マイ・フェア・レディ の delft-Q さんのクチコミ・感想

Menu
 > 作品
 > マ行
 > マイ・フェア・レディ
 > delft-Qさんのレビュー
マイ・フェア・レディ の delft-Q さんのクチコミ・感想
作品情報
タイトル名 マイ・フェア・レディ
製作国
上映時間170分
劇場公開日 1964-12-01
ジャンルドラマ,コメディ,ミュージカル,ロマンス,戯曲(舞台劇)の映画化
レビュー情報
《ネタバレ》 久々に見直したが、やはり映画史上に残る名作だと再確認。もうちょっと若い時期のオードリーだったら、なおよかったけれど、それでも彼女の魅力は十分に発揮されていた。自分が年をとったせいか、最後のシーンは涙が止まらない。また、なぜか「I could have danced all night」のところでも泣けてしまう。お金でも宝石でもなく、ほんの少しのヒギンズのやさしさに、天にも昇るほどの喜びを爆発させるイライザの健気さに胸がいっぱいになるのだ。

エンタテインメントとしてもよくつくりこまれた作品だけれども、社会文化論的な視点から見ても興味深い。社会の底辺に属していた娘が、一転して王族にも見なされるシンデレラストーリーは、いわゆる「階級変換」がテーマとなっている。舞踏会のシーンにおいて、イライザは他の上流階級を圧倒する。イギリス階級社会の空洞性がさりげなく告発される。また、ここで描かれる社会は男性優位の社会でもある。つまり、ジェンダー的にも格差があるわけだ。しかし、ヒギンズはイライザや母の前では、その威厳は微妙である。ラスト近く、母の家でイライザと口論になり、イライザが出て行ったあと、「マザー!」と叫ぶほかないヒギンズのありさまは、「教授」という社会の最高位にある人間とは到底思えないもので、わがままがきわまってどうしようもなくなった駄々っ子の姿そのものである。貧富や性差、制度的階層の矛盾といった伝統的な社会問題が娯楽性を損なわない範囲で、しかし、しっかりと取り込まれているのは巧み。

これらを図式的に見直すと、すべて既存の秩序が一度崩壊したあとに、新しい価値観が見出され、それによって初めて幸福が得られるという筋道になっている。つまり、「崩壊」と「新生」の物語である。イライザにしても「花売り娘」としての彼女は消滅し、「レディ」として新生している。「崩壊」と「新生」というテーマで、なおかつ「階級変換」が絡んでくるとなると、(作者が意図したかどうかわからないが)これはもうニーチェの思想そのものである。となると、一見、コメディ的要素も持ちながら、その実、きわめて深い内容をも含んでいる恐るべき映画と解釈することもできるだろう。

ま、そんな見方はともかく、40年前にしてすでに一つの頂点に達している感さえある忘れえぬ一作だと思う。9点也です。
delft-Qさん [DVD(字幕)] 9点(2007-09-09 02:01:26)(良:2票)
delft-Q さんの 最近のクチコミ・感想
投稿日付邦題コメント平均点
2023-10-09沈黙の艦隊(2023)6レビュー5.50点
2021-11-02DUNE デューン/砂の惑星(2021)5レビュー6.30点
2020-09-17道(1954)10レビュー7.91点
2019-12-25アウトロー(2012)6レビュー6.19点
2019-12-25スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け6レビュー6.76点
2019-07-02言の葉の庭4レビュー5.68点
2019-05-03キングダム(2019)8レビュー6.06点
2018-08-14ミッション:インポッシブル/フォールアウト7レビュー7.07点
2017-11-07君の名は。(2016)10レビュー6.97点
2017-09-24ブリッジ・オブ・スパイ7レビュー7.16点
マイ・フェア・レディのレビュー一覧を見る


© 1997 JTNEWS