1. ゴッドファーザー PART Ⅱ
ネタバレ 十数年ぶりに視聴。 移民とアメリカ。 家族を喪い故郷を追われるも、新天地アメリカで一大勢力を築き上げるヴィトーと、 そのファミリーを守るために結果的にファミリーを壊してしまう二代目当主のマイケルの対比が、 抑制されたタッチで栄枯盛衰を際立たせる。 偉大すぎた父親の存在に拘るあまり、時代の変遷で雁字搦めになっていき、結果的にマイケルを苦しめた。 それは非合法なやり方で富と権力を手にした者たちについて回る呪いみたいだ。 ルーツであり、アイデンティティでもあるシチリア系から"アメリカ人"になっていくこと。 かつて入隊を決めた彼は自分自身を確立できず、己の歩く道を完全に見失ってしまった。 もしマフィアの道に足を踏み入れなかったら…… ファミリーを回す素質はあっても、それ以外のキャパシティを持てなかった男の、 ギリシャ悲劇を彷彿とさせる第二章だった。 [インターネット(字幕)] 7点(2025-07-16 21:51:03)《新規》 |
2. マジカル・ガール
ネタバレ まどマギとエヴァと黒蜥蜴にインスパイアされた結果が現実的なフィルムノワールという着眼点が面白い。 ねっとり絡みつくように冷たいシュールな空気に、どうとでも解釈できる"行間"が肌に合えば、 この摩訶不思議な世界観に酔えるだろう。 それくらい好みが分かれる。 もしルイスが娘アリシアのラジオを聞いていれば、 もしルイスが病んだ人妻バルバラの誘惑を断っていれば、 もし元教師ダミアンがバルバラの嘘を信じなければ…… 愛を求め、擦れ違いと嘘と勘違いをスペインの経済不況と精神分析で包み込み、希望から絶望へと転移していく。 願いを叶えた魔法少女アリシアとそのなれの果ての魔女バルバラが表裏一体であるかのように。 使い魔ダミアンはアリシアを本当に撃ったのか? 携帯電話を消したのは自分の人生を狂わせたバルバラへの復讐か、それとも再び悪魔へと覚醒した彼の支配か? かつての某大統領が言った。 「この世で一番貧しい者とは、もっと、もっとを求める人のことである」。 この"もっと"が今の文明社会を築いたが誰もが幸せになれるとは限らない。 現代社会に蔓延する"病"に気付けない限り、金とモノに支配された現代人もこの悲劇と常に隣り合わせだ。 [映画館(字幕)] 7点(2025-07-12 02:05:17) |
3. エタニティ 永遠の花たちへ
ネタバレ 極力台詞を抑え、絵画のように艶やかな映像に徹した作りは、フランス映画には珍しくないことだが、 これが今までアジアを舞台に映画を撮ってきたトラン・アン・ユンだとすると意味合いが違ってくる。 上流社会の多生多死を一定の穏やかさで淡々と描く点では初期作品『青いパパイヤの香り』に似ており、原点回帰と言える。 現代みたいに医療が発達していない19世紀末、早死にする子供も少なくない。 女は命を賭けて繁栄の象徴である多くの子孫を残そうとする。 新たな命に多く巡り会うも、先立たれてしまう命も多い無常感があり、東洋思想とは無縁ではなかろう。 家族の繋がりが濃密で、人と人との繋がりを大事にし、お互いに助け合う当時において、 女性の社会進出、他者との関係が希薄になっていく現代の多様な価値観とは相容れない部分がある。 それでも、いくら裕福で幸せの形が時代と共に変質しても、出会いと別れは人間の器を大きくする。 [DVD(字幕)] 6点(2025-07-12 01:59:38) |
4. 帰ってきたヒトラー
