661. チョコレートドーナツ
《ネタバレ》 ちょっとは泣けてきてもよさそうな話なのに、まったく泣けなかった。 まず、ゲイカップルのラブシーンが生理的に受け付けない。 レズカップルなら平気なんだけど、ドン引きしてしまう。 それがそもそも差別意識だと短絡的に結び付ける人もいそうだけど、そういうわけでもない。 この嫌悪感は、あえて例えるなら自分の両親のベッドシーンを想像するのに近いような気持ちの悪さだろうか。 もちろん、両親に愛情はあってもだ。 その生理的な気持ち悪さは、人格や人権の否定にはつながらない。 性的指向は個人の自由なので、誰が誰を愛そうが誰に迷惑をかけるわけでもない限り勝手にやればいい。 マルコのことを最も親身に考えていたのはルディとポールであり、二人が育てるのが最も適しているにも関わらず、同性愛を理由に執拗に阻もうとする人達の意味がわからない。 そういう子供を自分の子として愛をもって育てようなんて、そうそうないほどありがたい話だろうに。 登場人物の心情がきちんと描ききれていないような気はする。 ルディの少年への深い思い入れは、同じマイノリティへの共感があったのか、それとも子供を産めない二人が家族を持ちたかったのか、掘り下げ方が少し物足りない。 ゲイカップルとマルコのつながりが切っても切れないほど深くは感じられなかったので、もっとエピソードを重ねたほうがよかった。 ポールの上司がポールをクビにしただけではなく、わざわざ裁判にまで首を突っ込んだのも不可解。 よほどの恨みでもないと、よくある差別意識だけでは説明がつかない気がする。 上司が人格障害の偏執者のように感じられた。 また、ダウン症の少年が死ぬ映画というのも、作り手のあざとさのようなものを感じてしまう。 それでも、しっかり感情移入できるきめ細かい流れがあれば泣けもしただろうけど。 実話に基づくというふれこみが衝撃的だが、フィクション部分も多い。 インタビューによると、薬物中毒の母を持つ障碍者の子供を世話をするルディのことを知り、それにインスピレーションを得て、もしゲイカップルがそういう子供を養子縁組しようとしたらどうなるのだろうかという着想で作り上げたシナリオなので、実際子供が死んだわけでもルディが裁判を起こしたわけでもないようだ。 最後の手紙はじんわりと効いてとても良かった。 ただ、そこに至るまでに入り込んで熱くなってはいかなかったので。 [DVD(吹替)] 5点(2014-12-07 11:19:39) |
662. ヒッチコックの ファミリー・プロット
《ネタバレ》 ヒッチコックの遺作としては、物足りない出来。 やっぱり全盛期のキレは見られない。 コミカルな演出がわざとらしくて寒いだけ。 サスペンスの邪魔をしている。 インチキ霊媒師のフランに突然霊感が宿ってダイヤを見つけるラストには脱力。 [地上波(吹替)] 4点(2014-12-07 11:18:39) |
663. ウォールフラワー
《ネタバレ》 タイトルから、壁の花でしかなかった人間が成長して皆に認められるような存在になる物語かと思ったが、ちょっとイメージと違っていた。 幼い頃の伯母とのトラウマが終盤で明らかになるという意外な展開に。 恋愛模様に、同性愛、性的虐待、ドラッグ、心理的治療などの要素も絡んで、盛りだくさんな感じ。 奔放なサムに強く惹かれているのに、好きでもないエリザベスと付き合ってしまうチャーリー。 それが原因でせっかく得た仲間を失いそうになるが、パトリックをかばって数人を殴り倒すことから元の関係に。 チャーリーがそれほど強そうにはとても見えなかったけど。 思春期によくある恋愛や進学の悩みもあって結構おもしろかったが、ピンと来ないところや違和感を感じたところが他にも幾つか。 自殺した親友というのも、何があったのか描かれていない。 チャーリーが叔母の事故死を自分の責任ととらえる思考回路もすんなりとは入ってこない。 そもそも、好きだった叔母に性的行為をされていたことが、どれだけのダメージを受けるものなのかピンとこない。 そのトラウマの話も全体からすると異質なものに思えて違和感が。 [DVD(吹替)] 6点(2014-12-05 00:58:15)(良:1票) |
664. 人のセックスを笑うな
