601. 東京島
ネタバレ 無人島が舞台で、しかも男達の中に女性が一人だけ、これは絶対に面白いはず! と期待して観た品なのですが…… 「面白くなかった」「期待外れだった」とまでは言わないけれど、物足りないものがありました。 元ネタであろうアナタハン事件に比べると「女を巡って男達が殺し合いする」という殺伐さもあまり感じられず、どこかノンビリした空気が全編に渡って漂っているんですよね。 それが心地良い、お気楽漂流ものとして楽しめる、という側面もあるのでしょうが、自分としては肩透かし。 主人公となる女性が「サバイバル」していると感じさせる場面が、冒頭で蛇を捕まえる部分くらいしかなかったのも残念でした。 ラスト、島を脱出するのを諦めた男達が「王子」を崇めて、平和に暮らしている姿なんかは、皮肉が利いていて良かったですね。 これはこれで一つの幸せの形なのだなぁ、と思わされたりもしました。 それに対し、脱出に成功した主人公の女性は、窪塚洋介演じるワタナベと結ばれた……のかな? だとしたら、何とも少女漫画的な顛末。 「口が悪くて何かと自分に突っかかってくるけど、本当は自分の事が好きだったイケメン」だなんて、如何にもといった感じですからね。 女性として感情移入して観たら、また違った感想になるかも。 ハッピーエンドという意味では文句の付けどころが無いし、観客が求めるものに応えようとした映画ではあった、と思います。 [DVD(邦画)] 4点(2016-04-08 12:26:56) |
602. 秘密(1999)
ネタバレ 「これは感動させようとしているの? それともブラックユーモアとして笑わせようとしているの?」 と戸惑ってしまう内容でした。 恐らく、感動させようとしている確率の方が高い気はするのですが、それにしては娘に憑依した妻の行動に納得がいかないのです。 ただ単純に「若返った事を喜んでいる」「夫と再び結ばれる事は無かったけど、若い男と再婚出来たので問題無い」という感情の方が、悲しみよりも大きかったのではないか、と思えてしまってならない。 男性側の目線だからそう感じるだけで、女性側の目線からすると、また違った感動的な側面が見えてくるかも知れません。 けれど、自分としては「あぁ、娘に続いて妻さえも失ってしまった夫が可哀想だなぁ」という思いと「元妻も可哀想かも知れないけど、まぁこの後に幸せになれそうだから、良かったね」という思いが入り交じり、何とも言えない気分に襲われました。 二人の切ない運命に「泣ける」映画としても、皮肉な運命を辿る元夫婦の姿に「笑うしかない」映画としても、どちらでも楽しめる一品、という解釈も可能だとは思います。 ただ、自分としては困惑させられる事が多くて、映画の世界に入り込めず、残念でした。 [DVD(邦画)] 3点(2016-04-08 12:06:41) |
603. 名探偵登場
こういったコメディ映画は、元ネタに対する愛情があってこそだと思っていた自分にとって、むしろ元ネタのミステリー小説群を否定するような内容であった事は、非常に驚きでした。 ラストの主張に全く説得力が無かった、とは言いません。 けれど、そこにはユーモアという以上に悪意を感じてしまって、とても賛同する気持ちにはなれませんでした。 ピーター・フォークが出演している事もあり、観賞前は期待していただけに、それを裏切られたという思いもあります。 豪華な出演者陣は、ただ画面を見ているだけでも楽しい気分にさせられるし、作中のギャグシーンで笑いを誘うものがあったのも確か。 そういった「好き」な部分も簡単に見つけられるだけに、残念な気持ちになる映画でした。 [DVD(字幕)] 3点(2016-04-08 11:45:52)(良:1票) |
604. 模倣犯
ネタバレ 森田芳光監督の作品は、好きなものが多いです。 この映画も、監督のセンスを感じさせる場面は幾つかあるのですが、全体的に考えると「面白かった」とは言い難いですね。 原作小説に比べると、犯人であるピースを妙に大物扱いしているというか、感情移入させようと描いているような意図が窺えて、そこに違和感を覚えました。 勿論、それはそれで映画独自の魅力とも言えますし、犯人のプライドを刺激して自白を引き出す件など、原作で(いくらなんでも性格が子供っぽすぎる……)と感じられた反応が、比較的落ち着いたものに変わっている点は好み。 けれど、総じてマイナス面も大きいように感じられて、ラストの爆発シーンや、その後の「子供を託す」オチには流石に唖然。 全編に漂う独特の悪ノリ感、そして時折垣間見せる緊張感の緩急は決して嫌いではないのですが、ギリギリで「好き」と言える領域に踏み込んできてくれない、そんなもどかしさを感じた映画でした。 [DVD(邦画)] 4点(2016-04-08 11:28:15) |
