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1.  肉体の冠
映画の中盤、ワインとチーズを食するクロード・ドーファンの手にナイフが光る。 その禍々しい光沢、それだけでそのナイフが後々何らかの悲劇を引き起こすであろう ことを仄めかす。  説話上の段取りとして配置された単なる伏線に留まらない。 物語とは無関係にみえるさりげない細部でありながら何故か胸をざわつかせる、 その不吉な光沢の描写力が圧倒的なのだ。 それこそ、より映画的な伏線のあり方と云えるのではないか。  果たしてその刃はウィリアム・サバティエの胸を貫く事となり、 ナイフ、剃刀、と変奏される刃はラストのギロチンへと連なっていく。  その処刑シーンを階上から見届けるシモーヌ・シニョレの金髪。 その光沢もまた逆光の中でひときわ高貴に輝いている。  ダンスシーンの優雅な回転運動。 その中での、セルジュ・レジアニとS・シニョレの視線劇のスリリングなあり方。 決闘シーンのコントラストの利いた照明設計。 ルノワールゆずりのボートシーンの瑞々しさ。 小鳥のさえずりの官能的な響きと、 全編見所見どころに溢れている。     
[DVD(字幕)] 10点(2014-01-30 21:37:18)
2.  僕の彼女はどこ?
鮮やかなテクニカラーが全編に亘って画面を彩る。  アバンタイトルの背景イラストと文字を始めとして、ステンドグラス・屋外の木々・屋内装飾・ベレー帽・衣装・劇中絵画・ポーカーテーブルなどなど、光の三原色(赤、青、緑)が徹底的に駆使されているあたりは、D・サークらしいこだわりぶりだ。  その混合であるシアン、マゼンタ、イエローもまた乗用車、ストロベリーシェイク、ドレスなどにそれぞれバランスよく配され、映画をさらに楽しくカラフルに染めている。 そしてその配置もポイントごとなのでケバケバしくなく、極めて上品だ。  その光の三原色が、映画ラストにおいて素晴らしい雪の「白」へと結集するのもテクニカラーの必然的帰結と云って良いだろう。  チャールズ・コバーンのユーモラスな演技も楽しいが、彼になつくおしゃまなジジ・ペルーもまた実に愛らしい。  質素な暮らしに戻ることを喜び、二人が興じるダンスシーンの幸福感は最高だ。  犬のペニーもまた素晴らしい。単に人間に仕込まれた芸を披露するだけの『アーティスト』のアギーなど足元にも及ばない。  演出家も予想できないような巧まざるリアクションを見せてくれてこそ、優れたアニマルアクターといえるだろう。  
[DVD(字幕)] 10点(2012-05-13 23:52:47)
3.  ローマの休日
半醒半睡状態のヘプバーンがグレゴリー・ペックのアパートのらせん階段で見せるサイレントギャグの冴えを始め、ワイラー印の「階段」の数々は本作ではロマンチックなアイテムとしてある。  一方で得意のパンフォーカスによる縦構図も、夜の別離のシーン(駆け去るヘプバーンと、それを手前の車中から見送るG・ペック)や、ラストの記者会見シーン(画面奥から手前へと順々に握手していくヘプバーン)などに活かされているのだが、その用法は実にさりげなく抑制的であり、技巧が前面に出てくることはない。  その代わりに際立つのが、(本作以前と比して)ワイラーらしからぬ「通俗的」切り返しのモンタージュの多用である。  そのエモーショナルなクロースアップの数々と視線の劇は結果的にスター映画として主演二人のスクリーンイメージのアップに大きく貢献すると共に、その「物語」を最も効果的に語り切ることとなる。  自身の持ち味である映画的技法を抑制し、突出させぬこと。説話に徹することで原作(Story)の美点を最大限に引き出すこと。  それこそが、赤狩りの渦中ワイラーへ累が及ぶのを懸念しノンクレジットに徹した原作者ダルトン・トランボに対する映画作家の敬意と報恩だったのではないか。  密告と不信の時代に「信頼と友情」(「faith in relations between people」)の主題を王女とアメリカ人記者とカメラマン(エディ・アルバート)の間にさりげなく忍ばせた脚本の声高でない慎ましさ。  