みんなのシネマレビュー |
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261. アウトロー(2012) トム・クルーズが主役ならばもうそれだけで映画なのだから見て損はないはず。実際見てみて満足したわけだが、どこか腑に落ちないというか手放しに絶賛できないモヤモヤ感が残ったのも事実。例えばカーアクションは楽しかったけど物語上ではいらんよなとか、女弁護士や老助っ人のささやかなユーモアはわりに気に入っているんだけど物語からは浮いてるよなとか、戦いの火蓋を切る合図の雨がベタすぎて笑っちゃったのだが、そのうえ最後は武器捨てて殴りあいとかお約束すぎて呆れたのだが、もちろん気に入っているんだけど、なんかやっぱり物語を被う雰囲気からするとちょっと違うよなとか。で、後になって気付いた。ハードボイルドと甘いマスクのトム・クルーズがそもそも合わないのだ。たぶん。合わせるために原作にはないカーアクションを入れたり女と助っ人がしっかりヒーローを際立たせる役を担ったりして、つまりトムに合わないだろうハードボイルドにヒーロー映画を加味することでトムが活きるようにしているのだ。たぶん。だからちょっと変なのだ。でもトムはしっかり活きている。そこが一番重要なのだ。[映画館(字幕)] 7点(2013-03-12 15:53:31)(良:2票) 262. アウトレイジ(2010) 実は傑作だと思う反面物足りなさも感じていた。このたび続編を見てその足りないものの正体がわかった気がする。お話はほぼ喜劇といっていい。オープニングシーンのかっこよさとは裏腹に。自分より弱いやつにはとことん威勢がよく、強い者の前では小さくなる。大袈裟なまでに。ヤクザ社会を喜劇に仕立てエンターテイメントとして見せる。さらにバカヤローコノヤローと怒涛の突っ込み漫才。セリフが途切れない暴力的なまでの編集が素晴らしい。そして要所要所でかつての北野武の映画のような無常感が襲い掛かろうとする。が、そこですかす。続編はそこがもっと顕著なのでわかったんだけど、要するに、なーんか面白いのに熱くなれない的なモヤモヤの正体はこのスカシにあったのだ。そこはもしかしたら評価するべきところなのかもしれない。お話ではなく演出の妙を見よってことなのかもしれない。単に恥ずかしがってすかしてるだけかもしれないけどそれにしたってお話に従属しないってことは私が映画に求めていたことでもあるわけで。にもかかわらず物足りなさを感じてしまった身勝手な私をお許しください。[映画館(邦画)] 7点(2012-10-30 14:26:25) 263. 戦火の馬 《ネタバレ》 冒頭、広大なアイルランドの風景が映し出される。この映画が「馬の映画」であることもふまえれば当然のようにジョン・フォードが頭によぎる。しかし一向に(あきらかな)フォードらしい画や(あきらかな)フォード的展開は見当たらない。と思っていたら高地の荒地を耕す様に、おぉ『ヨーク軍曹』(ハワード・ホークス)だ!と。その後のフランス戦線の風景までもがそっくりだ。馬(ロバ)を買い戻すなんて件もあったりと、えらく『ヨーク軍曹』との共通点が多いのはやはりオマージュと考えていいように思う。そう考えると動物をからめたコミカルなシーン(少女の馬調教シーンやアヒルの攻撃)も少女がじゃじゃ馬なのもいかにもホークスだ。と、書いておきながらこの映画で真っ先に想起したのはディズニーの実写動物映画『三匹荒野をゆく』だったりする。動物が人のように思考し行動する様は往年のディズニー映画そのものだ。波乱万丈な馬の生涯の中で出会う様々な人物たちがわかりやすく顔が大写しにされることからも子供にも受け入れられる大衆映画たらんとしていることが伺われる。大人にとってはやや感動の押し売りが気になるも、映画ってそもそもそういうもんじゃんって気がしないでもない。ラストシーンは人間を見つめる馬の顔。母馬から引き離された馬はオレンジの空をバックに人間たちが見せる家族の絆をどう思って見つめているのだろう。と、大人思考で感慨にふけってみる。