ネタバレ もし、ヒトラーが現代にタイムスリップしたら? 誰もが思いつきそうな題材を、そう来たか、こんな方法で調理するとは。 現代ドイツの社会問題と矛盾を劇映画、ドキュメンタリー、さらには同名の劇中劇と 虚実入り乱れた構成で鮮やかに切り取り、あれがドイツ国民の本音だとは信じたくない。 ダース・ベイダーに近いノリで、ヒトラー(を演じる男優)と一緒にスマホ写真を撮っているんだもん。 この閉塞感の前に絶対的なカリスマにしがみつく弱さと、不安を煽るマスコミに振り回される愚かさを目の当たりにし、 シリア難民流入のニュースとシンクロする演出にゾワっ。 認知症の老婆と真実を知ったダメ男の言動にも強烈な皮肉を感じた。 コメディはコメディでも、ただただ真っ当にシリアスな、笑えないコメディ。 あまり笑えなかったが、自分だったら大衆(マジョリティ)とダメ男(マイノリティ)のどちらの側に立ち、 どちらがガス室に送られるだろうか? 【2025年追記】 参議院選が迫り、極端なある政党が脚光を浴びている以上、 「最初はみんな笑っていた。途中から笑えなくなった」が現実にならなければ良いけど。 [映画館(字幕)] 7点(2025-07-12 01:51:44) |
5. グリーンマイル
ネタバレ 現代とは程遠い、30年代というノスタルジックな時代設定と同時に人種差別が色残るアラバマに深い闇が覆っている。 そこで起きた奇跡と悲劇。 3時間の長尺であるが飽きることはないし、モダンホラーの帝王のスティーブン・キングだけあり、ホラーなシーンがちらほら。 そして心を動かされる情感と人間模様が包み込む。 ただ、後に見た前作の『ショーシャンクの空に』が素晴らしすぎたことと、悲劇と感動を履き違えているところに違和感。 泣きそうになっている自分自身に後ろめたさを感じてしまった。 後の作品を見ても、きっとダラボンは前作で精根付き果てたのだろう。 54歳の若さで亡くなってしまったマイケル・クラーク・ダンカン演じるコーフィーの人懐っこさと優しさが今でも忘れられない。 [DVD(字幕)] 6点(2025-07-12 00:48:31) |
6. インヒアレント・ヴァイス
話が複雑でついていけない、と思いながらも、 筋が破綻しない程度に'70年当時のロサンゼルスのゆるくて猥雑な空気を堪能する映画なのでしょう。 だから見ても何も残らない(笑)。 ポール・トーマス・アンダーソン監督だからこそ期待した部分が大きいのも一因か。 ホアキン・フェニックスのどっぷり浸かったヒッピーぶりが物語をさらに可笑しな混沌に拍車をかけていてハマり役だった。 [DVD(字幕)] 5点(2025-07-03 22:20:54) |
7. マグノリア
ネタバレ PTAの早熟なまでのキャリアの頂点と言える。 冒頭で語られる3つの"思いがけない出来事"を象徴するが如く、「こんなはずじゃなかった・・・」と上手くいかず、 途方に暮れて、誰かが口ずさんでいるかもしれない歌により一つの物語に紡がれていく。 これは映画でしかできない希有な体験だった。 そろそろ飽きてきたときに、"思いがけない出来事"をガツンとぶつけられたときの衝撃は計り知れない。 アレに出会ったことによって、新しく自分を始められるきっかけになるかもしれないし、 変化もなく堂々巡りで終わるのかもしれない。 たとえ意見が割れる結果になったとしても、そのワンダーは登場人物と同じく現実のものとして記憶に残る。 [DVD(字幕)] 8点(2025-07-03 22:19:43) |
8. SING/シング
人間を動物化させた『ズートピア』を思い出すわけだが、体躯を活かした社会派要素はなく、 あくまでコメディとしてのスパイスなだけで、動物である必要があまり感じられない。 コンテストに集う人間(動物?)模様も個別のエピソードを取ってつけただけで複雑に絡み合うことなく終わってしまった。 駒のような扱いのキャラクターだらけ。 歌声一点に押し切ったカラオケ大会として見れば悪くはない。 でも何も残らないんだよ。 [地上波(字幕)] 5点(2025-06-28 00:33:04) |
9. レ・ミゼラブル(2019)
