みんなのシネマレビュー |
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ネタバレは禁止していませんので 未見の方は注意です! 【クチコミ・感想】
21.《ネタバレ》 見せ方がうまい。ショットの確実な切り取り、安定した画面処理など、もはや巨匠の域に達した李監督の円熟の演出が冴えまくっていました。 とくに舞台の場面では、2006年の出世作において、自家薬籠中の物としたステージパフォーマンスを捉えるカメラワークがさらに進化していて、 歌舞伎の魅力を余すとこなく描写。寄りのショットのモンタージュなども圧巻で、映画という表現形態がもたらすカタルシスに酔ったしだいです。 ◇ ところで、私の先輩で松竹に長年勤められて、歌舞伎座にも関わったことのある方がいらっしゃって、今作についてのレビューに触れることができました。 松竹で歌舞伎を間近に見てきた方ならではの視点で論評されています。若干長いですが、ご参考に紹介させていただきます。 -------------------------------------------------------- 「歌舞伎ファンタジー映画の傑作」 二人の歌舞伎俳優を描いたファンタジー映画としての傑作だと思う(ただし、2回観た後の評価)。 ちなみに初めて観た後の感想は「長尺を感じさせない力作・佳作」って感じだったから、2回観て評価がアップ。 何故かと言うと、 〈一つ目の理由〉 初めて観た直後はポジティブな満足感とともに、いろんな「こだわり」も小骨のように引っかかってしまった。 例えば、 ①劇中のクライマックスの歌舞伎シーンはキラキラの音楽盛り盛り、ど派手映像で、俳優のアップの多用が映画的ダイナミズムを感じさせる一方で、「引き」のショットもあまりない。こちとら長唄、常磐津、清元、竹本が耳に馴染んでるし、当たり前だけど、劇場の客席から観る舞台はいつも「引き」の視点なんだよ、とか。 ②渡辺謙があまり歌舞伎俳優の雰囲気じゃないなぁ、とか。 ③わざわざ襲名披露の口上の場で血を吐かせるのか(原作がどうあれ、監督の演出がどうあれ、歌舞伎の興行者の立場として、あるいは歌舞伎ファンとしては、なんだか舞台を汚された気分で不快)とか、 ④年老いて引退した人間国宝の元女形・万菊が最晩年になんであいりん地区(?)の簡易宿にいるのか、とか、 ⑤あと、映画の評価とは関係ないケチくさいグチを承知で言えば、歌舞伎400年の歴史のうち、130年にわたってその伝統を守り、発展させてきた松竹へのリスペクトが足りへんなぁ、エンドクレジットに「協力:松竹株式会社」くらいあっても罰は当たらんやろ、東宝はん!とかね。 ただ、これらの諸々は歌舞伎ファンで歌舞伎の製作・興行会社の元社員としてのバイアスが利き過ぎていたかなと。 そして、何より、この映画は歌舞伎、歌舞伎俳優をめぐるファンタジーと割り切った瞬間に、ネガティブなこだわりが霧消した。 とくに①については、歌舞伎観劇の客には見ることの出来ない、映画としての特性を存分に活かした視覚的、音響的効果として素直に受け入れることが出来た。言うまでもなく、観客の視点ではなく、役者からの視点がダイナミックに描かれていたと思う。 ただ、④については、田中泯演ずる人間国宝の老女形(歌右衛門そのもの)が簡易宿で最期を迎えなければならないのは、ファンタジー映画としても、腑に落ちない。 〈二つ目の理由〉 一度目を見終わって、映画としてのレベルの高さを感じつつも、登場人物の心情やドラマの進行・物語の展開が大胆に省略されていて、人物の心の動きや事象の流れがスッと入ってこないなぁって思ってた。 ただし、2回目を観終わって、ああ、これってあえてそういう演出なんだなって。説明的にならず、客観的というか、メタ的にクールに撮ってるのかぁ、って。そう言えば喜久雄の描写もどことなくクールである。多くのものを切り捨て「芸」一筋に歩んで来た、そして人間国宝になった。 フラッシュバック的に頻繁に現れる紙吹雪の舞うカット。