1281. 花嫁と角砂糖
ネタバレ 結婚式とお葬式が重なってしまったイランの一家族の悲喜こもごも。次々と訪れる親戚の顔ぶれが、なんせ此方には見分けがつきづらく、ドキュメンタリーのような話もよく言えば実直だけど、まあ盛り上がりには欠ける。嫁ぎ先で留学を考えているらしい花嫁は、従兄弟への想いを残しているらしい。どう見ても相思相愛ぽい二人なのだけど、何も起こらないのである。聖職者である叔父の病気もこちらには知らされるけど、話のなかではスルーされ、ラストの母親の沈黙の意味も良く分からないし、観ている方の消化不良は山ほどある。 とはいえ、中東の慶事、弔事の様子をつぶさに見られるのは興味深かった。久々に親戚が集うと、女たちはかしましいし、男たちは密談めいたことをしている。人間どこも同じだなあ。ソリの合わない隣家、頑固な大叔父、まるでちょっと前の昭和ドラマを見ているようで、やけに肌になじんだ。映像も、緑と土壁の対比が美しい。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2014-10-23 00:14:38) |
1282. 天国と地獄
ネタバレ 143分間、凄まじい重厚感にただただ圧倒された。前半は誘拐事件の中で各人の思惑が交錯する人間ドラマに、後半は高度経済成長期の光と影がくっきりと刻まれた昭和の世相描写に。 かっちりと美しいバンフォーカスの枠に配置された演者たち。台詞を言わない者は無言で、表情と佇まいで演技をする。権藤が裏切り秘書を喝破した際の仲代の表情や、ラスト近くで時を告げる時計の音に振り向いた眼に飛び込む差押さえ状。途端に漂うお通夜のごとき空気。忘れ難い場面の数々、なんという役者の力だろう。メインから端役に至るまで、名演につぐ名演に酔う。 息もつけなかったのは昭和の世の、経済成長から取り残された貧困の姿。場末の歓楽街からアヘン窟へと移るカメラは情け容赦なく、オリンピックを控えた都市の底辺の様子には心胆が冷えた。インターン竹内の暮らす貧しい路地。野良犬にシミーズ姿の洗濯女,三畳の暗い安アパート。彼の母親の早い死に、アヘン窟の女たちの姿が重なった。壮絶な幼少期を送ったであろう竹内の、貧困がむしばんだ魂の叫びには、私も権藤氏と同じく一ミリも身体が動かなかった。 [CS・衛星(邦画)] 10点(2014-10-20 01:14:14)(良:1票) |
1283. 赤い靴(1948)
ネタバレ 芸術に完璧を求めても、そこは神の領域。人間が近づこうとすれば、気もふれようというもの。どちらかというと、ヴィクトリア・ペイジよりも支配人レルモントフの方がマッドネスだった気もする。舞台に出て嘆く彼は、彼女そのものの死より、稀有の踊り手を失ったことへの哀悼に満ちている。絶命したヴィクトリアは彼の身代わりのような、悲しくも酷い芸術の代償。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2014-10-14 23:57:34) |
1284. ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い
いやー、笑った。私は女なのでバチェラーパーティに参加できる要件を満たしていないけれど、そういうのにつきものの下品さをひっくるめても面白かった。 次から次へとよくもまあこんなに考えついたもんだ、と感心する非日常な出来事がノンストップ。ほとんどスペクタクルと言っていいような怒涛の展開だけど、その内容が実にしょーもない、というアンビバレンツな面白さ。とっ散らかった案件を、全て見事につなげてエンドロールと共に流れる救いの無いデジカメショットの数々。いやあ、粋なセンスしてるじゃありませんか、この脚本。 他人の失敗談というのは面白いと相場が決まってますが、こうも大ばかで身につまされないハッピーエンドな話は、爽快感すら漂います。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2014-10-13 23:59:46)(良:1票) |
1285. 世界にひとつのプレイブック
ネタバレ 病院に通ってなくたって、人はみんなどこか欠損した部分を抱えて生きているものですよね。主人公の父親のデ・ニーロのジンクス依存症も相当なレベルだし、家庭の不満をガレージでぶちまけるより他に方策の無い友人も登場する。 “本物”の患者であるところのB・クーパーとJ・ローレンスを囲むこういった周囲の人たちもどこか、がたぴししていてそれ故に皆傷ついた物に生暖かくて優しい。そんなゆるい空気の中で元気を取り戻す二人は微笑ましく、さらに言うならもっと笑みを誘うのは、やはり生きるのに必死なデ・ニーロ父さん。この人の滋味溢れるすっとこどっこいぶりは名優の仕事そのものです。 [DVD(字幕)] 7点(2014-10-13 00:04:11) |
