121. 憧れのウェディング・ベル
《ネタバレ》 「そうそう、こういうのが観たかったんだよなぁ……」と、ニンマリさせられる一品。 期待通りのラブコメといった感じで、安心して楽しむ事が出来ましたね。 音楽の使い方も良いし、出てくる料理も美味しそうだし、観ていて気持ち良い。 指を斬る、膝を射られるなどの「痛い場面」もありましたが、それも残酷になり過ぎない程度の撮り方をしている為、気にならない範疇。 「大丈夫。死にやしない」「誰か死んだ訳じゃあるまいし」という台詞の後に、葬式のシーンに移るというネタを天丼でやっちゃうのも、不謹慎ながら笑っちゃいました。 ラブコメお約束の「互いに浮気してしまう」というネタにしたって、女性側は酔ってキスした程度、それを知って自暴自棄になった男性側も本番直前までしか行ってないという形にしており、非常に配慮して作られているんですよね。 観客目線での「何も考えずに楽しめる映画」って、作り手側からすると、凄く気を使わなきゃいけないから大変だなって、改めて感じました。 「ドーナツ実験」の件も中々興味深く、面白い。 目先の利益に飛びつくタイプは、駄目人間が多いという実験結果に対し、それなりの説得力を感じていただけに、主人公がそれを否定し「出来たてのドーナツが貰えるという保証が無い」と指摘してみせる流れには、ハッとさせられるものがありました。 恋の当て馬となる男女についても、教授は最低男だったけど、オードリーの方は「口が悪いだけで、根は良い子」ってバランスだったのも好みですね。 両方とも「嫌な男」と「嫌な女」として描かれていたら、流石にゲンナリさせられたでしょうし、上手い着地だなと思います。 終盤にて、プロポーズのプランを再び台無しにするという、冒頭に繋がる脚本も鮮やかだったし、その後のスピーディーな結婚式も最高。 物凄い傑作という訳じゃないし、映画史に残る一品でもないでしょうけど…… こういうタイプの、観賞後に幸せな気持ちに浸れる映画って、好きです。 [DVD(吹替)] 7点(2017-04-26 23:46:27)(良:1票) |
122. ガバリン
《ネタバレ》 この映画、妙に好きです。 もう三十年以上も前の作品だからか、ちょっとテンポが悪いし、終わり方も唐突で余韻もへったくれも無くて、洗練されていない印象も受けるけど、何処か憎めない愛嬌がある。 胸を張って「面白い! 好きだ!」と言えるタイプの品ではなく「そこまで面白いって訳でもないんだけど、何となく好き」って感じの品ですね。 「基本的にはホラー」「でも、全編に亘ってユーモアが溢れており、全く怖がらずに観賞出来る」「それでいて、怪物のデザインは結構不気味……」なんて具合に掴み所が無い内容であり、その魅力を語るのは難しいのだけど、特に「ユーモア」の部分が自分好みであった気がします。 怪物の手を踏みつけながら「いまは手がはなせない」と言ってみせたり、緊迫した場面で「絶対放さないぞ」と言った途端に掴んだ手を放しちゃうとか、そういう会話の妙があるんですよね。 主題歌もホラー映画らしからぬ惚けたテンポで「お前、怖がらせる気無いだろ」と、楽しくツッコませてくれます。 妻と離婚したばかりの主人公が、インスタント食品だらけの冷蔵庫を覗き込み、憂鬱そうにしながら電子レンジで調理する場面なんかも良かったですね。 こういう何気ない演出で感情移入させてもらえると、その後の面白さも倍増するように思えます。 その他、鏡の中に入り込むシーンはドキドキさせられるし、怪物と間違って元妻を射殺してしまったかと取り乱すシーンではハラハラさせられるしで、本当に色んな魅力が詰まっているんですよね。 親切な隣人、近所の少年、行方不明となっていた幼い息子など、怪物に殺されてしまうかと思われたキャラクター達が、全員無事に生き残る脚本なのも、後味が良くて嬉しい限り。 悪役である怪物達を除けば、誰も死なないし、不幸にもならない。 主人公一家にとっては文句無しのハッピーエンドという、非常に希少価値の高いホラー映画でありました。 [DVD(字幕)] 7点(2017-03-01 12:00:58) |
123. ドライヴ(2011)
《ネタバレ》 「男が抱いているヒーロー願望を、そのまま映画にしましたよ」という感じですね。 理由なんて全く語られないけど、とにかく主人公は強い。 幼い少年には無邪気に懐かれて、人妻と許されぬ恋に落ちたりする。 観ていて恥ずかしさも覚えるのだけど、それでも作り手のセンスの良さや、主演俳優の恰好良さに痺れる思いの方が強かったです。 派手なカーチェイスを繰り広げる訳ではなく、警察の目から巧みに車体を隠しながら逃げおおせるという冒頭のシーンが、特に素晴らしい。 「追いかけっこ」の興奮とは違う「かくれんぼ」の緊張感を味わえたように思えます。 それだけに、中盤にて車同士で火花を散らすような「普通のカーチェイス」の場面もあった事は(あっ、結局そっちもやっちゃうの?)という落胆もあったりしたのですが……まぁ、そちらはそちらで、やはり魅力的だったし「タイプの異なるカーチェイスを両方味わえる、お得な映画」と考えたいところ。 ちょっと気になるのは「恰好良い主人公」を意識し過ぎたあまりか、敵側の恐ろしさが欠けているように思えた事ですね。 丁寧に敵側の目線での物語も描いている為「底知れない不気味さ」なんてものとは無縁だし、単純に人数も少ないものだから、作中で「強敵と立ち向かう主人公の悲壮感」を醸し出す演出がなされていても、今一つ説得力が感じられなかったのです。 ここの部分は、少々バランスの取り方を間違えたのではないかな、と。 逆に「上手いなぁ」と感じたのは、エロティックな要素の挟み方。 バイオレンスな内容である以上、性的な場面が全く存在しないというのは不自然になってしまいそうだし、ある程度は必要になってくると思うのですが、この映画では、それを「敵地に乗り込んだ際に、そこに裸の女が沢山いる」って形でクリアしているのです。 こういった場合、ついつい安易に「人妻であるヒロインと許されぬ関係を結んでしまうベッドシーン」なんて形で性的な要素を満たそうとするものですが、そこを踏み止まって、あくまでもプラトニックな恋愛描写に留めてくれた事が、本当に嬉しかったですね。 夜の車内で二人きりになって、そっと手を握るだけでも充分に「背徳感」「許されぬ逢瀬」という雰囲気が伝わってきたのだから、これはもう大成功だったかと。 ヒロインの息子との交流シーンにて、普段は滅多に笑顔を見せぬ主人公が笑ってみせる描写を挟む辺りも、ベタだけど効果的で良かったと思います。 ベタといえば、そもそも「裏稼業のプロフェッショナルな主人公が、美女や子供と交流する事によって癒され、彼らを守ろうと戦う」というストーリーライン自体、ベタで陳腐で王道な代物なんですよね。 