101. チャイナタウン
ネタバレ 警察が金で買い取られている世界の息苦しさは、まさにフィルムノワールである。メランコリーが非常にいい、ニコルソンが善悪を超えそうで踏みとどまっている感じがいい。物語がいまひとつつまらない分2点減点。 [DVD(字幕)] 8点(2013-10-07 11:33:04) |
102. ダイヤルMを廻せ!
ネタバレ リアルな話をするなら、首を絞められてもハサミを探って手に取り一刺しで屈強な男をしとめるグレース・ケリーの役は、じつはレスリングの吉田沙保里さんほどの身体能力をしているわけだ。さてこの作品は、まさに大胆に堂々と「ネタバレ」から出発する、つまり「衆目(観客)環視」のなかで犯罪者の側から事件を提示し、この犯罪の顛末をそっくり言い当てるミステリー作家まで配置して事件をなぞる、なぜこんな映画が面白いのか。 [DVD(字幕)] 6点(2013-09-02 10:49:39) |
103. 巴里の女性
ネタバレ このヒロインは、恋人をきちんと追求しない。つまらないプライドが邪魔をしているのか、欲望に忠実なのを浅ましいと感じるのか、要するに相手の男をたいして好きでもないのか。親への縛りに苦しむ男に対してつい短気を起こして、「そうならべつにいいわよ」とばかり身を背ける(二度も)。それが本人を含めて皆の不幸になる。 Pride can hurt you, too(ビートルズ) [DVD(字幕)] 6点(2013-08-03 10:30:10) |
104. レイジング・ブル
ネタバレ この映画、いまや男の方が生活全体を失う危険度が高い(女性の方が法的に保障されている?)ということの先駆的な好例となるのか、などとはおよそ非映画的コメントだが、映画の形式面を不問にするリアルな感じの映画といおう。 [DVD(字幕)] 6点(2013-07-28 10:41:27) |
105. ショック集団
ネタバレ 原題が「ショック廊下」であり、精神病院のこの廊下を、ルネサンス以来の中心遠近法が見据える。これがまさに「異常」を隔離・排除する「理性」のあつかましい視座であり、この視座(つまりは観客の視座)をこの映画は撃つのである。最も強烈な話題は、KKKに同一化する黒人患者で、つまり支配的な「ものの見方」に主体として参入することへの彼の切なる欲望にも拘わらず自らの存在が無惨に(発狂するくらいに)分裂しているのである。患者のフリをして潜入しついに殺人犯を見つけ出す主人公自身の「理性」も、やがて報復されなければならない。ラストの廊下シーンの客体として現出する主人公の視座を観客も引き受けなければならない。見ることは見られることなのだ。 [ビデオ(字幕)] 9点(2013-06-25 21:27:01) |
106. コマンドー
ネタバレ 「悪」をどんどん始末。「悪」なのかどうか不明な人たちをもどんどん始末。それにリアルに対応する事柄というのは、要するに、死刑制度容認はもちろんのこと、誤爆容認なんてことも含むだろう。こんなに政治的な映画を無批判に観るということ自体が、きわめて政治的な態度表明になってしまう。 [DVD(字幕)] 1点(2013-05-27 16:02:44)(笑:3票) |
107. 仕組まれた罠
ネタバレ フリッツ・ラングのアメリカでの作品は、概して画面が妙にスッキリしていて、怖さが足りない。ドイツ時代のあの挑戦的な暗さをもう少し残しておいてもよかった。もちろんハリウッドの要請に従った結果であろうし、ゴダールが「従う人ラング」みたいなことを言ったのはこのことだろうか。「妙にスッキリ」の画面の分、主人公の理性が踏みとどまるとも見える。暴力表現を禁圧する「ヘイズコード」のもとフィルム・ノワールは暴力シーンを省略する方法に活路を見出したのであり、『仕組まれた罠』の、人を殺しに行く主人公の殺しのシーンは省略される、が、実は殺してはいない、とは、暴力シーンの省略という習わしを逆手に取る「罠」で、観客がハメられる。 [DVD(字幕)] 6点(2013-05-20 11:02:11) |
108. ファーゴ
ネタバレ 物象化を扱う名画の一例として『ファーゴ』はほんとうに怖い(誘拐請負人を斡旋した同僚が計画変更の不可を冷淡に告げるのは、物象化、つまり人間関係が行方不明であること、のほんの一例)。拝金的なうわついた生き方では容易に生活を失うという、これは警告の映画とすら思える。婦人警官夫妻の「人間的な」関係を挟み込む意図がちょっと甘いかもと思わせるが、物象化を浮き彫りにするためのものか。 [DVD(字幕)] 9点(2013-05-05 13:09:51) |
109. ロボコップ(1987)
ネタバレ 無機ロボットに襲撃されて、サイボーグ有機体である(が「人権」はない)ロボコップ危うしというとき、そこは階段で、追いかけて来た無機ロボットは階段に対応できずあえなく階段落ち。階段という繋ぎの領域で無能なのが無機的なもの。それとは逆に有機的なものは繋ぐが必ずしもその「人権」は保障されていない。ナショナリズムという冷酷な有機体主義を連想させる『ロボコップ』。 [DVD(字幕)] 6点(2013-04-29 10:28:08)(良:1票) |
110. 未来世紀ブラジル
ネタバレ 「出世を望まない若者たちが増えている」という。『未来世紀ブラジル』は、主人公が出世を願うかどうかが分岐点になっていて、出世コースに足を踏み入れるや冷たい競争関係など圧倒的に物象化された世界で迷子状態となる。諧謔のセンスが不条理の深刻さに厚みをもたらすのも、カフカ的なテイストだ。 [映画館(字幕)] 9点(2013-04-28 06:34:44) |