《ネタバレ》 タイトル詐欺。 役者はいいのに、話がちんたらまったりしすぎ。 イチャイチャしたり、いじけたり、そんなのを映画で延々見せられても。 酔いつぶれた男が寝ているベッドで届かぬ思いにジタバタ暴れる蒼井優はとてもかわいいし、永作はお茶目でコケティッシュ、小悪魔的な魅力を発揮している。 でも、それだけといえばそれだけ。 年上のキュートな人妻から誘惑され、同級生のかわいい女の子からはヤキモチを焼かれる。 男としては夢のような設定をバーチャルで楽しめということなのか。 松ケンは小悪魔的な人妻に夢中になって振り回される一途な男が似合ってはいた。 会話がとても自然ではあるけれど、ボソボソ声だったりBGMに負けたりで聞き取れないところもチラホラ。 [DVD(邦画)] 4点(2014-12-05 00:55:18) |
665. バベル
《ネタバレ》 モロッコ、アメリカ&メキシコ、日本と、並行して描かれる人間ドラマ。 モロッコでの話は、たまたま子供の撃った弾に当たってしまったアメリカ人夫婦と、加害者になってしまったモロッコ人家族の悲劇。 日本での話は、母を失った聾の女子高生にスポットを当てているが、モロッコでの銃の出所が女子高生の父親が譲ったものというだけのつながり。 メキシコでの話は、モロッコで銃撃に合ったアメリカ人夫婦のベビーシッターが遭った事件。 その三箇所でのエピソードには直接的な脈絡はなく、それぞれ別個のドラマなので群像劇というよりオムニバスの印象。 聖書にあるバベルの塔のエピソードに引っ掛けたテーマで、言葉や心が通じない様を描いているようだが、一つの作品としてのまとまりがなくて散漫に感じられる。 日本でのエピソードが最も不可思議で、菊池凛子の全裸になる意味がさっぱりわからない。 寂しさから人と人との触れあいを求めるのはわかるが、ピンク映画に出てくる欲求不満の人妻のような振る舞い。 日本編だけ浮いて見えるので、いっそのことないほうがよかったかも。 複数のエピソードを一つの映画にするのなら、しっかりリンクさせてくれないとスッキリしない。 三箇所での物語は時系列が同じではなく、前後しているので少し混乱する。 冒頭のベビーシッターが受けた電話は、映画の終盤で夫人がヘリで運びこまれた病院から夫が掛けたもの。 時系列通りに並べてみれば、なんてことないストーリーになるのはよくあること。 難しくもない話を一生懸命難しくしているような気もする。 [地上波(字幕)] 3点(2014-12-05 00:53:39) |
666. グッド・ドクター 禁断のカルテ
《ネタバレ》 気持ちの悪い医者でゾッとする。 患者に片思いして、再入院させるために薬に細工する。 挙句の果てに死なせてしまうなんて、まったくもって問題外。 もし医者に不正や落ち度があっても、患者側にはめったなことではわからない。 それだけに医者には高度な倫理が求められる。 人の命を預かる聖職に、絶対就いてはいけない人物だった。 結局、医師が裁かれることもなく後味の悪さが残るだけ。 ストーリーも粗が目に付き、日記がそれほど重要なアイテムにも思えない。 [地上波(吹替)] 4点(2014-12-02 22:24:12) |
667. レッスンC
《ネタバレ》 自由恋愛クラブといっても、売春クラブをキレイな言い方にしただけ。 ただ、そんなにどぎつい内容ではなく、初体験に憧れる女子高生と男子高生の実にたわいない話。 毒にも薬にもならない、ちょっとエッチな青春コメディ。 クラブのセッティングもなかなかうまくいかず、結局結ばれたのは最初から恋愛感情のあったデビーとフィッブスだけ。 ナターシャ・キンスキーがキャピキャピした同級生の中では、すでに大人の雰囲気で浮いて見える。 実際、早熟だったので他と経験値も違っただろうし。 主役だけれどそれほど魅力的には映っておらず、この作品ではまだブレイクしないのもわかる。 これならむしろ他の女子生徒のほうがいいくらい。 [DVD(字幕)] 4点(2014-12-02 22:21:40) |
668. 天使の涙
ストーリーで魅せるよりも雰囲気で魅せるタイプの映画。 スタイリッシュな映像や音楽はいい。 けれど、ストーリーには引き込まれない。 同監督の『恋する惑星』もそんな感じだった。 ウォン・カーウァイ作品は二本目だけど、合わないのかも。 [DVD(字幕)] 4点(2014-12-01 00:07:32) |
669. ウォッチャーズ(2009)