その背景は常に暗闇だった。喜久雄はその暗闇に代わる景色を探し求めていたのだろう。 ラストで喜久雄は圧倒的な「鷺娘」を踊ったあと、客席の彼方を見て「きれいやなぁ」とつぶやく。その先には暗闇ではない明るい色のついた、ただし、空っぽの空間があった。喜久雄は空っぽの空間の彼方に何かを見たのか。それは雪景色の中の父の死に様だったのか。 それとも芸を極めた無我の境地果ての空っぽの空間を、「きれいやなぁ」と表現したのか。いずれにしても、2回見てまだいろんな解釈の余地があるのは、やはり傑作なのかな。 -------------------------------------------------------- 【大通り・ヘップバーン】さん [映画館(邦画)] 10点(2025-07-21 18:52:45) 20.《ネタバレ》 歌舞伎の世界は、一般の社会とは違う。女遊びも芸の肥やし。吉沢亮演じる立花喜久雄(花井東一郎、三代目花井半二郎)は家庭に依存せず、女性たちを利用するだけで、彼女たちの顔を見ない。襲名の足枷となる自分の娘の存在すら認めない。周りの人々を犠牲にして芸道を追求し、日本一の歌舞伎役者となる。人間国宝となる。虚空を見つめる視線の先にある芸とは一体何ぞや? 芸の極みとしてある人間国宝の価値とは何ぞや? 映画は、結局のところ、立花喜久雄の一般人からすればゲスの極みたる人間、その人間が生み出す芸を国宝として認める。犠牲にされた娘によって、ゲスな人間である喜久雄は役者として賞賛され、父親として許されるのだから。大衆はただ芸の美しさのみに感嘆し、全てを忘れるのだから。 芸とは人間である。人間から生まれる。喜久雄は、父親の惨殺を目撃し、復讐を企て失敗し、家族愛を失う。歌舞伎の世界に身を投じ、ただひたすら芸を磨く。曽根崎心中のお初を演じ、自己愛に根差す恋感情の表現に囚われる。そこに他者への献身、家族愛や善はない。あるのは個としての「悪人」、その悲しみと「怒り」、ゲスの極みたる人間そのものである。人間の本質を見つめる目は虚空とならざるを得ない。 『国宝』は「芸とは何か」を描き切っている。一般には共感し難いが、私はそこに一番共感した。映画はそこに人間の光を見ている。そして、欲望の源泉とその先の風景を映像として描いた。その先の風景。それは一握りの資格を持つ者が見ることのできる幻想であるとも。 ちなみに私は歌舞伎を生で観たことはなく、映像で坂東玉三郎の『鷺娘』や尾上菊之助との『二人道成寺』を観たことがある程度。(もちろんどちらも凄く感動した)それよりも、どちらかと言えば、歌舞伎の歴史が好きで、名跡の系譜や松竹・東宝の確執のストーリーに興味があった。歌舞伎の歴史をみれば、それは血の系譜である。五代目、六代目尾上菊五郎、九代目市川團十郎、五代目、六代目中村歌右衛門(ここが『国宝』のモデルのように思える)、初代中村鴈治郎、十代目、十一代目、十二代目片岡仁左衛門、十五代目市村羽左衛門、初代中村吉右衛門。名跡の継承、ライバル争い、妾腹、実子への固執、養子との確執、自死、殺人事件も少なくない。結局のところ多くの血は継承されていない。見渡せば、松本幸四郎の血筋だらけではないか。だからかもしれない、歌舞伎は本来、芸であり、人間なのだと切に感じた。吉沢亮。彼の目が良かった。そして、高畑充希、森七菜、瀧内公美。彼を取り巻く女性たちの彼を見つめる目も確かに「それ」を物語っていた。 【onomichi】さん [映画館(邦画)] 9点(2025-07-21 14:52:40)(良:1票) 19.私にはちょっと長すぎました。主人公の二人が白塗りになるシーンが多くて、どっちがどっちだか分からなくなって混乱しました。ごめんなさい。 【よしふみ】さん [映画館(邦画)] 6点(2025-07-21 10:44:25)(良:1票) 18.吉沢亮さんの名演、怪演を堪能しました。 すっとした立ち振る舞いの女形にゾクゾク。 横浜流星さんとの歌舞伎舞台の美しさと言ったら。 撮影の美しさ、芸の見事さ、美しい顔が怖い怖い、お腹にズシンとくる映画でした。 