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プロフィール
コメント数 2260
性別 男性
ホームページ https://twitter.com/BM5HL61cMElwKbP
年齢 52歳
自己紹介 あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

2024.1.1


※映画とは関係ない個人メモ
2024年12月31日までにBMI22を目指すぞ!!

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61.  ボーイズ・オン・ザ・ラン 《ネタバレ》 冴えない自分を好きだと言ってくれる女性が、若くて、美人で、性格も良く、しかも処女だという。おまけにムチムチ。例えるなら、純白生クリームのホールケーキ。瑞々しくて甘そうな苺付き。どうぞ召し上がれ。そんな時、“自分が手を付ける前に”ケーキをぐちゃぐちゃにされたらどうでしょうか。苺は見る影もなく、ところどころかじった跡。穴まで(!)開いちゃってる。こんな事をされて、怒らない男はいません。これは、自分の所有物を汚された事に対する憤り。可哀相な彼女の為ではありません。自身のプライドのために男は戦ったのです。YOUに焚きつけられた側面もあったでしょう。でも、名作映画を観なければ高まらないモチベーションでは、格上の相手に歯が立たないのは道理。実力差を補う“必死さ”が足りないのですから。鈴木さんは慰めてくれましたが、あの負け方では大いに不満が残ります。噛み付け、引っ掻け、くらいつけ。小便垂れる度胸があるなら、大を塗り付けてやれ。“絶対に負けられない戦い”ってそういうものだろ!(失礼、熱くなり過ぎました)。失意の男を待っていたのは、女の追い打ち。まさかクズ男の体の心配とは。体のみならず、心まで調教済み。本当は僕の事が好きなんでしょ。君は僕の物でしょ。心の拠り所が完全消滅した瞬間でした。惨めさ、ここに極まれる。それは心地良い悪夢の終わりも意味しました。悲劇のヒーロー、滑稽な独り相撲の千秋楽。男が勝手に思い描いた、都合の良いお伽噺は存在しなかったワケです。思い返せばヒントは出ていました。それはタバコ。処女が吸うタバコ。おぼこのお姫様がタバコを吸うはずがないのです。現実に引き戻された男は走り出します。心臓を無理やり動かさなかったら、自分が消えて無くなってしまいそうだから……。主人公田西の人物造形が秀逸でした。中途半端な善人ぶりに感情移入しまくり。おかげで、歯痒くて、痛くて、苦しい思いを沢山させていただきました。でも本作のMVPは黒川芽以で決まりでしょう。絶妙のぽっちゃり感にノックアウト。『グミ・チョコレート・パイン』もそうでしたが、この当時の黒川は無敵の可愛さです。[CS・衛星(邦画)] 9点(2013-06-25 18:57:49)(良:3票)

62.  SR サイタマノラッパー 《ネタバレ》 唐突なラストにア然とするのと同時に、心が締め付けられました。まさかこんな“途中”で幕切れとは。最後はてっきり感動のライブが待っていると思っていたのに。でもよく考えてみれば、人生とはそんなもの。志半ばにして終わるのが常。それに何も積み重ねていない奴らに、晴れの舞台などあろうはずもありません。そもそも表現者として、観客に届けたい“思い”があったのかさえも疑わしい。しかし居酒屋でのデブニートのラップには、訴えかけるモノがありました。無様です。情けないです。カッコ悪いです。それよりちゃんとバイトしろよって話。でも心に響きました。負け犬の遠吠えだとしても、吠えるのを諦めるよりは100倍マシ。たった一人でも心を揺さぶる事が出来たのなら、もしかしたら観客の心にも届くのかもしれない。それがこの映画が伝えるささやかな希望でした。馬鹿は諦めが悪いもの。でもその馬鹿が羨ましい。そして愛おしいのです。絵に描いたようなダメ人間に感情移入が叶うのは、奴らの本質が腐っていないから。仲間と上手くやりたいのなら同意できなくても適当に話を合わせておけばいい。でも奴らにはそれが出来なかった。その純粋さは、捨てちゃいけない。一度手放したら二度と手に入らない宝物だと思うから。ラストシークエンスや謎の小声先輩タケダのエピソード等、サプライズが感動に直結する見事な脚本と、リアリティある人物造形に強く共感する、痛痒さ満載の笑って泣ける青春讃歌。素晴らしいです。大好きです。遅ればせながら、続編も必ず観ます。[DVD(邦画)] 9点(2013-06-16 17:58:39)(良:1票)