《ネタバレ》 被害所の自動車事故、ストーカーの監禁、足を痛めつける虐待など、『ミザリー』と幾つか類似点が。 でも、迫りくる怖さが全然違う。 こちらは後発作品で模倣していながらも凡庸。 彼氏のマイクも地元の英雄にしては頼りなくてマヌケすぎる。 映画の内容より、ミーシャ・バートンを見て『シックスセンス』のあの少女がこんなに大人になって、という感慨のほうが強い。 [地上波(吹替)] 4点(2014-12-01 00:05:38) |
670. ラ・ブーム
《ネタバレ》 ソフィー・マルソーのデビュー作だが、まだ全然垢抜けていない。 それでも13歳とは思えないほど背も高くてスタイルがいいので高校生に見える。 ブームがパーティのことだとは、今さらながらに知った。 フランスではローティーンでも自分たちだけの大人数のパーティーが普通だったのか。 日本よりかなり進んでる雰囲気で楽しそう。 純愛ラブストーリー路線と思い込んで見ていたが、ラストには唖然。 チーク相手の少年に、誰だコイツはとそこまでの記憶をたどる。 てっきり自分が見落としたと思ったが、まさか新顔だったとは。 一瞬で新たな恋の始まりとは、あまりにも唐突でシュールなオチ。 こんなに切り替えの早い少女だったとは、まったくもって恐るべし。 いかにもなアイドル青春映画で終わると思っていたら、衝撃のトンデモ大どんでん返しで、後ろから不意打ちを食らった気分。 これがフランス映画か。 サブストーリーに、少女の両親の別居騒動。 こちらは夫の浮気がバレたり、妻も新しい男を作ったり、結局元サヤに戻ったりで、言ってみればよくある話。 当時大ヒットしたようだが、そこまで受けた理由がよくわからない。 [DVD(字幕)] 4点(2014-12-01 00:04:03) |
671. ミスター・ノーボディ
《ネタバレ》 いろいろ粗が目に付いて楽しめず。 ライフルで鞍に仕込んだダイナマイトを狙うのはいいが、相手が正面からやってくるのに角度的に鞍を狙えるわけがない。 正体不明のノーボディの意図がよくわからず、伝説をつくるためとボレガードにまとわりつくので、ネタバラシまではストーカーのような変人に見えてしまう。 最後でやっとノーボディの意図がはっきりするが、それまでは何のための戦いかわからなくて盛り上がらない。 時折はさまれる軽いタッチのコメディ要素も、緊張感を削いで合わなかった。 飄々としたテレンス・ヒルはカッコよかったし、モリコーネの音楽は相変わらず素晴らしいので、こういう変化球ではなく本格派の西部劇をレオーネに作ってほしかった。 [DVD(吹替)] 4点(2014-11-28 00:18:27) |
672. 悪魔の性キャサリン
《ネタバレ》 異端の徒であるレイナー神父が結成した悪魔崇拝のカルト集団に、主の子供と祭り上げられるキャサリン。 ナスターシャ・キンスキーが当時15歳くらいとは思えない気品と美しさ。 ただ、全裸になると女性的な丸みがなく痩せすぎて魅力が減ってしまう。 見どころはナタキンだけで、ホラーといっても怖くはなく、凡庸なストーリー。 いかにもチープなB級ホラーでは、せっかくの素材も生かされず。 演出も雑で、死体になったキャサリン母の呼吸している動きがはっきり見えてしまって興ざめもいいところ。 [DVD(字幕)] 3点(2014-11-28 00:17:10) |
673. 奪還 DAKKAN アルカトラズ
《ネタバレ》 セガールの体が重そうで、アクションが俊敏に見えない。 設定やストーリーも雑。 サーシャが潜入捜査官だとあっさりニックに白状して、たいした山場もない。 潜入捜査官が実はニックだとかの捻りもないので、どこにも意外性がない。 派手な銃撃戦や爆破をやってりゃいいってもんじゃない。 [地上波(吹替)] 3点(2014-11-28 00:15:56) |
674. マイ・ガール
《ネタバレ》 幼い少女がいろんな出来事を経て成長する物語。 ベーダとトーマスは実に微笑ましいが、「子供と動物には勝てない」ことを狙った反則気味のやり口に見えてちょっと引っかかる。 これでは泣けない。 子供がかわいい以前に、物語の内容で動かされたい。 蜂に刺されて死んだ男の子の話はとても切ないが、女の子のほうにあまり共感できなくて。 自分が病気だと思い込む不思議系少女の感情の推移についていけない。 遊園地ではバンパーカーをぶつける激しさに殺意さえ感じられるほどシェリーを嫌っていたのに、それにしてはやけにあっさりシェリーを受け入れたように見える。 トーマスが亡くなった直後なのに、先生に告白するのもエキセントリック。 なるほどそうきたかと感心するような展開はなく、スカートを履くようになったり朗読する詩に成長がうかがえるのも割とあるパターンで、結局子役のかわいさだけに頼っている感も。 父の葬儀屋という職業も生かしきれていないようで、いろいろもったいない。 [DVD(吹替)] 5点(2014-11-25 22:17:08) |
