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1.  ゴジラ-1.0 《ネタバレ》 
ゴジラが海上からぬうっと鼻先を突き出し、船の後をついてくる様子にふと、「耳を倒して背中の毛を逆立ててるうちの子(猫)が、獲物にロックオン」というイメージが来て、それからというもの、あの恐ろし気なゴジラが、海上を匍匐前進する超巨大なCATにしか見えなくなってしまった!  厄介なことに一度こうと見えると、先入観は脳内からなかなか剥がれてくれない。 ゴジラが軍艦に体当たりし、かぶりつき、揺さぶり出すと、にゃんこがルンバにじゃれついている妄想が来て、初めに出たぐしゃぐしゃの軍艦は、猫パンチを食らったなれの果てかと納得し、勢い余ったゴジラが両腕を広げたまま、海上に仰向けにひっくり返ったときにはもう最高潮に萌えてしまって、キュートなんだかゾッとすべきか、わけがわからなくなった。 画面を横切って吹っ飛んできた軍艦はスリッパに見えるし、ゴジラが電車の車両に噛みついてるシーンは、サンマをくわえてる姿に見えてしまう。尻尾をはでに振り回すのは不機嫌モードの猫あるあるで、目の前をかすめて飛び回る戦闘機はコバエか猫じゃらしそのもの。壮大な音楽は荒ぶるにゃんこのパロディみたいに聞こえてきて、悲劇と喜劇、2つの映像を同時に見ているような超豪華なエンタメを味わえた。  ただ、ゴジラというキャラクターについて、今作もちょっと色々考えてしまった。 自然や神の象徴だったり、人類が不本意に創造してしまった核の産物、デストロイヤーとしての偶像として捉えられているけれど、それはゴジラが目的もなくひたすら街を破壊するからだろう。 生きるために「食べる」という行為が抜けている。ということは、自然界に属さない生き物、命のサイクルから外れた生命体という位置づけになる。 冒頭でミニゴジラが人間に噛みついて振り飛ばすシーンは、確かに怖いし迫力満点で見ごたえがあるけれど、口の中に入った人肉(たんぱく質)をわざわざ放り出してしまうとか、そんなのは狩りでも何でもない。 そもそも自然界の頂点に立つ猛獣は、満腹のときはあえて他を襲ったりしない。 それだけに、食欲に関係なくただただラリって殺戮、破壊行為でのみ生きるという生物が、どうしても不自然に感じられてしまう。 とはいっても、ハリウッド版のように、巣を作って、産卵して、幼獣が街中にあふれる繁殖率の高いゴジラでは、唯一無二の存在が希薄になってしまう。 だからこそ、「荒ぶる神」という孤高の位置づけがゴジラにはふさわしいのだろう。 それだけに、本作ではゴジラに己の咆哮を聞かせて「縄張り」を刺激する作戦がとられていて、いかにも従来の生物っぽい扱いにちょっと驚いた。  敷島がゴジラに挑むラストには息をのんだ。 もし彼が命を散らしたら「特攻隊」という戦時中の日本軍の過ちを肯定する映画になってしまう。だから死なないだろうと思っていた。 でも、放射能を振りまきながらゴジラが沈んでいった海に落ちれば、どう考えてもただではすまないはず。 でも、そこはもう、映画の世界だし、喜んで目をつぶりましょうという思いで安堵の涙を流した。 ラストのモコモコも、まあゴジラの映画ではお約束だものという思いで、スルーした。 映画館を出ると、表はすっかり暗くなっていて、うちのゴジラ(猫)会いたさに大急ぎで帰宅した。
[映画館(邦画)] 10点(2023-12-22 16:39:31)(笑:1票) (良:2票)
2.  ロケットマン
エルトンの楽曲を映画館で思う存分聞けると単純に楽しみにしていたが、まさかこんなにハンカチがぐしょぐしょになるとは思わなかった。思春期の息子と意思疎通がうまくいかなかった頃のことを思い出しながら鑑賞していたせいかもしれない。レジ―、あるいはエルトンが、両親の心ない言葉に深く傷つき、寂しさに打ちひしがれている様子が映るたび、わけもわからず泣けてきた。彼がど派手な衣装を身に付ける理由が初めて理解できたような気がする。主演のタロン・エガートンの歌もすごく上手かったけれど、長年彼の歌をCDがすり減るまで聞きまくってきただけに、途中から本人の歌声が聞きたくてたまらなくなって閉口した。家に帰ると、すでに成人して仕事にも就いている息子に無性に会いたくなった。  (タロンの2本の前歯の間にわずかに隙間があったけれど、あれはもしかしてエルトンに似せてわざと広げたとか?)