である以上「何度も使われてきた魅力的な骨組みである」という長所と「もう観客は見飽きているマンネリな内容」という短所が混在している訳ですが、この映画に関しては、前者の方を色濃く感じる事が出来ました。 ラストシーンも、これまたお約束の「主人公の生死は曖昧にしておきます」「お好みの後日談を想像して下さい」という、観客に委ねる形の結末だったのですが、音楽の使い方やカメラワークが上手いせいか、あんまり「ズルい」って感じはしませんでした。 自分としては「お腹を刺されたけど、病院に行けば治るんじゃない?」「とりあえず一番の脅威は排除したし、残党が襲ってきても主人公なら大丈夫でしょう」「あの奥さんと子供とも、きっと再会して三人で幸せになれるよ」なんていう、楽天的な未来を想像する訳だけど、それも有り得そうな気がするんです。 バッドエンドとは程遠い、不思議な爽やかさと明るさが感じられる終わり方だったからこそ、そう思う事が出来た訳で、非常に後味が良い。 ダメ男の現実逃避用とも言われてしまいそうな、そんな感じの代物なのですが…… やっぱり好きですね、こういう映画。 [DVD(字幕)] 7点(2017-02-20 21:44:39)(良:4票) |
124. ソルト
《ネタバレ》 「主人公の身辺に、もう一人ロシア側のスパイがいる」という事は、途中で察しが付くように作られていますね。 自分は彼女の夫を疑っていた為、あっさりと死亡したのに驚き「何かと主人公を庇ってくれていた同僚がスパイ」というオチには、素直に騙される事が出来ました。 予想が外れて悔しい思いもありますが、映画を楽しめたという意味では、こちらの方が正解だったと自分を慰めたいところです。 それと、この手の「続編を意識したような終わり」って、どうも印象は良くないのですが、本作は何となく毛色が違うようにも思えました。 続編を作るつもりなら「主人公の夫」「スパイとして育てた師」「同僚」と、続編に活かせそうな重要人物を三人も殺しているのが不自然というか、如何にも勿体無いのですよね。 インタビュー動画などによると、どうやら監督さんも続編には気が乗らないみたいで、これはあくまでも「主人公にとっての始まりの物語」として完結させたようです。 自分としては、上記の「重要人物でも必要なら殺す」という思い切りの良さが、続編の可能性を薄めた代わりに、本作の完成度を高めていると感じられましたね。 しかしまぁ、アンジェリーナ・ジョリーという女優さんは本当に身体を張る人なんだなぁ……と、今更ながらに驚嘆です。 映画本編を観た限りでも「これってスタントマンじゃないよね?」と思えるアクションでしたが、特典映像をチェックしたら、やっぱり本人だったみたいで、大いに納得。 高層マンションの窓を伝い歩くシーンの迫力も凄かったですが「手錠をはめられたままで相手を絞殺してみせる姿」が、アクロバティックで恰好良くて、特にお気に入り。 どちらかといえば、男性がアクションをこなす映画の方が好みだったりもするのですが、彼女くらいの根性を見せられると、もう「参りました」と脱帽する他ありませんね。 脚本の細部が気になったりもしたけれど、素直に面白いと思えた映画でした。 [DVD(吹替)] 7点(2017-02-08 04:01:06)(良:1票) |
125. ショコラ(2000)
《ネタバレ》 こういった内容の映画である以上、観賞後に「チョコレートを食べてみたい」と観客に思わせる事が出来れば成功なのだと思います。 自分はといえば、事前に買い込んでおいたチョコレート菓子の包装を解いて、美味しく頂かせてもらったので、まず満足。 基本的に優しい映画であり、作中の人物殆どが幸せな結末を迎えてくれるので、後味も良かったですね。 特に感心させられたのが主人公の扱いで、こういった御話では 『主人公は癒しを与える天使のような存在なので、心の弱さを見せて取り乱したりしない』 『村の人々が幸せになるのを見届けた後、主人公は次の村に幸せを運ぶ為に風のように去っていく』 という不文律が存在しているにも関わらず、本作は意図的にそれを覆しているのです。 終盤に北風が誘い掛けるシーンでは(あぁ、やはり立ち去ってしまうのか……)と寂しく思っていただけに、それを否定して窓を閉め、街に留まる事を選択する姿に驚き、安堵もさせられましたね。 遺灰を撒いて、それが北風に運ばれる描写もあったとなると、次の「幸せを運ぶ旅人」の役目は、あのお婆ちゃんにバトンタッチされたのかな? とも推理出来て楽しかったです。 ちょっと気になったのは、作中で唯一「救われない」人物として、セルジュが存在している事。 彼の扱いが完全なハッピーエンドとなる事を妨げているので、そこをもう少し上手くやってくれていたら、より満足出来たんじゃないかと思えましたね。 女性目線の映画なのだから「家庭内暴力」を振るった以上は許されるべきではないという判断なのかも知れませんが、一応彼なりに妻を愛していて、反省し、許しを乞うていたのだから、復縁するのは無理としても、もうちょっと救いを感じさせる顛末にしても良かったんじゃないかなぁ、と。 火事の件など、物語の進行上に必要な悪事は全て彼に押し付けて、村から追放したという形だったのが、どうにも居心地が悪かったです。 意地悪な見方かも知れませんが、村長の妻だって浮気という罪を犯しているのに、そちらは全く罰せられる描写が無しというのも、何だか女性に都合の良い世界観に思えてしまいました。 いっそ次の「幸せを運ぶ旅人」の役目を、セルジュに担わせても良かったんじゃないかと思えるのですが、どうなんでしょう。 そんな本作の中で自分の一番のお気に入りは、倦怠期に陥っていた夫婦が「情熱を呼び戻すカカオ豆」を通じて、仲睦まじい夫婦に変わっていくシークエンス。 ちょっと下世話な描写でしたが、お風呂掃除中の妻のお尻に欲情してしまう件なんかが、非常に共感を持てたのですよね。 その後に、妻の荷物を「持つよ」と優しく提案する姿など、些細な描写の中にも「不器用ながらも、妻想いな旦那様」に変わった事が窺えて、微笑ましかったです。 断食の果てにチョコレートに貪り付く村長の姿からは、一種のカタルシスが感じられたし 「人間の価値は何を禁じるか、何を否定するか、誰を排除するかではなく、何を受け入れ、何を創造し、誰を歓迎するかで決まる」 というアンリ神父のお説教も、心に沁みるものがあって良かったですね。 娘の友達であるカンガルーの存在も、物語の寓話性を高める程好いアクセントになっていたと思います。 ゆったりと身を委ねたくなるような甘みと、微かな苦み、両方を味わえた映画でありました。 [DVD(吹替)] 7点(2017-02-03 05:58:00)(良:3票) |