1286. メタルヘッド
ネタバレ ヘッシャー、もうコイツの素行ときたら器物損壊、押し込み居候、身体には中学生レベルの落書きイレズミ、と100%どチンピラな奴。ニヤついた目つきで考えが読めない、というJ・G・レヴィットの名演もあって、コイツをどう評価すべきか中盤まではとても困る。 だけど、傍目にはもの凄く見えづらいけれど、ヘッシャーには極めてまっとうな部分があって、それは一家族を再生させるに足る力があるのだった。 「年寄りの言うこと」と、親父と孫はばあちゃんの言うことを完全にスルーする。彼女の話をマトモに聞いてたのはヘッシャーだけだった。下品で笑えない若者ジョークをなぞなぞにしたって、具合の悪いばあちゃんにウケるわけないだろうが。でもこれがコイツにできる精一杯の励まし。あの日約束どおり早起きして、シリアルを二人分乱暴に作って散歩の迎えに行ったのもヘッシャーだった。 棺おけを押して街中をゆく三人の姿を泣かずに観られようか。 TJと父親の心が再び立ち上がるのが分かる名場面だ。 J・G・レヴィットはもちろん、美貌が邪魔にならないように地味に脇を固めたN・ポートマンも、往年の名優P・ローリーも素晴らしい。そしてエンドロールはとてもひどい。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2014-10-12 00:10:41) |
1287. ヘル・レイザー
ネタバレ グロテスクと肉体的痛みと黒魔術要素の合わせ技。当時は画期的な脚本だったのかな。 しかし21世紀になって観賞したワタクシの感想としてまず来るのはホラーには若いのを使え、ということだった。若いお姉ちゃんがキャーキャー言ってパニくらないと娯楽として成立しないということを本作で知る。あの後妻にはもう10才年若なのを使っても話の流れでは問題ないはず。ほうれい線が目立つ顔でのベッドシーンは見せられる方がキツイ。何度もあるし。 あとさあ、フランクが逃げたって事 魔導師の皆さん、知らなかったよ?カースティがチクるまで。異界の者としてこんなぼんやりで良いのだろうか。 挙句「我々を騙したらお前の魂を引き裂いてやる」ってメキシコマフィアみたいな脅し文句。あまりに人間ぽい安っぽさ、勘弁してくださいよ。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2014-10-09 00:26:44)(笑:1票) |
1288. HELL(2011)
太陽光が凶器となっている近未来の世界観がとても熱心に作りこまれていると感じます。どこを映しても、かさかさ、ぱっさぱさ。画面は常に黄味がかって砂っぽく、車の窓には眼張り、降りる度にマスク+長袖着用と、防塵装備を怠らないといった隙の無いサバイバル描写。 背景描写に力を入れまくりの一方で、人物描写やストーリーのサスペンス性といった点は△。せっかく姉妹で登場していても、キャラの描き込みが足りないのでドラマのふくらみにも欠けてしまいます。いつもむっつりと愛想の無い顔で奮闘している。彼女らが笑うべき場面もまあ無いんですけども。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2014-10-09 00:04:20) |
1289. ウインドトーカーズ
ネタバレ これはね、戦争のそれも前線という狂気の現場に、体育祭レベルの友情テイストを持ち込むからオカシなことになってるんだよ。「二人には色々あったけど、ジョー君は足を怪我したベン君を背負ってゴールしました。先生は感動しました!」か。砲弾の衝撃や、負傷し死んでゆく兵士らをなまじリアルに描写するから、その現実感にそぐわないヘンテコ演出が目立つ。 「顔が日本人に似てるから」変装してたった二人で敵陣に乗り込む。そして無線を奪って大成功、って曲がりなりにも“反戦”の筋を通したいのならこんな驚天動地かつ荒唐無稽な脚本にしちゃいけません。捕虜田くんか。誰だ。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2014-10-07 00:37:23) |
1290. 突撃(1957)
