141. ふゆの獣
《ネタバレ》 全国公開初日、本日映画館で観て来た。 舞台挨拶があったが、監督と出演者たちが皆、初々しく、新鮮な気持ちになれる舞台挨拶だった。 私が一番好きな映画祭「東京フィルメックス」で、去年グランプリを勝ち取った作品。 観る前からハズレは無いと、確信に近い気持ちで映画館に入った。 デジタルビデオで2時間長回し、それを監督が編集し、しかも出演者達は全てをアドリブで演じたという、非常に野心的な作品。 昨今の、有名なテレビタレントが出ているだけのメジャーな邦画とは、明らかに一線を画す作品。 序盤、決して観やすいとは言い難い手ぶれカメラの映像と、聞き取りにくい台詞に一抹の不安を感じた。 しかし、物語が進むにつれ、どんどん作品の中に引き込まれていく感覚をおぼえた。 この感覚が、傑作を予感させた。 そして更に話が進むにつれ、東京フィルメックスでグランプリを獲得した無名監督の実力を、まざまざと見せ付けられることと相成った。 どうしようもない男と女の恋愛観のズレを描いた内容なのだが、それをストレートにリアルに表現している。 無名俳優たちの渾身の演技にも圧倒される。 そして監督の編集も素晴らしい。 「全てを包み込む女性特有の大らかさ」 「若い女性に特有の恋愛観」 「モテナイ男とモテル男の描き分け」 などなどが実に的確、見事。 そしてリアル。 どんなに冷たい男でも、それに一度惚れた女性は、並大抵のことではその男を嫌いにはならない、いや、嫌いになれない。 そんな女性を翻弄し弄ぶ男と、そんな男に敵意を持つモテナイ男。 恋愛における男女の違いや、性格の違いなどを鋭く的確に描いた監督の手腕に、手放しで拍手を送りたい。 [映画館(邦画)] 8点(2011-07-03 02:08:13) |
142. 激突!殺人拳
千葉真一の最高傑作にして、日本アクション映画の最高峰! “ブルース・リーに挑戦する!”と本作予告編で出ていた様に、素晴らしい内容。 綺麗な技術を披露するのではなく、相手の急所をガンガンやりまくる戦い方は、この映画ならではの凄み。 千葉真一が得意の「コホーーー、カァーーーーア」と地鳴りの様な(オッサンが痰を吐く様な)気合いを入れて、相手をバッタバッタと叩ききる。 これが爽快!残虐!グロテスク! 相手の金玉はもぎ取るは、眼は潰すは、ノド仏を引きちぎるは、とにかく喧嘩殺人拳! ストーリーの破綻が所々に散見されるが、そんなマイナスポイントは千葉真一の気合いと共にどこかに消し飛んでしまった。 中途半端な終り方も、本作ならば許される。 ラストは、あれはあれで面白い。 でも説得力はない。 ところで空手会館の館長が出てきたが、あの方は本物の空手家であろう。 妙にチンチクリンで、しかも映画的なかっこよさも無く、しゃべりがヘタクソ過ぎるのが、そう感じた要因。 千葉真一と、この短足館長との戦いも、大きな見せ場の一つであったりする。 [ビデオ(邦画)] 8点(2011-06-02 23:38:02) |
143. 蛇の道
有名な作品を何本も撮った黒沢清監督だが、この作品は比較的マイナーであるにも関わらず、かなり面白かった。 黒沢清監督の作品としては、隠れた傑作と言えるだろう。 哀川翔が、とてもいい演技をしている。 控えめな中に、とてつもない狂気を孕んでいて、それが最初から最後まで持続する。 サスペンスな中にも、ミステリー的な謎解き要素もあったりで、非常に面白い。 ただ微妙に分かりづらい部分があるのも確かで、スピーディにみせるタイプの作品だけに、もう少し分かりやすく作られていたら、更に傑作度がアップしたに違いない。 人間の持つ“復讐心”。 それを題材に、ここまで緊迫感を持たせながら、最初から最後まで飽きさせることなくみせる。 自分の黒沢清監督に対するイメージ、そして哀川翔に対するイメージが、非常に良い意味でくつがえった満足感アリ。 日本映画で隠れた傑作を探している方は、必見の作品! [ビデオ(邦画)] 8点(2010-12-16 00:03:05) |