675. それでも夜は明ける
《ネタバレ》 しっかりと丁寧に作りこまれた映画だけれど、心を揺り動かされるまではいかない。 たぶんそれは、予想の範疇に収まってしまう展開だからだろう。 奴隷制度がテーマの似たような物語は何度か見てきたので。 冒頭の回想シーンは、初見の黒人の区別がつかないこともあってわかりにくい。 もう一度見返したら何のシーンだったかようやく理解できるが、見返さないならかえって混乱するだろう。 時折挿入される回想シーンによって、拉致されるまでの生活がうかがえるが、家族で買い物するシーンも意味がわかりにくい。 見終わってから振り返ってみると、黒人の中にも階層があり、主人公も他の黒人奴隷のことを気にかけていなかったということを表したかったシーンなのだろう。 でも、セリフが足りないせいで妙に謎めいたシーンに見えて、主人公に声をかけようとした黒人奴隷が、その後の展開に関わってくるのかとか何か他に重要な意味があるのかと深読みしてしまった。 登場人物に自分さえ助かればいいという心情が随所に見え隠れするが、時代も時代で、実話ならそれが本音で仕方のないところか。 [DVD(吹替)] 6点(2014-11-25 19:58:55)(良:1票) |
676. フォーエバー・フィーバー
《ネタバレ》 シンガポール映画は初めて見たような。 超ベタな青春映画だけど、悪くはない。 両親の期待を背負った弟の突然の性転換希望。 女になった弟を激しく拒絶した父のシーンはシリアスだった。 でも、全体の基調は、ディスコナンバーに乗ってごきげんでポップなコメディ。 ブルース・リーを真似た乱闘は、ここでくるぞと思わせてやっぱり来たかとニンマリ。 クライマックスのダンスはフィギュアのアイスダンスのようで、あまりカッコイイとは思えなかった。 今のストリートダンスに慣れてしまうと、当時のディスコダンスはかなり緩くて野暮ったく見えてしまう。 その野暮ったさを含めて狙いなのかもしれないが。 [DVD(吹替)] 5点(2014-11-24 23:04:30) |
677. スクリーム(1996)
《ネタバレ》 驚かし系ホラーサスペンスで、怖さは感じない。 主人公やサイコな二人よりも、あのマスクが印象に残るだけ。 ホラー映画オタク的オマージュを散りばめたところで、それがなんなのとしか思わないし。 怪しい人物がたくさんいて、犯人はネタバラシまでわからなかったけど、だからといってそれが面白さに直結するかというとそうでもなく。 意外性はあっても、スッキリやられたって感じのネタバタシではない。 それと、ホラーに中途半端なコメディ要素はいらない。 ドリュー・バリモアが早々に消された冒頭は、インパクトがあって期待できるツカミだったのに。 主人公のネーブ・キャンベルの魅力がドリューより落ちるのも、右肩下がりの要因か。 普通なら魅力のあるほうを主人公にするけど、セオリーの逆をいくのがコンセプトでそうしたのだろうか。 [地上波(吹替)] 4点(2014-11-24 23:02:56) |
678. ウエスタン
《ネタバレ》 これぞ西部劇。 165分の長尺なのに、漂う緊張感とサスペンス性で、珍しく長さが気にならなかった。 長いとダレてイライラするのが常なのだが、この作品にはたっぷりした間の演出が合っているということだろう。 三人組が出迎えるブロンソンの登場シーンからもう心を持っていかれる。 「俺の馬は?」「おかしいな。一頭足りないようだ」「いや、二頭余る」 笑っていた三人組が、ブロンソンの返しに顔色を変える。 セリフがいちいちキザだけど、含みがあって唸らされるカッコよさ。 子供も平気で撃ち殺す悪玉ヘンリー・フォンダの存在感が、対決を一層盛り上げてくれる。 フランツが死に際にハーモニカの正体にやっと気づく、ドラマティックで印象的な決着。 一対一のガンファイトは、西部劇の醍醐味だ。 悪玉だか善玉だかわからないシャイアンが、ハーモニカとフランクの戦いに絡んで良い味を出している。 その登場シーンも秀逸で、何者かまったくわからない状態で、酒を飲み干すときに両手の手錠が露になる演出が憎い。 それが直前の外での銃声と合わせて、警備を撃ち殺して逃げてきた囚人とわかる。 そんな男と主人公に芽生える友情が、いかにも漢っぽくて良い。 ジルも従来の西部劇での清純なヒロイン像とは違って、美しくて強かな娼婦上がりの女というのも面白い。 レオーネ監督の演出、セリフが冴え渡って、彼の西部劇の中では一番良かった。 [DVD(吹替)] 10点(2014-11-24 00:39:22) |
