺りは、この監督さんの持ち味なのだと思います。  過去作の「JUNO/ジュノ」に比べると、どうにも主人公の成長を感じられない内容だったりするので、それが意図的なのかどうかも気になるところ。   印象的な場面は幾つもあるのですが、特に「離婚した旦那との写真が、実家に今でも飾られている」件なんかは、本当に上手いなと感心させられましたね。  その一事だけでも、主人公が実家に帰るのを忌避する理由が把握出来たし「失敗した結婚なんだから、何時までも飾っておくのは止めて」と訴える気持ちも分かります。  帰省する車内にて、楽しそうに聴いていた「元カレとの思い出の曲」を、彼の奥さんが歌ってみせるのを目の当たりにして、呆然とするシーンなんかも良い。  それらの積み重ねがあるからこそ、主人公が単なる「嫌な女」で終わらずに、感情移入出来る存在となっているし、無茶苦茶な行動を取っても、何処か納得させられる説得力があるのですよね。  主人公が元カレの家に乗り込んで、二人で駆け落ちしようと迫るも、当然のように断られてしまう件なんかは、本当に痛々しくて目を背けたくなりましたが、彼女が何故そんな行動を取るのか理解出来ないという事は無く、混乱せずに見守る事が出来るのだから、凄い脚本なのだと思います。   ただ、彼女の最大のトラウマが「流産した事」というのは、少々安易に思えてしまって残念。  それほど独創的なネタでもないでしょうし、それなら終盤にて、さも驚きの真実のように告白させる形ではなく、もっと前の段階で分からせていても良かったんじゃないかな、と感じられました。   元カレに固執する理由が「一番良い時の私を知っているから」というのは、過去に囚われた彼女を表す台詞として、非常に良かったと思いますね。  その後、友人の妹から「この町は最低。都会で暮らす貴方が羨ましい」と言われて元気を取り戻す事になるのですが、正直そこに関しては、どうしても賛同する気持ちになれず、カタルシスを得られませんでした。   「相手の男を放ったらかしにして、一人だけベッドから抜け出す彼女」というシーンを、序盤と終盤とに挟む事によって、彼女が成長していない事を描いてみせる表現技法などには感心させられるのですが、それが感動にまでは結び付かない。  事故で傷ついた車のまま走り出すラストシーンなんかも「傷付きながらも生きていく女性の力強さ」を象徴しているようで、爽快ではあるのですが(結局、彼女って他人を思いやる優しさを持たないまま終わっているよなぁ……)と、ついつい考えてしまいます。  最後の最後で主人公を救う解決法が「他者を否定する事によって自己を肯定する」という形であった以上、どうしても後味が悪かったですね。   丁寧に作られた、クオリティの高い品である事は、疑う余地が無いと思います。  だからこそ、ラストシーンの主人公に共感出来ない事が、勿体無く感じられる映画でした。
[DVD(吹替)] 4点(2016-06-23 15:45:08)(良:1票)
512.  ものすごくうるさくて、ありえないほど近い ネタバレ 
 愛する肉親の死と向き合って、それを乗り越えていくまでを描いた成長譚。   主人公の少年にアスペルガー症候群の兆候があると判明した瞬間、それまでの彼の言動に納得させられた一方で(じゃあ母親が放任主義を取っているのは不自然じゃないか?)との疑念が湧いていたのですが、それを終盤にて吹き飛ばしてくれる脚本が見事でしたね。  「あのビルにいたのが、ママなら良かった」などの痛烈な台詞が盛り込まれていただけに、最後は母子が和解出来た事に、心底から安堵させられました。   ナイーブな少年を主役とした映画という事で、何処か既視感のある作風だなと思っていたのですが「リトル・ダンサー」と同じ監督さんだと知って納得。  エキセントリックな表現が散見される中、作品全体に不思議な上品さが漂っている辺りなんかも共通していましたね。   上述のように「本当は息子を見放していた訳ではなく、ずっと見守っていたのだ」と分かる母親の件は、凄く良かったのですが、その分、途中で離脱する形となった祖父の扱いには不満も残ります。  