63.  アフロ田中 《ネタバレ》 社長「これはこれは、無断欠勤中の田中くん。今日はどうしたんですか」田中「はい。私、今日はずっとダラダラとしておりました。あ違います。正確にはヘラブナ釣りを少々」社長「で、わざわざ私を探しに来たということは、私に何か言う事があるんだろ」田中「いえ、私の方からは何も言える事はありません。あるのはただ、無断欠勤をしたという事実だけです」社長「だからこそね、何か言う事があるんじゃないのかってこと」田中「いえ、私からは何も。あるのはただ、無断欠勤をしたという事実だけです」社長「そこを押すよな、さっきからな。ま、でも一応反省はしているんだよな」田中「それはもちろんです。社長」社長「ん、それならまあ今後マズい事やんないようにな」田中「ありがとうございます。失礼します」社長「もやもやするなあ」以上完全再現させていただきました。この件に大爆笑。腹を抱えました。完全無欠の謝罪技術、社会人なら是非身に付けたいものです。さて、本作の長所はキャラクター造形の素晴らしさに尽きると感じます。超絶美人だけれど、今まで魅力的とは一度も思った事がない佐々木希を、これだけ愛おしく撮れるのは凄いと思いますし(『ハメ●り?!』なんて台詞を吐かせたのは金メダル級の大仕事)、悪友たちもみな、肩の力が抜けていてイイ感じ。そして主演の松田翔太。菩薩もびっくりアルカイクスマイルから、悩み慄く眉間の皺まで、表情豊かで観ていて楽しかったです。童貞倫理審議会が認定する優良童貞ボーイでありました。そんな田中にシンパシーを感じてしまう自分が情けないやら愛おしいやら。披露宴会場ロビーにて、肩を寄せ合いタバコをふかす野郎どもが美しく見えました。失恋上等。情けなくてバンザイ。死ぬ間際、きっとあいつら5人は思いだし笑いで死ねる。そんな人生の一コマを集めるために、人は生きていくのだと思います。[DVD(邦画)] 9点(2013-01-01 00:00:00)(良:3票)

64.  私の優しくない先輩 《ネタバレ》 (以下は私個人の勝手解釈です。未見の方はご注意ください。)“火蜥蜴島に越してきた心臓病の娘、イリオモテヤマコのひと夏の経験”は、“名も知らぬ少女が病院のベッドで今際の際にみた夢”でありました。虚実入り混じった物語でしたが、そのほとんどが空想だったと理解します。唯一の現実は、病床の少女に青年がキスする場面のみ。この事実は火祭りの夜、ヤマコが発した言葉により示唆されています。「ヤマコなんて名前の子がいますか?」観客が抱いていた疑問を劇中の人物が口にすることの意味とは何でしょう。火蜥蜴島なんて島があるか?武道・球技以外がマット運動部って?その他同級生の描写が一切無いのは何故?たこ焼き機が本格的過ぎないか?これらの疑問が正当であった事の裏付けです。全てが現実にあらず。天然記念物のような名前の女子高生は存在しなかったのです。ヒトカゲとは“人影”の意。ヤマネコは飼い猫とは違い、懐きません。病床の少女もまた病気を理由に、人との交流を避けてきたのではないでしょうか。そんな彼女を励まし、支え続けてきたのが“先輩”だったのでは。少女にとっては、疎ましい存在かもしれません。その情熱は、現実を見たくない少女には眩しすぎます。しかし先輩の思いは、最後の最後で少女に届きました。その言葉が胸を突きます。「人生、思い出をいっぱい作った奴の勝ちなんだよ!」それは面倒な事から逃げていては叶わぬこと。臭くて、ウザくて、暑苦しい思いをして、思い出は勝ち取るのです。「お前の感じた事全てが真実だ」もう戦う事すら叶わぬ彼女への、精一杯の肯定。少女のでんぐり返しは、空想を“本当”に変えることです。彼女がみた最後の夢を、先輩は優しい口づけで真実に変えてくれました…。ヤマコが存在しないと知ったとき、自分は物語に引き込まれた気がします。実在しないという事は、誰もがヤマコなのかもしれないのだから。本作は全ての観客に問いかけます。今、あなたは“感じていますか?”と。エンドクレジット。単なるオマケであれば、どんなに見事な技術を労しようとも、自分は心を奪われなかったと思います。高田延彦と小川菜摘が、最後までヤマコの父と母であり続けてくれたこと。これが何より嬉しかったです。美しく、そして優しい人生の最終回でした。[CS・衛星(邦画)] 9点(2011-12-09 20:29:43)(良:2票)

65.  八日目の蝉 《ネタバレ》 幼子を奪われた母親の心情を思うと遣り切れません。我が命を奪われたようなものです。そういう意味では、希和子は人殺しと同じ。彼女の罪は果てしなく重い。でもその一方、希和子と薫の別れの場面では、涙してしまうのです。犯罪者が捕まって喜ばしい事ではないのか?自分の感情に戸惑いました。“希和子が薫に注いだ愛情は本物だった”。その1点において、自分の心は動かされたのだと理解しました。もっとも実母にしてみれば、これこそが許し難いこと。子に与え、また受け取るはずだった愛情を希和子に横取りされたのだから。希和子は夫ならず娘までも奪った憎い女。憎過ぎる。もし誘拐犯が彼女でなかったなら、恵津子の娘に対する接し方も違ったかもしれない。娘の気持ちを尊重し、大きな愛で包み込むことも出来たのではないか。そもそも、無事に帰ってきてくれたことが奇跡なのです。しかし恵津子には、“もう一人の母”の存在など認められるはずがなかった。希和子の愛情を上書きしようとしたために、実母と娘は苦しみました。ただ、救いがあるとすれば、娘が立派に育ったこと。確かに不倫して身籠るような真似をしたのは、恵津子にとっては痛恨の極みだと思う。でも恵理菜は、まだ顔も見ていないお腹の子を愛おしいと言った。彼女が幼少期に十分な愛情を受けて育ったことの証です。愚か者だけれど、一番大切な“愛する心”は持っている。恵理菜は、人間として合格でもないが落第もしていません。全てはこれからです。これから。子が幸せになること。全ての親の願いはそれに尽きます。[映画館(邦画)] 9点(2011-08-04 19:30:15)(良:3票)