111. ブレードランナー/ファイナル・カット
ネタバレ 最後のぶら下がる(suspend)主人公がレプリに救出されるサスペンスの成り行きには驚く。そこで深く哀しいレプリの「奴隷」の視点が告げられる。ここしかない、この映画は。映像的に(つまり形式的に)凝った画面作りをしているので、よけいに内容的に貧しいと感じてしまう。 [DVD(字幕)] 6点(2013-04-27 11:47:58) |
112. 万事快調
ネタバレ ゴダールの登場人物にありがちなカメラ目線の意味が、この作品ではなんとも判り易い、という感じ。人物たちはカメラ目線で観客に自分のモンダイを延々と(長い!)訴え、観客はずーっと聞き役、という感じ。しかしながら、撮影カメラの場所に観客は絶対にいないのだ、とはふとぞっとする事柄ではないだろうか。 つまり・・・コミュニケーションに向けるかのような人物たちのふるまいは、たんなるふるまいとして撮影カメラの前で凝固している、それだけのものにすぎない。 [DVD(字幕)] 6点(2013-03-25 16:02:51) |
113. めぐり逢えたら
ネタバレ 『ユーガットメール』同様よく出来ている。ルビッチュのようなお洒落な感じだ。二人の間にこれでもかと入る中間組織が充実している。 [DVD(字幕)] 6点(2013-03-17 17:15:13) |
114. 華氏451
ネタバレ ナチのような「消防隊」が本を襲いまさにナチの焚書そのものであるが、ヒトラーの本『我が闘争』も焼かれるのはアイロニカルである。双方向の巨大モニターが各家庭にあり、「コンピュートピア」の息苦しさを先取りしているのは、いい。ただし要するに問題は、概念的な思考をするしないであって、現今のコンピューター・ネットワーク社会がべつに概念的な思考を禁じているわけではない(デジタル書籍もあるわけで)。要するに紙媒体が不要にされていくという現今の傾向と重なるだけだ。 [DVD(字幕)] 6点(2013-03-03 10:40:00) |
115. 男性・女性
ネタバレ 「思想では何でもできるが、感情では何もできない」。映画でそれを言うかという挑発的な言葉だが、たしかに、ゴダール映画の圧倒的に駆り立てるものは、切り分ける知性への欲求である。それはさておき、同録の雑音が台詞と同格の大きさであるのは面白い。 [DVD(字幕)] 6点(2013-02-25 15:43:37) |
116. 桐島、部活やめるってよ
ネタバレ 丹念に作った名品という感じである。「桐島」なるマクガフィンが引き起こす運動と細部がいちいち面白いのが身上で、「別の視点からの別の見え方」という造りは本気のねらいではなさそうだ、が、これをもっとねらってもよかったかも(『運命じゃない人』みたいに)。恋人にするならアスリートかアーティストかという古典的な二者択一がとっくに無意味のはず(アスリートの圧勝)なのに、まだ、アーティストのルサンチマン(ゾンビに化ける)は生きていた、というのが面白い。 [DVD(邦画)] 9点(2013-02-25 15:36:42)(良:1票) |
117. 君と別れて
もっと早く見たかった美しい映画。哀しい話の濁流となるところを映像のきらめきが凌ぐ。見ることができて本当に良かった。「振り返り」において水久保澄子が回る、吉川満子も回る、人物たちがことごとく「見る」から「伏目」に移行する、二階の部屋の雨戸をカップルが開けるのを「外側から」撮るのがなまめかしい(内・外のカットバック)、平熱の病床・・・というふうに、成瀬の諸特徴はすでに際立っている。「チョコレートガール」の水久保澄子が大きなチョコレートを抱いている(『チョコレートガール』も観たいなあ)。 [CS・衛星(邦画)] 9点(2013-01-24 12:26:47) |
118. ボローニャの夕暮れ
ネタバレ かつてのイタリア・ネオリアリズムの末裔という感じの、卑近な物語だ。何のためにこんな映画があるのか、誰かの特殊な人生を見守るために映画はあるのか、などと元も子もないことを考えてしまうところだが、そこに時代を絡ませる。ただし「時代」が少々とってつけたような感じになるのもやむをえないか。母と娘の確執の本質究明がほぼ放置され、結局は父親の視点・了解の領域で打ち止めとなるのもそれはそれでリアルなのである。 [ビデオ(字幕)] 6点(2013-01-02 10:53:53) |
119. 八月の鯨
ネタバレ 老年のリリアン・ギッシュをなんとか確認できるが、ベティ・デイヴィスにいたっては全く同定不可能である、しかし、それはベティ・デイヴィスの知ったことではない。ひとはせっかく長年に渡って対世間用に作り上げたペルソナを老いとともに失っていくというのではなく、老いという名の熟成の時間が「あらためて自分のために深く生きる」顔へと作り直していくのだ(と思いたい)。それは絶対的で神秘的な時間だ。二人の往年の大女優に失礼のない美しい撮影である。 [DVD(字幕)] 7点(2012-12-20 11:43:46)(良:1票) |
120. 落第はしたけれど
ネタバレ 斎藤達雄の長い手足のコミカルな身振りが印象的である!小道具の数々がきわめて豊かな表情をみせる、なかでも自害するかにみせて足の爪を切るに切り替えるハサミ、そう万事、行き詰ったら切り替えが必要。もういちいち挙げる必要もない、最高傑作だ。 [映画館(邦画)] 10点(2012-11-28 22:01:40) |