また、ラストシーンに関しても、主人公がブランコから飛ぶ姿で終わるのかと思いきや、父親に言われた通りに「ジャンプはしない」形で終わった点に関しても、どこか興醒めするものがありましたね。 (子役に実際に飛ばせたりしたら危ないので、作中で父親に「飛ぶ必要は無い」と言わせたのではないか?)  なんていう疑念が頭に浮かんで来てしまい、最後の最後で現実に引き戻されてしまった形。  勿論、観客である自分の疑い深さが悪いだけなのですが「飛ばなくていい理由」が「危険だから」というのは、如何にも寂しいのですよね。  それならば父親が飛んでみせる必要は無かったと思うし「飛んだ瞬間、鳥になった気がした」という台詞も不要。  飛ばずにブランコを漕ぐだけで父親と同じ気分を味わうというエンディングは、中途半端に思えてしまいます。  主人公がブランコに乗った時点で終わらせるなり、揺れるブランコの音と着地の音だけで飛んでみせた事を表現するなりしてもらった方が、好みだったかも。   作中で嘘をつく度に回数を数えてみせたり、父親の死を太陽の消失に喩えてみせたりする主人公の姿は、とても良かったですね。  純真で、それゆえに何処か大袈裟で、他者に理解される事を無意識に拒んでみせているかのような、少年らしい魅力が感じられました。  世の中には、主演の少女を観賞して愛でる為の映画も存在しますが、それと同じような楽しみ方も出来る映画かと思う次第です。
[DVD(吹替)] 6点(2016-06-23 12:10:41)(良:1票)
513.  シャークネード<TVM> ネタバレ 
 「サメ映画」というジャンルは、非常に当たり外れが大きいです。  もしかしたら当たりよりも外れの方が多いのでは……と考えてしまう事も屡々。   それだけに、本作のような掘り出し物に出会えた時は、その喜びも一入ですね。  無数のサメが竜巻によって空に舞い上げられ、それが浸水状態の市街地に降り注いでくる。  そのアイディアだけでも拍手喝采なのですが、本作が面白い要因としては、きちんとパニック映画としての基本を押さえた筋運びになっている事が大きいのだと思います。   「アイディアと勢いさえあれば、面白い映画は撮れる!」という考えも間違いではないでしょうけれど、やはり基本は大事。  まず、この作品においては「誰が死ぬのか分からない」というドキドキ感の煽り方が、とても巧みなのですよね。  冒頭にて、主要人物っぽく登場した船上の二人が、すぐに殺されてしまう辺りは少々やり過ぎ感もありましたが、それが結果的に上手く作用しており、後に登場する人物達の生存予測を、適度に困難にしてくれています。   そして、もう一つ大事なのが「観客が納得するような人物を生き残らせる」という点。  上述の「誰が死ぬのか分からない」展開と相反してしまう、この条件。  生き残りそうな人物でも死ぬからこそ油断ならない面白さに繋がる一方で、やはり観賞後の爽快感を考えると、生き残って欲しいと思わされた人物が死んでしまうのは、納得出来ないものがありますからね。  大抵のサメ映画は、この矛盾を解消する為に四苦八苦している印象がありますが、本作においては、そのバランス感覚が絶妙。  ラストには反則的な「実は生きていた」展開も駆使して、観客の後味を良くしてくれるのだから、嬉しい限りです。   サメが泳いでいる「道路」の上を、車で走って避難するという絵面だけでも面白いし、血生臭いシーンは控えめになっている辺りも好み。  主人公のフィンは「困っている人を放っておけない」という、典型的なタイプではあるのですが、決してテンプレをなぞるだけで終わっていない点も、良かったと思います。  その性格ゆえに 「私達家族よりも、他人の方が大事なの?」  と妻に責められて、家族関係が不和となっている設定など、きちんと個性が確立されているのですよね。  他人よりも家族を優先して守ろうとする事だって、決して間違いではない。  それでも主人公は、孤立したスクールバスを見かければ、避難する足を止めて、子供達を助け出そうとする。  あまりの「良い奴」っぷりに、惚れ惚れさせられます。   中盤から終盤にかけて、やや間延びしてしまった印象があるのは残念でしたが、その代わりのように「チェーンソーを携えてサメの口の中に飛び込む主人公」なんていう、トンデモないクライマックスを用意してくれているのだから、もう大満足。  愛すべき映画でありました。