66.  ゴールデンスランバー(2009) 《ネタバレ》 青柳にとっては、アイドルを助けたことが運のツキでした。いや遡れば、宅配のバイト、大外刈り、ファーストフード同好会、全てが間違いだったのかも。こんなネガティブな運命論が頭を過ぎるほど、主人公が追い込まれた状況は絶望的でした。でも彼のピンチを救ったのも、これらの経験。オセロのコマが裏返るように、個々のマイナスがプラスに転じていきます。胸を熱くしました。晴子の「だと思った」。父親の「ちゃちゃっと逃げろ」。その一言で救われる。青柳と晴子はリアルタイムで言葉を交わす事はありません。でも友情という絆で繋がっていました。このことが数々の奇跡を生みます。しかしご都合主義だとは思いません。そう観客を納得させる仕掛けが施されていると感じます。以心伝心のカローラの件は、「自分も思い出していれば向こうも思い出してる」という轟の言葉で補足されているし、打ち上げ花火も初キスのエピソードが無ければ出なかったアイデア。そもそも轟さんをロッキーと呼べる信頼関係を築いていた事に意味があります。礎のある奇跡は大歓迎。では、キルオはどうでしょう。彼は助っ人として、突如青柳の前に現れました。その後の動きも神出鬼没。何故こんな芸当が出来たのか。ショットガン男と因縁があること、劇中一般人を殺めていないことから、「通り魔」という肩書きの信憑性が疑われます。彼もまた別件のオズワルドではなかったか。キルオも当局と戦っていたのなら、その立ち回りに説明がつきます。世間に顔が売れていた青柳が生贄に選ばれた妥当性も含め、全編を通して“説得力”を感じさせる脚本でした。エンターテイメントでは、リアリティより価値があると考えます。結末も秀逸です。青柳は手足を失う大事故に遭遇したようなもの。以前と変わらぬ生活を望むのは無理な話。この結末で最善です。彼と仲間の勝負手が、未来を手繰り寄せたのです。「長引かせると厄介だ」そう思わせたことが値千金。当局にとっての安全策、“代替による早期幕引き”を引き出せたのだから。人生は思い通りには行きません。打ちのめされる事もある。そんなとき、どう振舞うかでその人の値打ちが決まります。満点じゃなくても花マルは貰える。「たいへんよくできました」。青柳にはこの人生を誇って欲しい。[CS・衛星(邦画)] 9点(2010-12-15 17:50:50)(良:2票)

67.  純喫茶磯辺 《ネタバレ》 ブラマヨ小杉ではありませんが『俺の気持ちもてあそぶやん!』と大声で叫びたい気持ち。前半は小気味いいギャグを連発し観客の心のガードをガラ開きにさせておいて、中盤以降グイグイと監督お得意のエグいのを入れてくる。親父、娘、ヤリマンの切ない気持ちが入り乱れる修羅場の最中、わき腹をくすぐる『もしかしてあなた九州の人?いえポルトガル人です』を放り込んでくる監督の悪ノリぶり。もう、大好きだ!!もちろん意地悪いだけでなく、ちゃんと物語のツボを心得ているのもニクイ限り。田舎へ帰るというヤリマンからの手紙。親父はやせ我慢でそ知らぬふり。そこで一旦、代わりに娘を走らせておいて、(走るのはお前じゃないだろう!と観客に突っ込ませておいて)きっちり親父を走らせるお約束。くぅ~泣かせるねえ。でもこの恋を成就させないのが監督の流儀。心得ていますよ。1年後のシーケンスは本来ならいらない。でも監督は観客に甘い幻想を抱かせることはさせない。キッチリ落とし前をつけ、それでいて一歩前へ進ませる。純喫茶磯辺は失敗だった。当然の成り行き。でもだからと言ってあの喫茶店が無かった人生を考えてみると寂しい気がする。痛い経験も、恥ずい思い出も、死ぬ手前になりゃみんな同じ宝物。何も無いより100倍は得でしょうよ。誰の心の中にだって、純喫茶磯辺は眠っているんじゃないかな。とくに思春期あたりに。自分の場合は当分鍵を掛けておきますけども(笑)。それにしても監督は役者の長所を引き出すのが滅法上手い。宮迫は味出しまくりだし、仲や麻生の肩の力の抜け具合が絶妙でした。愛すべき人物に囲まれた物語は観ていて最高に気持ちいいです。楽しかった!(注意)本文中にあるヤリマンとは麻生久美子嬢のことであります。念のため。[DVD(邦画)] 9点(2010-06-27 19:11:38)(良:2票)