それは劇中の会見の場で、主演二人が交わす短い台詞の背後に込められた万感の真情とも響き合う。  恋愛劇・ビルドゥングスロマンとしての魅力と、劇中でヘプバーンが飲むシャンペーンのような軽妙なコメディの奥に、時代の切実なテーマ性を含ませたストーリーの豊穣。  そしてそのストーリーに奉仕する為、自らの技巧を透明化してみせたワイラーの矜持に打たれる。  50周年記念ニューマスター版において、デジタル修復によって初めてクレジットされたStory by Dalton Trumboの記名が感慨深い。 
[DVD(字幕)] 10点(2012-03-21 17:33:34)
4.  殺人捜査線
あらゆるカットにパースペクティブが活かされており、その構図取りの卓越した感覚が素晴らしい。冒頭から数多くのエキストラや車両を画面手前と奥に行き交わせ、深い被写界深度によて臨場感と世界の重層化を演出する。また、サウナ室の蒸気や、水族館の光の揺れ、スケート場や展望室のモブ(群衆)など、遠景には動きを取り入れる工夫が様々に凝らされており、活力ある空間が連続する。カットにはまるで無駄が無く、初っ端のスピーディなカーアクションから、クライマックスのスクリーン・プロセスと実景を見事に組み合わせ奥行きを活かした逃走アクションまでタイトに纏まり全くテンションが途切れない。特に最後の追跡劇は、ハイウェイの奇抜なロケーション、水平と垂直のパースペクティブ感覚、スピード感の演出が総合し傑出した活劇となっている。
[CS・衛星(字幕)] 10点(2009-08-02 16:55:25)
5.  草の上の昼食(1959)
まずは、人工授精に関するニュースを伝えるテレビ番組のモノクロ画面。続いてそれが置かれた研究室も白を基調とした寒色系の画面である。これら巻頭に提示された無機質な人工物の色彩が、映画の中で語られる科学と自然の視覚的対比として南仏カーニュの緑豊かな情景の美しさを一層際立たせる。絵画『コレット荘』そのままの陽光あふれるのどかな風情、ヒロイン(カトリーヌ・ルーヴェル)の水浴場面の瑞々しさ、縦移動で捉えられた疾走するバイクの爽快感・ライブ感、性愛表現としての水草のうねりの官能性等〃。いずれもロケーションを活かした光と風の感覚が素晴らしい。今回のDVD版では従来のビデオ版よりも明度がさらにあがり、特にヒロインの衣装の赤がより鮮烈なイメージとなって彼女の陽性の魅力が一段と引き立っている。華やかな色彩の乱舞する最後のモブシーンも圧巻だ。
[DVD(字幕)] 10点(2009-06-01 22:30:28)
6.  いとはん物語
身分・性差に囚われない私的な舞台として登場する、二階屋根に外接した見晴らしの良いもの干し用広縁が良い。鉢植えの美しい菊が並ぶその空間は、お嘉津(京マチ子)と友七(鶴田浩二)の接点となり、花々や刻々と変化する夕焼け空の色、二番星・三番星の明かりがアグファカラーの郷愁を帯びた色調で豊かに彩られる。そして何といっても映画の白眉といえるのは、箱根の写真を契機に広がるお嘉津の夢の場面である。奇跡的というべき金色の夕焼け雲の下、裾野を並び歩く京マチ子と鶴田浩二の小さなシルエット。その叙情的なロングショットと伊福部メロディの絶妙な融合具合は両者の数あるコンビ作の中でも随一と思われる。
[映画館(邦画)] 10点(2009-04-07 22:42:58)
7.  姉妹(1955) 《ネタバレ》 
