101. 親不孝通り
ネタバレ 日活の石原裕次郎&浅丘ルリ子と並ぶ、当時の大映のゴールデン・コンビ川口浩&野添ひとみ、この二人と増村保造は相性が良かったんじゃないかと思う。自身の出自もあるけど、川口浩は育ちが良いけどちょっとグレた若者や大学生を演じさせたらほんと自然な感じで上手いんだよな。本作でも賭けボウリングで稼ぎ銀座の裏通りあたりで毎晩飲み歩く卒業間近の大学生、でもマメに会社訪問をして就職活動は怠らないのである。「あの人は六大学のボウリング・チャンピオンなのよ」女子学生のセリフもあり、自分の勝手なイメージでは法政大生って感じかな。彼の姉=桂木洋子は服飾デザイナーで証券会社員の船越英二と結婚を夢見て交際するけど、妊娠してしまい中絶することに。面白いというか不思議なところは、桂木洋子には中絶することには大して抵抗がない感じでそれよりも船越英二に結婚する気がないという事の方がショックだったみたい。今ではちょっと考えられないことだけど、人口爆増中の高度成長期に入った当時の日本では中絶に対する社会の認識がけっこう軽かったみたいなことを何かの本で読んだ記憶が甦りました。それを知って激怒した弟・川口浩は、溺愛する女子大生の妹=野添ひとみをモノにし妊娠させて捨てて船越英二に復讐することを画策する。二人が出会って知り合うところはちょっとご都合主義が過ぎた気もしますけどね。思惑通りに野添ひとみを孕ませたけど、彼女の決断で事態は思わぬ方向へ向かう。 まあ予想が付きやすいストーリー展開だけど、増村保造流のテンポの良い演出と川口浩の好演でサクサクと観れます。脇では学生たちのたまり場になる居酒屋の主人=潮万太郎が良い味出してました。この人は当時の大映作品には欠かせない名バイプレーヤーです。銀座界隈には親不孝通りなんてものはなく、本家は福岡の予備校が立ち並ぶ通りのことなんですが、劇中では川口浩も野添ひとみも親は出てこないのは笑っちゃいます。けっきょく、どう転んでも船越英二が川口浩の義兄になるのが運命でした(笑)。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2024-08-27 23:38:51) |
102. プー あくまのくまさん
「くまのプーさん」と言うたらあの一党独裁国家の親玉のあだ名、あの国ではプーさんというワードや映像はネットでは検閲&即削除されるタブー中のタブー。こんな今や物騒なキャラを怪物ヴィランにするなんて英国にあの国から刺客が飛んでくるんじゃないかと心配するが、案の定香港・マカオでは上映禁止だったそうです。 そんな高尚な志を持ってこのキャラを選んだわけもなく(単に原作小説がパブリックドメインになったからだそうです)、単なるC級スプラッター・ホラーでしかない代物ですが、10万ドルの製作費で420万ドル稼いだんだからそりゃ笑いが止まらんでしょ。なんかこの製作陣は味を占めて、続編は造るし『ピーターパン』や『ピノキオ』が暴れるスプラッターまで企画しているらしい。おまけに今年のラジー賞で作品賞はじめ五部門も受賞する快挙まで、でもねこんな便所の落書きみたいなクソ映画を相手にしたら、さすがにラジー賞の権威(?)が落ちるってもんですよ。 プーもピグレットも単にアニマル・マスクを被っただけとしか見えないし、バカバカしいほど単純な脚本の上に画面が暗くてストレスが溜まるし、ほんと褒めるところがないですよ。まあ妙に理屈っぽくないところと類似パターンが思いつかない救いようのないラストがある意味斬新だったので、プラス一点献上いたします。 [CS・衛星(字幕)] 2点(2024-08-24 23:13:46) |
103. 炎のランナー
ネタバレ 自分は前回の東京オリンピックのゴタゴタで、巨大ビジネスと化してしまったオリンピックというお祭り騒ぎにすっかり嫌気がさして興味もなくしてしまったので今回のパリ・オリンピックはいっさい観てもいないが、ここで100年前の同地でのオリンピックを振り返ってみたいと感じて本作を観返してみました。 ハロルド・エイブラハムとエリック・リデルはもちろん実在のメダリストだけど、この映画の中では二人のアウトサイダーと大英帝国とのそれぞれの係わりを興味深い対比で見せてくれます。エイブラハムはユダヤ人移民の出自でリデルはスコットランド人の長老派教会の宣教師、両者とも大英帝国のエスタブリッシュメントからすればイングランドに飲み込まれた異邦人なんです。ハロルドは裕福な家庭で育ちケンブリッジに学ぶ頭脳の持ち主だが、レースで勝つことでユダヤ人というハンデを消したいと熱望する男。英国はロスチャイルド家が爵位を得たりベンジャミン・ディズレーリが宰相に昇りつめたりしているが、ユダヤ人を差別はしないが区別はするというのが英国社会の本音、要は利用できるものはとことん利用しますけど…という感じです。エリックは早く走れることは神が与えてくれた能力で、これを活かして神の御業を称えたい、というコチコチのキリスト者。両人とも、自己の信条をエスタブリッシュメントが求める国家や大学に対する忠誠のためには絶対に曲げないタイプ。対して真のエスタブリッシュメントの一員であるリンゼイには走ることは彼にとって遊びの一つであり、オリンピックでも何の気負いもなく400m走の出場権をエリックに譲る。この三者の生き方の違いを上手に脚色した素晴らしい脚本だと思います。 