6.ネタバレ IMAXにて鑑賞。音響はド迫力でした。
本映画関連で大昔にNHKのドキュメントがあり(マンハッタン計画 オッペンハイマーの栄光と罪)、ニューメキシコのすさまじい実験の映像とか、赤狩りの対象になり地位から追われた話は何となく知ってました(最近再放送)。
本映画で個人的に一番興味があったのは
・オッペンハイマー氏が核兵器反対に転じたきっかけは何か?
でした。期待しつつ観たのですが、それっぽい要素は丁寧に漏らさず取り込まれてましたが、巧妙に恣意的に時系列を混乱させごまかされてるため、結局よくわかりませんでした。
たとえば、有力候補で「終戦から数カ月後、広島・長崎の状況視察者の報告会が開かれたそれを見て改心?」という説があり、その場面もあるのですが(直接映像は悲惨すぎるため映画中では見せられないのですが)、一方、氏の主観的場面で講演時にフラッシュバックで人が焼き尽くされる映像が出て衝撃を受けるんですけど、順序が入れ替わっており、
・論理的展開:報告映画を観る→それが印象に残って講演時にフラッシュバックをする ・映画の表現:講演時にフラッシュバックをする→報告映画を観る
て感じに、実に巧妙に順序を入れ替えた問題の焦点をごまかす印象操作がされてるので、なんだかなあと。
あるいはですね、核実験のすさまじい結果であの甚大な大量殺りく兵器に対する罪悪感を醸造したというごく人間的な説も考えられます。しかしオッペンハイマー氏の女性関係の節制のなさ罪悪感のなさ子供に対する無関心から、全然まったく氏に一般的な倫理観があるように見えずどうなんだろうっていう。まあ、(既婚ですが)以前付き合ってた女性の自殺への強い罪悪感の表現があるので「死」に対しては罪の意識があったのかもしれませんが。
で、実験結果で罪悪感を覚えたとすると、本映画では、爆発映像が大きな花火を打ち上げたかのような実に美しい絵柄で描かれ、時間差のすさまじい爆音と衝撃波でその恐ろしさが表明されるのですが(爆音・衝撃波のフラッシュバックは何度も出てくる)、これも恣意的に「被害」を隠ぺいした表現になっていて、もちろん実験は人を避難させてたと思うんですが、ドキュメントの映像などであるように、近隣の建築物がすさまじい爆風で吹き飛んでたわけですけれども、映画中ではそういう「被害」も一切見せないわけです。だから、人ではないけど、人の作った構築物への甚大な被害を見て、これは良くないと、見識を変えたのでは? と想像したくなるのですが、そのような映像も全て隠蔽される。
あと、世界初の核実験なので認識は甘く(実際、投下時の被害者数見積も大幅に少なく)、日焼け止めクリームにサングラスしただけでは到底足りず被爆してしまった人もいたと想像するんですが何も説明はなく(水爆実験の被爆者は大問題になりました)、本作で一番無神経な演出と思ったのは「実験が無事終わったらシーツを家に取り込んでくれ」てのがあって、映画では家が実験場からそれほど遠くない場所に見えたんですが(勘違い?)、そうすると外に干したシーツが被爆して大変なことになるのでは、ってのがすごい観ててヒヤヒヤした。爆発・炎・爆音・衝撃波等「目に見える」被害は認識するけれど、放射線被ばくなどの「目に見えない(聞こえない)」被害への認識がまったく甘く、無神経な演出をついついしてしまう、という昔ながらの悪癖は全然直ってないな、て感じでした。
あと話の終盤オッペンハイマーがアインシュタインと実はこんな会話をしてた、というネタ晴らしがされるのですが、個人的意見としては、
「アインシュタインはそんなこと言わないんじゃないかな」
と思ってしまった。実際どうなんでしょう。
そんな感じに、まとめると、前世紀最大の発明であると同時に最大最悪の大量殺りく兵器を作り出してしまった「罪」に真正面から対面しようとして、結局対面できずごまかした作品かなあと、私は認識した次第です。
で、今年のアカデミー賞は本作と、大量殺りく兵器に真正面から立ち向かう「ゴジラ-1.0」が同時に各賞を受賞するという、非常に面白い巡り合わせになっており、現実では各地で戦争が巻き起こり、禁止されてたはずの非人道的兵器もバリバリ投入され、最悪、核使用の危機すらあり得る状況で、このような映画が高評価になったのは、世間への問題提議としては良かったのかも、と思ったりなんかしました。
