1001. ノック・ノック(2015)
ネタバレ 愛する家族とともに順風満帆な生活を送っていたエンジニア、エヴァン。ある静かな夜、彼の家に雨でずぶ濡れになった二人の若い女の子が訪ねてくる。「あたしたち、どうやら道に迷ったみたいなの。すぐに出ていくので電話を貸してくれません?」。妻や子供は泊りがけで出かけていて帰ってくるのは二日後の朝だ。そう、家には自分一人しか居ない。多少の下心もあって、エヴァンは思わず彼女たちを家へと招き入れる。すると、彼女たちは明らかに思わせぶりな言動でエヴァンを翻弄し始めるのだった。当初は断り続けていた彼もとうとう理性の壁が崩れ、思わず男一人女二人のセックスへと雪崩れ込む。だが、彼はまだ知らなかった。そこから悪夢のようなゲームが開始されたことを――。悪魔の如き二人の訪問者によって巻き起こされるとある男の地獄のような二日間をノンストップで描いたサスペンス・スリラー。キアヌ・リーヴス主演ということで今回鑑賞してみたのですが、まあこの題材だけで最後まで突っ走ったところはなかなか潔いと思います。けっこうどぎついエロ&暴力描写が延々と続くのに最後までそこそこ観ていられるのは監督のセンスがなせる業なんでしょう。とはいえ一本の映画として観れば、さすがに脚本に捻りがなさすぎます!普通プロが創った映画って、こういう単純なストーリーでも最後は観客を唸らせるような一捻りをくわえてくるものなのに(優れた脚本家ならさらに二つも三つもひねってきて観客を圧倒させるものです!)、なんなんですか、このテキトーに考えたようなぬるいストーリーは。「そんなモン知らねーよ。とにかく客はエロと刺激がありゃ満足なんだろ!」とでも言わんばかりの監督の開き直りっぷりが僕はとにかく不愉快千万でした。そして、胸糞悪いだけの悪趣味なあのラストなんてもう…。女の子二人組のなかなか男のツボを心得たエロっぷり(僕もこの二人と3Pしてみたい!笑)に+1点。 [DVD(字幕)] 4点(2017-03-21 23:31:50) |
1002. 顔のないヒトラーたち
ネタバレ これは迷宮だ。己を見失うな――。1958年、ナチスやアウシュビッツといった悲惨な過去が徐々に風化しつつあった西ドイツ。正義感に燃える新人検事ラドマンは、陳情に訪れたある一人のジャーナリストの言葉に衝撃を受ける。アウシュビッツで多くのユダヤ人に言語を絶する行いをした元ナチ党員が、今や平気な顔をして小学校の教員をしているというのだ。ジャーナリストと共にすぐさま調査を開始したラドマンだったが、様々な手続きの壁や社会の実力者たちのあからさまな妨害工作に邪魔され、捜査は難航する。「常に正義であれ」。尊敬する父が遺した言葉を支えにそれでも捜査を続行した彼は、やがて衝撃の事実を知ることになる。元ナチ党員とされるドイツ人のリストは全部で60万人分あり、アウシュビッツに関係した者だけで約8千人もの〝容疑者〟が存在することを…。第二次大戦後のドイツで一時期タブーとされていたナチスドイツの罪を告発したことで、戦後社会そのものと戦うことになった青年の苦悩を重厚に描いた政治ドラマ。史実を基にしたということで非常に意義深いテーマを扱った作品であることは僕も認めるところなのですが、一本の映画として見ればいかんせん演出が稚拙というほかありません。とにかく無駄なシーンやエピソードが多く、中盤からの中だるみ感が半端ではありません。主人公の恋愛要素は果たして必要であったのでしょうか。サスペンスが盛り上がりそうになるといちいち違うエピソードが挿入されるのでとてもイライラさせられます。後半で明らかにされる衝撃の事実も予想の範囲内のもので、僕にとってはそこまで心に響くものではありませんでした。おそらく素材は良かったのでしょう。ただ、監督に才能がなかった。残酷なようですが、それが本作を観ての僕の率直な感想です。 [DVD(字幕)] 4点(2017-03-21 22:32:05) |
1003. 裁かれるは善人のみ
