81. 家路(2001)
ネタバレ 悲報が周りの人間たちにまず伝えられ、本人への伝達シーンは割愛される、こういうのがまず巧い!主人公を思いやる共同体というものを形成してそれに観客を参入させるのである。次のショットは自宅二階の窓、そこから庭の「生き残った」孫を見守るPOV、このPOVはのちにもう一回、本当に美しい。急遽代役の、映画出演ということになって、堂々たる演劇俳優が、映画的に切り刻まれる。演劇とは徹底的に区別される映画の残酷という、ベンヤミンばりのアウラの崩壊の図だが、これは、行き着けの喫茶店での内側からの撮影とは全く性格の違う外側からの撮影(喫茶店のフレームの中に主人公)ということでもある。 [ビデオ(字幕)] 10点(2016-01-25 16:38:23) |
82. ラスト・プレゼント
ネタバレ 鶴八鶴次郎なわけで、逆説的な愛情の深さ。おもしろうてやがて泣けるタイプは好きではないので、すれすれだ。おもしろさをきちんと打ち出してもいるイ・ジョンジェがいい! [ビデオ(字幕)] 8点(2016-01-18 17:33:38) |
83. ロスト・ハイウェイ
ネタバレ 無い話はいらんなぁ。出先でメフィストみたいな怪しい人物が目前でささやく、「俺今おまえの家に忍び込んでいる、嘘だと思うなら電話しろ・・・な、ほんとだろ」、これには倒れ込むほどの恐怖がある。この辺で十分で、あとはいらんなぁ。 [ビデオ(字幕)] 5点(2015-11-18 22:33:52) |
84. 偉大なるアンバーソン家の人々
ネタバレ 『市民ケーン』が閉じ籠もった名作だとすれば、これは身近に感じられる名作だ。甘やかされて育った高慢な男(とうぜんながら母の貞操の番をきわめて子供っぽく行う)の転落を待ちうける筋、の筈なのである、作中幾度かそうほのめかされる、が、このダメ男が分不相応な大人の対応をしてもらえるエンディング、それが最大のアイロニー。ジョセフ・コットン、おいしい役! [ビデオ(字幕)] 8点(2015-11-15 11:19:42) |
85. さらば愛しき女よ
ネタバレ フィルム・ノワールでカラーであること、に皆さん触れておられないのだが、この映画のノワールなカラーはなんとも素晴らしい。モノクロで撮るべきかという選択肢もきっとあったに違いない(ヴェンダースの『ハメット』のように)が、カラーならモノクロ寄りのものにしよう(これもヴェンダースの『ハメット』のように)となったのではないだろうか。「ヴェルマ」のところに依頼者と同行するもののそれが罠であり銃撃戦となるシーンは取り分け鮮烈だ。探偵以外は全部死ぬラストには、なんだか急にアメリカを感じてしまう、なぜだろう。 [ビデオ(字幕)] 8点(2015-11-07 12:17:03) |
86. 女(1948)
ネタバレ ダメ男からついには「必死に」逃げる女が、逃げても逃げても捕まるように逃げている、のが腐れ縁における内的葛藤というところだが、正直、いいかげんにしろである。この永遠の不徹底な逃げだけで映画を作るのは大胆すぎる(観客のほうが逃げる)。その代わりといおうか、大エキストラ起用の火事のシーンがものすごく気合いが入っている。要するにこういうことだ、徹底的に寄りの(世界喪失的な)撮影のきわめて個人的な別れ話に、それとはまったく無関係な社会的騒動を目覚まし的に衝突させてみせるという面白さ。 [ビデオ(邦画)] 5点(2015-11-02 11:03:37) |
87. 犯罪河岸
ネタバレ 「フランス版フィルム・ノワール」なる呼称自体が奇妙ということになるが、モノクロの美しさ、殺人理由のリアルな偶発的些末さ、遊び心のある重厚さ、つまり立派な「フィルム・ノワール」作品である。 [ビデオ(字幕)] 7点(2015-11-01 11:28:31) |
88. 召使
ネタバレ 主と奴。奴であった者にカメラが貼り付いていたのに、主と奴の逆転とともにカメラの同情も逆転して、主であった者に向かったりする。英国階級社会を諷刺したとかもあるのだろうが、揺れる観客の視点こそが映画的モンダイ。 [ビデオ(字幕)] 7点(2015-10-26 20:05:19) |
89. 千羽鶴(1969)
ネタバレ 増村が川端とは!?と、まずは驚きなのだが、強弱ではなしに、やはり強強強の増村調である。増村は観客にひたすら襲いかかる。 [ビデオ(邦画)] 6点(2015-09-15 10:04:37) |
90. 青空娘