ネタバレ フランス版『トレーニング・デイ』。 冒頭の人種もルーツも隔てないワールドカップの熱狂と連帯感から一転して灰色のある一日、 危うい均衡を保つゲットーの閉塞感が、三人の警官を通してダイナミックに伝わる。 通常の対応ではままならず、過剰防衛と隠蔽で抑え込もうとする。 そんな体制側への不満の蓄積が暴発するクライマックスに、マチュー・カソヴィッツの『憎しみ』を彷彿とさせた。 抑えつけている警官にも愛する家族がいるということがやるせなさを倍増させる。 日本では体制側に言いなりの他人事でしかないが、暴動を起こしても何の突破口にはならないということを、 移民大国だからこその説得力がある。 ヴィクトル・ユゴーの言葉がある通り、社会をより良くするために教育は必要。 その舞台になった区域で育ったアフリカ系監督の目がそう語っている。 [インターネット(字幕)] 7点(2025-06-28 00:08:53)(良:1票) |
10. せかいのおきく
ネタバレ オリジナル脚本による時代劇であるが、こうの史代にポスターイラストを依頼しているあたり、 幕末版『この世界の片隅に』を意識しているのは明らかだろう。 激動の時代でありながら平穏と隣り合わせで、突然抗い難い不条理がヒロインの大事なものを奪い、 それでも慎ましやかに市井の人々の生活は続いていく。 短めのエピソードがオムニバス形式に並べられているのも共通している。 2020年代になって何故モノクロで撮られたのか不思議に思ったが、 汚穢屋を題材にしていることもあり、糞尿ネタが多く、流石にカラーで描くには厳しいのは納得した。 とは言え、章の終わりのワンシーンだけカラーで映されているのもあり、 当時と現代への橋渡しとして描くには視聴に集中できなくなるのは確か。 全編モノクロで突き通して欲しかったなと。 いつの時代も社会には必須だが、誰もがやりたくもない仕事を生活のために誰かが請け負っている。 汚穢屋だけでなく、屠畜業も、皮革業も、葬儀屋も、「不浄」とされる仕事は全てそう。 そして、そうしてもらうことが当たり前の意識へと変わっていき、搾取して、差別する流れに変わっていく。 彼らみたいに存在しないような扱いの人間は大勢いたし、現在でもさして変わらない。 この"クソ"みたいな現実でささやかな楽しみと喜びを見出すしかない。 それが世界だ、いや正しくは苦界なのかもしれない。 明確な着地点もないまま映画は終わりを迎える。 林道の中、"あっち"に歩いていく3人はいつかは一周して"こっち"に戻っていく。 それは1年後かもしれないし、明治時代を迎えた10年後かもしれない。 そのとき彼らはどのような世界を歩いているのだろうか。 [インターネット(邦画)] 6点(2025-06-27 23:46:50) |
11. ユンヒへ
ネタバレ 岩井俊二の『Love Letter』から着想を得たという。 韓国映画で見かける脂っこさも、煽情的な描写も一切なく、静かに叙情たっぷりに紡いでいく演出は邦画のよう。 韓国のとある地方都市に住むシングルマザー、ユンヒ。 一人娘のセボムが盗み読みした手紙をきっかけに、手紙の送り主の住む冬の小樽へと母娘を連れていく。 台詞の一つ一つから同性愛を匂わせるユンヒとジュンの関係性。 その関係が許されない時代によって離れ離れになった二人を逢わせようと、 娘とボーイフレンドが背中を押し、ジュンの叔母がサポートする。 それぞれの愛情の形が複雑に入り組み、雪がしんしんと降り積もる群像モノの形を成す。 クライマックスの20年ぶりの再会ですら下手に盛り上げず、わずか数分で切り上げ、 何を話したか触れることのない行間が何とも堪らない。 かつて妻として、母親として、他人の人生を生きてきたユンヒが、ジュンとの再会をきっかけに、 今まで抱えていた想いが解き放たれ、自分の人生を歩き出す。 その後の物語を想像したくなる控えめな締め方が余韻を引く、ヒューマンドラマの佳品。 [インターネット(字幕)] 7点(2025-06-23 22:34:08) |
12. 聖地には蜘蛛が巣を張る