126. 恋とニュースのつくり方
《ネタバレ》 冒頭のシーンにて(シニアプロデューサーには昇格出来ず、当てが外れて落ち込むんだろうな)と思っていたら、まさかのクビ宣告。 失意のスタートとなった主人公なのですが、とにかく明るさと元気に満ちており、観ている側としても「彼女なら、きっとハッピーエンドを迎えてくれるはず」と、安心して見守る事が出来ましたね。 今は亡き父は彼女の夢を応援してくれており、それとは対照的に、存命の母は現実主義者という家族構成も良かったと思います。 「八つの時なら可愛い夢。十八の時には胸も躍った夢。でも二十八の今は、正直言って困った夢よ」 と諭す母の言葉には説得力がありましたし、いつもの出社時刻に目覚まし時計が鳴るも、それを止めてから何もする事が無く途方に暮れる主人公の描写なんかも、味わい深くて良い。 そういった「ドン底」をキチンと描いてくれたからこそ、その後のサクセスストーリーにも共感し、応援出来た気がします。 新しい職場に採用された後、早回しで引っ越しをするシーンや、初めての会議で矢継ぎ早に質問を浴びるも、ちゃんと一つずつ回答するシーンなんかも、スタイリッシュな魅力がありましたね。 こういった具合に、働く楽しさが感じられる映画って好きです。 陳腐な表現となってしまいますが、明日への活力を貰える気がします。 この辺りは監督が同じである「ノッティングヒルの恋人」よりも、脚本が同じである「プラダを着た悪魔」に近い魅力かも。 今や大統領となっているドナルド・トランプの名前が飛び出すのもニヤリとさせられたし、男性キャスターと女性キャスターの子供っぽい対立、そしてラストにて二人が和解し、恋仲となった事を匂わせる演出なんかも、オシャレな感じ。 唯一の難点はクライマックスに関してで、事前に料理の伏線を張っておいたのは分かるのですが、オチに使うには弱いネタだな……と思えましたね。 演出に関しても、あんな大袈裟に感動的な場面に仕上げる必要があったのか疑問。 「主人公を引き止める為に、傲慢なキャスターがささやかな、彼にとっては精一杯の誠意を見せてくれた」というストーリーな訳だから、もっとさりげなく、小さな感動を与えるような形にした方が良かったんじゃないかな、と。 一応ラブコメ要素もあるのですが「別に無くても良かったなぁ……」と思えるくらいに、彼氏役の存在が希薄な辺りも、不満と言えば不満。 あくまでも「仕事に生きる女」に特化させた方が、主人公のキャラクターも際立ったんじゃないかと思えるのですが、どうなんでしょう。 そんなのは男性的な価値観であり、やはり女性からすると恋と仕事を両立させてもらわないと、観ていて嬉しくないのかも……とも考えられるし、難しいところですね。 とはいえ、その後の「これでもか!」とばかりに、次々と笑顔が咲き乱れるハッピーエンドっぷりは、本当に好きです。 母親が新聞記事を切り抜いたりして、実は娘の活躍をずっと見守っていた事を示す描写にもグッと来ましたし、冒頭の職場にて仲良しだった女性と再会し、また一緒に働ける事を喜んで、ハグしてみせる姿なんかも良い。 主人公達が頑張って幸せになる姿を見届けられる、気持ちの良い映画でありました。 [DVD(吹替)] 7点(2017-02-01 11:59:10)(良:1票) |
127. ロボコップ(2014)
《ネタバレ》 黒いロボコップが恰好良いという、それだけで満足してしまいそうになる一品。 フェイスオープンの状態から、バイザーが下りると同時に赤い目が光り、戦闘開始となるシーンなんてもう、痺れちゃいましたね。 正面玄関からバイクでビルの中に突っ込み、着地するより先に飛び降りて、その勢いのまま膝蹴りを敵のED209に見舞うアクションなんかも、これまた最高! その後、左腕がED209の亡骸に挟まって身動き取れなくなったら、自ら左腕を切断して窮地を脱する展開なんかも、実に良かったです。 ここは、痛みを感じない「ロボコップ」だからこそ成立するシーンであり、キャラクター性を活かしたアクション演出として、大いに評価したいところ。 黒人の相棒警官が、黒いスーツを纏った主人公に対し「これで色も相棒だ」と笑顔で軽口を叩いてみせるも、別れた後に、その「黒い背中」を悲しげに見つめる表情なんかも、味わい深いものがありました。 「最高のヒーローは?」「死んだヒーロー」という会話も、独特の皮肉が利いていましたし、ゲイリー・オールドマン演じる博士が、一旦は敵に買収された振りをして、その後にロボコップを助けようと奔走する姿も良かったですね。 特に後者に関しては、中盤にて「命令には逆らえない小心者」だと示すシークエンスがあっただけに、越えてはならぬ一線だけは越えずに踏み止まってくれた事が、本当に嬉しい。 主人公がロボコップとなった後、機械ではない「生身」の部分が、どれだけ残っているのかを見せ付けられるシーンも、非常に衝撃的。 もう決して元の「人間」には戻れない。 「ロボコップ」として生きるしかない……と思い知らせる効果があり、そういった布石があるからこそ、ラストの「機械ではなく人間である事を証明する」シーンの感動が、一際大きくなっているのだと思います。 勿論、過去作における銀色のボディもレトロで、メカメカしくて味があったのですが、自分としては如何にも「戦闘用」という趣きがある今作の黒ボディの方が好み。 それだけに、黒ボディが破損した後のエンディングでは、銀色のボディに変わってしまっているのが、実に残念。 「人間としての感情を取り戻した明るい笑顔」には銀色の方が相応しいし、元々「没デザインとなった銀色ボディも存在する」という伏線が張られていた以上、壊れたボディの代理として使われるのは自然な事なのでしょうが、出来るなら最後まで黒で通して欲しかったところです。 また、ニュース番組にて激昂するサミュエル・L・ジャクソンを映し出し、ブラックユーモアを叩き付けるように終わる手法も、決して嫌いではなかったのですが……どちらかといえば、家族の再会で綺麗に終わらせてくれた方が、より好みだったかも知れません。 いずれにせよ、旧三部作においても2の妻との対面シーンが一番好きだったりした自分としては、家族愛を中心に据えて作られている事が、非常に嬉しかったですね。 結局は命令に逆らえず機械のまま生き続ける1987年版とは全く違った、人間としての自分を取り戻し、家族とも再び一緒になるという、掛け値なしのハッピーエンド。 こういう「ロボコップ」が観たかったんだと、胸を張って言える作品でありました。 [DVD(字幕)] 7点(2016-10-08 11:26:21) |
128. 3人のエンジェル