中原ひとみの初々しく、溌剌たる輝き。表情変化の豊かさ、発声の良さ、コメディエンヌとして抜群の運動神経を感じさせる。  同年のオムニバス映画『くちづけ』の一篇でも活発な次女役で見事な快足ぶりをみせるが、この映画でもその見事な走りはもちろん、友人宅の廊下や、凧揚げ場面、寮の階段での見事な転び方や、コミカルな演技の数々で楽しませてくれる。過疎山村の失業問題など、独立プロ的なテーマを盛り込みながらも映画が硬直しないのは彼女の起用に追う部分も非常に大きい。  姉妹愛の主題についてもこの映画は、その観念を実直に具象化してみせる。二人は言葉においてはあくまで個別性・自主性をお互いに尊重し仲違いもするが、彼女たちが画面に登場するときは常に身体的に触れ合わせるよう演出されている。お互いに肩を寄せ合い、手を置き合うという直截な映画表現がこの作品の視覚的な美質だ。 クライマックスとなる姉の嫁入りの日、妹は姉(野添ひとみ)にやさしく手を差し伸べ、自室へと誘う。その触れ合いの身振りが素晴らしい。  また、家己監督の心情表現は様々な小道具の活用においても発揮されている。社会の矛盾に憤る真っ直ぐな次女が、ポンプで乱暴に井戸水を汲む。ここで手桶に納まりきれず溢れ出る水のショットは彼女の思いを見事に視覚化する。不本意な見合い結婚を決めた姉を難詰する妹と、それに答えず一心にミシンを踏む姉。そのミシンが真っ直ぐに縫い進むショットは姉の決意の象徴だろうか。
[映画館(邦画)] 10点(2009-03-08 22:27:46)
8.  弥太郎笠(1952)
両思いでありつつ、主役の二人は真正面から直に向き合う事がない。奥ゆかしく振り向きあい、寄り添いあい、面を介して肩越しに覗き込み合う。両編通じて、優雅な円の動きによって二人のエモーションが描出される。二人の逢瀬、祭りの輪、多人数掛けの殺陣と、それぞれに活かされる円のアクションはひたすら優美である。多人数が入り乱れる驚異的な長まわしの殺陣においても画面が安定感を失わないのは、鶴田浩二の重心を落とし摺り足を基本とした能あるいは合気道に近い円運動とキャメラの滑らかな水平移動の組み合わせの絶妙さによる。そして緩から急へのうねりの見事さ。鈴木静一の音楽と相俟って盛り上がる殺陣終盤のショット繋ぎの力強さと流動感は圧倒的だ。能に絡んで、霧の漂う木立や墓地の美術セット等、何れもまさに幽玄を感じさせる素晴らしさである。
[映画館(邦画)] 10点(2008-11-26 22:57:21)
9.  ゴジラ(1954)
この映画(1954年)のドラマパートは撮影:玉井正夫、照明:石井長四郎、美術:中古智、録音:下永尚、といった具合に成瀬組の主要スタッフが担当している。『山の音』、『晩菊』、『浮雲』と続く成瀬巳喜男監督の絶頂期と同時期の仕事である。円谷特撮を前面に出した空想SF映画に迫真性を与えた重要な要素の一つが、成瀬組による優れたスタッフワークであるといえるだろう。成瀬作品の特長の一つが緻密な美術セットとロケーションとの自然な融合にあるように、本作ではさらに加えて特撮場面との違和感の無い融合に各部門が大きな貢献をしている。ローキーで統一した照明設計。その中で映える、終盤の救護所に差し込む外光の美しさ。あるいは芹沢博士の洋館の中で不気味に発光する水槽の禍々しさ。美術でいうなら、成瀬作品でもお馴染みの二間続きの日本間、路地、オフィスなどの精緻な生活空間や、大戸島での残骸家屋の見事な造形。録音でいうなら、オフ空間を活かした足音の効果音の見事さ等〃。ドラマ部分の日常空間づくりに貢献した撮影所技術スタッフの優れた仕事があってこそ生まれた迫真の怪獣映画であるといえる。
[映画館(邦画)] 10点(2008-10-11 19:10:44)
10.  五本の指 《ネタバレ》 
中立国を舞台にしたスパイのドラマということもあり、無駄な殺しのシーンも無いが、頭から最後までサスペンスが目一杯詰まっている。 実話であること、実際の現場での撮影であることを冒頭で提示し、イギリス側、ドイツ側、そしてスパイのジェームズ・メイスンそれぞれの 思惑と駆け引きを観客にほどよく了解させつつ、ドラマを進める。 ファム・ファタルがいずれは裏切るであろうこと、金庫に仕掛けられた警報装置を出しぬいたつもりが手違いで鳴ってしまうだろうこと。 それを観客は、抱擁する彼女の表情のショットから察知し、上がったブレーカーを戻そうとする清掃係の行動によって焦らされる。 判らされているから、観客側はハラハラドキドキしてしまう。  次第に嫌疑をかけられていくジェームズ・メイスンの、それでもなお沈着冷静な表情と大胆な行動もさらにサスペンスを煽る。  イスタンブールの市街、マーケット、港湾などのロケーションを活かした追跡劇も生々しい迫力だ。
