1. プロジェクトA
《ネタバレ》 映画史に残る大傑作。 ジャッキーの自伝に曰く「少林寺や彷徨う戦士達を主人公にしなくても、格闘時代劇が作れる事を証明した」点が画期的との事で、言われてみれば本作の主人公って、現代の刑事物にも通じる「正義感溢れる警官」として描かれてるんですよね。 だからこそ、現代の観客にとっても感情移入し易いし、時代を越えた普遍性が有る。 そもそも中国(&香港)においては「官は悪、侠は善」(役人は庶民をいじめる悪役であり、御上に逆らう無頼漢が庶民の味方)という作劇上の伝統があった訳で、警官を主役に据えてる時点で、本作が斬新な映画であった事が窺えます。 その一方で「警察なんて辞めてやるぜ!」と啖呵を切ってバッジを投げ捨てる場面など、ちゃんと「理不尽な役人に逆らうアウトローな主人公」としての魅力も描いてるのが凄い。 当時の人々や「権力者側を善玉として描くのを嫌がる人」でも受け入れ易いよう作ってある訳で、この辺りのバランス感覚が、本当に見事。 「王道を裏切らずに、斬新な事をやってる」という形であり、これって理想的な「時代の先取り」の仕方だと思います。 自転車を駆使してのアクション(自分は「ノック」の件が特にお気に入り)も素晴らしいし、今や語り草になってる「時計台からの落下」シーンも、迫力満点。 後者に関しては、怯えるジャッキーを叱咤激励する形でサモ・ハンが監督しているとの事で、あの場面ではジャッキーが「監督」ではなく、単なる「役者」そして「スタントマン」に立ち返っているという意味でも、趣深い魅力がありますね。 「あの画には全く演技がなく、全て真剣だった」とジャッキーが語る通り、本当に限界を越えて手から力が抜けて(もう、だめだ)と思いながら落下したとの事で、作り物ではない「本物」の迫力が感じられるのも納得。 ただ、そんな名場面にも唯一の瑕が有り「時間が巻き戻ったかのように、違う落ち方を二度見せている」のが不自然なのですが…… これに関しては、劇中で「大口」役を演じたマースが、念の為に一度ジャッキーの代役として落下しているという裏話が影響していそうなんですよね。 つまり、ジャッキーが彼に敬意を表して、彼のスタント場面も無理やり本編に挿入した結果、不自然な形になったのではないかと推測出来るんですか、真相や如何に。 上述の「大口」への敬意の表れが、終盤の展開に影響してるように思える辺りも、ちょっと気になります。 本作のラスボスであるサン親分って、ジャッキーとサモ・ハンとユン・ピョウが三人掛かりで立ち向かうような強敵だったのに、何故か大口がトドメを刺す形になっているんです。 最後の漂流シーンでも、三大スターを押しのけて大口が一番目立っているし…… 大口が当初から準主役だった訳でもなく、脇役に過ぎなかった事を考えると、この「急に何かが変わったかのような優遇っぷり」は、如何にも不自然。 これも、時計台落下という危険なスタントをこなした大口に対する、ジャッキー監督からの「ご褒美」だったんじゃないかと、そんな風に妄想しちゃいますね。 でもまぁ、そういった難点があったとしても、本作が傑作である事は、疑う余地が無いです。 冒頭、ジャッキーが自転車を柵に突っ込ませる場面で、もう面白くって「これから凄い映画が始まる」って予感で、ワクワクしますし。 酒場での乱闘シーンなど、音楽の使い方も上手かったです。 沿岸警備隊が復活し「これより、プロジェクトAを決行致します」と告げる場面も恰好良くって、もしかしたらココが一番の名場面じゃないかと思えたくらい。 サモ・ハン演じるフェイとドラゴンが再会する件で、自然な流れで食事してジャンケンする場面など、短い尺で「二人は旧知の仲」と納得させる演出なんかも、流石だなぁと唸っちゃいますね。 この辺りは、実際に少年時代からの付き合いである二人だからこその、阿吽の呼吸を感じました。 京劇出身な二人らしい一幕もあったりするし、色んなジャッキー映画の中でも「サモ・ハンとの絆」が、最も良い具合に作用したのが本作だったように思えます。 他にも「時計台落下はハロルド・ロイドから、逃走シーンはバスター・キートンから影響を受けている」とか、この映画について語り出すと、止まらなくなっちゃいますね。 映画の評価なんて移ろい易いものであり「子供の頃に好きだった映画が、今観るとつまらなくて幻滅しちゃう」とか、逆に「子供の頃は退屈だった映画が、名作だと気付かされる」とか、色んなパターンがある訳ですが…… 本作に関しては「子供の頃も、大人になった今でも、大好きな映画」だと、胸を張って言えそうです。 [DVD(吹替)] 9点(2023-10-21 20:46:01)(良:2票) |
2. プロジェクトA2/史上最大の標的
《ネタバレ》 世の中には「単品として考えれば悪くないけど、あの○○の続編と考えると物足りない」って映画が沢山あるんですが、本作もその一つと言えそうですね。 何せ本作ってば、冒頭にて前作「プロジェクトA」の名場面を流しており、そっちの方が本編より面白かったりするんです。 これはもう、実に残酷。 冒頭にはサモ・ハンも、ユン・ピョウもいて画面が華やかなのに、いざ本編がスタートしたら彼らは出てこないんだから、落胆するなという方が無理な話です。 そんな「続編ならではの欠点」が、劇中で散見される形になってるのも辛いですね。 例えば「敵のアジトに乗り込み、多勢に無勢で負けちゃったドラゴンを沿岸警備隊が助けに来てくれる場面」なんかも、それ単体で考えれば悪くないんだけど…… 前作では敵のアジトで大暴れし、ドラゴンが一人で犯人を捕まえた流れがあっただけに(あれ? 今度は負けちゃったの?)って、拍子抜けしちゃうんです。 前作で良い味を出してた「大口」が続けて登場しているんだけど、サッパリ目立たなくて活躍しないというのも、寂しい限り。 自分は前作の感想にて「終盤で、唐突に大口が準主役級の扱いになるのは不自然」と指摘しているのだから、徹底して脇役な本作の方が、自然といえば自然なんだけど…… やはり、責任を取って欲しいというか、一度は活躍させて観客に愛着を持たせた以上、最後まで愛されるように、大事に扱って欲しかったです。 それと、前作でハロルド・ロイドの「要心無用」(1923年)をパロってみせたように、本作ではバスター・キートンの「蒸気船」(1928年)をパロっている訳だけど、それも成功してるとは言い難いんですよね。 前作では「時計の針にしがみつくだけでなく、そこから落下してみせる」という形で、元ネタを越えるほどの迫力を出していたのに、本作では元ネタと殆ど同じで「看板が倒れてくるけど、丁度枠の部分にジャッキーが収まる形になって助かった」というだけなんです。 しかも元ネタの「蒸気船」では、キートンは立ったまま位置を動いておらず、それゆえに「たまたま窓枠の中に収まって助かった」という可笑しみが生まれているんだけど、本作のジャッキーは看板が倒れてくる際に、咄嗟に位置をズラして大丈夫なよう調整しちゃっている訳で、これは如何にも拙い。 どうせ動くなら、バレないように微かに動く形ではなく、もっとダイナミックに動いて「動かないキートンと、動くジャッキー」という形で、元ネタとは違った面白さを打ち出すべきだったと思います。 あるいは、劇中で「神様、感謝」と言っている「神様」とは、喜劇の神様であるバスター・キートンの事を指しており「ドラゴンは『蒸気船』を観ていたお陰で、咄嗟に位置調整してキートンのように助かる事が出来た」って展開なのかとも思えるんですが…… 劇中の時代設定は「蒸気船」が公開される前のはずなので、この解釈は無理があるんですね。残念。 何だか不満点ばかり長々と述べちゃいましたが、良かった点も挙げておくなら…… ・前作より「刑事物」としての純度は高まっており、署長に就任した主人公が腐敗した警察署を改革していく流れは、中々痛快。 ・「レバーペースト」の機械に囚われた主人公が脱出する件は、記憶に残るだけのインパクトが有る。 ・サン親分の仇を取ろうとしてた海賊達が、主人公に助けられ和解するオチは、人情譚としての魅力があって良い。 ・刑事物と歴史物とキートンが大好きなジャッキーが、それらの要素を盛りに盛った「オタク映画」と考えれば、何だか微笑ましい。 と、そのくらいになるでしょうか。 あと、これは良かった部分なのか、それとも悪かった部分なのかと判断に迷う要素もあって、それが「悪役であるチンの存在」と「時代劇らしく辛亥革命を絡めている事」ですね。 前者に関しては、ドラゴンと手錠で繋がれ一緒に逃げる場面などから(あれ? もしかして二人が和解するオチ?)と思われたのに、結局は単なる悪役のまま終わったのがスッキリしないし、後者に関しても、映画の中で活かしきれていなかった気がします。 この辺り「手錠での逃走シーンがあるからこそ、悪役にも愛嬌が生まれた」「主人公が安易に革命に加担せず、警察官として人々を守る道を選ぶ場面は良かった」って具合に、褒める事も出来そうなので、判断が難しい。 本作は試写会で流れたバージョンと、今観る事が出来る完成版とでは中盤の展開が異なっており、試写会バージョンでは「チンの悪辣さ」「革命軍の出番」が増す形になっているようなので…… そちらを観る事が叶ったなら、また印象も変わってくるかも知れません。 [DVD(吹替)] 6点(2023-10-11 10:58:30)(良:1票) |
3. ファニーゲーム
《ネタバレ》 これは観客を不愉快にさせる為の映画なのでしょうか。 不愉快になる理由としては、劇中で行われた暴力や理不尽さに対する怒りが必要になってくると思います。 でも正直、不愉快というよりは退屈に感じましたし、怒るというよりは呆れるという感情に近い。 それが決定的になるのは「仲間を殺されてしまった犯人が、リモコンの巻き戻しボタンで時間を逆行させて、仲間の死を回避してしまう」という場面。 これはもう、完全に興醒めです。 不幸を回避する為に時間を逆行させる展開は珍しくもないけど、これほど唐突なパターンは記憶にありません。 (現実に行われている暴力の理不尽さを描こうとしているのかな?) (暴力を娯楽として描く映画に対するアンチテーゼなのかな?) などと、色々考えながら観賞していたのですが、この映画に匹敵するほどの理不尽さは現実世界や他の映画では見受けられないと思います。 よって、現実世界に対する警鐘とも他の映画に対するパロディとも感じられません。 恐らくは「ある戦慄」(1967年)が元ネタなのだろうな、と思えますが、あちらに存在したラストシーンのカタルシスや、背筋が寒くなるほどの恐怖や嫌悪感すらも無し。 致命的なのは、やはり「巻き戻し」によって、一度映画で描かれたものを自ら否定する形になってしまった事ではないでしょうか。 この映画はラストにて、新たな獲物を見つけた悪党二人組が再びゲームを始めようとする場面で終わるのですが、それに対しても恐怖とか、次なる展開への興味とかいったものを抱けないのです。 極端な話、ゲームに飽きた二人が巻き戻しボタンを押してしまえば、犠牲者も全て元の状態に戻る事になる。 犯した罪も全て「無かった」事に出来るじゃないか、と考えれば、彼らが何をやっても、映画の中で何が起ころうと、興味を持てなくなってしまいます。 この映画に対する不快感だって、劇中で巻き戻しボタンを押されたら否定されてしまう、意味の無い物としか思えません。 監督さんは才能のある人なのだろうし、波長が合えば楽しめる映画なのだろうな、とも感じました。 けれど「劇中で描かれた全てを無価値にしてしまった映画」という意味において、これほど「0点」が相応しい品は他に無いように思えます。 [DVD(字幕)] 0点(2023-07-11 10:55:53)(良:1票) |
4. ファンボーイズ
《ネタバレ》 良くも悪くも、スター・ウォーズオタク目線の映画ですね。 劇中にて「ホバ・フェットの強さ」「ルークはレイア姫を好きだったか」について真剣に言い争っちゃう辺りなんて、実にそれっぽい。 元ネタを知っていればニヤリとするようなパロ台詞も盛り込まれてるし、何より「夢を追い続けるオタクではなく、現実的なサラリーマンの道を選んだ若者」を主人公に据えているのが上手かったと思います。 それによって、オタク気質ではない観客も物語に入り込み易くしているし、その一方で「俺はもう大人になったんだ」と達観するだけの主人公で終わらせず「かつて熱狂していた世界に、再び戻っていく」様を描いているから、オタク映画であるという大前提にも反していない。 自分は熱狂的なスター・ウォーズ好きという訳ではありませんが、大人になりきれないオタク人間である事は間違いないと思いますし、そんな立場から見ても「この主人公の設定は絶妙だな」と、大いに感心させられました。 とはいえ、そんな「オタク」の悪い部分も如実に表れているのがこの映画であり……ちょっと、観ていて辛かったですね。 「スタートレック」のファンを作中で貶したり、エピソードⅠにも文句を付けるような形で終わったりと、やたら攻撃的で排他的。 「ウィリアム・シャトナーを大物っぽく描いているからセーフ」「駄作と断定した訳じゃないからセーフ」という作り手側のフォローというか、最低限の配慮も感じられましたが、ちょっと受け入れ難いです。 そもそも、作り手から「エピソードⅣからⅥまでは好きだけど、エピソードⅠは嫌い」ってメッセージが窺えちゃうんだから、これって「スター・ウォーズ愛を描いた映画」としては致命的な欠点だと思うんですよね。 エピソードⅠのキャラであるジャー・ジャーやらダース・モールやらを「美人局の悪党」「意地の悪い警備員」に仮託させている辺りなんて、非常にやり切れない。 それに対し、ⅣからⅥまでのキャラはレイア姫やランドなどを「良い人達」「主人公の味方側」として出しているんだから、あからさま過ぎてゲンナリです。 主人公の父親に対するコンプレックスを、ダース・ベイダーの存在と重ね合わせておきながら、結局は対話する事無く終わった辺りも残念でしたね。 オタクらしく現実逃避して旅に出る様を描いておきながら、その現実と向き合って乗り越えなきゃいけないという辛い過程は省き、努力も無しに夢を叶えて漫画家になれたという結果だけ見せられても、カタルシスは得られません。 そんな欠点が明らかな作りであるだけに、劇中の「欠点も必要さ」という感動的な台詞も「スター・ウォーズ」を擁護する為の台詞ではなく「ファンボーイズ」に対する自己弁護のように聞こえちゃって、凄く格好悪かったです。 主人公が描いた漫画を「最悪」と酷評する読者に対し、主人公達が「お前はクソッタレだ」と徹底的に馬鹿にして溜飲を下げて終わるのも、これまた酷い。 他の映画やファンを馬鹿にするような作りであるくせに「俺達は他の作品を批判するが、俺達の作品を批判するのは許さない」と主張しているようにも思え、どうにも居心地が悪かったです。 そんなややこしいアレコレを考えず、純粋に青春映画として観れば綺麗に纏まっていたと思いますし、仲の良い友達連中で車に乗り込み、旅する楽しさなどは味わえただけに、非常に勿体無いですね。 ファルコンの模型を人質(?)に取る件や「右手をレイア姫と呼ぶ」件は笑っちゃったし、予想以上にスカイウォーカーランチの壁が低くて「侵入する為のフックって、別に要らなかったじゃん」とツッコまされる辺りも面白かったです。 何より、エピソードⅠ公開当日の「皆でワイワイ集まって、お祭り気分で騒ぐ」雰囲気は凄く心地良くて、そこの場面だけでも(観て良かったな……)と思えたくらい。 それだけに、余計なオチなどは付けず、あの楽しい盛り上がりのまま、亡き友に乾杯し、待ちに待った新作映画が上映される場面にて、ハッピーエンドを迎えて欲しかったところです。 作中にて「6デイズ/7ナイツ」(1998年)が失敗作じゃないかと揶揄されていましたが、自分としては、その「6デイズ/7ナイツ」に付けたのと同じ点数を、この映画に進呈したいと思います。 [DVD(字幕)] 5点(2022-09-16 20:05:54) |
5. フィリップ、きみを愛してる!
