1. オデッセイ(2015)
マット・デイモンが宇宙の果てに一人取り残された宇宙飛行士を演じると聞けば、やはり「インターステラー」での“マン博士”が記憶に新しいところ。 さすがにあまりに似通った役を続けてやるのは如何なものかとは思った。けれど、実際に観てみたならば、設定的に類似しているからこそ、キャラクター造形の明らかな相違が際立ち、敢えて同じ俳優が続けて演じたことに意味があったとも思えた。 そして、この映画の主人公役において、マット・デイモン以上の適役も他にいなかったろうと思う。 火星に一人取り残される宇宙飛行士を演じるにあたり必要な要素は、肉体的な逞しさと類まれなインテリジェンスだろう。更に今作の役どころにおいては、直面する危機に対して常にユーモアを保ち続けられる本質的な明るさと生物的な強さをも併せ持たなければならない。 また、映画の大半を俳優の“一人語り”で構成しなければならない特性上においては、ハリウッドにおいてもトップクラスのスター性が必要不可欠だったはず。 それらすべてを踏襲した俳優は誰か。そりゃあ、マット・デイモンしかいないというもの。 宇宙でのサバイバルという題材においては、先に挙げた「インターステラー」や、「ゼロ・グラビティ」、「アポロ13」など類似する過去の傑作は多い。 リドリー・スコットとマット・デイモンというハリウッドきっての一流どころが組んだとはいえ、そこにオリジナリティを生むことは容易では無いはずだが、今作の場合は、やはり原作が優れていたのだろうと思う。 火星に取り残された宇宙飛行士が植物学者で、農耕をはじめとする“創意工夫”を駆使して生き延びていく様は新しかったと思うし、その主人公が常に軽妙で軽口を叩きながら極限状態を過ごしていくキャラクター造形が、何よりも独創的だった。 追い詰められた時に、自らの状況を俯瞰し笑い飛ばし、ギリギリの状態から生み出された「工夫」によっていかにその場をやり過ごせるか。それこそが、人間という生物の真価だろうと思う。 この映画のラストは、主人公が未来を担う若者たちに「質問は?」と問い、彼らが一斉に挙手するカットで締められる。 どんな状況であれ常に未来に対しての一歩を踏み出そうとする勇気と希望に溢れたいい映画だったと思える。 [映画館(字幕)] 8点(2016-03-19 20:12:15) |
2. オーメン(1976)
よりによって妻子が実家に泊まり誰もいないひとりぼっちの夜に、この有名過ぎるホラー映画を観なければならなかった一週間レンタルの最終日。 ホラー映画に限ってはまだまだ“ビギナー”なので、どうなることかとビクビクしながら観すすめたが、流石はホラーというジャンルを超えた「名作」の呼び名に相応しく、“しっかり”と面白かった。 “恐ろしい”映画であることは言わずもがなだが、描き出される物語をどう「解釈」するかによって、この映画の“恐ろしさ”は大いに様変わりすると思う。 映画が伝える雰囲気のまま、悪魔の申し子“ダミアン”の禍々しさに恐怖することも勿論正しかろう。 一方で僕は、この映画が伝える「恐怖」のもう一つの側面に震えた。 それは即ち、この映画において、ダミアンは「実は何もしていない」という事実だ。 描き出される“おぞましさ”の殆どは、彼を崇める悪魔崇拝者の言動によるものであり、主人公のグレゴリー・ペックらを襲う恐怖の正体も、神にしろ悪魔にしろ狂信者たちの煽動によって導かれたものに過ぎないのではないかということ。 ラストの顛末に明らかなように、端から見れば、主人公の姿は完全に気が狂った父親にしか見えず、この映画が描く本当の恐怖は、「悪魔」の存在などではなく、人間が元来持っている不安定さとそれに伴う危うさそのものであることに気付かされる。 ジェリー・ゴールドスミスの荘厳な調べに誘われて、深く暗い「恐怖」というエンターテイメントを堪能した夜だった。 [ブルーレイ(字幕)] 8点(2013-12-03 01:01:37)(良:2票) |
3. オスロ国際空港/ダブル・ハイジャック
例によって往年のハリウッド映画に対する邦題のつけ方には、腑に落ちないものが多い。 原題は「The Terrorists」。大使を人質にとったテロリストが政府にテロリスト犯の釈放を要求し、軍人のショーン・コネリーがそれに対峙する。 「オスロ国際空港」まではまだいい。問題は副題。“ダブル・ハイジャック”って一体何のことを示しているのか? 大使館を占拠するテログループと、彼らを逃がすために仲間が企てた民間機の占拠という二場面構成でストーリーは展開していくが、だからと言って”ダブル~”というのは、大いに焦点がズレているように思う。 映画自体は、決して仰々しくない渋い展開が、ショーン・コネリーの渋さと相まって、いい雰囲気を醸し出す。 ただクライマックスの顛末があまりに力弱く、少々ぐだぐだな感じで事件が収拾してしまい、爽快感がまるでない。 オスロの凍てつく空気感と同様に、段々と寒々しさが増してくる映画だった。 [DVD(字幕)] 5点(2010-11-21 21:18:53) |
4. オリエント急行殺人事件(1974)
アガサ・クリスティ原作の「名作」というこの映画に対する評は随分と前から認知していて、10年以上前にレンタル落ちのビデオテープも購入していたのだけれど、なかなか食指が動かず、観る機会がなく、ビデオもどこかにいってしまっていた。 食指が動かなかった最大の理由は、“ストーリーのオチ”を知ってしまったからに他ならない。 原作も映画もあまりに有名な作品なので、どこかしらからミステリーの顛末が耳に入ってしまったのだ。 オチを知ってしまったミステリーほど魅力減のものはないわけで。 満を持して鑑賞に至ったわけだが、なるほど面白い。 何たってアガサ・クリスティのミステリーなので、そのストーリー展開はもはやミステリーの「定番」といったもので目新しさはない。 しかし、描き出される映画世界にはもちろん時代は感じるが、往年の娯楽映画によくある“古臭さ”は全くなかった。 それは名匠シドニー・ルメットの卓越した映画創りによるものだろうと思う。 前述の通り顛末は知ってしまっていたので、ミステリーに対する“驚き”は少なかったが、それでも思わず唸りたくなるような「真相解明」は、流石に上質だった。 [DVD(字幕)] 8点(2010-08-08 10:53:47) |
5. オペラ座の怪人(2004)
何よりも、映画化ということに対して臆せず、舞台通りに映像世界全編をオペラ調に仕上げ、完成させたことに、「オペラ座の怪人」という神々しいまでのオリジナルに対する尊敬と自信が感じられた。台詞のほとんどが歌唱によって紡がれることに違和感を持つ人もいるようだが、そのことこそ、この作品を映画化する“意味”だと思う。舞台を見たことは無いのだけれど、歌で語らずして何が“ファントム”かという盲目的な概念を知らぬ間に植えつけるこのキャラクターの哀しく切ない存在感は凄い。文芸的な映画だけにある程度のかったるさは覚悟していたのだけれど、そんなもの微塵も感じさせないテンポの良さと、極めて完成度の高い映画世界に呑み込まれる。 9点(2005-03-23 00:17:35)(良:1票) |