1. イースター・パレード
ネタバレ 中期アステア40年代。盛りだくさんな、立派なもの。ジュディー・ガーランドは歌声良し。ダンスシーンは当然ながら正面性(舞台劇の枠組み)を離れないが、観客席をも見せるこのミュージカルは徹底的に映画なのだと告げている。通常スピードのバックダンサーの前のアステアの動きだけがスローのシーンは、ステッキの存在がなければ、スローの演技を信じてしまうところだ。 [DVD(字幕)] 8点(2025-06-25 08:53:14)★《更新》★ |
2. ラスト・シューティスト
ネタバレ ジョン・ウェインはまさにガン(核実験の西部を仕事場としたためにという説もある)でなくなったのだった。西部劇の殉教者なのである。それはそうと、シブくまとまったいい映画である。ローレン・バコールは良い役だが、これぐらいの気位の高さは持ち前だったのだろう。赤狩りの時の姿勢でわかる。 [DVD(字幕)] 7点(2025-06-25 08:30:17)★《更新》★ |
3. あいつと私(1961)
ネタバレ 鬼才中平康の裕次郎映画である。浮ついた日活青春映画の枠を脱していないな、とか、裕次郎は滑舌が明瞭ではないな、とかは、やはり感じるものの、そこは中平、あの嵐の中のキスシーンの描き方などは特に巧妙である。大島『日本の夜と霧』の後で60年安保を扱ったシーンを撮るとは、大変な勇気(?)だが、中平という監督はそのくらいの志のある人だったのだろう、『その壁を砕け』(1959)とか。 [DVD(邦画)] 7点(2025-06-24 16:28:07)★《更新》★ |
4. ナイアガラ
ネタバレ 生きていたジョセフ・コットンがマリリン・モンローを追いかけるクロス・カッティングのみを問題にしよう。観客をハラハラさせて引っ張り込むこの追いかけの並行編集という技法は、まさに当のフィクションの登場人物たちが逃れられない罠である。この技法が、ベルトコンベアのごとく人物の理性を押し流す、復讐の殺人へと。 [ビデオ(字幕)] 7点(2025-06-23 17:21:46)《更新》 |
5. コット、はじまりの夏
ネタバレ 原題が The Quiet Girl、明らかに、同じくアイルランドを舞台にしているフォードの有名作『静かなる男 (The Quiet Man)』に因んでいるのだろうから、『静かなる少女』という邦題でいけただろう。満点の映画だが、このザンネンな邦題と、ラストシーンが事の重大な成り行きを敢えて放置していることで、一点減点。キャメラが美しく無駄なく(多い省略も有効)、俳優陣も瑕瑾なし。主演の少女のまさに抑制の効いた演技には、濱口竜介ふう演出の良きものを感じる。本当にいい映画だ、あの乱暴な『静かなる男』なんかより遥かに。比較ついでに、少女もの比較で『ミツバチと私』(2023)を参照すると、いかに『コット、はじまりの夏』の画面に快い緊張が溢れているかが感得できる。 [DVD(字幕)] 9点(2025-06-23 09:48:15)《更新》 |
6. 白昼の通り魔
ネタバレ 「愛は無償」という小山明子のごもっともの台詞が耳に残っている。この作品世界において、ひ弱なままの戦後民主主義が思い切りシゴキ直される感じだ。正しく美しい題目だけでは、弱い。実質的な力が必要だということ(どんな力?)、それには工夫が要るにしてもそれは各自の問題ということだ。 [映画館(邦画)] 8点(2025-06-23 07:10:15)《更新》 |
7. オットーという男
ネタバレ 駅のホームの線路に人が落下、のシーンで、みなが救出よりもスマホの撮影の方に気を取られるのはアイロニカルだし、youtubeのチャンネルもどきによる実況中継シーンというのも今日的。というわけで、何やら古めかしい感じのハナシにSNSの問題が溶け込んでいる。 [DVD(字幕)] 6点(2025-06-22 22:59:28)《更新》 |
8. 恋の十日間