144. パラダイス!(1997)
《ネタバレ》 金城武が返還直前の香港を舞台に暴れ回るクライムサスペンスで、そこにロマンス風味が味付けされた逸品。 返還前の香港は興奮と喧騒の中にあったが、その一方で、一種のとまどいや彷徨い、そして退廃的なムードも漂っていたように思う。 行き場を見失った者たちが、当てもなくただ彷徨う。 特に、そんな雰囲気が出ていたのが香港の夜であり、場末のホテルでありバーである。 その頃の雰囲気を、まるでその場にいるかのような臨場感で撮ってみせたのが本作で、まだ若くてシャープだった頃の金城武が主演の男を演じている。 色々な時期の金城武を観てきたが、この頃の、というか本作の金城武は抜群にかっこよかった。 デビューしたての頃のあどけなさも抜け、かといって丸みを帯びたおっさん顔にもなっておらず、一番いい時期の金城武を観ることができる貴重な一本。 殺し屋稼業で、香港の夜をうろつき、時には喧嘩をふっかけ、ギャンブルに身を投じ、素性の分からない女と場末のホテルで一夜を共にする。 ウォン・カーウァイの『恋する惑星』や『欲望の翼』と似た風合いの作品で、世界広しと言えど、この頃の香港にしかなかった、妖しく退廃的な雰囲気に充ちている。 この頃の金城武と返還前の香港。 時間的に限定されたこの二つが融合することにより、今となっては再現不可能な作品に仕上がっている。 劇中では、とにかく金城武が走る!走る! それも物凄いスピードで走りまくる!! 若さ爆発の素早い動きも、観ていて爽快だった。 【以下、ラストねたばれ】 二人が結ばれないラストは、格別の趣き。 男は変わらぬその日暮らしを、女は夢だった場所へ飛行機で旅立つ。 お互いの人生が一時だけ交錯するが、それはあくまで二人それぞれにとってのほんの通過点であり、再び二人は別々の道を進んでいく。 今頃、相手は何をしているのかなぁ、と思いを馳せつつ。 何とも言えぬ余韻を残す美しいラストだ。 [ビデオ(字幕)] 8点(2010-11-06 15:50:26) |
145. 君さえいれば/金枝玉葉
《ネタバレ》 徐々に忘れられつつある作品だけど、好きな人は好きな作品だけあって、素晴らしいラブストーリーだった。 ゲイを毛嫌いするサム(レスリー・チャン)が、ウィン(アニタ・ユン)のことを男と信じきっている。 だが、同居しているうちにやがて惹かれていく。 自分はゲイなんかでは決してないのに、男に惹かれてしまうレスリー・チャンの悩み。 燃える恋心とは別に、「男だから」と一歩ひいてしまう切ない心の迷いを描いた設定が秀逸である。 俳優であるレスリー・チャン自身が、ゲイであったことは周知の事実だが、その点を踏まえると、そのレスリー・チャンがこの様な複雑で難しい役柄を難なく演じきったことには合点がいく。 その、直接映画とは関係のない、俳優としてのレスリー・チャンを意識して観てみると、更に味わい深さも増してくる。 結果としては、悩みきった末に、「男でも女でもいいから、君を愛してる」と告白するレスリー・チャン。 これはとても解釈が難しくて、性別とは関係なく「人間として」君を愛してる、ということだから、平たく解釈してしまうと、まるで「友達として」みたいな気持ちなのではないかと思ってしまうが、そこには明確に「愛」というものが生まれており、やはり、同性愛的なものを肯定している気がする。 だけど、同性愛とは文字通り同性を愛することであって、「男でも女でもいいから愛してる」とは、また異なるわけで、よくよく考えていくと、やっぱりとても解釈の難しい作品だと思う。 「相手が男だから」という先入観を超えて、男と思い込んでいる相手に対して、はたして恋心のようなものが生まれるのだろうか? とても興味深いテーマだった。 あの時代の香港ファッションのダサさが出ていて、今観ると決してファッショナブルなラブストーリーには感じない。 しかし、それはうわべだけの問題であって、時代を超えて感動できるラブストーリーの傑作であることは間違いない。 [ビデオ(字幕)] 8点(2010-11-03 08:52:49) |