605. 魍魎の匣
原作小説が大好きなので、それが映像化されたというだけでも嬉しかったですね。 内容的に二時間にまとめるのは難しいでしょうから、大幅な改変が行われたのも理解出来ます。 ただ、作品の核の一つとなる「加菜子を突き落としたのは誰なのか?」「何故、突き落としたのか?」という謎が解かれる件に、あまり説得力が無かったように思えました。 勿論、原作でも決定的な動機が無かった事は承知の上です。 それでも、映画を観ただけだと「えっ? 何で突き落としたの?」と戸惑ってしまいそう。 役者さんに関しては、久保竣公を演じた宮藤官九郎のハイテンションな立ち振る舞いに驚かされましたね。 原作よりも「サイケデリックな天才作家」という雰囲気が色濃い感じ。 堤真一、阿部寛に関しては、流石の安定感がありました。 [DVD(邦画)] 4点(2016-04-08 11:07:35) |
606. 野生のエルザ
(これはフィクションなのか? それともドキュメントなのか?) と戸惑ってしまうシーンが多く、最後まで集中する事が出来ませんでした。 こういった題材では、その「線引き」が非常に難しいですし、どちらとも受け取れるような演出にする事がプラスに働く例もあると思いますが、どうも自分には合わなかったみたいです。 それでも、雄大な自然の風景を眺めているだけで楽しい、と思える品だったのは確かですね。 人間と動物の関係性、動物を保護するという事、飼うという事について、色々と考えさせられました。 [DVD(字幕)] 4点(2016-04-08 10:53:31) |
607. 要塞監獄/プリズナー107<TVM>
キーファー・サザーランドが監督&主演、しかも自分の好きな刑務所映画ではないか、と大喜びで手に取った一作。 ところが、始まってすぐに(あっ、これってTV映画か)と気付いてしまう程の映像であり、監督としての力量についても、特筆すべきものは無いようにも思えてしまいました。 囚人と看守との交流がメインとなっているのですが、サザーランド演じる囚人のデンバーが、あまり同情出来ない存在だったりするもので、どうも物語の中に入り込めないんですよね。 看守役のフォレスト・ウィテカーについては、如何にも人の良さが滲み出ていて好印象だっただけに、残念です。 こういった落ち着いた雰囲気の映画も必要だとは思いますが、もう少し違った形での二人の共演作も観たかったな……と感じてしまうような出来栄えでした。 [DVD(字幕)] 4点(2016-04-08 10:42:57) |
608. 裸の十字架を持つ男/エクソシストフォーエーバー
ネタバレ アメリカ産の映画を観ていると「嘔吐」ネタのギャグが多い事に気が付きますが、その中でもコレは極め付けの一本なのではないでしょうか。 とにかくもう、登場人物が吐く吐く吐く。 観ていると、こちらまで吐き気を催してきそうな程の畳み掛け。 「下品だなぁ……やっぱり日本人とは笑いのツボが違うのかな?」 なんて考えすらも頭をよぎってしまいますが、そんな日本人もおならネタで笑ったりするので、あちらさんの嘔吐ネタを馬鹿にしたりは出来ないのでしょうね。 それに、自由の女神までもが口から滝を流す様には、思わずクスッとさせられたのも事実です。 基本的なストーリーとしては「エクソシスト」のパロディであり、リンダ・ブレア本人が出演しているのは貴重。 ツボにハマれば楽しめる映画だと思います。 [DVD(字幕)] 2点(2016-04-08 10:26:08) |
609. ホーリー・マウンテン
ネタバレ カルト映画として人気があるみたいですが、それも納得の内容です。 ただ、その魅力が自分には伝わって来ない。 信じてもいない神様についての説法を、延々と聞かされているような気分になってしまいました。 ラストシーンに関しても、映画の世界に入り込んで観ていれば衝撃的なオチだったかも知れませんが、正直「だから何?」としか思えない。 雨が降っている日に「雨が降っているね」と言われて、それっきり会話が途絶えてしまった時のような感覚です。 監督としては、一種のユーモアのつもりで「これは映画だ」という結末にしたのかも知れませんが、それを笑い飛ばす事が出来ない。 映画そのものに対しても、観客に対しても、否定的なニュアンスを色濃く感じてしまいました。 好きになってさえしまえば、それらの諸々も愛嬌に感じられて、とても楽しめそうな作品であるだけに、残念です。 [DVD(字幕)] 0点(2016-04-08 08:53:39) |
610. ファニーゲーム U.S.A.