[映画館(字幕)] 7点(2012-10-18 17:21:27)(良:1票) 264. クロエ(2009) 《ネタバレ》 アトム・エゴヤンは「愛する者の死」と向き合う人々を描き続けてきた作家である。この作品はそのテーマからやや遠のくものの感動的なラストカットはやはりそこに行き着いているようにも思えます。また、日本未公開作品については未見のため断言できませんが、アメリカ資本が入った『秘密のかけら』以降は「虚実」もまた重要なテーマとしているのかもしれません。相変わらずこの監督の物語構成に必要不可欠な回想シーンと必要以上に鏡を使った演出が物語をミステリアスにしてゆきます。女二人が密会するカフェやバーのシーンは本当に美しく、窓外の光、室内の照明、さらに画面手前の二人がいるところの照明とそれぞれ異なる光を一度に見せてしまう奥行きのある画づらにはやられました。窓の外に見える雪がその後の運命のずっこけを起こさせるという構成にも唸らされます。物語がどっちに転ぶの?そっちかよ!という展開にどうでもしてみたい監督の毎度のこだわり(?)が若干曲者ですが、今作は大筋が至ってシンプルなこともあってその展開自体も大いに楽しめました。[DVD(字幕)] 7点(2012-09-28 14:57:36)(良:3票) 265. 天然コケッコー 最近、夏帆の「あ、痛い、ちくちく」(シャンプーのCM)に萌え萌えです。ヨメが「なんぼでも言うたんでー、ちくちくー」って、全然萌えません。そんな夏帆の石見弁がまたかわいい。ヨメの母方の田舎がまさにこの辺りで、優しく親しみのこもった石見弁の心地良さが蘇ってきました。見せるべき画の奥のほうに人物を配してそこでもまた別のドラマがあることをうかがわせているシーンがいくつかあるのがいいです。何も起こらない物語を退屈にさせません。そしてかわいい夏帆の「顔」ではなく「足」で心情を見せる演出が印象に残りました。幽霊騒動にあわてる足たち。東京の人ごみに困惑する足のアップ。最も素晴らしかったのが学校の廊下の奥に寂しげに映る足。そういえば東京土産はルーズソックスだったけど偶然かな。[DVD(邦画)] 7点(2011-12-01 17:03:16)(良:1票) 266. 御法度 戦争という異常な環境の中で男色が描かれた『戦場のメリークリスマス』のように人殺しをするための集団という異常な環境の中で男色が描かれる。職業俳優を好まない大島渚はここで16歳のまっさらな、しかし松田優作の血をひく青年を主役に抜擢する。まわりを固めるのは二人の映画監督だ。演技をしない面々で作られた新撰組は妖しさを一層引き立てている。衣装も青に白のダンダラ模様といった見慣れたものではなく黒の着物。近藤でも土方でもなく沖田を中心に結束しているのもうまい改変だ。全てはこの集団に最初から潜む妖しさを表している。ロウソクの火のオレンジと月夜のブルーがやはり妖しく画面を覆う。オチだけコントみたいだった。[DVD(邦画)] 7点(2011-11-22 17:09:31) 267. 死んでもいい(1992) オープニングで雨が降り赤い傘が印象的に登場したとき、同じ名美の物語である池田敏春『天使のはらわた 赤い淫画』を想起した。そしてやはり名美の物語、相米慎二『ラブホテル』でかかったもんた&ブラザーズの「赤いアンブレラ」がよぎる。どこかモノクロに近いくすんだ色合いの画面に映える赤。傘を持つ女と男の間に「死んでもいい」と赤いタイトルが浮かぶ。この一瞬がものすごくかっこいい。完璧な構図と配色で見せるほとんど動かない(スローモーション)画はまるで石井隆の漫画のようだ。石井隆はこれまで名美の物語を他人に語らせていたがこの作品で初めて自ら語ることとなる。タイトルバックのセルフオマージュのごとき劇画調とそこにいくまでの鬱陶しいくらいの映画技法の嵐にその並々ならぬ意気込みを見る。しかしこの映画の名美は他の作品の名美とはどこか毛色が違う。なんたって陵辱されない。それでもラスト、名美が何も言わずに涙を流したとき、その顔は「堕ちた」ことを知り「堕ちた」ことを受け入れたように見えた。まさしく堕ちてゆく女・名美の物語であったのだ。しかもその瞬間を切り取り静止させて映画は終わるのだ。残酷な様を美しく切り取る。石井隆の真骨頂。