146. カッコーの巣の上で
《ネタバレ》 ジャック・ニコルソンの演技が実に素晴らしい。 話としても、非常に面白い。 精神病院という閉鎖空間での出来事を、ヒューマン色豊かに、そして精神的に残酷なシーンを織り交ぜながら描き、観る者を虜にするゾクゾクワクワク感。 ジャック・ニコルソンが看護師長に襲いかかり首をしめ、看護師長が白目を剥いている時、私は残酷なシーンと思いながらも、「いや、ひと思いに絞め殺してしまえ」と思ってしまった。 ラストには、あれだけ人間味と野性味あふれたキャラだったジャック・ニコルソン演じる主人公が、ロボトミー手術(開頭手術)を施され、その人間性を永遠に封じ込められてしまうというショッキングなシーンが出てくる。 人間味と野性味あふれたキャラだっただけに、余計にショッキングなシーンである。 チーフという大男が自分の殻を破り、病院の外へ走り去っていくラストも味わい深い。 ヒューマンドラマとして、アメリカ映画史に残る傑作である。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2010-10-13 00:28:59) |
147. 遠い道のり
グイ・ルンメイの美しさが際立ったアジアの逸品。 『藍色夏恋』で初めて目にした時は、特別魅力的には感じなかったが、本作では透明感があり、どこか神秘的な美しさを持つ少女に見えた。 この時25歳。 25歳としての大人の魅力も見せながら、細い肢体を中心とした少女的な魅力も感じられる。 彼女が最高の美しさを持った頃に撮られた、まさに絶妙のタイミングの作品ではないだろうか。 話としては台湾映画らしいのんびりとしたもので、特別楽しくはないが、ゆっくりとした時の流れに、身を委ねる気持ち良さがある。 謎の多いストーリーで、何度か観ても鑑賞に耐え得る作品だ。 [DVD(字幕)] 8点(2010-06-30 00:36:22) |
148. UNloved
WOWOWの名物企画、「J・MOVIE・WARS」からのし上がった、筋金入りのラブストーリーの傑作。 森口瑤子、仲村トオル、松岡俊介の3人を主軸に取り交わされるセリフの応酬は、他に類をみない一種のスリルを感じた。 同じく「J・MOVIE・WARS」から生まれ出た傑作『月はどっちに出ている』に次ぐ傑出した日本映画と言えるだろう。 男女の価値観の相違による意思疎通の不可能性を表現しているという点については、かのミケランジェロ・アントニオーニの『太陽はひとりぼっち』に類似するテーマを扱っている。 しかし、『太陽はひとりぼっち』が、会話や行動のすれ違いといった「静寂」さでもって男女の意思疎通の不可能性を表現してみせたのに対して、本作は、ひたすら繰り広げられる「動的」な口論から男女の意思疎通の不可能性を表現したというところに違いがあり、本作はそういった点においても、オリジナリティを発揮している。 映像面においても、実に映画的な侘しさに満ちた暗いトーンの映像で全編を覆い尽くしており、森口瑤子の住むボロアパートの質素な佇まいを、味わい深く映像化することに成功している。 森口瑤子が演じた女性は、完全なる保守的思考の持ち主で、仕事においても恋愛においても、他人の言動に全く動じない。 自分というものをしっかり持った女性として捉えることもできるが、一方で、他人の意見を受け入れず、恋愛において一人相撲的な状態に陥り、相手の男が孤立感を感じてしまうという点において、実に気難しい女性とも言えるだろう。 ラストのまとめ方については、気分良く観終えることはできたが、果たしてあれで良かったんだろうか、と感じてしまった。 自分をしっかりと持った自立した女性が、恋愛についてどう向き合っていけば良いのか、それが結局分からずじまいだった感は否めない。 [ビデオ(邦画)] 8点(2010-05-09 22:33:03) |