ネタバレ 誰が"聖なる蜘蛛"を育てたのか? 犯人逮捕後の終盤が本番。 法の上に宗教があり、その強大な神のもとに"浄化"を許している腐敗した社会。 犯行手口の杜撰さにいくらでも証拠があったのにも関わらず、16名の死を許してしまった。 「女性だから」「娼婦だから」と手のひら返しが当たり前で、 アップデートされずに何百年も続けられてきた慣習が"男性の理想像"を求められている女性を縛っている。 恥部をストレートに描いた本作は当然イランでは撮影許可が下りず、劇場公開されたのかも怪しい。 行きつく先は社会問題を直視せず、責任転嫁をしないと宗教がアイデンティティの国家とその国民が一気に自壊するからだろう。 強固にデコレーションされた意識を変えない限り、第二・第三の"聖なる蜘蛛"が現われる。 息子の再現ビデオが下手なホラーよりも恐ろしい。 だが、歪んだ価値観はイスラム教だけの、イランだけの問題なのか? トランプ信奉者然り、日本の某政党支持のインフルエンサー然り、誰もがその雁字搦めに陥る可能性がある。 [インターネット(字幕)] 8点(2025-06-19 23:05:29) |
13. イゴールの約束
ネタバレ 設定やシチュエーションは違うとはいえ、犯罪で繋がったグレーな人間模様という点で『万引き家族』を思い出した。 後年のダルテンヌ兄弟の作品群と比べても細かいカット割りが目立ち、 全体の粗削りさが嘘臭さのない、イゴールの葛藤に対するリアリティに貢献している。 イゴールは、外国人不法就労者の斡旋、搾取している父親ロジェの命令には絶対で従属的であり、 自動車修理工の見習いも辞めざるを得なくなるほど。 一方で金のある老婆の財布をくすねており、今まで罪の意識すら感じなかった彼が、 アフリカ系難民のアブドゥの事故死を目の当たりにし、 亡くなる直前に「妻子を守る」という約束をしてしまったことで罪の意識に苛むことになる。 ロジェは違法な仕事を続けていくために時折、不法就労者たちの存在を内通者に知らせて警察に売ったり、 アブドゥの事故死を隠蔽して、その妻アシタに真相を悟られないために娼婦として売り飛ばそうと画策する。 そんな非人道的な行いに、イゴールは「これで良いのか?」と違和感を募らせて、 ついに絶対的な存在であるロジェに逆らって、アシタとその幼い子と一緒に逃避行を始めるのだ。 グレーな存在だったイゴールが自らの倫理観に基づき、 今まで一心同体で密接に繋ぎ止めていたロジェの支配から自分自身の人生を取り戻そうとする。 しかし、その勇気ある選択は大きな責任と代償を伴うものだ。 不安だらけで父親にいつ見つかって捕まるか分からない。 そして無事にアシタたちを親戚のいるイタリアへ送り出せるかというサスペンスが浮上する。 母親がいなかったイゴールがアシタを抱きしめる行動は、自ら"孤独"を選んだ彼の偽りのない本心だったのだろう。 血も人種も超えた、新たな繋がりと信頼関係。 イゴールの告げる真相を聞いて、アシタは無言で駅のホームから踵を返し、三人は行く当てもなく歩いていく。 この中途半端とも言える着地点、安易な希望を与えないダルテンヌ兄弟らしい。 突き放したロジェの元には二度と戻れず、今まで以上に苦しい生活が待っている。 事故が明らかになれば、イゴールの服役も、アシタ親子の強制送還も免れないだろう。 ただ、共依存的な親子関係と、犯罪が引き継がれる負の連鎖を断ち切ったとも言える。 「困った難民を助けている、差別から守っている」という某団体の意見をテレビを見ていると、 本当に彼らのためなのかと訝しくなる。 真の優しさとは、人道とは、ネットのエコーチェンバーのように白黒つけるものではなく、 今までの積み重ねから自分自身に問いかけることである。 [インターネット(字幕)] 7点(2025-06-14 21:58:47) |
14. ワカリウッド・フォーエバー! ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ウガンダ