《ネタバレ》 「愛」と「脱獄」を描いた映画として、非常に良く出来ていると思います。 始まって十分程で「言い忘れてたけど、俺はゲイ」と主人公が告白し、本作における「愛」とは「同性愛」であると分かるんですが、それでも戸惑いは最小限で、楽しく観賞出来ちゃうんですよね。 冒頭、自分を養子に出した母親との対面シーンだけでも「ジム・キャリーだからこその魅力」を堪能出来ましたし「可憐な乙女」としか形容しようのないフィリップ・モリスを演じ切ったユアン・マクレガーも、これまた素晴らしい。 この二人が主演だからこそ「男同士のカップル」という際どい役どころでも、自然に感情移入出来た気がします。 ・それまでの恋愛対象は髭を生やしたタイプだったのに、女性的なフィリップに主人公が一目惚れするのには戸惑う。 ・「叫び屋」を殴らせた件でフィリップが感激しちゃうのは、違和感あり。 ・ゲイの男性って、ゴルフを毛嫌いするのが普通なの? などなど、不可解さを感じる部分もありましたが、それらを差し引いても面白い作品でしたね。 フィリップと出会う前の恋人であるジミーが、死の床にて「僕は生涯の恋人と出会ったけど、君は未だ出会ってない」と語り、自分の死後に出会うパートナーを大切にして欲しいと訴える場面は、特に感動的。 作中にて「フィリップ、きみを愛してる」と告げるシーンが二回ある訳だけど、最初の場面は思い切りドラマティックに叫び「燃え上がる愛」を感じさせて、二回目の場面では「愛の終わり」を連想させるような、静かな雰囲気の中で呟かせるという対比も、凄く良かったです。 そんな「愛」に比べると「脱獄」の方は添え物というか「フィリップに愛を伝える為には、脱獄する必要がある」という程度の描かれ方なんですが、これがまた滅法面白いんですよね。 最後の大技と言うべき「エイズ詐欺」も良かったけれど、ハイテンポで描かれる「判事の書類を偽装して保釈させる」「刑務所内で働く医療スタッフに変装して逃げ出す」「セクシー(?)な職員に変装して逃げ出す」という三つの脱獄シーンも、同じくらいお気に入り。 本当に、あの手この手で刑務所を抜け出そうとする様が愉快で、痛快でさえありました。 「約束を守る」事に拘って、看守達に止められても最後まで音楽を流そうとする囚人仲間も良い味出していたし、食堂にて特別に豪華なメニューを食べる事になり、フィリップが喜んでいる場面なんかも印象的。 ラストシーンにて、愛しい彼を忘れられない主人公が、再び脱獄騒ぎを起こし、笑いながら走る姿で終わるというのも良かったです。 実際の「フィリップ・モリス」が主人公の弁護士役としてカメオ出演している為「決定的な嘘をつく訳にはいかない」という配慮もあってか、最終的にフィリップ側は主人公に愛想をつかしたとしか思えない作りになっているのは、悲しいけれど…… それもまた、本作の魅力の一つと言えそうなんですよね。 実話ネタだからこその、ハッピーエンドになりきれない切なさが、物語に上手く作用していたように思えます。 たとえ愛を否定されたとしても、それでも求めずにはいられない男の愚かさ、滑稽さを、空に浮かんだ不思議な雲が、優しく見守っている。 この映画に相応しい、惚けた魅力のある終わり方でした。 [DVD(吹替)] 8点(2022-09-10 12:46:26)(良:1票) |
6. プロジェクト・イーグル
《ネタバレ》 「サンダーアーム/龍兄虎弟」に続く「アジアの鷹」シリーズ第二弾。 始まって早々、お馴染みの「ガムを食べる」シーンを挟んでくれるのが、ファンとしては嬉しい限りですね。 (あのアジアの鷹が帰って来た!)と思えて、大いにテンションが上がりました。 「原住民達との追いかけっこ」「旅の移動時間に曲を流す演出」なども前作と共通しているのが嬉しい一方で、アランやメイといったキャラクター達が出て来ないのは寂しいですが……まぁ、バノン伯爵が続投しているだけでも良しとすべきでしょうか。 そんな本作は無論、アクション重視の冒険活劇なのですが、ストーリーに関しても優れていたと思います。 「宝石よりも水の方が価値がある」と、冒頭のシーンで伏線が張ってある事には感心させられるし、敵となる集団が仲間割れして「ラスボス」枠かと思われたアドルフが味方になってくれるという意外性も良い。 前作において「俺が信じる神の名は『金』さ」と嘯いていた主人公が「人間にとって、一番必要な物は何なのかな」と呟き「金」の無価値さ「水」の大切さを実感しつつ砂漠を彷徨って終わるというのも、皮肉が効いてて良かったですね。 そして何といっても……エンディング曲が素晴らしい! 数あるジャッキーソングの中でも、一番好きな曲じゃなかろうかって思えるくらいですね。 「世の中は、空気と水に満ちている」「無欲ならば、どこでも楽園さ」という歌詞は心に響くものがあり、映画の内容とも完璧に合っていて、実に味わい深い。 普段は笑いながら観賞する事が多いエンディングのNG集なのですが、この曲のお蔭で、涙が滲んでくる事さえあるほどです。 それと、本作の特色としては、もう一つ。 お色気要素が豊富な点も見逃せないですね。 キャリアウーマン風のエイダに、金髪お嬢様のエルサ、不思議な雰囲気漂う旅人の桃子と、個性豊かな三人の美女が揃っており、実に華やか。 彼女達の立ち位置が、これまた絶妙であり「主人公の存在感を食ってしまうほどには目立たない」「全くの役立たずという訳じゃなく、適度に活躍してくれる」っていう形に仕上がっているんだから、お見事です。 鉄の装備で身を固め、敵兵をボコボコにして倒しちゃう件は痛快だったし、ジャッキーに水を飲ませてもらう場面なんかは妙にエロティックで「ハーレム」な匂いすら漂っていたのも、凄く魅力的に思えちゃいました。 序盤のバイクに、巨大な送風機を駆使したラストの大立ち回りと、アクションパートの面白さも文句無し。 そういった「ジャッキー映画お馴染みの魅力」と「感動」「お色気」という本作独自の魅力とが、非常にバランス良く交じり合っている。 傑作と呼ぶに相応しい一本だと思います。 [DVD(吹替)] 9点(2022-09-10 12:36:17)(良:2票) |
7. ブルー・ストリーク
《ネタバレ》 「ビバリーヒルズ・コップ」(1984年)に影響を受けた映画なんて、星の数ほどある訳ですが…… その中でもオリジナルに比肩するほどの傑作は何かと考えたら、真っ先に本作が思い浮かびますね。 単純に「面白い」「出来が良い」っていうのもありますが「元々は犯罪者という経歴を活かし、型破りな捜査を行う主人公刑事」っていう面白さを「ビバリーヒルズ・コップ」以上に描いてる点が素晴らしい。 次々に事件を解決し、周りから「アイツは凄い刑事だ」と誤解されていく様も愉快だし、この一点においては間違い無く元ネタを越えてると思えます。 それと、本作には二面性の魅力があり「マローン刑事による事件捜査パート」だけでなく「泥棒のマイルズによる侵入窃盗パート」も、しっかり面白く描けてるんですよね。 冒頭、ダイヤを盗みに入る場面だけでもワクワクさせられるし、なるべく人を傷付けないよう行動してるから、観客に不快感も抱かせない。 この辺りのバランスが絶妙で、ホントに理想的な「悪党主人公」であったように思えます。 ……先程「悪党主人公」と断ずる事によって気付かされましたが、本作って主人公のマイルズが「刑事を演じている内に正義感に目覚め、罪を悔いて改心する」なんて展開には全くならず、一貫して「悪党」のままであるっていうのも、凄いポイントですよね。 カールソン刑事達とは友情が芽生えているけど、彼らの為にと自首したりはせず、最後もダイヤを持ち逃げしちゃう。 それでも(こいつ、酷ぇ奴だな)とは思わなかったし、鮮やかに逃げ切った姿が痛快ですらあったんだから、もう御見事です。 脚本と演出、どちらも高いレベルにあったからこそ成し得た偉業と、そう呼んでも差し支えないくらい、凄い事だと思います。 一応、欠点も述べておくなら「女っ気も出しておこう」というサービス精神ゆえか「恋人のジャニース」「グリーン弁護士」などを登場させているのは、ちょっと無理矢理な感じで、浮いているように思えた事。 あと、ラストに仇敵のディークを殺す場面は、如何にも恰好付け過ぎで、違和感あった事が挙げられそうですね。 それまでのマイルズのキャラとも合ってないと思うし、事前に「ディークを殺すのを躊躇い、銃を持つ手が震える場面」があったのとも矛盾してる。 監督としては「最後を恰好良く〆て、ギャップに震えさせたい」って意図があったのかも知れませんが、正直ハズしてた気がします。 それと、マイルズとの別れの際にカールソン刑事が「その内、会えるかも」と言ってるのも、ちょっと残念。 続編を意識させるというか、期待を煽るような台詞だったのに、2022年現在「ブルー・ストリーク」の続編は作られていない訳ですからね。 これって、実に残酷な描写だと思います。 本当、今からでも続編を作って欲しいな、再びこの映画の世界に浸ってみたいなと思わせてくれる…… そんな一品でありました。 [DVD(吹替)] 8点(2022-07-23 11:14:14)(良:1票) |
