21. ひとり狼
《ネタバレ》 市川雷蔵、良いですねぇ。 正直に告白すると、これまで観賞してきた彼の主演作にはあまり「当たり」が無かったりもしたのですが、これは間違いなく「面白かった」と言える一品。 主演俳優のカリスマ性の高さに、映画全体のクオリティが追い付いているように感じられました。 オープニング曲で映画のあらすじを語ってみせるかのような手法からして、何だか愛嬌があって憎めないのですが、本作の一番面白いところは「理想的な博徒とは、こういうものだよ」と、懇切丁寧に描いてみせた点にあるのでしょうね。 賭場で儲けても、勝ち逃げはしないで、最後はキッチリ負けてみせて相手方の面目を立たせる。 出された食事は、魚の骨に至るまで全て頂き、おかわりなどは望まない。 たとえ殺し合っている最中でも、出入りが片付いたと聞かされれば「無駄働きはしない」とばかりに、刀を収めてみせる。 一つ一つを抜き出せば、それほど衝撃的な事柄でも無かったりするのですが、映画全体に亘って、この「博徒の作法」とも言うべき美意識が徹底して描かれている為、そういうものなんだろうなと、思わず納得させられてしまうのです。 数少ない不満点は、主人公の伊三蔵が「卒塔婆が云々」と、声に出して呟いてしまう演出くらいですね。 これには流石に(気障だなぁ……)と、少々距離を感じてしまいました。 その他、ヒロイン格であるはずの由乃の言動が、ちょっと酷いんじゃないかなとも思いますが、まぁ武家の娘なら仕方ないかと、ギリギリで納得出来る範囲内。 そんな由乃から、手切れ金のように小判を渡され、一人で逃げるようにと伝えられる場面。 そこで、雨の中に小判を投げ捨て、啖呵を切って走り去る主人公の姿なんかも、妙に恰好良かったりして、痺れちゃいましたね。 たとえ本心では無かったとしても、ここで自棄になって「堕胎」を仄めかしてしまったからこそ、最後まで伊三蔵は我が子から「おじちゃん」呼ばわりされるまま、親子として向き合う事は出来なかったのだな……と思えば、何とも切ない。 「父上は亡くなられた」「立派なお侍だった」と語る我が子を見つめる際の、寂し気な笑顔のような表情も、実に味わい深いものがありました。 そして、それらの因縁が積み重なった末に発せられる「これが人間の屑のするこった」「しっかりと見ているんだぞ」からの立ち回りは、本当に息を飲む凄さ。 同時期の俳優、勝新太郎などに比べると、市川雷蔵の殺陣の動きは、少々見劣りする印象もあったりしたのですが、それを逆手に取るように「傷付いた身体で、みっともなく足掻きながら敵と戦う主人公の、泥臭い格好良さ」を描いているのですよね。 その姿は、傷一つ負わない無敵の剣客なんかよりも、ずっと気高く美しいものであるように感じられました。 終局にて発せられる「縁と命があったら、また会おうぜ」という別れの台詞も、完璧なまでの格好良さ。 市川雷蔵ここにあり! と歓声をあげたくなるような、見事な映画でありました。 [DVD(邦画)] 8点(2016-07-20 01:21:28) |
22. ラブ&ピース
《ネタバレ》 二十五年以上前、まだ無名であった監督自身が書き上げた脚本を基に「夢見る若者」について描いた一品。 序盤に関しては、ハッキリ言って、観ているのが辛い内容。 主人公は「冴えない若者」どころの話じゃなくて、さながら精神的な病でも抱えているかのような、酷い描かれ方をしているのですよね。 トイレの個室の落書きが、そのまま主人公の強迫観念を描き出している演出と「炬燵に隠れる主人公の姿」が「亀」を連想させる演出などには、クスっとさせられましたが、精々それくらい。 怪獣みたいで良い名前だ、という理由でペットの亀に「ピカドン」と名付けるシーン。 そして、そんなピカドンに、人生ゲームのマップや、野球盤の上を歩かせて遊ぶシーンにて(おぉ、怪獣映画みたい!)と思わされた辺りから、ようやく面白くなってきて、後は右肩上がり。 いくら会社で揶揄われたのが原因とはいえ、ピカドンを主人公が自らトイレに流してしまう展開には疑問も残りましたが「皆に笑われて、自ら夢を諦めてしまった若者」を暗示している描写の為、仕方なかったのだろうなと、何とか納得出来る範疇でした。 その後に、ピカドンを想って作った曲を路上で熱唱し、主人公がスター街道を駆け上っていく展開は、本当に痛快で面白かったですね。 映画「地獄でなぜ悪い」の劇中曲が、本作で使われているファンサービスにも、思わずニヤリ。 また、サイドストーリーも秀逸であり、視点が主人公から離れる場面でも、全く飽きさせない作りとなっていましたね。 謎の老人の正体が判明する件には「サンタクロースだったの!?」と本当に吃驚。 作中にて彼に浴びせられる「どうせ来年も、アンタの配った夢が、ここに戻ってくるんだ……」という台詞にも、独特の情感があって、非常に良かったです。 サンタさんは皆に夢を与えている訳ではなく、皆が捨てた夢を配り直しているだけなのだという、哀しい世界観。 それが、実に味わい深い魅力を、作品に与えてくれていました。 予見していた通り、怪獣映画そのものなクライマックスが訪れた瞬間には、もう大興奮。 そして主人公が「過去の自分」「恥ずかしい夢を抱えていた頃の自分そのもの」であるピカドンと向き合い、耐え切れずに、震え出してしまう件では、こちらも固唾を飲んで、画面を見つめる事になりました。 誰だって、他人に知られたら恥ずかしいような夢を抱いていた事はあるはずですが、この映画は、そんな過去の自分を、否応無く思い出させてくれる。 そして、夢を叶えてみせたはずの主人公が、段々と嫌な奴へと化してしまった事も併せて描き「夢を抱く事って、そんなに素晴らしいか? 夢を叶えたら幸せになれるのか?」という、極めて難しい問いかけを投げかけてくるのです。 ピカドンが消えたのを目にし、呆然としたまま元いた家に帰っていく主人公の姿に、RCサクセションの「スローバラード」が重なる演出に関しては、もう反則。 名曲というだけでなく、非常に思い入れ深い曲でもあったりする為に、それだけで満点を付けたい気持ちに襲われました。 ただ、最後の最後、主人公がピカドンと再会して「カメ」と呼んだ事に関しては、大いに不満。 「スローバラード」曲中にて「カメ」と言っているように聞こえる部分があるからと、無理やり重ねたように思えてしまい「空耳アワーかよ!」とツッコんでしまいましたね。 「僕ら、夢を見たのさ」「とっても、良く似た夢を……」というフレーズに関しては、主人公とピカドンに似合っていただけに、そこだけが残念で仕方ない。 他にも、家具をそのままにしておいたという発言など「最終的に主人公は、この家に帰ってくる」伏線が分かり易過ぎた辺りは、欠点と言えそうです。 監督の特色である血みどろバイオレス描写、フェティッシュな性描写が無くとも、しっかり面白かった辺りは、嬉しかったですね。 上述の「夢」に関する問い掛けについても 「夢を抱く姿は滑稽で、馬鹿にされたりするかも知れないが、きっと分かってくれる人がいる」 「夢を叶える為に自分を見失うくらいなら、叶わなくても構わない」 という、優しい答えが示されているように思えて、じんわり胸が温かくなりました。 結局、この作品のラストにて主人公は、夢が叶う前の、ピカドンに夢を語り聞かせていた頃の、恥ずかしい自分に戻ってしまいます。 何の進歩もしていないと、馬鹿にして笑い飛ばす事だって出来てしまいそうな、寂しいエンディング。 だけど、今度こそは自分を見失わないまま、ピカドンを見失わないままで、夢を叶えてみせて欲しいと、全力で応援したくなる。 そんな、素敵な映画でした。 [DVD(邦画)] 8点(2016-07-07 23:01:17) |
23. 卒業旅行 ニホンから来ました
《ネタバレ》 有り得ない設定なんだけど、それが現実における「舶来信仰の日本人」と重なり合って、シニカルな笑いへと昇華されていましたね。 英語が書かれた服、現地の品とは別物に変貌している料理。 異国の人々から見たら、日本人だって間抜けな姿になっているかも知れないよ、という「視点の転換」を提示してくれるのが面白かったです。 そういった寓意が込められている事を思うと、主題歌が「YOUNG MAN」というのも、実に心憎いチョイス。 金子修介監督って、コメディ映画を撮っても上手いんだなぁ……と思う一方で、どこか既視感を憶える作風だった為、スタッフをチェックしてみたら「彼女が水着にきがえたら」(1989年)「七人のおたく」(1992年)と同じ脚本家さんだったのですね。 大いに納得したし、上記二作品が好きな身としては、何だか嬉しいものがありました。 登場人物が、思った事をそのまま口にしてしまうなど、少々「分かり易過ぎる」点は気になりましたが、それも慣れてしまえば「愛嬌」と感じられてくるのだから、不思議なもの。 最後は絶対ヒロインと一緒に日本に帰るエンディングだろうなと思っていただけに、スターであり続ける事を選ぶ結末には、吃驚させられましたね。 主人公が子供時代からの夢を叶えた形でもあるし、孤児達に「頑張れよ、僕も頑張るから」と約束した言葉を、守ってみせたんだな……と思うと、不覚にも感動。 織田裕二が歌う「YOUNG MAN」が、作中で二度続けて中断される形となっており (どうせなら、最後まで聴いてみたかったなぁ) と思っていたところで、クライマックスにて見事に歌い切ってくれるという演出も、凄く良かったです。 そして極めつけは、ラストシーンにて表示される「つづく」のテロップ。 自分もスターになろうとしていた「一発次郎」の伏線もある事ですし「卒業旅行2 チトワンから来ました」に期待なのですが……はてさて、公開は何時になる事か。 異国旅行で体験した、夢のような出来事。 それを一時の幻で終わらせずに、夢の続きを歩む事を決意した主人公と、彼に呆れながらも付き添ってくれるヒロイン。 実に気持ちの良い映画でした。 [ビデオ(邦画)] 8点(2016-05-22 17:36:48) |