[DVD(字幕)] 7点(2011-11-11 15:43:43) 268. 打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?(1993)<TVM> 三人の男の子たちが走って学校へ行く姿をカメラが追い、そのままバックに見える海を見下ろすという、そういうことができるロケーションを選んでいるところがまずいい。窓から入る光に照らされる机が並ぶ教室の描写が、かけがえのない一瞬を切り取ったかのようで美しかった。プールサイドに仰向けに寝ながら片足を水に浸けている奥菜恵の手前に揺らめく光のポジションが最適だ。消えたかと思った奥菜恵が突如何かから逃げるように走って戻ってくるシーンのスローモーションや細かなカット割りや揺れるカメラといった急激な技の応酬をここぞというところで出してくるのも巧い。ガキンチョの男たちと妖しさを秘めた女の子という設定に演者が見事に応えている。ガキンチョたちの無駄話の無駄話っぷりはいいのだが、その無駄話が長く感じた。ま、それでも45分の映画なんだけど。[DVD(邦画)] 7点(2011-11-01 16:40:22) 269. さらば愛しき大地 悲劇は突然訪れる。二人の子供の死。あまりにきついこの事故が一人の男の人生を狂わせてゆく。これさえなければ田畑で覆われた土地に工業地帯が生まれたことでできた時代の波の狭間に落ちてゆくこともなかったかもしれない。辛くならないように、生きられるように、その選択がことごとく奈落の底へと向かわせる。土地に居つく兄は居つくしかなかったから居ついたのか。これまでの全ての些細な不満や欺瞞、日常の怒りや悲しみが覚せい剤によって歪み、膨らんでゆく。兄弟の確執もまた実に丁寧に描かれるのだが、そのそこかしこに堕ちゆく人生の伏線が散りばめられる。「堕ちてゆく」ことの簡単さが生々しくて怖い映画。130分はちょっと長いようにも思うが、その一つ一つのシーンが「堕ちてゆく」ことに繋がっている。[DVD(邦画)] 7点(2011-10-26 15:15:24) 270. 馬 《ネタバレ》 このとき高峰秀子17歳。ずいぶん子供っぽい。昔の、しかも田舎だとこんなもんか。特集上映で『綴方教室』のすぐ後に見たので「子役」のイメージを引っぱってたってのもあるかもしれん。ところが、預かった馬が子馬を生んでその子馬が売られるまでだから物語の期間は2年くらいだろうか、その物語の終盤で女工を勤め上げた高峰が子馬と再会する場面ではどこか大人びたところをはっきりと見せる。なるほど序盤の子供っぽいのは役作りだったのかと合点がいった。若き黒澤明がこのとき高峰に惚れたのもついでに合点がいった。それにしても淡々と語るセリフまわしの変化の無さとは裏腹にその雰囲気の差異には驚いた。これが女優か。それとも演出の賜物なのか。馬を巡って家族がもめたり嘆いたり喜んだり悲しんだり。そこには物語以上に当時の厳しい生活が活写されている。その見事なまでのリアリズムは山本嘉次郎の色。合間に挟まれる弟くんのエピソードが微笑ましい。[映画館(邦画)] 7点(2011-10-19 14:02:43) 271. 必死の逃亡者 《ネタバレ》 ボギー久々の悪役はやっぱり様になる。この作品はどこにでもある一般的な中流家庭を襲うってところがミソ。だから当然主役のお父さんもまた一般的フツーのお父さん。映画を引っぱるだけの存在感なんてない。ここでハンフリー・ボガートの強烈な存在感が必要となる。抵抗することが強いのではなく家族を守ることが強いのだともってくる父と息子のアメリカ映画らしいドラマが退屈にならずに済むのも、父や娘が外出を許されるという緊迫感を阻害させるような展開でもそれをあまり感じさせないのもボギーから発せられる危険なオーラがあるからに他ならない。手下がゴミ収集車を追いかけに出たり娘と恋人のあれこれがあったりとドラマを盛り上げる各エピソードが多すぎるような気もするがそこから裾野を広げずにあくまで核は家族であり、よって舞台は家であるということを徹底しているところが好感が持てる。[CS・衛星(字幕)] 7点(2011-10-14 17:04:47) 272. 