68.  トウキョウソナタ 《ネタバレ》 母親はオープンカーを「屋根がなくなっちゃった車」と称しました。それはこの家族の状態に似ている気がする。父親はリストラで職を失った。家計を支える収入が途絶えるのは、家屋で言えば屋根が無いのと同じ。雨ざらし、風さらし。大切な家財を守れない。でもそんな事実に家族はみな目を背けてしまう。屋根が無いのを認識するのは怖いから。でも容赦ない風雨に心と体は荒んでいく。限界を迎えた黒須家は悲惨な最期を遂げました。佐々木家も危うく同じ轍を踏むところ。でも彼らはその前に逃げた。散り散りになって。母が漆黒の海の彼方に見つけた光は何だったのでしょう。この先にある希望の象徴?でも目を離した隙に消えてしまう。何とあやふやなものを頼りに、私たちは今まで生きてきたのか。全てを諦めた彼女が口にしたのは「今までの人生が全て夢だったらそんなにいいだろう」。期せずして同じ頃、夫も同じく「やり直したい」と。長い歳月と、膨大な労力を払ってきた大人にとっては、これまでの生き方を否定するのは耐え難いこと。絶対に口にしたくない“本心”を吐露したとき、2人の心は一度死んだのだと思う。黒須よりも彼らは弱かったのかもしれない。でも弱さを認めたからこそ再生できた。バラバラになったから、また集うことが出来た。生き様を肯定したまま命を絶った黒須、人生を否定して生き延びた佐々木。その差は僅か。もし強盗が入らなかったら、大金を手にしなかったら、彼らは走り出していただろうか。この物語は少しも他人事とは思えませんでした。父に自身を重ね、体を硬くして観入りました。もちろん自分もかつての子供。息子たちの戸惑いも判ったし、母の想いも想像できました。痛くて、苦しくて、ずっと泣きそうでした。終始この調子だったら、最後まで観られなかったかもしれない。ですから、役所教官の運転教習に笑わせてもらったのが救い。重苦しい物語ほどユーモアが欠かせません。ソナタは、2つの主題を対比的に用い、主題の提示・展開・再現の3部で構成される器楽形式。コンダクター黒沢清の、家族再生のソナタが心に響きました。[DVD(邦画)] 9点(2010-01-25 20:56:58)(良:4票)

69.  用心棒 《ネタバレ》 「これもアンタが考えた筋書きか?」「半分はな。もう半分はあの野郎が書き換えやがった」めしやの親父と三十郎の会話。本作の面白さはまさしくコレ。次々と書き換えられていく筋書きに、次はどうなるのかと興味津々。主人公の三十郎ではなく、善良なる一般人の象徴、めしやの親父(東野英治郎が上手い)に視点を重ねて物語の成り行きを見守りました。雨戸の隙間からこっそりと。もっとも、物語の終着点は最初から見えている。主人公が当初に描いた絵のとおり、2つのヤクザが食い合って共倒れになれば終わり。この結末は動かない。其処に至る過程がお楽しみです。如何に三十郎が二人の親分の間を立ち回って、二虎競食の計を完成させるか。三十郎が投げ込んだ火種がどんな形で大火事になるのか。彼は策士ではありません。裏の裏まで読んだり、二の手、三の手まで用意したりしていない。仕掛けは単純。後は流れにおまかせです。どう転ぶか三十郎本人にも分からない。だから物見気分。そのいい加減さが大物の証です。それに主人公は剣の達人。確かに頭は切れるが、刀のほうはもっと切れる。三十郎VS卯之助の一戦には唸りました。卯之助にすれば、セーフティな距離を確保しつつギリギリまで近づきたいところ。三十郎の秘策を知っている観客も、間合いの勝負と考えている。ところがその予想を三十郎は軽やかに裏切ります。あんなに“不用意に”詰めてくるとは。それにあの笑顔!機先を制する者が勝負を制する。お見事です。場馴れしている三十郎の完勝でした。本作ではチャンチャンバラバラの斬り合いは一切ありません。三十郎が一息で、しかも一方的に相手を始末するパターンが都合3回のみ。だのにこの迫力と充実感は何なのでしょう。「凄い」とか「面白い」という言葉しか出てこない自分がもどかしい。[DVD(邦画)] 9点(2009-08-12 19:06:53)(良:1票)

70.  少年メリケンサック 《ネタバレ》 劇場鑑賞後の帰り道の話。自分の前を一組のカップルが歩いていた。ズボンがずり下がってパンツが見えそうな男。靴の踵は潰していた。しきりに女のうなじを撫でている。とりあえず延髄切りを食らわすことにした。腹が空いたのでラーメン屋へ入った。「本場博多とんこつ」と暖簾にある。隣の席のカップルの会話。「私軽め目に、トンコツじゃなくて醤油にしとくわ。セットは唐揚げごはんね」「僕もあんまりお腹空いてないから野菜ラーメンにする」2人の額を紅生姜色に染めることにした。これは実話です(ごく一部フィクション)。普段はこの程度でムカついたりしない。身が持たないから。それに、どちらかと言うと『少年アラモード』系な自分ですから。でも本作に触れて素直になれた気がする(暴力映画に感化されたとも言う)。「パンク」の定義は知らないけれど、映画を通じて感じた「パンク」はこういうこと。キザな言い方をすれば“心の開放”。叫んで、跳ねて、心を軽くしよう。そういう意味では、気持ちのいい映画はみんな「パンク」なんだと思う。中年男たちの醜態がどうしようもなく愛おしくて、主人公の境遇に同情しつつも羨ましくて、『ニューヨークマラソン』の歌詞に涙を流して笑った。ヤングはイイ奴だと思ったし、TELYAには本気で惚れた。アンドロメダのフレーズが耳から離れません。そうそう、久々にペヤ○グを食べてみました。死ぬほど美味かった。観終えて笑顔になれました。それで十分。だから声を大にして言いたい。好きです!『少年メリケンサック』!可愛いぞ!宮崎あおい!許します!障害手当不正受給!嘘です![映画館(邦画)] 9点(2009-03-10 19:25:05)(笑:2票)