[映画館(字幕)] 10点(2019-09-05 00:13:43)(良:1票)
3.  列車に乗った男 《ネタバレ》 
それぞれの人間関係や過去は、全て語られるわけではなく、視聴者が想像できるぎりぎりの流れだけを見せてくれる。そのぼかし方が絶妙に上手い。マネスキエがジグゾ―パズルをいじっているシーンがあるが、この映画自体がまさにパズル。映像の端々や台詞で垣間見せてくれるヒントを頼りに人間関係を解けとでも言っているようだ。  たとえば、強盗仲間であっても心を許して抱擁するほどの、実は人一倍人情の深いミランだからこそ、ルイジをかばって撃たれてしまうわけだし、マックスとドライバーのサドゥコは、警察と司法取引でもして仲間を売ったと思われる。初め、マックスは警察の潜入捜査官なのかと思ったが、ミランが彼に「太ったな」と昔馴染みをうかがわせる言葉を出しているから、違うだろう。抜けようとしたミランを無理に引き込もうとしたマックスのタチの悪さは計り知れない。  また、マネスキエもミランも、土曜日にのっぴきならない「用事」があり、この時間制限が、ドラマの明確な設計図でもある。自身の死を賭けたXデーを控えて、2人が次第に互いの人生を「隣りの芝生」視点で眺め始める。彼らの思いが、じわじわと交差していく。その流れが、小憎らしいほど自然で、台詞がまた上手い。ジョークを挟んだり、しないと公言していた質問をするなどして、饒舌と寡黙の単調なリズムが、少しずつナチュラルに変化していく。それは食事風景にも言えることで、最低限の料理と酒しか載っていないだだっ広いテーブルだったのが、ラストデイには、驚くほど小さな食卓となり、その上に果物、水差し、ヤカンとぎっしり物が載った状態となる。初日にはミランが酒を遠慮しており、最終日にはマネスキエが湯?ティー?を断る。しかも、ホスト側ではなく客のミランが最後の食事を用意しているのだから、2人の関係の変化もここまできたかというユニークさがある。こうした細々な仕掛けが台詞・映像を問わず、さりげなく張り巡らされている。何度見ても何かしらの発見がありそうな作品だ。   ラストの一見不可解な映像は、2人の叶わなかった願望をファンタスティックにシミュレーションしたもの、つまり演出家による、視聴者へのサービス映像に見えた。また、ミランが乗ってきた列車は、単なる交通機関である車両に過ぎないが、マネスキエが乗り込んだのは、ユーラシア大陸から直接北米の、例えばワイアット・アープが活躍したトゥームストーンへでも向かう夢の列車だったろう。ただ、ミランがこの街に来なければマネスキエの乗車に繋がらないわけで、タイトルの「列車に乗った男」はやはり両者を指すのだと思う。しかし、2人同時の乗車はありえないので、「男たち」ではなく単数形なのだろう。
[インターネット(字幕)] 10点(2017-06-10 02:14:18)
4.  シン・ゴジラ 《ネタバレ》 
高い発生率の南海トラフ地震におびえる太平洋側の住人としては、この映画は単なる娯楽として鑑賞できなかった。建築物の崩壊シーンはあまりにも生々しく圧倒的で、震災で身内を亡くされるなど、深刻な被災を経験した人がこの映画を観るにはかなりハードルが高い気がして心配になったほど。  巨大生物に善も悪もなく、ただ決して共存できない存在として描かれているため、ゴジラは生物というよりは、まさしく地震やその他の天災をつかさどる荒ぶる神の化身に見える。東日本大震災では、大きな地震や津波が起こったあと、二次被害として原子力発電所の重大事故が発生したが、そうした段階を踏んだ震災の様子が、ゴジラの上陸、建築物の破壊、放射能火炎放射らと重なって見え、考え込まざるをえなかった。