ネタバレ ウジウジ悩まない、恨まない!(とりわけこれ!)、低レヴェルの諍いに与しない、青空を仰いで苦境をどんどん乗り越えてゆく。昭和32年の快作である。湿っぽい日本映画にあからさまに対抗している。 [ビデオ(邦画)] 9点(2015-09-14 13:33:59) |
91. 最高殊勲夫人
ネタバレ 増村って、強弱がなくて、強強強の連続である。疲れる、が、一生懸命の細部演出の積み上げは感取できるし、ゴージャスな映画である。 [ビデオ(邦画)] 7点(2015-09-12 23:28:06) |
92. パニック・ルーム
ネタバレ 立場が逆転して、監視システムの画像を今度は犯人側が見るというのが最大のアイロニーで、これは、フーコーのパノプティコンを連想させる、監視の二役である。つまり誰もが監視の二役を演じる近代以降の社会というもの。 [ビデオ(字幕)] 6点(2015-08-30 00:24:46) |
93. アルファヴィル
ネタバレ いまとなってはゴダールにしては甘口である。が、我が国の国立大学を「役に立つ」学部のみにしていこうという例の「改革案」とかは、まさにアルファヴィル的だと思わせる作品。とりわけ、アルファヴィルでは深く問う概念というものがどんどん変更・抹消されていく、という設定に、ゴダールの真面目な主張が見える。 [ビデオ(字幕)] 7点(2015-08-28 23:48:45) |
94. 隣の女
ネタバレ トリュフォーってやはり凄い、と見直してしまう。長回しのパンで隣接を撮る、が、まったく無駄は無く、恋愛という単独性の中へ中へと観客を引き入れる。興味深いのは、長回しの偏在カメラからすれば男の側から偏重でもいいところだが、女の側からもほぼ平等の配分の語りであることで、そもそもナレーターとしての傍系人物を設ける語りなのである。だから、客観的な語りのなかに、抑えようもなく噴出する情炎の魅力。 [ビデオ(字幕)] 8点(2015-08-07 00:16:05) |
95. ローラ殺人事件
ネタバレ 美しきローラの肖像画をバックに眠りに落ちた警部の前に、死んだ筈のローラが現れる、となると以下はユメかウツツかという曖昧さで引っ張りたいが、あっさりウツツで、これでは恐怖のダメ出し監督プレミンジャーにこそダメ出ししたいではないか。名高いほどでは残念ながら、ない。 [ビデオ(字幕)] 5点(2015-07-01 17:35:27) |
96. 恐怖分子
ネタバレ 映画にしかできない語り。ほんらい交差することのない人物たちの人生が淡々と並行編集される。誰が主人公なのか、ではない。小説家の妄想がラストに紛らわしく、きわめて効果的に入る、というかたちで小説の語りというものがむしろ相対化されると同時に、映画の語り(視点)の豊かさが印象的である。 [映画館(字幕)] 8点(2015-05-09 23:39:23) |
97. カップルズ
ネタバレ この監督の並行編集癖は、突出した特徴だ。誰が主人公というのではない、あるとき偶然の切り取りで、とりあえずの主人公が産み落とされる。とはいえ、この映画では、ヤクザに追われる実業家の息子というのが一応中心人物だったはずだ、が、激烈な行為に及んだあと、映画の終わりの段階では妙に除けられる。とにかく、並行編集がこの監督の魅力だ、と再度。 [ビデオ(字幕)] 7点(2015-05-09 23:33:41) |
98. トカレフ(1994)
ネタバレ 長回しだ、長い、魅力的に長い。相米慎二との違いってなんだろう、と考える。阪本監督のほうがまだ説話的かな、相米はもう破れている味なので。それにしてもこの主人公が死ぬ必要はないわけでね、しぶとく生き抜ぬくべき、説話的なカッコヨサの要請に背いても。 [ビデオ(邦画)] 7点(2015-04-21 23:50:56) |
99. バーバー
ネタバレ 寡黙な主人公がナレーターを兼ねて、ナレーションも寡黙気味だ。弁護士を擁して、真犯人たるナレーターの側から真犯人を捜すかのようなスタイルをとっており、当たり前のことだが、何も判明しはしないし、とくべつ名案が浮上するわけでもない。アイロニカルなすべてがいいのは、いつも通りのコーエン兄弟。 [ビデオ(字幕)] 8点(2015-04-03 08:32:59) |
100. ミラーズ・クロッシング
ネタバレ カフカの『城』を彷彿とさせる作品は多い。『ミラーズクロッシング』もそれで、見るからにカフカ似の主役が、何やら懸命なのだがほんとうに何をしたいのかほんとうは何を求めているのかは不明で、価値が相対化し尽くされている。「相対化」のなかでのあがきなのだコーエン兄弟のブラックな魅力は。 [ビデオ(字幕)] 8点(2015-03-29 17:54:58) |