149. ぼくの最後の恋人
《ネタバレ》 香港ラブストーリーものとしては、一つの完成形を観た気がする。 それだけまとまりが良いし、最後も完璧。 男が「結婚しよう」とか言うのは酒に酔っている時だけだと思っている女性が、ラストで酔いつぶれた男に「結婚しよう」と言われ、「そういうことはシラフの時言って」と返したら、実はその男はシラフだったというオチ。 そして熱い抱擁・・・ しかもこの時、二人はスピード違反で警察に捕まったところで、警察官達の前でこんなことを繰り広げている。 それを観た警官達の一人が言った言葉にしびれた。 「捕まえるのは3分待ってからにしよう」、と。 これがラストの締めくくりなのだが、これには参った。 イー・トンシン監督のラブストーリーものは大好きだし、何本も観てきたが、このラストには完全にノックアウトされた。 この作品を観るまでイー・トンシン監督ってそんなにマークしていなかったんだけど、自分の評価を調べ直してみたら、実は自分、イー・トンシン監督のラブストーリー作品に、何本も高い評価を出している。 この作品を観た後に気付いたことがある。 それは、イー・トンシン監督の香港風味満載のラブストーリーが、自分は大好きだったんだと。 [DVD(字幕)] 8点(2010-04-29 18:09:50) |
150. ポンヌフの恋人
《ネタバレ》 ラストシーン、雪の降りしきるポンヌフ橋での、ミシェルとアレックスの再会シーンに打ち震えた。 これ以上なく美しいシーンであり、まるで二人の心象風景の様に美しい雪のシーンであった。 恋愛モノとして、内容の純粋さは際立っており、レオス・カラックスによる美しい映像との相性は抜群であった。 その他、印象に残るシーンは数多くあり、“アレックス三部作”の中では一番好き。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2010-03-27 17:04:39) |
151. メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬
相当楽しめた。 まず、ギジェルモ・アリアガの脚本が素晴らしい。 そして又、テキサスやメキシコの風景描写、そこを旅するロード・ムービー的色合いなどが、見事にマッチしている。 一人の命を、友情という絆だけでここまでやってしまう男は酔狂としか言いようがないが、それはこの男の愚直なまでの誠実さを表現している。 ひょんなことから大変な災難に巻き込まれるという、巻き込まれ型サスペンスの典型で、先の読めない展開という点でも飽きずに楽しませてくれた。 最後に、ルーアンを演じたジャニュアリー・ジョーンズという女優さん、とってもキュート! 私もあんな金髪美人と密会したいもんだ。 [DVD(字幕)] 8点(2010-03-09 02:35:23) |
152. ウンベルトD
《ネタバレ》 念願かなっての鑑賞で、シネマヴェーラ渋谷にて鑑賞した。 恩給で生活している社会の一線を退いた老人が主人公で、生活の頼みの綱であるその恩給が、不景気にともなって減少し、老人達の生活を逼迫していくという、現代日本においては実に現実感のあるお話である。 その老人は、ブチ模様をした小さな犬を飼っている。 妻も死に、孤独を癒す唯一のパートナーだ。 居を構えていた古アパートは、次第に売春宿と化していき、昔から住んでいたというのに、その老人は追い出しの圧力を受けている。 僅かな額の恩給では、アパートを出たとしても生きていくアテもない。 経済的に窮地に追い込まれた老人には、もはや生きる希望も失い、死を考えはじめる。 そこで唯一の心残りは、愛犬のブチ犬で、自分の亡き後に面倒をみてくれる場所を探したりもするが、全くアテがみつからない。 そこで、老人はブチ犬と無理心中を思いつく。 犬は当然嫌がり、怖がる。 寸での所で死を免れた老人とブチ犬であったが、犬の方は飼い主に恐れをなし、かつてのようになつかなくなってしまう。 