ネタバレ アステアの添え物ではなく、独立して、役者としての成熟を目指していったジンジャー・ロジャーズが見もの。ダンスシーンが少しあって観客としては興奮しかけたが、たんなる社交ダンスだった。やはり彼女の本格的な軽快なダンスを見たい気になった。ところで、戦時中の作品であり、厭戦的な表現(陰あるジョセフ・コットンを配して)が可能であるのは、アメリカの余裕(日本では考えられないこと)。敵国「ジャップ」の挿入されるイメージ画像が人間以前の醜い獣の姿で衝撃的だが、同じく日本の側からは「鬼畜米英」だったのだ。 [DVD(字幕)] 6点(2025-06-22 16:29:39)《更新》 |
9. 旅愁(1950)
ネタバレ 大恋愛は超え難き障碍があってこそ。大きな障害のように見えた不倫相手の妻の理性的な譲歩により「もうこれで自由だ」となった瞬間「自由ではない」ことにヒロインが気づく。つまり障碍がないことが最大の障碍である逆説の成り行き。そもそも、ヘイズコードがまだ生きている時代だからか、恋する「肉体」を全く感じさせない淡交でもあるし。ところで「時代」といえば実はこれは赤狩りの時代で、演出のディターレが大変な目に遭っていることの方が重大である。 [DVD(字幕)] 7点(2025-06-22 09:42:55)《更新》 |
10. 静かなる男
ネタバレ まあ単純に楽しめばいいのだろう、歌あり踊りありのインド映画のようにロマンティックに。ロマンティックとはこの場合、それが束の間のことであっても、近代的個人が共同体との和合を回復し、孤独を解消するようなことである(ジョン・フォードにとっての「故郷」アイルランドへの帰還)。が、敢えて無粋を承知で言うなれば、これはまさにホモソーシャルな三角形の見本のような映画。「女性の交換」をめぐり、みずからすすんで瑕疵のない交換物たろうとして持参金にプライドをかけて固執する花嫁、この花嫁を挟んで対立する花嫁の兄と花婿。やがて、マッチョな「暴力」を介した男同士の相互承認関係で「ハッピーエンド」。あくまで男社会の支配なのだな。 [DVD(字幕)] 6点(2025-06-21 14:53:52)《更新》 |
11. 東京戦争戦後秘話
ネタバレ 木が風にかすかに揺れている。それだけの映像を映画館で見るのが極上の気分である。そういう受容がこの時代の映画にはあった。政治の季節が一段落して、個々人が内的アイデンティティの模索へと突き返される時代の映画受容。大島映画はジェンダー論的に現在の鑑賞に耐え得ないところがあるのが惜しいが、その70年代初頭までの映像的凄みは今も圧倒的。 [映画館(邦画)] 8点(2025-06-21 14:46:33)《更新》 |
12. 赤線地帯
ネタバレ 溝口の中でもこれはあんまり好きではない。流麗な動きのはずの宮川一夫キャメラも、この陋屋に閉じ込められている感じ。若尾文子と京マチ子がそれぞれ活発な役柄で浮いているのは、それで構わないのだが、やはり嘘っぽさが残る。 [DVD(字幕)] 7点(2025-06-19 09:31:29)《更新》 |
13. バンド・ワゴン(1953)
ネタバレ ちょっとこれはなんだかゴチャゴチャしているのが(ハナシの構造上やむなし)惜しい(だからか、のちの『絹の靴下』はスッキリまとまっている)。とはいえ、シドはいい、不思議に切ない気持ちにさせるのはなぜなのだろう。あの細いウエストと、ダイナミックな動きのかねあいが。 [DVD(字幕)] 6点(2025-06-18 13:03:42) |
14. ザ・ロイヤル・テネンバウムズ
ネタバレ アメリカ映画で画面に言わば署名が付いている、珍しい方の例だウェス・アンダーソン。特徴的に、ひたすら平面・表層をキャメラが滑走するスタイルは、決して深刻にはならない、が、しかし内容が浅いわけではない。映画の「内容」って、何か突飛な特別なことが必要なわけではない。この「父帰る」というよくある話題の周りに配置されたほぼ「普通な」話の数々をずっと退屈せず見てしまう。画面の色調も美しく暖色で作り込まれ、なんともハートウォーミングな肯定感が素晴らしい。そう、肯定感が。 [DVD(字幕)] 8点(2025-06-17 09:21:51) |