それにしても100年前のオリンピックの素朴なところと言ったら、100年後と較べると町内会の運動会を見ているような感じです。あとこの大会の参加は44国・地域だったそうですけど、異様なほど有色人種の選手が観れずまさに“白すぎるオリンピック”という感じです。日本はもちろん参加してましたし開会式のシーンではトルコの国旗もチラッと見えましたが、まだアフリカやアジアはほとんど列強の植民地だったころなのでしょうけどね。でもトラック競技で黒人選手がまったくいないというのは、現在の視点ではちょっと異様な感じがします。アメリカ選手団の練習風景では、一人だけ黒人選手がチラッと映りましたけどね。 今やあまりに有名なヴァンゲリスのテーマ曲や海辺を走る映像はもはや映画遺産といって良いでしょう。やっぱ本作はスポーツがテーマの映画としては最高峰なのかもしれません。 [CS・衛星(字幕)] 9点(2024-08-21 23:05:37)(良:1票) |
104. ドッペルゲンガー/憎悪の化身
ネタバレ ドリュー・バリモアにはソフィー・マルソーばりにかつては脱ぎまくってた女というイメージがあるけど、実は意外と脱ぎを見せていた時期は短くて、本作が撮られた当時の三年間ぐらいの数本だけだったみたいですね。それでも当時はなんとまだ18歳!まったく「お前の人生は何回あるんだよ!」と叫びたくなる成熟ぶりです。 『氷の微笑』もどきのエロチック・サスペンスなのかなと思っていたら、終盤になると全く理解不能なホラーと化してしまう脚本の酷さは特筆ものでしょう。割と早い段階でドリューのドッペル話を同居人の脚本家志望の男が信じてしまうのですが、ここでいわばネタバレしちゃうんならこの後のサスペンス要素はどうするつもりなの?となってしまうよね。途中でやたらと夢オチが使われるのも、イラつかせてくれます。ラストのドッペルの正体が明かされた時には、「もう、ふざけんじゃねえぞ!」と怒鳴りたくなりました。ネタバレが過ぎるので詳しくは触れませんが、これでは前半のエピソードとの辻褄が全然合わなくなるんですよ。製作陣も「こりゃヘンだ…」と気が付かないもんですかね。 こんな出来損ないのホラーもどきで頑張るなんてムダ脱ぎもいいとこで、おまけにグチャグチャの化け物に変身までさせれて、いまや女優・プロデューサーとして才能を発揮している彼女にとってはまさに黒歴史なんでしょうね。 [CS・衛星(字幕)] 3点(2024-08-18 21:39:15) |
105. 顔(1957)
ネタバレ 松本清張の最初期の推理短編小説が原作だが、調べると驚くほど頻繁にTVドラマ化されていて今年も後藤久美子主演で放映されています、知らなかったけど清張原作としては最多の映像化なんじゃないかな。もっとも原作とは設定等が大幅に改変されていて、犯人自体が男女逆転していてもはや小説『顔』の映画化とは言い難いぐらい、TVドラマ群も似たようなもんですけどね。 冒頭でのヒロイン岡田茉莉子の行動は、これが殺人かと言うとちょっと?でせいぜい過失致死ぐらいなんじゃないでしょうか。死んだのが無免許の堕胎医で岡田が堕胎希望者をこの偽医師に紹介していて、腕が悪い偽医師のせいで何十人も術後に死亡したという事がこのストーリー内での重大犯罪であるわけだが、あまりに昭和的な価値観なので現代の眼では違和感が強い。笠智衆が演じるのは田舎の刑事なんだが、彼が警視庁の捜査に参加して名探偵ぶりを見せるという展開もなんか現実味が薄い、縦社会の警察組織なのに他県の刑事が警視庁に出入りするなんてあり得ないんじゃないかな。でも岡田茉莉子と犯行現場に偶然居合わせた大木実はなかなか面白いキャラ設定だったと思います。見た目は純情そうなファッションモデルである岡田が実は裏ではスポンサーになりそうなスケベ親父には体を許し世話になっていた先輩モデルを蹴落とそうする、まるで『イヴの総て』のアン・バクスターみたいだし、組合活動家崩れの大木の小悪党ぶりもなかなかです。歳を喰ってからの彼女しか知らなかった自分でしたが、若き日の岡田茉莉子の美人ぶりは半端じゃなかったという事が知れたのは、大きな収穫だったと思います。黛敏郎の音楽やストーリーテリングには確かにシュールさを感じるところがあり、岡田が大木を電波塔みたいなところに呼び出して転落死させることを妄想する件なんかヒッチコックの『めまい』を彷彿させてくれるが、実は驚くべきことに本作の方が公開は先なんですよ。まさかヒッチコックの方が本作をパクったのか、そんなわけないでしょ(笑)。 岡田の恋人みたいな位置付けの野球選手の存在や大木のあまりにご都合主義な事故死など雑なところもありますが、なかなか大胆な脚色だったと思います。とにかく岡田茉莉子をとくとご堪能あれ、ですな。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2024-08-15 22:29:45) |
106. オスロ国際空港/ダブル・ハイジャック
