41. ノー・マンズ・ランド(2001)
迫力ある戦闘シーンが売り物の昨今のハリウッド製戦場映画とはがらりと趣の違う作品。むしろ戦闘シーンなどは皆無で、しかも決して反戦を声高に叫んでいないにも拘わらず、そのメッセージ性は強烈で、言わんとするところは十分理解するに足り得るものがある。一度は心を通わせかかった二人だったのに、なんとも呆気ない結末を迎えてしまうが、国家レベルでの争いも個人レベルでの諍いも所詮人間の愚かさ故、いや人間とはむしろ本来そういうものなのだと作者は言いたげだ。そして寝返りすらうてないまま、ただ地面に横たわっていなければならないという残酷で象徴的なラストに、この作品のすべてが集約されている。 8点(2002-07-28 14:30:02) |
42. ミニミニ大作戦(1969)
クインシー・ジョーンズの甘美なメロディが流れるオープニングから一転して、想像もつかないような過激な展開で、我々観客は画面にくぎ付けになってしまう。ストーリーは金塊を強奪したイギリスの強盗団と、それをイタリア警察と別のギャング組織が追っかけるという、よくある話。ただ、この作品の凄いところは、まだ“カーチェイス”という言葉すらなかったこの時代に一切のトリックなしで、車(ミニ・クーパー)を実際にビルとビルの間を飛び越えさせたり、下水管の中を走行させたりと、かなり大胆で画期的なことをやってのけたことにある。交通渋滞の難所と言われるトリノの街中を、そして迷路のような石段を駆け降りるといったアクロバティックなシーンは後年、日本の車のCFでパロディになったほどで、まさにこういったジャンルの先駆的作品だったと言える。まんまと大型バスに乗り換えてアルプス越えを計った彼らを待ち受けていた皮肉なオチに、当然続編を期待したのだけれど・・・。唯一その点だけ不満が残っている。 8点(2002-06-09 16:21:01) |
43. 恐竜100万年
「ジュラシック・パーク」が出現するまでは、恐竜モノの代名詞として君臨していた作品。いわゆる、DNAなどで再生されたクローン恐竜などではなく、紛れもなく原始時代を舞台にした、原始人と恐竜たちとの共存と闘いの物語。このジャンルの古典「キングコング」から伝統的に受け継がれている人形アニメーションのコマ撮り技術が、R・ハリーハウゼンの手によってさらに見事な動きを見せてくれる。闘いに敗れた恐竜が心臓の動きを停止し息絶えるシーンや、プテラノドンの翼の動かし方。あるいはユニークな巨大肉食ガメの登場といった、昨今のCGとはひと味もふた味も違う興奮を味わせてくれる。火山の大噴火によりすべてが呑み込まれていくスペクタクルなシーンもクライマックスに用意されていて、まずはボリュームたっぷりな作品だったと言える。原始人にはとても見えないR・ウェルチが見事なプロポーションを披露し、この作品に彩りを添えてくれていたのも嬉しかった。 8点(2002-05-09 17:28:31)(良:3票) |
44. チキ・チキ・バン・バン
発明狂の主人公が語る子供たちへの夢物語を、そのまま奇想天外なミュージカルとして繰り広げていく。いかにも英国製ミュージカルらしく格調高く抑制の効いた楽しい作品で、飛行船が出てきたりお城でのオモチャの人形に化けた主人公たちの奮闘など、その特徴は際立っている。チキチキバンバン号がゆっくり空へ舞い上がり飛行するラストのオチは特に痛快! 8点(2002-04-27 23:11:37) |
45. エイリアン
話の基本は“ちょっと大袈裟な鼠退治”といったところで、やがて定石通りミイラ取りがミイラになってしまう訳で、一人また一人と乗組員を始末していくエイリアンは、あたかも一匹狼の殺し屋のように描かれていく。その“彼”の血液(体液か?)が宇宙船の鋼鉄製の床を次々と溶かしていく様に、当時新鮮な驚きを感じたものだった。独特の映像世界で展開されるこのクオリティの高い宇宙スリラーは、後年数多くの作品に様々な影響を及ぼしたと言うことからも、ひとつのエポック・メイキングな作品として記憶にとどめて置きたい。 8点(2002-02-20 00:41:49) |
46. スパイ・ゲーム(2001)
任務遂行の為には犠牲もいとわない冷静沈着なスパイのプロが最後に下した決断は、男の友情のドラマとして実に泣かせるが、個々の観客の見方によっては評価の分かれるところだろう。しかし少なくともCIAの仲間をだし抜くプロセスはひたすら面白く、しかも電話一本で解決してしまうというご都合主義も、R・レッドフォードの存在感がすべてを納得させてしまう。皺が増えてもなお若々しいレッドフォードと、精悍なB・ピットのむしろ押さえた演技とは好一対だと思う。画面のトーンはひたすら渋く、アクションが決して前面に出ている訳ではないが、胸のすく痛快作に仕上がっている。 8点(2001-12-30 23:50:44) |