[DVD(字幕なし「原語」)] 9点(2016-11-30 03:24:41)
11.  突然の恐怖 《ネタバレ》 
時間を可視、可聴化する振り子運動のオープニング。その予告通り、クライマックスは極上の時間のサスペンスである。 モノクロ画面の光と影と音響が相乗して緊迫感を盛り上げ、後半はもう目が離せない。  部屋に設置されていた録音機が録音していた、ジャック・パランスとグロリア・グレアムの密通と共謀の会話音声が流れる室内。 音声のみであることが、それを聞くジョーン・クロフォードの絶望感を際立たせる。 グレアムの部屋に侵入し、家探しするクロフォード。突然鳴り出す電話の着信音や、郵便配達員の影と呼び鈴にこちらもドキリとさせられる。  結婚の歓びから一転しての困惑、悲嘆、絶望、そして復讐までの神経症的な感情の流れを的確に表現するヒロインの素晴らしさ。 照明のオン・オフを駆使して黒い陰影を投げかけるチャールズ・ラングのカメラもまたその感情表現を画面に乗せている。 クローゼットに隠れた彼女の額に浮かぶ冷や汗、真っ暗なベッドの上に光る彼女の妖しい眼の光など、異様なまでに優れた出来栄えだ。  ラストのアクションもまた、坂道や隘路などの工夫を凝らしたロケーションが不安定なノワールムードを醸す中、 ジャック・パランスが次第に狂気を帯びて最後までスリリングである。  別荘の崖路を下り、階段落ちを演じ、坂道を逃げ降ったクロフォードは、ようやくラストで夜明けの陽を浴びつつ坂道を登り始める。
[DVD(字幕なし「原語」)] 9点(2016-11-23 21:19:07)
12.  その女を殺せ 《ネタバレ》 
正味71分ながら、スピードとスリル感が満載である。 護送されるマリー・ウィンザーが二階部屋から出るとネックレスがほどけ、真珠が階下に落下する。その真珠が散らばる床は二階からは死角となっており、 その陰の中に殺し屋の足元が浮かぶ。その音響と陰影が生むサスペンス感。パースをつけた階段の縦構図の素晴らしさ。 その手狭な感覚は、舞台が列車に移るとさらに強調され、その通路やコンパートメントを忙しなく移動し、格闘するチャールズ・マックグローの 動きによって全くテンションを途切れさせない。  ジャクリーン・ホワイトとの対話シーン、マリー・ウィンザーの撃たれるシーンなど、窓ガラスの反射やドアによる遮蔽が効果的に 使われており、本物-偽物の主題を提示しつつクライマックスのドア越しの銃撃戦に巧く繋げている。
[DVD(字幕なし「原語」)] 9点(2016-11-16 23:52:20)
13.  オーソン・ウェルズのオセロ
壮観のロケーションとアレクサンドル・トローネによる厳かな美術が目を奪う。 そこでは太陽光や雲の形状や風や波など、ロケ撮影の特長が強調されている。   城砦上を並び歩くオーソン・ウェルズとマイケル・マクラマーの 会話と移動を延々とフォローしてゆくカメラワーク。  あるいは、遠近を強調した極端な縦構図とパンフォーカス。 要所要所での仰角アングルや、人物の表情のクロースアップの効果。 黒い闇に侵食されるウェルズと、白布に象徴される清楚なシュザンヌ・クルーティエとのハイコントラストを強調した光学効果。  あらゆるショットが舞台劇では表現し得ぬ画面効果を目指しており、 映画としての徹底した差別化が目論まれている。  自らのルーツである戯曲へ敬意を払いつつ、それをいかに映画表現するかの苦心の痕跡が全編から窺える。 
[DVD(字幕なし「原語」)] 9点(2014-10-29 23:56:06)
14.  黒い罠 《ネタバレ》 
