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1.  ストライキ 《ネタバレ》 
果汁を「搾り取る」とか、放水で扇動者を「洗い出す」とかの換喩の面白さ以上に、その画面の迫力に圧倒される。 火災が起こったので放水で鎮火させる、といった因果による作劇ではなく、 炎と煙を画面に展開させたので次はさらに水のスペクタクルを披露しよう、というような発想ではないだろうか。 そう思わせるくらい、経営者側がふかす紫煙や、放水攻撃の激烈さは過剰だ。 ともあれ、ここから始まる怒涛の群衆活劇は圧巻である。 高層建築を舞台に、深い縦の構図によって大乱戦が演出されるが、その高度は赤子に対する容赦ない仕打ちとしても利用される。  前半では人物紹介のモンタージュなどに使われる程度の動物たちも後半はアクションとサスペンスに大きく寄与している。 (ポンプ馬車、馬の足元に置かれた子供、牛の屠殺) こちらもまた、その含意以上に画面の力そのもので迫ってくる。
[ビデオ(字幕)] 8点(2016-07-24 20:41:40)
2.  香も高きケンタッキー 《ネタバレ》 
背後から父親(ヘンリー・B・ウォルソール)の目隠しをする娘(ウィンストン・ミラー)。 手と手が触れ合い、静かな沈黙の時間が流れる。 その手の感触で、それが長く別れて暮らしていた娘であることを父は悟る。  別離と再会のドラマ自体もそうだが、触れ合う指先が喚起する情緒という細部の モチーフからしても、なるほどこれはスピルバーグ『戦火の馬』のルーツだ。  離れ離れとなっていたかつての主人であることに馬(フューチャー)が気づくのも、自分に触れる手の感触によってだ。 前足の蹄を鳴らして何とか気づいてもらおうとする彼女の身振りが何ともいじらしい。  牧場を、競馬場を、自動車で混み合う街路を、疾走する馬の猛々しく美しい躍動感が 望遠や縦移動によって余すところなく捉えられていているのは勿論、 再会した母馬と娘馬が躰を寄せ合って喜び合うショットでは、 その身体表現の素朴な豊かさによって、立派に主役を張っている。  発砲の瞬間、厩舎の影から流れ出る白煙。競馬場の歓声。殴り合いの喧嘩に、乱れ飛ぶ白い皿。 音を意識させる演出やユーモアの数々によって、映画は賑やかで楽しい。  タキシードを着たJ・ファレル・マクドナルドが茶目っ気一杯の仕草で記念写真に収まり、 騎手の息子と恋仲になった娘が仲睦まじくツーショットを決める大団円は幸せ一杯で 屈託が無く、実に気持ちいい。
[映画館(字幕)] 9点(2015-06-03 01:10:43)
3.  曲馬団のサリー
ホークス『ハタリ!』の遥かな先駆けともなる小象のアクション。 迫力の白煙と放水の中で繰り広げられる列車と自動車の痛快アクション。 加えてキャロル・デンプスターが身体を張って懸命に走る、飛ぶ、よじ登るの クライマックスの大アクション。 そして随所に散りばめられたユーモラスなギャグに、華やかなダンスシーン。  その盛りだくさんのエンタテインメント精神も感動的だが、 それ以上にこの原初的アメリカ映画が胸を打つのは、 その快活なヒロインがふと垣間見せる、人を恋う孤独の表情だ。  南部のカーニヴァルにやってきたデンプスターが街中を一人で歩く。 誰のものとも知れぬ「母を悼む」墓石に彼女は一輪の花を手向ける姿が愛しい。 育ての親W・C・フィールズを慕い、幾度も抱き合い、全身で情愛を示す。 招かれた祖父母の家で、それと知らずに祖母と見つめ合い、触れ合うショットが美しい。  人を恋う、その普遍的・根源的なエモーションとアクションとの一体化が 強く心を引きつけてやまない。  ラスト、一人去りゆくW・C・フィールズに必死にしがみつくデンプスターの 見目はばからぬ懸命な身振りには涙、涙だ。 
[DVD(字幕なし「原語」)] 10点(2014-02-13 00:42:32)
4.  水の娘