何度もくり返された 「生物なら倒せる」 というセリフは、決して避けることができない天災を人類が直接手を下して牛耳りたい、防ぎたいという願望が込められている気がする。  海外のGODZILLAで描かれる人間ドラマは、怪獣と対比させるためにやむなく必要だったのだろうが(そのため、どうしてもとってつけたような感が残る)、このシン・ゴジラは、擬人化した「震災」に立ち向かう人間ドラマであって、どちらも重要な両輪の役目を果たしていた。核を使わず、ピンポイントでゴジラをしとめる人間の知恵と勇気は、東日本大震災の折、放射能拡散を防ぐため、命がけで発電所に放水をくりかえした東京消防庁の人々、バルブを閉めに行った熟練者たちへの思いに重なる。この映画を観た外国人の中には、退屈な官僚たちの人間ドラマなど不要という感想を持つ人が多いと聞くが、日本人にしかわからなくてもいいと堂々と開き直りたい。
[映画館(邦画)] 10点(2016-08-06 01:08:26)(良:3票)
5.  海難1890 《ネタバレ》 
NHKをはじめとする様々なドキュメント番組、書籍などを通して、ある程度知識の底入れがあった。串本の人々が生活に余裕のない状況も顧みず献身的にトルコの遭難者を救助したこと、また、イラクの戦場の地で、トルコの人々が日本人のために危険を承知で陸路を選んだこと、この2点が事実であるなら、どう描いてもこてこての美談になるだろうという予感があった。つまり、映画で表現すれば 「やりすぎだ」 と言われても不思議ではない話が現実に起きていて、感動が偽物に感じかねないほどの美談だった、ということ。初めからそういう思いで鑑賞した。トルコ海兵たちを見送るために、浜の人々が総出でずらっと並んだ光景が出たときは、鳥肌が立つほどの感動がきた。(ここ、思い切りネタバレですが → ) エンドロールが終わって席を立とうとしたとき、トルコの現首相が大きく映し出され、私たち観客に向かってあいさつの言葉を述べられた。この映画は、単なる安っぽいプロパガンダ作品ではなく、日本とトルコ両国の絆を深めるための、尊い記録映画でもあるのだと思う。ちなみに、安倍首相は映らなかった。トルコで上映される場合は、日本の首相があいさつしていて欲しいと切に思う。
[映画館(邦画)] 10点(2015-12-16 23:36:05)
6.  リンカーン弁護士
別れた妻子、敵対する警察側、裁判所の職員、お抱えの運転手に、いかにもヤバそうな暴走族。主人公ミックが彼らと話す言葉には心に十分な余裕があり、テンポがあり、粋でさえある。ウケ狙いのジョークを飛ばすことなく自然に口にのぼるセリフばかりだが、これほど惹きつけられる会話も珍しい。また勝つためには依頼人相手でもコンゲームを挑み、暴力をも辞さないが、社会的に弱い者、はみ出し者、有色人種をかまわず対等に話すミックがふところ広くて頼もしい。彼らもまたミックに力をかし、そうした相互扶助の痛快さがいっそう話を面白くしている。松田優作主演ドラマ「探偵物語」の〝bad city〟の雰囲気をちらっと思い出した。
[インターネット(字幕)] 10点(2015-01-04 23:14:42)(良:2票)
7.  ゼロ・グラビティ 《ネタバレ》 
さすが無重力をタイトルにすえるだけあって、3Dによる宇宙遊泳のリアリティはハンパじゃない。「アポロ13」のファンとしては、細々な設定では「ん?」と首をひねりたくなることも多かったのだが、ありとあらゆる点を徹底的にリアリティに描く必要はない作品なのだと途中で気がついた。特にラスト。ポッドが海に落ちて飛行士が1人で這い出し、陸地にたどりつくなど考えられない。あのラストでこの作品は、臨死体験して命が生還する、輪廻の叙事詩のようなものだったのではと感じた。