111分のブルーレイ完全修復版。同仕様のDVDとほぼ同一だがランタイムは5分長い。 再見するとよく解るが、チャールトン・ヘストンのカバンの中の銃だとか、 大柄の杖だとか、モーテルでのうずまき状のスピーカーだとか、 後にキーアイテムとなってくる小道具はいずれもその前段で抜かりなくさりげなく 仄めかされている緻密さに改めて感心する。  (車両爆発直前までを捉えた)冒頭シーンばかりが注目される長回しも、 映画中盤のシーンでいかに効果的に用いられているかがよくわかる。  オーソン・ウェルズらがダイナマイトの証拠捏造を行う屋内シーンだが、 最初の長回しでオフ空間の浴室を移動によってまず映画的アリバイとして見せ、 二度目の長回しでそのオフ空間を観客により意識させてサスペンスを高める という趣向になっている。  冒頭のそればかりが騒がれるのは、観客を映画へ一気に引き込むべき手段としての 派手な移動撮影の突出があるからだが、中盤のそれは複数の俳優の芝居の 緊張を持続させるためのものであり、その意味で観客にカメラを意識させない中で ヘストンとウェルズの関係性の決定的変化を捉えるこちらの地味な長回しも 相当に難度の高いものであり、決して無視されるべきではない。  夜の闇の中、盗聴を移動という動きの中で描写する。 そしてそこに橋梁や油田ポンプの空間構造を 利用して障害を採り入れてサスペンスを醸成する。 やはり映画的センスとしか言い様がない。      
[ブルーレイ(字幕なし「原語」)] 9点(2014-10-13 13:23:36)
15.  原爆の子
乙羽信子と少年が互いに手を振りながら別れる萬代橋のシーンは、極端なローポジションによって、その欠けた欄干と手摺が空ける空間の中に組み入れられる。  被爆後7年を経た復興の風景の中に残る傷跡をそれ自体として中心化することなく、あくまでドラマの情景の一部として提示する慎ましさとリリシズムが全編を貫く。  被爆者の悲憤と糾弾を直截にアピールする同時期の日教組作品『ひろしま』との大きな違いだ。  歌唱やSEなど音楽的要素も様々に用法が工夫され、作品を抒情的に彩っている。  たとえば伊達信の臨終の場に、屋外から流れてくるチンドン屋の陽気な囃子(カウンタープンクト)。 少女が病に伏している教会に響く讃美歌。 元幼稚園だった草むらに残響する童謡。 雲間から聞こえてくる飛行機の爆音などである。  中でも、原爆投下直後を再現するモンタージュと伊福部昭作曲の合唱音楽の融合が、短いシークエンスながら圧倒的だ。  画面が伝える惨劇のイメージと、敬虔かつ崇高な音楽の力が一体となった情感は簡単に形容出来ない。 
[ビデオ(邦画)] 9点(2012-05-12 23:58:13)
16.  殺人容疑者
街頭ロケーションを活かしながら、縦構図、横移動、俯瞰と豊かなバリエーションを駆使して描写される、捜査員と容疑者の尾行シーンの緊迫感が素晴らしい。東宝俳優陣を配した『彼奴を逃すな』の住宅街における尾行シーンのサスペンスも見事だったが、それに4年先立つこの新東宝作品は無名俳優及びゲリラ撮影的効果と相俟って一段勝る迫真性を獲得している。大勢の通行人たちが逃走する容疑者を取り押さえる中盤の群衆シーンのスペクタクルは圧巻だ。街路を俯瞰するロングショットに同時録音と思しき現場の生々しい喚声がかぶり異様な高揚感を生む。さらには、列車での尾行シーン。横浜駅ホームに到着する列車から飛び降り、そのまま階段を駆け上がる丹波哲郎のアクションを捉えたショットなどは非常に充実している。あるいは逃走車両が農道から落下横転する危険なスタントシーンをワンショットで捉えたカーチェイスの迫力。そしてクライマックスの下水溝では水面の照り返しを活かした揺れる光と闇、アフレコによる水音の効果が最高の緊張感を醸成する。これら無音と環境音の組み合わせによる音響効果の妙もやはり後年の『彼奴を逃すな』で結実することになるだろう。
[映画館(邦画)] 9点(2010-05-08 22:32:26)
17.  ボディ・スナッチャー/恐怖の街