8. BLACK & WHITE/ブラック&ホワイト(2012)
《ネタバレ》 凄腕のCIA捜査官である男二人が、一人の女性を奪い合うという御話。 こういった粗筋の場合、最終的には男側が二人とも振られてしまうか、明確な結論を出さぬまま女性にとっての両手の花的なエンドを迎えるパターンが多いように思えますが、本作は明確に片方を選んで終わる為、驚きましたね。 大体映画の三分の二くらいの段階で(これはFDRの方と結ばれるな)と観客に分からせる形になっており、この辺りの時間配分も良かったと思います。 それと、タックには元妻と息子がいるのに対し、FDRは完全に独り身って時点で後者の方が有利なんですが、本作に関しては「最初にローレンスとデートしたのはタックの方である」というアドバンテージを与えて、二人のスタートラインが互角になるよう、上手く調整してあるんですよね。 これによって二人の内、どちらがヒロインと結ばれるのか読めなくなっているし、結果的にFDRとローレンスが結ばれた後も「タックは元妻と復縁する」って形で、主役の三人誰もが幸せになる結末へと着地する事にも成功している。 この手の三角関係で明確に答えを出すと、どうしても一人あぶれ者が生まれて、可哀想になってしまうものですが…… 本作に関しては、そんな感情を全く抱かずに観終わる事が出来たし、ここは上手かったんじゃないかと。 男側の二人がCIAである事を活かした会話のギャグや、アクション場面も適度に盛り込まれており、特に後者に関しては「流石マックG監督」と思わせるような仕上がりとなっているんだから、嬉しい限りでしたね。 タックの息子が、父親から教わった技で柔道の組み手に勝つ場面も爽快感があったし、個人的にはココが一番好きな場面です。 そんな具合に、良いところも色々ある映画なんだけど…… 残念ながら、欠点もそれと同じくらい見つかっちゃうというんだから、困り物。 まず、ヒロインのローレンスに、どうしても魅力が感じられなかったんですよね。 それは演じているリース・ウィザースプーンが老けていて、美女とも言い難いとか、そんな外面的な理由じゃなくて、もっと深い内面的な理由で(嫌な女だなぁ……)と思ってしまったんだから、キツかったです。 決定的だったのが、FDRと初エッチを済ませた後の展開。 FDRの方は、それまでプレイボーイ気質であったにも拘らず「彼女が出来たから」と他の女の誘いを断っていたのに、ローレンスの方は悩みつつもタックとデートしたり、キスしたりしていたというんだから呆れちゃいます。 自分だって二股を掛けていたくせに、彼らが友達同士と知った途端に「騙された被害者」全開に振る舞うっていうのも酷い。 そこは三者共「ごめんなさい」するところだろうに、何で彼女だけが怒って男達が謝らなきゃいけないんだと、理不尽なものを感じちゃいました。 他にも、意味ありげな「バケツを頭に被って回る少年」は何か重要な役割を果たすのかなと思ったら、本当に単なる小ネタに過ぎなかったのが残念とか「バルカン超特急」(1938年)を「二流の作品」と断じる場面があったので、後でフォローが入るかなと思ったら貶したままで終わっちゃったとか、細かい不満点も色々多いんですよね。 自分は、この監督さんと主演の三人が好きなので、それらも含めて(まっ、良いか)とばかりに、一定の満足感は得られましたが…… そういった思い入れが無かったら、かなり厳しかったかも。 好きな顔触れが揃っているだけに、勿体無く思える一品でした。 [ブルーレイ(吹替)] 5点(2022-07-08 18:19:45)(良:2票) |
9. ファイブヘッド・ジョーズ<TVM>
《ネタバレ》 (夏が来たから、サメ映画観なきゃ……)という謎の衝動に駆られて鑑賞。 シリーズの過去作二本は鑑賞済みで、今回「3」と「4」をセットで観る形になったのですが、良くも悪くも期待通りの内容であり、なんか妙に安心しちゃいましたね。 これが「予想に反し、意外な傑作だった」というパターンなら、逆にガッカリしちゃってたかも。 なんていうか「面白過ぎず、退屈過ぎず」っていう絶妙なバランスが、観ていて心地良かったです。 そもそもタイトルが「ファイブヘッド・ジョーズ」って時点で(あれ? フォーヘッドは? なんで順番飛ばしたの?)と気になっちゃう訳だけど、それに対する答え合わせが、劇中でキチンと行われている辺りも良いですね。 登場する怪物は「四つ首のサメと思わせておいて、実は尻尾の部分に五つ目の頭があった」という形であり(……なるほど、これはファイブヘッドにしておかないとマズいな)と納得出来ちゃうんです。 「三つ首のサメに思わせておいて、実は四つ首」という形だと、途中まで(前作と同じ数じゃん)という物足りなさが付き纏っちゃう訳だし、鑑賞前の違和感を承知の上で「ファイブヘッド」というタイトルにしておいたのは、英断だったと思います。 過去作に倣って、冒頭で「水着美女の姿を撮影しているパート」を挟んだり「ゴミを捨てて海を汚す人間への批判」も、堅苦しくない程度に盛り込んだりと、このシリーズのお約束が踏襲された作りなのも、安心感がありましたね。 特に前者に関しては、それ以外にも「女優さんが梯子を下りる際に、胸の谷間が良く見えるアングルで撮る」「水中カメラで胸やお尻をアップで撮る」というサービスシーンがあり、嬉しかったです。 性的に興奮するっていうよりは(ちゃんと観客を喜ばせようとしてるんだな)って思えて、安心する感じですね。 こういうのって、ある意味とても誠実な姿勢なんじゃないかって思います。 「ヘリに噛みついて墜落させるサメ」とか、低予算なりに見せ場も用意してくれてるし、前二作同様に、最後がハッピーエンドって辺りも良い。 この「ヘッド・ジョーズ」シリーズって、格別に出来が良いって訳じゃないんだけど、なんとなく憎めないのは、この「後味の良さ」が大きいんでしょうね。 主人公も含め、ちゃんと複数の人物が生き残るし、観た後スッキリした気分になれるんです。 「実は生きていたモンスターが、主人公達を襲って終わり」みたいなオチをやらないってだけでも、自分としてはポイントが高い。 そんな「お約束の遵守」「安心感を与える内容」な一方で、サメ退治のエキスパートであるレッドが、きちんと活躍して生き残る展開なのも、程好いサプライズ感があって、良かったです。 何せ「2」のダニー・トレホの死に様があった訳だから(どうせコイツも、途中でアッサリやられる役なんでしょ?)って穿った目で見ていたもので、これには驚かされました。 こういう「気持ち良い裏切り方」が出来るのって、続編映画の数少ない利点ですし、それを見事に活かしてたと思います。 勿論、短所も沢山あって…… 1:イルカの声が弱点って設定が、全然活かされてない。 2:嫌な奴ポジションの重役さんが、改心したかと思ったらやっぱり嫌な奴のまま殺されて終わりとか、人物描写がチグハグ。 3:そもそも「五つ目の頭」に存在意義が薄い。 といった感じに、不満を述べ始めたらキリが無いです。 特に3に関しては、折角の良いデザインが勿体無かったですね。 「後ろに回り込んだら、そこにも頭があって喰われちゃう」とか、そういう場面があっても良かったと思います。 でもまぁ、最初に述べた通り「傑作」ではなく「サメ映画」を求めて選んだ一本なので、満足度は高めでしたね。 期待に応えてくれたという意味では、満点に近い品だったかも。 また来年の夏、こういう映画が観られたら良いなと思います。 [ブルーレイ(吹替)] 6点(2021-08-13 15:29:09)(良:2票) |
