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アール・デコって都会的なんだけど、ここでは田舎の中にデコの家がある。黒い縁が美しい部屋。外に広がる「田舎」に、近代女性であるシャネルが必死で抵抗しているような室内装飾だ。外の田舎は、イーゴルの妻の方がふさわしい。とんがっているシャネルと、病弱ながら周囲に広がって包み込んでいるような妻、との緊張。シャネルはイーゴルに刺激されて、洋服屋から香りの芸術家になろうと試みる。妻は夫の譜の清書を淡々とこなし、この生活から感じる腐敗の匂いに耐えていく。これ面白くなれそうなんだけど、どっかで見たような三角関係話どまりになってしまった。ピアノの響きによる嫉妬のうずき、クリムトの絵画のようなベッドシーン、などはちょっと面白い。でも一番思ったのは、ついにストラヴィンスキーも映画になったか、という感慨。楽聖映画ってジャンルがあり、シューベルトなどの名作がある(シューベルトは全裸にならなかった)。私の知ってる範囲では、ケン・ラッセルの『マーラー』が一番最近の作曲家だったが、とうとう第一次世界大戦を越えて、20年代のストラヴィンスキーが、シャネルとの二枚看板ながら映画の主役になった。これは当初最前衛だったストラヴィンスキーの音楽が、一般的なポピュラリティを獲得したって事なんだろう。次に映画化されるのは誰か。ウェーベルンなんて、ナチの支配に耐えながら米兵に誤射されて命を落とすドラマチックな生涯なんだけど、音楽の極北のようなデリケートな十二音の世界が、いつかシューベルト並みのポピュラリティを獲得する日が来るかどうか。「スターリン&ショスタコーヴィチ」なんて方がありそうだな。
【なんのかんの】さん [DVD(字幕)] 6点(2010-12-22 10:09:35)(良:2票)
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