《ネタバレ》 「男が遊びで女装するのは女装趣味」 「女性への変身願望が高じてチン切り手術をするのが性転換者」 「ファッションにこだわってハデに着飾るゲイがドラッグ・クイーン」 「人生を楽しめない女装坊やは、ドレスを着ただけのガキよ」 という作中の台詞が、とても興味深い。 第三者からすると、ついつい「ゲイ」と一括りにしてしまいそうな中にも、様々なタイプがいて、それぞれ拘りを持って生きている事が窺えましたね。 本作はキャスティングだけでも「この人達が女装するなんて、それだけで面白いに決まってるじゃん!」と予見させるものがあり、この辺りは元ネタであろう「プリシラ」よりも上手かったように思えます。 作中にて、ウェズリー・スナイプス演じるノグジーマを、か弱い女性と思って絡んでくる男共には(なんて命知らずなんだ……)と逆に心配になってしまうし、案の定あっさり撃退されちゃう姿には(当たり前だろ!)とツッコミつつも、笑いを抑え切れなかったです。 パトリック・スウェイジ演じるヴィーダが勢い良くドアを蹴り開けて、夫婦喧嘩に乱入し、妻を殴る暴力夫を殴り飛ばして家から追い出す展開なんかも、実に痛快。 この辺りは、彼らがアクション映画で活躍する姿を知っているからこその面白さなのでしょうけど、初見の人でも「えっ、こんなに強かったんだ!」という衝撃を味わえて、楽しめるのではないかなと思えます。 ちょっと気になったのが「メル・ギブソンのお尻はキュートだわ」という台詞。 「ハート・オブ・ウーマン」(2000年)でも彼は「可愛いお尻ちゃん」と評されていたのですが、あれはこの作品を踏まえてのネタだったのか、それとも米国ではメル・ギブソンのお尻がキュートというのは共通認識なのか? と、そんな疑問が浮かんできて、若干集中が乱れてしまいましたね。 また、作中のドラッグ・クィーンが三人とも「喉ボトケ」が無ければ女性と見紛うような美貌という扱いなのも、戸惑うものがありました。 女装コンテストで地区優勝しているのだから、作中世界の認識では美女と分かっていても(どう見ても男じゃん……)とノリ切れない感じ。 今となっては(それも一種のギャグなんだ)と納得出来ますが、初見では違和感の方が大きかったです。 キャットウーマンやワンダーウーマンといった、有名なアメコミヒロインの名前が出てくるのはテンションが上がりましたし、終盤にて描かれるボビー・レイとボビー・リーの恋模様なんかも、実に微笑ましくて良かったですね。 心を通わせ合った女性と別れる事になったヴィーダが「愛してるわ」と言われて「私もよ」と返すのではなく「あなたに愛されて、本当に幸せだわ」と応えるのも、何だか凄く切ない。 もしも、ヴィーダが同性愛者ではなく異性愛者に生まれていたら、二人は「親友」ではなく「恋人」という関係になれたのではないかなと、ついつい考えてしまいました。 仲間から「自分の性を隠すために女装してる」と指摘され、ショックを受けていたヴィーダ。 そんな彼女が、男でも女でもない「天使」だと言われ、嬉しそうな笑顔になる姿には、本当に爽やかな気分を味わえましたね。 ラストにて、ハリウッドの女装コンテストに優勝してジュリー・ニューマーに祝福されるのも、ヴィーダの方が良かったんじゃないかと思えたのですが、この辺りは「第三の天使」とも言うべきチチの成長を示す為、仕方ないところなのでしょうか。 涙を流すような感動とも一味違う、笑顔になれるタイプの感動を味わえる。 そんな、魅惑的な映画でありました。 [DVD(字幕)] 7点(2016-10-04 05:43:42)(良:1票) |
129. 赤毛のアン/完全版〈TVM〉
《ネタバレ》 こういった映画を鑑賞する際には、主人公の子供側ではなく、保護者である大人側に感情移入する事が多くなったなぁ……などと、しみじみ実感。 とにかくもう、マシューとマリラの老兄妹が素晴らしかったですね。 主人公のアンが、子守の仕事をサボって読書に熱中したり、自分をやたらと「悲劇のヒロイン」アピールしたりする姿に、少々ゲンナリしていたところで、この二人が登場し、大いに和ませてもらったという形。 作中の大人達が、次々にアンを叱ったり、厳しく接したりする中で、マシューおじさんだけが彼女を気に入り、優しく接してくれるのだから、アンだけでなく観客の自分にとっても、彼は本当に癒しの存在という感じなのです。 妹のマリラおばさんのキャラクター性も抜群で「なるほど。ツンデレとは、こういう女性を指すのか」と、思わず感心してしまったくらい。 当初はアンを嫌っていたはずの彼女が、段々と愛情を抱くようになっていく姿が、本当に丁寧に描かれているのですよね。 それだけに、駅でアンの旅立ちを見送る二人の姿と 「あの時(孤児院には男の子を頼んだのに)女の子に間違えてくれて良かったな」 「あれは神の思し召しですよ。ウチには、あの子が必要だった」 という台詞のやり取りには、じんわりと感動。 気が付けば、マシュー以上にマリラの方がアンを可愛がっていて、そんな妹にマシューが少し呆れているような様子も、実にチャーミグでした。 終盤、アンが帰郷した際に、農作業中のマシューが心臓の発作で倒れてしまうのですが、その時の会話も、素晴らしいの一言。 「私が男の子だったら、畑の仕事を手伝えたのに」 「そう思った事は無いよ」「女の子で良かった」「自慢の娘だ」 と、幸せそうに語りながら息を引き取る姿には、思わず落涙。 父娘の絆に、大いに心を揺さ振られました。 そんな具合に、自分としてはマシュー視点の映画として、娘を見守るような気持ちで観賞した本作。 でも、全体の主人公としては、間違いなくアンである訳で、その少女漫画的なストーリー展開には、多少の違和感を覚えたりもしましたね。 ギルバートとの恋愛模様に関しては、特にそれが顕著であり、彼がやたらと都合良くアンの前に現れる事なんて、もしかしてギャグでやっているのだろうかと疑ってしまったくらいです。 ボートが壊れて溺れそうになったアンを助ける姿や、ラストシーンで馬に乗って現れる姿なんて、典型的な「王子様」キャラといった感じ。 この辺りは、やはり女性向けの作品なのかな、と思わされました。 とはいえ、そんな具合に「女性向け」の内容が苦手であるはずの自分さえ、これだけ感動させられたのだから、凄い映画である事は、疑う余地が無いかと。 また何年か経った後に、今度は懐かしさと共に観賞して、穏やかな世界に再び浸ってみたくなる…… そんな一品でありました。 [DVD(吹替)] 7点(2016-09-01 10:37:00)(良:2票) |
130. ドラフト・デイ