彼奴(きやつ)は顔役だ! 《ネタバレ》 ラオール・ウォルシュの映画には「裏切り」が描かれることが多い。そしてそれは西部劇よりも犯罪映画でこそ活きてくる。最たる作品が『白熱』でこれはもう傑作中の傑作です。この『彼奴(きやつ)は顔役だ!』でも「裏切り」がドラマを作ってゆく。二人の戦友のうちの一人に女を奪われ一人に権力を奪われる。前者が人間ドラマ、後者が犯罪ドラマを作ってゆく。前者よりも後者が面白いに決まっている。後者が生んだレストラン襲撃シーンは後に『ゴッドファーザー』に継承されることになる。そしてラストシーン。前言撤回。前者のドラマがここに名シーンを生むのだ。銃撃後、外に飛び出してからのキャグニーを捉えるカメラの横移動がもうそれだけで哀しさに包まれている。階段を斜めに駆け上がったかと思うとすぐに転げ落ちる。そのリアルな転げっぷりと雪の積もる背景が哀しみを倍増させている。[映画館(字幕)] 7点(2011-10-07 11:39:48)(良:1票) 273. 幕末残酷物語 新撰組をかっこよく描いた司馬遼太郎「燃えよ剣」にも初代局長、芹沢鴨と後の主要メンバーとなる試衛館出身者たち(近藤、土方、沖田、等々)の確執は描かれるが、この作品ではそういった局内の確執やそこから派生する粛清がメインに描かれる。所謂、新撰組の内ゲバもの。その非情さは知識として知ってはいても、粛清される側の視点であらためて描かれるとその非情さはさらに際立つなと。むしろ非道。架空の人物を主人公にフィクションを織り交ぜながらそのリアルな非道ぶりを炙り出してゆく。そんな中で純真無垢な存在の藤純子が光る。リアリズムに徹した暗く淡々としたドラマの中で映画の華が一服の清涼剤となる。そしてラストの大袈裟な悲劇の演出に映画の醍醐味を見る。[DVD(邦画)] 7点(2011-09-15 14:45:22) 274. 明治侠客伝 三代目襲名 表の稼業を二代目の実の息子に渡すと言った途端にその息子がころりと性根を入替えるところとか、クライマックスへの流れの早急さとか、もうちょっと時間かけてじっくりと見せて欲しいなとも思うんだけど、たった一つの美しい画でやられた。父親の死に目に会いに帰してもらった藤純子が桃を持って鶴田浩二に礼を言う川べりのシーン。オレンジの空と川沿いの松と遠くにくっきりと見える橋。セット独特の幻想的な美しさにやられた。美術、井川徳道の仕事が強烈に際立つ。19歳の藤純子がウブすぎて娼婦っぽくないところがまた歯がゆいというか、まあドラマチックなんだ。あと、鶴田浩二のセリフがいちいちかっこいい。[DVD(字幕)] 7点(2011-09-14 14:41:41) 275. 月世界の女 SFかと思ったら『スピオーネ』『ドクトル・マブゼ』のような天才的犯罪者による計画犯罪が描かれ、あいかわらずの冒険映画にドキドキさせられる。犯罪の一部始終を友人に語るシーンは字幕なしの過去シーンの短いカットを適格に見せることで手早く処理しているが、こういうことが難なく出来ちゃうところが素晴らしい。で、ここからSFへ。その伏線として序盤に貧乏生活のシーンがあるんだけど、ここがちとくどいかと。それにしても月に人類が立つ40年前の映画。そこに見てとれる当時の想像力につい頬が緩む。すごく楽しい。と同時にその創造性に驚かされる。まだ見ぬものは映せないという映画の限界を超えて、想像したものを創造することができる映画の可能性を存分に提示している。[CS・衛星(字幕)] 7点(2011-09-09 14:08:12) 276. 激怒(1936) 《ネタバレ》 様々な映画技法を駆使して群集心理の恐ろしさと憎憎しさが描かれる。恐怖し激怒する主人公はまさにラングその人なのかもしれない。ラストで主人公は「本意ではない」と前置きしたうえで出頭する。つまり本心は復讐を完遂することにある。それこそが人間の摂理なのかもしれない。ラングが描き続けた負の連鎖はこの人間の摂理に反抗することで初めて止められるのだ。そして自己犠牲の精神でもってそれを成した者にはちゃんと幸が訪れる。多少強引のような気もするこのラストの幸はラングのメッセージをより顕著にもしている。