ネタバレ ワカリウッド創始者、ナブワナIGG監督を追ったドキュメンタリー。 失恋したNY在住の売れない男優が超低予算アクション『誰がキャプテン・アレックスを殺したか』の予告編に衝撃を受け、 裸一貫で単身ウガンダにアポなしで乗り込むのが本作の導入部分だ。 町角でDVDを手売りしてる男性を捕まえてスラムに住む監督に辿り着くまでの展開や、 国内・海外のマーケティングの方向性で一度仲違いする展開は再現臭いが、 両人とも互いにリスペクトして、共通のビジョンで映画作りの情熱を滾らせる、地に足のついた目線に引き込まれる。 編集に使うパソコンはジャンク品から組み立て、役者はボランディア、重火器といった小道具は自作、 政情不安でいつ逮捕されてもおかしくないし、クリエイターを支援する制度もない、完全にゼロからの低飛行。 国内外から注目を浴び、多くのメディアから現地取材を受け、 ウガンダのメディア王の協力から『誰がキャプテン~』のTVドラマ版の制作を請け負うまでになっても、 貧しい生活は一向に改善されず、妻が内職に励む、製作環境の厳しさが垣間見える。 引退するかもしれないと弱音をこぼしながらも、監督は内戦の悲劇や暴力を実際に経験しているが故に、 「とにかく観客を笑顔にしたい、地元の人々を幸せにしたい」という想いは確かに伝わった。 メッセージ性だけが取り柄の辛気臭い社会派映画より、単純明快なバカ映画を作っていた方が遥かに真摯で、 現に彼から映画製作を学ぶ若者や子供たちがいて、次世代に引き継がれようとしている。 日本公開された3作を先に視聴したからこそ見えるワカリウッドの裏側は、 未知の国だからこそ、謎のヴェールで包まれているからこその吸引力があった。 惜しむらくはワカリウッド映画には欠かせないVJエミーは少し触れる程度だったこと。 この人なしでは独特の空気と雰囲気は生まれなかった最大の功労者の一人なのだから。 [インターネット(字幕)] 6点(2025-06-08 15:44:34) |
15. バッド・ブラック
ワカリウッド映画もこれで視聴3作目。 見ていく内に"文法"が分かって来た気がする。 ・冒頭と終盤に激しいアクションシーンを設けて、間にドラマパートが挟まれる ・他作品の登場人物が本作に出演するユニバース方式 ・編集ソフトの特殊効果主体のチープな特撮な反面、恵まれた体躯を活かしたカンフーアクション ・VJエミーの全編ハイテンションなナレーション、彼なしでは話が分かり辛く、辛気臭い雰囲気になっていた ちなみに日本絡みのワードがいくつか出てくるが、 配信されている国によってナレーションを変えてローカライズしている細やかな気配りがなされているとか。 本作は孤児の少女が搾取される側から犯罪組織のリーダー"バッド・ブラック"に成り上がる話と、 彼女に全財産を騙し取られたアメリカ人医師がカンフーマスターの少年から特訓を受けリベンジする話が交錯する。 冒頭の展開が伏線として終盤に活かされる、ストーリーテリングに努力の跡が見られるも面白さに繋がらない。 シリアスメインで貧富の差、ストリートチルドレンといった社会問題を盛り込んでいても、 もはや金太郎飴みたいなフォーマットと化して、徐々に飽きている自分がいた。 いくら映画作りの情熱があっても、資本や才能の壁が立ちはだかる。 現在でも監督は年に一本は撮っていて、ウガンダのスラム街からエンタメと現状を発信している。 シネコンで500円提示されても厳しい出来であるが、撮り続けて次世代に希望を見せて、未来に繋げてほしいと願うばかり。 [インターネット(字幕)] 4点(2025-06-08 01:19:19) |
16. エターナルズ
