1. 我が至上の愛 ~アストレとセラドン~
ネタバレ 何かに到達するとは厳密な否定を経て、それを乗り越えてこそであるということなのだ、ロメール映画において。その厳密な否定に、パラドックスやアイロニーなどの通常のロメール味が付随する、ということが今わかる。あの、ピリピリ神経質になっている二人に最後に訪れる、彼女の口から「命令」としての愛の言葉が「自発的に」湧き出ずるのも、パラドックス。 [DVD(字幕)] 7点(2025-06-05 21:44:58)《更新》 |
2. 瞳の奥の秘密
ネタバレ これはミステリーとしてはメリハリに欠けるし、人間ドラマとしてもとくべつ同一化できるようなものではなかった。ただあのちょっと倍賞美津子似の知的な上司は魅力的な役柄ではある。 [DVD(字幕)] 5点(2025-06-04 22:30:09) |
3. きっと、うまくいく
ネタバレ かつてブームの時に観た多くのインド映画を彷彿とさせるのはもちろんだ(ダンスシーンは本当にすごい)が、ウェス・アンダーソン的なものも感じた、表面性のカメラワークと肯定感に。とにかく、これでもかと作り込んでいる、きっとうまくいくオプティミズムで。 [DVD(字幕)] 8点(2025-06-03 14:40:12) |
4. ザ・ロイヤル・テネンバウムズ
ネタバレ アメリカ映画で画面に言わば署名が付いている、珍しい方の例だウェス・アンダーソン。特徴的に、ひたすら平面・表層をキャメラが滑走するスタイルは、決して深刻にはならない、が、しかし内容が浅いわけではない。映画の「内容」って、何か突飛な特別なことが必要なわけではない。この「父帰る」というよくある話題の周りに配置されたほぼ「普通な」話の数々をずっと退屈せず見てしまう。画面の色調も美しく暖色で作り込まれ、なんともハートウォーミングな肯定感が素晴らしい。そう、肯定感が。 [DVD(字幕)] 9点(2025-05-03 22:03:58) |
5. マルホランド・ドライブ
ネタバレ こういうの「難解」とかではなく、意図的に迷路にされているだけ、とむしろ冷ややかに評されてしかるべきだ。ただし、上手いのは、例えばヤバそうな大金の存在が、あの「鍵」(迷路を解除する鍵)により霧散すること、それと同時にナオミ・ワッツ演じるヒロインの姿も消えることだ。全ては彼女の妄想なのだ。隠れたものを覗き見るスリリングなスタイルがこの映像全般にあるが、なかでも精神分析的な無意識への探索(「リタ」の部屋に入ることの、つまりは自分の無意識の)のかたちを、深掘りして欲しかった。 [DVD(字幕)] 8点(2025-04-10 22:23:36) |
6. 天然コケッコー
ネタバレ 横恋慕してくる男、父親の浮気、カレとの別離の可能性などなど深刻な話題となりうる局面で、ヒロインは積極的には動かない、受動的である(が、従属的ではない)。とにかくボーっとして、まずはながめている(観客もボーっとながめている)。中心人物が受動的なので、周囲世界のほうが重量を帯びる、といっても、なんだか周囲世界の方で納まってくれるので、しあわせな映画となる。そんな映画があってもいいではないか。 [DVD(邦画)] 8点(2021-01-06 13:59:55) |
7. 家路(2001)
ネタバレ 悲報が周りの人間たちにまず伝えられ、本人への伝達シーンは割愛される、こういうのがまず巧い!主人公を思いやる共同体というものを形成してそれに観客を参入させるのである。次のショットは自宅二階の窓、そこから庭の「生き残った」孫を見守るPOV、このPOVはのちにもう一回、本当に美しい。急遽代役の、映画出演ということになって、堂々たる演劇俳優が、映画的に切り刻まれる。演劇とは徹底的に区別される映画の残酷という、ベンヤミンばりのアウラの崩壊の図だが、これは、行き着けの喫茶店での内側からの撮影とは全く性格の違う外側からの撮影(喫茶店のフレームの中に主人公)ということでもある。 [ビデオ(字幕)] 10点(2016-01-25 16:38:23) |
8. ラスト・プレゼント
ネタバレ 鶴八鶴次郎なわけで、逆説的な愛情の深さ。おもしろうてやがて泣けるタイプは好きではないので、すれすれだ。おもしろさをきちんと打ち出してもいるイ・ジョンジェがいい! [ビデオ(字幕)] 8点(2016-01-18 17:33:38) |
9. パニック・ルーム
ネタバレ 立場が逆転して、監視システムの画像を今度は犯人側が見るというのが最大のアイロニーで、これは、フーコーのパノプティコンを連想させる、監視の二役である。つまり誰もが監視の二役を演じる近代以降の社会というもの。 [ビデオ(字幕)] 6点(2015-08-30 00:24:46) |
10. バーバー
ネタバレ 寡黙な主人公がナレーターを兼ねて、ナレーションも寡黙気味だ。弁護士を擁して、真犯人たるナレーターの側から真犯人を捜すかのようなスタイルをとっており、当たり前のことだが、何も判明しはしないし、とくべつ名案が浮上するわけでもない。アイロニカルなすべてがいいのは、いつも通りのコーエン兄弟。 [ビデオ(字幕)] 8点(2015-04-03 08:32:59) |