15. エドワールとキャロリーヌ
ネタバレ 一度も戸外には出ないが、長回しで、よく動き回っている感じの名作。実際にダニエル・ジェランが弾くかの如くのピアノの音色が素晴らしい。盛り沢山の演奏会シーンも充実している(「妻思い」のエドワールを支えようとしてピエロを演じる羽目になってしまう貴婦人のエピソードなど捨てがたい)し、主役カップルの諍いのありよう(ショボイ日常の退屈な持続に我慢ならない彼女)もメリハリが利いている。 [DVD(字幕)] 8点(2025-06-17 09:19:13) |
16. 暗い日曜日
ネタバレ 途中まではルビッチ『生活の設計』のオドロキの肯定的な成り行きを彷彿とさせるような三角関係映画だが、ナチの話題となったところで『シンドラーのリスト』をネガティブに捉え直したものでもあろうことが判明する。収容所行きの見殺しシーンの理由が説明されないのをなんとなくナチの気まぐれな残酷さということで了解してしまいそうだが、あれは嫉妬なのである。憧れの女性の寵愛を受けている果報者に対する、愛されざる者(卑劣にも交換条件で同衾を手に入れるだけの)の嫉妬。この嫉妬という理解の点でもナチという「巨悪」の「凡庸さ」が説明されうる(ハンナ・アーレントふうに)、つまりナチだけのことではなく、誰のものでもある普遍的な問題であるというように。そんな嫉妬を生むくらいの魅力である、エリカ・マロジャーンというこの女優さん。たくさんの名画に出ていそうだが検索した範囲では意外にそうではないようだ。 [DVD(字幕)] 8点(2025-06-17 08:47:01) |
17. ゴーストライター
ネタバレ 一番身近なところに敵が居る、というミステリーの基本はやはり欠かせない、効果的だ。主人公がネット検索で重大な機密を知るとは脚本甘目かも。とはいえ、味方がほぼ見つからない分厚い現実の壁というものを構築した佳品。CIAからの逃げ道(外部)というものはないのだ。国家が相手のたたかいはあのフィルム・ノワール『キッスで殺せ』のごとくゼッタイ無力。 [DVD(字幕)] 7点(2025-06-17 08:28:26) |
18. 埋れた青春
ネタバレ 究極のバッド・エンド。映画館へ行って、この不条理なエンディングを観たいか、である。落ち込んでいるときに観たら帰路の電車がシンパイかも(笑)。しかし、映画観客が、「現在」の持続たる映像を乗り越えてゆく欲望に憑かれた存在ならば、バッドエンドもまた、地道に説得的に語られる「現在」の苦悩をついに「過去」へと送り込むのであるから、それは観客の「欲望」に合致するのである・・・などとあらためて確認したくなる映画。 [DVD(字幕)] 8点(2025-06-17 08:25:19) |
19. トップ・ハット
ネタバレ あの『マダムと女房』の如く、冒頭から、サイレンスの要求とそれに対する騒音(タップの!)の挑発というかたちで、もはや遅ればせながらもトーキー化を高らかに宣しているのであろうか。何にも縛られない「自由」を口にしながら気ままに踊り出すアステアの音(タップと音楽)と共にある身体は、トーキー映画の意欲的な前途そのものを告げる。 [DVD(字幕)] 8点(2025-06-16 21:43:08) |
20. 緑の光線
ネタバレ 緑の光線の瞬間へ、観客もこの「絶対」に向けて視覚の限りを尽くすというのがいい。それが二度あって、二度目の次に来るのは抱き合っている二人のシーンかと思いきや、このラストシーンは不在で、これが何故か泣かせる、素晴らしい。なぜ泣かせるのだろう。あのまさに存在論的に突き詰められる緑の光線に匹敵するような恋の「絶対」は見せるようなものではないし、そもそもそんな揺るがぬものはついに無いということなのだろうか。 [ビデオ(字幕)] 9点(2025-06-15 13:29:55) |