吉沢さんをたっぷり見たいと思っていたのでもう、大満足。 原作未読。 前半が丁寧に描かれていたのに、後半は描き足りていないと思えるところも。 春江の心変わりの顛末や、父がわりの半次郎が喜久雄を選ぶところなど、もうちょっと納得したかった。 藤駒とのラブストーリーにも心を寄せたかった。 他の方も言っておられますが3時間上映は編集を上手くやらないと、ついて行けなくなる時もあるので。 2時間半だったらもっと評価が上がっていた。 前後編にしても良かったと思う。 それから歌舞伎ファンとしては、半次郎役は歌舞伎役者が良かったです。 少年の二人に稽古つける時も扇をもって見本を見せるシーンがあったら、歌舞伎の家だと思えた。 少し苦言も書きましたが、日本の芸能の映画がもっともっと出来るように、心から応援しています。 劇場で本作のような名作にどっぷり浸りたい。 日本映画界に期待しています。 【たんぽぽ】さん [映画館(邦画)] 8点(2025-07-15 10:50:45)(良:1票) (笑:1票) 17.《ネタバレ》 親を殺された主人公が、歌舞伎役者に拾われて、住み込みの弟子として、同い年の歌舞伎役者御曹司と一緒に、厳しい稽古を積んで歌舞伎役者を目指すところから始まり、人間国宝に至るまでの一代記です。同じ道を志した2人の男の立場が二転三転し、各々がそれぞれ苦悩しつつ、少し道を外れつつ、それでも、歌舞伎役者として生きる以外の道も無く、それに縛られ、その高みを目指すしかない、単純に好敵手とも言えない、単純に戦友とも言えない、二人の関係が、なんとも味わい深いですね。実際のところ、そんなにうまいこと二転三転するかよと思いますが、芸事とは別の、個人の能力ではどうすることもできない、様々な有象無象によって、物事は簡単にひっくり返り、人生は大きく流されるものであること、どちらに転んでいてもおかしくなかった人生の綾を、わかりやすく効果的に見せるために、うまく考えられた構成だと感じました。最終的にまったく異なる対照的な人生となったことも感じ入るものがありました。本作は、題材が題材だけに、まじめに取り組まなければ、伝統芸能を貶めてしまいかねないという縛りがあるので、ハードルは高いのだけれど、制作陣や役者陣皆が作品の質を上げる面で同じ方向を向いていて、すべてのシーンに意味があって、役者が皆、実のある演技をしていて、それが束になってぶつかってくる、凄味のある作品になっていると思いました。歌舞伎の演目の映像美も素晴らしいのですが、冒頭の1960年代のヤクザの宴会と殴り込みのシーンの作り込みの細かさに、ガッツリ持っていかれ、それ以降、時間を気にすることなく見入ってしまいました。 【camuson】さん [映画館(字幕なし「原語」)] 10点(2025-07-11 15:52:44) スポンサーリンク
15.《ネタバレ》 題材もさる事ながら日本映画の底力を感じる凄みのある作品でした。3時間全くだらけることなく没入しました。 歌舞伎の世界のもつ独特の「世襲」に翻弄される2人の主人公それぞれの半生が事細かに描かれ、変な言い方ですがどちらの不幸もとても美しく見えました。 キャストも見事で特に吉沢亮と横浜流星はなんちゃって歌舞伎役者ではなく歌舞伎役者でした。これをプロの歌舞伎役者がやってたらこんなに感動しなかったと思います(全演目良かったですが2回の曽根崎心中はいずれも魅入りました。糖尿病で脚を切らざるを得ないその前に、襲名披露で打ちひしがれて逃げ出した演目で演じたお初の凄みも鬼気迫りました)。 最後の鷺娘は死に鷺のほうでしたがまさに絶唱。見上げた上空がいつか見たかった景色で最高に美しい大団円でした。円盤出たらメイキングでどれだけ2人が歌舞伎や舞踊の稽古に真摯に打ち込んだかぜひ観たいです。ここ数年の映画で最高の1本です。 【まさかずきゅーぶりっく】さん [映画館(邦画)] 10点(2025-07-07 12:02:36) 14.《ネタバレ》 まず素晴らしい点を。