[DVD(吹替)] 7点(2016-06-22 11:16:24)(良:4票)
514.  ホーボー・ウィズ・ショットガン ネタバレ 
 ショットガンという武器は好きです。  映画に登場するありとあらゆる武器の中で、どれか一種類を選べと言われたら、数多の非現実的な武器を押し退けて、ショットガンを選んでしまいそうなくらいに好き。   そんな魅惑の武器を引っ提げて、ルトガー・ハウアーが大暴れしてくれるというだけでも満足させられる一品ですね。  主人公が芝刈り機という心の癒しではなく、ショットガンという武器を選んだ気持ちも、実に良く分かる。  やたらと血飛沫が飛び散ったり、敵が本当に胸糞悪い悪党だったり、ラストが尻切れ蜻蛉に思えたりする辺りは、如何にもグラインドハウス的なノリで、少々苦手だったりもしたのですが、そんな不快感も吹き飛ばす程の勢いがありました。   冒頭、穏やかで牧歌的な風景と音楽から始まって、主人公が無法都市へと迷い込み、残虐な私刑現場を目にするという流れの早さ、急転直下っぷりには呆気に取られましたが、どこかそれが突き抜けていて、気持ち良いんですよね。  プラスの感情とマイナスの感情、両方を刺激してくれる作風なのですが、ギリギリで前者の方が上回っているというバランス。   例えば、中盤にて悪役がスクールバスをジャックし、火炎放射器で子供達を焼き殺す場面なんかは、この映画にしては珍しく直接的な殺害シーンを描いていない。  それが中途半端で格好悪いというか(何だよ、結局子供には遠慮するのかよ)という白けた想いに繋がる面も、あるにはあるのですが、やっぱり観客を心底から不快にさせない為には、そうするのが正解だったのだろうと思えます。  何にも考えずに好き勝手に撮ったように見えても、そういった見極めというか、匙加減が、きちんと出来ている印象ですね。   終盤にてヒロインが行う 「浮浪者はホームレスでは無い。ストリートをホームとしているのだから、彼らにはホームを掃除する権利がある」  という演説も、妙に説得力が感じられたりして、印象深い。   穿った見方をすれば、銃による自衛を積極的に肯定している、如何にも米国的な作品だと定義付ける事も、可能だとは思います。  でも、それよりは単なる娯楽作品として観賞し、素直に楽しんだ方が、ずっとお得だと思えるような映画でありました。
[DVD(吹替)] 6点(2016-06-22 07:35:14)
515.  フォーエヴァー・ヤング/時を越えた告白 ネタバレ 
 あらすじは承知の上で観賞したのですが、冷凍保存されるまでに二十分以上も掛かる構成には驚かされました。   主人公が軍人という事も相まって、どうしても「フィラデルフィア・エクスペリメント」を連想する内容となっているのですが、あちらの品とは異なり、元の世界で一緒だった女性への一途な純愛モノとして仕上げた事に、独自の魅力を感じられましたね。  途中、現代で出会った女性も交えた三角関係に発展する事を匂わせるミスリードもあったりしただけに、主人公が初志貫徹してくれたのが嬉しかったです。   ラストシーンまで辿り着けば、上述の「元いた世界」の尺が長い事にも納得がいくのですが、それでも「序盤と最後だけ別の映画みたい」という印象も拭えなかったりして、そこは少し残念。   その分、過去からやってきた主人公と、現代で出会った少年との交流部分に関しては、凄く良かったと思います。  ツリーハウスに主人公を匿ってくれて、食べ物や飲み物なんかを届けてくれる辺りも、幼少時の「秘密基地」感覚を刺激してくれて楽しかったし、幼くして父と別れた少年との間に、疑似的な親子のような絆が育まれていく様が、とても微笑ましかったのですよね。  