必死に、ブチ犬の興味をひこうとする老人。 最後には、ブチ犬は老人にシッポを振ってついていき、その二人(?)の後ろ姿で「FINE」の文字。 いやぁ、なんて心温まるラストシーンだろう。 犬好きにはたまらないラストだ。 いったん飼い主である老人を避けるが、今までのご恩を思い出したんだろうか、また老人になつくまでの過程を描いたラストは、名作に相応しい出来栄えである。 ヴィットリオ・デ・シーカと言えば、『自転車泥棒』と『靴みがき』辺りが代表作かもしれないが、本作こそ、デ・シーカの最高傑作に推したい。 イタリアン・ネオ・レアリズモの名手として、現実の厳しさをうったえつつ、そこに人間と飼い犬(伴侶や家族に当てはめて考えてもよい)との絆を描いてみせた本作は、バランスもよく、まさに名作に値する。 [映画館(字幕)] 8点(2010-02-27 23:34:37) |
153. ピカソ-天才の秘密
ピカソが身近に感じられるという点だけでも、あまりに貴重な作品。 しかも、ピカソ自身が「ひどい、失敗だ」ともらしたりと、人間らしい一面をのぞかせたりするのが面白い。 もう少しピカソのおしゃべりを聞きたかった気もするが、ピカソがどのように画を創り上げていくかが徹底的に描かれていて、それはそれで良かったように思う。 それにしても、ピカソの背景の描き方が鮮烈に印象に残った! さらりと簡潔に背景画を挿入したりするのだが、これが実にシンプルでいて、何を現しているかが分かってしまうところが凄い。 裸で去るラストのピカソはカッコよすぎた。 ところで、終始、裸なのはピカソのこだわりなのだろうか。 裸で描くと、何が変わるのだろうか? 私にはその“秘密”が最後まで分からなかった。 [インターネット(字幕)] 8点(2010-02-21 15:29:21) |
154. 早熟 ~青い蕾(つぼみ)~
《ネタバレ》 イー・トンシン監督作品だが、この監督の作品としては、『つきせぬ想い』に並ぶ素晴らしい出来栄えのラブストーリーだった。 主演の女優は、ジョー・マ監督の『雨音にきみを想う』で大好きになったフィオナ・シッ。 この『つきせぬ想い』と『雨音にきみを想う』という二つの作品は、同じ年に作られた作品だけあって、この二つの作品における彼女は、甲乙つけがたく魅力的である。 前半部分は、先が思いやられるほどの平凡なつくりだったが、終盤にかけて一気にのめりこんだ。 愛する男女の結束、生まれてくる新しい生命の尊さ、子供を思う親の気持ち、それらを温かく見守り応援してくれる仲間たち。 本作は、ラブストーリーとしてだけでなく、人間ドラマとしても秀でた作品である。 多少のツッコミどころは所々あるものの、それらを吹き飛ばすほどの内容だった。 ヒロインについてだが、主演のフィオナ・シッという女優は、日本ではほとんど知られていないのではないだろうか。 日本には居そうで居ない、だけど日本人好みな感じのする、キュートな女優ということで、本作を観てなお一層ファンになった。 イー・トンシン監督のラブストーリーものと併せて、フィオナ・シッの出演作品で未見な作品は全て観てみようと思う。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2010-02-17 01:15:00) |
155. ふたりの人魚
ロッテルダム国際映画祭でグランプリ、そして東京フィルメックスでもグランプリを受賞した、アジア色が色濃く香るロマンスムービー。 まるでウォン・カーウァイ作品の様に、夢とも現実ともつかない映像の連続。 澄みきった映像美というより、温かみのあるムーディな映像美だ。 話としては特別大したことはないのだが、ムードと映像美で十分魅せる作品である。 日本だと、こういう作品は創れないだろうなぁ。 蘇州は行ったことがあるので、更に楽しむことができた。 金髪のカツラをかぶった人魚は、神秘的なまでに美しく、それを追いかけ続けた男は、夢遊病にかかったかのように心虚ろだ。 ただ、本作がウォン・カーウァイ作品に一歩及ばないところは、音楽の使い方だろう。 ムードを盛り立てる音楽が効果的に使われていたならば、アジアを代表する、心に残る傑作となったに違いない。 [DVD(字幕)] 8点(2010-01-05 00:38:18) |