47. 探偵[スルース](1972)
先日亡くなった劇作家アンソニー・シェーファーの大ヒット舞台劇の映画化作品。世界的に有名な推理作家アンドリュー・ワイクが妻の浮気相手マイロに自分の巨額の宝石を盗ませ、自らも保険金サギの片棒を担ぐというもの。2人が虚々実々に展開するゲームはピストルで射殺するという事件にまで発展していき、その後二転三転のどんでん返しが続いて、やがてこのイギリス色強い趣味的ゲームは遊びのドラマからいつしか互いに傷つけ合う迫真的な人間ドラマとなっていく。舞台の殆どが室内で展開され、ストーリーの面白さもさることながら、ローレンス・オリビエとマイケル・ケインの新旧名優の丁々発止の火花散る演技がなによりも見もので、2人の主人公の立場や経歴が、当時の彼らとだぶって見えるという点でも実に興味深い。 8点(2001-11-10 23:34:27) |
48. アポロ13
月に到着・征服するはずが機械の故障で不可能となった時点から、この極限状態におかれ生命さえ危険にさらされる三人の宇宙飛行士という物語は、たちまち帰還がテーマとなってくる。人知の及ばない神的な宇宙にいながら、結局、人間の知恵と技術によって助けられるという、宇宙に対するロマンというよりも、むしろ実話としての重みを感じざるを得ないし、またアメリカ映画の基礎とも言える“フロンティア・スピリッツ”と“ゴーイング・ホーム”というテーマをも見事作品に生かされている。 8点(2001-10-20 23:41:26) |
49. クイルズ
この作品は、世の中の常識や道徳といったものが人間の想像と表現の自由を奪うという、このサド公爵の時代から現代にまで延々と続いている問題を、芸術的かつ官能的に描いていく。人々に影響を与え続ける為に書くことに執拗に拘るサドは、衣服まで剥ぎ取られるが、それでもあらゆる手段を講じて諦めようとはしない。極めて貴族的・紳士的であるものの自らの死をもってでも抵抗し続けた、狂気というよりは偏執狂的な難しい役どころを、J・ラッシュが貫禄の演技で見せてくれる。一方で正常と狂気の間で苦悶する神父という役どころは、まさにJ・フェニックスのハマリ役で、右に出る者なし! 8点(2001-10-07 00:44:29) |
50. 愛のエチュード
主人公は子供の頃の出来事がトラウマとなってある種自閉症的で、生きる事に不器用でましてや服装などには何の関心も示さない。又、大胆かつ激情的である反面、ガラスのように繊細な天才肌のチェス名人である。そんな彼をJ・タトゥーロがこういう役どころを天賦の才の如く絶妙に演じきる。一方、貴族的な価値観で生きてきた令嬢が、初めて本気で愛した男に迷うことなく献身的に尽くし、自分の選んだ道が正しかったということを、愛を貫くことで表現するといった役どころを、E・ワトソンが的確にそしてしたたかに演じて魅せる。悲劇的な結末であるにも拘わらずむしろ爽やかな余韻を残すエンディングだ。 8点(2001-10-06 16:51:49) |
51. シャドウ・オブ・ヴァンパイア
ドイツ表現主義の傑作「ノスフェラトゥ」の当時の撮影現場をそのまま再現してみれば、スタッフは全員、白衣にゴーグルといった出で立ちで、 それがまるで科学の実験場のようであるのは、いかにも当時のドイツの雰囲気が伝わってきて興味深い。しかしやはりこの作品の命とも言えるW・デフォーの特殊メイク冴えわたる吸血鬼ぶりには感嘆せずにはいられない。傑作を撮るには手段を選ばないJ・マルコヴィッチ演じる天才肌のムルナウと、本物の吸血鬼との丁々発止のバトルの構図が面白く、とりわけギャラとして約束された女優の血を待ちきれず、ついにクルーの血を吸ってしまい監督にたしなめられるといった、お茶目で可愛らしい反面、いかにも時代遅れの吸血鬼といった感じをデフォーが水を得た魚の如く嬉々として演じてくれる。これはまさにキャスティングの勝利と言える作品だ。 8点(2001-10-06 15:32:32) |
52. エンゼル・ハート
恐怖感・不安感というものを、ドイツ表現主義的陰影のある映像で最大限の効果を上げ成功した作品として、今なお鮮烈な記憶として甦る。 旧式のエレベーターの長い影や換気扇の音ですら不気味で、さらに天井から雨漏りのように滴り落ちる血のイメージや、謎が謎を呼ぶといった構成等々、この作品の雰囲気を盛り上げるには十分すぎるほどの仕掛けが、随所に施してある。ただそう言った映像面に比べて、ストーリーにおける西洋の契約社会という側面の描写が喰い足りないせいか、少し解かり辛い印象をも受ける。 8点(2001-10-06 13:51:51) |
