風立ちぬ(2013) の 鉄腕麗人 さんのクチコミ・感想

Menu
 > 作品
 > カ行
 > 風立ちぬ(2013)
 > 鉄腕麗人さんのレビュー
風立ちぬ(2013) の 鉄腕麗人 さんのクチコミ・感想
作品情報
タイトル名 風立ちぬ(2013)
製作国
上映時間126分
劇場公開日 2013-07-20
ジャンルドラマ,戦争もの,アニメ,伝記もの,ロマンス,漫画の映画化
レビュー情報
「狂おしい」

ストーリーそのものは、とても古風でオーソドックスに見えるけれど、過去の宮崎駿作品のどれよりも、もっとも“狂おしい”までの感情に埋め尽くされた映画だと思った。


映画世界に対峙し、己の理屈においては明確な拒否感を感じている筈なのに、涙が溢れて止まらない。こんな映画は初めてかもしれない。

その“拒否感”の大部分は、「主人公」に向けられたものだったと思う。
この映画の主人公は、善人で、優秀な好青年である。
ただし、同時に「変人」であることも揺るがない事実だ。
堀越二郎と堀辰雄、実在した二人の人間に「敬意を込めて」と謳っているが、この映画で描かれる主人公の姿は、明らかに宮崎駿自身の投影であり、その「変人」ぶりにそのすべてが表れていると思う。
そういう意味では、この映画が過去作のどれよりも宮崎駿にとってパーソナルな作品であることも確かであり、それ故の“狂おしさ”なのだとも思える。

主人公の言動を理解し難い面は多く、主人公は世の中のすべての人から非難されてもおかしくはない。
しかし、主人公自身が自分を呪ったとしても、彼が愛したヒロインだけはどこまでも彼を守り愛し抜くだろう。
ならばそれがすべてだ。

余命幾ばくも無い病床の妻を囲い仕事に没頭する主人公も、養生を放棄し命を縮めても夫のもとで過ごしたヒロインも、その姿には、少し狂気じみたものを感じる。

彼らは二人の間に確実にあるはずの“障壁”なんて何もないように、繰り返しキスをして、そして愛を営む。
この「幸福」は二人だけのもの、そしてこの「悲哀」も二人だけのもの。
そこには、“観客”も含めて、周囲の他人が入り込む余地は全くなかった。
その二人の姿は、あまりに独善的で、歯がゆいけれど、何よりも美しく、涙が溢れた。

そう、この映画の主人公、そして宮崎駿自身が追い求めたのは、“美しさ”以外の何ものでもない。
誰に理解されなくとも、自分自身にとっての「美」を最後の最後まで追い求める。
この映画は、そういう“彼ら”の生き方における「覚悟」を描いた作品だと思った。


「ほかの人にはわからない あまりにも若すぎたと ただ思うだけ けれどしあわせ」

あまりにもはまり過ぎている荒井由美の「ひこうき雲」が延々と頭の中をめぐる。


映画館を出た。真夏の太陽が眩しかった。
空の青は、少し、“狂気的”に見えた。
鉄腕麗人さん [映画館(邦画)] 10点(2013-07-20 19:33:13)(良:7票)
鉄腕麗人 さんの 最近のクチコミ・感想
投稿日付邦題コメント平均点
2024-04-14映画『からかい上手の高木さん』6レビュー6.00点
名探偵コナン 紺青の拳2レビュー4.45点
2024-04-09デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション[前章]9レビュー7.50点
2024-03-31オッペンハイマー9レビュー6.40点
2024-03-24DUNE デューン/砂の惑星 PART27レビュー6.50点
2024-03-10アルキメデスの大戦8レビュー6.60点
2024-03-02アラジン(2019)7レビュー7.24点
2024-02-24マーベルズ6レビュー4.87点
2024-02-23別れる決心9レビュー8.66点
2024-02-12かがみの孤城6レビュー7.53点
風立ちぬ(2013)のレビュー一覧を見る


© 1997 JTNEWS