24. パパはわるものチャンピオン
《ネタバレ》 あらすじを読んだ限りでは「お父さんのバックドロップ」(2004年)を彷彿とさせる映画なのですが…… 終盤で上手い具合に着地して、一味違った魅力を出してるのが見事でしたね。 「わるもの」であるヒールレスラーにスポットを当てた内容であり、単なる格闘技ではないプロレスの魅力を、きっちり描いてる。 勝ち負けよりも「相手の強さを引き出して、試合を盛り上げる事」が大切なんだと教えてるかのような内容であり、観ていて(そうだ、そうだよなぁ……)と、何度も頷いちゃいました。 本物のプロレスラーが多数出演している為、プロレス物としての説得力が段違いに高い点も、これまた素晴らしい。 自分は然程プロレスに詳しい訳じゃないけど、それでも「棚橋弘至vsオカダ・カズチカ」というビッグネーム同士の対決には心躍るものがあったし、他にも有名所が色々出演しているんですよね。 棚橋の「フライ・ハイ」の迫力や、オカダの打点の高いドロップキックにも惚れ惚れしましたし、もし彼らを知らない状態で観たとしても(この二人、凄ぇな)と魅了され、興味を抱くキッカケになってたと思います。 「オールスター的な華やかさがあって、マニアも満足」そして「新たなファンを開拓するのにも適した内容」って訳であり、完成度が高い。 勿論、子役の寺田心の可愛さを満喫する事も可能だし、とっても欲張りな映画でしたね。 主演の棚橋と併せて「レスラーなのに、演技が上手いな」「子役なのに、演技が上手いな」と感心させられたし…… 何ていうか「本職ではない」「まだ幼い」というハンデを背負ってるにも拘わらず、立派に好演してみせる姿が、作中の「膝の爆弾というハンデを抱えつつ頑張る主人公」の姿と重なるものがあり、ストーリーと演者のシンクロ率が高かった事も、評価に値すると思います。 心くんが嫌いになった悪役マスクマンの正体が、実は自分の父だと判明する流れも切なかったし…… 最後の試合が終わった後、声援を送らずに罵声を浴びせる事で、ヒールとしての父の心意気に応える展開も良かったです。 結局、後半で主人公は二連敗を喫する訳だけど「本物のチャンピオンベルトより、更に価値のあるものを手に入れた」って結末なので、ビターではない、甘いハッピーエンドを迎えている辺りも、嬉しくなりましたね。 「試合には負けたけど、ハッピーエンドだよ」って事に、これだけの説得力があったという一点だけでも凄い。 難点としては…… 唐突に挟まれる「トランキーロ」とか、知識が無いと意味が分からない小ネタがあるのは、ちょっと残念。 知ってる自分でも(内藤哲也の出し方、無理矢理だなぁ)と思えて白けちゃったし、ノイズになってた気がします。 小ネタにしても「石橋憲武」なんかは由来を知らなければ気にならず、分かった人だけクスッと出来る感じなので、そのくらいの見せ方の方が良かったんじゃないかと。 その他「心くんが机を叩いてクラスメイトを振り返らせる場面は、音が小さ過ぎて振り返るのが不自然」ってのも気になるし、そこかしこで作り込みの甘さが目立ちます。 総合的に判断すると、冒頭に挙げた「お父さんのバックドロップ」と同じくらい楽しめたけど、あちらは個人的に大好きなスネオヘアーが主題歌担当、神木隆之介が主演っていう強みがあった訳だし…… 純粋に物語として評価するなら、こちらの方が上かも知れませんね。 プロレスが好きな人、興味がある人ならば、必見だと思います。 [DVD(邦画)] 7点(2023-03-02 06:06:29) |
25. お父さんのバックドロップ
《ネタバレ》 主題歌がスネオヘアーで、主演が神木隆之介という、自分好みな布陣だったので観賞。 個人的には「声優」という印象が強い神木隆之介なのですが「子役」としても、そして「美少年」としても卓越した存在なのだと、本作によって思い知らされましたね。 時代設定が1980年という事もあり、作中では半ズボンばかり穿いているのですが、そのフトモモが眩しくて、妖しい色気すら感じちゃったくらい。 小説などで出てくる「絶世の美少年」「天使のように愛らしい子」って、現実にも存在するんだと、彼に教えてもらったような気がします。 スネオヘアーに関しても、本来は「男女の恋愛映画」に似合いそうな曲が多いのに、父子愛を描いた本作に寄り添った曲として「ストライク」を完成させているのが、お見事でした。 で、肝心の映画本編はというと…… 良くも悪くも王道な作りであり、優等生的な一品。 際立った短所も無いんだけど、その分だけ面白みに欠けるというか……結局(神木くんが可愛い)って印象が、一番色濃く残る作品になってる気がします。 まぁ「ロッキー」(1976年)を観れば(スタローン恰好良いな)と思うし「レスラー」(2008年)を観れば(ミッキー・ロークも恰好良いな)と思う。 でもって「チャンプ」(1931年&1979年)の二作を観れば(どっちの子役も可愛いな)って思う訳だから、本作も「神木くんの可愛さを満喫する映画」と定義しても、全然悪くないんですけどね。 それでも(物足りない)(惜しい)と考えてしまうのは、それだけ観賞中に期待しちゃったというか…… 上述の傑作に並べたかも知れない可能性を、本作に感じたゆえなのかも。 そんな「可能性」の一つとして、特に着目したいのが、母親のビデオテープの件。 普通なら、こういう物語開始時点で亡くなってる母親って「完璧な存在」として扱っても、全く問題無いと思うんですよね。 でも本作に関しては、そうじゃない。 主人公の一雄から見ても、母は「いつも優しかった訳じゃない」「時々、ボクの事を打ったりした」という存在。 だからこそ一雄は、そんな母が優しい笑顔を見せた運動会のテープを、何かに縋るように大切にしていたんだって分かる形になっており、その事に凄くグッと来ちゃったんです。 口は悪いけど、実は善人というマネージャーも良い味を出しており、自分としては彼に助演男優賞を進呈したくなったくらい。 空手チャンピオンと戦う事になった一雄の父、下田牛之助(恐らく上田馬之助がモデル)を心配し「試合の当日になったら、病院に駆け込め。後のトラブルは、儂が処理する」と言ってくれる場面なんかは、特に好き。 それでいて、いざ試合当日になったら「儂は信じとるぞ」「お前が最強やて」という熱い台詞を吐き、試合後には誰より勝利を喜んでくれるんだから、たまんなかったです。 その他「煙草のようにガムを渡す場面が印象的」とか「廃バスを秘密基地にしてる少年達って設定に、ワクワクさせられる」とか、良い部分も多いんだけど…… 全体的に見ると「不満点」「気になる箇所」も目に付いたりするのが、実にもどかしい。 一番目立つのが、劇中でレスラーを辞めてしまう松山の描き方であり、これは如何にも拙くて、映画全体の完成度を下げていたように思えます。 酔って泣きながら「お前にプロレスの何が分かるんだ!」と訴え、それが感動的な場面として描かれてるんだけど、そうは言われても劇中にて「松山が如何にプロレスを愛しているか、人生を捧げてきたか」が描かれてないんだから、説得力が無いんですよね。 典型的な「唐突に出てくる泣かし所」って感じであり、こういう場面を挟みたいのであれば、ちゃんと事前に布石を打っておくべきかと。 それはタイトルになってる「バックドロップ」に関しても、また然り。 最後の試合にて、一発逆転の決着に繋げたいのであれば、事前に「牛之助の得意技」として、入念に描いておくべきだったと思います。 本当、こういう映画を観た後だと(映画を評価するって、難しいな……)と、しみじみ感じちゃいますね。 そもそも「主題歌がスネオヘアー」「主演が神木隆之介」って時点で、もう「好きな映画」になっちゃう訳だから、惚れた弱みというか、まともな判断なんか出来っこないんです。 そんな訳で、もしもスネオヘアーに興味が無く、神木くんを可愛いとも思わない人が観たら、結構厳しい出来かも知れません。 でも、自分と同じように(スネオヘアーの曲が好き)(神木くんって可愛いよね)と感じる人には、映画の後日談となる「ストライク」のPVとセットでオススメしたくなる…… そんな一品でありました。 [DVD(邦画)] 7点(2023-02-09 22:20:02)(良:1票) |