ネタバレ 評判が芳しくない中、そこまで悪くなかった気がする。 もちろん"マーベル映画"として、"クロエ・ジャオ監督作品"として期待しなければの話だが。 壮大な宇宙のために、何千年も地球の人々を見守ってきたエターナルズを主軸に置いた人間ドラマにしたのは正解。 セレスティアルズと呼ばれる宇宙の最上級的存在の命令を信じ続けてきた者たちが真の目的を知ったとき、 人類の未来についてどうあるべきかで葛藤する。 そこまでは良い。 MCU作品ながら他作品からの絡みが最低限なのも、ただでさえ複雑な話に混乱を与えないだけマシなものだ。 "非白人"で"女性"のクロエ・ジャオが監督している通り、当時、猛プッシュされていた"多様性"が意識される。 しかし、人種や性差や身体的ギャップが本作では上手く活かされていない。 エターナルズの神のような特殊能力もどこかで見たようなものばかりでアクションは凡庸、 ついには仲間割れでヒーロー映画らしかぬダウナーぶりに盛り上がらないまま終わってしまった。 ディヴィアンツとの一騎打ちがこれで良いのか? その暗さを跳ね返すくらいの熱い展開、爆発力が欲しかった。 クロエ・ジャオの才覚は本作でも感じられるものの、ブロックバスターには向いてないと感じた。 彼女の次回作に期待、エターナルズ続編は……もういいや。 [インターネット(字幕)] 5点(2025-06-08 01:06:52) |
17. きっと、うまくいく
ネタバレ インド人特有の時間感覚なのか、3時間に及ぶ大作だが、三人を描くにはこのくらいの時間が必要だったかもしれない。 日本人の倫理感からすれば、仮病で飛行機リターン、スピーチ単語すり替え、学長邸宅荒らし、バイクで病院乗り込み…、 なんてどうよと思わせる個所はあるにせよ、逆に強者の価値観や常識に囚われる社会もまた息苦しいのではないか。 それをデフォルメに代弁してくれるのが彼らであり、『ショーシャンクの空に』を思わせる共通点がちらほら。 非常識だからこそ、アップルの製品が生まれ、フェイスブックが生まれ、ドローンの可能性も現実味を帯びてきた。 勿論、選択する自由への代償も覚悟しなければならないが。 中盤、ランチョーはこの世に存在しない人物だった?と驚いた場面があり、そこからの切り返しが見事。 ほとんどミュージカルに頼らない脚本が抜群に上手い。 日本では下流拡大から恐れるように一流大学・一流企業のレールに乗りたい子供達が急増中だという。 ただ、保身のための手段として履き違えていることが問題であり、 社会を良い方向に変えるための目的と過程が重要なのだと映画は伝えている。 それが取引先の社長の正体に集約されていた。 湖と空が織りなす青一面のラストショットはこの数年で記憶に残る一枚だ。 [DVD(字幕)] 8点(2025-06-05 22:52:27) |
18. クレイジー・ワールド
ネタバレ 2014年製作のオリジナルを日本公開用に2019年に再編集されたのもあり、 冒頭に日本の視聴者への謝辞が寄せられている。 最初と中盤に、本編とは無関係の海賊版への注意喚起がなされるも、 『グエムル』のワンシーンや『インディー・ジョーンズ』のBGM、 ポケモンの効果音を無許可で借用しておいて説得力ないでしょ(笑)。 ウガンダから飛び出して、海外で大暴れしている海賊版ハンターは面白かったけどさ。 タイトルに偽りなしで、ウガンダの抱えている問題の一つである「児童誘拐」をテーマにしている。 現在でも黒魔術は依然として残っており、生贄に捧げるために多くの児童が村から攫われ命を落とす。 本来対応するはずの警察官は信じることなく、一方的に変人扱いして行動も起こさないため、 詐欺が当たり前に横行し、安易に信用してはいけないウガンダの現実を垣間見ることができる。 とは言え、本作は社会派作品でなく、誘拐された児童たちが持ち前のカンフーアクションで逆襲する娯楽大作だ。 いつものように編集ソフトでポン付けの特殊効果のチープさに、VJエミーのハイテンションなツッコミが、 ネットミームを継ぎ接ぎしたようなワカリウッド映画にカオスと彩りを添える。 『誰がキャプテン・アレックスを殺したか』のタイガー・ギャングとカンフー使いのブルース・Uが再登場し、 スターシステムによる新たな広がりを見せる。 オチもクライムアクション映画に童話風の因果応報で締めるのがなかなか味わい深かった。 前作よりは少し面白かったので、+0.5点で。 [インターネット(字幕)] 5点(2025-05-31 23:20:21) |