10. ブラックホーク・ダウン
これは評価するのが難しい一本です。 リドリー・スコット監督の手腕は大いに信頼しているし、ジョシュ・ハートネットもユアン・マクレガーもウィリアム・フィクトナーも大好きな身としては、史実がどうこうは忘れてしまって、戦争映画というフィクションと割り切って楽しみたかったのですが、決してそれを許してくれない内容。 さながら「命は平等である」という価値観を真っ向から否定するように描かれているアメリカ人とソマリア人。 観賞中ずっと、この映画から「アメリカ軍の兵士十九人分の命は、ソマリア民兵の千人分の命よりも尊いのだ」と囁かれているような気がして、その声に耳を塞ぎたい思いに駆られました。 とはいえ、戦争映画という性質上、観客に色々考えさせてくれるのは有益な事だと思いますし、本当に自分が戦場にいるかのような臨場感は、凄いものがあります。 映画では英雄的に描かれているアメリカ兵だけど、彼らのモデルになった実際の兵士達には、六歳の娘に性的暴行を加え逮捕された人物もいたりする訳で、そんな「現実とのギャップ」も味わい深いですね。 恐ろしい映画でした。 [DVD(字幕)] 3点(2021-05-19 16:16:43) |
11. ブリジット・ジョーンズの日記
《ネタバレ》 この映画に関しては、元ネタである「高慢と偏見」を知っているかどうかで評価が分かれそうな感じですね。 それというのも、文学少女の憧れである「ダーシー様」を1995年のドラマ版で演じたコリン・ファースが「マーク・ダーシー」役を演じている訳だから、本作のブリジットは彼と結ばれるって事がバレバレなんです。 一応、ストーリーラインとしては「マークとダニエル、どちらと結ばれるのか分からない三角関係」って形になっているので、これはかなり致命的なネタバレ。 作り手側としては、もう配役の時点で開き直り、最初から「三角関係」要素を薄めて「ブリジットとマークが紆余曲折を経て結ばれるラブコメ」として仕上げているんでしょうけど……それでも消しきれない「三角関係」要素が、重荷になってる気がしましたね。 ダニエル役にヒュー・グランドが起用されているのも「豪華」というよりは「準主役でもないのに、勿体無い」と思えちゃいました。 そんな訳で、自分としては「悪い意味で結末が分かり切ってる映画」という、大きなハンデを背負った上での鑑賞だったのですが…… それでもしっかり楽しめた辺りは、流石という感じ。 本作が2000年代を代表するラブコメというだけでなく「ブリジット・ジョーンズは2000年代と寝た女」と思えちゃうくらい、彼女が魅力的に描かれていたんですよね。 ちゃんと仕事は頑張ってるから「彼氏がいないのを嘆いて、自堕落な休日を過ごしてる姿」も微笑ましく思えたし「ぽっちゃりとした女性の色気」が、視覚的に描かれていた辺りも良い。 特にカメラに向かってブリジットの巨尻が落ちてくる場面なんて、ギャグタッチにも拘らず昂奮しちゃったくらい。 メールでは強気な態度を取れるけど、いざ相手と目が合ったら愛想笑いしちゃうとか、そんなところも憎めない。 そんな彼女を愛でる「萌え映画」として考えれば、本作は満点に近い出来栄えだったと思います。 「人生やり直せるなら、今度は子供を作ったりしない」と母に言われる場面では鼻白んだとか、ブリジットの友人達の存在意義が薄いとか、不満点も色々あるんだけど、まぁ御愛嬌。 どちらかというと、終わり方がアッサリし過ぎていたのが気になりましたね。 これは欠点というよりは「マークと上手くいきそうになって、これから面白くなりそうだってところで終わるのが残念」っていう類の不満点です。 結果的に三部作になったので、この不満も続編で解消される訳だけど、本作単体で考える分には、どうしても「物足りない終わり方」って評価になっちゃうと思います。 後は……上司にカッコいい啖呵を切って辞職する場面が痛快だったとか、頑張って新しい自分に変わろうとするブリジットに「ありのままのキミが好き」とマークが言ってくれる場面にはグッと来たとか、そのくらいかな? こういったシリーズ物の場合、初代が一番面白くて続編は蛇足ってパターンも多い訳ですが…… 本作に関しては、続編の方が面白いんじゃないかと思えましたね。 興味がおありの方は、是非チェックして欲しいです。 [DVD(吹替)] 6点(2020-11-20 04:26:52)(良:1票) |
12. ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期
《ネタバレ》 冒頭にて、初代同様に「All By Myself」が流れたりと、ちゃんとファンの事を意識して作ったのが窺える三作目。 とはいえ、2で最高のエンディングを迎えておきながら「やっぱりマークと別れました」と言われても納得出来ない訳で…… 「無理矢理作った続編」感は否めなかったですね。 三作目まで「マークと他の男、どちらと結ばれるか?」で引っ張るのにも、無理があった気がします。 と、そんな具合にストーリー面には不満もありますが「痩せて熟女になったブリジット」を拝めるという意味では、充分に楽しめる映画。 ラブコメのヒロインが老けちゃうのって、基本的にはマイナスでしかないはずなんだけど、彼女に関しては作中の台詞通り「エロ年増」的な魅力もあって、良かったですね。 とうとう禁煙に成功したっていうのも感慨深かったし、誕生日ケーキに立てられた四十三本の蝋燭を見つめ、何とも言えない笑みを浮かべる姿も良い。 母としての愛に目覚め、無事に出産して赤ちゃんを抱く姿にも、本当に(おめでとう)と祝福する気持ちになれました。 ギャグの面でも可笑しい箇所が色々ありましたし、特に「スタバの店員」ネタはお気に入り。 ここ、過去作にも共通する「元ネタを知らずとも充分面白い」バランスに仕上げてあるのが、本当に良いと思いますね。 エド・シーランを知らなくても、ちゃんと話の流れで「彼は凄い歌手だったんだ」と理解出来るよう作ってある。 クライマックスにおける「愛と青春の旅だち」をパロった演出も、また然り。 本シリーズって、根底には「ダーシー様に恋する文学オタクの為の映画」ってのがある訳だけど、マニアックな笑いに走り過ぎず、色んな人が楽しめるよう配慮されているのが見事でした。 「夢は共有出来るのに、現実はズレてばかり」という台詞も切ないし、旦那候補のジャックも、女医さんも良いキャラでしたね。 前作におけるレベッカもそうでしたが、続編で出てくる新キャラにもきっちり魅力があるというのは、大いに評価したいところです。 その一方で、そんなレベッカが本作で再登場してくれないというのは寂しいんだけど…… まぁ、これは登場人物を絞る為に、仕方無かったのかな? 初代からの恋敵であるダニエルが出てこないのも「流石に三作連続で、同じ顔触れの三角関係やる訳にはいかないから」って事で、納得出来る範疇でした。 改めて考えてみると「マークの元妻であるカミラの存在感が薄過ぎる」とか「女上司のアリスがそこまで悪い人じゃないので、啖呵を切って辞職する場面に一作目ほどの爽快感が無い」とか、欠点も色々思い付いちゃうんだけど…… 決定的にファンを裏切るような真似はしていないし、一定のクオリティはあったしで「不平不満」より「映画三本分かけて付き合ったブリジットへの愛着」が優っちゃいますね、どうしても。 マークと結婚して幸せになりましたって終わり方なのも「王道」というより「予定調和」なんですが、それが心地良い。 エンドロールの最後を飾る、家族三人の写真にも和みましたね。 良い映画であり、良い三部作だったと思います。 [DVD(吹替)] 6点(2020-11-13 18:37:25) |
13. ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12ヶ月
《ネタバレ》 前作が「これから面白くなりそうって所で終わる映画」だったもので、自分としては嬉しい続編映画。 元々、ラブコメ映画の続編って代物自体が珍しい訳で、そういう意味でも新鮮でしたね。 映画一本分をかけて結ばれた背景があるもんだから、前半部分にてブリジットとマークがイチャついている様も、とても微笑ましく感じられて良かったです。 ジェーン・オースティンの「説得」が下敷きだったり、マークが濡れたシャツ姿を披露したりと、基本的には「元ネタありきの映画」なのですが…… 個人的には、元ネタを知らずとも充分楽しめるんじゃないかと思えましたね。 例えば、タイの刑務所にて女囚達と一緒にマドンナの曲を歌う場面なんかも、原曲を知らずとも十分に楽し気な雰囲気が伝わってくると思いますし。 前作は「高慢と偏見」ありきの映画だな、って印象でしたが、本作に関しては「元ネタよりも面白い映画」とすら思えちゃいました。 妊娠検査の最中に、二人が喧嘩しちゃう件なんて、特に面白い。 ここ、ほんの数分間なのに「二人の価値観や、育った環境の違い」が如実に伝わる作りになってるんですよね。 ラブラブな二人だったのに、徐々に擦れ違いが生じて喧嘩別れしちゃう流れに、自然に繋がっていたと思います。 他にも「そろそろ不幸じゃない事が起こるはず」と言った途端に、ブリジットが空港で逮捕されちゃうとか「引きずり出せるならどうぞ」と挑発したダニエルを、マークが本当に引きずり出して外で喧嘩しちゃうとか、台詞の使い方が上手いんですよね。 前作以上に「ブリジットがダニエルを選ぶ訳無い」「マークと結ばれるに決まってる」と分かり切ってる内容なのに、それでも楽しめたのは、こういう細かい部分が面白いお陰だと思います。 新キャラとなるレベッカも、非常にキュートで良かったですね。 「ブリジット→マーク←レベッカ」という関係と思わせておいて、実は「マーク→ブリジット←レベッカ」という関係だと判明する件は驚きましたし、ストーリーの面白さにも凄く貢献してる。 色んな映画に出てくるレズビアン女性の中でも、五指に入るくらい好きなキャラになりました。 妙な仮定になりますけど、もし自分がブリジットだとしたらレベッカを選んだかも知れないな……って、そう思えたくらいに可愛かったです。 煙草を吸う理由は「もっと悪い事が起きる前に死ねると思うと、心が安らぐから」と語るブリジット父も良い味出してましたし、前作以上に脇役の魅力が光ってた気がします。 そんな本作の難点としては…… タイの女囚達に見栄を張る形で「マークには酷い事された。暴力を振るわれたり、薬漬けにされたり」と嘘を吐く辺りは、流石に引いちゃった事。 あとは、中盤にてマークに部屋の鍵を渡すのが伏線かと思いきや、全然違ってて拍子抜けしちゃった事とか、そのくらいかな? ブリジットを主役にした映画は現在三本ありますが、自分としては本作が一番好きですね。 作中の台詞にある通り「ハッピーエンドの、その先」を描いた映画として、しっかり楽しむ事が出来ました。 [DVD(吹替)] 7点(2020-11-11 10:25:49) |
14. 風雲児たち 蘭学革命(れぼりゅうし)篇<TVM>
《ネタバレ》 まず最初に書いておきますが、原作の「風雲児たち」は紛れも無い傑作です。 「明治維新を描くのであれば、関ヶ原の合戦から描く必要がある」という壮大な歴史観に基づいた品であり、大河ドラマならぬ大河漫画として、自分も愛読させてもらっています。 本作の鑑賞前、原作コミックスを本棚から取り出し「蘭学革命篇」だけを読み返すつもりが、ついそのまま最新の「幕末編」に至るまで読み切っちゃったくらい……と言えば、多少はその面白さも伝わってくれるんじゃないかと。 そんな訳で、本作には大いに期待していたし、映像化にあたり「蘭学革命篇」をチョイスしたと知った時には、小躍りしてしまったくらいなのですが…… 出来上がった品を観終えた後は、暫く無言になって、落ち込んじゃいましたね。 勿論、最低限のハードルはクリアしているというか、映像化した意義はあったと思んです。 例えば、主人公の前野良沢の屋敷内の描写、庭で舞い散る桜が美しかったというだけでも、漫画ではない動画ならではの魅力があったし、音楽やナレーションも良い味を出している。 役者さんも実力のある方ばかりで、安心して鑑賞する事が出来ました。 じゃあ、何が不満かっていうと……それはクライマックスの描き方についてなんです。 本作って、冒頭にて「何故、前野良沢と杉田玄白は仲違いしてしまったのか?」という謎を提示しているのですが、その起承転結の「起」の部分が上手い代わりに「結」の部分が余りにも拙いんですよね。 そもそも原作ではアッサリ短期間で和解した良沢と玄白を、数十年に亘って険悪な仲という設定に変えた挙句、仲直りの仕方は原作と同じアッサリ風味にしているんだから、こんなの違和感あるに決まってるだろと言いたくなっちゃいます。 脚本家としては「最初に劇的な要素を提示して、観る者を惹き付ける必要がある」と考えたのであろう事は、良く分かるんです。 でも原作には無かった要素を付け足し、ハードルを上げてみせた以上は、それを飛び越える必要があると思うんですよね。 本作の和解シーンに関しては(だって原作でもアッサリ仲直りしたでしょ?)という言い訳というか、自分で勝手に上げたハードルを飛ばずに潜り抜けたような恰好悪さを感じてしまい、全然心に迫るものが無くって、非常に残念でした。 「フルヘッヘンド」の件についても原作と違うというか、本当に杉田玄白が昔を忘れてボケちゃったか、あるいは自らの手柄を捏造したかのような描写になっており、大いに不満。 原作では「読者に分かり易いように、聡明な玄白はあえてそう書き残した」という描写が為されており、受ける印象が全く違っているんですよね。 他にも、チョイ役に格下げされた高山彦九郎や林子平はともかく、結構な尺を取ってる平賀源内からも原作のような魅力が伝わってこないんだから、本当にガッカリしちゃいました。 世の中には「原作と違うけど、これは面白い」と思える映画やドラマも沢山ありますが、本作に関しては「原作と違うし、その違う部分が面白くない」と感じてしまい、観ていて辛かったですね。 平賀源内の部屋に「本日土用」の看板があるとか、原作好きならニヤリとする小ネタが散りばめられてるし、作ってる方々の原作愛は本物で、面白い作品にしようと努力されたのだとは思いますが…… 正直、出来上がった品を評価する限りでは「凡作」か、贔屓目に見ても「それなりの良作」くらいになっちゃうと思います。 それでも一応、本作独自の良さがある部分を挙げるとしたら「鼓膜」「十二指腸」「神経」という言葉が生まれた瞬間を描いてる辺りが該当しそうですね。 ここは感心させられたというか、解体新書の存在が「後の世を変えた」事が分かり易く伝わってくるし、歴史物ならではの醍醐味があって、良かったです。 んで、その他の良かった点を挙げようとすると…… 「私の名前が泥に塗れようが、そんな事はどうでも良い」 「私の名前など、歴史に残らんでも良い」 という玄白と良沢の台詞が交差する演出とか「原作の名場面を再現した箇所」ばかりになっちゃいますね、どうしても。 まぁ、これに関しては天邪鬼にならず「押さえるべきところは押さえた作り」として、褒めるべきなのかも。 冒頭にて述べた通り、原作は文句無しで傑作なのだから、奇を衒わず素直に作って欲しかったなぁと思わされた……そんな一品でありました。 [DVD(邦画)] 5点(2020-08-18 01:35:39) |