11. 風花(2000)
ネタバレ フラッシュバックが説明的に煩瑣に入って来て相米には珍しい作りだ。長さ(けだるさ)による不経済な語りという相米流は抑制され気味だが、やはりおおいにある。封切りの映画館ではさっぱり感動しなかったが、いま見直せば良さはある。 [映画館(邦画)] 7点(2015-01-14 11:06:33) |
12. フィクサー(2007)
ネタバレ 重厚だが、急転直下の結末にやや戸惑う。「フィクサー」(もみ消し屋)は原題ではないことが重要であって、原題は主人公の固有名(フルネーム)だ。つまりアイデンティティは、フィクサーという濁った、底なしに相対的な役柄にではなく、あくまで主人公自身にあり、「ピュアで絶対的な」ものによる、逆転の結末というわけ。 [DVD(字幕)] 7点(2014-11-03 17:02:34) |
13. 息子のまなざし
ネタバレ これはサスペンス映画なのであるということが最重要なポイントだ。息子を殺した犯人とおぼしき少年と決定的に向き合うまでの宙ぶらりん(suspense)。主人公が少年の背後に立つたび観客の緊張を呼ぶ(報復するのかと)というサスペンスなのだ。ひたすら主人公(内心を明かさない)に密着して動き回るだけの殊更に退屈な、ほぼ何の変哲も無い映像を提示し続ける。黙々たる「作業映画」であるが、ブレッソン『抵抗』のような目的に向けた「作業」とは別物なのがいい。ただし映画である以上「何の変哲も無い映像を提示し続ける」のは大胆すぎる感もある。 [DVD(字幕)] 7点(2014-07-16 21:23:08) |
14. 裏切り者(2000)
『トゥーラバーズ』に続いて観たジュームズ・グレイ映画で、嘘っぽくない充実感が素晴らしい。ホアキン・フェニックスの暴力的な肉体を触知できる感じだ。あの格闘シーンは実に生々しい。 [DVD(字幕)] 8点(2014-04-12 17:19:24) |
15. 汚れなき情事
ネタバレ 綺麗な映画だが、妙にイライラさせるいじめが邪魔である(いじめを行うための強い視線と追いかけが目障りだが、そんなレヴェルで終わってほしくはなかった)。教師も含めた少女たちの鏡像関係(想像界)の閉域を象徴界へと突破すべく「父を待つ」という台詞(いじめの標的となる少女の)は印象的だ。が、内容的に高まることはなかった。「父」は来るべきだった。 [DVD(字幕)] 5点(2014-03-03 22:29:35) |
16. ファイヤーウォール
ネタバレ 最後は肉体アクションとなるが、すごいタフなおとーさんだなあ。知的レヴェルの果てにアクションがあるヒッチコックのように。人命が軽いな、ハリウッドは死刑大国だ。 「家庭」という設定が聖域のように君臨するのが、アメリカ映画の基本中の基本。暴力・破壊が大好きなアメリカ映画は「家庭」を守るという大義名分のもと、なんでもするということ。 [DVD(字幕)] 4点(2014-01-30 21:50:39) |
17. ブレードランナー/ファイナル・カット
ネタバレ 最後のぶら下がる(suspend)主人公がレプリに救出されるサスペンスの成り行きには驚く。そこで深く哀しいレプリの「奴隷」の視点が告げられる。ここしかない、この映画は。映像的に(つまり形式的に)凝った画面作りをしているので、よけいに内容的に貧しいと感じてしまう。 [DVD(字幕)] 6点(2013-04-27 11:47:58) |
18. ボローニャの夕暮れ
ネタバレ かつてのイタリア・ネオリアリズムの末裔という感じの、卑近な物語だ。何のためにこんな映画があるのか、誰かの特殊な人生を見守るために映画はあるのか、などと元も子もないことを考えてしまうところだが、そこに時代を絡ませる。ただし「時代」が少々とってつけたような感じになるのもやむをえないか。母と娘の確執の本質究明がほぼ放置され、結局は父親の視点・了解の領域で打ち止めとなるのもそれはそれでリアルなのである。 [ビデオ(字幕)] 6点(2013-01-02 10:53:53) |
19. アメリカン・ラプソディ
ネタバレ 産みの親と育ての親の間で悩む娘という構成では足りないからと冷戦による不幸(「自由の国アメリカ」はやはり強調される)を絡ませるが、凄く退屈である。映画の前提部にすぎない設定から映画が結局ほとんど動いていない。スジ不足。 [DVD(字幕)] 4点(2012-11-19 10:40:09) |
20. バーダー・マインホフ 理想の果てに
ネタバレ ドキュメンタリーにみえるくらいに作り込んでいる。ドイツ赤軍のこんな映画が作られていたこと自体が驚きである。誰が作り、誰が観たのか(客観的な視点から観るということはいいことではある)。こういう度外れな活動がドイツ的な理念主義・ロマン主義の一種であるとするなら、有効性を厳密に目指すことから遠いのもうなずける。が、日本人にそう言われたくないと、ドイツ人は言い返すだろう(現今の原発問題一つとっても)。 [DVD(字幕)] 6点(2012-10-14 10:32:39) |