ネタバレ この映画、『オスロ国際空港』なんて邦題を勝手に付けちゃってるけど、実は設定上は“スカンジナビア国”という架空の国家が舞台で、どう見てもミエミエなのにノルウェーやオスロというセリフは一切使われておりません、エンドクレジットでは“ノルウェーでロケした”って出てるのにね。そしてダブル・ハイジャックなんてワードはどこから来た?って感じで、そのスカンジナビア国の英国大使館がテロリストに占拠されて大使たちが人質にされて英国に囚われている仲間の釈放を要求する事件が起き、その首都空港に着陸寸前の旅客機がテロリストの仲間にハイジャックされるという事件が同時に起きる。最初は軍用機を用意させて人質とともに脱出する計画だったのに、「降下地点が当局にバレた」ということでハイジャック機を脱出に使うとして仲間が急遽英国から駆け付けたというわけです。なんか腑に落ちないところがあるな、と観てて思いましたがこれがラストのオチに繋がってくるわけです。このテロリスト・グループは冒頭では派手に英国内で爆弾テロをかましますが、これもどう観たってIRAがモデルだろって判りますが、もちろんIRAなんてワードは出てきません。この当時の現実の英国は今では想像もつかないほど物騒な状態だったので、このような配慮というか忖度は必要だったんでしょうね。ストーリーはドキュメンタリー調というか淡々とした語り口で進行してゆきますけど、やはりジェームズ・ボンドから足を洗ったばかりのショーン・コネリーの渋さは光ってます。対するハイジャック犯の親玉はイアン・マクシェーン、『ジョン・ウィック』シリーズのウィンストンの若き日のお姿です。両者の知恵を駆使した駆け引きが見どころとも言えますが、ちょっと意表を突かれるあの結末には、正直なんか複雑な感じが否めなかったかな。まあ派手な見せ場が無いし演出もあまりに単調だったので、こりゃあしょうがないね。フレデリック・フォーサイスあたりがノベライズしたら面白くなりそうな題材だったので、ちょっと残念でした。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-08-12 22:13:46) |
107. TITANE/チタン
ネタバレ こういう観る者を平気で置いてけぼりにしてクリエイターだけで盛り上がる様な映画は、自分は大嫌いなんですよ。交通事故で頭部に損傷を負って側頭部にチタンのなんか判らん装置を埋め込まれた少女が、成長してタトゥーまみれのダンサーになっていて理不尽な殺人を繰り返すという前半は、まあ何となく判らんでもない展開だと思います。でも、その女が部下に自分を神と崇めるように強要する消防署長と出会ってからの後半は、もう何が何だかさっぱり判らん状態になってしまいます。何故か女が妊娠しているみたいでどんどん腹ボテになってくる、これは解説を読んでやっと理解しましたが車とSEXしたからなんで、私みたいにボンヤリ観る主義だと困ってしまいます。殺しの手口以上にエグいのは、この主人公の女が自分の体を痛めつけるところで、かなりのシーンでスッポンポンになりますが、若いのにこれほど汚い(失礼)ヌードは珍しいと言えるぐらい。こういうえげつない描写は監督が女性だからアートっぽく解釈してくれるアホがいるおかげで炎上せず、男性監督ならあの界隈の連中が目くじら立てて糾弾してくることは間違いないでしょう。こんな作品がカンヌ映画祭でパルムドールを受賞するなんて、やっぱカンヌの審査員はどうかしているとつくづく思いますよ、この年の審査委員長はスパイク・リーだったそうですがね。ほんとここ10年のカンヌ映画祭のパルムドール受賞作には、ろくな映画がない。 [CS・衛星(字幕)] 2点(2024-08-09 22:17:36)(良:1票) |
108. 勝利なき戦い
ネタバレ 朝鮮戦争はイメージと異なり後期の三分の一ぐらいの期間は北緯38度線を挟んでの塹壕戦に陥っており、両軍ともに休戦協定に有利になるように戦略的価値のない土地を取り合う闘いになってしまいました。そんな中で53年の休戦協定交渉中に起こったポークチョップ・ヒルの争奪戦の実話に沿ったストーリーです。監督が『西部戦線異状なし』のルイス・マイルストンで、塹壕にこもっての戦闘を描くことは昔取った杵柄という感じでしょう。全体的に淡々としたストーリーテリングで戦闘シーンはそれなりに撮れていますが、中隊長グレゴリー・ペックを始めとしてヒーロー的な派手な活躍を見せるキャラは皆無で、戦争映画としては地味としか言いようがないです。テーマは“価値のない土地を取り合う意味がない戦闘”だったというのが適切で、米軍上層部の指揮にもグダグダ感が目立ち、後のベトナム戦争まで続く米軍のコマンド・カルチャーの劣化ぶりが伺えます。音楽担当がレナード・ローゼンマンなので、『コンバット!』風味があるのが良かったです。 実は『トコリの橋』と『M★A★S★H マッシュ』そして本作と、ハリウッドで製作された朝鮮戦争を題材にした映画はたった三本しかないんですよ。米国では朝鮮戦争を“忘れられた戦争”と呼ぶそうですが、これじゃ米軍戦死者も浮かばれないですね。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2024-08-06 23:32:31) |
109. 白昼の死角