15. フラッド
《ネタバレ》 これは…… 「途中までは面白かったのに」ってタイプの映画ですね、残念ながら。 クレジットではモーガン・フリーマンが一番上になっているけど、物語の主人公は間違い無くクリスチャン・スレーター演じるトムの方って時点で、既に歪というか、どこかバランスが狂ってる感じ。 両者を好きな自分にとっては「夢の共演」と言える映画のはずなのに、この二人が手を組む流れも雑に思えちゃって、全然興奮しなかったです。 トムに関しては凄く好きなタイプの主人公で、スレーターが演じた役柄の中でも一番じゃなかろうかと思えるくらい気に入っていただけに、途中から(何でそうなるの?)って展開になってしまったことが、本当に惜しい。 繰り返しになりますが、途中までは面白かったんです。 町が水浸しになっている光景だけで、如何にも「非日常の世界」って感じがしてワクワクしちゃったし、狭い室内でのジェットスキーを駆使したアクションなんかも、目新しくて興奮。 牢の中にまで水が押し寄せ、溺死しそうになったところを間一髪で助かる場面なんて、本当にドキドキさせられましたね。 口喧嘩ばかりしているけど、実は強い絆で結ばれていた老夫婦の存在など、脇役の魅力も光っていたと思います。 「他人様の金を命懸けで守るなんて、下らん仕事さ」と自嘲していた相棒のチャーリーが、実は裏切り者だったと明かされる流れも、程好い意外性があって好み。 じゃあ、何で「残念映画」と感じてしまったかというと…… やっぱり、主人公のトムと、モーガン・フリーマン演じるジムが手を組む流れが、無理矢理過ぎるんですよね。 せめて、もうちょっと「トムVSジムVS保安官達」という三つ巴展開を描き、終盤にてようやく緊急避難的にトムとジムが手を組むとか、そういう形にした方が良かったんじゃないでしょうか。 本作の場合「金に目が眩んだ保安官達が、敵になる」というだけでも充分にサプライズ展開だったのに、そこにプラスして「トムとジムが手を組む」っていう展開までセットで押し通しちゃったもんだから、驚きを通り越して困惑に繋がってしまった気がします。 あと「引鉄をひいても弾が出ない」って展開を繰り返しやってるのも興醒めだし、スローモーションの使い方も雑だし、終盤になると脚本だけでなく演出まで一気にレベルが下がっていたように思えるんですが…… (制作現場で、何かトラブルでもあったの?)って心配になっちゃいますね。 途中までは本当(意外な傑作に巡り会えた)(しかもクリスチャン・スレーター主演じゃん! 最高!)ってテンション上がっていただけに、終盤のグダグダっぷりが、返す返すも残念。 スレーター好きな自分としては、彼が主演というだけでも満足度は高めだったのですが…… もうちょっとだけ頑張って「文句無しの傑作」「スレーターの代表作といえばコレ」と言わせて欲しかったという、そんな口惜しさの残る一品でした。 [DVD(吹替)] 6点(2020-02-27 04:38:03) |
16. フォーエヴァー・ヤング/時を越えた告白
《ネタバレ》 あらすじは承知の上で観賞したのですが、冷凍保存されるまでに二十分以上も掛かる構成には驚かされました。 主人公が軍人という事も相まって、どうしても「フィラデルフィア・エクスペリメント」を連想する内容となっているのですが、あちらの品とは異なり、元の世界で一緒だった女性への一途な純愛モノとして仕上げた事に、独自の魅力を感じられましたね。 途中、現代で出会った女性も交えた三角関係に発展する事を匂わせるミスリードもあったりしただけに、主人公が初志貫徹してくれたのが嬉しかったです。 ラストシーンまで辿り着けば、上述の「元いた世界」の尺が長い事にも納得がいくのですが、それでも「序盤と最後だけ別の映画みたい」という印象も拭えなかったりして、そこは少し残念。 その分、過去からやってきた主人公と、現代で出会った少年との交流部分に関しては、凄く良かったと思います。 ツリーハウスに主人公を匿ってくれて、食べ物や飲み物なんかを届けてくれる辺りも、幼少時の「秘密基地」感覚を刺激してくれて楽しかったし、幼くして父と別れた少年との間に、疑似的な親子のような絆が育まれていく様が、とても微笑ましかったのですよね。 好きな女の子に対してどう接するべきかと恋愛相談してくれる辺りも可愛かったし、何と言っても一緒に「飛行機の操縦ごっこ」をしてみせる場面が最高。 それが終盤の「実際に二人で飛行機に乗ってみせる」展開に繋がる流れには、そう来たかぁ……と感心させられました。 ラストシーンにて、愛する女性と再会して抱き合うだけで終わりではなく、駆け寄って来た少年を彼女に紹介してみせる姿も描かれていましたが、どんな風に話してみせたのかが気になるところです。 [DVD(吹替)] 6点(2020-02-19 17:44:03)(良:2票) |
17. プライド&グローリー
《ネタバレ》 実に豪華な出演陣。 そして監督さんは「ウォーリアー」を手掛けた人と知り、観るのを楽しみにしていた一本なのですが、少々ノリきれない内容でした。 期待値が高過ぎたのでしょうけれど、真面目で丁寧に作られた刑事ドラマだなと思う一方で「胸を打つ」「心に響く」といった感情を抱く事が出来ないままエンドロールを迎えてしまい、残念でしたね。 理由を分析してみるに、まず主人公であるエドワード・ノートン演じるレイと、コリン・ファレル演じるジミーの、どちらにも共感を抱けなかったのが大きかったかなと。 いくら家庭の事情があるとはいえ、完全なる悪徳警官なジミーの事を同情的に描いているような作りには違和感を覚えますし、レイに関しても、公的な意味での「正義」と「家族」どっちつかずな印象を受けてしまいました。 特にノートンは好きな俳優さんなので「もっと両者の板挟みになって苦悩する男を魅力的に演じられたのでは?」なんていう、身勝手な不満も抱いてしまいましたね。 終盤に銃を置いてから二人が殴り合う展開、ジミーがレイを庇うようにして犠牲になる展開なども、心の歯車が映画とカチっと合わさっていれば、きっと感動的な場面だったとは思うのですが、自分ときたら「えっ? 何でそうなるの?」とボケた反応をする始末で、恐らくは物凄く真面目に作ってくれたであろう監督さん達に対し、申し訳ない思いです。 導入部の、スタジアムから事件現場へと視点が切り替わる流れには、本当にワクワクさせられましたし、一見すると模範的な警察官一家が大きな歪みを抱えているというストーリーを丁寧に描いてくれた作品だとは思います。 あと何かもう一つでも取っ掛かりがあれば「好きな映画」と言えそうなものを感じさせてくれただけに、残念な映画でした。 [DVD(字幕)] 5点(2019-10-18 01:48:56) |
18. ファーナス/訣別の朝