ネタバレ ロシアの地方都市で、愛する妻と一人息子と共に平凡な生活を営む自動車修理工と、そんな彼の土地を強制的に収用しようともくろむ悪徳市長との戦いを終始淡々とした視点で見つめたヒューマン・ドラマ。神と人間、善行と悪徳、罪と罰、愛と憎悪、そんな深淵なテーマを平凡な一市民の目線からとらえたところは確かに評価に値すると思います。だけど、いかんせん長い!重い!暗い!最後まで観るのが相当しんどい映画でありました。別に分かりやすい娯楽性だけを映画に求めてるわけじゃないけどさー、もうちょっと面白くしてくれてもいいんじゃないかしら。まあ、これも好みの問題なんでしょうね。アカデミー外国語映画賞の候補になっただけあって完成度はもちろん高いです。面白くはないけど(笑)。 [DVD(字幕)] 6点(2017-03-20 23:10:46) |
1004. リザとキツネと恋する死者たち
ネタバレ 日本の妖怪・女狐をモデルにした、なんとも不思議なテイストのファンタスティック・コメディ。制作したのは日本とはあまり馴染みがないハンガリー、だからなのか片言の日本語で昭和歌謡もどきのポップスを歌うトミー谷なる怪しげなムード歌手が、主人公にだけ見えるユーレイという設定で全編に登場します。このトミー谷なる歌手が歌う楽曲がなんともいい味を出していて、観終わった後もしばらく頭に残ります。お話はとても単純。日本の三文恋愛小説をこよなく愛する引きこもりがちの三十路女性リザが、運命の彼氏を見つけようと悪戦苦闘するもののいい感じになりそうになると相手の男性がことごとく変死するというお話。真相を巡って刑事やアパートのオーナーたちがどたばたとナンセンスな騒動を繰り広げます。まあコメディなので細かいことは気にしちゃダメなんだろうけど、こういうセンスで勝負の映画ってだからこそ細部が大事なんだと改めて気づかされた映画でもありました。具体的に言うと、脚本が練られていないせいでストーリーがちっとも頭に入ってこないのです。せっかくこの独特の雰囲気に思うまま酔いしれたいのに、そこのところが気になって僕はさっぱりでした。あと、トミー谷以外のすべてのキャラにいまいち魅力がないのもいただけない。特に主人公リザのキャラクターが完全にトミー谷に負けてしまっている。こういうのを観ると、いかに『アメリ』が優れた作品であったかが再確認できますね。全編に漂うこの独特のゆるーい雰囲気はけっこう良かっただけに残念です。 [DVD(字幕)] 5点(2017-03-13 12:18:05) |
1005. ウォーリアー
ネタバレ 総合格闘技の世界で互いに確執を抱えた兄弟がそれぞれ命を削ってまで戦い抜く姿を描いたスポーツ群像ドラマ。見所は、トム・ハーディやニック・ノルティをはじめとする男くさい役者陣の文字通り血沸き肉躍る熱い演技のぶつかり合いでしょう。天才肌の弟と不器用ながらも家族のために必死になって戦い抜く兄貴、そして過去に色々と問題を抱えたしまった父親…。ベタながらも最後まで熱いドラマが展開されていきます。ただ難点は、いくらなんでもエピソードを詰め込みすぎなところでしょうか。例えば兄貴。難病を抱えた娘の治療費がかさんで家を手放さざるをえなくなる。何とか借金を返すために身一つで昔なじみのジム経営者の元を訪れ格闘技の世界に挑むのだけど、そのために教師の職をなくしてしまう。ぎりぎりまで追い詰められながらもトレーニングを重ね、やがて世界最高峰の大会への切符を手にする。かつての教え子や上司も次第に勝ち進んでゆく彼に少しずつエールを送りはじめ、そして、最後まで反対していた妻も…って、これだけで映画一本いけますやん(笑)。例えば弟。イラクからの帰還兵である彼は、常に謎めいた存在で何か心に闇を抱えていることを窺わせる。でもその天才的な格闘技のセンスでもって大会を勝ち進んでゆき、世間の注目を集めるように。すると彼の戦場での過去が明らかにされ、実は仲間の命を救った英雄であることが判明する。入場曲を持たない彼のために自主的に集まってアメリカ国歌を歌う海兵隊員たち。だが、決勝進出を決めた直後、さらに衝撃の事実が明らかとなるのだった…って、こっちもこれだけで映画一本いけますやん(笑)。そして彼らの父親。かつては子供想いのよき父だったのに酒が原因で身を持ち崩し妻に暴力を振るって今や何もかもを失ってしまった。せめて孫と穏やかな時間を過ごしたいと決死の覚悟で禁酒しているのだが、彼の息子たちは決して父の過去を許しはしない。そんな彼にまたもや酒の誘惑が…って、これも映画一本いけますやん(笑)。さらには弟にスパーリングでボコボコにされリベンジを誓うヤツやら今や伝説となったロシアのチャンピオンやら、いろいろ出てきて後半はもう何が何だか分かりません。もっと軸となるお話に焦点を絞って、無駄なエピソードを削って、もっとスリムに出来たんじゃないでしょうか。観客に楽しんでもらいたいという監督の有り余る熱意だけは伝わってきたので残念でなりません。 [DVD(字幕)] 5点(2017-03-07 22:08:29)(良:1票) |