好きな女の子に対してどう接するべきかと恋愛相談してくれる辺りも可愛かったし、何と言っても一緒に「飛行機の操縦ごっこ」をしてみせる場面が最高。  それが終盤の「実際に二人で飛行機に乗ってみせる」展開に繋がる流れには、そう来たかぁ……と感心させられました。   ラストシーンにて、愛する女性と再会して抱き合うだけで終わりではなく、駆け寄って来た少年を彼女に紹介してみせる姿も描かれていましたが、どんな風に話してみせたのかが気になるところです。
[DVD(吹替)] 6点(2016-06-22 03:32:28)(良:2票)
516.  ハンター(1980) ネタバレ 
 始まって十数分、粉塗れになる乱闘シーンで「あれ?」と思い、そこから更に三十分後の爆発シーンで、ようやくコメディ映画なのだと気が付きました。  かと思えば、クライマックスにおける電車上のアクションは中々の迫力であったりして「一粒で二度おいしい」タイプの作りとなっていますね。  これが遺作であるというスティーヴ・マックィーンが、色んな面を見せてくれたという意味においては、非常に嬉しい内容。   ただ、自分としては正直コメディ部分は退屈だったりもして、残念でした。  その分、終盤のアクションパートでは画面に釘付けになる事が出来たのですが(どうせなら両方を楽しんでみたかったな……)と、切なく感じてしまったのですよね。  好きな俳優さんの作品であるだけに、全面的に肯定出来ない事が、もどかしかったです。   ラストに関しては、ほのぼのとしたハッピーエンドで締められており、驚くと同時に癒されるものがありましたね。  西部劇、刑事ドラマ、脱獄物と、シリアスな作風の品に出演している印象が強いマックィーン。  そんな彼が、何とも優しい手付きで赤ちゃんを抱き上げて、父親として笑ってみせている。  その姿が、最高に似合っていて、最高に決まっているのだから、本当に凄い事だと思います。   映画の内容そのものよりも、最後の出演作までマックィーンは格好良くて、魅力的だったという、そちらの方に感動させられた一品でした。
[DVD(吹替)] 6点(2016-06-21 12:56:14)(良:1票)
517.  ハミングバード ネタバレ 
 まさかジェイソン・ステイサム主演の恋愛映画を拝める日が来るとは思っておらず、驚かされましたね。  互いに心の傷を抱えた者同士の、束の間の交流。  二人の心情が、とても丁寧に描かれている作品だと感じました。   そこかしこにアクション映画としての要素が含まれている事に関しては、嬉しくもあったのですが、やや焦点がズレているようにも思えて、少し残念。  主人公が精神的な病を抱えているという設定も、ちょっと感情移入しにくいものがありましたね。  終盤にて「見えるか? ハミングバードだ」と言われても、今一つ共感出来なくて、どうしても距離を置いてしまいます。   一番の難点は、ヒロインがドレス姿に着替えて会いに来てくれたシーンにて、主人公ほどの衝撃と喜びを味わえなかった事でしょうか。  非常にマニアックな発言で申し訳ないのですが、彼女に関しては「眼鏡をかけたシスター」としての普段の姿の方が好みだったもので、着飾った姿には(なんか……普通の美人のお姉ちゃんだなぁ)と、あんまりテンションが上がらなかったりしたのですよね。   ラストも微かな救いはあるけれど、ハッピーエンドとも言い難いものがあり、これも好みではありません。  けれど「人並みに生きられたこの夏を、君と過ごせて良かった」という告白に対しては、胸を打たれるものがあったし、悲劇的であるがゆえの美しさのようなものは感じられましたね。  子供時代に性的虐待を行っていた大人を殺傷したというヒロインの過去には同情出来たのに対し、戦場で仲間を殺された腹いせに無関係な民間人を殺したという主人公の過去には流石に同情出来ない点がマイナスだと思っていたのですが、それに関しても(あぁ、だからヒロインと違って主人公は自殺のような末路を辿るのか……)と、一応は納得。   ビターな味わいの、大人の映画でありました。
