ビッグ・リボウスキ の ただすけ さんのクチコミ・感想

Menu
 > 作品
 > ヒ行
 > ビッグ・リボウスキ
 > ただすけさんのレビュー
ビッグ・リボウスキ の ただすけ さんのクチコミ・感想
作品情報
タイトル名 ビッグ・リボウスキ
製作国
上映時間117分
ジャンルドラマ,コメディ
レビュー情報
《ネタバレ》 コーエン兄弟は、近年の作家のなかでもとりたてて志の高い監督である。
卓越した構図、独特のカッティング、ストーリーの周到さ、どこをとっても一流に恥じない。一部には遊びに遊んだ、という評価を受けたこの一編は、ふざけているとしか思えない人物設定や、その場しのぎと解されがちなストーリーもあって、いいかげんに作ったのかと疑いたくもなるのだろうけれど、じじつは逆である。
たとえば、タイトルバックの映像。数人のボウラーの投球する姿が、ゆっくりとしかしあるリズムとタイミングを保ちながら映し出されてゆく。かれらは一様に肥満しており、美しさやカッコよさの片鱗もない。にもかかわらずこのリズムで何レーンにもわたって投げ続ける人々から観客は目を離すことができない。かれらの投球シーンが異様な昂ぶりをみせているのはいったいどういうことなのか。
スローモーションに続いてS.ブシューミの投球カットにつながれば、それはストライクなのだけれど、J・ブリッジスとJ・グッドマンは話に夢中でストライクなぞ見ていない。恐ろしいことにボウリングマニヤという設定の主演級3人の中において投球シーンが映されているのは彼ただ一人であり、J・ブリッジスにいたってはボールに触ることすら禁じられているかのようだ。終盤ブシューミは心臓発作で死ぬこととなるのだから、いったいこれらは何を物語っているのか。このような仕掛けは全編を通じて徹底的に張り巡らされていることを見逃してはならない。
一編はコーエン作品の中でもとりわけ卓越したセリフによって構成されている。3人が今回の誘拐の狂言の可能性について話あっているシーンではこうだ。J・ブリッジスがレーニンの言葉を引用すれば、ブシューミは「I'm a walrus」と横やりを入れる。これはジョンレノンの曲名で、レノンとレーニンとの名前の混同が人間同士の会話の不条理さを暗喩している。すかさずJ・グッドマンの怒りを買うが、かれのベトナムとユダヤに起因するエキセントリックさはそれ以上に不条理で、観客はジェットコースターに乗り合わせているかのように揺さぶられる。とりあえず疾走するセリフの数々に身をゆだねるしか方法はなさそうだ。不条理とはいえ、いやだからこそ人生の素晴らしさをじわりと体感させてくれる稀有な名作に拍手を送りたい。(07/03改訂)





ただすけさん [DVD(字幕)] 10点(2006-06-08 15:55:33)(良:1票)
ただすけ さんの 最近のクチコミ・感想
投稿日付邦題コメント平均点
2010-01-31東京物語10レビュー8.12点
2007-04-06ナイト・オン・ザ・プラネット10レビュー7.19点
2007-03-26絶対の愛10レビュー6.85点
2006-06-26ココシリ10レビュー7.53点
2006-06-22ファーゴ10レビュー6.58点
2006-06-16サイドウェイ7レビュー6.66点
2006-06-08ビッグ・リボウスキ10レビュー6.65点
2006-05-12春夏秋冬そして春8レビュー6.50点
2006-05-11悪い男10レビュー6.42点
2006-05-08ターミナル7レビュー6.17点
ビッグ・リボウスキのレビュー一覧を見る


© 1997 JTNEWS