先に書いた群集心理、復讐の連鎖以外に、社会の冷遇、不完全な情報伝達、情報操作、法廷劇、等々とラングのアメリカ第一作はラング印満載であった。[CS・衛星(字幕)] 7点(2011-09-08 16:55:00) 277. 復讐は俺に任せろ 《ネタバレ》 ある男が拳銃自殺をする。その場所からある場所に電話する。そしてまたそこから次の所に電話する。重要な三つの舞台と主要人物があっという間に提示される。しかも三つ目の部屋の屋内構造をしっかりと見せることがクライマックスをスムーズに見せることになる。そして最初の自殺現場に戻りいよいよ主人公の登場。この完璧な流れに唸る。幸せを絵に描いたようなある意味型にはまった家族が強烈な一撃にて崩壊する様は衝撃的。リー・マーヴィンのサディスティックな一面を見せたエピソードがグロリア・グレアムへのコーヒーにつながり、欲望のままに生きる女でありながらどこか憎めないシンプルな思考の情婦グレアムが女ゆえの、またシンプルな思考ゆえの、目には目を、コーヒーにはコーヒーを!となる流れの説得力も素晴らしい。唐突に孤独のヒーローの元に集まった義兄とその友人たちがカードゲームをする様はジョン・フォードの西部劇のよう。その後に合流する同僚と上司。しかしフォードっぽいのはこの一瞬だけ。サービスみたいなもんか。とにかく西部劇ではなく犯罪映画なのだと言う様に仲間たちの存在は消え去る。そして犯罪映画に相応しい銃撃戦をクライマックスに。傑作です。[DVD(字幕)] 7点(2011-09-05 18:17:02) 278. 悪の華 《ネタバレ》 やはりこの作品もまた決定的な画を最初に見せて、そこに行き着くまでの経緯を本編とする。そしてその前もって知らされた決定的なシーンが最後にやってきたときはやっぱり驚かされるのだ。シャブロルの他の作品同様にその決定的なシーンとそれまでの物語は一見繋がらないように見えて実に巧妙に繋がってゆく。そして『沈黙の女 ロウフィールド館の惨劇』でも思ったがシャブロルはブルジョアの中に悪意の無い悪を描くのが実にうまい。ブルジョア階級のあっけらかんとした愛のカタチを嫌味なくさらりと見せる。そこには大袈裟な退廃の美なんてない。しかし隠された過去が明かされれば自ずと現代と過去の近親相姦はブルジョアの退廃つながりという構図を露呈させる。またその過去シーンだが、音声のみのフラッシュバックによって実に想像力を刺激されると同時に大いにサスペンスに寄与している。[映画館(字幕)] 7点(2011-09-02 14:22:42) 279. 引き裂かれた女 リュディヴィーヌ・サニエが好き。どの映画でもかわいい。そしてエロい。初老のオヤジがこの小悪魔ちゃんに翻弄されるのかと思ったら初老のオヤジの前で小娘と化すサニエ嬢。中年男の夢。なんて素晴らしい。といってもエロい画はスクリーンに映されない。私の脳が勝手に補完して私を悶絶させるのだ。なんていやらしい。シャブロルの映画であることも忘れ、夢の世界にどっぷりとはまる。でもこれもシャブロルの罠だった。いつものシャブロル映画のあっけない終幕が待ち構えているのだ。またしてもやられた。またやられたい。その後のエピローグにはそんじょそこらの監督には真似の出来ない軽やかさがある。常連ブノワ・マジメルがボンボンを好演。[映画館(字幕)] 7点(2011-09-01 15:43:09) 280. 石の微笑 またしてもやられた。最初に誘拐報道があるのにすっかりとそのことを忘れさせてしまうその手口に。わけのわからない不穏を纏いながら母子家庭ゆえの些細な諸問題が描かれる。そこにはファムファタルとしか言いようのない女を招いてしまうことになる男の性が描かれている。例えば冒頭、息子と母親の執拗なまでの切り返しで見せる会話よ!ただ親子の会話があるだけなのに、あきらかにその映し方は「異常」を演出している。映画はいずれ終幕へと向かう。物語全てがその終幕を演出している。いつものシャブロルの映画のように。[DVD(字幕)] 7点(2011-08-31 14:49:05)
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