no_the_warさんの書かれているとおり、「出産」をイメージして描かれている作品だと考えれば、数々の事故でヒロインが感じる苦痛や苦悩は、陣痛に苦しむ胎児、ヒロインの呼吸は、出産時の産婦があえぐ呼吸と思えなくもない。映画「ガタカ」の或るレビュワーが、主人公自身を卵子に向かって泳ぐ精子ととらえていて、その鑑賞力に感動したことがあるが、この作品も同じようなニュアンスを感じる。 またこの作品は伏線も何点か張られていて、そのうちの1つ、火災が発生して消火器が登場するが、これを噴射素材として利用するアイデアにはびっくりした。まるで「ダイ・ハード」のノリ! それにしても「ザ・インターネット」といい、サンドラはよくよく消火器に助けられる女優さんだ(笑)。
[映画館(字幕)] 10点(2013-12-18 23:48:02)(良:2票)
8.  言の葉の庭
確かアニメの映画を観たはずなのに・・・・・・? 観終わったら、純文学の短編小説を読みふけったような充足感。視聴中、クーラーを止め、扇風機を最強にしてすごい風を浴びてるときに、夕立の豪雨のシーンになった。そのときの臨場感ときたら(笑)。また井上靖の「額田女王」の文庫が映ったとき、学生の頃、教室のどこかに置き忘れてさんざん探して見つからなかった思い出が瞬時によみがえってきて、「うわっ!」と声をあげてしまった。フィンランドの人もお国のブランドのカップ(マリメッコ)を本編中に見つけたらしい。映画のDVDを見ていて、こんな体験は初めてだ。
[DVD(邦画)] 10点(2013-08-17 00:16:16)
9.  あなたへ 《ネタバレ》 
主役級の実力俳優があちこちにいて、健さんとは直接関係のない人間模様がいろいろ展開されていたのは残念。主役が他の俳優だったら、あの流れでも構わないし、本の中で同じ展開になっても大いに感動を呼ぶだろう。しかし彼が主演であれば、複合的なエピソードで感動を膨らませる必要はない。たった1つの、夫婦だけのエピソードで充分だ。それほど彼の存在感が大きいからだ。あるいは、無名の俳優が脇を固めていた方がしっくりきたと思う。 また、2通目の「さようなら」は意味深だった。「しあわせでした」「ともにいます」「ありがとう」すべて平凡だ。「さようなら」の言葉の余韻は測り知れない哀愁とミステリーを含んでいる。原作の手紙から一気にこの一言に絞った脚本はすばらしい。ストーリーには少々不満だが、健さんの魅力を十二分に味わえて、大満足の鑑賞だった。
[映画館(邦画)] 10点(2012-10-01 20:21:33)
10.  椿三十郎(1962) 《ネタバレ》 
「ギラギラしている」のは、三十郎ではなくて室戸の方では?というのが、唯一引っかかった点。奥方たちのおっとりした会話にうんざりして「や」の字を書いたり、えらそうに碁盤の上にのって文句をたれたり……ひょうきんでぐうたら侍風の三十郎がギラギラするのは、やむを得ず人を斬るときだけではないか。ラストの決闘も、室戸が仕掛けるまで待ったあとで反応している。あくまで受身だ。(ちなみに、昔初めて視聴した時は、2人同時に刀を抜いたと思っていた。今見ると、三十郎は決して先に手を出すつもりがなかったと確信できる。)  いい刀は鞘に入っているとのこと。その真実に沿うように、先に抜かれた殺気を放つ刀は敗れた。しかし、三十郎が奥方の評どおり「ギラギラの抜き身」であったなら、どちらが倒れても不思議ではない勝負であったろう。また、2人とも相手が出るまで待つ構えであったなら、決闘は成り立たなかったはずなのだ。まるで『古畑任三郎』の「笑うカンガルー」に出てきた「ライオンのパラドックス」を見るような思いがした。   しかし、ほかは満点。ドラマだけを音声で聞いていても、脚本の素晴らしさに何度もうならされる。無駄なセリフが一つもない。感服!