71.  サイドカーに犬 《ネタバレ》 本来あり得ない“本妻の娘と愛人の友情”が、これほど自然な形で成立したのは何故でしょう。もちろん薫が幼かったせいもあります。でもあれくらいの年頃でも、男女の機微は分かるもの。女の子なら尚更です。薫が愛人であるヨーコをすんなり受け入れたのは、彼女が無防備だったからだと思いました。まるで親戚のお姉さんが遊びに来たようなノリで、ヨーコは薫の懐に入ってきました。無防備な相手には、こちらも防御を解いてしまうものです。薫はヨーコを敵と認識する前に、彼女を認めてしまいました。好きになってしまったのです。決め手は、コーラを一緒に飲んだ時。大人の女性に「尊敬する」と言われたら、小学生くらいの娘だったらメロメロでしょう。おそらくヨーコは薫に気に入られようと計算をしていません。薫を所詮子供と侮ってもいません。きっと彼女は相手の肩書きに興味がないのです。大切なのは人格のみ。だからこそ不倫にも躊躇が無いとも言えます。彼女は彼女の基準で生きているということ。真っ直ぐに、ひたすら正直に人と向きあえるヨーコは、途方も無く魅力的だと思いました。その反面、怖いとも思いますが…。「サイドカーの犬」はパートナーに目的地まで連れてってもらう人。薫はそういうタイプだといいます。多分母親もそうなのでしょう。思い通りにならないけれど楽チン。一方ヨーコは自力で目的地へ向かうタイプ。薫にとっては新鮮な価値観でした。自力で漕ぐ自転車の心地よさを、薫はヨーコから教えてもらいました。その結果、今の彼女があるのです。ちょっと大変だけど、薫は自力で自らの人生を漕いでいます。彼女の中にある理想は、颯爽と風を切るヨーコの姿。憧れと共にキラキラと輝く。成長期の出会いは、その後の人生を左右します。正直、薫を羨ましいと思いました。[DVD(邦画)] 9点(2008-08-27 21:42:06)

72.  映画ドラえもん のび太の恐竜2006 《ネタバレ》 『ドラえもん』は、押しも押されもせぬ国民的アニメ。その事に誰も異論はないと思います。であるが故に重い十字架を背負っていると思う。マンネリ化を打破し、“末永く愛され続けるために”断行された声優陣及び作画の一新。10年先、20年先を見据えた大改革でした。その是非を問うたのが本作だったと思います。ココでオリジナル劇場第1作目のリメイクを持ってきた覚悟たるや凄まじいと思いました。旧作品との比較は避けて通れない。ならばいっそ、徹底して比べて欲しい。そんな製作者の意気込みが伝わってくるようです。賭けだったと思います。オリジナルと同等のクオリティならば、思い入れのある方が支持されて当たり前。オリジナルを超えて初めて評価される。そんな分の悪い賭け。果たしてその結果はどうか。自分は諸手を挙げて支持したいと思いました。いや両手じゃ足りない。両足も挙げちゃいましょう。オリジナルへのリスペクトを失わず、されど新作の色を出していく。これぞあるべきリメイクの形だと思いました。特に終盤の展開が素晴らしい。前作で物足りないと感じていた部分を大幅に変更。自力での問題解決にスッキリしました。ラストも注目。何故ボールを抱くのび太のシーンを削ったのか。そこに監督の意思を感じずにはいられない。のび太たちの成長も、ピー助との切ない別れも、それまでのシーンで十分描けたという自信があったのだと思う。だからラストカットは、成長した子供たちの笑顔で十分だった。どんなに名シーンだろうと、“本作では”必要がなかったのだと思います。新ドラシリーズは大丈夫。そう思わせるだけの覚悟と愛情が本作には詰っていました。自分も一ファンとして、旧シリーズ同様の愛情を新シリーズに注いでいきたいと思います。敬意を込めてオリジナルよりも上の点数を付けさせてください。[DVD(邦画)] 9点(2008-07-22 20:15:02)(良:3票)

73.  キサラギ 《ネタバレ》 アイドル如月ミキの一周忌に集まった5人の熱狂的ファンが導き出した『自殺事件』の真相に泣き笑い。心が温かくなりました。でもストレートに“良い話”と受け取るのは、もったいない気がします。劇中、小栗の台詞にもあったように、数多ある可能性の中のひとつに過ぎません。ここが最重要ポイントと考えます。その事を明確にするためにラストシーケンス(宍戸登場)があったのでしょうが、上手くない遣り方でした。直接的過ぎます。主役5人の背景を示唆することで伝えて欲しかった。オフ会はネット世界の延長。別人格を演じている可能性は否定できません。というか、“自称”マネージャーや恋人、父親の与太話を、額面どおりに受け取れというのが無理な話。エンドロールで一心不乱にオタ踊りをする姿にこそ真実がある気がしました。オタクたちが持ち寄った架空のキャラクターとエピソードが偶然“事故説”に辿り着いた。いや、アイドルを想う強い気持ちが“こうあって欲しい”という可能性を創造したと言うべきか。ファンタジーだと思います。ハッキリしたのは「如月ミキは愛されていた」ということだけだと思いました。“人を想う気持ちが産んだ良い話”でした。なお、如月ミキの顔出しについては艶消しもいいとこ。観客それぞれが心の中の如月ミキ(理想のアイドル)を思い描けばいい、そういう流れだったと思います。[DVD(邦画)] 9点(2008-07-16 21:10:09)(良:4票)