ネタバレ 「1997年版と、全く同じような内容だなぁ……」 と感じていたのですが、監督さんも同じだった訳ですね。納得。 ある意味では、とても真摯な態度でのリメイクと言えるかも知れません。 初見の衝撃、といったものを差し引いて考えれば、元作品のファンも楽しめる仕上がりだと思います。 有名俳優が出演している事によって何か変わるかな、とも思いましたが、特に変わっているようにも感じられませんでした。 自分としては、1997年版と同じ内容である以上、同じ点数をつける他ありません。 [DVD(字幕)] 0点(2016-04-08 08:20:10) |
611. ファニーゲーム
ネタバレ これは観客を不愉快にさせる為の映画なのでしょうか。 不愉快になる理由としては、劇中で行われた暴力や理不尽さに対する怒りが必要になってくると思います。 でも正直、不愉快というよりは退屈に感じましたし、怒るというよりは呆れるという感情に近い。 それが決定的になるのは「仲間を殺されてしまった犯人が、リモコンの巻き戻しボタンで時間を逆行させて、仲間の死を回避してしまう」という場面。 これはもう、完全に興醒めです。 不幸を回避する為に時間を逆行させる展開は珍しくもないけど、これほど唐突なパターンは記憶にありません。 (現実に行われている暴力の理不尽さを描こうとしているのかな?) (暴力を娯楽として描く映画に対するアンチテーゼなのかな?) などと、色々考えながら観賞していたのですが、この映画に匹敵するほどの理不尽さは現実世界や他の映画では見受けられないと思います。 よって、現実世界に対する警鐘とも他の映画に対するパロディとも感じられません。 恐らくは「ある戦慄」(1967年)が元ネタなのだろうな、と思えますが、あちらに存在したラストシーンのカタルシスや、背筋が寒くなるほどの恐怖や嫌悪感すらも無し。 致命的なのは、やはり「巻き戻し」によって、一度映画で描かれたものを自ら否定する形になってしまった事ではないでしょうか。 この映画はラストにて、新たな獲物を見つけた悪党二人組が再びゲームを始めようとする場面で終わるのですが、それに対しても恐怖とか、次なる展開への興味とかいったものを抱けないのです。 極端な話、ゲームに飽きた二人が巻き戻しボタンを押してしまえば、犠牲者も全て元の状態に戻る事になる。 犯した罪も全て「無かった」事に出来るじゃないか、と考えれば、彼らが何をやっても、映画の中で何が起ころうと、興味を持てなくなってしまいます。 この映画に対する不快感だって、劇中で巻き戻しボタンを押されたら否定されてしまう、意味の無い物としか思えません。 監督さんは才能のある人なのだろうし、波長が合えば楽しめる映画なのだろうな、とも感じました。 けれど「劇中で描かれた全てを無価値にしてしまった映画」という意味において、これほど「0点」が相応しい品は他に無いように思えます。 [DVD(字幕)] 0点(2016-04-08 08:04:29)(良:1票) |
612. デッドロック(2002)
ネタバレ 監督はウォルター・ヒル、主演はウェズリー・スナイプス、おまけにピーター・フォークまで出演しているという布陣ゆえに、大いに期待を抱いて観賞した一本。 まず、正規の世界王者、ヴィング・レイムス演じるアイスマン側の尺が、予想以上に長い事に驚きました。 この映画のクライマックスは「表世界の王者VS裏世界の王者」という両者の対決なのですから、片方だけにバランスを偏らせなかった構成は正解なのかも知れませんが、戸惑いの方が大きかったというのが正直なところです。 理由としては、アイスマンに「もう一人の主役」と呼ぶに相応しい魅力を感じられなかった事が大きいですね。 レイプ容疑も冤罪とは思えないし、性格も「良い奴」とは程遠く、長時間にわたって彼にスポットを当てられると混乱してしまいます。 傲慢な悪役としては、中々に憎たらしくて味があると思いますし、ラストの刑務所帰りの姿には改心したような雰囲気も漂っていたので、決して嫌いなキャラクターではないのですが、作中での扱いに疑問が残りました。 そして、囚人側の王者、スナイプス演じるモンロー。 こちらは流石に存在感を放っており、飄々とした姿が魅力的ではあるのですが、今一つ「何故強いのか」の描写が足りていなかったように思えます。 