《ネタバレ》 アメフトには詳しくない自分ですが、それでもジョー・モンタナやジョン・エルウェイの名前が出てきたり「ザ・ドライブ」の映像が流れたりすると、興奮するものがありましたね。 本作は、そんなスター選手の再来になれそうなくらいに将来有望なクォーターバックの指名権を獲得する為、GMである主人公が悪戦苦闘するというストーリー。 ドラフト全体の一位指名権を手に入れる為「三年分のドラフト一巡指名権」を手放してみせる冒頭の決断にも驚かされましたが、終盤にはそれを凌駕する程の「魔法の如き交渉術」を見せてもらう形となり、気持ちの良いドンデン返しを味わえました。 基本的に劇中では情報収集と交渉を重ねるだけで、派手なアクションは殆ど出て来ないのですが、それでも飽きずに最後まで観られるのだから、これは凄い事です。 恋愛模様やら、家族との感動エピソードやらも絡めている点に関しては、個人的には然程楽しめず (ドラフトの駆け引きオンリーに絞って欲しかったなぁ……) と思わされたりもしたのですが、それらに長尺を割いている訳でもない為、何とか許容出来る範囲内。 今になって振り返れば、そういった諸々の要素も、ハッピーエンド色を強める効果があって、良かったんじゃないかと思えてきます。 上述の一位指名候補に対し、疑問符を抱く最大のキッカケが「誕生日会にチームメイトが誰も来ていない事」だった辺りも面白い。 こういった些細な情報から「こいつはプロで通用するか否か」を見極めていく流れが、良質なミステリーのように知的昂奮を誘う形となっているのですよね。 最終的に、主人公は元々自チームに所属しているクォーターバックの能力、人格を再評価して、ドラフト指名は他のポジションに移す事となる訳ですが、そうなるに至るまでの描写も、実に丁寧。 「作戦書の最終ページに張り付けておいた百ドル札」のエピソードなんかは、特に良かったですね。 それまでの積み重ねも併せ (未知の新人よりも、このクォーターバックに投げさせて欲しい!) と思わされるからこそ、ドラフト指名の瞬間に痛快さがある訳で、本当に上手いなぁ……と感心させられます。 不満点というか、ちょっと気になった点としては、作中における主人公のドラフト戦略が「いくらなんでも絶賛され過ぎな事」が挙げられるでしょうか。 全体の流れを把握している観客ならともかく、断片的な情報しか知らないはずの地元のファンまで完全に掌を返して騒いでいるのは、少しやり過ぎな気がしましたね。 特に、成功の代償として「三年間の二巡目指名権」を失っている事が、終盤では意図的に無視されているような辺りが、どうも引っ掛かります。 また、上述の一位指名候補は、人格に問題ありとして指名を回避したはずなのに、暴行事件を起こした過去があるランニングバックを指名する辺りも、ちょっと一貫性を感じられなくて、残念。 クォーターバックの対比において「真に優れたプレイヤーは、人格的にも優れている」というメッセージ性があり、一位指名したラインバッカーも家族想いの良い奴だという描写があったのだから、暴行事件に関しても「あの時はイカれてた」で済まさず「実は冤罪だった」とか、もっと明確なフォローが欲しかったところ。 そして何といっても物足りないのは、このドラフトの結果が成功だったのか失敗だったのか、答え合わせが行われるシーズン開幕と同時に、映画が終わってしまう点ですね。 これはもう、実に残酷。 あそこで終わるからこそ「ドラフト」の映画として完成されるのだという事は分かりますが、だからといって納得出来るものでもありません。 無粋かも知れませんが、エンドロールにて「それぞれの選手達が、どんな活躍を果たしたのか」を、テロップで表示して欲しかったなぁ……と思わされました。 そして願わくば、チームがスーパーボウルを制し、勝利の喜びに包まれる瞬間まで、是非ともお付き合いさせてもらいたかったところです。 [DVD(字幕)] 7点(2016-08-31 15:04:11) |
131. ディープ・カバー
《ネタバレ》 潜入捜査を題材とした映画は好みなので、充分に楽しむ事が出来ました。 何といっても、主演を務めたローレンス・フィッシュバーン(ラリー・フィッシュバーン)の目力が素晴らしい。 冒頭、潜入捜査官を選抜する為、黒人警官達に面接を行うシーンがあるのですが、何の予備知識も無いと、ここで「んっ? こいつが主人公?」と思わせるような潜入捜査官候補が、次々に登場する形になっているんですよね。 でも、幾つかの面接が不首尾に終わり、フィッシュバーンが画面に現れた途端に「間違いなく、この男が主人公だ!」と納得させられてしまう。 それほどまでに、その精悍な顔付きと、鋭い眼差しには、独特の存在感が漂っていました。 父親が麻薬中毒であった為に、厳しく自己節制し、酒も飲まずにいる主人公。 そんな彼が、潜入捜査で麻薬の売人として振る舞い「悪」になりきろうとする内に、段々と自らの内面に眠っていた「悪の素養」とも言うべき一面と向き合う事になる脚本が、実に秀逸。 終盤、彼が酒を飲み干し、麻薬にも手を出してしまう場面では「とうとうやってしまったか……」という、人が堕落する瞬間の、後ろ向きなカタルシスさえ感じられましたね。 仮初めの生活を行う裏町のアパートにて、近所の少年を可愛がる主人公に対し、その子の母親から「あの子が好きみたいね。二千ドルで売ってあげる」と提案されるシーンなんかも、潜入した先の闇の深さが窺えて、印象深い。 また、売人としてコンビを組む事になった、ジェフ・ゴールドブラム演じるデビットとの、奇妙な友情も良いんですよね。 主人公に正体を告げられた後も「デカでもいい」と答え、一緒に悪党としてのし上がっていこうと誘い掛ける姿なんかも、忘れ難い魅力がありました。 あえて不満点を挙げるとすれば、主人公が最後の最後で「正義」を選ぶキッカケとなる「牧師さん」の出番が少なめである為、その決断に今一つ重みを感じられなかった事。 そしてラストシーンにて、上述の少年の母親の墓に、手向けの花と現金を添える行為によって、主人公が少年を引き取った事を示す演出が、ちょっと即物的に思えてしまったくらいでしょうか。 隠れた傑作と呼ぶに相応しい、もっと多くの人に観賞してもらいたくなるような、そんな一品でありました。 [ビデオ(字幕)] 7点(2016-08-21 19:55:16) |
132. 白鯨との闘い
