81. 友へ チング
ナンバー2の哀しみの映画か。かなわないナンバー1を常に意識して生きる人々。誰かに心酔するってそういうことでもあるし。そのかなわない対象への愛憎。ジュンソクがサンテクに女をあてがうのを、雑誌をパラパラめくりながら鬱屈して見ているドンス。またジュンソクも、親父がヤクザという負い目を持ち続けて、表街道を生きられるサンテクに「かなわない」いう気持ちを持っている。サンテクは自分のせいでジュンソクが退校になっている負い目を持つ。喧嘩を代行してもらう「かなわな」さがある。この「かなわない」でがっちり固まった関係が、つまり友情。ラストで初めてジュンソクはドンスに対する借りを返すわけで、ドンスの心酔に対応したことになるわけだ。 [映画館(字幕)] 6点(2008-07-06 12:16:41) |
82. ドッグ・バイト・ドッグ
《ネタバレ》 話はかなり大ざっぱ。重症だった破傷風の女性が、逃げた先でけっこう元気だったり。それに暴力描写もややドギツメで、うんざりしてしまうとこもある。殺し屋も刑事も非情の世界にどっぷり浸かってるってとこを描いてるんだから仕方ないんだけど、殺人犯をおびき出すために刑事が女を殴るってのは、見てて気持ちいいものではない。でもこれどうやらハードボイルドってよりも神話を描きたかったらしいのが、後半になって分かってきて、ならこういうのもアリか、とも思った。冷血な殺人機械として育てられてきた男が、女の足にゴムゾウリ越しに刺さった釘の痛みに共感し、何かが変わっていく。それはやがて子どもの父親として生きようとする希望に育っていく。一方刑事は、父親への失望から、自らを殺人機械へと駆り立てていく。この神話のような大掛かりな交錯を描こうとしたココロザシは、とりあえず買ってやりたい。 [DVD(字幕)] 6点(2008-06-21 11:52:57) |
83. TOKKO―特攻―
やさしい叔父さんと狂信的なカミカゼとがつながらない、という個人的疑問から出発しているのが、ドキュメンタリーとしての強みになった。兵士サイドが特攻戦法をどう受け入れたのかの説明としては「どうせ遅かれ早かれ死んでしまうのなら、少しでも有効に」っていうのが一番納得がいく。ほとんど整備もろくにできてない戦闘機で、毎日飛んで生きて帰ってくる確率を考えれば、そう判断するほうが合理的だったろう。しかしこういう“外道の戦法”を常態化させていった軍の上層部サイドの説明にはならない。この若き“英霊”たちをいわば人質にして空疎な精神主義を煽った面があり、これはどう考えても許せない。そしてこの“外道の精神主義”が、都市空襲や原爆の使用という虐殺に関してアメリカ軍側の心理的負担を軽くし(ジャップは命を軽んじるクレイジーな連中だ)、踏み切り易くしたという責任もあろう。出撃途中で敵機と遭遇し、爆弾を使い切ったので引き帰した、というエピソードがよかった。証言する人の表情や語り口がよかっただけに、アニメの使用は疑問。 [DVD(字幕)] 6点(2008-06-13 12:19:46) |
84. トーク・トゥ・ハー
この人の映画に出てくる女性って2種類あって、ひとつは力強い母親のイメージをひくゴツゴツした人、もうひとつはお人形さんのようなただただ愛らしい人。ベニグノ君の愛の対象は当然後者のタイプのアリシア。ベニグノ君のやったことは準強姦と言われるもので、これ法律上のみならず良くないことよ。でもこの尽くす愛のわがままさをもっと上のほうから肯定して見てしまうと、たとえば谷崎の言う「おろかという徳」なんて言葉を思い出したりして、この奇跡譚もやはり愛の一つの核心の現われではあるなあ、とか思ってしまう。「ククルククパロマ」の歌がしみるが、これ日本語に訳すと「鳩ぽっぽ」なのか。 [映画館(字幕)] 7点(2008-05-12 12:13:47) |
85. ドッグヴィル
この線引きセットの趣向は、町のプライバシーのなさや狭さを感じさせることでは成功していたが、新手法の映画を見たというより小劇場の舞台中継を見たって気にもなる。評価としては微妙なところ。話は面白い。他者を優しく受け入れる「癒やしのスモールタウン」のおっかなさ。祝福の鐘の音が、奴隷の仕事割りの合図になっていく。単にアメリカの風刺という以上の、たとえば安部公房の世界につながっていくような、集団とよそ者の苛酷な関係を描いた作品と思ったほうがいいんじゃないか。ローレン・バコールの相棒が、ベルイマン映画の常連ハリエッタ・アンデルソンだったのを、見てるときに気づかなかったのは残念。 [映画館(字幕)] 7点(2008-05-06 12:15:14) |
86. トランスフォーマー