19. 誰がキャプテン・アレックスを殺したか
ワカリウッド──それは、ウガンダの首都カンパラのスラム街、ワカリガの映画スタジオから生まれた。 欧米の映画を見たことがないレンガ職人の男が、映画作りの原始的な衝動と想像を総動員して作られた、 純度100%のウガンダ製アクション映画が本作だ。 製作費はわずか85ドル、日本円で1万円にも満たない超低予算。 出演者は職業俳優ではないスラム街の住人で当然ノーギャラ。 撮影用のデジタルカメラが一台のみで同じシーンを違うアングルで撮らなければならないし、 ビデオ編集にはジャンク品から組み立てたパソコンを使い、ハードディスクも大容量ではないので、 DVDに焼いたらデータをすべて消去してマスター版は存在しない。 ウガンダの平均年収が570ドルということを考えると、どれだけ貧困が深刻で政情不安なのかを察する。 そのような環境で作られた作品は、画質もストーリーも演出もお世辞にも良いものではない。 しかし、その粗さがある種のドキュメントらしさを醸している。 アクションシーンは意外にも頑張っていて、身体能力を活かしたカンフーシーンは見どころ。 本作を象徴する衝撃的な空爆シーンはここまで来ると斬新さすら感じるくらいだ。 そこにVJエミーによるハイテンションなナレーションが被さると、独特の味わいを引き出しているではないか。 本編とは無関係な説明や同監督作品の宣伝もノリノリでブッ込んできて、 これが無ければ場面・状況が分からず、より退屈な映画になったに違いない。 それだけ70分が長く感じ、興奮が長続きしない。 YouTubeからの投稿によってチャンネル総再生数が2000万以上再生されるという大きな反響を呼び、 映画祭にも招待され、100万ドルを投資してくれる人も現れたとか。 ワカリウッドはウガンダの地に蒔かれた希望になっている。 映画の出来はC級かもしれないが、映画作りへの情熱と真摯さはAAA級。 観客に対して上から目線で適当に作っている邦画には見習ってほしい部分があり、 エド・ウッドもネット配信が当たり前の時代に生きていたら違う人生があったかもしれない。 [インターネット(字幕)] 4点(2025-05-31 22:40:20) |
20. EO イーオー
ネタバレ 人間たちのモノサシによって、様々な"役"として組み込まれたロバは、 サーカス団の一員として、牧場の荷役として、サッカーチームの幸福の女神として、 流されるままに渡り歩き、待ち受ける不条理をただ受け入れているように見えた。 動物愛護団体が主人公のためにサーカスを潰しても、一方的な独善でしかない。 「ペットは家族の一員だ」と言われても、自由に外出はできず、意思とは無関係に去勢・避妊手術を受ける。 屠畜されている動物に目を背けながら、ペットを可愛がっているヒトの姿はグロテスクでさえある。 最後まで対等な関係にならず、人間の都合で常に生かされている。 その不条理の中で、サーカス団の娘からの愛情だけが微かな心の糧。 時折、差し込まれる赤い映像は鮮血のように見え、「生」と「死」が表裏一体であることを指し示す。 たとえ最後は悲劇だとしても、果たしてそれは悲劇なのか? 善とは?悪とは? そういうのは人間の作り出した思い込み、モノサシでしかない。 この物語もまた、そういう思い込みで観客が勝手に作っているのではないか?と訊かれているようである。 動物の根源である、ただ「生きる」ことを描いた作品。 [インターネット(字幕)] 5点(2025-05-29 22:50:34) |