たくさんの人間によって支えられ作り上げられている日本の総合芸術『歌舞伎』、この文化の極みをド迫力でもって見せてくれること。 想像以上に悲壮感漂うドサ周りの現実に、芸の道の厳しさを知る。 今の日本になくなりつつあるお座敷・芸者・料理・酒・煙草。コテコテの昭和を見せてくれる。 演技は、出てくる人すべての演技が素晴らしかった。 これだけで6点捧げてしまえる。 でも見終わってみると「え、アレどゆこと?」「なんで?」と疑問に思える点がたくさん残っていて、一本の映画を見て一点の曇りもなく「あー、凄かった面白かった」とは言えないんですよね。 ──主人公の喜久雄は悪魔と何を取引したか── 正直、ここまでのパワーワードを使った説得力がないというか…。悪魔と契約って事は『家族や恩人を犠牲』にしてでも成功を望んだのかな、と思うけど。 でも芸者さんと娘さんも、そこに愛が見えなかったし正妻じゃないしで、どっちか言うと「なんで子供作ったん?」てなもんで。捨てたのも全然驚かなかった。 恩人である半次郎も、本人が主人公を望んだのだし…。 主人公は天涯孤独で何も持っていない親子関連のしがらみも無い人だから、『犠牲』といってもたいした犠牲がない。だからなんか、重みが少ないというか…。 何かに人生かけて家庭をほぼ捨ててる人なんてこの世に沢山いるし、そういう人の一人に見える。特に男性はこのクラスのクズいっぱいいます。家庭なんて放っておいても奥さんが何とかしてくれるんだから。 彰子さんを利用した事だけは『どクズだな』と。彰子さんいなけりゃ踊ることなんて出来やしないから。若い女の子の人生ダメにして、本当クズだなと。でも悪魔って言葉を使うレベルではない。 あとひっかるのは、なんといっても ・春江さんはなんで俊介を選んだのか。 ・半死の万菊さんは、何をして、主人公を表舞台に引っ張り上げられたのか。 とにかく何度も「あれはどーゆー事よ」と疑問に思い、「小説買っちゃろか…」と何度も思います。買ってないけど。 主人公の人生もいいけど、私は俊介の人生を知りたい。父親との確執を、ねっとりじっくり描いてほしいと思った。 そして万菊さんの人生を知りたい。あの終の棲家は何なのか。どんな人生送ったらあんな人が生まれるのか。 【りんどう】さん [映画館(邦画)] 6点(2025-07-06 16:52:17) 13.3時間という長さを感じさせない重厚感、見ごたえのある作品だった。 吉沢亮、横浜流星という当代の人気俳優が、忙しい中歌舞伎の難しい所作を良くマスターしたと思う。 二人の役者の才能と血筋を巡る浮き沈みと葛藤を描いた作品だが、小難しくなく分かり易いストーリーに仕上げている。 又、田中泯の存在感は流石であった。 映像も美しく良く出来ていた。 【とれびやん】さん [映画館(邦画)] 7点(2025-07-05 17:37:27) ★12.《ネタバレ》 THE 芸術。THE 映画。魅せられた。伝統芸能トップ役者二人の人生模様と舞台芸術とが織り成す万華鏡。さながら「さらば、わが愛 覇王別姫」を彷彿させるような叙事詩。一点の曇りのないような傑作であるが、最後の女性カメラマン登場は画竜点睛だった。彼女のキャスティングも失敗だった。あのかわいい女児がなんでこうなるのか。最高の感動作だっただけに期待を裏切られたようで残念。 【ほとはら】さん [映画館(邦画)] 7点(2025-07-05 14:47:05) 11.《ネタバレ》 邦画で「大作」的な雰囲気を醸し出している作品は久しぶりでしょうか。 今が旬の2大俳優は、背格好も大差なく、目力がある正統派美男子というところもドンピシャリで、これ以上が想像できないキャスティング… この2人が大画面に耐えられる演技を魅せた!ということに尽きます。 主演吉沢亮、No2が横浜流星という、このバランスがまたよい。この反対は考えられないくらい。 横浜流星でありますが、前半は主演を光らせるために控えめな空気を醸し出し、逆襲するところでは一気にオーラ全開・・・メイクがフォローしていることもあるでしょうが、素晴らしい役者だと思いました。 