《ネタバレ》 白鯨の襲撃を受けて、船が瞬く間に破壊されるシーンは、迫力満点。 想像していた以上に「漂流」のパートが長く (あんまり白鯨とは闘わないんだなぁ……) と下がり気味だったテンションを、一気に高めてくれるだけの衝撃がありました。 序盤は「分かり易い悪役」であったポラード船長が、徐々に成長した姿を見せてくれる展開なんかも好み。 当初は対立していたオーウェン航海士と、少しずつ認め合い、再会時には喜びを見せる辺りも良かったですね。 鯨油を採る為に命懸けで船旅をしていたトーマスの口から「地面を掘ったら油が出てきた話」が語られる際の、何とも言えない笑みなんかも、非常に味わい深い。 もう危険な航海で油を集める必要もない、石油の時代への移り変わりを象徴する台詞。 とても雄大な気分に浸らせてくれると同時に、一抹の切なさも感じられました。 作中で最大の禁忌として扱われているカニバリズムに関しては、それを扱った品を既に何作も観賞済みなせいか、あまり大事には思えなかったりして、残念。 如何にも勿体ぶって描かれていた分だけ、こちらとしては少々白ける気持ちを抱いたりもしましたね。 結末では「全部を書く必要は無い」と、その禁忌をあえて秘した上で小説「白鯨」が書かれたという形になっており、作者であるハーマン・メルヴィルの優しさが示されています。 その一方で、本作品は「せっかくメルヴィルが気遣って隠しておいた秘密を暴く」ストーリーとなっている訳であり、そのチグハグさも気になるところ。 良い話として纏めているけれど、この映画の存在自体が「あえて全てを書かなかった」配慮と真っ向から反しているのではないかと、最後の最後で疑問符が残りました。 告白者であるトーマスの妻が、毅然として言い放った 「初めて会った時に、その話を聞いたとしても、私はずっと貴方の妻でいたでしょう」 という台詞が印象深いだけに、真実の秘匿を肯定的に描く形にはして欲しくなかったなぁ……というのが、正直な気持ちです。 そんな本作のクライマックス。 白鯨と目が合ってしまい、銛を突く手を止めてしまうシーンは、実に素晴らしかったですね。 とにかくもう「視覚的なメッセージ」の力が圧倒的で「何故、殺さなかった?」という作中の台詞に対しても、こんなに美しいものを殺せる訳が無いじゃないか……という気持ちにさせられます。 傷口を映し出す演出、そして白鯨が攻撃を加えずに去っていった事からするに 「白鯨と航海士との間には、闘いを通じて奇妙な友情が芽生えていたのだ」 と解釈する事も出来そうな感じ。 でも自分としては、白鯨があまりにも美しかったから見惚れてしまい、それを壊す事など出来なかったのだと思いたいところです。 [DVD(吹替)] 7点(2016-07-13 21:32:00) |
133. シャークネード<TVM>
《ネタバレ》 「サメ映画」というジャンルは、非常に当たり外れが大きいです。 もしかしたら当たりよりも外れの方が多いのでは……と考えてしまう事も屡々。 それだけに、本作のような掘り出し物に出会えた時は、その喜びも一入ですね。 無数のサメが竜巻によって空に舞い上げられ、それが浸水状態の市街地に降り注いでくる。 そのアイディアだけでも拍手喝采なのですが、本作が面白い要因としては、きちんとパニック映画としての基本を押さえた筋運びになっている事が大きいのだと思います。 「アイディアと勢いさえあれば、面白い映画は撮れる!」という考えも間違いではないでしょうけれど、やはり基本は大事。 まず、この作品においては「誰が死ぬのか分からない」というドキドキ感の煽り方が、とても巧みなのですよね。 冒頭にて、主要人物っぽく登場した船上の二人が、すぐに殺されてしまう辺りは少々やり過ぎ感もありましたが、それが結果的に上手く作用しており、後に登場する人物達の生存予測を、適度に困難にしてくれています。 そして、もう一つ大事なのが「観客が納得するような人物を生き残らせる」という点。 上述の「誰が死ぬのか分からない」展開と相反してしまう、この条件。 生き残りそうな人物でも死ぬからこそ油断ならない面白さに繋がる一方で、やはり観賞後の爽快感を考えると、生き残って欲しいと思わされた人物が死んでしまうのは、納得出来ないものがありますからね。 大抵のサメ映画は、この矛盾を解消する為に四苦八苦している印象がありますが、本作においては、そのバランス感覚が絶妙。 ラストには反則的な「実は生きていた」展開も駆使して、観客の後味を良くしてくれるのだから、嬉しい限りです。 サメが泳いでいる「道路」の上を、車で走って避難するという絵面だけでも面白いし、血生臭いシーンは控えめになっている辺りも好み。 主人公のフィンは「困っている人を放っておけない」という、典型的なタイプではあるのですが、決してテンプレをなぞるだけで終わっていない点も、良かったと思います。 その性格ゆえに 「私達家族よりも、他人の方が大事なの?」 と妻に責められて、家族関係が不和となっている設定など、きちんと個性が確立されているのですよね。 他人よりも家族を優先して守ろうとする事だって、決して間違いではない。 それでも主人公は、孤立したスクールバスを見かければ、避難する足を止めて、子供達を助け出そうとする。 あまりの「良い奴」っぷりに、惚れ惚れさせられます。 中盤から終盤にかけて、やや間延びしてしまった印象があるのは残念でしたが、その代わりのように「チェーンソーを携えてサメの口の中に飛び込む主人公」なんていう、トンデモないクライマックスを用意してくれているのだから、もう大満足。 愛すべき映画でありました。 [DVD(吹替)] 7点(2016-06-22 11:16:24)(良:3票) |
134. ラン・オールナイト
《ネタバレ》 リーアム・ニーソンとエド・ハリス。 二人が画面に映っているだけでも映画として成立しそうな名優の共演作、たっぷり楽しませて頂きました。 一緒に煙草を吸うシーンでの思い出話により、二人が長年の親友である事を自然と理解させてくれる作りなど、上手かったですね。 そして作中で主人公が息子に語り掛ける「お前は撃つな」という台詞。 汚れ仕事を引き受け続けてきた彼の過去とも合致しているし、何より息子を想う父としての願いが伝わってくるものがあって、非常に良かったと思います。 脇役である「誰よりも主人公を憎んでいるはずの警官」も、オイシイ役どころ。 そんな彼が、憎んでいるはずの相手の息子を救う事になる結末なんかも、渋くて好みでした。 一方で、最後の敵という形になる殺し屋に関しては、特にコレといった背景が描かれていなかった事も含めて、どうにも印象が薄くなってしまい、残念。 監督としても、この映画のクライマックスは主人公が親友を殺すシーンであると考えており、その後は簡略的に済ませて「後始末」のように主人公を死なせてみせた、という事なのかも知れませんね。 ただ、自分としては今一つ物足りないものがあって、これなら普通に自首させて終わりでも良かったんじゃないかな、と思えた次第。 それと、この映画のストーリーラインを考えてみるに「飲んだくれのダメ親父と化した主人公だが、実は今でも殺し屋として凄腕である」というサプライズが存在していた事も窺えました。 自分が「96時間」などを未見であったなら (えっ? この親父さん、こんなに強かったの!?) という衝撃を受けて、もっと楽しめた可能性も高そうです。 [DVD(吹替)] 7点(2016-05-27 14:39:37)(良:1票) |