刑務所という環境にあっても、物凄く厳しいトレーニングを積んでおり、食生活にも細心の注意を払っている……という事が大して伝わって来なくて、独房で黙々と模型作りに耽っていた姿ばかり印象に残ってしまう形。 ピーター・フォーク演じるボクシング通の老人メンディが、トレーナーとしてモンローの強さを支えているのだろうかと予想していたのですが、それも肩透かしでした。 余計な描写を挟まず「スナイプスだから強いんだ、文句あるか」と突き放してみせるのも、それはそれで痛快ではあるのですが、それならばボクシングシーンで完全にファンタジーな強さを見せ付けるくらい思い切った方が良かったのではないかと。 全体を通してリアルな雰囲気が漂っている作品であっただけに、逆に「リアルじゃない」部分が目立ってしまう形になっているように感じられました。 それでも、ラストシーンにて 「世間の連中はアイスマンが世界最強の王者だと思っているが、本当の王者は刑務所にいるモンローなのだ」 という秘密を、囚人達が誇らしげに共有しているという顛末は好み。 続編が二本も作られているとの事ですが、それも納得してしまうような、粗削りな魅力を秘めた作品でした。 [DVD(吹替)] 5点(2016-04-08 04:35:10) |
613. 狼たちの午後
ネタバレ 「緊迫感のある映画」というと、真っ先にコレを思い浮かべますね。 特に、主人公が電話越しに元妻と話す場面なんて、真冬に観ても汗が滲み出て来るかのような、何かに追い詰められているかのような気分を味わえます。 彼が今現在愛している相手はレオンなのでしょうが、元妻に対しても完全に愛情を失ってはいない事、不器用で世間に適応出来ないだけで、優しさを備えた人間である事などが、痛々しい程に伝わってきました。 一方で、人質達との束の間の交流が描かれる場面では、こちらも緊張から解放される思いがして、ホッと一息。 無造作に銃を渡してしまうほどに心を許している両者の関係性に、ハッピーエンドすら連想させられました。 けれど、それゆえに、そんな積み重ねがあったがゆえに、空港にて、全ては仮初めの絆に過ぎなかった事を実感させられる顛末が、余りにも悲しい。 無事に保護されて、もはやこちらに視線を寄越そうともしなくなった人質達を見つめるパチーノの表情、運ばれていく相棒の死骸を見送って、慟哭を必死に噛み殺すような表情、どちらも素晴らしかったです。 パチーノの主演作は色々と観てきましたが、切ないほどに感情移入してしまう主人公という意味で、今作がベストアクトであるように思えました。 心に残る一品です。 [DVD(字幕)] 10点(2016-04-07 08:30:59) |
614. シノーラ
ネタバレ 古き良き映画として、その雰囲気を楽しむ事が出来る映画だと思います。 シリアスなストーリーのはずなのですが、主人公が壺を振り子のように動かして敵の頭にぶつけるシーンの演出など、妙に笑いを刺激する部分などもあったりするのが面白かったですね。 もしかしたら作り手は大真面目で、笑わせるつもりなど皆無なのかも知れないけど、壺が砕け散る音がやたらと大きかったりして、妙にお気に入りの一場面。 上述のように、主人公が雇い主側を裏切って戦いが始まるシークエンスは中々にテンションが高まるものがあるのですが、そこに辿り着くまで一時間ほど掛かってしまうのが難点でしょうか。 また、ストーリーに関しても「裏切りに至るまでの主人公の心情の変化」が伝わってこない為、最後まで感情移入する事が出来なかったのも残念。 雇い主は最初から悪役として描かれていたし、美女の存在だけでも裏切りの理由には充分、という解釈も出来るのですが、もう少し決定的なイベントなどがあった方が良かったかな、と思えます。 撃たれた敵の倒れ方が、ややオーバーアクト気味な辺りも、シリアスとギャグとの境界線を曖昧にしているように感じられました。 以上の如く、全体を通して考えると気になる点も多い品なのですが、それでも主人公を演じるイーストウッドの存在感は抜群。 汽車で屋内に突入し、そのまま銃撃戦を行ってみせる姿などは、素直に格好良いと思えましたね。 [DVD(吹替)] 5点(2016-04-07 07:54:55) |
615. ブラックホーク・ダウン