序盤の、運河をゆるやかに渡る艀のショット群の何という瑞々しさか。 船上で料理をするカトリーヌ・エスラン。 その後景を、揺らめく水面と岸部の並木が流れていく。 以降も、さまざまにロケーションを変えて登場する水辺の情景が素晴らしい。  燃え盛る炎や流れる水、風に揺れる木々のみならず、 アヒルや犬や白馬など、動物たちのアドリブを活かした画面がまさに 伸びやかで生きた瞬間瞬間を掬い取る。  中盤のトリック撮影の奔放で自由なイメージの何と力強いことか。 白馬の疾走と共に、凸面鏡に反映させた木々が荒々しいスピード感で流れていく。 飛翔し、落下する娘の白い衣装がスローモーションによって官能的にはためく。  随所に挿入される縦移動のショットも、いかにもルノワールだ。 実質的な処女作だけに、原初的な衝動といったものがあらゆるショットに横溢している   
[DVD(字幕なし「原語」)] 9点(2013-08-31 23:59:35)
5.  ダウンヒル
この作品に登場する階段も、エスカレーターも、エレベーターも大半は下降の為のもの。  意識朦朧状態の主人公(アイヴァー・ノヴェロ)が、マルセイユからロンドンへと向かう 船のステップを肩を支えられながら船室へと降りていく。  階段を降りる主人公の下向き主観ショットとして撮られた、難儀な移動撮影。 その少しぎこちない揺れが、精神不安定の主人公とシンクロしあって生々しい。  レコード盤の回転運動と二重写しになりながら迫る彼の妄想。 町をほぼ無意識に彷徨う彼の主観ショットを幾重にもオーヴァーラップさせる テクニックも、街の情景の生々しさもあって決してあざとさを感じさせない。  背もたれの深い椅子によって手前と奥の人物が互いに見えないといった、 縦の構図の活用によって生まれるちょっとしたサスペンスの面白さ。 強いライトを利用した印象的な画づくりなど、他にも見所は数多い。 
[DVD(字幕)] 8点(2013-03-23 04:27:00)
6.  港々に女あり
気のいい海の男を演じるヴィクター・マクラグレンがいい。  見かけは無骨で喧嘩早い直情径行のキャラクター。 女性好きで荒くれたところもあるが、根の優しさが目元の表情と仕草に表れている。  酒場での喧嘩をきっかけとして無二の親友となる ロバート・アームストロングに保釈金を用立て、 二人一緒に海に落ちてずぶ濡れになりながら彼のタバコに火をつけてやり、 誤解があっても互いに小突き合いながら仲直りする、 その不器用な身振りの数々が気持ち良く、殴り合いのアクションも爽快だ。  そして、水夫の父を亡くした小さな子供の遊び相手をする彼がみせる 優しい表情が素晴らしく、情が滲み出ている。   歩哨やバンドを巻き込んだ酒場の乱闘の数々が楽しく、 妖艶なルイーズ・ブルックスの美貌が麗しく、 彼女をめぐる男二人のライバル関係と友情のドラマが痛快である。 
[DVD(字幕なし「原語」)] 8点(2012-08-13 00:33:49)
7.  帽子箱を持った少女 《ネタバレ》 
娘ナターシャ(アンナ・ステン)と青年イリヤ(イワン・コワル=サムボルスキー)の 出会いと再会のシーンを始めとして、画面にたびたび登場する「両足」が 一つの主題と云っていい。  足や長靴そのものは勿論、凍った架橋で何度も滑って転ぶギャグや、 テーブル下での駆け引き、雪原の白い地平線を歩む登場人物など、 足を使ったアクションの充実もそうした印象を強化する。  人物の表情のアップとスラップスティックのロングショットの使い分けも メリハリが利いている。  その中で、奥行きを駆使した二人のラブシーンの画が印象深い。  ソファに座った二人を、奥にナターシャ、手前にイリヤの横顔を配して構図を決める。  当初は偽装結婚だったが今は本当に結婚したいと告白する彼女と、 周囲から賞金目当てととられるためそれは受けられないと固辞する青年。  その対話が、手前と奥それぞれフォーカスを変えた同一構図でショットが反復される。  現在なら1ショットのうちに簡単にピントを送れば済むところを、 当時の浅い焦点距離の限界のなかで手間をかけてフォーカスを調整し 奥行きを作りだそうと健闘しているのが良く伝わる。  現在の特権的な立場から見れば、ぎこちない繋ぎに見えてしまうだろうが、 そこには二人のすれ違う想いが画面として強く表現されているゆえに感動的だ。  映画のラスト近く、ナターシャが間違って自分の指を針で刺してしまうと、 イリヤはその指を口に含む。  すると彼女は次にわざと自分の唇を針で刺して、 彼に一歩二歩とすり寄りながらキスをせがむ。  その彼女のお転婆な歩みの動作がとてもキュートで可愛らしい。  そしてラスト、想い叶ってキスし合う二人のツーショットが幸福感一杯だ。