1006. ダークシティ
ネタバレ そこそこ昔のB級SF映画なんだけど、世界観がしっかりしているし脚本もけっこう練られているしで、なかなか面白いじゃん、これ。低予算ながら、ここまでの独自の世界観を――破綻ぎりぎりのところで――纏め上げた監督の姿勢は立派。ちょっとテリー・ギリアム入ってるとこも個人的にツボでした。うん、今更だけど、この映画けっこう好きっす!7点! [DVD(字幕)] 7点(2017-03-02 22:58:53) |
1007. ヒトラー暗殺、13分の誤算
ネタバレ エルザー、君の暗殺計画の結果何が起きたと思う?そう、君のせいで何の罪もない7名の人間が死亡したんだ。何の権利があって彼らを殺した――。1939年11月8日、開戦直後のドイツ。スイスとの国境に近い田舎町で、前代未聞のヒトラー暗殺未遂事件が発生する。稀代の独裁者は偶然にも会場を13分早く出て爆死を免れたのだ。容疑者としてすぐに逮捕されたのは、この地で長年にわたり時計職人として働いていたゲオルク・エルザー。当然背後に組織的な関与があったことを信じて疑わない当局は、彼の口を何としてでも割ろうと拷問を開始する。だが、エルザーは頑として単独犯行を主張し、酷い拷問にも一向に口を割ろうとしない。すると、歯を食いしばって拷問に耐える彼の脳裏に様々な過去の記憶が甦ってくるのだった。仲間たちとともに理想に燃えた青春時代、虐げられるユダヤの人々、そして愛してしまった人妻との満たされた日々…。果たしてエルザーは何故、全てを捨ててまで彼を暗殺しようと思い立ったのか?実際にあったヒトラー暗殺未遂事件を基に、容疑者である一人の青年の過去と現代を交互に描きながら、歴史の闇に埋もれていた真実を現代に甦らせた政治サスペンス。確かに史実としての重みを充分に感じさせる硬派な政治劇として見応えはあったと思います。もし、あの日、霧が発生しなければ、もし彼の乗るはずだった飛行機が普通に飛んでいれば、もし彼が13分も早く会場を出ていなければ、歴史は変わっていたのかもしれない。ヨーロッパの隅々にまで壊滅的な打撃を与え、何百万にも及ぶユダヤの民を死に追いやることになる彼が、もしあの日、殺されていれば――。でも、実際に死んだのは偶然会場に居合わせた何の罪もない7人の人々。歴史に〝もし〟は禁物だとは言え、それでも正義を成すこと、その正義のための犠牲は許されるのか、ホロコーストを阻止するために彼らは犠牲とならざるをえなかったのか、そしてその計画が失敗したとなれば…など色々と考えさせられることは間違いありません。ただ、だからと言ってそれは映画としての完成度とはまた別の話。犯人として逮捕されたこのエルザーという男がなぜヒトラー暗殺を企てたのかということに物語の焦点が搾られてゆくのですが、最後まで目新しい真実が暴かれるといったこともないので、サスペンスとしていまいち盛り上がりに欠けるのです。きっとアプローチの仕方を間違えたのでしょう。このエルザーという男の心の闇に鋭く迫る心理劇として描いた方が、より哲学的な深い作品になったかもしれません。題材がいいだけに惜しいと言わざるを得ませんね。 [DVD(字幕)] 5点(2017-02-22 00:35:17) |
1008. マジカル・ガール
ネタバレ 魔法少女ユキコ――。スペインの地で、重い白血病を患い余命幾ばくもない少女は、遠く離れたそんな日本のアニメを夢見ている。失業中の彼女の父親は、娘のせめてもの願いを叶えて逝かせてやりたいと思うのだが、明日の生活すらままならず、とても彼女が夢見る特注のドレスを買い与えてやることが出来ないでいた。自暴自棄に陥った父親は、宝石店に強盗に入ることを決意する。近くに落ちていた石を拾い、今まさにショーウィンドウを割ろうとしたその時、誰が吐いたのか空から嘔吐物が降ってくるのだった。そしてそれは、新たな悲劇の始まりとなるのだった…。様々な困難に直面した人々の偶然の出会いがさらなる悲劇を引き起こす様を終始淡々と見つめたヒューマン・ドラマ。