135. 何かが道をやってくる
物語の前半部にて語られる 「何時か僕が年上になってやる」 「彼女は町一番の美人だった」 「貴方が必要なものは、特製のヘアカラーです」 等の何気ない台詞の数々が、後半にて伏線となっているのが、実に見事。 レイ・ブラッドベリの著作といえば「霧笛」を目当てに購入した「ウは宇宙船のウ」くらしか読んでいなかったりするのですが…… 本作のストーリーラインも、非常に秀逸だったと思いますね。 主人公の子供が遊園地で不気味な体験をして、自宅まで追い詰められる事になるという点では「ヘンダーランドの大冒険」の元ネタなのかも? 「後の展開の為に必要な部分だったとはいえ、前半を観ている間は、やや退屈」 「大人になった主人公の回想形式である為、最後は無事に生き延びると分かってしまう」 等の欠点もあるかも知れませんが、それらを補って余りある魅力を感じられました。 特に後者に関しては、さながら途中から主人公が交代したかのように「主人公の父親」の方にスポットが当てられており (もしかして、主人公の身代わりとなって親父さんが死んでしまうのでは?) とドキドキさせられるという、巧みな仕掛けが施されている形。 逆回転する木馬に乗る事によって、大人が子供に若返るという、とても幻想的でグロテスクな場面も良いですね。 程度の差こそあれど、大人なら誰しもが抱いていそうな「子供に戻りたい」という願望。 そんな願望を刺激して、心の隙間に潜り込んでいく悪魔の姿が、実に恐ろしく描かれている映画でした。 [DVD(吹替)] 7点(2016-05-22 04:11:09)(良:1票) |
136. 知らなすぎた男
《ネタバレ》 主人公が有能なヒーローであると勘違いされる映画、好きですね。 「サボテン・ブラザース」然り「ギャラクシー・クエスト」然り。 そういった訳で、上述の作品を愛する身としては 「何時、主人公が真実に気付いて、慌てふためく事になるのかな?」 なんて思いながら観賞していたのですが…… 結局、最後まで周りを勘違いさせたままエンディングを迎えたんだから、もう吃驚です。 さながら「刑事コロンボ」で犯人が捕まらずに、そのまま逃げ切ってみせたかのような衝撃。 でも、決して「裏切られた」という印象は受けず、完走し切ってくれた事に、心地良い満足感を味わえましたね。 途中で主人公が真実に気付いた方が、そこから二転三転させてのストーリーを展開させ易いだろうに、あえて初志貫徹してみせたかのような作りは、本当に天晴だと思います。 ラストのキスシーンの背後で、悪役を乗せたヘリが爆発するんだけど、その事にも主人公は気が付かないまま。 何かが爆発したかと思うくらいに衝撃的なキスだった、と呑気にヒロインに話す辺りなんて、実に微笑ましい。 他にも、自白剤を飲まされた主人公が「今日は誕生日だ」という情報を口にした途端、悪役達が反射的に「ハッピーバースディ」と声を揃えて祝福してみせる場面なんかも、お気に入りですね。 この映画が備えている「愛嬌」を、如実に示したワンシーンだと思います。 そんな中で、あえて不満点を挙げるとしたら…… 「最後は弟と一緒に葉巻を吸って欲しかった」と、それくらいになるでしょうか。 序盤にて、葉巻を吸う事が誕生日のゴールであるかのように描かれていたので、その予想が正解であって欲しかったんですよね。 あとは、主人公である兄に比べると、弟の扱いが不憫だったので、兄弟仲良くハッピーエンドを迎えて欲しかったなと、そう思えちゃいました。 映画が終わった後も、主人公は周りを勘違いさせたまま、敏腕エージェントとして活躍し続けるのか。 はたまた正体がバレてしまい、無事に結ばれたはずのヒロインとの仲も危うくなってしまうのか。 そんな後日談について考えるだけでも、楽しい気分にさせられる一品でした。 [DVD(吹替)] 7点(2016-05-21 05:38:57)(良:2票) |
137. コンドル(1975)
《ネタバレ》 「新聞に出ると思うか?」 というラストでの台詞に、ドキリとさせられましたね。 この手の映画は、主人公が新聞社に真実を告げる事によって、無事にハッピーエンドを迎えるもの……という固定観念のあった頃に観たもので、その台詞に秘められた恐ろしさには、本当に背筋が凍る思いがしました。 主人公が真実を告発する前に殺されてしまうアメリカン・ニューシネマな結末よりも、更に恐怖や無力感、やるせなさを感じさせる結末ではないでしょうか。 冒頭の事務所襲撃シーンでの、日常が瞬く間に破壊されてしまうシークエンスも迫力がありましたし、マックス・フォン・シドー演じる殺し屋と向き合う事となる、終盤の緊迫感も良かったですね。 ただ、映画の中盤に関しては、CIAのワシントン本部の描写が非常にチープであった点や、ヒロインであるフェイ・ダナウェイとのロマンスに、今一つノリきれなかった点などが響いてしまい、少々退屈に感じてしまったのも事実です。 勿論彼女は美人さんだし、こんな状況下においてもベッドシーンに突入してしまう男の気持ちも、分からないではないのですが 「えっ? これって仲間を殺された復讐の為に行動する、ストイックな主人公の話じゃなかったの?」 と、どうしても戸惑ってしまいましたね。 こういった展開を迎えた以上、彼女も殺されてしまうのじゃないかな、と思っていたら、そんな事も無く、ロマンティックな会話と共に別れる事となり、ホッとさせられる一方で、どこか物足りないような気持ちにもさせられました。 観客がマスコミの力を信じられるかどうかによって、ハッピーエンドともバッドエンドとも解釈する事が出来そうな結末ともども、色々と判断が分かれそうな要素が多いのですよね。 どんな映画にだって当てはまるでしょうが、この品は特に「これを名作と感じるも、駄作と感じるも受け手次第」という側面が強いというか。 自分がプラスに思った上述の部分だって「後味が悪い」「殺し屋と撃ち合いもせずに会話だけで別れるだなんて拍子抜け」と受け取る人もいるでしょうからね。 そういった諸々も含めて、面白い映画だと思います。 [DVD(字幕)] 7点(2016-05-12 10:57:27) |
138. ミクロキッズ