[DVD(字幕なし「原語」)] 9点(2012-06-20 21:46:24)
8.  ミカエル 《ネタバレ》 
室内劇、フィクス主体の端正な画面である上、役者の動作も抑制的でスタティックであり、その画面の美的な求心力と緊張感は尋常でない。  ドイツ表現主義的な画面としては、画家の養子ミカエル(ヴァルター・シュレザーク)が師のスケッチを勝手に持ち出すシーンに拡大投影される竜の黒い影程度に慎ましいが、室内の調度品や美術品、宗教的意匠の数々のみならず、繊細なライティングに浮かび上がる女性たちのショットの輝きは息を呑むほどの素晴らしさである。  そしてその静的な画面ゆえ、女性が小さな溜め息をつく肩や画家(ベンヤミン・クリステンセン)の表情筋の微細な動き、絵筆を折る手の抑えたアクション、そして画面に張り巡らされた各々の視線の微妙な変化が、映画的事件ともいうべき強度を孕む。  特に、ミカエルが恩師を手伝う場面で突出する視線の劇が白眉である。  青年とも、女性モデル(ノラ・グレゴール!)とも、切り返しショットによって視線が結びあう事のない画家は、どうしても彼女の目を描くことが描くことが出来ず、ミカエルに代わりに絵筆を持たせる。  彼女の視線のショットである、アイリスで縁取られたフォーカスの中心が巨匠画家からミカエルのほうへ移動し焦点化され、そして二人の見詰めあう目のクロースアップがカットバックによって繋ぎあわされる。 ショットによる視線の結びつきが示す、心理的関係の劇的かつ決定的な変化がここにある。  かつてミカエルに見ることを諭した画家は、彼に看取られることなく生涯を終えていく。  その臨終の言葉、そしてラストショットの夫人の残酷な美しさも印象的だ。 
[DVD(字幕)] 9点(2012-02-28 17:45:36)
9.  メトロポリス 完全復元版(1926)
2008年にアルゼンチンで発見された16ミリフィルムが本来あるべき各所に挿入され、従来の復元版よりも25分長い、最も原型に近いとされる150分バージョンである。 シーン追加によって物語の繋がりがスムーズとなり、逆に長さを感じないくらいだ。  マッドサイエンティストの狂気も、彼の亡き妻に関する数ショットの追加で格段に解りやすくなっている。 追加部分は16ミリコピーのため明瞭に判別出来るのだが、より大幅に復元されているのは、貯水タンクが破壊され地下都市に浸水してくるシーン以降のクライマックスだろう。 マリア(ブリギッテ・ヘルム)が警報機を渾身の力で操作するシーン。 労働者の子供たちを階上に避難誘導するも最上階を格子に阻まれ、フレーダー(グスタフ・フレードリヒ)が足場を伝ってよじ登り、懸命にこじ開け、再び最後尾のマリアのもとへ戻るシーン。 そして、その本物のマリアが地下労働者の暴徒に「魔女」と誤解され追われるシーンなどだ。  ラストの鐘楼での格闘も含め、いずれも主演の男女が身体を張って困難と苦闘する姿であり、この復元によってラストの大団円が従来版以上に感動的なものとなったことは確かだ。(群衆シーンでもあるため、映画のスペクタクル性もさらに増している。)  とりわけ、罪なきブリギッテ・ヘルムが暴徒に追いつめられるシーンは、『M』や『激怒』にも通じる極めてラング的モチーフが覗え、これも従来版とは大きく印象を異にする重要な部分と云えるだろう。  彼女に関する追加シーンの数々はその演技体験の過酷さをより伝えており、その健闘ぶりが映画の感動を新たにしてくれている。  
[DVD(字幕)] 10点(2012-02-15 18:20:10)
10.  キング・オブ・キングス(1927)