スペインが制作した日本のオタク文化である萌え系アニメをフューチャーした作品ということで今回鑑賞してみたのだけど、これが近年稀に見るほどのつまらなさでびっくりいたしました。何が駄目かって、まずタイトルにもなっている魔法少女ユキコという、この物語の要が一切活かされていないこと。白血病の少女が日本語のポップソングをバックに踊ったり部屋にポスターが貼られているくらいで、このアニメがどんな内容なのか一切触れられていないのです。なのでこの少女がどうしてこのアニメにここまで心酔しているのかがまったく分からず作品としてのテーマがかなりぼやけてしまっている。せっかく夢のような萌え系アニメと辛く息苦しい現実との対比といういくらでも拡がりそうな魅力的なテーマを扱っているのに、これでは勿体ないと言わざるを得ません。また、魅力的なキャラクターが一切登場しないのもいただけない。というより、登場人物が皆揃いも揃って根暗で常に眉間に皺を寄せてぼそぼそと喋るような人たちばかりで、誰にも感情移入できませんでした。そして無駄なシーンが圧倒的に多い。「ここ、本当にいるの?」と思えるような退屈なシーンのオンパレードで、自分は途中から眠気と戦いながらの鑑賞となってしまいました。無駄を削っていけばきっと三分の一くらいで収まったんじゃないでしょうか。冒頭へと強引にループする、あまりにも無理やりなラストなどもはや目も当てられない。残念ながら、自分には観るだけ時間の無駄の駄作としか思えませんでした。 [DVD(字幕)] 3点(2017-02-19 22:51:41) |
1009. 不屈の男 アンブロークン
ネタバレ ルイ・ザンペリーニ、またの名を不屈の男――。第二次大戦前夜、ベルリン・オリンピックにも出場したトップ・アスリートの彼は、次の東京オリンピックでのメダルを目指し練習を重ねていた。だが、そんな充実した彼の人生にも時代の荒波が押し寄せてくる。突如として日本が真珠湾を攻撃し、アメリカは戦時体制への移行を余儀なくされたのだ。兵士として太平洋戦線へと送られた彼は、大日本帝国を相手にいつ終わるとも知れぬ戦いの日々を過ごすことに。そんな彼を新たな悲劇が襲う。ある日、乗っていた飛行機が故障し、広大な太平洋上に不時着してしまったのだ。見渡す限り何もない洋上で、二人の仲間と共に小さなゴムボートでただひたすら漂流を続けるルイ。食料も水も底を尽き、来る日も来る日も波に揺られ続けるという極限状況に次第に心が挫けそうになりながらも、ルイは神に縋ることで何とか理性を保っていた。すると、そんな彼の願いが聞き届けられたのか、とうとう彼らは陸地へと辿り着く。だが、そこに掲げられた旗を見てまたもや絶望に打ちのめされるのだった。何故ならそこには立派な日の丸が描かれていたから……。どんな状況でも決して挫けず常に前を向いて生きてきた男の生涯を、実話を基にして描いた伝記ドラマ。アンジェリーナ・ジョリーの監督二作目にして一部で内容が反日的だとして話題になっていた本作、いやいや別にこれくらい普通ですやん。これで反日なら、ナチスを扱った映画など全て反ドイツ映画になっちゃいますって。まあ騒いでいるのは一部の人たちなんでしょうけど。肝心の内容の方なのですが、ストレートな脚本ながら最後まで一気に見せきったところは素直に評価されてしかるべきでしょう。事実の重みも相俟って、この〝不屈の男〟ルイの波乱万丈の生涯といついかなる時も希望を見失わなかった生き様にただただ圧倒されるばかりです。最後、長野五輪で多くの日本人に声援を送られながら走る実際の映像など、同じ日本人なら誰もが何かしら思わずにはいられない。ただ、本作には極めて致命的な欠点が一つ。それは、「人間を全く描けていない」ということ。例えば主人公、どうして彼がそこまでの愛国心を抱き、生への希望を捨てなかったのか、その理由が一切描かれていないのです。だから、この主人公はほとんど泣いたり怒ったりしません。ただ淡々と困難を乗り越えてゆく。なので観客である僕たちも特に心を動かされることもない。意図してそう描いたのかもしれませんが、映画としてこれは大きなマイナス・ポイントと言わざるを得ないでしょう。それは、捕虜となったアメリカ人や冷酷な渡辺軍曹以外の日本兵にも言えることです。まるで書割に描かれた絵のようにしかそこに存在していない。これは監督の資質によるところが大きいのかもしれません。優れた監督は、脇役の一人一人にまで人間性を与えるものです。史実を知るための再現ドラマとしてはそこそこよく出来ているがそれだけ、というのが僕の率直な感想です。 [DVD(字幕)] 6点(2017-02-13 23:35:54) |