ネタバレ 過去に商法・手形小切手法をかじったことがある身だけど、正直言って約束手形と言うものは実に判りにくい制度でもある。約束手形の法理なんて理解できていたとは言い難いし今ではすっかり忘れてしまったけど、約束手形と言うものは厄介な代物で無借金経営の様な優良企業には用ないものだというイメージがある。なんでも2026年には紙の手形小切手は廃止されて電子化されるそうで、最近はめっきりニュースなどでも耳にすることもなくなっている手形パクリや手形サルベージと言った犯罪も消滅してゆくんだろうな。 高木彬光の原作は、手形詐欺を扱った日本では珍しい部類の推理小説というか経済犯罪がテーマのピカレスク小説です。この映画化である本作は、角川春樹がプロデューサーをしているけど角川映画ではなく、あくまで東映の映画です。だもんで、普段の角川映画では見られない様な大物俳優がこれでもかというぐらいに登場する賑やかさです。友情出演や特別出演の大物の他にも、原作者の高木彬光や角川春樹そして鬼頭史郎(もはやこの人が何をやらかしたのか覚えている人はいないでしょうね)といった色物(?)までも顔だししてるんですからねえ。主人公演じる夏八木勲は、確かに大作映画の主演と言うのは珍しい言えますが、終始脂ぎった色艶の顔でとても東大法学部卒のインテリらしくないところが難点だったかもしれない。実在の事件をモチーフにしているそうですが、劇中で描かれる手形パクリの手口はなんか乱暴であまり知的な感じがしないってのもどうなのかな。実際夏八木勲は善意の第三者という盲点を突いて稼ぐわけだけど、起訴されないとは言っても警察には完全にマークされているわけで、どこかで綻びが出て逮捕されるというのは必然でしょ。闇の権力者の尽力で保釈されて結局は海外に逃亡するという結末には、ちょっと肩透かしされた気分です。けっきょく昭和のアナログ時代のお話しで、生身の姿を相手に晒さないといけなかったのが宿命で、匿名が当たり前の現代のSNS詐欺の方がはるかに知的犯罪としての要件を満たしているんじゃないかな。 監督の村川透は本作がフィルモグラフィ中で最大の大作、でも撮り方は東映セントラルフィルム時代と同じなんでなんか安っぽさが目に付いちゃうんだよな。千葉真一なんかもうちょっと違う活かし方があったんじゃないかな、出番は少ないしあれじゃ『仁義なき戦い 広島死闘篇』の大友勝利と大して変わらん(笑)。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2024-08-03 23:58:00) |
110. サンクスギビング
ネタバレ 『グラインドハウス』のフェイク予告編の長編映画化の第二弾は、イーライ・ロスと来ましたか。あの予告編群の中ではイーライ・ロス編が個人的にはなんか不条理感がマックスだった感じがしてたんだけど、いざ映画化されると王道的なスラッシャー・ムービーになったんでちょっと肩透かしを喰らった気分です。出演者も予告編版ではティム・ロビンスなんかも出てたのに、有名どころではジーナ・ガーションぐらいになったのはやはり予算の関係かな。まず冒頭の感謝祭セールで起こる事件が、ほとんどシュールなコメディにしか見えないところがイーライ・ロスらしいところです。登場する高校生グループやその家族などの犠牲者たちが皆感情移入できなさそうな奴らでしたが、余りに無造作な犯人フラグを始めに様々な登場キャラに立てるけど、そのフラグが次々に倒れちゃうので犯人の正体はぼんやり観ていても目途が付きます。まあイーライ・ロスの魂胆はそんな謎解きじゃないので、気にもなりませんが。お得意のスプラッター描写は今回もフルスロットル状態ですけど、あの人体丸焼き感謝祭ディナーは『グリーン・インフェルノ』の再現というか、私には『コックと泥棒、その妻と愛人』を思い出させてくれました、もっともあんな耽美性は皆無ですけどね。 振り返ってみれば、ストーリーとしてはやり過ぎ感は薄目でスラッシャー・ムービーとしては可もなく不可もなくという感想ですかね。調子に乗って続編が製作されるそうですが、やめといた方が良いと思いますがね。こうなるとこのフェイク予告編シリーズ、次回作はロブ・ゾンビの『ナチ親衛隊の狼女』にしてほしい、ニコラス・ケイジやウド・キアーなどのオリジナル・キャストを変えずにね。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-07-30 23:00:05) |
111. ワンダラーズ
ネタバレ ジョージ・ルーカスが『アメグラ』で1962年のカリフォルニアの高校生たちの青春を描いたのに対して、フィリップ・カウフマンは翌年63年のNY・ブロンクスの高校生不良グループをテーマにしている。劇中でも印象的に挿入されているけど、63年はケネディ大統領が暗殺された米国社会の大転換が始まった年でもあり、それは能天気なストーリーテリングながらもその前触れみたいなものが織り込まれた脚本でもあります。やはり劇中で、リッチーが明らかにボブ・ディランを模したシンガーが“The Times They Are a Changin'”を歌っているところで足を止めて聞きほれるところなんかも印象に残ります。フォーシーズンズはじめオールディーズばかり流れるこの作品の中では、唯一異質な楽曲なので強いメッセージ性を感じてしまいました。 観るまでは『ウォーリアーズ』の様な硬派な展開なのかと思っていたら、実際にはどちらかと言うと『グリース』に近い様なコミカル要素が強い映画でした。冒頭で颯爽と登場してジョーイとターキーをボルティーズから助けるペリーがてっきりこの映画のキーマンなのかと思ったのにその後は活躍せずに影が薄くなってゆき、ボンクラなイタリア系高校生の群像劇みたいな感じでストーリーが進みます。