これは評価するのが難しい一本です。 リドリー・スコット監督の手腕は大いに信頼しているし、ジョシュ・ハートネットもユアン・マクレガーもウィリアム・フィクトナーも大好きな身としては、史実がどうこうは忘れてしまって、戦争映画というフィクションと割り切って楽しみたかったのですが、決してそれを許してくれない内容。 さながら「命は平等である」という価値観を真っ向から否定するように描かれているアメリカ人とソマリア人。 観賞中ずっと、この映画から「アメリカ軍の兵士十九人分の命は、ソマリア民兵の千人分の命よりも尊いのだ」と囁かれているような気がして、その声に耳を塞ぎたい思いに駆られました。 とはいえ、戦争映画という性質上、観客に色々考えさせてくれるのは有益な事だと思いますし、本当に自分が戦場にいるかのような臨場感は、凄いものがあります。 映画では英雄的に描かれているアメリカ兵だけど、彼らのモデルになった実際の兵士達には、六歳の娘に性的暴行を加え逮捕された人物もいたりする訳で、そんな「現実とのギャップ」も味わい深いですね。 恐ろしい映画でした。 [DVD(字幕)] 3点(2016-04-05 09:22:42) |
616. 天井桟敷の人々
ネタバレ 「映画に恋をする」という言葉が、喩えでも何でもなく実際に起こり得る現象なのだと教えてくれた、記念すべき一本。 とにかくもう、主人公バティストがパントマイムを駆使してヒロインの無実を証明する場面にて、一気に心を奪われてしまい、そこからは夢心地で最後まで観賞する事が出来ました。 ラスネールがモントレー伯爵を殺害する場面にて、直接その姿をカメラには映し出さず、第三者の反応を映す事によって表現する件なんかも、凄く良かったですね。 長尺の中にも、要所要所でハッとさせられる演出が散りばめられており、全く飽きる事がありません。 観客としての自分は、ガランスよりもナタリーの方に惹かれるものがあり、主人公の行動に全面的に賛成出来た訳ではないのですが、それだけに「人を愛する事」の業の深さについて考えさせられましたね。 あんなに想ってくれる奥さんがいながら、可愛い子供がありながら、それでも不貞を働いてしまうなんて、情けない男だなと思う一方、どうしても「その恋は間違っている」と否定する事が出来ないという。 全編に渡って台詞が洗練されており、何でもない会話シーンだけでも楽しかったりする為、観ているだけで幸せな気持ちに浸れたのですけど…… それだけにラストシーンの訪れには、とうとうこの映画が終わってしまうのか、という寂しさが伴いましたね。 最後の一幕、去りゆくガランスを追いかけるも、決してその声が届かない主人公の姿は、映画が終わる事を否定しようとしても叶わない自分の姿にも重なり合い、とても切ない気持ちになった事を、良く憶えています。 今でも時々、昔の恋を思い出す時のような気持ちで鑑賞し、その度に再び恋してしまう。 そんな映画です。 [DVD(字幕)] 10点(2016-04-05 08:34:32)(良:1票) |
617. ロミオ・マスト・ダイ
ネタバレ 安心して楽しめるアクション映画だと思います。 一応はマフィアの抗争がストーリーの核となっているのですが、人物相関図が複雑過ぎるという事も無く、黒幕が誰なのかもキチンと観客に教えてくれる親切設計。 主人公の登場、及び正体が判明するまでに少し時間が掛かる点は気になりますが、それでも肩の力を抜いて、リラックスしながら観賞する事が出来る内容かと。 ジェット・リー主演作の中では、確か二番目か三番目に触れた作品だったので、観賞中「へぇ、ジェット・リーって、こういうコミカルさを備えた役も出来るのか」と、新鮮な気持ちを味わえた記憶がありますね。 所々ワイヤーで宙吊りにしているのが分かり易い箇所があり、そこは好みとは言い難いものがありましたが、ホースを使った格闘シーンや、敵を倒す際のレントゲン演出なんかは素直に面白かったです。 後者も多用していたらマンネリだったかも知れませんが、回数が少なかったので好印象。 死人も次々に出る映画なのですが、作中で観客が好感を抱きそうなキャラクターである「ヒロインの父親」「モーモーちゃん」などは明確な死亡シーンが描かれておらず、後味が悪くならないようにしている辺りには、作り手の配慮が感じられましたね。 ラストの格闘シーンでも、足元の炎で盛り上げてくれたりして、何だかそれだけで満足してしまいます。 主人公と黒幕との対峙、そして結末には、若干のほろ苦さもありましたが、その後にヒロインと抱擁を交わして「救い」を感じさせて終わるバランスなども好み。 押さえるべきところは押さえてくれている一品です。 [DVD(吹替)] 6点(2016-04-05 07:55:48) |
