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<ネタバレ>自らの意志のみで世の中を真っ当に生きることはそもそも難しいことである。智に働けば角が立ち、情に棹させばながされる、意地を張れば窮屈だ。明治の代からそれは変わらない人情という世情である。
夏目漱石が『草枕』で描いた非人情の風景。誠実さ故に人情の世界の中では「狂い」のものとされてしまう女。その女に人間として惹かれる画家の男。それは絵画的な風景としての生の捉え方であったか。
『ぐるりのこと。』は、自らの行き方と世の中のズレを許容できないばかりに、次第に精神を病んでいく女とそれを見守る男の物語である。「ぐるり」とは、自分たちを取り巻く世の中のこと、という意味だと察せられる。(英語題より)
女は非日常的に自らの誠実さを表現できる「絵画」を日常とすることによって快復していく。男はそれを見守る法廷画家の男である。彼は「ぐるり」を描き続ける男でもある。
もちろん、彼らは10年という年月をリアルに生きており、それは決して非人情という風景の断片ではない。丹念に描かれ、紡がれる生活というもの。日常があり、非日常がある。その繰り返しの中で生きる辛さに押しつぶされてしまったが為に、破錠しかける2人の生活。
生きるというのは「ぐるりのこと。」であり、「関係」であるが故に辛いけど、それが為に繋がる喜びである可能性もある。彼らの10年はそのことを漸く知る為の10年であったことが僕らに伝えられる。
生きることは、年輪を重ね合わせることである。そう思わせてくれる「物語」であった。[良:1票]