1. かもめ食堂
透明なウィンドウから食堂に差し込む光がテーブルを白く輝かせ、ガラスコップやコーヒーカップがその白さに溶け込むように存在する。そこで展開する“お皿を磨く”“テーブルを拭く”“シナモンロールを作る”、そんな彼女たちの行為もその空間に溶け込んでいく。単なる会話の切り返しやクローズアップを廃し、人物を綺麗な位置関係に収めている。ワンショットは、振り向かせたり、立ち上がらせたりといった運動を伴わせ、シークエンスに挟まれるショットも路面電車、船、自転車が動いている。動く→食べる→動く→食べる、この人間=動物の単純な営みに潜む幸福感の主張がささやかだ。「やりたくないことはやらない」小林聡美と「やりたくないことでもやらざるを得なかった」もたいまさこと「やりたいことがわからない」片桐はいりが、その単純な営みを一歩昇華させ、いつでもどごでも人間は関係性の中でさらなる幸福感を得ることを見せる。動物と食材との物理的関係、個体と個体との精神的関係。オープニングの太ったかもめがとても幸福そうに思い返された。 [映画館(字幕)] 9点(2007-01-10 23:34:56)(良:1票) |
2. ガラスの脳
全くもってのおとぎ話であり、そこに徹した中田監督はやはり映画人だ。眠ったままの少女と彼女にキスをする少年。病院の廊下を歩く、病院への丘を駆け上がる、授業を終えると階段を駆け下りる、と静なる少女に対し、少年は常に動だ。少女の静が少年を動へ動へと導く。その静なる少女が5日間だけ動へと反転することにより、動と動とが衝突し動がさらに加速していく。そして再び少女は静へ。遊園地で少女がスカートに風を孕みながらくるくると周る、少女と少年か手を取り合いくるくると回る、その俯瞰ショットの円運動が傘と雨に彩られ見事だ。この少年にとって円の中心は常に少女であり、たった5日間が永遠となる純愛を描いた中田秀夫に、たった100分間による映画への永遠の愛が見えた。 [DVD(邦画)] 8点(2007-01-10 23:33:14) |
3. カポーティ
ぼそぼそと甲高い声でしゃべるカポーティの面白くないショットが続く。 [映画館(字幕)] 4点(2006-11-06 23:35:17) |
4. 紙屋悦子の青春
回想する病院屋上以外、紙屋邸の内部で完結するカメラが、卓袱台や机を挟んでの延々とした会話劇を、時おりバストショットを挟みながら、長回しで捉え続ける。演劇的に徹し潔いといえばそうだが。 [映画館(邦画)] 3点(2006-09-30 09:49:48) |
5. 亀も空を飛ぶ
作品全体を貫く力強さと繊細な細部、ドキュメンタリータッチとファンタジーのパッチワークが鮮やかに織り込まれた映画でした。たくましいやひ弱いといった形容を拒むように生きるために成すことを成すクルドの人々が描かれ、結果、同情や共感を拒むような屹立としたフィルム空間が生まれているのです。赤い金魚や亀、サテライトや目が見えない赤ん坊が比喩的でありながら、その意味を探ることが無意味であるかのように全てを無化しグレーで包み込んでしまうような曇天の空に、もしかしたら世界中のすべてが曇天であるかのような錯覚さえしてしまうようなその空に、青空にはない普遍性を感じながら映画館を出るとそこは曇天の冬空。この空はクルドにつながっているのか。 [映画館(字幕)] 9点(2006-01-03 18:02:01)(良:2票) |
6. カリスマ
職場の同僚に前々からこの「カリスマ」を見てその内容について語ろうと言われていたので、CSで放送されたのを機に鑑賞。今朝からその同僚と、映像に込められた生きる力と殺す力、自然と人間などについて、あのシーンはどうのこうの、このシーンはどうのこうのと二人で話していたらすっかり午前中はほとんど仕事が捗らず、私は昼から懸命に仕事をこなさねばならないのであります。どうのこうのと話させる映像の力を持った罪な映画ですな~。 [CS・衛星(字幕)] 9点(2005-06-24 12:32:37) |
7. 隠し剣 鬼の爪
《ネタバレ》 ん~、少々辛口になってしまいますがお許しを。タイトルとは裏腹に、この作品は出てくる人物人物が全てのシーンでまあなんでもかんでもよくしゃべること。会話のないシーンは皆無ではないか。幕末の時代、切腹や謀反や藩命などといった重々しい言葉などはどこ吹く風、軽々しく生ぬるい雰囲気に満ちております。真剣勝負でもペラペラ、変人であるはずの田中泯もペラペラと・・・。松が嫁いだ商家のおかみや家老は悪者すぎるしなあ。勝負が終わり、高島と永瀬がまみえるシーンは見せ場ですが、高島の表情で家老と何があったかを語っているのかと思いきや、次シーンの酒宴で家老の緒形が高島との一夜をペラペラとしゃべり出す始末・・・高島が永瀬のもとへ夫の命乞いにやって来たシーンは伏線ではなかったのか。ここは、高島の表情ですべてを悟ったことを永瀬の演技だけで見せて、そして鬼の爪を取り出すシーンへとつなぐべきだと思います。ラストも、野良仕事をする松を遠くに見ながら永瀬が去っていくシーンを想像した私を裏切り、見事に仲良く二人並んで、永瀬が松に「おまえが好きだ」・・・深みのなさにとどめを刺してくれました。山田洋次監督は「たそがれ清兵衛」の好評に時代劇を少しなめてしまったかのような印象の作品です。鬼の爪もいいが、是非“赤西蠣太”の爪の垢も煎じて飲んでいただきな~。 3点(2004-11-11 23:49:06)(良:2票) |
8. 風花(2000)
《ネタバレ》 いきなり4分以上の長回しオープニング。相米さんですなー。さて、カエルの鳴き声で始まるそのオープニング。これが映画全体を支配していることに最後に気付きます。ラスト、子どもの手から飛び出すカエル。カメと対比させながら、人と出会うことで時間はかかったけれどもピョンと弾んだ心的変化。そしてあっさりとした別れ。ここが2人のこれから、不器用ながらも人との距離感が確実に変わるであろう未来を感じさせてくれてとても温かくなりました。人生なんぞ、風花のようにどこからともなくやって来て、はかなく輝き消えるものなんですぞ、ゲロゲロ。 8点(2004-05-30 11:27:05)(良:1票) |