26. 決算!忠臣蔵
《ネタバレ》 関西弁で話す赤穂浪士と、やたら柄の悪い大石内蔵助。 それらに対し、最初は戸惑いが大きかったのですが…… (要するにコレは、ヤクザ映画なんだ)と気付いてからは、問題無く楽しめましたね。 現代人が忠臣蔵を観賞する際にネックとなる「浅野は加害者で吉良は被害者であり、赤穂浪士は逆恨みしてるだけ」って部分に関しても「親分の死後、残った組員が面子を守る為に復讐した」と考えれば、分かり易い。 「よう見とけ、赤穂の浪人共がする事を」と大石が静かに呟く場面も印象的であり、この映画では主人公達を立派な「赤穂義士」ではなく、庶民的なヤクザとしての「赤穂の浪人共」として描いているんです。 極端に美化された忠臣蔵より、ずっと感情移入し易い作りになってるし、この路線で仕上げたのは、正解だったんじゃないかと。 それだけでなく「経済的に見た忠臣蔵」という魅力が、しっかり描かれているのも良い。 「籠城すべきか否か」を、退職金の多寡で決める序盤の時点で、もう面白かったし、最初に軍資金が幾らあるかを分かり易く現代の価値換算で示し、それが徐々に減っていく様を数字で見せる演出にしたのも、上手かったですね。 地元と江戸を行き来するだけでも旅費が掛かるのに、何度も無駄足を重ねてる様とかもう、本当に観ていて「無駄遣いすんなよ!」って気持ちにさせられる。 そんな観客の想いを、勘定方の面々が代弁し、劇中で実際に文句を言ってくれるんだから、非常に痛快。 我らは戦の担当だからと言い訳し、勘定方を見下す同僚に対し「戦なんぞ、一度もした事無いやろが!」と大野九郎兵衛が啖呵を切る場面なんかは、特に良かったですね。 観客の喜ばせ方を知ってるなと、嬉しくなっちゃいました。 そんな勘定方の代表である矢頭長助の死を、中盤の山場として用意してあるから観ていてダレないし、吉良邸への討ち入り場面を省略し「討ち入り前の、予算内に収まるかどうかの葛藤」をクライマックスに据えたのも、結果的には良かったかと。 一応、演習として討ち入る姿を大石達が思い浮かべる形になっており、観客としても「どんな風に討ち入ったのか」を、自然と想像出来るバランスになっていましたからね。 この辺り「太鼓じゃなく銅鑼を叩くのか」と落胆しちゃう大石を描いたりして「討ち入りの際には、太鼓を叩く大石内蔵助」を期待していた観客と、主人公の心情とをシンクロさせていたのも上手い。 確実に勝利する為「一向二離(一人が相手と向き合ってる隙に、他の二人が回り込んで相手を仕留める)」の兵法を用いる事に対し「それは卑怯では?」と問う者に対し「これは戦や」と返す場面なんかも「忠臣蔵」(1990年)が大好きな自分としては、嬉しくなっちゃう部分。 赤い着物ではなく、火消し用の着物を選ぶ場面とか「経費を節約出来た時の快感」を描いているのも良いですね。 限られた予算が減っていくという、マイナスの焦燥感だけでなく、プラスの充足感も味わえる作りにしたのは、本当に上手い。 そんな節約が「討ち入り後の、残された者達を救う工作資金」に繋がるというのも、ハッピーエンド色を強める効果があって、お見事でした。 難点としては…… コメディ色が強い作りゆえか、ピー音を連発する場面なんかは、ちょっと雰囲気を壊してる感じがして、微妙に思えた事。 良い味を出していた矢頭長助が、死後は回想シーンなどでも一切姿を見せないので、寂しく思えちゃう事。 そして、忠臣蔵を代表する人気者の堀部安兵衛が、徹底的に情けなくて、良い所も無く終わっちゃうのが残念とか、そのくらいになるでしょうか。 幸い、それらの点を自分は「決定的な傷」とは思わなかった訳だけど、これを駄作と断ずる人の気持ちも、分かるような気がします。 でもまぁ、2019年にもなって「面白い忠臣蔵」を撮ってくれたという、その事に対する感謝の方が、ずっと大きいですね。 忠臣蔵という鉱脈は、まだまだ掘れるんだ、面白く出来るんだって事を証明してみせたという意味でも、非常に価値ある一本だと思います。 [DVD(邦画)] 7点(2023-02-02 13:50:35)(良:3票) |
27. 七人のおたく cult seven
《ネタバレ》 これは七人のおたくを描いた映画……というより「内村光良のアクション映画」ってイメージが強かったりしますね。 そのくらい終盤の格闘シーンが衝撃的だったし、実に痛快。 ウッチャン演じる近藤に対し、それまで散々「弱いぞコイツ」って印象を与えておいて、それがいざ本気で戦ったら強かったっていう、そのカタルシスが半端無いんです。 本作はメインとなる七人全員、ちゃんとキャラが立っているし、群像劇と呼べる構成なんですが…… それでもなお「ウッチャンが全部オイシイとこ持っていってる」って、そんな風に感じちゃいます。 監督や脚本家が苦心して整えたであろうバランスを、一人の演者さんのパワーが引っ繰り返してみせた形であり、ここまで来るともう、その「バランスの悪さ」が気持ち良いし、天晴と拍手を送りたいですね。 そんな訳で「ウッチャンのアクションが楽しめるだけで満足」「それ以外の場面は、正直微妙」って評価になっちゃいそうな作品なのですが…… 一応「おたく達が仲良くなって、夢を叶える青春映画」としての魅力もあるし、全体のストーリーや雰囲気も、決して嫌いじゃなかったです。 とにかく作りが粗くて、脚本のツッコミ所も多いんだけど、何となく庇いたくなるような愛嬌があるんですよね。 例えば、山口智子演じる湯川リサは、設定上はレジャーおたくって事になってるけど、明らかに「普通の人」であり、この時点で「七人のおたく」って看板に偽り有りじゃないかって話になるんですけど…… 劇中にて、主人公の星が「キミも同じ目になろう」とリサに計画書を渡す場面があるし、今回の冒険を通して「彼女も、おたくの仲間入りを果たした」って事なんだろうなと、好意的に捉えたくなっちゃうんです。 他にも、ダンさんの秘密基地で模型作りする場面とか、皆で竹筒の皿を使って食事する場面とかも、妙に好きなんですよね。 「仲間で集まって、ワイワイ遊ぶ楽しさ」が、しっかり描かれてたと思います。 飛行機の玩具で始まり、玩具のような飛行機で終わる構成も綺麗だったし、空から見た島の景色が、ダンさんと作った模型そっくりだった事にも感動。 最後に「皆、同じ目になった……」と満足気に呟く星に対し、他のメンバーが「そんな目はしてない」とツッコんで終わるのも、仲良しな雰囲気が伝わってきて好きですね。 自分にとっての映画もそうなんですが、おたく趣味の持ち主って「それが面白いから」というより「それが好きだから」ハマってしまい、おたくになったってパターンが多いでしょうし…… 本作も「おたく映画」らしく「面白い」って言葉よりも「好き」って言葉が似合うような、そんな一本に仕上がってると思います。 [DVD(邦画)] 7点(2022-10-21 17:23:40)(良:1票) |
28. 彼女が水着にきがえたら
《ネタバレ》 馬場監督がアマチュア時代に撮った「イパネマの娘」という映画が原型の一品。 それと「冒険者たち」(1967年)の影響もあると監督当人が語っており(言われてみれば……)と納得しちゃいますね。 他の監督作に比べるとスケジュールがキツかったらしく、公開の直前まで撮影していたくらいなので、仕上がりに満足出来ず「一番後悔のある作品」と語っているのも印象深い。 それらの情報を踏まえ、鑑賞前の自分としては(つまり、一番の失敗作って事か)(配給収入では前作よりヒットしてるけど、まぁ売り上げなんて当てにならないしな)と思ってたんですが…… 意外や意外、中々に面白かったです。 とはいえ、この映画が失敗作というか「求められてるものとは違った映画」っていうのは、なんか分かる気がするんですよね。 監督の前作である「私をスキーに連れてって」(1987年)に対し、自分は「オシャレでバブルの匂いを感じさせるけど、純粋に物語として考えたら面白くない」って評価を下しましたが、本作は全くの逆。 映画としての面白さはアップした代わりに、オシャレさもバブルの匂いも薄れてるというんだから、そりゃあ大半の観客はガッカリしちゃうと思います。 もし自分が前作を高評価してたとしたら「ごくごく平凡な娯楽映画になっており、あの独特の味が失われてしまった」「スキーの魅力を伝えてた前作と違い、本作はスキューバーダイビングの魅力が伝わってこない」なんて事を言い出してたかも知れません。 ……でもまぁ、そんな妄想をしてみたところで、やっぱり現実の自分としては「面白かった」「良い映画だった」と思ってしまったんだから、これはもう仕方無いですね。 主演の織田裕二も魅力的だったし、ちゃんと全編に亘って「海での宝探し」って目的があるから、話の軸がしっかりしてる辺りも良い。 