121. トーマの心臓
正直、よくわからなかったんですよ……。だって普通に少年同士で恋愛しているところからして違和感ありまくりだし、最後に明かされる衝撃の真実も全然共感できないしで、ちょっとキャパシティを超えている部分が多過ぎた。 もっとも絵や台詞の精度の高さに驚いたのも事実で、非常に完成された作品であるのもわかるし、そんじょそこらの凡作に比べたら遥かに楽しめるのは確か。ただこの世界に没入するには、感性に隔たりがありすぎた。 7点(2007-10-28 02:06:17) |
122. 殺し屋1
《ネタバレ》 目を背けたくなるのと同じくらい、目を離せずにはいられなくなる――そんな苛烈な暴力描写が特徴的。作中の垣原の言葉を借りれば普通の人間は「S」と「M」の両方の要素を持っているわけで、自分のなかの両方の要素が反応しているからこんな矛盾した気持ちになるのかな? ただ、最後まで読んで不思議に思ったのは、結局作者がいちばんやりたかったのは何なのかという点。単なるバイオレンスアクションの割には途中妙に感動的な台詞があったり、ラストは蛇足としかいいようのないミステリー風味だったりと、やや歪な感じがする。九割方は単純な展開なんだから、最後までつっぱしればよかったんじゃないの? あるいは読んでいるだけで痛くなるほどの表現力があるんだから、暴力に関してもう少し突き詰めた考察を示してくれてもよかったとも思う。なんかどっちつかずな感じがするんだよなー。 7点(2007-10-28 01:38:42) |
123. 寄生獣
《ネタバレ》 視覚的なインパクトだけでも充分すごいのに、高い娯楽性もテーマの奥深さも持ち合わせている、という奇跡的な作品。 普通はアイディアからして単なるスプラッターホラーとなるわけで(それも悪くないけど)、ここまで普遍性のある物語を紡ぎだせるというのは驚くほかない。設定も構成も徹底的に考え抜かれた上で構築され、読み応えのある骨太の作品となっている。 個人的に印象深いのはクライマックス近くのパラサイト掃討作戦の、合理的かつ現実的な戦闘場面。クリーチャーを題材にした物語は数あれど、ここまで生々しく、リアリティを追求した例は珍しいと思う。 8点(2007-10-28 01:08:41)(良:2票) |
124. のだめカンタービレ
《ネタバレ》 コミックス途中まで集めてたんだけど、最近の展開は正直、どうでもいいかも……てっきりフランスへ留学が決まってフィナーレかと思ってた。個性的なキャラクターとギャグで味付けしつつも、主人公らの着実な成長を追うかなりの正統派ストーリー。それだけに、国内編終了で大きな山を越えたあとは、若干のマンネリ感が否めず……。いずれは盛り返すことを期待しつつ、立ち読みを続けています。ちなみにいちばん好きなキャラクターは千秋先輩。普通女性向けマンガでかっこよすぎる同性が登場すると鼻につくんだけど、超がつくほどの努力家という設定のためか不思議と嫌いになれません。少なからず欠点もある、というのが人間味があってまたよろしい。 8点(2007-10-27 03:00:17) |
125. うしおととら
《ネタバレ》 つい最近読み終えたのだけれど、少年時代に読まなかったのが本気で悔やまれる。 とにかく、熱い。うしおはいかにも少年マンガ的な主人公に輪をかけたような性格で、明るくてバカで乱暴で、真っ直ぐで正義感が強くて、絶対にあきらめない不屈の意志を持っている。しかし典型的なキャラクターであるようでいて、不思議と厚みがあり、ひとりの人間としての存在感がある。台詞もまたびっくりするほどきれいごとばっかりなのだが、なぜか鼻で笑ってすませることのできない説得力を持っている。 これはきっと作者が、ほんとうに胸の底から湧き出てきた自分の“声”を作品に乗せているからだと思う。エピソードのなかには明らかにご都合主義のものも散見されるんだけど、それを許せてしまうだけのほとばしるようなエネルギーがある。作者が心血を注いで描いたものだということがはっきりと感じ取れる。 そして何よりラストに向けて収束していく物語展開が素晴らしい。当時全盛だった少年ジャンプの連載が編集部の意向でだらだらと延ばされていったのに対して、本作はあらかじめ予定されていた大団円を迎える。この最終回、涙をこらえるのは難しい。しかも作者があとがきで「このあと登場人物たちはみんな幸せになりました」と断言。これは反則だっ(泣笑)。 明日を信じること、人を信じること、正義を追い求めること。少年マンガのもっとも素朴なテーマを嫌味なく、完璧に昇華させている。こんなに強くてあったかくて、気持ちのいいマンガはない。 10点(2007-10-26 00:37:12) |
126. 働きマン
「読むと働きたくなる!」ってどこかで宣伝していたけれどほんとうにその通りで、このマンガを読むと働くということがすごく楽しい行為であるかのように思えてくるから不思議だ。読んだだけで元気をもらえるのが安野モヨコ作品のもっとも素晴らしいところだと思う。 また回ごとに視点が切替るなど、入念な取材に基づいた説得力のある構成となっており、著者の語り手としての成長が感じられる。『ハッピーマニア』みたいな勢いでつっぱしる作品も面白かったし、過去にも『ラブマスターX』みたいな入り組んだ構成の作品はあったけれども、そうした素質がこういうリアルで、恋愛が主眼ではない作品に結実するとは思いもしなかった。 安野モヨコという天才に脂が載り切った今、もっとも楽しみな連載のひとつです。 8点(2007-10-25 23:54:04) |
127. リバーズ・エッジ
たぶん人生でいちばん好きなコミック。描かれたのは十年以上前だけれど、これほど現代に特有の空虚さ、乾いた絶望感を的確に捉えた作品は他にないんじゃないだろうか。生きているということにリアリティがない感じというか、日常におけるあっけらかんとした絶望を巧みに描き出している。登場する少女、少年達には拠り所にできるようなものがまったくなくて、ただ痛みだけが確かなものであるかのようにすら見える。唐突に引用される詩の効果も抜群で、一度読むと忘れがたい。「平坦な戦場で生き延びること」、その難しさ。きれいごとを一切抜きにして、日々を生きていくことの意味を問う。ポジティヴなメッセージはほとんどないけれども、この切実さが、不思議と読む者に力を与えてくれる気がする。 好き過ぎてあまり語るとわけわかんなくなりそうだからここらへんでやめとくけど、間違いなく、大傑作です。 10点(2007-10-25 00:40:34)(良:1票) |