1010. ヴィジット
ネタバレ 物語は一本のインタビュー映像から始まる。話しているのはとある中年女性。若かりし日のダメ男との大恋愛と家出、それから長年にわたる両親との断絶の日々を熱弁している。撮っているのは彼女の二人の子供たちだ。映画監督を夢見る思春期真っ只中の姉は何に対しても好奇心旺盛で、まだ小学生の生意気盛りの弟はラップが得意な典型的な現代っ子。これはその後、最近ようやく和解したそのおじいちゃんとおばあちゃんの家へと泊りがけで出かけた姉弟が撮ったビデオ映像を再編集したものである――。最初は一見優し気なその祖父母との生活にテンション上がりっぱなしの2人。だが、一日、二日と過ごしてゆくうちに次第に彼らの奇行が目につくようになる。夜になると裸で廊下を走り回ったり突然わけの分からないことを言い出すおばあちゃんに、お漏らししたオムツを溜め込んだりいきなり激昂して赤の他人に絡んでゆくおじいちゃん…。不安を感じながらも姉弟は残りの日々を過ごしていくのだったが――。いろんな意味でハリウッドの異端児と称されるM・ナイト・シャマランの最新作は、POVという手法を駆使して撮られたいかにも彼らしいサスペンス・スリラーでした。最初こそ、「シャマランが今さらPOV?」と疑問を感じながら観ていたんだけど、これがなかなかポイントを押さえた演出がばっちり決まっていて、途中からはけっこう見入っている自分がいました。うん、なかなか面白いじゃん、これ。見所はやはりこの主人公二人を招き入れる老夫婦のあり得ないほどの不気味さでしょう。徐々に狂気を露わにさせるポイントがすごく絶妙で、当初の優し気な印象とのギャップにじんわりと冷や汗が…。「シャイニング」以来、やはり裸のババアほど怖いものはないですね(笑)。クライマックスでのジジイのオムツを顔に付けられるシーンは、我が映画鑑賞史上最大の生理的に無理な気持ち悪さで思わず悲鳴!!ただ、POVという手法上仕方ないのかもしれませんが、少々脚本に強引さが目立つのが本作の難点。ここまで狂気を露わにした夫婦宅に最後まで泊まろうとするなんてこの姉弟、どんなけ義理堅いねん!それにお姉ちゃん、そのタイミングで地下室に行くなんて殺してくれって言ってるようなもんじゃん!!と、そこらへんに不満は残るものの、最近不調の目立つシャマランの中ではけっこうよく出来ていたんじゃないでしょーか。 [DVD(字幕)] 6点(2017-02-12 23:00:00) |
1011. クロノス(1992)
ネタバレ クロノス――。それはかつて、永遠の命と引き換えに悪魔へと魂を売り渡した男が遺した闇の遺産だ。華麗な修飾が施されたその掌に収まるほどの小さな美術品には、人智を越えた力による精緻な細工が施されている。そう、時計仕掛けで動く隠されたその内部には、人の血を何よりも欲する小さな蟲が蠢いているのだ。偶然、それを手に入れてしまった古美術商の老人は、何も知らずそのスイッチを入れてしまう。突然飛び出した、まるで蟲の触手のような謎の部品により、その手を血だらけにされてしまった持ち主の古美術商。以来彼は、他人の血を欲する人ならざる者へと変貌を遂げてしまうのだった。死の病に侵された老人、古美術商の愛する女性、孫である無垢な少女。現代に甦った闇の力は、そんな様々な人々の生活を徐々に侵食してゆく…。鬼才ギレルモ・デル・トロ監督の長編映画デビュー作となる本作は、後に開花する彼の才能の片鱗を窺わせるそんなダーク・ホラーでした。クロノスのその細部にまで拘りぬいた造形美や、生ける屍となった主人公の皮膚がグロテスクに剥がれ落ちたり、瀕死の老人に雇われたロン・パールマン(ヘルボーイ!)のその飄々としたキャラクター造形など、いかにもデルトロらしいこの濃厚な世界観はなかなか興味深く鑑賞させていただきました。男子トイレの床に垂れた血を這いつくばって舐める老人の姿はなかなかシュール(笑)。孤独な世界に生きる、孫娘の可憐な少女像は後の傑作『パンズ・ラビリンス』の原型ですね。ただ、低予算だから仕方ないのかも知れませんが、この全編に漂うあからさまなチープ感は今観るとさすがにちと辛いっす。デル・トロファンは観て損はないけど、それ以外の人にはちょっと……って感じですかね。6点っす。 [DVD(字幕)] 6点(2017-02-10 01:02:20) |