[DVD(吹替)] 5点(2016-06-20 23:03:39)(良:1票)
518.  ミリオンダラー・アーム ネタバレ 
 ストーリーの概要を知った段階で「これは好みの映画のはず!」と予測していたのですが、それが当たっていて嬉しかったですね。   人物間の絆が育まれるまでの過程にて、さほど劇的なイベントは起こらない点。  そして、目標が「プロで活躍してみせる事」ではなく「プロになる事」に設定されている点など、実話ネタゆえの物足りなさのようなものは感じましたが、それ以上に胸をときめかされるものが多かったです。   涙腺を刺激された場面も幾つかあって、特に印象深いのは、父と子の別れの件。  母国インドを離れ、アメリカで野球に挑戦すると息子に告げられた父親が「お前なら、きっとやれる」と、強く抱き締めて送り出してあげる。  当初は息子の野球挑戦に反対していた、頑固者の親父さんとして描かれていただけに、この展開には「えっ、認めてくれるの!?」という意外性も内包されていて、凄く良かったと思います。  それは裏を返せば「何故、急に息子の事を認めて応援してくれたのか、描写が不足している」とも言えるのですが、少なくとも自分は全然気になりませんでした。  それまでは父親の言いなりになって生きてきた、内気な息子であった事が示唆されていただけに、はっきりと目を見て意思表示してくれた姿が、親父さんとしては嬉しかったのだろうな、と推測します。   上述のシーンが凄く良かったもので、そこが本作のクライマックスかなと思っていたら、それを裏切ってくれた辺りも素敵。  ラストのプロテストの場面。  「君達が成功する事は、インドの子供達に夢を与える事に繋がる」という通訳の言葉には、本当に感動させられましたね。  それによって勇気を与えられ、見事にプロ選手になってみせた二人。  そしてエンディングでは、彼らを真似して野球に興じるインドの子供達が描かれるとあっては、もう脱帽。大満足です。   良い映画だったと、確信を持って言える一品でした。
[DVD(吹替)] 8点(2016-06-19 10:05:43)(良:1票)
519.  ファーナス/訣別の朝 ネタバレ 
 クリスチャン・ベールが髭を蓄えた姿に、最初は違和感も覚えたのですが、すぐに慣れる事が出来て、一安心。  これはこれでワイルドな魅力があって良いんじゃないかと思えましたね。   特にお気に入りなのは「弟を思いやって、密かに借金を肩代わりしてみせる場面」と「別れた恋人の妊娠を祝福してみせる場面」の二つ。  主人公の優しさ、人の良さ、利己的になれない善人ゆえのもどかしさなどを丁寧に演じられており、相変わらず素晴らしい役者さんだなと、再認識させられました。   映画の内容はというと、往年のアメリカン・ニューシネマを彷彿とさせる作りとなっており、全体的に陰鬱な雰囲気が漂っているのが特徴。  鹿狩りが印象的に描かれている点などは「ディア・ハンター」へのオマージュではないかとも思わされましたね。  脇を固める俳優陣も非常に豪華であり、彼らの演技合戦を眺めているだけでも楽しかったです。   ただ、冒頭にてウディ・ハレルソン演じる悪役が、北村龍平監督の「ミッドナイト・ミート・トレイン」を観賞中に喧嘩を始めるシーンの意味は、少し分かり難くて困惑しました。  後にキーパーソンとなるキャラクターを、事前に紹介しておく事が目的だったのでしょうか。  上映作品のチョイスに関しても引っ掛かるものがあり、ともすれば映画がつまらないせいで作中人物が退屈して暴れ出したのかと邪推出来たりもするのですが……  まぁ、監督さんがあの映画を好きだから選んだのだろうなと、好意的に解釈したいところです。   基本的なストーリーラインとしては、弟を殺された兄が復讐する形となっているのですが、どうもそれだけでないような印象も受けましたね。  