679. 八甲田山
《ネタバレ》 無謀な雪中行軍の計画が、多くの人命を奪ってしまった。 指揮する上がバカで考え足らずだと、付いていく下の者たちがもろに被害を食らう。 信じて付いていくしかなかった部下たちが哀れで仕方ない。 山田少佐は決して悪い人ではないのだが、致命的に無能。 神田大尉も指揮官としての役割を果たしていない。 上層部の認識不足や、硬直した組織での率直な意見が憚られる雰囲気が招いた悲劇。 冬山の恐ろしさは、今まで何度も遭難のニュースもあって広く知られるところだが、当時はそういう認識も薄かったのか。 整備されたスキー場でも天候によって恐怖を感じることがあるというのに、この八甲田の吹雪の中で道に迷うことを考えると、文字通り身も凍るほど恐ろしい。 こういう訓練は最悪の状況を想定した上でするべきで、途中の天候悪化で中止にせずに強行してしまったことも不用意な選択だった。 いろんなミスが重なっての大惨事は、近年では2009年の大雪山系トムラウシ山遭難事故を想起させる。 関連の本を読んだことがあるが、これにも壮絶なサバイバルドラマがあった。 杜撰な計画と判断ミスが重なり、リスクマネジメントができなかったための惨事だったが、この八甲田山とダブってみえた。 自然の前では人間なんてひとたまりもないことを思い知らされる。 撮影は苛酷を極めたことが伝わってきて、その生半可ではない苦労が偲ばれる。 ただ、映像が暗いのでかなり見づらいし、170分はさすがに長くてダレてくる。 この映画は今までずっと見る気にならず、健さんが亡くなる数日前にたまたま初鑑賞。 役者としても人間としても好きだったのに。 作品の中だけでなく、人柄を偲ばせる数々のエピソードにも他の人にない魅力を感じていた。 個人的にとてもお世話になった人が健さんと同い年で今年亡くなっていたのもあって、あれこれ感じることも。 なんか淋しい。合掌。 [DVD(邦画)] 5点(2014-11-23 22:47:18) |
680. 真実の行方
《ネタバレ》 法廷で対決した女検事は、弁護士の元同僚で元恋人。殺された大司教には裏の顔があって、セックステープを作っていた。それが犯行動機と推定されるが、アーロンに多重人格障害の症状が表れて――。 白熱した法廷での攻防。ラストはどんでん返しが読めてしまったので驚きはなかったが、最後まで目が離せない。 多重人格者を装う詐病が真相となるサスペンスものは、この作品以降他にも見かけたが、本作が一番面白かったような気がする。役者も良くて、特にエドワード・ノートンは見事。 ただ、少し冷静に考えると現実味のないストーリーで大きな穴がある。最初からアーロンという人格が存在しないのならば、過去の言動を調べたらすぐにロイの人格としてのものが出てきたはず。何年も周囲に隠しきれるものではなく、少なくとも警察はアーロンの身元調査で把握できる。映画ではアーロンがどういう人物なのか聞き込み等でまともに調べるシーンがないが、調べてないというのは本来ありえないこと。ラストでどんでん返しをしたいがために、説明しがたい無理が生じている。 法廷戦術の巧拙によって、有罪無罪が左右される。そこに真実や良心は関係ない。あくまでビジネス。法廷というゲームで勝つことだけを考えている。そんな辣腕弁護士に嫌悪感しか沸かない。 二重人格や精神病を装った詐病は、無罪になるために現実にも使われている手段。サイコパスは息を吐くように嘘をつき無罪を手に入れる。弁護士はその共犯者となる。弁護士は信念をもって良かれと思ってやったこととはいえ結果的に悪魔を野に放ってしまった罪は重い。新たな被害者が出ればどうやって責任を取るつもりなのか。いや、たとえそうなっても責任を問われないことが釈然としない。間違った善意と信念の人というのが最もタチが悪い。 現実社会での裁判で、どうしようもない悪人を助ける弁護士の主張には、首をかしげるような例も多い。弁護するのが仕事とはいえ、どうにも割り切れない不満が蘇ってきて、愕然とする主人公の姿にもだから言わんこっちゃないという冷めた気持ちも。 [DVD(吹替)] 7点(2014-11-21 22:40:51)(良:1票) |