《ネタバレ》 クリスチャン・ベールが髭を蓄えた姿に、最初は違和感も覚えたのですが、すぐに慣れる事が出来て、一安心。 これはこれでワイルドな魅力があって良いんじゃないかと思えましたね。 特にお気に入りなのは「弟を思いやって、密かに借金を肩代わりしてみせる場面」と「別れた恋人の妊娠を祝福してみせる場面」の二つ。 主人公の優しさ、人の良さ、利己的になれない善人ゆえのもどかしさなどを丁寧に演じられており、相変わらず素晴らしい役者さんだなと、再認識させられました。 映画の内容はというと、往年のアメリカン・ニューシネマを彷彿とさせる作りとなっており、全体的に陰鬱な雰囲気が漂っているのが特徴。 鹿狩りが印象的に描かれている点などは「ディア・ハンター」へのオマージュではないかとも思わされましたね。 脇を固める俳優陣も非常に豪華であり、彼らの演技合戦を眺めているだけでも楽しかったです。 ただ、冒頭にてウディ・ハレルソン演じる悪役が、北村龍平監督の「ミッドナイト・ミート・トレイン」を観賞中に喧嘩を始めるシーンの意味は、少し分かり難くて困惑しました。 後にキーパーソンとなるキャラクターを、事前に紹介しておく事が目的だったのでしょうか。 上映作品のチョイスに関しても引っ掛かるものがあり、ともすれば映画がつまらないせいで作中人物が退屈して暴れ出したのかと邪推出来たりもするのですが…… まぁ、監督さんがあの映画を好きだから選んだのだろうなと、好意的に解釈したいところです。 基本的なストーリーラインとしては、弟を殺された兄が復讐する形となっているのですが、どうもそれだけでないような印象も受けましたね。 それというのも、主人公の境遇が余りにも悲惨過ぎて、弟の死さえもがその「不幸な要素」の中の一つにしか思えなかったのです。 老後は病に侵される事が約束されているような製鉄所での仕事。 交通事故によって人を死なせてしまった罪悪感。 刑務所で暴力に晒される日々。 愛する女性との別れ。 父親の病死。 これらの事件が次々に起こり、主人公は鬱憤を溜め込んでいた訳なのだから、弟の死はそれを爆発させた引鉄に過ぎなかったのではないかな、と。 勿論「数々の不幸に対しても感情を露わにしなかった主人公が、弟の死に対してだけは本気で怒った」訳なのだから、それだけ弟を愛していたのだと解釈する事も可能だとは思います。 けれど、その場合はラストにて悪役に「お前の弟はタフだった」と言わせた事に、疑問符が残るのです。 本当に弟への愛情だけが動機であったのならば、そんな弟の凄さを認めてもらった事に対し、主人公のリアクションを描いて然るべきだと思うのですが、彼は超然とした態度のまま相手を殺してしまう。 そして、復讐を止めようとした保安官が、主人公の元カノを妊娠させた男であるとなると…… 一連の行いには「保安官への当てつけ」という意図もあったんじゃないかと、そんな風に感じちゃいました。 単なる復讐譚としての映画であれば、ラストシーンの主人公は満足感や達成感を抱いていてもおかしくないのに、その顔に浮かぶのは、どちらかといえば「やってしまった」「これで終わった」という諦観の念。 長く、深く吐息をつく姿には、未来を捨て去った人間だけが得られる、一種の解放感のようなものが漂っていたようにも思えましたね 積み重なった悲劇が更なる悲劇に繋がるという、一種の悲惨美。 そして、全てを台無しにしてしまったからこそ得られる、後ろ向きなカタルシスを描いた映画であるように感じられました。 [DVD(字幕)] 6点(2019-09-26 01:27:08) |
19. プリズン・サバイブ
《ネタバレ》 刑務所を舞台にした映画なのですが、囚人である主人公の目的が「脱獄」でも「無罪の証明」でもなく「無事に刑期を務め上げて出所する事」なのが珍しいですね。 子持ちの美女との結婚を控え、仕事も順風満帆だったのに、強盗への過剰防衛が原因で逮捕され、幸せな日々が一変してしまうという喪失感。 何とか刑務所での生活に順応し、あと四ヶ月で仮釈放という段階になって、更に六年の刑期を延長された際の絶望感。 どちらも丁寧に描かれており、主人公に自然と感情移入出来るよう作られていたと思います。 若い頃は細身の二枚目という印象の強かったヴァル・キルマーが、この作品では貫禄たっぷりの「先輩囚人」を演じている点なんかも良かったですね。 ルックスに頼らぬ確かな演技力を見せ付けており、二枚目俳優から性格俳優に転身した事を証明してくれたかのようで、感慨深いものがありました。 看守によって家族の写真を奪われても、家族の記憶だけは決して奪えないと話す件なんかは特に素晴らしく、本作の白眉ではなかろうか、と思えたくらいです。 そんな先輩囚人とは対照的に、最初に親切にしてくれて、所謂「相棒」ポジションになるかと思われた男が最低な奴だったりと、適度な意外性を盛り込んだ展開になっている辺りも良い。 刑務所では「白人と黒人」「看守と囚人」が争うのは当たり前だというルールを徹底的に描いた上で「白人の囚人」である主人公を「黒人の看守」が助ける場面をクライマックスに持ってきたのも、上手い構成だったと思います。 「悪徳看守も、我が子に対しては優しい父親であり、彼には彼なりに囚人を憎む理由がある」 「義理の母が主人公に冷たいのは、自分がシングルマザーとして苦労してきたがゆえに、娘に同じ苦労はさせたくないと考えているから」 などといった具合に、脇役の人物描写が丁寧であった辺りも、映画の質を高めていたんじゃないかと。 ただ、ヒロインである奥さんも働いているし、子供も一人だけなのに、たった一年くらいで家も車も売らなきゃいけないほど経済的に困窮するってのは……流石に、ちょっと不自然な気がしましたね。 この辺り、現代日本とは異なる社会だからこその展開なのかも知れませんが、もう少し説得力のある描き方をして欲しかったです。 あと、主人公と先輩囚人の「友情」の描き方も物足りなくて、ラストに「我が友」と呼んで終わるくらいなら、もうちょっと二人の絆というか「仲良くなっていく過程」を濃密に描いて欲しかったですね。 「主人公だけでなく、刑務所の外にいる妻も苦労している」「主人公と先輩囚人との友情」という、映画の根本に関わる部分の描写で物足りなさを感じてしまったのは、非常に残念。 「隠れた良作」という、映画オタクの心を刺激する一品なのですが、誰もが知る傑作ではなく、隠れた形になっているのも納得出来るような…… そんな一品でありました。 [DVD(字幕)] 6点(2019-06-07 15:38:08) |
20. プリズン・フリーク
《ネタバレ》 自分は刑務所を舞台とした映画が好きなのですが「その中でも一番のオススメは?」と問われたら、数多の有名作品を押しのけて「プリズン・フリーク」と答えてしまいそうですね。 そのくらい好きだし「もっと多くの人に観てもらいたい」と思わされるような、隠れた傑作と呼ぶに相応しい品なのです。 何と言っても、この映画の画期的なところは、刑務所映画であるはずなのに、観ていて嫌悪感を抱くような悪人が、一人も登場しない事ではないでしょうか? 勿論、法律上は囚人というだけでも「悪」でしょうし、主人公のジョンにしたって善人とは言い難いキャラクターなのですが、何処か愛嬌があって憎めないのですよね。 それは囚人同士の殺し合いを賭け事にしている看守達にも、黒人差別主義者の囚人のリーダー格にすらも当てはまります。 こうやって改めて文章にしてみると「いやいや、こいつら完璧に悪人じゃん」と我ながら思うのですが、いざ映画本編を観れば、やっぱり親しみを抱いてしまうのです。 中でも、こういった映画では憎まれ役になる事が多い「主人公達を狙っている同性愛者の囚人」が、妙にチャーミングだったりするのだから、まったくもって困りもの。 見た目は太った黒人男なのに、まさかまさかの劇中のヒロイン格ですからね。 人は見かけで判断するもんじゃないなぁ……などと、しみじみ感じました。 脚本も非常に凝っており 「刑務所のルールその1は『絶対に他人を信用するな』」 「キミはもう家族みたいなもんだから」 「ここから出られるのは、死んだ時だけだ」 などの台詞の数々が、伏線として綺麗に回収されていく様は、実に気持ち良かったです。 それでいて難しく考えながら観る必要は全く無い、というバランスも素晴らしい。 途中で「あれ? 何か急に台詞が説明的になったな?」と不思議に思っていたら、ちゃんと後で、その理由が解き明かされたりするんですよね。 なので観賞後に何かが引っ掛かったような気持ちになる事も無く、後味もスッキリ爽やか。 特に好きなのは、ラストの車中にて、ジョンとネルソンが和解する場面ですね。 一度は殺し合いすら演じた二人が、たった一つの曲を通して「偽りの友達」から「本当の友達」そして「家族」へと変わっていく。 その数分間が、何とも微笑ましくて、観ているこちらも一緒に歌い、一緒に笑いたくなってきます。 とても楽しい映画でした。 [DVD(吹替)] 9点(2019-06-07 15:26:14) |