618. 第三の男
ネタバレ オーソン・ウェルズという天才に触れるにあたって、監督としての彼を知るには「市民ケーン」が、そして俳優としての彼を知るには「第三の男」が、最も適しているのではないでしょうか。 有名過ぎる観覧車での長台詞や、初登場シーンにおける不敵な笑顔にも痺れますが、特に記憶に残るのは、クライマックスにおける地下水道での姿。 それまでの飄々とした「ハリー・ライム」の姿が嘘のように、這いつくばって階段を上り、暗い地下に光を齎す出口へと手を伸ばす姿が、とても印象深いですね。 どうしようもなく「人間」そのものを感じさせるというか、これほど強烈に映画の中の人物に感情移入させてくれた場面は、ちょっと他には思い付きません。 そんなハリーが、拳銃を手にした主人公を前にして、死を受け入れたように微かに頷く表情なんかも、これまた素晴らしいのですが、この映画の特筆すべき点は、最後の最後。 これほどの存在感を放つ「第三の男」が画面から姿を消した後に、映画としての絶頂を迎えるラストシーンが待っている事にあるのだと思います。 映画は娯楽作品であると同時に、芸術作品でもあると感じさせてくれる一分間。 是非とも多くの人に体験して頂き、こんな作品があるのだという事を知ってもらいたくなる。 そんな、特別な美しさを秘めた映画でした。 [DVD(字幕)] 10点(2016-04-04 07:58:31)(良:2票) |
619. New York 結婚狂騒曲
ネタバレ こういったラブコメ映画において「主人公が結婚式を直前でキャンセルする」という展開が訪れると、大抵は相手方が可哀想になってしまうのですが、本作はそれを感じさせませんでしたね。 何といっても「振られる」形となる婚約者のコリン・ファースが格好良い。 このまま結婚したら君は不幸になる、という理由で潔く身を引いてみせるなど、中々出来る事ではありません。 少し女性主人公側にとって都合の良過ぎる展開ではないか、と思えない事も無いのですが、こういった場合に婚約者側を分かり易い悪役にしてしまう展開よりも、ずっと好感が持てると思います。 とはいえ、中盤において、女性側には婚約者がいるにも拘らず情熱に任せて性交渉を行る主人公カップルなど「おいおい、それで良いの?」と感じてしまう部分が多かったのも事実。 その後に主人公は直ぐに後悔する事となるのですが、ここで少し作中人物に距離を感じてしまったというか、白けた気持ちになってしまったのは残念でした。 ラストに関しては「結婚式を中止させる為の手段として火災報知機を鳴らす」→「消防士である意中の彼が駆け付けてくれて、そのまま二人は結ばれる」という形となっており、綺麗に纏まっているなぁ、と素直に感心。 上述の婚約者を筆頭として「過去に間違いを犯したからこそ、真の伴侶に出会えた」と語る父親など、脇役に魅力を感じさせるキャラクターも多く、最後は安心のハッピーエンド。 観賞中は色々とモヤモヤした気持ちに襲われた一方で、観賞後には「良かった」と感じさせてくれる、そんな一作でありました。 [DVD(字幕)] 6点(2016-04-04 07:18:51) |
620. 世界最速のインディアン
ネタバレ 印象深いのは、レース前に主人公が薬を二錠受け取って「俺が一錠、こいつに一錠」と愛車の燃料タンクに薬を放り込む場面。 ちょっとした冗談のつもりなのかも知れませんが、それ以上に、主人公がバイクを独立した人格、本当の意味での相棒として扱っている事が窺えました。 バイク乗りは孤独なんて言葉もありますが、この映画の主人公に限っては、そうではない。 様々な人に優しくされ、その結果として夢を叶える事が出来た姿は、たった一人で夢を実現させた姿よりも、眩しく感じられるものがあったと思います。 老いだの若さだのといった線引きを超越して、観る者に純粋な感動を与えてくれる名作ですね。 [DVD(字幕)] 10点(2016-04-03 06:28:07)(良:3票) |