2.《ネタバレ》 任侠映画への「哀歌」。
監督山下耕作+脚本笠原和夫+主演鶴田浩二で制作された「博奕打ち」シリーズの9作目。
大傑作「博奕打ち・総長賭博('68)」から3年経った後の制作に当る。
旅先で出会った男女が1年後の再会を期して別れたものの、逮捕・投獄の為
かなわかった男が5年の刑期を終えて知った事実、それは女が自分の居る組の
組長の後妻となっていた事、そして組が敵対組織の襲撃を受け組長は殺され、
彼女は未亡人(姐さん)となってしまっていた事であった。
任侠映画というのは苦悩する主人公が堪忍(任侠道やら因習やら理不尽な敵のやり方とか)
を重ねた上での爆発が主題と思うが、この作品は主人公の苦悩のメインが「結ばれなかった恋」
なのが珍しい。近年出版された笠原和夫の脚本集にも記載されてるのだから、代表作の一本だろう。
ただこの作品が受け入れられない点がまさにそこで「組長の奥さん、実は私の元カノです」という
んな馬鹿な、というストーリー展開に観客が耐えられるかどうかにかかってると思う。
鶴田浩二の「いつものやせ我慢」+「叶わない慕情」時の切なさ儚さ、これを堪能してもらいたい。
今回廉価版のDVDが出たのと合わせて笠原和夫の脚本集を読了したが、実はラストの
殴り込みシーン、「血の海での殴り込み」と記載されてなかったのは意外だった。
て事はこれ、監督山下の演出オリジナルだった事になる。
「こんな世界から、この渡世から出てゆくんだ」と呟き、女を抱きかかえながら
血の海の中を切り結んだ挙句、盃杯を叩き壊す主人公。
邦画界の経営没落と合わせて、実録・エログロ路線に走りつつあった
ヤクザ映画に対しての監督なりの意思表示であったんだろうな。
(この後役者・脚本家みな時世に上手くシフト出来たのに、山下監督だけは
あくまでも任侠映画にこだわって生涯を閉じた事を踏まえて哀しくなってくる)
あとは黒づくめの天本英世と時代を感じる若い衆、渡瀬恒彦に注目。