最終的な目的が何なのか曖昧であり、途中で退屈しちゃった前作に比べると、明らかに話作りの成長が見受けられます。 上の方で書いた「スキューバーダイビングの魅力が伝わってこない」っていうのも、実は当たり前の話であり、これって明らかに「宝探し」がメインの映画なんですよね。 海に潜るのは宝を見つける為の手段に過ぎず、海に潜る事が主題ではないんだから、そこの捉え方次第で、映画の評価が変わってくるように思えます。 あと、主人公達は自由人ではあっても善人ではないってタイプなので、そこも評価が分かれそうですね。 この映画が好きな自分でさえ「強姦してでも、あの女からポイント聞き出せ」って谷啓おじさんが言い出した時は引いちゃったし、ヒロインが怒った「ゲーム」に関しても、ちょっと趣味が悪い。 自分は織田裕二が演じてるって時点で主人公に肩入れして観てたから(まぁ、こいつは模範的な善人って訳じゃないんだろう……)って早めに意識を切り替えられたけど、そうでない場合は、結構キツいかも知れません。 何か、さっきから「良かった所を語る」というよりも「微妙な部分を庇ってみせる」って感じの論調になってますけど、本当、良い所も色々ある映画なんですよ、これ。 「五十億の宝を手に入れたら、五十億の船を買って百億の宝を探す」っていう主人公達のスタンスも、浪漫があって良いなって思うし「アウトロー気質な男に振り回される、真面目で普通な女の子」って形で、原田知世演じるヒロインの魅力が際立ってるのも良い。 「もう一つの宝」の正体がヒロインだったってオチも、ベタで嬉しくなっちゃうし…… 水中でのキスシーンも、間抜けな感じで全然ロマンティックじゃないのに、その間抜けさが良いなって思えちゃうんです。 宝石なんかより価値のある「宝」を手に入れた主人公カップルは、宝石を持ち逃げされても呑気に笑ってるって終わり方なのも、もう文句無し。 皆はブスって笑いものにしてるけど、自分には可愛らしい美人にしか思えないっていう、不思議な女の子のような…… そんな、愛すべき映画です。 [DVD(邦画)] 7点(2022-10-10 17:55:29) |
29. STAND BY ME ドラえもん
《ネタバレ》 コレさえ観ておけばドラえもんの基礎知識は身に付くという、有りそうで無かった一本ですね。 主人公のび太がドラえもんと出会い、友達になり、別れて、再び出会うまでを完璧に描き切っている。 「ドラえもんの事は知ってて当たり前」だからと、説明を排したドラ映画ばかりの中で、本作は極めて異質だし、初心者でも安心な作りになってるんです。 似たような例としては「ひみつ道具博物館」という傑作もありましたが、本作の方がより徹底して「ドラえもんとの出会いを、最初から描く」作りになってますからね。 国内だけでなく、海外でも歴代最高のヒットを記録したのは、こういった「ドラえもんを知らない人でも楽しめる」という、丁寧な作りが大きかったんじゃないでしょうか。 特に感心させられたのが「ドラえもんとは本来セワシの子分であり、いざとなったら電撃浴びせて機能停止させる存在に過ぎない」という原作の初期設定を踏まえた上で「ドラえもんはのび太の友達である」という結末に繋げてみせた事ですね。 しかも「謎の電撃ステッキ」「何時の間にか対等の関係になってる」という有耶無耶にされていた部分を「成し遂げプログラム」という形で分かり易く説明している。 その上で「何故か分からないけど未来に帰らなくちゃいけなくなった(初期設定では航時法が変わった為)」「何故か分からないけど現代に戻ってこれた」という部分にまで「成し遂げプログラムのせいで帰らなきゃいけない」「成し遂げプログラムが除去されたお陰で戻ってこれた」という形で、説得力ある展開に仕上げてみせたんだから、本当にお見事です。 そんな本作の中で、最も感動させられたのは「あえてドラえもんに会わない大人のび太」の場面。 「のび太が大人になっても、ノビスケが生まれたら再びドラと一緒に暮らす事になる」「今度は息子のノビスケがドラえもんの友達になる」っていう(そんなの知ってる奴が何人いるんだよ)ってレベルのマイナー設定まで把握した上で「ドラえもんは子供時代の友達」って事を描いてくれたのが伝わってきて、嬉しくって仕方無かったです。 思えば脚本担当でもある山崎監督は、デビュー作からドラえもん愛に満ちていた人ですし、そんなマニアックな設定のアレコレも、ちゃんと把握済みだったのでしょうね。 タケコプターやタイム風呂敷の描写など「恐竜2006」を参考にして、ちゃんと「今のドラえもんが好き」という層でも楽しめる形に仕上げてあるのも嬉しい。 本作に関しては「子供の頃はドラえもん好きだったけど、大人になってからは全然観ていない」って人の為に、徹底的に媚びた作風にする事も可能だったろうし、客を呼び込む為にはそれが一番簡単だったと思うんですよね。 所謂「大山ドラ世代」の声優や歌手をゲストとして呼んでも良いし、昔の主題歌やBGMを使っても良かったはず。 実際、ほぼ同時期に制作された実写版ドラCMなんかでは、これ見よがしに大山ドラ時代のBGMを使っていましたからね。 にも拘らず、本作はそういった真似を一切やらず、きちんと原作漫画や現行アニメ版に寄り添って作ってくれたんだから、なんて誠実なスタッフ達なんだと感心させられました。 他にも「ジャイスネが悪役のまま本編が終わるけど、NG集では皆楽しく映画作りしており、後味の悪さを残さない」とか「雪山のロマンスで何もせず棚ボタで結婚出来た大人のび太に、きちんと見せ場を用意してるのが素晴らしい」とか、褒め出すと止まらなくなっちゃう映画なんですが…… あえて言うなら「良い場面が多過ぎる」のが、本作の欠点と言えそうですね。 100分に満たない尺の中で、原作のエピソードを幾つもこなしているもんだから、どうも性急過ぎるというか「本来はもっと長い話なのを、総集編として短く纏めました」感は否めないんです。 インタビューからすると、八木監督も山崎監督も「自分達が作るドラえもん映画は、コレ一本きり」という覚悟で作ったようなので、アレもやりたいコレもやりたいという「ドラえもん好き心」を抑え切れず、暴走してしまい、全体の完成度には若干の陰りを残してしまった気がします。 ……とはいえ、それらを加味したとしても、充分に良い出来栄えだったと思いますね。 冒頭にて述べた通り、コレさえ観ておけば基礎知識が身に付いて、その他の「無数のドラ映画」を楽しめるようになるという意味でも、オススメの一本です。 [映画館(邦画)] 7点(2020-12-10 03:28:06)(良:1票) |
30. タッチ CROSS ROAD 風のゆくえ<TVM>
《ネタバレ》 これ、結構好きです。 少なくとも「タッチ」のアニメとしては、劇場版三部作&テレビスぺシャル二本の中でも最も綺麗に纏まっているし、面白かったんじゃないかと。 冒頭に流れる歌も哀愁があって、異国の地で一人ぼっち夢を追いかける主人公に合ってるし、この度久し振りに鑑賞して(良い曲だなぁ……)と、しみじみ浸っちゃったくらい。 それと、本作のストーリーラインについては人気野球ゲーム「パワプロ10」でもオマージュされているんですよね。 「日本の若者が一人渡米し、金髪そばかす娘とロマンスを繰り広げつつ、マイナーリーグからメジャーへの昇格を狙う」って話の流れは、文句無しで魅力的だし、これを殆どそのままゲーム中に流用したスタッフの気持ちも、良く分かります。 ただ、そんな「パワプロ10」に取り入れられなかった部分「主人公達也と、ヒロイン南との遠距離恋愛」については……正直、蛇足に思えちゃいましたね。 原作が「タッチ」である以上、この二人のロマンスは外せない訳なんだけど、今回はそれが枷になってた気がします。 そもそも南が新体操を辞めてカメラマン目指してるって設定自体、劇中の人物同様に「なんで?」と戸惑っちゃうし…… 南に「自立した女性」的な魅力を与えようとした結果、空回りしてるように思えました。 他にも「ライバル打者のブライアンが凡退する場面が多過ぎて、凄みが薄れてる」「達也とホセが終盤に和解する流れが唐突」などの作り込みの甘さに「バンクシーンや曲の使い回しが多い」という、アニメとしての根本的なクオリティの低さも見逃せないし……酷評しようと思えば、いくらでも出来ちゃう品なんですよね、これ。 ただ、それでもなお自分は好きというか……粗削りだけど、光る部分も多いんです。 現地娘のアリスは可愛らしくて、南より魅力的に思えたくらいだし、オーナー夫妻も良い人達なもんだから、主人公チームの「エメラルズ」を、自然と応援したくなるんですよね。 「かつては名門チームだったが、今は没落している」「球団の解散が決まった事を知った選手達が奮起し、快進撃の末に優勝する」などのお約束展開も、王道な魅力があって良い。 町から町へ、オンボロバスで移動しながら野球するという、マイナーリーグらしい描写もしっかり挟まれていたし、開幕戦ではガラガラだった客席が、最終戦では満員になっていたのも、凄く気持ち良かったです。 