[DVD(邦画)] 10点(2012-04-06 00:05:02)
11.  静かなる決闘 《ネタバレ》 
いかに最近のドラマや映画、小説、アニメが、売上げだの視聴率だのに振り回されて視聴者や読者に媚びているかがわかる。こんなにも力強く、ストイックでヒューマニズムを貫いた作品は久しぶりだ。自己犠牲が偽善的でダサいという風潮がいつから定着してしまったのか。確かに藤崎が婚約者に一切事情を話さないのは彼女にとってはやりきれないだろうが、寡黙で不器用な性格だからこそ人間臭くて、見る者をじれさせるのだ。明日結婚するという恋人を、よくぞ手をつけずに帰したと思う。看護婦の峰岸に肉薄して感情をぶちまけたとき、その怒りや悲しみが見事に彼女に「伝染」したシーンは鳥肌が立った。感情という目に見えないエネルギーが相手(峰岸)に乗り移るさまは、三船の気迫あってこそだ。また昨今の軽いドラマにあるように、秘密を知った者が軽々しく他へ漏らさないことも、抑えが効いていてすばらしい。黒沢作品は、いたる所で舞台劇さながらの生の迫力を感じるシーンがある。視聴年齢を重ねるたびに、作品の深さがわかるようになってきた。
[DVD(邦画)] 10点(2012-04-05 00:38:54)(良:1票)
12.  善き人のためのソナタ 《ネタバレ》 
悪役が次第に心変わりして人を助ける話に弱い。決して感情を顔に出さないヴィースラー大尉だが、意気消沈しているクリスタを励まし、恋人たちの危機を救い、2人が愛と信頼を回復しているさまを確認して、自分が冒した冒険の成果に酔いしれる。シャンパンのコルクが弾ける音に耳を痛打され、体制批判を繰り返す劇作家たちの言動に、「こらえろ」「みのがしてやる」とぶつぶつつぶやき、彼らの部屋が捜索される際には気をもみながらハラハラする。こんなかわいらしいおじさんが、泣く子も黙るシュタージ関係者とは驚きだ。無表情の彼の心情をどこまで視聴者が汲めるか試すような、決して饒舌ではない脚本の素晴らしさに舌を巻く。また、劇作家が自分の生活を盗み聞きしていた体制をクズと呼びながら、その実行犯に対して謝意を示すという複雑で繊細な心理を、この映画はとてもしなやかに、粋に描いている。人を許すこと、愛に生きること、人のために、自分のために生きることの尊さ等が、『善き人のためのソナタ』というラストの「書名」に収れんされていく…。 (「ソナタ」とはあるが、これは音楽、演劇、小説を問わず、あらゆる芸術の象徴として選ばれた言葉ではないかと思う)
[DVD(字幕)] 10点(2012-03-13 10:34:19)(良:2票)
13.  アイズ ワイド シャット 《ネタバレ》 
原作を読んで本作品を観、再び本を開いてみたら、映画の音楽とシーンが「鮮やかに立体的に」よみがえってきて、まるで別の読み物を味わっているようだった。細部が適当に変わっているだけで、大筋は原作通り。不気味な音楽、スローテンポな演技、冗長な時の流れ、それらが絶妙に絡み合うことで異次元空間を創り出し、夢と現実の境界線をひどくあいまいにする効果を生み出している。それにしても、この映画において、性の道具として扱われる女性たちへの同情と賛美の深さはどうだろう。乱交パーティは確かに目を覆いたくなる有様だったが、ヒールで歩く裸身の彼女たちは気品にあふれ、異彩を放っていた。マスクをしているので、女優の顔や知名度が武器になるはずもなく、衣装の力を借りることもできない。まさに肉体だけでオーラを放たなければならない。また、命をかけてビルを助けるために、画面上方中央のバルコニーから「イエス!」 と言い放った女性の神々しいこと! 何度見ても、「彼女は裸だ」 と信じるのが難しかった。
[DVD(字幕)] 10点(2011-06-04 21:13:05)
14.  バベル 《ネタバレ》 