色男のリッチーが恋人を孕ませたら、実は娘の親父はどう見てもマフィアの関係者という展開には笑ってしまいます。強面親父が実は愛すべきキャラだったというのも定石通りでしたがね。不気味だったのは幽鬼のごとくに現れるダッキー・ボーイズの面々、こいつらがアメフトの試合中に大挙出現して大乱闘を繰り広げるシークエンスは、シュールと言うか訳が判らんというのが本音です。 冒頭でワンダラーズの面々が通うクラスの担任がシャープ先生、生徒の人種出自を申告させると、イタリア系18人で黒人が15人。人種融和のつもりなのか互いのグループに相手方の侮蔑的な呼び名を言わせて列挙すると、教室内で乱闘騒ぎになってしまう。いやー先生、思いっきり外してしまいましたね、そりゃケンカにならないわけないでしょ!それにこの先生“すべての人間は平等に造られている”と言ったのは誰かと問題を出し、「その答えはエイブラハム・リンカーンだ」と言いますが、先生そりゃ違いまっせ、トマス・ジェファーソンですよ(笑)。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-07-27 22:18:43) |
112. ヒッチコックの ファミリー・プロット
ネタバレ これがヒッチコック御大の遺作というか白鳥の歌かと思うと、なんか複雑な感情があることは否めないかな。出演者というか実質的にはどちらも主役である二組のカップルのキャスティングは地味と言うか華がない、往年のヒッチコックならもうちょっとビッグなスターが出ているもんだったから寂しいよな。ブルース・ダーンが演じたジョージ役にはアル・パチーノやエドワード・フォックス、ウィリアム・ディヴェインが演じたアダムソン役にはバート・レイノルズやロイ・シャイダー、カレン・ブラックのフランにはフェイ・ダナウェイやキャサリン・ロス、ブランチ役にはなんとゴールディ・ホーンが検討されていたとのこと。ハリウッド俳優ならヒッチコック御大からお声が掛かれば喜んで出演しそうなもんだけど、ハリウッド界隈のヒッチコックに対する冷遇ぶりが判っちゃいます、まあ単純に予算と言うかギャラの問題なのかもしれませんけど。それでもバーバラ・ハリスのインチキ霊能者ブランチは傑作でした、彼女のことは不覚にも全然知らなかったけど、受賞こそなかったけど本作も含めオスカーとゴールデン・グローブ賞に合わせて5回もノミネートされた名女優だったみたいです。あと音楽がジョン・ウィリアムズなのがヒッチコック作品にしては珍しい、なんかいつもと全然違う雰囲気がありました。 どちらも脛に傷持つ接点がない二組のカップルが、妙なきっかけで段々と交わるようになってゆく過程が、軽いタッチながらも適度なサスペンスを織り交ぜてちゃんとヒッチコック映画になっているところは高評価でしょう。ジョージ&ブランチのカップルの方はケチな詐欺師なので二人の掛け合いが面白いが、アダムソン&フランの方は殺人も含めてけっこうシビアな犯罪カップルなので対照的。でも一見成功して店を構える宝石商であるアダムソンが、なんで誘拐を生業としているのかが理解し難いところがあります、しかも身代金がキャッシュでなくてダイヤモンドですからね。これならレインバード夫人に自分が養子に出された甥であることを名乗り出て全財産を相続する権利を確保した方が割が良くないんじゃないですかね、まあそうしたら養父母が火事で焼死した件が蒸し返されてしまうかもしれないか… 恒例のヒッチコック御大のカメオ出演ですが今回はすりガラスに映った影でした、これが今生の別れだったかと思うと感慨深いものがあります。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-07-24 22:53:55) |
113. 女が階段を上る時
ネタバレ 菊島隆三と言えば黒澤映画の名脚本家というイメージがあるけど、成瀬巳喜男作品も書いていたとは知りませんでした、しかもプロデューサーまで務めていたとは。そして高峰秀子はやはり成瀬巳喜男とのコンビネーションがベストで、木下恵介作品で演じるヒロインよりも生々しい女性像を見せてくれます。銀座のバーで雇われマダムという役柄は、これが大映ならば間違いなく若尾文子が演じるだろうけど、色々と所帯じみた苦労を背負った身持ちが固く堅実なマダムとなると、やっぱ高峰秀子にピッタリのキャラです。若尾文子だとどうしても妖艶な不思議ちゃん的なヒロイン像になりがちですからね。高峰秀子が務めるバーは二階にあるので階段を昇って店に入るわけだが、これが苦労の絶えない私生活から自らの戦場である異界に足を踏み入れる様な感じがします。この階段を昇るというカットは、面白いことに2年後に川島雄三が『しとやかな獣』で若尾文子が再現(こっちは階段を下るんだったかな?)していて、これは一種のオマージュなのかな。ホステスたちの生態もけっこうリアルで、中でも高峰にモーションかけていた中村鴈治郎に横からちょっかいかけて、ちゃっかり独立して自分の店を持つ団令子がいかにもな感じで良かったな。ラストで高峰秀子の店を辞めて団令子の店に移ろうとしていた仲代達也を相手にしないしたたかさもあり、きっと彼女はこれから銀座でのし上がってゆくんじゃないかな。仲代達也は徹底的にクールで実利的な男を演じていましたが、ちょっと影が薄いキャラだった感があります。そして、やはり一番強烈なインパクトを残したのが加東大介でしょう。その正体が明らかになったところでは、それまであまりに善人としか見えなかったので、「この男はサイコパスだったのか…」とゾッとさせられましたよ。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2024-07-21 22:01:46) |