ストーリー自体は、長尺にかかわらず、ダイジェスト的だったこともあり、シンプルで飽きがこなかったです。 ただ、ラストのパートは若干蛇足なように思えました。最大の盛り上がりを見せた2人の舞台シーンで終わってもよかったかなと…(これだとNo2が目立ち過ぎてしましますが…) あ、本作に限れば横浜流星推しです(^^; 【午の若丸】さん [映画館(邦画)] 8点(2025-07-02 21:56:17) 10.吉沢亮と横浜流星が素晴らしかった。脇も実力者がしっかり固めていた。 映像が美しかった。3時間が長く感じなかった。歌舞伎に詳しくなくても楽しめた。素晴らしい映画だった。 【東京ロッキー】さん [映画館(邦画)] 9点(2025-07-02 20:40:33)(良:2票) 9.見応えがある、というのはこういう作品のこと。「芸を極める」ということだけに生きる人たちの物語が、とにかく重厚すぎる。歌舞伎を観に行きたくなった、歌舞伎に興味を持った、というコメントがあることが、最大の賛辞なのかな。 【noji】さん [映画館(邦画)] 8点(2025-06-27 09:01:54) 8.《ネタバレ》 たかが歌舞伎の世界に天皇家や王朝家のような血筋への執着… されど歌舞伎なんでしょう、伝統文化や技術が世代を超えて継承されてきたのもそのこだわりのお陰ですか? 悪魔に魂を売るような主人公の芸に対する執着心、その常軌を逸した執念が復讐、嫉妬、挫折そして才能と血統の葛藤を乗り越えて人間国宝に上り詰める。女形が見事にはまる吉沢亮とそれを取り巻くキャストの演技も素晴らしく、とても見応えのある歌舞伎世界でした。 本来ならもっとドロドロとした雰囲気になってもおかしくないようなお話しですが、2人のイケメンコンビに和らげられて、長さを感じさせないすっきりとした余韻の残る3時間でした。 【ProPace】さん [映画館(邦画)] 9点(2025-06-25 16:59:33)(良:1票) 7.「芸」という、その価値の本質がひどく曖昧で、故に悪魔的な魅力を放ち続けるモノの狂気と、深淵。 174分という映画の尺があまりにも短く感じられるほどに、光と闇が濃縮された映画世界に恍惚となり、うまく言葉を紡ぐことができない。 正しい言語化のためにも、再鑑賞は必須と考えているけれど、とりあえず初回鑑賞後の「記憶」として記しておこうと思う。 こういう圧倒的に完成度が高い映画の感想を綴るとき、あまりキャストやスタッフ個々の功績に言及することは、個人的に避ける。俳優や監督の個人名を挙げて、それぞれの演技や演出を文章化してしまうと、なんだか当たり障りのない批評的な表現になってしまい、作品に対する私自身の「感情」を、正しく表現できていないと感じるからだ。 でも、「役者」という生き方と文化、その陰と陽をひたすらに追求したこの作品においては、やはり何を置いてもそれを身一つで体現した“役者たち”を軸に語ることが、筋なのではないかと思う。 つまるところ、“立花喜久雄”という役者の天賦と狂気に等しく支配された主人公を演じた、役者・吉沢亮が、「圧巻」だったということ。 これまでこの俳優の演技をそれほど見てきておらず、既に確固たる人気俳優の一人であることは勿論認識していたけれど、個人的な印象が薄かったことは否めない。 ただ、独特な眼差しの奥に何か仄暗い闇と光を秘めた俳優だなという、予感めいたものは前々から感じていて、本作でその「正体」が、ついに顕になったという感覚が強い。 吉沢亮という役者が秘めた仄暗さの中の光は、まさに本作の主人公が孕む美しくも禍々しい狂気性と呼応し、入り混じり、唯一無二のキャラクター像を作り上げて見せていたと思える。 極道一家の御曹司として生まれ、父親の惨死を目の当たりにして、行く宛もなく歌舞伎役者の家に転がり込み、自身の「芸」のみを研鑽し、邁進し、凋落と絶望を経て、「国宝」と成る男。 そんな荒唐無稽な人間の人生を、疑問も違和感もなく、体現してまかり通してみせた吉沢亮の表現力にこそ、この映画の本幹に通じる“深淵”を見たように思う。 