回想形式でのスタートだが、救急病院を示す屋外のファーストショットから流れるような移動で院内の主人公が回想に突入するまでほんの数分、ショット数にしてわずか4というスムーズな語り口があまりに見事である。この4ショットの間に、主人公に関する必要な情報のみ簡潔かつ的確に提示し物語に引き込む手際の良さ。日中はロケーション主体の写実的なタッチ、夜間はノワール的な照明設計(低位置のライティングよる陰影の拡大、闇を強調した夜間撮影など)、ここに階段や丘道による高低差・坑道や地下室の暗い閉塞空間を効果的に織り交ぜ、不気味なムードとサスペンス感を一段と増幅してみせる傑出した技能は低予算作品で培われた職人技といって良いだろう。要所で限定的に用いられるひずんだクロースアップの効果も絶大である。ここには大スターも大掛かりな美術セットも特殊効果もないが、全編が豊かなスペクタクルに満ちている。(モノクロームならではの、夜の路地の妖しい美しさといったらない。)これぞB級の美質。
[ビデオ(字幕)] 9点(2009-07-29 21:38:27)
18.  あらくれ(1957)
キャストに限らず、全編が見どころに溢れ充実している。●つなぎの面白さ。中盤の場面転換で、海辺を歩く男女のショットが不意に登場する。一体何かと思うと、実は高峰秀子と森雅之が見ている映画内映画『金色夜叉』の一場面で、そこでは貫一が宮に蹴りを入れ始める。(言うまでも無く、加東大介らを蹴りつける高峰の暴力的なキャラクター造型に対応している。)これを見る彼女の表情がまた絶妙で、さりげないユーモアが利いている。(仏壇、さらには墓地への唐突なつなぎ等もいい。)●大正期の街並みと風俗を精緻に再現した、河東安英によるオープンセットの見事さ。活気に満ちた東京の路地の情景、行き交う物売りの担ぐ荷車、人力車まで凝りに凝った美術が素晴らしい。●雨、雪、風。終盤の雨はもちろん、山村の旅館に積もった雪の質感と情感も驚異的である。(高峰と森の絡みの場面で、雪塊が氷柱のはった屋根から一気に雪崩れ落ちる、その構図とアクセントの見事さ。)また、風物や音声を駆使して木目細かく表現される四季の移り変わり。短いはずの撮影期間内で、折々の光を玉井正夫が繊細に掬い取っている。
[映画館(邦画)] 9点(2009-07-27 20:03:00)
19.  街の野獣(1950)
実景による街の俯瞰ショットは、人間の矮小さをも際立たす。冒頭で闇の街中を逃げ回るリチャード・ウィドマークの人影もその卑小さを強く印象付け、続くジーン・ティアニーのアパート階段上から彼を捉えるカメラアングルもまた、その勾配がもたらす遠近法によってその孤立を駄目押しするかのようだ。一方の屋内空間では、極端なパースを活かした構図や仰角画面によって顔面はいびつにデフォルメされ、空間の狭さが強調される。これら「見晴らしの悪い夜の屋外実景」と「窮屈な屋内セット」の二段活用は、何処へも「逃げ出せない」という主題と、物語の結末の暗示ともなる。終盤の逃走場面に登場する工事現場内の狭いらせん階段の歪曲と闇がもたらす切迫感、レスリング場面の張り詰めた重量感と迫真性も非情に見事である。
[DVD(字幕)] 9点(2009-05-09 22:11:47)
20.  春琴物語
同原作では島津版に続いて2度目の映画化。こちらは軟らかなローキーのタッチが特徴的である。春琴(京マチ子)の視覚に同調するように極度に明度に落としながら、その中で舞い散る桜や枯葉、雪、驟雨を美しく浮き立たせ、あるいは終盤の暗闇の中で絶妙の配光で針を鈍く輝かせるといった繊細な照明設計が為されているのがわかる。序盤での暗い廊下の奥から玄関口を臨む構図で捉えられた二人の初めての出会いと、後日談として付加されたラストの佐助の故郷における明るく開放的な入江の光景との対比。それは二人の開眼した心象を示すものだろうか。『忠治旅日記』での極めて情緒的な1ショットのごとく、触れ合う手と手のアップも印象深い。佐助と目の不自由な春琴が手をとり合うショットは度々反復されるが、二人の微妙な心情の機微と変化がその重なる手のアクションの微細な変化として捉えられていく様が見どころである。実演としか見えない京マチ子の琴の演奏も素晴らしい。
[映画館(邦画)] 9点(2009-04-02 23:12:40)
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