114. パニック・イン・スタジアム
ネタバレ 70年代パニック映画ブームに乗って『パニック…』と邦題も便乗したおかげでどうも安物のTVムービーの様なイメージがあって敬遠していたが、私の中では本作はいわゆるパニック映画とは違う種類の映画だったと思います。でも実際にも40分も追加撮影をしたTVムービー版(これがまた酷い駄作になってしまったそうです)もあるみたいで、『ミッドウェイ』も同じようなバージョンがあり当時のユニヴァーサルの営業方針だったんじゃないかな。 パニック映画的な要素としては互いに全く交わらない数組の観客の薄いドラマを挟んでいるところですが、余りに薄すぎて群像劇の出来損ないみたいになっちゃった感じです。犯人が何者でどんな意図があったのかはその容姿を含めてナゾのままで通していたところは好感が持てる、ある意味で『ジャッカルの日』以上だったのかもしれません。主役はもちろんビッグスター・チャールトン・ヘストンですが、どう見てもジョン・カサヴェテスのSWAT隊長に喰われてしまってます。前半ははっきり言って退屈気味でしたが、ハーフタイム過ぎてからはけっこう盛り上がる展開だったと思います。フィールド上で繰り広げられるLAとボルチモアの両チームとも、NFLから拒否されたため架空チームで、試合の映像もカレッジ戦のものだったそうです。それでも大観客がパニックになって逃げ惑うシーンは大量のエキストラを使っていて、さすがメジャーが製作した映画でした。 前半のテンポの悪さはありましたが思っていたより見応えがあったと思います。ラストのジョン・カサヴェテスの虚無的な独白も良かったが、ラストカットで暮れなずむスタジアムでハラハラと涙を流すマーチン・バルサムも印象に残りました。監督はラリー・ピアースで、あの『ある戦慄』を撮った人です。どおりでボー・ブリッジスが出演していたわけですね。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-07-18 22:29:10) |
115. Smile スマイル(2022)
ネタバレ これは完全に『ファイナル・ディスティネーション』や『イット・フォローズ』と同系列のホラーですね。思えばこの系列の始祖とも言えるのが『リング』ですから、Jホラーがハリウッドに与えた影響の強さを再確認させられます。 ヒロインである精神科医のローラが怪異現象に悩まされるようになってからの言動、それを見たり彼女の話しを聞かされる人間にとっては、「この女は完全に狂った…」としか思えないのはほんと無理ないかなと思います。その言動で実姉・婚約者・セラピストとの人間関係を壊したり絶縁されたり、あんなことされたり言われたりしたら誰だった怒りますよね。ここまで魅力的じゃなく不快にさせてくれるヒロインも珍しいけど、演じているソシー・ベーコンはケヴィン・ベーコンとキーラ・セジウイックの娘なんですね。“娘は父親に似た顔になる”とは言いますが、たしかに彼女の顔立ちにはケヴィン・ベーコンのDNAが感じられます。観る者をこれだけ不快に出来るということは、彼女の演技力がやっぱ高いレベルにあるとも言えるでしょう、これもやはり父親譲りなのかな。 本作は典型的な出落ち映画と分類できる感じで、類似作品と違って派手なスプラッター描写もほとんどなく、低予算だったんだなと思います。監督はこれが初の長編映画で、自作の短編映画をブローアップさせた企画らしい。前半のシメントリーに拘った室内シーンや、所々で挿入される天地が逆転してる風景ショットなどにはセンスを感じます。『イット…』や『ファイナル…』シリーズと同じくいわゆる“悪霊の謎ルール”がネタなんだけど、それら元ネタ群と違ってそこまで妙な理屈をこね回すまで至っていないのは好感が持てました。ホラーとしての怖さはさほどではないけど、偽セラピストがヒロインの自宅に来るシークエンスにはゾワッとさせられました。 最近つくづく思うのは、ホラー映画で舞台となる住宅は、なんで間接照明しか着けず室内があんなに薄暗いのかね?まあ雰囲気づくりを重視しているのは判るけど、あれじゃあまりにも不自然だと思いますがね。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-07-15 20:44:36) |
116. さらば冬のかもめ