4つの物語の共通事項は、主要人物たちが、突然思いもかけぬ絶望の淵に立たされること。バベルの塔は、建設中にいきなり人々の言語が分かれて意思疎通ができなくなり、工事が中断された忌まわしきオブジェだ。元々人々は同じ言葉を話す同一文化人だったが、突然予期せぬ災難に遭い、世界各国へと放浪を余儀なくされる。聖書のこのエピソードを考えたとき、この作品のタイトルの巧みさに舌を巻いた。幸せを求めて挫折し、孤独な魂を抱えて放浪せざるを得ないという人間の性は、正しくバベルそのものだ。また、4つの国をまたいでグローバルな視点をうながすことも、安易にインターネットを用いていないのが気に入った。国と国とが連携するとき否応なく時間がかかること、インフラの整っていない地での絶望的な医療や、見はるかす大自然の脅威などで、地球という惑星の大きさをずっしりと重く感じることができた。
[DVD(字幕)] 10点(2011-02-18 23:35:21)(良:1票)
15.  かもめ食堂
おにぎりを握る、ちゃっ、ちゃっ、ちゃっという音、フライを揚げるじゅわ~っとジューシーな音。さくとん、さくとんと鳴る包丁とまな板のリズム。料理の載ったお皿をテーブルに置く、ごとっという音。それらを聞かせるために、料理中はBGMを排除していたようだ。小林さんの美しい手の動きとこれらの音を楽しみたくて、またこの映画を見たいと思ってしまう。同じく食べ物を扱った癒し系「ショコラ」では、視聴したあと特にチョコレートを食べたいとは思わなかったが、今回は黒い海苔を巻いたシンプルなおにぎりが無性に食べたくなった。それと何より、箸とおにぎりに何の違和感もなく食事を楽しんでくれるフィンランド人のお客の姿が日本人として嬉しくて、最高の癒しになった。
[DVD(字幕)] 10点(2010-03-17 10:41:38)
16.  フィクサー(2007) 《ネタバレ》 
人物の相関図がほんとややこしくて、2度見てどういうドラマかやっと分かった。 だけど、アーサーの長々としたセリフが、かなりすごい。たくみに、狂人のたわごとに見せかけていながら、実は、恐ろしい事実をちゃんとしゃべっているという、このセリフマジック!「天才と狂人は紙一重」という真実を利用して仕掛けた伏線だったとは。一度全ての事情を完全に掴んでしまってから、つまり、アーサーは、「躁うつ病だった」という先入観を完全否定してから、改めて再度視聴すると、アーサーの全セリフが、面白いほどすらすらと解読できてしまう。この感覚は、急に暗号が解けて文章が解読できるというか、全く聞き取れなかった英語が、突然日本語になって耳の中に飛び込んでくるというか・・・・・・。と同時に、急にマイケルにイライラしてくる。「何て鈍いフィクサーだ、必死でアーサーが説明しているのに」と。(でも、最初は私も確かにマイケルと同じ立場だった) 一度先入観が解けてしまうと、二度とアーサーの支離滅裂ぶりを味わえない。一言一句、まともに聞こえてしまう。では、なぜ一度目の視聴のときに、彼の演技が本物の躁うつ病に見えたかというと、「彼はふだんから薬を処方されていた」という設定があったから。マイケルはしつこいほど、「薬を飲め」「薬を飲むのをやめるときは」と強調する。これは脚本家の巧みなテクだと思う。2度目の視聴ではっきり分かる。アーサーが自分で壁に書いていたように、彼は精神など病んでいない、と。それにしてもトム・ウィルキンソン、台本を見て卒倒しなかったろうか、そう状態でしゃべるセリフだから、饒舌になるのも無理ないけど、古畑任三郎どころじゃない早口で、何ページ分もの量を一気にしゃべる、あれは撮影も、声優さんも大変だったんじゃないかと。クルーニーの相槌のタイミングがちょっとでもずれてNGが出たとしたら、そのときのトムの落ち込みようが目に見える(笑)。また、この作品は二度失笑するシーンがあった。1つ目は、アーサーが「フル・モンティ」のジェラルドよろしくいきなり服を脱ぎ出したとき。2つめは、「オーシャンズ11」の時限爆弾のドジを彷彿させる殺し屋たちのミスで、クルーニー自身が命拾いをしたこと。(オーシャンズではクルーニーがドジったのだった)「フィクサー」はコメディではない、と言い聞かせながらも、つい笑ってしまった。
[DVD(字幕)] 10点(2009-09-28 23:59:32)(良:1票)
17.  パフューム/ある人殺しの物語 《ネタバレ》 
