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プロフィール
コメント数 1275
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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261.  イン・ザ・カット 《ネタバレ》 これは女性の性の開放を描いたフェミニズム映画ですよね。主人公姉妹が対になっていて、妹は結婚願望・愛されたい願望の塊で、既婚男性に騙されたのに相手への思いを断ち切れず、ストーカーになってしまいます。女性から見たバカ女ですね。一方、姉は異性との付き合いなんて厄介事が増えるだけだし、基本オナニー、時々セックスで欲求が満たされれば充分と考えています。そのため、愛を求めてくるケビン・ベーコンは捨てられ、セックスだけのマーク・ラファロは残されました。また、女性に対する暴力に対して、男への精神依存度の強い妹は負けましたが、自立した女性である姉は勝った。本作では随所に対立構造があり、それらによってテーマがわかりやすくなっています。そういえば、本来はJJリーが姉役でメグが妹役だと思うのですが、あえてその逆をいった配役も面白いですね。 この映画になぜメグ・ライアンという意見もあるようですが、私はメグの出演は必然だったと思います。 90年代のメグはロマコメ(死語)の女王だったし、落ち目だった頃のデニス・クエイドに寄り添い、彼をヤク中から立ち直らせた良妻としても評判でした。しかし、『プルーフ・オブ・ライフ』の現場でラッセル・クロウと不倫したことで、そのパブリックイメージは崩壊。それまでの陽のイメージが強かった分だけ不倫の反動は強く、ビジネス的にはもうロマコメをやれなくなったのですが、一方で個人的には「10年も良妻をやってきたのに、たった一度の不倫でここまで叩かれるの」という思いもあったことでしょう。そこに、女性の性の開放を訴える本作がやってきたわけです。これはニコール・キッドマンが95年から温めてきた企画であり、彼女の初プロデュース作でもあります。そんな大事な企画でありながらも、今のメグが演じるべきとして気前良く譲ったニコールの男前っぷりには感心します。 問題は、映画として全然面白くなかったこと。猟奇殺人事件とそれに絡む犯人探しがどうでもいい上に、主題にもうまく馴染んでおらず、さらにはドンデン返しにも大したサプライズがなくて、メグが脱ぐシーン以外では眠くて仕方ありませんでした。隠語を吐き、全世界に裸をさらした挙句に「痛々しい」だの「乳が垂れてる」だの言われたメグはお気の毒でしたが、人生、ダメな時はそんなもの。一方、7年も企画に携わりながらギリギリでイグジットした当時のニコールの強運には驚かされます。[DVD(吹替)] 4点(2015-08-30 01:58:16)《改行有》

262.  きみに読む物語 《ネタバレ》 公開当時には否定的意見の方が目立っていたものの、10年かけて評価を逆転させ、現在では21世紀を代表するラブストーリーの一本になった本作。クラシックになりかけている現在になって見返してみましたが、残念ながら、それほど質の高い作品であるとは思えませんでした。 本作は意図的に紋切り型に徹している作品なので、新たな発見や感動はありません。良い人が出てくる良い映画であり、最後の最後まで観客の思い通りに物語は進んでいきます。そもそもラブストーリーというジャンルが好きな方であれば、この予定調和を心地よく感じるのかもしれませんが、私はこれを退屈に感じてしまいました。 唯一、面白いと感じたのは、ジョアン・アレン演じる主人公の母親。物語上は二人の関係を阻むヒールの立ち位置なのですが、主人公達と同じ選択を迫られた過去が明らかになってから、この人物には一気に感情移入できました。彼女は、かつて本気で恋した貧乏青年ではなく、生活の安定を保障してくれる今の旦那との人生を選択しました。頭では「この選択で正しかったのよ」と考えているものの、感情的にはその選択をいまだに飲み込めていないようです。彼女は、かつての恋人の成れの果ての姿を今でも見に行くと言います。いまだに肉体労働やって生きている惨めな様を見て、「私は正しい選択をしたのね」と自分を納得させていると言いますが、その眼差しには今でも恋心が残っており、あの時、この人と結婚していれば人生は意義深くなったのではないかという未練が見て取れます(この複雑な感情をセリフなしで表現してみせたジョアン・アレンの名演!)。皮肉なことに、成就しなかったことで彼女の恋は永遠になってしまったのです。女としてのホンネを押し殺して、現状を是とするしかない彼女の苦境が印象的です。人生ですべてを得ることはできない。ある選択をすることは、他の可能性を捨てることであるという厳しい真理が突きつけられた名場面であり、白黒がはっきりした本作において、唯一、善悪では割り切れない人生の機微が描かれた一幕でした。[DVD(吹替)] 5点(2015-08-29 00:48:21)《改行有》

