<ネタバレ>将来に夢も希望もある若者に、突然の死の宣告。映画は、彼が如何 .. >(続きを読む)[良:1票]
<ネタバレ>将来に夢も希望もある若者に、突然の死の宣告。映画は、彼が如何に運命を受け入れその日を迎えるかを、淡々とした描写で綴ったものである。その点ではよくある物語と言えるが、他の作品と少し違うのは、彼は誰よりも孤独な人生を送ってきたと言うこと。そして自らの死を親や姉に告げずに死を迎えようとしていること。余計な心配や同情は無用と言わんばかりに。それは、彼がゲイであることと無縁ではなさそうだ。自らがゲイであり恋人もいることは、家族にも既に認知されていて、時代は確実に進んでいることを痛切に感じさせる一方で、息子の薬物癖に顔をしかめる父親という図は、いかにもフランスというお国柄を再認識させられるエピソードではある。彼も本来なら普通に女性を愛し、結婚生活に憧れを抱いていたであろう年頃だが、計らずも、その願望が絶たれた時から、親族とりわけ姉に対して反撥を抱くようになる。自分の性癖を呪い絶望した挙句、その遣り切れなさがやがて憎しみとなり、反撥と言う形で苦悩を滲ませるのである。しかし、本心ではないだけに、気持ちは絶え間なく揺れ動く。それだけに幼な子との幸せな姉の姿を写真に収める彼の姿には、切なさが漂う。中盤以降、映画は彼の生き急ぐ姿をひたすら追い続ける。ひとつは彼の良き理解者で、唯一心の拠りどころである祖母にひと目逢うこと。自らを曝け出せる相手として、ときに旧友のように、ときに恋人でもあるかのような彼女自身も、実は孤独な人生を歩んできたことが窺い知れる。言葉少なだが、彼女に癒されていく事で改めて生を実感し、良き思い出だけを胸に刻もうとする彼の姿には、もはや思い残す事がないかのような決意を滲ませる。だから、生きてきた証として、他人の妻に自らの子孫を孕ませる
、一見突飛ともとれる行為も、話としては自然な流れとして理解できる。愛する者たちとの無言の別れ、そして純真無垢だった幼い頃の自分と決別し、過去の呪縛から解き放たれたかのように静かに体を横たえる若者。其処は、今やオゾン監督作品のモチーフとも言うべき“別離の砂浜”である。切迫した物語が決して陰鬱に陥らないのは、オゾン作品のひとつの美徳だろう。[良:1票]