1012. ザ・ガンマン
ネタバレ 『ブラッド・ダイヤモンド』のような社会性の強いアクション・エンタメ作品を目指して制作されたのだろうけど、とにかく脚本が穴だらけでいまいち面白くなかったです。50代とは思えぬ、ショーン・ペンさんのガチガチに引き締まった肉体美に+1点。 [DVD(字幕)] 5点(2017-02-08 14:28:52) |
1013. 追憶の森
ネタバレ ここはただの森じゃない。この場所は、君たちのいう〝煉獄〟だ――。ほとんど荷物も持たず、着の身着のままで日本へとやってきたアメリカ人科学者、アーサー。目的は、観光でも仕事でもない。その真の目的とは、世界有数の自殺の名所である青木ヶ原樹海へと趣き、自らの人生に終止符を打つこと。コートのポケットに睡眠薬を忍ばせ、タクシーで目的地へと辿り着いたアーサーは立ち入り禁止の看板を無視して森へと足を踏み入れる。携帯もコンパスも役に立たない深い森の中でたった一人、彼は死に場所を求めて彷徨い続けるのだった。だが、アーサーはそこで偶然通りかかった一人の日本人男性と出会う。全身泥だらけ、生気のない顔で森を歩く彼の両手には何本ものためらい傷が走っていた。そう、タクミと名乗る彼もまた死の誘惑に囚われた一人だったのだ。死にきれずもう一度家族の元へと帰りたいと願うタクミと、妻との満たされない夫婦生活に深く心を傷つけられたアーサー。生への微かな希望を捨てきれず後戻りしようともがく2人だったが、〝森〟はそんな彼らを容易に解放しようとはしなかった…。鬱蒼と茂る富士の樹海を舞台に、マシュー・マコノヒーと渡辺謙という二大演技派俳優がほぼ二人芝居で挑んだのは、そんな哀切な空気漂うヒューマン・ドラマだ。監督は、優秀なドラマを幾つもものにしてきた一方、時にびっくりするようなつまらない作品を撮ることでも有名なガス・ヴァン・サント。二人の男がただ森を彷徨い続ける映画と聞いて、僕の脳裏に真っ先に浮かんだのは知る人ぞ知る伝説的クソ映画として名高い同監督作品『ジェリー』。あちらは主演のマッド・デイモンがただひたすら砂漠を彷徨い歩くだけの映像を延々見せ続けるという苦痛以外の何物でもない作品であったが、こちらは最後までちゃんとしたドラマとして作られておりひとまず安心した。と、そういう前提で観始めたのが功を奏したのか、そんなに悪くないというのが僕の率直な感想だ。確かに脚本がいまいち練られていないという欠点が大きく目立つ作品ではあるのだが(自殺の動機となった妻とのエピソードが類型的、黄色と冬の伏線が効果的に使われていない、最後の10分に漂うあからさまな蛇足感等々)、見どころは富士の樹海が放つその冷酷なまでの神秘性だろう。死や自殺を必ずしも否定せず、むしろ自然の摂理の一部として慈悲をもって見つめている。一神教にはない、日本的アミニズムの神々しさが――完全ではないにせよ――画面の中に捉えられていた。その点は評価されてしかるべきだろう。主演俳優2人の存在感も際立っていた。 [DVD(字幕)] 6点(2017-02-03 00:25:27)(良:1票) |
1014. 虹蛇と眠る女
ネタバレ オーストラリア郊外にある荒廃した砂漠の街を舞台に、突然失踪した二人の幼い子供を巡って次第に追い詰められていくとある夫婦を描いたネイティブ・ミステリー。ニコール・キッドマン主演ということで今回鑑賞してみたんですが、とにかくこれが驚くほど演出が稚拙でびっくりいたしました。もうほとんど素人レベルと言っても過言ではありません。ただ小汚いだけで一切センスを感じさせない映像が延々と続き、場面場面の繋がりもいちいち悪いし、あってなきが如しの退屈なストーリー等々、最後まで観るのが苦痛で苦痛で仕方なかったです。ところどころで差し挟まれる、さして意味のない砂漠の空撮映像がますます睡魔を誘発させ、最後まで観た自分を誉めてあげたいくらい(笑)。原題とは全く関係ない邦題の〝虹蛇〟も配給会社が客を呼ぶために無理やりひねり出した感が半端なく、後味が悪いだけで何も解決しないラストなどもはや目も当てられません。美熟女ニコール・キッドマンのフルヌード露出プレイに+1点。 [DVD(字幕)] 3点(2017-01-30 02:15:17) |
1015. コードネーム U.N.C.L.E.