156. リアリズムの宿
つげ義春の世界観がよく出ていて見事。 二人の距離感を保った会話も楽しい。 そして、話のいたるところに登場するサブキャラクターが、いちいち味があって面白いのだ。 主演の二人には特別好感は持てなかったが、それでも引き込まれてしまうだけの演出的巧さがあった。 [DVD(邦画)] 8点(2009-12-31 01:55:05) |
157. 乱れる
《ネタバレ》 成瀬巳喜男監督作品、51本目の鑑賞。 成瀬監督作品で、未見の作品としては最も巷の評価が高い作品だけに、観る前は俄然、期待が高まった。 成瀬監督の最高傑作は、加山雄三が本作と同じく主演した『乱れ雲』だと個人的に思っているが、メロドラマという部分で、多分に共通点が感じられ、更に期待が高まり、観る前の緊張感は、最近にはないものがあった。 さて内容だが、加山雄三と、その義姉である高峰秀子との禁断の愛を描いている。 100分にも満たない作品ながら、成瀬監督にしかできないような丁寧な描写で描かれ、濃密な内容となっている。 特にラストシーンは、情感極まる凄まじいまでの完成度である。 ただ、『乱れ雲』に劣る点は、加山雄三の演技にどうも真実味を感じないことだ。 18年間も一つ屋根の下に暮らし、その間ずっと高峰秀子に対する愛を隠していたという設定にしては、熱意が足りない気がした。 又、最後の諦めの早さにも違和感を感じた。 特に成瀬映画なら、もっとパワー漲るしつこさを期待してしまう。 『浮雲』を観た時に感じた、あの観る者のパワーを奪う様なネチっこさが欠けているのだ。 ただし、名作・佳作揃いの成瀬映画の中にあっても、なるほど評判が高いだけあって、上位にくる作品ではある。 そして又、高峰秀子の演技は、加山雄三の熱意が足りない演技を圧倒するかの様に凄まじく、殊に乱れた髪で立ち尽くすラストショットは、強く瞼の裏に焼きついた。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2009-12-14 01:47:55) |
158. 雨音にきみを想う
香港の街並みが実に良く出た出色のラブストーリー。 まず書きたいのは、ヒロインを演じたフィオナ・シッがかわいいこと! まずはこれに尽きる。 この女優、誰かに似ている気もするが、誰だかは分からない。 過去に知り合った、どこかの女性に似ているかもしれない。 誰に似ているか定かでないが、間違いなく言えることは、どこかのかわいい女のコに似ていることだ。 前髪をピンで留めているが、これが何とも愛らしい。 小柄で痩せ身の体型が何とも魅惑的。 どことなく寂しげな瞳も魅力的だ。 こんな女優が居たなんて! それを発見できただけでも収穫である。 ちなみに、相手方の男を演じたディラン・クォも相当なイケメンである。 話としては、それなりに見れたし、不自然や破綻している部分もない。 素直に楽しめるストーリーで、主演二人の魅力と香港の街並みの魅力を邪魔していない。 そして安易にベッドシーンが出てこないのが、これまた良い。 奥手のラブストーリーは観ていてすがすがしい気分に浸れること間違いなし! 隠れたアジアのラブストーリーの良作を発見! アジア映画ファンは必見の掘り出しモノである。 [DVD(字幕)] 8点(2009-11-04 19:11:47) |
159. サマー・ソルジャー