そんなところです。 【sim】さん [映画館(字幕)] 6点(2024-04-11 13:21:51) (良:4票) |
5.ネタバレ なんと豪華な俳優陣。 これだけの名優達が次々に画面に現れ、多彩な演技を披露してくれている訳だから、それを眺めてるだけでも楽しかったです。 主役が似合う存在のジョシュ・ハートネットに、マット・デイモンなんかが脇役として渋い魅力を放っているのも、こういったオールスター映画ならではの味わい深さですよね。 脇役陣に負けないだけの存在感と演技力を見せ付けたキリアン・マーフィーにも、大いに拍手を送りたいところ。
ただ、ストーリーに関しては…… 史実ネタのもどかしさとでも言うべきか、あちこちに「無理してる」感じが有ったりして、そこは残念。 女性問題や、原爆投下に賛成していた事など、主人公のオッペンハイマーを過度に美化していないのは好みのバランスなんだけど、それはそれで(こんな奴を悲劇の天才のように描かれても……)という困惑に繋がってしまうんですよね。 実験の成功や、原爆投下直後のオッペンハイマーの歓喜や煩悶は上手く描けていたと思うんだけど、その後に続く聴聞会は長過ぎて、バランスが悪いように感じられた辺りも残念。 ちょっと意地悪な言い方をしちゃうなら「原爆の開発や投下に比べたら、オッペンハイマー個人が共産主義者だとか反水爆主義だとか、問題のスケールが小さ過ぎない?」なんて、そんな風にも思えてしまいました。
後は、被爆描写に関しての問題が有り、これまた評価を難しくしているんですよね。 正直、鑑賞前の自分は「原爆に関する描写に、科学的、あるいは政治的な正しさを求めるべきではない」「映画は映画として楽しめば良い」くらいに思っていたんですが…… 鑑賞後には(あっ、これは流石に拙いな)と、掌返しをしちゃいました。 それは何も「やはり道義的に問題の有る映画だ」って結論に至った訳ではなく、単純に一つの作品として、被爆描写の弱さが完成度を落としてると思うんです。 だって本作ってば、オッペンハイマーが「原爆を投下した事を、大いに後悔する」って展開なのに、被爆描写が弱過ぎるだなんて、片手落ちも良いとこですからね。 中途半端に皮膚が剥がれる女性の姿などは「あくまでオッペンハイマーの妄想に過ぎず、現実の被爆者は更に悲惨である事を当時のオッペンハイマーは知らない」って事なんでしょうけど、それならそれで「後に現実は更に悲惨であった事を思い知り、苦悩するオッペンハイマー」っていう描写は必要だったはず。 悲劇を巻き起こした事に苦悩する主人公って映画なのに、その悲劇に関する描写が拙いっていうのは、流石に見逃せない欠点です。
大好きなクリストファー・ノーラン監督作ってだけでも贔屓目に見ちゃうし、主人公オッペンハイマーとグローヴスとの友情を示す場面なんかは流石と思わせる物が有ったのですが……絶賛するのは難しいですね。 映画という娯楽品、あるいは芸術品として優れた傑作という訳ではなく「米国映画にて、原爆の開発と使用を否定的に描き、表現の幅を広めたという点においては、意義の有る作品」「名匠と名優による豪華なオールスター映画」と、そんな評価に落ち着きそうです。 【ゆき】さん [インターネット(吹替)] 6点(2025-05-14 12:39:12) (良:1票) |
4.ネタバレ 原子力爆弾の発明というよりも、その後の苦悩に視点を置いているようです。後半の政治的な部分はそこまで見どころはなかったように思います。アインシュタインが出てきますが何というか少ししっくり来ていない感じでした。 【珈琲時間】さん [インターネット(字幕)] 6点(2025-03-26 14:02:32) (良:1票) |
3.個人的にアカデミー受賞作品はハズレという持論をもっていてなかなか気乗りせずアマプラ入りしてようやく鑑賞しましたが、やはり自分の勘は当てになるようです。ちなみに自宅アマプラではありましたが、100インチ2.1ch環境と十分大画面で鑑賞できたと思います。音楽がやたらと過剰でやかましく、できればもっと落ち着いて静かに鑑賞したかった印象です。 個人的には、、意欲的だったインセプションの成功に裏打ちされたインターステラーまでがノーランの最高傑作だったと思っています。まあ確かにインセプションの成功の陰にはメメントやバットマンシリーズがある訳ですが、思い起こせばメメントやバットマンシリーズもちょっと小難しくて見るのがしんどい映画でした。この”ややこしい”感覚が最近では益々行き過ぎてしまって、テネットではまさに観客を無視して独走状態といったところまで加熱してしまいました。