豪華絢爛の衣装と、宮殿をはじめとする壮大な美術セットが圧巻。 人間の群衆だけでなく、登場する動物群も猿、馬、豹、ロバ、山羊、牛、鳩と多彩な上、各種の特殊撮影も融合し、ワイドスクリーンのニコラス・レイ版と比べても遜色ない。  妖艶なマグダラのマリア(ジャクリーヌ・ローガン)に憑依している7つの悪霊を視覚化する多重露光の見事さや、イエス(H・B・ウォーナー)の死後にエルサレムを襲う天変地異のスペクタクル(暗雲と雷光、地割れと土埃)の迫力が素晴らしい。  イエス復活シーンで、天然色となる趣向も意表を衝く。カラーによる朝焼けのショットが鮮烈だ。  そして全編通してイエスに当てられる格別美しい光が印象深い。  その初登場シーンは盲目の子供の眼を癒すエピソード。子供の主観ショットである闇の画面に次第に光がもたらされる。 その中にイエスの顔が浮かび上がる。  彼の輪郭線を眩く輝かせる斜め背後からの強い光線が荘厳かつ幻想的だ。  
[DVD(字幕)] 8点(2012-02-14 21:23:12)
11.  素晴しい哉人生 《ネタバレ》 
冒頭部分に映し出されるベルリン市内のポーランド避難民の点描は、ほぼドキュメンタリーと見てよいだろう。  劇映画部分も含めて、第一次世界大戦後の荒廃で痩せこけ飢えた人々の眼の生々しさが強烈だ。それがフィルムのクライマックスとなるクロスカットのサスペンスにも活かされることとなる。  前半は、戦争後遺症と窮乏生活の苦難の描写。ヒロイン:キャロル・デンプスターが肉屋に行列するも、その間にボードに書かれた価格は釣り上がっていく、そのカットバックが切ない。  また、彼女が病床の恋人ニール・ハミルトンを気遣い、自身の両頬に詰め物をして栄養不良を隠すいじらしい仕草はまさしくグリフィス的で胸を打つ。  後半は一転、晴れやかなシーンが続いてゆく。 恋人の建てた一軒家の新居をみて嬉しさのあまり家の周りをはしゃぎ回るC・デンプスター。全身で喜びを表現する彼女の姿が感動的だ。 たっぷりのポテトや卵やレバーソーセージによる会食シーンと、それに続くダンスシーンの賑やかな幸福感と躍動感もまた素晴らしい。  そして、飢えた浮浪者たちから逃げる月夜の森のアクションシーンに高まる切迫感。 さらに月光が照らす岸辺のツーショットの静かな美しさ。後日談の大団円の晴れやかさ。  全編にわたって忘れ難いショットが連続する。  一般的にはリリアン・ギッシュとの最後のコンビ作『嵐の孤児』までが全盛期とされるグリフィスだが、その純粋な生命賛歌と具体的画面の映画美において本作も決して引けを取らない。 
[DVD(字幕なし「原語」)] 10点(2012-02-11 17:54:43)
12.  チャールストン
球形の飛行船や類人猿の登場もユニークなルノワール唯一のSF映画、というよりほとんどダンス映画であり、何といっても大股開きで当時流行のチャールストンを踊る娘カトリーヌ・ヘスリングの奔放なエロティシズムにつきる。  女性のダンスは最初期の映画から登場する原理的かつプリミティブな題材であり、 本作の彼女はエジソンのキネトスコープに登場する『Serpentine Dance』(1895)のごとき振り付けで身体をくねらせ、脚を跳ね上げるのだが、より大胆な衣裳と野性的な動きがとにかく強烈だ。  球体から降りてきたジョニー・ヒギンスを尻餅つきながら興味深々に追いかけ回す彼女の動きがコミカルで楽しい。  やがて踊りによって意思疎通出来た二人のダンスセッションとなる。その即興感覚もルノワール的といえるだろう。  二人のダンスシーンに用いられるスローモーションとコマ落としもまた躍動感とリズムとエロティシズムを相乗させていい味を出している。  大らかな動きの楽しさに溢れた17分間だ。 
[DVD(字幕なし「原語」)] 7点(2012-02-07 20:39:54)
13.  マッチ売りの少女(1928)
アンデルセン童話を原作とする詩的な題材と、ルノワール流リアリズムの融合。  そのフィルモグラフィーの中でも最も詩情豊かなフィルムかと思う。  夜の街のミニチュア、多重露出、逆回転、スローモーションと、ふんだんなトリック撮影が作り出す目眩めく夢幻的イメージが、手工業的テクニックの温かみと相俟って味わい深い。 とりわけ、雲海を駆ける馬同士のチェイスの荒々しい迫力は圧倒的で素晴らしい。  白黒のコントラストの強いVTR版ではパンクロフィルムの効果をあまり確認出来ないが、雪の白の鮮やかさやカトリーヌ・エスランのクロースアップの魅力を十分伝えていると共に、逆に童話の挿絵のような効果を醸していてこれもまた情緒がある。  夜明けのエンディングは、遺作『小劇場』の一挿話とも響き合って感慨深い。 
