2.ネタバレ 実話ベースということもあり、サスペンスに比重を置かれた作品ではなく、ヒューマンドラマに重きをおかれている作品だ。「アメリカを売った男」を“極悪人”というスタンスで一方的に切り付けるのではなく、珍しく犯人側の内面にスポットを当てているのが特徴だ。明確な動機などが語られないのも、逆に好印象となっている。人間の内面はそれほど単純なものではなく、簡単に割り切れるものではない。一方では金銭や恨みのため、他方では愛国心ゆえに“組織を試す”という目的や、彼自身が何事でも“試してみたい”という性格もあったのだろう。そういう人間の二面性について、本作ではきちんと描きこまれている。一方では家族や孫を愛し、宗教を崇拝する敬虔の念が深い人間として描かれており、他方では家族、国を裏切る人間として描かれている。また、一方ではパンツスーツの美しい女性に眼を奪われる同僚を諌めておきながら、他方ではジョーンズのDVDを愛好し、ストリップを好み、妻との関係もビデオに撮るような男だ。彼には、人間の“闇”のようなものが垣間見られる。若き捜査官もそういう人間の“闇”を覗き込むことで、“闇”に飲み込まれそうになったのではないか。妻を愛しておきながら、妻を裏切るような行為をせざるを得なくなる。様々な面で宗教や母を利用して、仲間であるはずの上司を監視せざるを得なくなる。そして、監視している自分までも含めて、裏で監視されていることを知る。FBIという職場にいる限りは、本当の自分ではなくて、偽りの自分を演じざるを得なくなると彼は気づいたように思われる。自分も“闇”に落ちて、クーパー演じる男のように二面性をもつ男になってしまうのではないかと気づいたのではないか。彼がFBIを退職するのも納得がいった。クーパー演じる男は最後に「Pray for me」と呟いたが、彼は自ら落ちていったのではなくて、落ちざるを得なかったのかもしれないというラストで締めくくっている。ある意味で、彼は真面目すぎたのかもしれない。描きたいものは描かれており、内容もしっかりしていると思うが、どこか中途半端な印象も受ける。面白い面にスポットを当てており、これが完璧に描かれていれば、最高の傑作となったのだが、深く掘り下げるわけではなく、残念ながら浅い部分を掘ったところで満足してしまったように思われる。