53. オーメン(1976)
木の葉が舞う大嵐の中、落雷で折れて落下した避雷針が逃げ惑う神父を直撃した瞬間、ぱーっと日が差すというシーンが大のお気に入りの作品。悪魔そのものがまったく姿を現さないで、いかにも偶発的な事故がその成せる技といった描き方が、当時としては珍しく大いに話題ともなった。ストーリーにはやや無理があるとは思うが、「スーパーマン」とはがらっと趣が違った独特の雰囲気を創り出し、R・ドナー監督は見事なエンターティンメントに仕上げている。 8点(2001-09-02 15:00:03) |
54. 日の名残り
お互いに好意を抱きながら、ひと言の愛を語ることもない大人の恋。その言葉にならない微妙な男と女の想いのたけを、名優A・ホプキンスとE・トンプソンが絶妙な演技で見事に体現して見せてくれる。雨の停車場での別れのラストはただひたすら美しく、まさに万感迫る思いだ。 8点(2001-08-19 23:13:26) |
55. ジャガーノート
監督の資質やお国柄からだろうか、パニック映画と言うよりはむしろ爆破魔とそれを阻止しようとする爆薬処理班等との虚々実々の駆引きを、スリリングに描いた正統派サスペンス映画と言ったほうがいいだろう。爆薬処理班が上空から荒海の中のブリタニック号に乗り移るシーンを迫力あるアドベンチャーとして描かれた前半と、タイムリミットが刻々と迫る中、高性能の時限装置付爆弾の複雑なメカニズムに恐怖を抱きながらも、人間の才知と勇気を賭けた男たちの闘いをリアリズムで描ききった後半との対比など、実に良く出来ている。 8点(2001-08-05 15:09:49) |
56. フォーリング・ダウン
仕事や家庭の悩みの積み重ねがストレスとなり、やがて暑い夏の昼下がり現実逃避する主人公。気持ちの爆発させどころを間違った為に、結果的に悲惨な結末を迎えることとなったが、これはいつ我々にも起こらないとは言い切れない、大きな問題を孕んでいる作品だ。M・ダグラスはこういう役が本来得意なんだなと思えるほどハマっているし、主人公を必死で助けようとする、定年間際の刑事=R・デュバルの渋さもたまらなくいい。 8点(2001-04-15 19:43:04) |
57. ラストエンペラー
くすんだトーンの現在と、眩いばかりの極彩色の世界として描かれた過去とをシンクロさせることによって、時代に翻弄されてゆく一人の男の人生を炙り出してゆく。ベルトルッチ監督らしいデカダンスな味わいが薄く、スペクタクル歴史絵巻という印象のほうが濃い。そういう意味では彼らしくない作品であり、むしろ坂本龍一の音楽がモノを言ったような印象を受ける。 8点(2001-03-17 23:34:39) |
58. エレファント・マン
偏見や差別意識は誰の心の中にもあるし、外見だけで我々は物事を判断してしまう。それはごく身近な生活であっても、人種差別といった様な全世界的問題であっても同様である。だからこそ誰もがある種の痛みや辛さを感じること無く、この作品を観ることは出来ない筈だ。そういう意味では、これは紛れも無く踏絵であり、人間の偏見というものを直視した異色作と言える。 8点(2001-03-16 23:20:15)(良:1票) |
59. プラトーン
国と国との戦いというよりも、戦争により狂わされた個人と個人とがぶつかり合う、恐ろしさ虚しさ悲しさを強調している視点がユニークな作品。数あるヴェトナム戦争を扱った映画の中では、その描き方は実に通俗的でありアクション映画のようでもある。随分昔に観た作品で、その時は衝撃的を受けたり感動もしたのだろうが、不思議なほど残っているものが少ない。所詮、風化しやすいタイプの作品だったのだろうか・・・。 8点(2001-03-16 01:31:13) |
60. 華氏451
一切の文字が禁止され、TVと絵だけの新聞が情報伝達手段として認められている近未来社会。書物を所持することすら違法で、発見されれば極刑に処せられ、火防隊の出動により書物を焼き払われる。なんとも暗鬱な未来で、実際こんな事が起こりうるのだろうかと考えさせられるが、しかし映画は「本は焼失しても記憶は消えない」とした反社会分子たちによる子孫から子孫へと伝えるために、書物の暗記を始めるという感動的なシーンで終わる。 8点(2001-03-11 23:41:43) |