ネタバレ 東西冷戦が激化し始めた1960年代を舞台に、本来は敵同士であるはずのCIAとKGBのトップエージェントがタッグを組み、世界を救うために大活躍する姿を描いたスパイ・アクション。アメリカ側の主人公はいかにも軽いプレイボーイのナポレオン・ソロ、ソ連側の主人公はこれまたいかにもお堅いクソ真面目男(失礼!)イリヤ・クリヤキン。そんな二人を翻弄する謎の美女も登場し、物語は騙し騙され時に反発しあいながらも最終的には世界を救うために互いに協力して悪に立ち向かってゆく姿が描かれる…。と、いかにもガイ・リッチーらしいスタイリッシュ&お洒落な軽いノリのエンタメ作品なのだが、これがなかなか手堅く作られており、素直に面白かった。遊び心満載のアクションシーンは切れ味抜群、全く正反対の主人公二人が巻き起こす騒動はベタながらもクスリとさせられ、美男美女の主人公たちも役柄にばっちり嵌まっていて見応えはかなり高い。特に、あの「ヒロシです。エロ本を買っているのだから、テープでよろしいわけないじゃないですか…」でお馴染みのあの曲をバックに展開される、水中チェイスシーンは出色の出来だった。ただ、作品の性質上仕方ないとは言え、本作の欠点はよくも悪くもこの軽さ。観終わった後に何も残らないのだ。これに、ピリリと辛い一片の毒のような隠し味でも効いていればもう少し違った印象を残しただろうけれど、それは好みの問題だろうか。クライマックスにおける若干の尻すぼみ感も気になった。とはいえエンドロールを迎えるまでの2時間弱、安心して観ていられるアクション・エンタメとしては充分水準に達しているので見て損はないだろう。 [DVD(字幕)] 6点(2017-01-30 01:52:34) |
1016. アメリカン・ドリーマー 理想の代償
ネタバレ 1980年代のニューヨークを舞台に、経営危機に陥った会社を救うため、金策に駆けずり回る経営者の苦悩を描いた重厚な社会派ドラマ。確かに完成度は高いのかもしれないが、一本のドラマとして見ればあまり面白いとは思えなかった。この鬱陶しいほどの重苦しさに、最後までいまいち馴染めなかったのが原因だろう。これは好みの問題なので如何ともしがたい。 [DVD(字幕)] 5点(2017-01-24 23:36:36) |
1017. グッドナイト・マミー(2014)
ネタバレ オーストリア郊外に建つ一軒の豪華な別荘。社会からほとんど隔離されたこの館には、双子の兄弟ルーカスとエリアスが自由気儘に暮らしていた。顔はもちろん背丈も髪型も体型も着ている服もほとんど同じな彼らは、どこに行くにも一緒の仲良し兄弟だ。そんな彼らが住む館に、手術を終えたばかりの母親が久しぶりに帰ってくる。だが、包帯で顔をぐるぐる巻きにされた彼女は以前とは性格ががらりと変わっていた。常に神経を尖らせ、ちょっとしたことに怒りをあらわにし、あろうことか二人に手を上げるまでになってしまったのだ。「あの人は本当のママじゃない」――。そう確信した兄弟はママの本当の正体を探り始める。そんな2人もとある秘密を抱えていて……。パッケージの感じからもっとB級寄りのハリウッド的エンタメ・ホラーだと思って観てみたら、まさかのヨーロッパ系アート作品でちょっとびっくり。冒頭からBGMや具体的な説明は一切なし、ぶつ切りに編集された静かな映像が淡々と続いていき、気軽な感じで見始めた僕は「あぁ、こっち系の映画かぁ」と頭を切り替えるのがなかなか大変でした。と、最初こそその余りに淡々とした展開に眠気が隠し切れなかったのですが、後半、徐々にこの兄弟の背景と狙いが分かってくるにつれ、この作品に漂う不穏な空気にじんわりと冷や汗が…。いやー、この胸糞悪い感じはいかにもヨーロッパ的ですね。胸糞悪映画の巨峰『ファニー・ゲーム』や『マーターズ』を観た時のことを思い出してしまいました。と、確かに完成度は高かったのですが、その2作品に比べるとあまりにお話がシンプル過ぎてやや深みに欠けたのが残念。ホラーでいくのかアートでいくのか、ちょっと軸が明確でない感じもして、僕はそこまで好きにはなれなかったです。 [DVD(字幕)] 6点(2017-01-16 22:37:17) |
1018. エベレスト 3D
ネタバレ こんなけ豪華な役者陣を使っておきながら、登場人物の誰一人としてキャラが立ってなーーい!!脚本に全く起伏がなーーい!!と、エベレストと言いながら、近所の里山くらいのレベルの映画でありました。 [DVD(字幕)] 4点(2017-01-12 22:48:55) |