[DVD(字幕なし「原語」)] 9点(2012-01-04 21:05:43)
14.  眠るパリ 《ネタバレ》 
フランスの下町を魅力的に活写したクレールの第一作もまた、巴里の街が主役だ。(当時20代半ば)  主にエッフェル塔からの俯瞰で捉えられる様々な街の表情をはじめ、苦心が窺える無人のロケーション撮影に、若い作家の情熱と愛着が篭っている。  塔の鉄柱に取り付いてのアクションは、同年のアメリカ映画『ロイドの要心無用』の高所アクションにはたして影響したのか、されたのか。 高所のスペクタクルとスリルを十分に味あわせてくれる。  スローモーションの映画『幕間』に対し、ストップモーションで捉えられた『眠るパリ』の斬新な姿。  静止していた画面が動き出す瞬間のアクセントが、街の生気と映画(モーション・ピクチュア)の感動をダイレクトに伝えてくる。  当時の複葉機や、街路を走る自動車や馬車、セーヌ川を渡る遊覧船の動きを見るだけでも「新しさ」を発見させてくれる映画だ。  エッフェル塔の高層階に並び座る男女がパリの街を見下ろすラストのショットの幸福感がいかにもクレールらしい。 
[ビデオ(字幕)] 8点(2011-08-09 20:35:08)
15.  天罰
ヒロインのキャラクターに聖女と悪女両面の魅力を盛り込むというのは旧来からハリウッド女優売り出しの戦略としてあるが、これはその男優版。 「邪」の顔を徹底的に見せ付けた上で、その最期に「聖」の側面を垣間見せることで逆転的に好感度が増す。後のギャング映画のアンチ・ヒーロー像を先取りしているともいえるだろう。  映画は両脚を切断された男を演じるロン・チェイニーの独壇場で、驚異的なアクションを見せる。 義足のまま椅子から床へ飛び降り、松葉杖で階段を上り、懸垂で壁をよじ登る。その過酷な熱演を全身フルショットで丹念に捉えるカメラの徹底ぶり。 役者の執念と、役柄の怨念がクロスしてその動作と表情には異様な迫力が満ちている。  帽子作りに関する伏線の回収が不徹底であったり、女性捜査員(エセル・グレイ・テリー)の恋愛感情の描写が不明瞭であったりというのはカットの問題か。
[映画館(字幕)] 7点(2011-01-09 20:22:27)
16.  ビッグ・パレード 《ネタバレ》 
トラックに乗って前線へと進軍していく米軍兵士(ジョン・ギルバート)を必死に追うフランスの村娘(ルネ・アドレー)。 ようやくお互いを見つけ抱き合う二人の背景をせわしないスピードで行軍していく兵士の流れ。その対比が、僅かな時間の中での切羽詰った別れのエモーションを最高潮に高める。 娘はトラック上の彼の足に必死にしがみつき、トラック後部のチェーンごと引きづられつつも追いすがる。その滑稽なまでに健気な姿は、逆に見る者の胸を熱くさせずにおかない。  トラックが走り去り、一本道に一人取り残される彼女を小さく捉えたロングショットの切ないまでのリリカルさ。 ラストの再会シーンで彼に走り寄っていく、その懸命な走りのアクションの素晴らしさ。二人に差す光の美しさ。  リリアン・ギッシュ自伝によると、『ラ・ボエーム』(1926)製作にあたっては本作のラッシュの一部を見て監督と主要キャストを選んだという。 一途な思いをひたすらアクションによって表現する女性像の素晴らしさは確かに両作品に共通だ。  同時に本作は戦争映画としても一級であり、映画後半を占める各戦闘シーンはスペクタクル・サスペンス・人間ドラマ三拍子揃って圧巻である。 狙撃兵の潜む林間を戦闘隊形で進軍する様が横移動と縦移動で捉えられる中、一人また一人と無機質に倒れていく兵士たち。その冷徹な感覚が、戦争の無情を印象づける。  照明弾が飛び交う夜の塹壕戦。若い敵兵にタバコを差し出すエピソードも忘れ難い。
[DVD(字幕)] 10点(2010-12-26 01:09:13)
17.  魔術師(1926) 《ネタバレ》 