74.  楢山節考(1983) 《ネタバレ》 何時から“死”は、忌み嫌われる遠い存在になったのでしょう。核家族化が進み、親族の死に立ち会う機会は失われました。食卓に並ぶ食材も予め手が施されたものばかり。命を奪っている感覚は薄い。ニュースで事件や事故を見聞きしても、所詮は他人事。5分と経たずに忘れてしまう。まだ子供の頃のほうが、死は身近だったかもしれない。昆虫をいたずらに殺したし、ザリガニなんか胴体をへし折ってザリガニのエサにしていた。今となっては、随分可哀想なことをしたなと後悔しています。でも命の尊さを知る経験だったとも思う。忘れてしまった死の感覚は、恐怖に繋がります。分からないから怖い。なるべく遠い存在であって欲しい。カワイイ子猫は抱きしめたいけど、死んだ瞬間から見たくもないということ。でも多分間違っている。生と死は隣り合っているはず。本作を観て気付きました。子殺しに姥捨て。村人にとって死は日常です。死産や幼子を亡くすことは珍しくなかったし、姥捨てだって、いつか自分にも番が回ってくる。村人は死に鈍感なのではなくて、不可避なものとして受け入れているのだと感じました。もちろん自分は今の日本が好きです。自分と他人の命を尊重できる社会がいい。でも「人の命は地球よりも重い」なんてスローガンがもてはやされるのも違う気がする。逃げずに、真摯に死と向き合うこと。それが生を尊ぶことだと思いました。ときに可笑しく、ときに辛くやるせない、村人たちの生と性。自分の歯を打ち砕いた婆さんの想いも、倍賞にとばされて狂ったとん平の気持ちもよく分かる。日本人の文化風俗とその根底にある想いを通じて、生について考えさせられました。[DVD(邦画)] 9点(2008-02-20 18:08:06)

75.  机のなかみ 《ネタバレ》 (ちょっとした驚きでもあった方がお得。未見の皆様はご注意ください。)  男視点で描く前半は、クスクスの連続。下心丸見え男の生態が笑えます。そしてムズ痒い。「私ってそんなに魅力無いですか?」ピュアな瞳で見つめられたら勘違いしちゃう。そりゃする。しますとも。男ですもん。彼女を押し倒した時もそう。一度は涙にうろたえても、ヤッパリ頂けるものは頂きます。この情けなさ!ダメ人間っぶり!恥ずかしながらよく分かる。これが男という生物だと思う。ここで終われば、前作『なま夏』と同じ着地点。後味の悪さだけが残ったでしょう。でも長い前フリでしかなかった。女子高生の視点から描く、物語の裏面が本筋です。彼女が主人公。切ない片思いのお話でした。慕う相手は、親友の彼氏。進めず戻れずの心苦しさが胸を突きます。失意の中、好きでもない男に操を奪われそうになるだけでも十分最悪。オマケに事に及ぶ間際を父親に見られては、万事休すです。扉バーン!で世界は終わる。でもここで濁さないのが吉田監督らしい。更に泥沼に踏み込んでいきます。親友と憧れの彼にもバレて、オケツ丸出しの鼻血ブー。痛々しくて見ていられない。もう絶望するしかない。そんな状況で彼女が交わした口づけは、おそらくファーストキス。半分は錯乱状態のやけくそ。でももう半分は決意の表れだと思いました。彼女は強い。いや女性は強い。主人公も親友も同棲相手も、みんな強かだと思いました。人前で本心を曝け出すのは勇気が要ること。泣くこともまた強さの表れだと感じます。それに比べて男の弱いこと、情けないこと。憧れの彼が言う「今カノのことは好きだけど、君も気になる存在だ」も本心には違いない。でも退路を断った心の叫びと、保身の言い訳とでは値打ちが違う。痛みと惨めさを潜り抜けた主人公と、それを拒否した彼とでは、もはやレベルが違う。主人公は、この彼に見切りをつける時が来るでしょう。最悪の出来事を笑い話に変えられる日もそう遠くないと思う。“振らないバットに球は当たらない”ということを知った主人公。バッテイングセンターのホームラン賞で貰ったタオルで涙を拭きながら、少女は大人になっていく。[DVD(邦画)] 9点(2008-02-04 19:59:06)(良:4票)