そしてもう一人、主人公・立花喜久雄と文字通り“対”を成し、共に役者人生を全うする“大垣俊介”を演じた横浜流星も、素晴らしかった。 名門歌舞伎一家の「血」を受け継ぎ、役者としての華を持ちつつも、主人公との圧倒的な“ギフト=天賦の才”の差を感じ続け、苦闘し続ける人物像を、こちらも見事に体現しきっていたと思う。 物語の中の立花喜久雄と大垣俊介の関係性は、そのまま現実世界の吉沢亮と横浜流星の俳優としての性質や立ち位置にも通じているように見えた。 李相日監督の言葉にもあるように、本作の製作に当たって主演の吉沢亮のキャスティングは、ほぼ大前提として確定していたようだが、相手役のキャスティングにおいては熟慮の末、「横浜流星に賭けてみよう」という決定プロセスだったらしい。 そこには、横浜流星という俳優における重圧や葛藤、そしてそれらを凌駕する熱情と努力が溢れ出ていた。 主人公の喜久雄以上に、その終生のライバルであり“親友”である俊介の、人物的な存在感を高められなければ、この映画世界の構造は成立しなかっただろう。 無慈悲で明確な“ギフト”の差を突きつけながら、病で足を腐らせ、片足になりながらも、舞台に立ち続ける大垣俊介の姿も、役者・横浜流星の人間性と呼応し、魅力的な人物像を作り上げていたと思う。 「役者」という生き様そのものが、「人間国宝」として認定されるというこの国の文化は、よくよく考えると少し異様にも感じる。 “自分”ではないものを演じ、芸術として表現し、それを「国宝」と呼称されるレベルにまで高めるという行為は、そもそも普通の人生や、まともな価値観を逸脱しなければ、成り得ない。 本作の主人公がそうであったように、それはすなわち「人間失格」の烙印を押されようとも、悪魔にすべてを投げ売って、ようやく垣間見える境地なのだろう。 社会的な倫理観とは程遠く、嫉まれ、憎まれ、恨まれ、歩み続ける孤独な狂気の道。 そこから放たれる一瞬の「芸」の光に、私たち人間は熱狂し続ける。 【鉄腕麗人】さん [映画館(邦画)] 10点(2025-06-17 21:44:12) 6.《ネタバレ》 歌舞伎のことなんて、実は全然わからない。でもこの映画を観て、私はただ、心の中で「すごかった…」と呟いてしまった。 それだけで充分じゃないかと思えるほど、見せ場の連続だった。 吉沢亮と横浜流星、二人の舞踊シーンがとにかく圧巻。 『藤娘』『二人道成寺』、そして『曽根崎心中』では二通りの演じ分けがあり、ラストは吉沢亮一人による『鷺娘』。 もう、観ているこっちが力みすぎて疲れちゃうくらい、ものすごい気迫だった。 ラストの『鷺娘』は、演目の意味など知らなくても、力強く、自分の運命を噛み締めるような、そしてこれまでの人生を振り返り嘲笑うような舞にも見えた。 田中泯演じる万菊お姉さん(最高!)が俊ボン(横浜流星)に向かって言った言葉、「あなた、舞台を憎んでるでしょ。それでいいの。」 このセリフが胸に残る。 俊ボンにかけられた言葉だったけど、実はその奥にいた喜久雄(吉沢亮)に向けられたものだったのだろう。 舞台に生き、舞台に喰われる。そのどうしようもなさを知っている人間だからこそ言えるセリフだったと思う。 喜久雄と俊ボンの関係。 血筋に嫉妬する喜久ボンと、芸に嫉妬する俊ボン。 二人は最初からライバルなのだが、それでも憎しみ合うことなく、最後まで信頼し合っていたところが今風で、とても美しかった。すごく爽やかなスポ根だ。 汗と涙と努力の世界。そこに嫉妬や屈辱もあるけど、根っこにあるのは敬意と愛。だから常に温かい。 喜久雄が地方のどさ回りで観客から「このニセモノ!」と罵倒されるシーンがある。それが胸に突き刺さった。きっと彼自身が、ずっと自分のことをそう思っていたんじゃないかな。 血筋を持たない自分はニセモノ。 女形なのに女じゃない、自分はニセモノ。 子供がいても父親ではない。 一体自分は何者なんだ?そうだ、ニセモノだ! そう思ったら少し楽になる。 『鷺娘』はニセモノとして生き抜いた男の、魂の証明のように見えた。