「弟の代わりに投げた」発言からすると、本作は「背番号のないエース」から続く時間軸なのでしょうが、原作漫画しか読んでない人でも、そこまで混乱しないよう配慮した台詞回しになっている事にも感心。 キャッスルロックという地名が飛び出す小ネタなんかも、ニヤリとしちゃいましたね。 「頑張って夢を叶えようとしたら、その過程で他の選手の夢を奪ってしまった」場面を挟み「優し過ぎる兄貴」だった達也に相応しい苦難を用意しているのも、原作漫画が大好きな身としては、妙に嬉しかったです。 そして何といっても、ラストシーン。 達也が最後の一球を投じる直前に「和也……見てるか!」と胸中で叫ぶ場面には、本当にグッと来ちゃったんですよね。 思えば原作においても「好きなんでしょ、野球」「和也くんと、ずっと同じ環境に育ってきたんだもの」という台詞がありましたが、そんな達也の「野球を好きな気持ち」を、とうとう素直に表せる場所に辿り着いたんだという充足感、そしてそんな自分の姿を「和也に見せてやりたい」と思った達也の心意気に、もう観ていて心を鷲掴みにされちゃったんです。 そんな独白の後、幼い和也と達也とがキャッチボールしてる場面が回想で流れるもんだから、もうたまらない。 ここのワンシーンだけでも、本作は観る価値があったと思います。 欲を言えば「和也の力を借りない、達也と新田の真剣勝負」も見せてくれたら文句無しだったんだけど…… まぁ、それは本作から数年後、メジャーリーグの舞台で実現したんだと、妄想で補いたいところですね。 それと、恐らく本作のアリスは新田の妹である由加ちゃんが原型なのでしょうが「達也が好き」「そばかす属性」「一人称オレ」「ピッチャー」って共通点がある事を考えると、吉田君もモデルの一人だったのかなって、そんな事が気になりました。 他にも、あだち漫画で見た事ある顔が、色々と登場していたりするので…… その「元ネタ探し」をしてみるだけでも、それなりに楽しめちゃう一品だと思います。 [DVD(邦画)] 7点(2020-07-25 05:54:50) |
31. 極道めし
《ネタバレ》 刑務所+グルメ物という事で、どうしても「刑務所の中」(2002年)と比較してしまうのですが…… 「刑務所の中」のような乾いたシニカルさとは真逆の、湿っぽい人情路線が、独自の魅力に繋がっていましたね。 ・出所後に意中の女性を訪ねるも、彼女が別の男と結ばれているのを見て、そのまま立ち去る。 ・作り話だと強がった後に、実は本当の話であった事を窺わせる。 といった原作の名場面の数々を、少しずつ作中に取り入れ、別の話として再構成しているのも上手い。 「マカロニをストロー代わりにして牛乳を飲む」「看守がビールを飲む話をして、満点を叩き出す」等の小ネタも再現されているんですが、それらが原作と同じ流れで出てくる訳じゃないので(ほほう、ここでコレを出してきたか……)といった感じに、観ていてニヤリとさせられるんですよね。 たとえ原作をそのまま映像化した訳じゃなくても、原作のファンが満足するような品に仕上げる事は出来るんだなって思えて、嬉しくなっちゃいました。 「上を向いて歩こう」「待つわ」「さよなら」などの曲の使い方も巧みだったし、それより何よりも「ちゃんと美味しそうに食べる役者さんを選んでる」って点が、素晴らしいですよね。 メインとなる五人組の内(この人の食べっぷりは微妙だな)と感じるような人は一人もいなかったし、この原作を映像化する上で最も大切な点を、きちんとクリアしていたと思います。 主人公とヒロインの幸せな日々の中で「いただきます」をちゃんとしなきゃダメと要求するヒロインの姿が印象的であり、別れのラーメンを振舞った際にも「いただきます」してくれなかった主人公を、寂し気に見つめていた演出なんかも、良かったですね。 モノローグこそありませんでしたが(この人には、私の言葉は届かないんだ……)と、しみじみ感じていたように見えましたし、その後に二人が破局する結末に、自然と繋がっていたと思います。 出所後に再びラーメンを食し、泣き声の代わりのように麺を啜り、涙を飲み干すようにスープを飲み干す主人公の姿も、非常に味わい深い。 不満点としては……主人公と母親との別れの件が、ちょっと不自然だった事。 最後に子供が風船を渡すのは、わざとらしく思えた事。 作中で満点を取った「すき焼き」は確かに美味しそうだったけど、お肉が今時のスーパーで買った代物にしか見えなくて、今一つノリきれなかった事とか、そのくらいかな? 自分としては「すき焼き」よりも「パイナップルの缶詰」そして「黄金飯」の方が美味しそうに思えちゃったくらいですね。 もし、作中に出てきた料理で一番を決めるなら「黄金飯」に一票入れさせてもらいたいです。 [DVD(邦画)] 7点(2020-04-09 14:55:09)(良:1票) |
32. 忠臣蔵(1958)
《ネタバレ》 自分は「忠臣蔵」(1990年)の項にて「一番面白い忠臣蔵だと思うけど、捻った作りなので初心者には薦め難い」と書きましたが「じゃあ、初心者に薦め易い忠臣蔵は何?」と問われた場合、本作の名前を挙げる事になりそうですね。 とにかく分かり易いというか「忠臣蔵の映画をやるなら、これは外して欲しくない」という部分が、きっちり盛り込まれている辺りが見事。 自分が特に好きな三つのエピソード「畳替え」「大石東下り」「徳利の別れ」を全部やってくれてる映画って、意外と珍しいですからね。 特に「畳替え」の件はダイナミックに描かれており、序盤の山場と言えそうなくらい力が入ってるのが嬉しい。 「朝までに仕上げねばならん、頼んだぞ!」と職人達を激励する浅野家臣の姿も、実に良かったです。 それによって、浅野家に「庶民と力を合わせて頑張る武士集団」というイメージが生まれますし、彼等を善玉として描く上で、非常に効果的な場面だったと思います。 対する吉良方が「庶民の敵」である事を、徹底的に描いている点も良いですね。 どうしても「斬り付けた浅野が悪い。吉良は被害者」ってイメージが拭えないのが忠臣蔵の弱点なんですが…… 本作は、その点でもかなり頑張っていたんじゃないかと。 とにかく吉良方が庶民を虐めてる場面が繰り返し挿入されるもんだから、観客としても自然と浅野方を応援しちゃうんですよね。 討ち入りの際にも「女子供は逃げろ」と言ったりして、徹底して「正義の赤穂浪士」として描いている。 「浅野殿、田舎侍を御家来に持たれては色々と気苦労が多う御座ろうな」と吉良が嫌味を言ったりして、内匠頭が怒った理由に「自分だけでなく、家臣も馬鹿にされたのが許せなかった」という面を付け加えている辺りも上手かったです。 また「斬られたのは吉良の方なのに、吉良に仇討ちするのは筋違い」という事が劇中で何度か言及されている点も、バランスが良かったと思います。 観客に(そういえば、その通りだ……本当に、浅野側が正しいのか?)と考えさせる余地を与えており「視点を変えれば、赤穂浪士は正義にも悪にも成り得る」という事を教えてくれるんですよね。 そういう意味でも、初心者にも安心というか「はじめての忠臣蔵」に丁度良い品であるように思われます。 そんな本作の欠点としては…… 「忠臣蔵お馴染みのエピソード」を描いた場面は凄く良いんだけど「この映画でしか拝めない、オリジナルのエピソード」はイマイチだったという点が挙げられそう。 京マチ子演じる「女間者 おるい」の存在が特に顕著であり、どう考えても浮いてるというか「大スターの為に無理やり女性のメインキャラを追加しました」って印象が拭えなかったんですよね。 一応、女間者が絡んでくる忠臣蔵としては「大忠臣蔵」(1971年)などの例もありますが、連ドラではなく映画でコレだけ尺を取られてやられると、ちょっと辛い。 しかも彼女ときたら「恐ろしいほど美しい姿でした」なんて感じに、主人公を賛美する台詞を延々吐く役どころなもんだから、贔屓の引き倒しに思えちゃって、観ていて居心地が悪かったです。 元々本作における大石内蔵助って、登場時から「有能な家臣」であり、敵からも散々「大した奴」と褒められる役どころで、自分としてはどうも胡散臭いというか…… 正直、あんまり魅力を感じない主人公なんですよね。 頭脳も人格も最高の超人であり、夜道で襲ってきた刺客を撃退したり、斬り掛かろうとした相手の体勢を扇子で崩したりして、剣士としても一流の腕前ってのは、流石に盛り過ぎだった気がします。 かつては細身の女形だったとは思えないほどに丸々と太り、貫禄たっぷりな長谷川一夫の演技力ゆえに、嫌悪感を抱いたりはしなかったし「恋の絵図面取り」に対して「引き出物」を渡す場面や「残りは四十七名か」と呟く場面なんかは、とても良かったんですけどね。 個人的好みとしては、もうちょっと隙が多い内蔵助像の方が嬉しかったかも。 後は、大映制作らしい怪獣映画のような音楽。 切腹までは描かれていない為(もしかしたら、この映画の中では赤穂浪士達は助かったのかも?)と思えて、ハッピーエンド色が強い結末だった辺りも、忘れちゃならない魅力ですね。 自分としては「初心者にオススメ」「色んな忠臣蔵を観賞した上で観返すと、ちょっと物足りない」という、良くも悪くも優等生的な作品という印象なのですが…… 「色んな忠臣蔵を観たけど、やっぱり王道なコレが一番!」という人の気持ちも分かるような、そんな一品でした。 [DVD(邦画)] 7点(2019-10-18 13:02:48)(良:1票) |
33. もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
《ネタバレ》 高校野球を題材にした映画としては、良く出来ていると思います。 才能はあるけど問題児なエース、苦労性で縁の下の力持ちな正捕手、足だけが取り得の代走屋、少女のように華奢で小柄な遊撃手と、漫画的で分かり易いキャラクターが揃っているし、マネージャー三人も「元気な子」「内気な子」「病弱な子」と色分けされている形。 ブラスバンドの演奏にはテンション上がるものがあるし、九回裏に先頭打者が凡退して悔しがる姿なども、きちんと描いている。 試合前に円陣を組み「程高、勝つぞぉっ!」と皆で叫ぶ場面も、気持ち良かったですね。 投球フォームやら何やらに違和感があるし、ヒロインが重そうに金属バッドを振っているのに「フォンッ」と鋭く空を切る音が聞こえちゃう場面なんかは頂けないけど、まぁ仕方ないかと納得出来る範疇でした。 でも、根本的な問題があって…… そういった「王道な高校野球もの」としての部分は面白い反面「ドラッカーのマネジメントを読んで、それを高校野球に活用する」部分が微妙という、困った事になっているんですよね。 タイトルに関しても偽りありというか、これなら「もし高校野球の女子マネージャーが余命幾ばくもない病気だったら」の方が正確だったんじゃないかと。 そのくらい「病弱な子」の存在感が強く、ヒロインの陰が薄かったように思えます。 作中で行われる「イノベーション」の内容についても、どうにも疑問符が多いんですよね。 「部内でチーム分けを行い、競争意識を高める」「吹奏楽部に演奏を頑張ってもらう」などについては(それ、当たり前の事じゃないの?)と思えちゃうし、ノーバント作戦はともかくノーボール作戦に関しては、ちょっと説得力が足りていなかった気がします。 多分、ノーコンで悩んでいた石井一久が「全球ストライクゾーンに投げろ」と言われてから活躍するようになった逸話を踏まえての事なのでしょうし、エースの慶一郎が150キロ左腕なら可能かも知れませんが、そんな怪物投手という訳じゃないみたいですからね。 もうちょっと「この投手なら、全球ストライクで勝負しても抑えられる」と思えるような場面が欲しかったところ。 ・エースの慶一郎=「病弱なマネージャーと良い雰囲気になる」→「仲間を信頼し、最終回のマウンドを他の選手に託す」 ・キャッチャーの次郎=「ヒロインと良い雰囲気になる」→「病弱なマネージャーの為に本塁打を放つ」 ・遊撃手の祐之助=「エースとの間に確執がある」→「ヒロインの話を参考にしてサヨナラ打を放つ」 という形になっているのも、何だかチグハグに思えましたね。 チーム内で色んな人間関係があるのは結構な事ですが、本作の場合は「エースと遊撃手」の二人「キャッチャーと病弱なマネージャー」の二人というグループに分けた方が自然だった気がします。 そうすれば…… ・「エラーを巡って喧嘩していた慶一郎と祐之助が、和解する」→「慶一郎は仲間を信頼するようになり、マウンドを他の選手に託す」→「その心意気に応える為、祐之助がサヨナラ打を放つ」 ・「次郎は幼馴染である病弱なマネージャーと良い雰囲気になる」→「彼女の為に本塁打を放つ」 となるし、後はヒロイン格を「病弱なマネージャー」ひとりに絞りさえすれば、綺麗に纏まったんじゃないかと。 そんな具合に、不満点も多いんですが「仲間にマウンドを託す場面」と「ベンチに置かれた麦わら帽子に手を触れてから打席に向かい、本塁打を放つ場面」の演出は、凄く好きなんですよね。 同監督の作品「うた魂♪」もそうでしたが「観ていて恥ずかしくなるくらいベタな演出なんだけど、やっぱり良い」と思わせるような魅力がある。 最後にセーフティーバントを敢行し「ノーバント」作戦を破る流れについても「そもそも禁止されたのは自己犠牲を目的としたバントなので、問題無い」あるいは「拘りを捨ててでも勝ちたいという強い気持ちがある」と解釈出来て、良かったと思います。 後は……「今年も一回戦負けなので、背番号が全然汚れない」というマネージャーの台詞があったので、決勝戦では「汚れた背番号を誇らしげに見つめるマネージャー」という場面に繋がるのかと思ったら、全然そんな事は無くて拍子抜けしちゃったとか、気になるのはそれくらいですね。 エンディング曲の歌詞は野球と全然関係無かったけど、まぁそれは「熱闘甲子園」などにも言える事だし、明るく爽やかな青春ソングなので、違和感も無かったです。 この後の程高野球部が、甲子園でどこまで勝ち進むのかも観てみたくなるような……劇中のチームに愛着が湧いてくる、良い映画でした。 [DVD(邦画)] 7点(2018-03-09 16:32:40)(良:1票) |
34. 吸血鬼ゴケミドロ
《ネタバレ》 とにかくもう、展開が早い早い。 映画が始まって十分も経っていないのに「旅客機がハイジャックされる」→「不時着する」までを描き、その間にも「血の海のように赤い空」「その中を泳ぐように飛ぶ旅客機」「窓に激突して血みどろになる鳥」と、印象的な場面をバンバン盛り込んできますからね。 「爆弾魔は誰か?」「狙撃犯は誰か?」といった作中の謎も、手早く解き明かし「人間VSゴケミドロ」「人間VS人間」という対立劇に移行する。 その潔さ、割り切りの良さ、実に天晴です。 本作は国内外でカルト的な人気を誇っており、あのタランティーノ監督もお気に入りとの事ですが、その理由の一つは、この「早さ」が心地良いからじゃないかな? と思えました。 作品のテイストとしては、自分の大好きな「マタンゴ」に近いものがあり、ゴケミドロなんかよりも、人間の方がよっぽど恐ろしいと思える作りになっているのも特徴ですね。 日頃恨みを抱いている相手に、喉が焼けて苦しくなると承知の上で、水ではなくウィスキーを飲ませる件なんて、特に印象深い。 また、如何にもな悪徳政治家とその手下だけでなく、金髪美人のニールさんまでエゴを剥き出しにする辺りも、意外性があって良かったです。 ヒロインと並んで「善人側」であると思っていた彼女が、銃を手にして主人公に発砲し、自分だけでも助かろうと足掻く姿を見せてくる訳ですからね。 これは、本当にショッキングでした。 楠侑子演じる法子さんがゴケミドロに操られ「人類の滅亡は目前に迫っている」と語った後、笑って崖から身を投げるシーンも、忘れ難い味があります。 干からびてミイラになり、恐ろしい姿になっていた、その死体よりも何よりも(もしや、最後の笑いと自殺に関しては、操られての事ではなく、自らの意思だったのでは?)と思える辺りが怖いんですよね。 それは人間の意思がゴケミドロに敗北してしまった事の証明、狂気に負けてしまう人間の弱さの証明に他ならず、深い絶望感を与えてくれます。 そんな風に「テンポの良さ」「随所に盛り込まれる衝撃的な場面」などの長所がある為、細かな脚本の粗は気にならない……と言いたいのですが、ちょっと粗が多過ぎて、流石に気になっちゃう辺りが、玉に瑕。 まず、高英男演じる殺し屋は素晴らしい存在感があり、ゴケミドロに寄生されて襲い掛かって来る姿もインパクトがあって良いんですが、これって脚本的に考えると、凄く変なんですよね。 だって彼、最初から主人公達と敵対している殺し屋であり、別に寄生なんてされなくても、元々が銃を使って争っていた相手なんです。 にも拘らず寄生されてからはゾンビや吸血鬼よろしく、ゆっくりと動いて襲い掛かって来るのだから「見た目が怖くなっただけで、むしろ敵としての危険度は下がっている」訳であり、これは明らかにチグハグ。 ベタかも知れませんが、こういった寄生型の場合「本来なら敵対するような間柄じゃなかった相手に襲われてしまう」「善良だった人物が化け物に変わってしまう」という形の方が、よりショッキングだったんじゃないかなと。 もしかしたら「ゴケミドロよりも人間の方が恐ろしい。だからこそ寄生される前の方が危険な存在だった」というメッセージを意図的に盛り込んだのかも知れませんが、それならゴケミドロなんか襲来しなくても人類が勝手に自滅したという結末の方が相応しい訳で、やっぱりチグハグ。 脚本上の難点は他にも色々とあるのですが、自分としては、そこが一番気になっちゃいました。 ただ、バッドエンドが苦手な自分でも、本作の「人類滅亡エンド」に関しては、不思議と受け入れられるものがありましたね。 最後まで善良さを保っていた主人公とヒロインが、直接死亡する描写が無い事。 「宇宙の生物は、人間が下らん戦争に明け暮れている隙を狙って攻撃しようとしている」との言葉通り、戦争批判が根底にある事。 そして何より「人類が戦争を続けていると、何時かこうなっちゃうかも知れないよ」という反面教師的なメッセージが込められているからこそ、観ていて嫌な気持ちにならなかったのだと思われます。 そういった具合に、歪だけど不思議と整っていて、もしかしたら凄い映画なんじゃないか……と錯覚しそうになる。 そんな絶妙な、しかして危ういバランスこそが、本作最大の魅力なのかも知れません。 [DVD(邦画)] 7点(2017-10-28 06:41:00)(良:3票) |