76.  鉄コン筋クリート 《ネタバレ》 子供の頃、宮崎駿の『未来少年コナン』や『カリオストロの城』が大好きでした。いや愛していました。今もそれは変わりません。ロマン溢れる物語もさることながら、あの“動き”に魅了されたのだと思います。「コナンの足の指掴み」とか、「ルパンの大ジャンプ」とか。思い出しただけでワクワクする。物語世界の中で自分も一緒に走り回って跳び跳ねました。その感覚に近いものを本作から感じ取りました。縦横無尽に街の中を疾走するシロとクロ。まさしくネコのよう。これがもう楽しくて楽しくて。常職の垣根を越えたアクションに脳が喜びました。それは終盤、クロの内面世界に突入しても継続します。今度はイメージの渦に飲み込まれる。ゆっくりと闇に心が奪われていく。絵に侵されていくような感覚。“アニメ”という手法が持つ武器を最大限に発揮していると感じます。これはもうホントに素晴らしい。かといって、派手な要素のみが優れている訳ではありません。ちゃんと人が演技をしている。ドラマがある。人間の役者顔負けです。あのアクの強いキャラクターに魂を宿すのだから大したもの。そう、声優も良かった。特に蒼井優。声質がたまらなく魅力的です。「こちら地球星シロ隊員。応答どーじょー」頭の中でリフレインしています。その他声優素人さんの淡白な声も世界にマッチしていました。メッセージもしっかり胸に届きましたよ。文句なし。これぞ魅せるアニメーションです。『マインドゲーム』に引き続き、またしてもスタジオ4℃にやられました。[DVD(邦画)] 9点(2007-12-18 18:18:04)

77.  ストロベリーショートケイクス 《ネタバレ》 詳細なキャラクター設定と的確な描写に唸りました。ここまできめ細かに人を描けている作品は、そうそう無いと思います。彼女たちの心の内、考え方がよく理解できました。リアリティを欠いていたら、こうは行かない。もっとも、リアルではあるけれどツマラナイ作品も多い。そんな中、魅せる要素を忘れていないのも素晴らしかった。棺桶ベッドなんかがその例。リアルでなくても彼女の人物像を伝えることに役立っています。とかく男性諸氏へのサービスになりがちなヌードやエロ。本作では盛りだくさんです。でも全て必要だと感じました。無駄な裸はひとつも無かった。こういう作品で脱ぐ女優さんは幸せだと思います。彼女ら4人は、みな心に隙間を抱えている。満たされる幸せを願っています。2組のペア。望むものを相手が持っているという図式です。池脇が願う恋にホテトル嬢は身を焦がし、遣り甲斐ある仕事に憧れる中越にとって、ルームメイトは羨む存在。でもホテトル嬢やイラストレーターが幸せかというと、そうではない。それぞれの神様が異なるように、幸せの捉え方は違う。同じなのは、みんな寂しいということ。エンディング、そんな4人がある浜辺に集います。波は荒く、空は淀んでいる。彼女らを取り巻く環境は相変わらず厳しい。でも彼女たちは諦めていない。人生を投げていません。泣いたり笑ったり落ち込んだり縋ったりセックスしたりショートケーキを頬張ったりしながら、強かに生きていく。神様を介して4人の人生が交差する刹那、池脇の「恋でもしたいっすねぇ」がラストカット。この切り方にやられました。想像が頭の中を駆け巡り、気持ちが昂りました。情感溢れる優しい余韻でした。何もかもが上手い。絶賛させてください。ただ、ご指摘の方も多いように、声が小さ過ぎるのが難点。劇場だと違うのかもしれませんが、自宅鑑賞ではストレスになりました。伝えるセンスに長けている監督なのに、観客へ声を届けることに無頓着なのは解せません。それでも賞賛したい気持ちが勝るのだから、自分と相性がいい作品なのでしょう。本作については、ぜひ女性レビュワー様の感想を聞かせて欲しいと思いました。[CS・衛星(邦画)] 9点(2007-11-15 18:15:28)(良:2票)

78.  アヒルと鴨のコインロッカー 《ネタバレ》 本サイトでの高評価を受けて鑑賞することに。ただ、レビュー内容には一切目を通していなかったため、ジャンルさえ知らずに映画に望みました。果たしてこれが大正解。先入観なく観られたことは、本当にラッキーでした。もしお住まいの地域で、まだ劇場公開されているようでしたら、予備知識を仕入れずに、速やかに劇場へ足をお運びすることをオススメします。   さあ、では沢山ホメていきましょう。まずキャスティングから。靴屋の倅は好感度抜群。関めぐみは芯の強い女性を好演していました。大塚寧々からも憂いが感じられて良かった。年歳が味になっています。そして瑛太。ルックスだけでなく、若手トップクラスの演技力。そして役者としての“雰囲気”がある。得難い武器だと思います。もちろん脚本も素晴らしいです。序盤は完全なコメディ。田舎モノの青年が騒動に巻き込まれていく。戸惑う様が微笑ましい。しかし、途中から劇的に物語は転換します。コメディからサスペンスへ。事象を一つの視点から追うのには限界があるとつくづく思う。もっとも表も裏も知ることなんて、普通は無理です。与えられた情報で判断するしかないのが現実。でもヒントは出ているのかもしれない。例えば「広辞苑」と「広辞林」を間違えた理由は?買ったばかりの教科書が消えているのは?正解を探すよりも、自分が納得できる結論を選んではいないか。でもそれは、可能性に蓋をしていることも忘れてはいけない。難点を挙げるなら、タネあかし部分。爽快感よりも悲壮感が勝るのがツライところ。詰まる想いがクドさに繋がってしまう。物語の性質上仕方ないとはいえ、編集には一考を要すると感じました。ラストの解釈。あのあと瑛太はどうなったのでしょう。靴屋の倅は?ロッカーの神は目隠し状態。ですからブータン人の論理「善行を行う人は死なない」は当てはまらない。神の目は行き届いていません。瑛太を待っているのは悲劇でしょう。世の中はウソで溢れている。でもウソではないウソもある。それを今回の件で知った靴屋の倅が、両親の言葉をどう聞いたのか。彼はもう戻って来ないと感じました。これが自分の解釈です。でも数多在る可能性の中の一つでしかありません。これまでの出来事、台詞のひとつひとつが、全て結末への伏線に思えます。どの伏線を活かすかは個人の判断に委ねられている。だからとても悲しい物語なのに、どこか優しいのだと思う。[映画館(邦画)] 9点(2007-10-01 18:51:34)(良:4票)