誕生から死まで『オーメン』のダミアンを見るようだった。自ら殺人を犯すまでもなく、主人公に関わる人間は皆ろくな死に方をしない。搾取する側の貪欲な人間として描かれているから、彼らの哀れな末路がいかにもエンターテインメント。また、主人公が職人気質を残酷なまでに貫き、最高傑作を制作後、虚無感に陥り自ら命を絶つさまは、芥川龍之介の『地獄変』と酷似している。けれどもグルヌイユの決定的な個性は、臭覚で得るもの以外は無関心であること。名誉欲、物欲、性欲、人を困らせて快感を得ようとも思わない。ラストでも香水の威力を確かめれば満足で、支配欲はない。これぞ究極の職人気質では。さらに絶世の美女より、匂いの初恋ともいうべきプラム売りの少女の方が、彼にとってはその死が重い。視覚で得る美は臭覚の美より下だからだ。ただ、殺害される前にローラが投げた眼差しの意味は大きい。彼女が見た侵入者の表情は極悪非道には見えず、しかし体は棍棒を振りあげている、そのギャップにぴんと来なかったというところか。グルヌイユのためらいは、無邪気で美しいものを壊す罪悪感を呼び起こしたことから来たものだ。退化した尾の名残として人間に尾骨があるように、無意識に人間らしい躊躇が脳裏をかすめたのだろう。その瞬間の表情を、グルヌイユ本人のではなく、ローラの顔が鏡のように表現しているのだ。媚薬の香水をかぎ、また人々の愛の享楽ぶりを見て、彼自身もプラム売りの少女から癒しを受けたいという気持ちにつながったのかも。グルヌイユの不幸は、欲してやまなかった至高の香水が決して心の渇きを癒すものではないと知ったこと。生甲斐を失った職人ほど哀れな者はいない。
[DVD(字幕)] 10点(2007-10-02 11:00:19)
18.  モンスター(2003) 《ネタバレ》 
自分を愛してくれる人のために、という一心から自己犠牲を払いつつ、善人をも殺さざるを得なかったアイリーンの胸の内には、すさまじい葛藤があったに違いない。極度の不安から短気になり、体を震わせ、体を縮めて泣きじゃくるモンスター。似顔絵を公開されてセルビーを解放する彼女が、たまらなく哀れだけれども立派だった。幼い弟たちを養った経験のある彼女だからこそ、ソウルメイトを手放す勇気が持てたのかもしれない。自己犠牲を払って他を救い、主人公が自滅するストーリーは、昔はドラマやアニメ、映画などいくらでもあったと思うけれども、久々にお目にかかった気がする。目が腫れあがるほど泣きました。
[DVD(字幕)] 10点(2007-07-15 23:01:55)(良:1票)
19.  禁じられた遊び(1952) 《ネタバレ》 
ポーレットのことが好きでたまらないミシェルにとっては、宗教も、戦争も、大人たちの争いごともみな色あせて見えたことだろう。十字架の窃盗を神父に告白しつつもさらに大きいのを盗もうとしたり、大人からみれば、こうした子供の心が純粋だなんて、まず信じられないに違いない。少女の気をひくためなら、自ら小動物を殺し、十字架を盗み、墓を作る。叱責を恐れても良心が痛むことのない子供特有のエゴイズム、残酷さ、そして愛する者を奪われる悲しさなど、子供の心情が素直に描き出されていた。それは『ピアノ・レッスン』で母を独り占めにしたいと願う少女に通じるものがある。さらに戦争を絡めることで、子供のエゴイズムや大人の無理解は、反戦という、より深いメッセージ性がこめられる。禁じられた遊びとは、神を象徴する十字架をもてあそぶことだが、遊びの真相を周囲の大人は結局誰一人知ることがない。戦争こそ、愛国心から端を発し、途方もない矛盾が積み重なり、誰も解明することのできない殺戮の遊びなのではないか。
[インターネット(字幕)] 10点(2007-04-20 15:22:41)(良:2票)
20.  息子のまなざし
音楽も、セリフも極端に絞られていて、どうしてこんなに彼ら(オリヴィエ・別れた妻・少年)の悲鳴がつんざくように聞こえるんだろう。しかも、視聴が終わった後でも、ずっと頭の中で響いている。
10点(2004-09-21 21:09:36)
021.02%
121.02%
210.51%
3136.63%
463.06%
5115.61%
62110.71%
72914.80%
85327.04%
93517.86%
102311.73%

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