1.ネタバレ 素晴らしいの一言ですね。卓越した映像の力で、古典的名作の現代化をモノの見事に成功させていますが、取りも直さずそれはある種、ヒトの持ちうる最も根源的なる恐怖の感情を(再度)掘り起こして具現化することに他ならなかったと思うのです。その意味で、実にホラーとしても本質的な作品であったとも思われますね。傑作。
タイトルどおり、およそ100年前のムルナウ版『ノスフェラトゥ』の直接的なリメイクとして製作された映画で、他の種々のブラム・ストーカーの『ドラキュラ』とは、筋書き的にはチョイチョイ異なる箇所が出てくるってのは(おせっかいかも知れませんが)鑑賞前に折り込んでおいた方が好いかも知れません(⇒私自身は「あれ?ジョナサン・ハーカーって生きて城から帰って来るんだっけ?」とか思っちゃったりしてましたが、これは1958年のハマーフィルム版におけるアレンジだったってコトっぽいっす。。)オーラスも、コレも私は記憶が定かではありませんでしたが、やはりムルナウ版にまんま準拠…ということみたいですね。とは言え、特にその辺における映像の迫力・悲哀・荘厳さなどは、流石にサイレント映画の比ではありませんでした。全体的にも、終始ごく暗い画づくり⇒でも、暗いケドもそれが恐怖映画としての画面の質にも&或いは作品の芸術性・美しさそのモノに関しても、非常に効果的に作用していたとも思われましたし、中でカメラワーク自体も、全編に渡って実に凝り抜いていたとゆーか(オスカーノミネートの名に恥じない)見事さだったとも思われました。演技も、総じてリキの入った素晴らしい出来だったとかと思われますね。
個人的にはもう一つ、それで居て=この上無いってレベルで重厚で、シンプルに「超・恐ろしい」ノスフェラトゥを描き出している一方で、今作は(ゴシック・ホラーではあれど)ダーク・ファンタジーには決して陥って居らず、あくまで(ヒトのヒトたる恐怖=恐怖の対象を描いているという意味での)ホラーの領域を極めていた…とゆーのが、最も素晴らしかったと思うのですよね。そして、それを可能にしていたのが、前述どおりのクライマックスを迎えてゆく…その部分にアジャストされたノスフェラトゥのキャラクター(の解釈)だったのではないかと思うのです。本作のラストにおいて、エレン他の人間のキャラクターが抱くのが世の不条理=ナニも侭ならない人間の世界そのものに対する恐れ、だとするなら、それでも同時に他方で、断末魔のノスフェラトゥが抱いてゆくべき感情とゆーのもまた、誰にも受け容れられず・誰をも幸福にすることもなく・唯その偽りの抱擁に縋って灰燼に帰してゆくしかないという、その事実に対する恐怖というモノもまた、実に人間的で=ヒトの世界に普く存在して(だからこそ)共感可能なモノだったのではなかろうか、と。私の解釈では、この点こそが「古典の力」であると、ただし映画・映像としては(古今の映画作品と比べても)今作はその具現化に大いに成功していたのではないかと思っているトコロなのです。是非映画館で観て頂きたい作品ですね。 【Yuki2Invy】さん [映画館(字幕)] 9点(2025-05-21 23:01:44)
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