79.  タイヨウのうた 《ネタバレ》 ドラマの積み重ねが足りない。主人公の演技がまるで素人。不満が無い訳ではありません。でもそれ以上に胸を打つものがある。人は何故生きるのか。生きたいと願うのか。少女の姿に心が震えました。人は想う生き物。苦しみを、悲しみを、切なさを、怒りを、そして喜びを。その想いを表現したいと思う。誰かに伝えたいと願う。感じたことを胸の中に締まっておけばいいのに、そうすることが出来ない。それが人だと思います。何故なら、生きているから。想うことは、生きている証だからです。ある者は気持ちを、言葉に換える。ある者は文章に、ある者は書に、踊りに、絵に、彫刻に、料理に想いを乗せる。その方法は一様ではありません。人の数だけ手段がある。塚本の場合は、サーフィンかもしれない。主人公の場合は勿論、歌です。自分が感じていることを表現したい。それは、自分が今此処に存在していることの証明に他なりません。生きている。生きている。生きている!私は此処にいる!!そう強く叫びたい。人はそういう生き物だと思いました。本作はいわゆる難病もの。しかし難病だから泣けるのではありません。少女が死ぬから悲しいのでもありません。彼女の想いが心に届くから涙するのだと思います。主人公の死の悲しみよりも、生きていることの素晴らしさで胸がいっぱいになる。それは爽やかな余韻に繋がります。ラスト、笑顔で海へ駆けて行く塚本。いろんなことを感じ、想って、生きていきたい。自分は今、生きている。[DVD(邦画)] 9点(2007-09-09 17:14:25)

80.  ジョゼと虎と魚たち(2003) 《ネタバレ》 小洒落たタイトル、妻夫木くんが主演、池脇千鶴のヌードの話題先行など、個人的に食指が動かない作品でした。(すいません。嘘です。最後のセンテンスには興味津々です。)でも観てみるとコレが自分のツボ。もう大好き。ほんとに好き。妻夫木を初めて上手いと思いましたし、池脇も魅力的でした。ばあちゃん、板尾、「いてまうど」の兄ちゃん、荒川良々等の濃いキャラも旨味を発揮していました。重いテーマですが、物語と向き合わせる手法に長けていたと思います。死別や結婚という安易な結末に逃げなかったのも好印象。とくにジョゼの気持ちが心に沁みます。動物園で虎の見学。恐怖に対峙したときに、自分を守ってくれる人がいること。これほど心安らかなことはありません。でもこの幸せが長く続かないことも彼女は承知しています。いずれ彼は去っていく。だから車椅子を買おうとしなかった。少しでも長く彼の背中に触れていたいから。乳母車を新調しなかったのも、押してくれる人がいなくなるのを知っていたから。彼女が妻夫木に言う「私をおぶえ」という台詞。それは遠まわしなプロポーズでもあったと思います。頭では彼との別れを予期していたとしても、幸せな結婚生活を夢見ないはずがありません。しかし彼女の願いは叶わなかった。その直後のシーンもたまらない。トイレに入ったジョゼを覗く妻夫木。彼女は「あっち向いてて」と言います。「出て行って」ではなく。その想いに胸がつまります。水族館で見られなかったお魚たちをラブホテルの映写装置で見る彼女。自由に泳ぐ魚たちの中で、至福の時を過ごすジョゼ。貝殻ベットの中の彼女は、まるで人魚姫。幸せを知ってしまった彼女は、もう海の底へは戻れないと言います。彼と過ごした日々を受け止めようとする彼女。切ないほどに強い。いや、強くあろうとする姿に心打たれます。それに比べると男のほうは情けない。でも彼を責める気にはなれません。彼が怖気づいたのも分かる。彼は彼が思う幸せを求めて生きていくでしょう。でも心の傷はずっと残るはずです。それも仕方がない。悲しいこと、苦しいこと、切ないこと。人生には嫌なことの方が多いかもしれない。でもそれを知らずして、幸せを知ることもありません。ラストは料理をするジョゼの姿。食べることは生きること。海の底とは違う世界を、喜びも悲しみもある世界を、彼女はこれから生きていく。ジョゼは死を選ばなかった人魚姫です。[CS・衛星(邦画)] 9点(2007-06-18 18:02:04)(良:9票)

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