1019. 人生スイッチ
ネタバレ ふとしたきっかけで人生の落とし穴に落ちてしまった人たち。前を走るポンコツ車の運転手へと追い抜きざまに罵声を浴びせた男、偶然客としてやってきた父親の敵へと復讐しようともがく深夜のファミレスのウェイトレス、駐禁を取られたことに怒り心頭な建築技師は当局の窓口で不満をぶちまける。息子の轢き逃げを金の力で揉み消そうと画策するブルジョアは逆に追い詰められ、結婚式の最中に夫の浮気を知った花嫁は悪女と化す。それはまるで人生を破滅へと導く禁断の〝スイッチ〟を押してしまったかのように――。不条理な事態に追い込まれ、自滅していく人々をブラックかつシニカルに描いたオムニバス作品。スペインの巨匠ペドロ・アルモドバルが制作を務め、アカデミー外国語映画賞の候補にもなったということで今回鑑賞してみました。確かに個々のお話は短いながらもそれぞれにキレがあり、独特のカメラワークや悪意に満ちたストーリーテリングの妙もあって、普通に面白いとは思ます。特に一番はじめの飛行機の話と、2人の男が些細なことから言い争いをはじめ次第に殺し合いにまで発展する第3話はけっこう惹き込まれました。女の壮絶なバトルが繰り広げられる最後の花嫁の話など、いかにもアルモドバルが好きそうなブラック・ユーモアに満ち満ちていて楽しい。とはいえ、1本の映画として評価するならば正直微妙。個々のお話に全く繋がりがなく全体の統一感が希薄なせいで、一つの作品としてみるとさすがに散漫さが否めません。例えばこれに同一のキャラクターが複数のお話にまたがって登場するだとか、あるいはお話の舞台がリンクするだとか、そういった工夫が欲しかったところ。それぞれのエピソードのクオリティは――程度の差はあれ――なかなか高かっただけに惜しい。 [DVD(字幕)] 5点(2017-01-11 22:08:36) |
1020. 完全なるチェックメイト
ネタバレ 東西冷戦が激化し始めた1970年代、プロチェスプレイヤーのボビー・フィッシャーはその類稀な才能でもって輝かしい戦績を挙げていた。だが、極めて偏屈で自己中心的な性格からその私生活はかなり破天荒なものだった。スタッフに到底不可能な要求を何度も繰り返し、見るに堪えない悪態など日常茶飯事、気に食わないことがあれば試合会場にすら現れない…。それでもひとたびチェス盤に向かえば、天才的なひらめきと緻密に考え抜かれた戦略でもって相手を翻弄する。天才の名をほしいままにする彼が当時の世界王者、ソ連のスパスキーと対戦することになった。世界中から注目を浴びた彼らの対戦は、いつしかアメリカとソ連の代理戦争の様相を呈してくる。すると、ただでさえ細いワイヤーの上を歩くように張り詰められていた彼の精神は、ますます崩壊へと向かうのだった――。実在した天才チェスプレイヤーの破滅的な生涯を、世界王者スパスキーとの今や伝説となった対戦を軸に描き出す社会派ドラマ。監督は、社会性に富んだエンタメ・アクションを得意とするエドワード・ズウィック。病的な性格で回りを翻弄するボビー・フィッシャー役には、まさにはまり役とも言えるトビー・マグワイヤ。もうこれだけで映画として一定の水準は保証されたようなもの。その期待に違わず、ズウィック監督のストーリーテリングは手堅く纏められ、狂人一歩手前のボビー・フィッシャーというこの人物の生きざまが濃厚に伝わってくる佳品となっていた。数奇な運命を歩んだ彼の人生を、その生涯の中でも最高の対局と評されるスパスキーとの第6局へと収斂させる流れも巧い。特に、精神が崩壊寸前まで追い詰められたボビーを鬼気迫るように演じたT・マグワイヤはなかなかのものだった。これまで馴染みのなかったチェスという世界の凄みを充分味合わせてもらった。だが、正直何か物足らないものを感じてしまったのも事実。例えば、同じようにプレッシャーから狂気へと捉われるプリマを描いたアロノフスキー監督の傑作『ブラックスワン』などと比べると、その狂気の迫力が幾分か劣るように感じてしまうのだ。これは監督の資質の問題だろう。ズウィック監督の才能はこのような個人の精神世界を描くのにはいまいち向いていないように思う。あと、この対戦の後にまるで世捨て人のように世界中を放浪した彼の人生を自分はもっと見たかった。 [DVD(字幕)] 6点(2017-01-08 21:26:47) |