偽物だろうと、血筋がなかろうと、魂を削り、自分を閉じ込め、命懸けで演じる姿に観衆は喝采を浴びせる。 しかし役者としての体をほどいて己に戻った時、この喝采と祝祭は幻になってしまうのだろう。 何とも辛い生き様だが、そこに後悔は無い。 父親が殺された時の雪が散らつく景色、それが喜久雄の心象風景。全てはそこから始まり、それが全てなのだから。 【ちゃか】さん [映画館(邦画)] 9点(2025-06-15 15:10:55) 5.《ネタバレ》 歌舞伎は世襲の世界。 門閥外から血筋を押しのけて名跡を継ぐなどよほどの実力がなくてはできない。いや実力があってもできない。 喜久雄は悪魔と取り引きをし、芸の道を登っていく。半二郎も万菊も、血筋が可愛くない訳はない。しかし、芸を極めてきた者だからこそ、喜久雄の芸を認めてしまう。 そして、血筋という甘えを捨てた半弥も芸の道を登っていく。 芸の神でもある悪魔と契約した喜久雄は求道者となり人が見られなくなる。ふと、「どこ見てたんやろな」と省みる。 何かに見られているとは芸の神であり、求めていた景色は芸の神域なのだろう。 【ぶん☆】さん [映画館(邦画)] 8点(2025-06-14 23:21:27) 4.《ネタバレ》 素晴らしい作品です。 でも、言わせてもらうなら...カンヌに持って行っちゃダメ、外国人に歌舞伎の世界なんてわかるはずないでしょ、日本人でもわかる人なんて少ないのに。 あとは、3時間は長すぎます。 それこそ、前・後編に分けて合計4時間半くらいにするとか、やり方はあるでしょ。 平日の昼過ぎの上映に行ったのですが、意外なくらいに多い観客、でもおっちゃん&おばちゃんばかりでした。 前半は話の流れがゆったりだったのに対し、跡目を決めて以降は話が早くなりすぎて意味不明な部分も多いです。 それでも、歌舞伎のシーンは見応えがあり、実際に歌舞伎を観に行きたくなりましたね。 そうそう、どうしても言いたいこととして、主人公二人ともトラブルやスキャンダルを起こして業界を追われながらも、舞台に戻ってこられるあたり、実際の芸能界と同じで甘い世界だなあと感じました。 私は許せません。 【ミスプロ】さん [映画館(邦画)] 8点(2025-06-12 19:57:44) 3.《ネタバレ》 2025.6.11観賞。 国宝級のイケメンと称されるリョーくんが渾身の怪演を見せる、歌舞伎役者の半生を描いた壮大なドラマ。ライバルは歌舞伎名門の御曹司を熱演するリューセイくん。女形の競演。ちんにゅるかくごはぁ…ナニ言うとるか分からんのが歌舞伎の醍醐味やったっけ。女形の面構えはピエロみてえで物凄い形相。早速、今夜のユメに出てきそうやな。それでも、歌舞伎役者の頂点に昇り詰めるまでの数十年が如何に波乱万丈で凄惨かがよく伝わってきたので良作。 【獅子-平常心】さん [映画館(邦画)] 7点(2025-06-12 01:00:07) 2.《ネタバレ》 原作未読。 歌舞伎の世界を少しだが知る機会が出来てよかった。また、歌舞伎のシーンも素晴らしかった。(大昔にNHKのテレビ放送でみた歌舞伎中継とは大違いだ)でも、上映時間3時間超えはさすがに長すぎる。。。 国宝に選ばれるまでの、ほぼ一代記に近い半生記であり、また歌舞伎のシーンを多くのカットで魅せてあり、そのこともあって時間が長くなるのはわかるが、同じ演目を同じ熱量で何度も見せられるのは、3時間超という時間もあり正直つらい。。。 もう1点。喜久雄と彼を取り巻く女性たちとの描き方が中途半端というか、雑というか、とてもモヤモヤする。 特に、あれほど一途だった春江の心変わりが唐突過ぎてまったく理解できない。さらに、俊介と結婚した後の春江の喜久雄に対する冷たい態度(視線)には、憎しみすら感じさせる雰囲気がある。おそらく原作ではそこが丁寧に描かれていると信じたい。 【リニア】さん [映画館(邦画)] 7点(2025-06-11 01:19:19) スポンサーリンク
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