アリス・テリー(レックス・イングラム監督の妻)を苛む幻覚シーンは、ベンヤミン・クリステンセンの『魔女』(1921)の怪奇幻想イメージとも通じ合う鮮烈さ。フットライトの効果で不気味に浮かび上がるマッド・ドクター役:パウル・ヴェゲナーの形相がまた恐怖度満点である。  冒頭に登場する巨大な牧師の彫像のデザインと質感からして禍々しい。 さらに雨と稲光と炎、薬品から立ち上る過剰な蒸気、モンテカルロの村や崖上の「魔術師の塔」の佇まいと、怪奇ムードを煽るアイテムが目白押しだ。 『フランケンシュタイン』への影響も十分に納得性がある。  クライマックスは手術台の上で拘束されるアリス・テリーに迫る危機と、救助に向かうイワン・ペドロヴィッチらのクロスカッティング。 塔までの道中が少々もたついて、グリフィスの速度感と切迫感にはやはり及ばないが、格闘アクションはスピード感があり素晴らしい。 壁に突き刺さるメス。溶鉱炉の炎。燃え落ちる塔のロングショットが印象的だ。 
[映画館(字幕)] 8点(2010-12-16 22:50:41)
18.  ラ・ボエーム(1926) 《ネタバレ》 
リリアン・ギッシュ自身が強くこだわったというパンクロフィルムの特性が活かされ、光の溢れるピクニックシーンから夜の暗い街路まで色調が豊かで幅広い。彼女の表情のクロースアップショットも艶やかで麗しい。  アパート隣室のジョン・ギルバートらに歓待された彼女が戸惑い、恥じらいつつも嬉しさが滲む表情の可憐さ。 彼らとの初めてのピクニックで無邪気に跳ね回り、踊り、アパートの窓をはさんで二人じゃれ合う身振りが伝える幸福感。  一転して、悲愴極まりない終幕では薄倖の死相が真に迫って痛ましい。 クライマックスでは荷車後部の鎖につかまり舗道を引きずられるという、キートン、J・チェン顔負けの過激なアクションまでも華奢な身体で演じきる。  全身映画女優の底知れない表現力にただ圧倒されるしかない。  
[ビデオ(字幕)] 10点(2010-11-24 21:48:35)
19.  斬人斬馬剣
現存するのは、本来122分だった作品を26分に短縮したダイジェスト版(1秒間18コマ)。一般に傾向映画の先駆といわれるように、前半のコメディパートにも当時の不況の模様が滲んでいたり、農民と代官側が相対する「オデッサの階段」風のモンタージュ等に階級闘争の主題が窺えたりするが、それよりなにより活劇映画として頗る面白い。群衆の中を掻き分けるような移動ショットのダイナミズム。月形龍之介の贅肉のない上半身が繰り出す剣戟の凄味。十字架に磔にされていく農民とのクロスカッティングと共に、寄り引き自在の撮影技巧で魅せる怒涛の馬術アクションは素晴らしいの一語。全速力の馬と並走しながらの、槍による豪快な一騎打ちのショットなどは一体どのように撮影したのか。舗装などされていない畦道でのチェイスアクションをカメラは微振動に押さえつつ、被写体である騎手の表情をも確りと映し出す。その無作為の微振動が生み出す迫力と疾走感の前には、間違いなく影響を受けているはずの黒澤明『隠し砦の三悪人』の騎馬シーンすら霞んで見える。カメラの揺れとはこうあって欲しい。
[映画館(邦画)] 10点(2010-07-18 13:37:04)
20.  女優ナナ(1926)
冒頭で梯子を登るナナを追う上昇移動を始め、従来の短縮版(98分)と比べ復元版(140分)ではかなり多様な移動ショットがみられる。屋敷内の調度品や天井画まで映る大広間のセットなど美術(クロード・オータン=ララ)の豪勢ぶりを示すロングショットも増え、いかにも大作といった感が増している。後半でカンカン踊りに湧くダンスホールのルノワール的な賑やかさも壮観だ。大半は舞台的な室内セットを中心としたフィクス主体の空間造形ながら、ドアや衝立の背後といった見えない空間で起こるドラマを用いて空間の奥行きと広がりを感じさせるのはさすが。そして、ナナ役:カトリーヌ・エスランが見せる高慢かつ淫靡な悪女イメージの強烈さも見所のひとつ。邪気と無邪気の同居する、滑稽なまでに憎々しい表情と身振りが天晴れだ。ただこの作品、屋外シーンが少ないのが残念なところ。撮影上の制約ではあるだろうが、競馬の場面も『獣人』や『カトリーヌ』の荒々しい疾走感に比べるとやはり物足りない。
[DVD(字幕)] 7点(2010-05-27 20:47:47)
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