ネタバレ 軍隊という理不尽組織の真髄を見せられるなあ。あの3人の敵前逃亡罪による処刑はもろに見せしめ。クジで選ばれるとか、もう戦時の狂気の極み。さらに見せしめだと軍にいる全員が解っているのがオソロシイというか、救いが無いというか。 で、カーク・ダグラス大佐はその処刑役に、小隊の隊長を指名するわけだ。同胞を殺して逃げ出し、頬かむりをしている奴に。まあ仕返しというか、罰ですよねこれは。しかし大佐のこの意地悪など可愛いもの。まさか大佐も三人を救うべく自分の流した情報が、将軍自らの弾除けに使われるとは夢にも思ってなかっただろうな。カーク・ダグラスのびっくり顔ったら。 狸将軍の上に大狸アリ。温厚そうな外見は百戦錬磨の狸の為せる業ということか。 フランスの地だけあって軍が接収した建物が瀟洒で美しい。優美な曲線の中で行われる軍法会議。このミスマッチな画面、強烈な印象を残します。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2014-10-05 00:07:59) |
1291. マイレージ、マイライフ
ネタバレ マイレージが溜まりに溜まるやり手ビジネスマンが、本当のところ実生活はわびしくて家庭の愛に心ひかれてゆく、なんていかにもアメリカ人の道徳観丸出しだなあ。 既婚でもアレックスみたいに、現実から逃避するために出先で男遊びしちゃってるパターンもあるのですがね。ちなみにこのひとは“割り切ることのできる大人の女”なんかじゃなく、頭のオカシイ女だと私は思うのですが。 大卒出の女の子がずっと年上のクルーニーに人生論を説教している図は痛恥ずかしいような心持ちがしてしょうがない。そもそもこの娘の論で行けば、説教すべきは彼女の憧れのアレックスなのだ。 解雇されて自殺してしまった社員の件はあっさりとスルーされたりと、どうもこの脚本のセンスは好きじゃないなあと思った。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2014-10-04 00:43:43)(良:1票) |
1292. スピード2
ネタバレ おお、ものすごい低い平均点だ。人は期待を裏切られると、辛らつになるのだなあ。 まず、①「あの」スピードの続編なのにキアヌが出ない、ということに八割方は失望したでしょうし、②タイトルとは真逆の疾走感の無さ、でがっかりがMAXになっちゃうんですね。 タイトルが「ヤン・デ・ボンの豪華客船SOS」だったら普通にもっと点、いくでしょ。タンカーとの衝突をスレスレで回避した場面なんか、巨大建造物同士が横っ腹をごりごりいわせて、けっこうな迫力でしたよ。「おおっ」と手に汗握ったのは209人中、私だけかい? [CS・衛星(字幕)] 5点(2014-10-04 00:23:16)(良:3票) |
1293. イルマーレ(2006)
“スピード”の、かつての若きカップルがすっかり年輪を重ねちゃったけど、それでも観る者を惹き付ける存在感は健在で、さすがはスターだなあ。カメラは二人を綺麗に収めようとしているし、似合う色を選んで着ているサンドラの衣装も素敵。 オリジナルを未見なので、時空がハンデになる脚本は新鮮に感じたし、男も女もがつがつと肉食な慎み無き現代において、手を伸ばしても届かないもどかしさはやや時代錯誤なまでにプラトニック。キアヌとサンドラの困り顔はこちらに感情移入させるのに充分な演技力。 浮世の沙汰を一瞬でも忘れさせてくれる、ということが映画の魔法だと私は思っているのだけど、この作品はそんな意味でまさに映画。映画様。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2014-10-02 00:12:34) |
1294. グランド・イリュージョン
ネタバレ てっきり主役はJ・アイゼンバーグかと思って観始めたら、あれれどんどんマーク・ラファロの露出の方が高くなっていってんの。マジック云々よりこっちの方が面食らった。主役を張る華、ありますかねえマークに。(ファンの方には申し訳ない) 仰々しいまでの仕掛けや、早い展開には映画の醍醐味がそこそこ味わえますが、お話自体がそんなに面白くない。オチを聞いてもふーん、となる。最後の、カード合わせるとぴかーっと輝きだすって、さすがに何のアニメかと思う。 [DVD(字幕)] 5点(2014-09-30 00:26:47)(良:1票) |
1295. ジャッキー・コーガン
ネタバレ 予備知識無しで観て、話のあまりの広がりの無さに驚愕。皆さんの教えによると経済危機に陥った米国金融界の隠喩だそうな。はあー。やけに大統領の演説がバックに入るなあ、とは思ったけど。彼らの言う「米国の理想形」と現実の荒れ具合との乖離を皮肉ってんのかな、とその程度かと思ってた。 “誰か”(ウォール街)が儲けて、その他大勢は無残に蹴散らかされる。レイ・リオッタ然り、強盗を企んだ三人組然り。無能で仕事のできない奴(財務長官?)も処分された。唯一、ブラピだけは精一杯ベストを尽くして誠実に仕事を行った人物。(殺人だけどな)にも関わらず、正当な報酬を支払われない。住宅販売の一企業マン、と考えてもよろしい・・のでしょうか?? [CS・衛星(字幕)] 5点(2014-09-28 23:48:35) |