ネタバレ 原題は“The Last Detail”、まあ“最後の任務”とでも訳すのが妥当かな。それを『さらば冬のかもめ』という詩情を感じる邦題にした配給担当者のセンスは素晴らしい、どう考えても水野晴郎じゃないよね(笑)。70年代の名邦題ベスト3を選ぶとしたら、私は迷わず選出いたします。たしかに“冬”の物語だったけど“かもめ”はまったく登場しませんでしたけどね。 募金箱からわずか40ドルを盗んだだけで8年の懲役を喰らった若い水兵を軍刑務所に護送する任務を命じられた二人の下士官、題材はちょっと変わっているけど展開自体は典型的な70年代ニューシネマお得意のロードムービーです。ジャック・ニコルソンが演じる“バッド・アス”ことバタースキー、葉巻をふかすこの映画のポスターはニコルソンのアイコンの一つになっているぐらいで、きちんと口髭を生やして実にダンディーです。40手前の中年男のセーラー服姿がこれほどカッコよくなるとは意外です。この反抗的で自由奔放な男が、生真面目で「俺とお前は海軍に一生務めるんだぞ」が口癖の黒人同僚を翻弄するさまは観ていて可笑しい。護送される水兵はランディ・クエイド、ガタイはいいけどガキっぽいというかちょっとおつむが足りないんじゃないかという感じが良く出ていました。同じ東海岸に位置する基地と刑務所を往復するのに一週間近くかけてもイイなんて、雑というかいかにも70年代の弛んだ米国の軍紀が垣間見れます。お題目を唱えることを布教する謎の日蓮宗若者集団、これはやっぱり例の学会なんでしょうね。ランディ・クエイドは彼らと交流した後は「ナムミョウホウレンゲキョウ」がすっかり口癖みたいになっちゃうのも可笑しい。彼を折伏しようとする女信者、どっかで見たことあるなと思ったら、若き日のナンシー・アレンでした。 すっかり二人と意気投合して友情関係を育んだと思わせたメドウズ=ランディ・クエイドでしたが、公園で突然脱走しようとするところはいかにもニューシネマらしい展開。でもそこでジャック・ニコルソンが銃を撃たなかったところは、明らかにそのパターンからは外れていました。メドウズはけっきょく予定通り収監されてしまうのでハッピーエンドと言えるのかは微妙なところですけど、なんかホンワカな気分になる味のある作品でした。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2024-07-12 22:14:32) |
117. アデルの恋の物語
ネタバレ 実話とは言え、重い、すごく重たい話しで、まるでエミール・ゾラの『ルーゴン・マッカール叢書』の中の一編を映画化したような感すらあります。19歳だったイザベル・アジャーニの初主演作であり、彼女の登場は全世界に衝撃を与えたと言っても過言ではないだろう。構想自体はトリュフォーがずっと温めていた企画で、TV出演していたアジャーニを観てすかさずアデル役に抜擢して一気に脚本を書きあげたとか。ほんとにこの人は女優を発掘する天才です。 トリュフォー作品にしては珍しい時代劇、いわば歴史劇的な作品であり、彼のロマン主義的な指向が伺えます。一人の人間がある人物を執拗に追っかけまわすというプロットは、例えは悪いかもしれないがリドリー・スコットの『デュエリスト/決闘者』に通じるものがあります。もちろん本作は男女の恋愛関係のお話しですけど、物語ではアデルが追い回すイケメン軍人とは彼女の一方的な片思いで、ビンソン中尉の眼からはアデルはとっくに恋愛対象じゃなくて、もはや恋愛関係とは言い難くなっている。そういう意味では『デュエリスト/決闘者』と同じように二人は修羅場という決闘を延々と続けていたという事も出来るでしょう。とにかくイザベル・アジャーニの鬼気迫る演技を見ているとまるでソフトな心理ホラーで、とてもじゃないけど『恋の物語』とは呼べません。アデルはやってることは滅茶苦茶でとても感情移入できる代物じゃなかったが、さすがにラスト近くになると可哀そうになってきます。これもイザベル・アジャーニの熱演の賜物でしょうね。 そう言えば前半で夜会にアデルが潜り込んでビンソンと人違いする将校、どう見てもトリュフォーのカメオ出演でしたね。これもヒッチコックへのオマージュなのかな。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-07-09 23:33:15) |
118. トランボ/ハリウッドに最も嫌われた男
ネタバレ 二度もオスカー受賞したのに、どちらも借名や架空名義にするしかなくて自身の名前を出すことが出来なかったダルトン・トランボ、ある意味この映画は“名前を消される”“社会から存在を否定される”ことの恐怖が主題だった様な気がしました。トランボは言わずと知れた“ハリウッド・テン”のリーダー格だった人、実際にも共産党員だったけどただの一般党員でとっくに離党しており、別に過激な政治活動をしていたわけでもなく俗に言うところのリベラルという分類に当てはまるんじゃないかな。このいわゆる赤狩りの恐ろしいというか雑なところは、議会の公聴会の様な衆知の場で自分が党員だったことを告白しなければならないところ。FBIに監視はされていたけど非合法だったわけではなくて、証言を拒否すると偽証したわけではないのに議会侮辱罪なるヘンな法律でムショにぶち込まれるという恐ろしい話しです。実際にスパイ活動をしていたというなら話は別だけど、スターリン時代のソ連だって北朝鮮だって頭の中で考えるのは自由で、止めさせることは不可能でしょ。 監督があの世紀のおバカ映画『オースティン・パワーズ』シリーズのジェイ・ローチなんでちょっと訝しかったんだが、観てみると実に見応えがある正統的な映画でした。ブライアン・クラストンの演技は素晴らしくて、実際はどうだったんだが知らないがトランボの誠実な人柄が印象に残ります。