それというのも、主人公の境遇が余りにも悲惨過ぎて、弟の死さえもがその「不幸な要素」の中の一つにしか思えなかったのです。  老後は病に侵される事が約束されているような製鉄所での仕事。  交通事故によって人を死なせてしまった罪悪感。  刑務所で暴力に晒される日々。  愛する女性との別れ。  父親の病死。  これらの事件が次々に起こり、主人公は鬱憤を溜め込んでいた訳なのだから、弟の死はそれを爆発させた引鉄に過ぎなかったのではないかな、と。   勿論「数々の不幸に対しても感情を露わにしなかった主人公が、弟の死に対してだけは本気で怒った」訳なのだから、それだけ弟を愛していたのだと解釈する事も可能だとは思います。  けれど、その場合はラストにて悪役に「お前の弟はタフだった」と言わせた事に、疑問符が残るのです。  本当に弟への愛情だけが動機であったのならば、そんな弟の凄さを認めてもらった事に対し、主人公のリアクションを描いて然るべきだと思うのですが、彼は超然とした態度のまま相手を殺してしまう。  そして、復讐を止めようとした保安官が、主人公の元カノを妊娠させた男であるとなると……  一連の行いには「保安官への当てつけ」という意図もあったんじゃないかと、そんな風に感じちゃいました。   単なる復讐譚としての映画であれば、ラストシーンの主人公は満足感や達成感を抱いていてもおかしくないのに、その顔に浮かぶのは、どちらかといえば「やってしまった」「これで終わった」という諦観の念。  長く、深く吐息をつく姿には、未来を捨て去った人間だけが得られる、一種の解放感のようなものが漂っていたようにも思えましたね   積み重なった悲劇が更なる悲劇に繋がるという、一種の悲惨美。  そして、全てを台無しにしてしまったからこそ得られる、後ろ向きなカタルシスを描いた映画であるように感じられました。
[DVD(字幕)] 6点(2016-06-19 04:21:51)
520.  恋と愛の測り方 ネタバレ 
 明るいラブコメ映画は好きだけど、こういう真面目な恋愛映画は苦手だなぁ……と、自分の嗜好を再確認させられましたね。  丁寧に作られているし、主人公の感情の機微を描いたという意味においては質の高い作品なのでしょうが、どうにも好みの内容とは違っていた為、楽しむ事が出来ませんでした。   男女の浮気の違いを描いている点は興味深いのですが、どうも女性贔屓な目線であるように思えてしまった点も、マイナスポイント。  夫は妻を愛しているのに、一時の欲情に流されて同僚の女性と浮気してしまう。  そして妻の方はといえば、夫と同じくらい愛している元浮気相手の男性と心を通わせ合うも、最後の一線は越えていない。  しかも、夫の浮気相手となる女性には殆ど好意的な描写が無かったのに、妻の浮気相手である男性の方は如何にも同情的に描かれているものだから、やりきれません。  「性欲に駆られた夫の浮気は醜い」「それに比べて妻の浮気は悲劇的で美しい」という対比が窺えてしまい、どうしても賛同する事が出来ませんでした。   観賞後に調べてみたら、監督さんは女性であったらしく、何だか妙に納得。  男性贔屓な内容の映画を観て、女性が呆れてしまうのと同じような現象が、今回我が身に起こってしまったみたいです。   そんな風に、今一つ魅力が分からなかった品なのですが、そんな自分でもハッとさせられる場面も盛り込まれており、作り手の力量を感じさせてくれましたね。  特にラストシーン。外出用のハイヒールが投げ出されているのを映し出し、その後の夫婦の衝突を予感させる終わり方には、素直に「上手いなぁ」と感心。  「あの後、どうなったと思う?」「やっぱり旦那に浮気バレたよね」「最後の吐息からするに、奥さんの方から告白しそうな気がする……」  などといった具合に、観賞後にアレコレ話し合う楽しみも与えてくれる映画でありました。
[DVD(吹替)] 4点(2016-06-17 07:06:09)
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