1296. ビッグ・リボウスキ
ネタバレ おお点数の分布が満遍ない。良いですね。私には直球ストライクです。 いやあ、もう馬鹿。馬鹿と変態と自分勝手ばっかりじゃないか。まだしも健常値に近いJ・ブリッジスが、とんだ巻き込まれ事件の中で翻弄されっぱなし。こんなええ仕事してたんだあ、彼。ベトナムのPTSDでややこしいことになってる友人のJ・グッドマンをはじめ、他のそうそうたる面子もいいボケをしちゃってる、もう顔からですもん。見てるだけでなんか腹立つわあ。特筆すべきはP・S・ホフマン、やる気満々の渾身のボケやってます。(哀悼) 出てる奴らの恐るべき社会的有用性の無さ。なんという無駄。しかし人間社会には絶対に必要なアソビの部分を担ってる彼ら。大好きだあ。 ああ、大好きなS・ブシェミが灰になってコーヒー缶(!)からジェフにふりかかる最後の場面なんてさ、何度目かの「馬鹿かーっ」を叫びながら私の視界はぼやけてにじんだ。金はなくとも、愛はあるのだ この世には。 [CS・衛星(字幕)] 10点(2014-09-26 00:32:37)(良:1票) |
1297. “アイデンティティー”
ネタバレ 一人ずつ殺されてゆくうちに、観ていてこれはどこを目指しているのかなあ、と考える。「そして誰もいなくなった」をやりたいのかな、それとも“先住民墓地”をやたらとちらつかせるから、そっち系のホラーかな、とか。そしたら予想を大きく超える展開で、思わず唸った。脳内映像ということならば、もっと何でもアリにできたところを、やり過ぎないさじ加減が巧い。まんまとミスディレクションされてしまった。 サイコサスペンスジャンルはもうそれこそ山ほど脚本が出尽くしちゃってる中で、見せ方も引っ張り方も良く考えた立派な仕事だと思う。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2014-09-24 23:57:20) |
1298. フォー・ウェディング
ネタバレ あーびっくりした。ウェディングにうっとりするロマコメなんかじゃなかった。こりゃイギリス一流のブラックジョークなのだね。だけども、「あー、あるある。わかるなー」と膝を打つ共感性が無いと成り立たないんじゃないのかなブラックジョークてのは。「貞操観念」というものがあるわが国においてはキャリーという女性は文化差異の喫水線を超えちゃってる。ちっとも笑えん。寝た男の数を「ダイアナ以上マドンナ以下」つってるけど、マドンナに失礼になんないのか。お前さん知ってんのか。 キャリーに共感は全然無理だが、H・グラントにはできる、というわけでもない。でもこの人は毎度毎度こういう優柔不断不誠実キャラを何作もこなしているので、今作も水の如くなじんでいるのだった。怖いぐらいぴったりだ。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2014-09-24 23:33:17) |
1299. 太陽がいっぱい
ネタバレ 海の青、痛いほどのA・ドロンの美貌、名曲の誉れ高き音楽、そしてこれ以上ないラストシーン、何もかもが鮮烈で、半世紀経った今の映画には薄れてしまったロマンというべき耽美さに溢れています。 野犬のようなドロンの、暗い危険な瞳。マルジュを追い込みにかかる場面、彼の瞳にどんどん寄ってゆくカメラ。マルジュならずとも陥落するってもんです。 眼底にちかちかと残って離れない陽光と、その眩しさの中で行われる殺人という後ろ暗き行為。アンバランスで危うくてドロンの存在そのもののようで、今でも各場面が鮮やかに思い出せる名作です。 [ビデオ(字幕)] 9点(2014-09-24 00:21:13) |
1300. 悪の法則
ネタバレ ああーやだ。やな話だよーこれは。一点の心地よさも見出せないので、体調のすぐれない人には絶対すすめられません。 綿々と語られるのは、慈悲だとか情だとか、そういう人間の正なる部分が一切無い世界が存在するのだよということ。それはウサギを捕食するチーターの如く、命を葬ることに何の躊躇も無いということで、ああそんなこと知りたくねえっ。こってりと交わされる勿体つけた会話にペネロペ救出の希望など全然なくて、こちらの眉は八の字になりっぱなしだ。世にもおぞましいメキシコマフィアの闇世界。 でもさ、人は、少なくともワタシは因果応報ってものが好きなんだ。マルキナにも回り回って何らかの落とし前が巡ってくる、そんな続きがあってほしいような。せめて。 [DVD(字幕)] 6点(2014-09-22 23:57:59)(笑:1票) |