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<ネタバレ>マーク・ライランスの自画像、鏡像、本人の三身が一画面内に映し出される冒頭のショット。
それは二対一の交換のドラマ、国を跨ぐスパイのアイデンティティのメタファーでもあろうか。
鏡への反射の演出は随所にみられ、様々に考察の余地がある。
裁判劇を含む饒舌な脚本でありながら、冒頭で示されるそのスパイ活動の描写は尾行劇とレンズを凝視する事という視覚の駆使であり、
そこに画面で語るスピルバーグの本領が発揮されている。
ヤヌス・カミンスキーは、凍てつくヨーロッパと、温かみのあるニューヨークのルックのコントラストをよく際立たせ、
クライマックスの橋は越境という決定的局面を光と共に象徴的に浮かび上がらせている。
本作での光は、米国パイロットを幾度も苛み、銃弾の撃ち込まれたトム・ハンクス家族を晒し、橋の向こう側に輝くライトも
必ずしも希望を象徴していない。蒼白い光芒の下、シルエットと化して消えゆくそれぞれのスパイと、立ち尽くすトム・ハンクスの
暗示的なロングショットが切なくも美しい。
マーク・ライランスの寡黙な芝居が素晴らしい一方、眉間に皺を寄せるばかりのトム・ハンクスの表情は少々単調か。