《ネタバレ》 漫画「刑務所の中」にて、囚人が所内で観賞させてもらったビデオ映画として本作の名前が挙げられており、驚いた記憶がありますね。 これを観たら、さぞかし家族が恋しくなってしまうのでは……と思わされました。 作品そのものに関しては、これぞ安心して観られるファミリー映画といった印象。 ミクロ化してしまったら、散らばる機械の破片だけでなく、降り注ぐ水滴さえも兵器のような威力に感じられるという内容が、とても面白いですよね。 こういった設定であれば、間違いなく期待してしまうであろう「食べ物」「昆虫」などの要素を忘れず押さえてくれているのも嬉しい。 色々と知的好奇心をくすぐるものがあり、ちょっと穿った見方をするならば「教育ママが幼い我が子に観せたくなるような映画」という評価を下す事も出来そうです。 何よりもこの映画の優れた点というか、バランスの良さは、全編にわたって心地良いユーモアが散りばめられており 「たとえ子供がミクロ化しなかったとしても、この家族達のドラマなら面白そう」 と感じさせてくれる事にあると思います。 実際、自分なんかは冒頭部分の「宗教上の理由で別れたカップル」「小柄な息子と大柄な父親」などの件でも、充分に楽しめましたからね。 さながら連続ドラマの中の一話として「今度は子供達が小さくなる話」というのを観せてもらったかのような感覚。 大きなサプライズ展開も無く、強烈な感動を味わう事は難しいかも知れませんが、安心して心地良い作中世界に浸る事が出来る。 そんな映画です。 [DVD(吹替)] 7点(2016-05-08 04:31:04)(良:1票) |
139. Dearダニー 君へのうた
《ネタバレ》 「ジョン・レノンからの手紙」というと、何だかそれだけを主題にして一本の映画が作れそうな魅力を感じますが、本作に関しては、決して彼からの手紙だけで終わる映画ではありませんでしたね。 手紙は確かに劇的な効果を齎してくれますが、それはあくまでも主人公ダニーの意識を変えて、行動を起こさせてくれたキッカケに過ぎないというバランス。とても好みでした。 それにしてもまぁ、アル・パチーノという人は本当に演技が上手いなぁ、としみじみ実感。 往年のロックスターだが、若い妻は浮気しているし、息子との関係は断絶中。 麻薬も手放せなくて、もう何十年も曲を書かずに、往年のヒット曲「ベイビードール」をツアーで歌い続ける日々を送っている男。 こんな具合に文章で列挙してみれば、幾つもの要素が絡み合った複雑な役柄のはずなのに、非常にシンプルな人間であると感じさせるほど、スッキリと演じきっています。 序盤に、ジョンからの手紙を読んで衝撃を受ける件も良かったですし、妻とその愛人とに別れを告げて、豪邸を後にする姿も、何だか妙に格好良い。 宿泊先のホテルにて、若い従業員達と小粋なジョークを交えた会話を繰り広げたり、お堅い女性従業員を口説いてみせたりする様が、観ているだけで楽しい気分にさせられるのですよね。 確かなスターのオーラを感じます。 終盤にて、苦労の末に完成させた新曲のバラードを歌おうとするも、客に要求されるのはいつもの「ベイビードール」。 迷った末に、寂しげな笑みを浮かべながらも「分かってる。皆が聴きたいのは、この曲だよね」と、望まれた通りの曲を歌い出す姿には、実に深い人間味を感じられました。 この主人公の選択に関しては、作中でハッキリと否定的に描かれており、実際に後になってから、新曲を楽しみにしていた女性従業員に非難されたりもしています。 それでも、何処となく「自分の理想を追い求めるよりも、客が望むものに素直に応えてみせたプロとしての姿」という切なさ、悲しさのようなものを感じさせてくれたのが、パチーノの演技が生み出す深みというものなのかも知れません。 その後の、長年の友人であるマネージャーが「ダニーは凄く良い奴だ」と彼の息子に語り掛けるシーンも素晴らしかったですし、ラストシーンにて、吉報を表すジンクスの「やぁ、トム」という息子の名前を呼びかける台詞で終わる構成も、凄く気持ちが良い。 実話を元にしたがゆえか、色々と煮え切らない部分もあり、主人公が一度は辞めたはずの麻薬に再び手を染める展開など、少し劇中との距離を感じてしまう瞬間もありましたが、総じて満足度高めの時間を過ごせましたね。 冷たい現実を内包しながらも、なお温かい映画だと思います。 [DVD(吹替)] 7点(2016-04-27 06:01:40) |
140. スティーブン・キング/ドランのキャデラック
《ネタバレ》 クリスチャン・スレーター主演という情報を元に観賞してみたら、まさかの悪役。 元々善玉だけでなく悪党も器用に演じきる俳優さんという印象がありましたが、今回もハマっていましたね。 彼が演じた役柄で一番好きなのは「フラッド」の主人公なのですが、この映画のドラン役も、それに次ぐインパクトを与えてくれました。 特に終盤、自慢のキャデラックの中に閉じ込められてしまうシーンでの焦燥感や、息苦しさを伝えてくれる演技なんかは、必見です。 そして、そのキャデラック。 映画のタイトルになっているだけの事はあり、魅力たっぷりなアイテムとして描かれています。 完全防弾、背後を追跡してくる車を観察出来るカメラ、車内用パソコンに、緊急時の酸素吸入器(?)まで付いているという至れり尽くせりっぷり。 劇中では悪役が乗り回している代物であり、主人公にとっての復讐の対象となる車なのですが、妙に男の子心を刺激され、憧れてしまう存在でした。 原作がキングという事もあってか、主人公に妻の亡霊が見える設定もあるのですが、こちらに関しては必然性があったのか、少々疑問。 妻が妊娠していた事を悟らせる効果があったのでしょうが「それって幽霊経由でなくとも良かったのでは?」という疑念を抱いてしまいましたね。 映画後半では主人公とドランとの一騎打ちとなって、妻の幽霊は全く姿を見せませんし、決着が付いた後に、何か一言残して天国へと旅立ってくれる訳でも無し。 よって、幽霊の存在が途中から立ち消えする形となり、何だか宙ぶらりんに感じてしまうのです。 超常現象などを絡めずとも、純粋に復讐譚として楽しめるクオリティがあるじゃないかと思えただけに、そこが気になってしまいました。 映画終盤「主人公が行動を起こさずとも、いずれドランは逮捕される運命だった」と判明する件に関しては、実に皮肉が利いていて良かったと思います。 逮捕のキッカケとなった児童売買についても、ドランは決して乗り気ではなく、むしろ苦悩すら垣間見せていた辺りなんかも、好みのバランス。 主人公側だけでなく、ドラン側にも感情移入させてくれて、両者の対決の行方がどうなるのかに注目させてくれました。 全てが終わった後に、空を見上げて、乾いた高笑いを響かせる主人公。 そこには達成感が多分に含まれていたのでしょうが、それと同時に、復讐の空しさも感じていたのではないかな、と思えます。 独特の後味を与えてくれる映画でした。 [DVD(吹替)] 7点(2016-04-13 16:56:31) |