もっと身近なものが次々に変身していく話なのかと思ってた。たしかにケータイや自販機も変身したけど、主は自動車で、もともと車は擬人化しやすいものでしょ、最近もアニメ『カーズ』があったばかりだし、車じゃ変身することのおののきが弱い。日本の妖怪では古くなった家具や道具が命を持ち動き出すってのがあるし、ボッシュやブリューゲルの絵にもそんなのがある。ああいう感じのアニミズム的百鬼夜行(まさにアニメの原点)を期待しちゃってたんで物足りなかった。こういう動きまわる画面でもちゃんと合成できるんだよ、って自慢したいのか、単なるアラ隠しなのか知らないけど、カメラワークがやたら目まぐるしいので疲れた。タトゥーロや美人科学者は中途半端なままで終わってしまった。とはいえ市街戦の場は合格点で、映画の誕生時にあっただろう見世物としての生命力みたいなものをちょっとでも感じさせてくれると、私は甘いのだ。 [DVD(字幕)] 6点(2008-04-26 12:22:06) |
87. トランシルヴァニア
大枠だけを取り出すと「ジプシー男をトランシルヴァニアにまで追ったフランス女が捨てられ、自らが流浪の人となる」って話。たぶんジプシーに対して昔からヨーロッパが抱いていた、偏見とセットになってるロマンチックな誤解ってのがあるんだろう。自転車で走る爽快感など、たしかにいいなあと思う。放浪って、壁に囲まれることの鬱屈からは自由になれるが、壁に囲まれることの安堵からも追放されるわけで、でもそこらへんを突っ込む映画ではなかった。異国で異邦人としてさまよう気分を疑似体験する映画か。おそらくスクリーンで見れば美しいんだろうなあ、という日没の光で撮られた場面があり(ヒロインが去った後の車の友人、ビールビンで頭叩く男)、そういうところDVDだと濁ってしまって残念。ここんとこ『パラダイス・ナウ』『ボンボン』とコーヒー占いの映画が続くと思ってたら、これにもまた出てきた。日常を離れる運命の訪れを示すときの定番なのか。 [DVD(字幕)] 6点(2008-04-17 12:23:59) |
88. 友だちの恋人
《ネタバレ》 等身大の人物に、作者の目はベッタリついてもいないし、見下ろしてもいない。心のふるえを精密に映して、しかもその精密さを自慢げに誇示しない。つまり上品なんだな。人と人は理解し合えないこともあるけど、理解し合えることもある、他人てのもオツなものです、って話。柄ものでない単色の衣裳と機能的な都市空間で、普通なら冷たさを表現する画面づくりが、逆の効果をあげている。女同士の義理なんて、日本だとここぞとばかりに思いっきりベッタリと描くところを、さらっとやってのける。ラスト、緑のブランシュが森を背景に右、青のレアが湖を背景に左。“男”の会話が別々の人物を指していたことが分かって、「じゃああんたファビアンと寝たの」とくる間が絶妙。青いファビアンと緑のアレックスが、木陰に隠れているカットもいい。 [映画館(字幕)] 7点(2008-03-05 12:18:58) |
89. トム・ヤム・クン!
《ネタバレ》 詩情あふるる導入部、そして悪人の屋敷に文字通り飛び込んでくる主人公のアクションのキレ、小艇での追っかけのスピード感、いいぞいいぞと前のめりになって見た。舞台がオーストラリアに移ってややダルになったか、と思うと、ローラースケートやらバイクやら車輪軍団との倉庫での闘争でつなぎ、密殺料理店でのひたすら階上へと向かうワンシーンワンカットに至る。撮り直し・壊し直しが簡単にはできぬ長回しの緊張がびんびん伝わってくる。ちょっと階段の手すりから下をのぞくと、男どもがワーッと駆け抜けていくのがピタリのタイミングで見えたりして、まことに嬉しい。映画というものを侮っていない姿勢に感銘を受けた。悪漢どもが、ヒーローが活躍しているときに卑怯な飛び道具を使わない・一人ずつ順番に出てきて順番にやられていく、と礼儀正しいのも立派である。 [DVD(字幕)] 8点(2007-12-08 12:18:15) |
90. ドリームガールズ(2006)
《ネタバレ》 ミュージカルを期待していたので、かなりがっかりした。ミュージカルとは「さっきまで普通にしてた人が突然歌ったり踊ったりするもの」と自分なりに定義しているので、ほとんどショーの場面で進行する本作は、部分的ミュージカル付き音楽ドラマということになる。ダンスが、手をヒラヒラする程度のステージ上の振り付けのみなのも寂しい。ミュージカル味が一番出ていたのは、エフィーがメンバーといさかいになるあたりで、その後の、誰もいない客席に向かい、初めてスターのようにステージの中央に一人立って切々と愛を歌うところで感動はしたが、それもほとんど彼女の歌唱力に負っている。 [DVD(字幕)] 5点(2007-10-21 11:26:01) |