35. 忠臣蔵外伝 四谷怪談
《ネタバレ》 「赤穂浪士になれなかった男」の物語として、興味深く観賞する事が出来ました。 深作監督の忠臣蔵といえば「赤穂城断絶」という前例がありますが、あちらが予想以上に真っ当な作りだったのに比べると、こちらはもう「全力で好き勝手やらしてもらいました」という雰囲気が漂っていて、痛快なものがありましたね。 手首は斬り飛ばすわ、生首は斬り落とすわで、そこまでやるかと呆れつつも笑ってしまうような感じ。 当初は「俺達の手で時代を変えるのだ」と熱く語っていた若者達が、浪人として困窮する内に現実的な思考に染まってしまい「時代の方が俺達を変えちまった」と嘆くようになったりと、青春ドラマとしての側面まで備えているのだから、本当に贅沢な映画なのだと思います。 とはいえ、基本的なジャンルとしては「怪談」になる訳であり、そこの描写がキチっとしている辺りが、お見事。 あれもこれもと詰め込んだ闇鍋状態なのに、芯がブレていないというか、観ていて落ち着かない気持ちになる事も無く、エログロ濃い目の味付けなのに、不思議と尾を引かないんですよね。 お岩さんが超常的な力で討ち入りに助太刀するというのは、ちょっとやり過ぎ感もありましたが、中盤くらいで「やり過ぎ」な演出の数々にも慣れてしまうので、違和感という程には至らず。 どちらかというと「顔の白塗り」演出の方が良く分からなくて(死相を映像的に分かり易く表現したのか? あるいは悪人であるという証?)と軽く混乱させられましたね。 あれに関しては、もう少し説明が欲しかったところです。 人の良い親父さん風の津川内蔵助に関しては、実に魅力的で、好感触。 1990年版の「忠臣蔵」と同じように「本当は討ち入りをしたくない」という立場であるのも、自分としては嬉しいポイントでした。 自らが義士として称えられる未来を予見し、伊右衛門には「可哀想な男だ」と同情する姿からは、歴史に名を残した男としての、凄みのようなものが漂っていたと思います。 とにかくパワーを感じさせる一品で、高岡お岩さんの巨乳を拝んだり、琵琶の音色に聞き惚れたりするだけでも楽しめるのですが、上述のように「やり過ぎ」に感じられる場面も多々あり、そこを受け入れられるかどうかでも、評価が変わってきそう。 例えば、主人公の伊右衛門は、金策の為に辻斬りを行ってしまった事が負い目となり、赤穂浪士ではなくなる訳だけど「堀部安兵衛だって同じ事をしたのに、あちらだけが義士として英雄視されるのか」というやるせなさを伴った展開である為「義士としての赤穂浪士の偶像を否定する」描写だとしても、ちょっと理不尽で、納得いかないものがあったりするんです。 また、清水一学が伊右衛門のフトモモを撫で回す件などは、同性愛描写には免疫があるはずの自分でも(気色悪いなぁ……)と思うものがあり「フトモモの奥にある何かまで触っている」と気付いてしまった時には、流石に後悔。 最後は綺麗なお岩さんに戻って、伊右衛門と和解し、夫婦仲睦まじく幽霊となって終わりというのも、急展開過ぎるというか、主人公に都合が良過ぎるようにも思えましたね。 それら全てをひっくるめて、この映画特有の味であり、全てが好みである人にとっては、もう凄まじい傑作に感じられそうな……そんな作品でありました。 [DVD(邦画)] 7点(2017-01-16 20:47:47) |
36. 矢島美容室 THE MOVIE ~夢をつかまネバダ~
《ネタバレ》 新年一発目の映画という事で、楽しい気分に浸れそうな作品をチョイス。 元々とんねるずが大好きという事も相まってか、充分に満足のいく内容でしたね。 これまでレビューしてきたタイトルの中には「クオリティが高いのは分かるけど、どうも好きになれない」というタイプの品もありましたが、これはその逆をいく一品。 どう見ても安っぽい「アニメ的な世界観を実写で大真面目に演じてしまう作品」のはずなのに、それが妙に面白かったりしたんです。 理由は色々あると思うのですが、その一つとして「内輪ネタ」が挙げられて「細かすぎて伝わらないモノマネ」でお馴染みの方が端役が出演していたり、ノリダーとチビノリダーとのやり取りが描かれていたりするのが、元ネタを知っている身としては、もう嬉しくって仕方なかったのですよね。 こういう「分かる人には分かるネタ」って、興醒めになったり、疎外感を抱かされたりする事も多いのでしょうが、自分としては正にドストライク。 「間違いなく、この映画の世界観を共有している」「観ている自分も、この映画の仲間なんだ」という感覚に浸らせてくれました。 全体的にはコント調の作風の為、ちょっと中弛みするというか、九十八分は長過ぎたようにも思えましたが、終盤にて「ソフトボールの試合」という山場をキチンと用意してくれている為、全体としては綺麗に纏まっていたんじゃないかな、と思えます。 「友情より恋愛が大事」「だって、恋愛はすぐに壊れちゃう。大切にしなきゃ」「友情は永遠。滅多な事じゃ壊れない」という台詞の数々も、非常に好みでしたね。 燃えるボールを燃えるバットで打ち返すというベタな演出も良かったし、最後は元気良く皆で唄って、笑顔で終わるのも気持ち良い。 父親との再会は描かれなかった事や「この借りはパート2で必ず返す」という台詞など、続編が存在しないのが寂しくなってしまう部分もありましたが……まぁ、それらも「ネタ、ギャグの一種」と受け止められるような大らかさ、笑い飛ばせるような馬鹿々々しさが備わっていたのではないかな、と。 期待通りの、楽しい映画でありました。 [DVD(邦画)] 7点(2017-01-05 16:15:30)(良:1票) |
37. 県庁の星
《ネタバレ》 これは面白い。 失礼ながら期待値は低かっただけに、嬉しい不意打ちを食らわせてもらった気分です。 劇中においても、こういった気持ち良い「不意打ち」が幾つかあって、特に印象深いのは主人公が婚約者に振られてしまう場面。 ここは観客の自分としても、主人公の気持ちとシンクロして「出世コースから外れたので振られてしまった」とばかり思っていたのですよね。 けれど、実際はそうじゃない。 「私の事を見てくれなかった」のが破局の理由であり、思い返せば、確かに伏線(=主人公は仕事について考えてばかりで、彼女のウェディングドレスを選ぶ際にも上の空)が張られていたのですよね。 これが「理不尽な裏切り」ではない「心地良い意外性」となっており、自分としても、この場面をキッカケとして(これは思っていたような映画とは違うぞ……)と襟を正して観賞する事が出来たように思えます。 潰れそうなスーパーを主人公が再生させる話といえば「スーパーの女」という先例が存在しており、あまり目新しさは望めないだろうと覚悟していたのですが、そんな予想も覆される事になりましたね。 あちらの作品は、ちょっと意地悪に解釈すれば「絶対的に正しい主人公が、間違っているスーパーを改革する話」という、やや一方的な内容であったのに対し、本作では公務員の主人公と店で働くヒロイン、それぞれに「正しい部分」「間違っている部分」が存在しており、対立を経て互いに認め合い、欠点を補完し合っていくという内容なのです。 それが非常に好ましいというか、自分の感性に合っていたように思えますね。 他にも「水で手を洗おうとしたら、蛇口が汚くて躊躇する主人公」という些細な描写で、その性格を端的に示してみせる辺りも好みでしたし「プライドの高さゆえ僅かなお辞儀しか出来なかった主人公が、研修期間を終えて店を立ち去る際には深々と頭を下げる」というベタな演出を挟んでくれる辺りも心地良い。 最後の最後で、店を守る決め手が「カンニング」という辺りには幻滅しかけましたが、そこで、またまたサプライズ。 それまで役立たずとして描かれていた店長が、意地を見せて店を守る形となっているのも嬉しかったです。 現実的な題材であるにも拘らず、そこかしこにリアリティの乏しい部分が見受けられる事。 主人公とヒロインが恋愛関係になる必然性は無かったように思える事。 そして、店のパートと行政パートが、あまり密接に絡んでいない辺りなど、色々と粗も目立ってしまうのですが、それでも全体としては長所の方が多かったかと。 研修を通して主人公が学んだのは「素直に謝る事」「素直に教わる事」「何かを成し遂げるには、仲間が必要だという事」と語る件も良かったですね。 完全無欠のハッピーエンドとはいかず、女性知事の狡賢さ、強かさを見せ付けるシニカルなテイストも備えており、それで後味が悪くなるかと思いきや、主人公は全て承知の上であり、前向きな姿勢と共に終わってくれたのも素晴らしい。 「そう簡単には通らないはずだ」「でも、諦めない」という、一時的な努力だけで済まさない、努力を継続する決意の恰好良さが伝わってきました。 その第一歩が、県庁におけるエスプレッソの有料化という、非常に小さなものであった辺りも、ユニークな落としどころだと思います。 面白い、楽しめたというのは勿論ですが、それ以上に「気持ちの良い映画」でありました。 [DVD(邦画)] 7点(2016-12-29 08:20:51)(良:2票) |
