死者の書 の エスねこ さんのクチコミ・感想

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死者の書 の エスねこ さんのクチコミ・感想
作品情報
タイトル名 死者の書
製作国
上映時間70分
劇場公開日 2006-02-11
ジャンルドラマ,ファンタジー,時代劇,アニメ
レビュー情報
《ネタバレ》 喜八郎に酷い点はつけたくないが、やはりここは…。
何しろやたらセルアニメやらブルーバックやらの技法が使われすぎで、「天下の喜八郎師匠がなんて事を~」と涙なしには観られない無統一な画面。音楽も安易に西洋楽器に頼りすぎ。旋法には風情があるけれど…。

問題の根は「作り込みすぎ」にあると思う。都の大路を行き交う群集、垣根を造る男たち、かしましい南家の女官たち…こんなモノをコマ撮りで全部アニメートしてたらどれだけ手があっても足りなくなる。そのしわ寄せが肝心の如来や大津皇子に集まってしまったんじゃないのか。最初に構想した画が壮大で、緻密すぎたんじゃないか…と思う。
その無残にもバラバラになった手法や、無駄に細部まで表現されたモブシーンは、それでもなお本作には必要な物だった。ラストカットでそれがわかる。この話はそもそも原作者・折口信夫が見た曼陀羅から着想され、最終的にいつらめの描いた曼陀羅を映して終わるからだ。喜八郎は映画全体も曼陀羅として、「奈良の都」という形で彼の宇宙像を完成させたかったのではないか。いや、そうする必要があったのだろう。

悲運の大津皇子が怨霊となって藤原南家のいつらめの前に現れる。学才ある彼女は経文を唱えてその邪心を押し留め、そして心に観えたものを具現化しようとして糸を紡ぎ機を織り、そこに成仏の姿を描く。即ちこれ曼陀羅…。
古代日本の土着信仰と仏教がせめぎ合う物語であり、同時に芸術の根源を描く物語。折口はどう意図したか知らんけど、川本喜八郎は万葉的で大らかな主人公に自分の創作姿勢を重ねたかったろう。
それが伝わる画面だったから、無茶を承知で作ったのがわかるから、点は低くなるがオイラはこの作品に愛情を注がざるを得なくなる。3点のマンダラだけど、10点の姿は何となく見える。その10点の画を愛するが故に、ここでは正直に、3点を献じたい。

余談だが、全体の語り口は遠い世界の物事を語るように引きに引いていて、これは上田秋成晩年の作『春雨物語』の世界に似ている。1~2話の「天津処女」「血かたびら」は薬子の乱の話で、時代も精神的な背景も本作に近い。喜八郎はきっと意識していると思うし、何より秋成と同じ場所に立って古代を眺めてこその光景じゃないのか。
できればもう一作、春雨の一編を映像化してもらえれば…と願ってしまう、我侭な自分がいた。
エスねこさん [映画館(邦画)] 3点(2006-10-15 21:14:35)
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投稿日付邦題コメント平均点
2019-10-14ジョーカー8レビュー6.85点
2017-06-12コードネーム U.N.C.L.E.6レビュー6.56点
2017-03-05インセプション9レビュー7.19点
2016-10-06君の名は。(2016)9レビュー6.97点
2016-08-10シン・ゴジラ9レビュー7.25点
2016-08-08理由(1995)4レビュー5.78点
2016-07-25ボーン・アイデンティティー7レビュー6.24点
2016-05-15ファースト・スクワッド7レビュー5.00点
2016-04-23マッドマックス 怒りのデス・ロード8レビュー7.72点
2016-04-17バットマン vs スーパーマン/ジャスティスの誕生8レビュー5.38点
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