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<ネタバレ>以前ある場所で、庵野秀明は『エヴァ』でやり残したことについて語っていた。それは簡単にいえば、観客に向けて、現実の世界で生きていくためのエネルギーを届けることだったと思う。
『エヴァ』はもちろん傑作だったけれども、反面問題作でもあり、観客にも監督自身にもやりきれなさを残した。十代を中心とするファンの強い共感を得ながら、その鬱屈を完全に昇華することはできなかった。十四歳の子どもが破綻していく過程をつぶさに描いておいて、「現実に帰れ」などと主張したのだから無理もない。良くも悪くも先鋭的すぎて、すべての観客を納得させる力は持てなかったのだ。
しかし今、監督は前回の借りを正面から取り返そうとしている。時代を席巻した代表作を自らの手でリメイクするという、失敗したらキャリアを台無しにしかねないやり方で。アニメや映画に限らず、なにかを表現しようとする者にとって、これ以上ないほど困難で、真っ正直過ぎる挑戦だ。こんな形の『リメイク』は前代未聞だろう。
そしてやってのけた。普通に面白くて、観終えた後にお腹の底から力が湧いてくるような作品を。
これはまったくの個人的な考えだが、フィクションはそこに依存して現実から逃げ出すための場所であってはならない、と思う。大切なのは、ほんの束の間そこに浸って現実に帰ってきたとき、視界が前よりも開けて見えること。元気が出て体が軽くなって、明日からも頑張れる、自分自身も人生も変えていけると感じられること。観る前と観た後とで、ほんの少しでも強くなれたと思えること。それが物語の、とりわけエンターテインメントが持てる最良の力なのだ。
『ヱヴァ』はまだ途中だ。しかし続編がどうなろうと、筆者は製作陣を称賛せずにはいられない。断っておくが、なにも監督を神様みたいに思ってるわけじゃない。この作品も欠点がないわけではないのだから。ただ確実にいえるのは、庵野秀明は表現者としても人としても、とても純粋に仕事に向かっているということだ。
恥ずかしい話、ほんの二三滴だけ筆者は泣いた。正直言って、今まで自分にとっての『エヴァ』は思い出でありつつ、ちょっとした若気の至りの証でもあった。だが今は素直に、この作品のファンでよかったと思う。そう思えたことがほんとうにうれしい。[良:7票]