《ネタバレ》 ベトコン軍隊を逃げ出したアメリカ人脱走兵が、自分の居場所を探す為に日本を奔走するロード・ムービー。主人公の米軍兵は軍隊を逃げ出すが、外人目当ての好色女に言いように引っ張り回されたり、日本人の革命組織に流れで入るが日本人とソリが合わなかったり、京都の街をあてもなく放浪したりと散々な目に遭う。ベトコン軍隊が嫌で逃げ回り、同時に自分探しの旅に出たが、その行動の根底には「逃げ」がある以上、何も好転していかない。そして主人公は、軍隊に戻り、正面から自分自身と闘っていくことを決意する。これは日本の現代社会にも通ずるものがある。学校を出て働きに出ても、社会という息苦しい枠組みに順応できず、会社を辞め、色んなことに挑戦し、そして挫折し、フリーターをやり、職を転々とし、行き当たりばったりの女との愛欲に溺れ、最後には金もなくなり、途方に暮れる。この映画の主人公が辿った軌跡は、まさに現代社会に順応できない者そのものではないか。私も20代の頃そうであったように、自分がどこに居るべきかを探す道程ってのは、憂鬱で過酷で孤独なものだ。だけど、いつかは自分自身と正面から向き合うべきことに気付き、人生を再出発するのだ。これはまさに、この作品のエンディングである。自分探しに歳月を費やすのは決してムダではなく、自分が悔いなく人生をまっとうする上で必要なことだ。ただ周囲や常識に流され、ハナから社会の枠組みでこじんまり生きても、死ぬ時に後悔しないと言いきれるだろうか。若い頃に自分が何をすべきかを苦労して模索し、自らが実際に経験した過去があるからこそ、その先の長い人生を楽しめるのだと思う。本作は、誰しもが持っているであろう、自分の生きる道への迷い、そしてその葛藤の道を描いた作品なのだ。最後に出てきた、謎のはちまきアメリカ人。このはちまきが本作の最後で、熱く印象的な言葉を語る。「生きることは素晴らしいんだ。汗を流して働き、友人と酒を飲み、好きな女を抱く。それが人生だ。」と。この映画、そしてこの言葉は、必死に今を生きている迷える者達への、生きたメッセージである。人間讃歌の意味合いを持ち、ロードムービーの体裁を備えた本作は、勅使河原宏監督の他の有名作品にも劣らない魅力を持った作品である。そして又、『砂の女』や『他人の顔』といった他の勅使河原作品と、“自分の居場所”を探求するというテーマにおいて共通のものを感じた。 [ビデオ(邦画)] 8点(2009-09-28 01:15:32)(良:1票) |
160. 遥かなる山の呼び声
《ネタバレ》 高倉健の「奥さん~」で始まるしぶ~い語りかけ。 「奥さん、体触ってもいいですか」。 おっと、こんなセリフはなかったね。 ところで、武田鉄矢のパートは要らん! さて、本題。 これはまさしく男女それぞれの性というものを実に雄弁に語っている。 高倉健が雨しきる夜、いきなり倍賞千恵子のもとに現れる。 最初、倍賞千恵子は高倉健をあやしみ、距離を置く。 しかし、高倉健の人間性、男らしさに触れるにつれ、次第に心を開き、ついには恋心が生まれる。 しかし、そこで高倉健は去ろうとする。 男は女に近づき、そして去る。 それを必死に食い止めようとする女。 女という生き物はなんて不思議な生き物なんだろう。 あれだけ最初は煙たがっていたのに、男が意を決して去ろうとしても、そこに食らいつく。 男はちょっとした気で近づいても、女はそれに一度取り込まれると、もう離れたくなくなる。 男の気まぐれ、女の一途な想い。 そして、一度好きになった男が殺人犯と分かっても、好きな気持ちは変わらないという、女の心の強さ。 男女がそれぞれに持つ性質を、実に分かりやすく描いていて見事だ。 最後の電車の中のシーンが、最後の最大の見せ場だが、ここは少々強引さが感じられる。 しかし、そこは山田洋次マジック! 強引だなぁ、と思わされるも、まんまと高倉健の熱い男の涙にやられてしまった。 親が無惨に死んでもこらえたその涙。 その涙も、倍賞千恵子の「待っている」の一言で、あっさり頬を伝う。 ケレンミのあるラストシーンだが、実に力強く感動に導かれた。 山田洋次監督作品としては、『男はつらいよ』シリーズを別格とすれば、本作が最高傑作かもしれない。 [DVD(邦画)] 8点(2009-09-02 22:54:14) |