非米活動委員会側の映画人たちの陰険さはたまらなく不快感を催すけど、中でも“蛇の様に嫌らしい女”としか言いようがないヘッダ・ホッパーを演じたヘレン・ミレンがこれまた強烈。こんな憎まれ役でも軽々と演じてしまうのが彼女の凄いところです。ロジャー・コーマンと並ぶ50年代B級ムービーの帝王であるキング兄弟、その兄であるフランクを演じたジョン・グッドマンには笑っちゃいました、だってこの人は過去にも『マチネー』や『アルゴ』で映画プロデューサーを演じていて、もう太っ腹の映画プロデューサーは彼の専売特許のようです。そんなクズ映画を量産していた彼が、トランボの書いた『黒い牡牛』でオスカー受賞してしまったのは皮肉としか言いようがないですね。そして『スパルタカス』製作時のカーク・ダグラスのカッコよさにも惚れ惚れしましたね。できればダグラスがトランボの名前を脚本クレジットに出すべきか悩んだときに、キューブリックが「だったら俺の名前にすりゃいいじゃん」と提案して来て「スタンリーよ、君は才能があるけど実にクソったれな奴だ!」と激怒して言い返したというエピソードも入れて欲しかったな。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2024-07-06 23:21:03) |
119. ミッション
ネタバレ これは史実ではあるんだけど、“ローマ法王の斬りこみ隊”の異名を持つイエズス会がなんでカトリック国であるスペインとポルトガルから弾圧を受けたのかが正直良く判らん。これには色んな事情があったんだろうが、大航海時代を迎えて世界を二分するかのような国力を蓄えた両国にとって世俗の問題に口を挟むローマ法王の存在が邪魔になってきたってことなんでしょうか。新教勢力もどんどん拡大していたし、たしかに17世紀以降になるとカトリック=ローマ教会の影響力が爆散していったのは否めないでしょう。物語の語り手となるイエズス会の弾圧命令を伝えに来訪した枢機卿が、神父たちや村民の虐殺をまるで第三者のように傍観するだけの無力な存在なのは象徴的です。 まるでヴェルナー・ヘルツォークの秘境もの映画を見せられた様な壮絶な映像には圧倒されます。とくに二度も見せてくれる滝落ちシーンは息を飲まされます。このシーンは途中からは人形が使われていますが、それでもスタントマンたちからはあわや拒否されそうになったとか、そりゃ無理もないですよね。今作のデ・ニーロは目立たないというか表に出ない抑えた演技に終始していますけど、それでもジェレミー・アイアンズとのコラボには感慨深いものがあります。ロバート・ボルトの脚本は明らかにカトリック教会寄りですが、それでもジェレミー・アイアンズが劇中で何度も強調する“神の愛”には、ラストまで観ると疑問を抱かざるを得ないような構成になっているのは上手い。あくまでわき役でしたが、とても聖職者には見えないリーアム・ニーソンの最後の戦いでの活躍には胸が熱くなりました。音楽はモリコーネで、「自分の仕事の中で、この映画の曲がいちばん好きで誇れる」と生前語っていたぐらいで、たしかに素晴らしかったです。 しかし昔から住民がいる土地に攻め込んで勝手に領土を設定して線引きするスペインとポルトガルは、なんとも非道な国家だったとしか言いようがないですね。ほんと日本は早めにポルトガルやイエズス会と縁を切って大正解でした。その後両国とも急速に国力が衰退して世界に影響を及ぼさない存在に落ちぶれてしまったのは、ほんといい気味だとしか思えません。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-07-03 21:59:54) |
120. スケアクロウ
ネタバレ やたらと重ね着をしたがるムショ帰りの粗暴な大男=ジーン・ハックマンと、妻子を捨てて5年も船員として放浪していた気はイイんだがちょっとおつむがたりなさそうな小男=アル・パチーノ、この若かりし頃の二大名優が最初で最後の共演をしたロードムービー。クレジットの人名をすべて小文字にするという、典型的なアメリカン・ニューシネマの一編です。この当時のアメリカ国内は見るも無残な状態にまで堕ちていましたから、ロケで見せられる風景もわざと荒んだ場所を選んでるんじゃないかと思わせるような感じです。はっきり言って中盤まではダラダラした展開なんだけど、ハックマン&パチーノの組み合わせが妙な化学反応を起こしているような感じで、やっぱ引き付けられるものがあります。刑務農場での体験を経てからは二人のキャラが入れ替わっちゃうのが面白い、とくにハックマンのストリップは強烈でした。デトロイトにパチーノの妻子に会いに行ってからラスト三十分には、観ていて胸が締め付けられる感がありました。亭主が生死不明の失踪ということにして他の男と再婚した妻の心境は判らんでもないが、息子は八ヶ月で流産したなんて大嘘をつくところはいくら何でも…って思いますよ。これでパチーノのメンタルは完全に崩壊してしまうんですから、なんちゅう残酷なことをしてくれたんだ、と思います。思うにアメリカン・ニューシネマに登場する女性キャラにはロクでもない女が多い様な気がします、まあ女性が主人公というニューシネマ自体がパッと思いつかないぐらいですからねえ。まだアメリカですらそういう時代だったのかな。 [DVD(字幕)] 7点(2024-06-28 22:52:30) |