38. 忠臣蔵 花の巻・雪の巻(1962)
《ネタバレ》 正統派の「忠臣蔵」映画としては、これまで観てきた中でも五指に入る出来栄えではないかと思われます。 (ちなみに、正統派ではない変化球で真っ先に思い付くのは1990年のドラマ版です) とにかく、余計な事をしていないというか、必要なエッセンスだけを抽出した感じがして、観ていて安心させられるものがありましたね。 基本的には1954年版の同名映画のリメイクと言って良い内容なのですが、あちらが当時としては斬新な演出や解釈を色々と盛り込んでいるのに対し、こちらは旧来通りというか、真っ当な娯楽映画に仕上げてみせたという印象です。 岡野金右衛門が大工の娘と恋仲になる件の尺が長いのと、三船敏郎演じる俵星玄蕃の存在感が強過ぎて浮いているように感じる辺りは難点でしたが、きちんと作中のクライマックスを「討ち入り」に定めている為、全体のバランスとしては整っているように思えました。 特に感心させられたのが、吉良上野介の描き方。 冒頭にて「前々から浅野には怨みがあった事」「上司から浅野への復讐を促されていた事」などが語られている為、何故わざわざ意地悪をしたのかと、観客に疑問を抱かせない形になっているのですよね。 そういった情報を前もって提示する事で吉良側の動機を補強しつつ、浅野に対する場面では存分に「嫌味、吝嗇、欲深な爺様」っぷりを披露して(こりゃあ浅野が怒るのも分かるわ……)と思わせてくれるのだから見事。 作り手としては、恐らくそんな意図は無く、吉良の悪役っぷりを際立たせる為の台詞だったと思われますが「臆病と言われれば、それはいっそ儂には自慢になる」と言い放つ姿なんかも、妙に人間臭くて、自分としては好感を抱きました。 加山雄三が内匠頭を演じるというのは驚きでしたが、生真面目で、気が強くて、病的なくらいにプライドが高いという、難儀な人物を見事に演じており(こういう役も出来るんだなぁ)と感心させられましたね。 刃傷を起こした後、乱心したという事にすれば罪も軽くなるのに、それを潔しとしなかった堅物っぷりにも、説得力があったと思います。 内匠頭を描く上でネックとなるのは「自分の行いによって家臣達が路頭に迷うとは思わなかったのか? 本当に名君なのか?」という点なのですが、本作においては「賄賂が横行する現在の政治は間違っている」という正義感が動機の一つとなっている為、一応浅野側の言い分も理解出来ます。 松の廊下の件でも「先に手を出したのは吉良」という形になっており、浅野側が正しいという作中の価値観に対し、反感を抱かずに済むようになっていますね。 討ち入りの場面に関しても、二十分ほど掛けて丁寧に描いており、充分に納得のいく出来栄え。 雪を踏む足音に合わせるように流れる伊福部音楽は、最初こそ「ゴジラかよ!」とツッコませてくれますが、慣れれば「忠臣蔵らしい、重厚な迫力がある」と思えました。 暗い屋敷内に、侵入者側が蝋燭を配置していく流れなんかも面白くて、堂々とした合戦ではなく「夜陰に乗じて寡兵で攻め込んだ奇襲戦」である事を実感させてくれます。 また、吉良を殺害する場面を直接描かない事、事件後の切腹の様子をナレーションだけで済ませた事も、効果的でしたね。 それによってネガティブな印象が薄れ、本作は「主君の仇討ちを果たした赤穂浪士が、誇らしげに町を歩く姿」という、鮮やかな印象のまま完結を迎える形となっており、若干の苦みを含みつつも、後味は爽やか。 自分が忠臣蔵モノで何か一つ薦めるとしたら、上述の1990年のドラマ版なのですが、そういった変化球作品を楽しむ為には、やはり本作のような真っ当な魅力の「忠臣蔵」も味わっておくのが望ましいのでしょうね。 久々に、王道の魅力を堪能させてもらえた一品でした。 [DVD(邦画)] 7点(2016-12-05 18:23:50) |
39. 炎上
《ネタバレ》 小説では味わえない映画の魅力の一つとして「音」があります。 本作においても、作中の関西弁が早口であり、それによって主人公の吃音の「周りと歩調が合わない、取り残された感じ」が際立っていたのが印象深いですね。 序盤にて主人公が金閣寺(=驟閣寺)に見惚れているシーンで、唐突に音楽が流れだす演出などは「ちょっと分かり易過ぎるかな」とも思いましたが、総じて音楽は秀逸であり、それでいて多用する事は無く、静かな場面の方が多かった事も好印象。 また、何と言ってもラストにおける、燃える寺の囂々とした焼け音が素晴らしかったですね。 モノクロ映像ゆえか、それまでは驟閣寺の美しさを感じ取る事が出来なかった中で、炎上するその姿からは、圧倒するような美を感じられました。 原作小説には愛着がある為、柏木(=戸刈)よりも重要な人物であろう鶴川の出番が殆ど無い点。 そして、主人公が列車から身投げするという結末も、原作の「生きようと私は思った」という前向きな姿勢とは全く正反対である点などは、正直抵抗もあったりするのですが、そういった先入観を排し、一本の映画として観賞すれば、充分に楽しめる代物だと思います。 主演の市川雷蔵は、相変わらず惚れ惚れするような演技巧者っぷりだし、彼の悪友を演じる事となる仲代達矢の存在感も素晴らしい。 「あんた、その片端の脚が自慢なんやろ?」 「片端やなかったら、誰一人振り向いてくれる人あらへんもんな」 なんて痛烈な台詞を吐く新珠三千代の姿も、忘れ難いものがありました。 原作において、何よりも美しいと感じられたのが、あれほどのドン底に落ち込みながらも、なお生きようとした主人公の最後の姿だった事に対し、本作においては「驟閣寺と心中しようというかのように、刑事を振り払って身投げする主人公」の姿が、非常に醜く描かれているように思える辺りも、何だか興味深い。 様々な意味で原作小説とは異なる、意図的に対とした結末であるように感じられました。 [DVD(邦画)] 7点(2016-10-29 19:33:55) |
40. ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣
《ネタバレ》 南海の孤島が舞台の怪獣映画という、実に好みな一品。 ちょっとしたリゾート気分も味わえるし、何よりキングコング(1933年版)同様に「怪獣が大き過ぎず、強過ぎず」なバランスが心地良いのですよね。 このくらいの「民家の倍程度の大きさの怪獣」って、妙に親近感が湧くというか、子供の頃に「怪獣と友達になるなら、ゴジラみたいな大き過ぎるサイズじゃなくて、キングコングくらいのサイズが良いな」と考えていたのを思い出したりしちゃって、とにかく大好きなんです。 ストーリーに関するツッコミ所は、余りにも多過ぎるので逐一指摘するのは止めておきますが、そんな中「メインは人間VS怪獣の物語である」という点に関しては、大いに評価したいところ。 しかも軍隊ではなく、あくまで一般人の主人公達が銃を手にして戦い、ガソリンを使ってゲゾラを火あぶりにしたり、ガニメの眼球を狙撃して盲目にした後に崖から落としたりするのだから、手に汗握るものがあります。 「こういうのを見たかったんだ!」と、喝采を浴びせたい気分になりましたね。 ただ、終盤にはお約束の「怪獣VS怪獣」そして「火山が全てを解決エンド」という形になっており、非常に残念。 単純に怪獣特撮という観点からしても、ゲゾラが現地の村を襲っているシーンがピークであり、以降はそれを上回る衝撃を味わえない形となっているので、何だか尻すぼみに思えてしまうのですよね。 憎まれ役だったはずの小畑さんが、最後の最後に人間の意地を見せて、自らの体内に巣食う宇宙生物もろとも自決する展開に関しても (火口に飛び込む姿を、もっと上手く撮ってくれていたら感動出来たのに……) と、勿体無く感じてしまいました。 怪獣映画といえば、人間のエゴに対して反省を促す終わり方が多い印象がある為、こういった形の「人間賛歌」とも言うべき結末は珍しく、好ましいものがあるだけに、手放しで作品を絶賛出来ない事が、何とも焦れったい。 そんな具合に、贔屓目で観ても、色々とディティールの甘さが気になってしまうような、隙の多い本作品。 それでも好きか嫌いかと問われれば、迷い無く「好きだ」と答えられる、愛嬌に満ちた映画でありました。 [DVD(邦画)] 7点(2016-09-30 04:07:24)(良:3票) |