上記の通りダンケルク、テネットと益々判り辛くなっていたところでしたが、本作オッペンハイマーは割とシンプルな作品でした。ただしそもそも論として題材は極めて退屈なもので、、NHKで放送されるドキュメンタリー番組に原爆の悲劇的な写真が挟み込まれてようやく見る気になるような暗い題材であったのは事実です。これをエンターテイメントとして見せ切った勢いには感服しますが、日本人=原爆を投下された側の国民なので作品が意図していない方向に感情が動きそうになるのを抑えるのに必死になりがちです。ノーランお得意の時系列を細切れにした演出ですが、本作ではさほど複雑にはなっていません。むしろ別の意味で効果的に機能しており、悪意を持って鑑賞する一部の層や、日本人の感情を上手く退ける効果はあったと感じます。
(当時の政治的思想や物理学者などのことをある程度知っているという前提ですが、)本作はあくまでオッペンハイマーの心の内を表現した作品で、きちんとそういう見方が出来た人には評価は高いと思います。ノーランお得意の時系列バラバラ作戦をもって、なんとか原爆を投下された側の気持ちをうやむやにさせる仕組みは機能していたものの、実際問題「原爆を投下された側の人間が世の中には確実に存在している」以上、事実は事実としてきちんと言及していただきたかったような気もしました。 そういった意味では少々ずる賢さすら感じてしまいましたし、原爆を投下した側のアメリカが自国で主催するアカデミー賞を自国で受賞してしまうのは・・ 「やはりあの国ってそういう国なんだろうな」とも感じてしまいました。そもそも、冒頭にオッペンハイマーを「プロメテウス」として表現してしまったのは大きな間違い・奢りではないのか?色んな意味でちょっと難しい映画でした。 【アラジン2014】さん [インターネット(吹替)] 6点(2025-01-07 15:39:43) (良:1票) |
2.ネタバレ 約7か月ぶり2度目観賞。原爆を製造した男の生涯を、3時間かけて綴る伝記ドラマ大作。米アカデミー最優秀作品賞受賞作。世界を破滅させるブツを造っちまったオイラ。賞賛と自責の念の間で葛藤。キリアン・マーフィー、鬼気迫る名演で米アカデミー主演男優賞受賞。クリストファー・ノーラン監督、独特の世界観を表現して悲願の米アカデミー監督賞受賞。2024年を代表する作品。序盤に、愛人とのとっても濃厚なアリガタシーン振る舞い。 【獅子-平常心】さん [映画館(字幕)] 6点(2024-04-07 05:27:40) (良:1票) |
1.鑑賞して4時間近く経っているが、頭が重い。。。鑑賞した人にはそれがわかるはず。。 ・・・。
NHKのクローズアップ現代で、桑子キャスターと監督の対談を見て、この作品を知りました。 どんな難解な物語になるのか。。。きっとついていけないだろう(テネットの時のように)。。と思いながら、劇場へ。脳がまだ思考停止していない昼間に。
2024年3月31日。 日本公開後初の日曜日。劇場内は、ざっと40人といったところだろうか、、年齢層は高めに感じた。 3時間の大作。さらにノーラン監督の難解(だろう)物語。 ここにいる全員がエンドロールまで辿り着けるのか。何人が途中退場するか。。。それも楽しみの一つだった。私は3人は退場すると踏んだ。
結果 退場者は1人だった。トイレに行ったか、退場したか、、、微妙な時間だったが、戻ってこなかった。きっとついていけず退場したのだろう。 私もセリフと音と、映像で脳が爆発寸前のところまで来てたので、退場したかった。。
この中でついていけた人間は何人いたのだろうか。 ノーラン監督の作品。。。かなりの覚悟を持って挑んだたが、そのエネルギーを受け止める脳のスペースが全然足りなかった。
物語を語るには、一回見ただけでは不可能。 人物相関を自分で描いて、時間軸を整理して、2度、3度見る必要があるだろう。。
クローズアップ現代で監督は、「1つの作品を完成させた時、“問い“が必ず残る。次の作品はその“問い“を拾い上げるところから始まる」と語っていた。 この作品を見て、自分なりの“問い“を考えたいと思う。 【へまち】さん [映画館(字幕)] 6点(2024-03-31 19:43:46) (良:1票) |