263.  ヒマラヤ杉に降る雪 《ネタバレ》 日系のアメリカ国民を強制収容所に隔離し、彼らから人権と財産を不当に奪ってしまったというアメリカ近現代史の闇。そんな歴史の中で引き裂かれた男女のロマンス。人種的偏見が絡んだ殺人事件の裁判。この3つの要素が絡み合った作品ながら、各々がうまく混ざり合わないまま2時間が経過してしまったという印象です。過去と現在の物語が主人公の回想により同時進行で進んでいくというスタイルをとっているのですが、年代毎に画面のトーンを変える等の工夫がなされていないため直感的に内容を把握しづらく、話を追うことに対してストレスを感じてしまいます。話が分からないわけではないのですが、あえてこのスタイルをとる必要があったのかは疑問であり、上映時間が長くなるという弊害はありますが、話を年代順に整理した方が観客の理解は進んだのではないかと思います。 また、主人公の感情に共感しづらいという点も弱みとなっています。日系人に対する彼の態度が、度を越して冷たいのです。強制収容所送りが決定した際、彼は日系の恋人に寄り添うことを諦め、さらには、隔離政策に対して反対意見を述べる父親に向かって「そんな記事を書けば新聞社が潰れてしまう」と言い、日和見を決め込もうとしました。また、裁判開始後、偶然にも雪道で再開したハツエから「言論の力で何とかこの危機を救って欲しい」と懇願されたものの、「大したことはできない」と言ってアッサリと拒絶。さらには、かなり早い段階でカズオの無罪に繋がる証拠を入手していたものの、その公表をずっと控えているという冷血漢ぶり。さすがにイライラさせられました。 タイプキャストも作品の弊害となっています。カズオの弁護士がマックス・フォン・シドー、判事がジェームズ・クロムウェル。彼らの重厚なパフォーマンスは大いに評価できる一方で、額に「誠実」と刻み込まれているかのようなこの二人が付いていれば、カズオは絶対に大丈夫だろうという安心感が漂ってしまい、固唾を飲んで裁判の行方を見守るという観客の楽しみが失われています。少なくとも判事役には、どちらにでも転びかねないタヌキオヤジみたいな俳優を配置すべきだったと思います。また、対する検事役が悪人顔のジェームズ・レブホーンという点もマイナス。彼では、どう見てもマックス・フォン・シドーには勝てません。レブホーンとクロムウェルの役柄を入れ替えてしまった方がよかったと思います。[DVD(吹替)] 4点(2015-08-29 00:10:39)《改行有》

264.  ブルーバレンタイン 《ネタバレ》 子供とふざけていると「バカバカしいからやめて」、付き合っていた頃には喜んで聞いてくれていた冗談を言うと「うるさい」、ムードを出そうとすると「気持ち悪いから近寄らないで」、我が家で日夜繰り広げられている光景ですが、本作にはこれらに相当する場面がことごとく盛り込まれており、倦怠期に入った夫婦生活の実態が容赦なく描写されています。結婚を経験した人であれば世界中の誰もが「わかる、わかる」と頷ける内容となっており、個々の描写のリアリティで本作は他作品を圧倒しています。 同時に、ストーリーテリングの技の多さや、その洗練度でも本作は驚異的な水準に達しています。説明的なセリフはまったくないものの、小さなエピソードの積み重ねによって登場人物の背景や感情は完璧に伝わって来るし、何気なく眺めていたことの意味が後に明かされるという語り口は、映画全体に対する観客の関心を維持することに繋がっています。『エターナル・サンシャイン』や『(500)日のサマー』等、恋の始まりと終わりを同時に見せる映画は他にもあり、かつ、このジャンルは良作揃いだったりもしますが、映画としての完成度の高さでは、本作が最高ではないかと思います。 偶然の出会いから劇的な結婚まで「私たちは特別なカップル」と思っていた夫婦であっても、お互いへの熱を維持することは難しい。この二人は破局しますが、どちらが悪いわけでもないという点に男女関係の難しさがあります。冒頭、ある朝の一幕がすべてを物語っているのですが、この二人は生活のテンポがまるで噛み合っていません。物事が手順通りに進んでいかないとイライラするシンディに対して、子供の悪ふざけに付き合い、完全に立ち止まることもあるディーン。この差は人生観にも影響を与えていて、何かを成し遂げねばならないと常に目的意識を持つシンディに対して、家族と楽しく生きられることこそが重要であり、仕事なんて食べるための手段に過ぎないんだから一生懸命やる必要はないと考えるディーン。どちらも間違っていないからこそ問題は深刻で、直すべきものが見当たらない中で、時限爆弾のように破局が迫ってきます。そして一線を超えた後は、二人がともに引き返すことを願っても、もう戻れません。ディーンが勢いで結婚指輪を茂みに捨てるものの、すぐ間違いに気づいて指輪を探しに戻るが、もう見つからない。この場面が象徴的でした。[DVD(字幕)] 8点(2015-08-29 00:09:20)(良:1票) 《改行有》

265.  ジュピター 当初よりフランチャイズ化を目論んで作られた作品であるため一本の娯楽作としては過剰なほど設定や伏線が多く、大して難しくないはずの物語がゴチャゴチャしすぎているために直感的な面白さを感じづらくなっています。また、宇宙規模の物語ながら、すぐにワープ移動してしまうために舞台の広さを実感できず、基本設定とは裏腹にこじんまりとした印象を受けました。肝心の物語にしても、スペースオペラの皮を被りながらも、その実態は金や相続の問題というギャップに面白みを感じるべきだったのでしょうが、そこも、それほど面白くありません。総じて、ディズニーが『ジョン・カーター』でやらかしたのと同じ失敗をしています。 ただし、ウォシャウスキー姉弟の作品だけあって美術やVFXの作り込みはハンパではないし、ギリギリで救援が駆けつける際のタイミングの取り方もよく、娯楽映画としては一定の水準に達しています。シリーズ化を見越していただけあって主要登場人物はほとんど死なず、鑑賞後の印象もスカっと爽やか。チャニング・テイタムとショーン・ビーンはカッコいいし、ゴチャゴチャした物語はこの際無視し、悪い奴からお姫様を救い出す冒険談と割り切って鑑賞すれば、それなりに見られる映画にはなっています。[ブルーレイ(吹替)] 6点(2015-08-29 00:06:05)《改行有》

266.  ステート・オブ・グレース 《ネタバレ》 製作当時は伸び盛りの若手・中堅俳優を集めたつもりが、今になって見返すと錚々たるメンツが顔を揃えたクライムドラマ。『ゴッドファーザー』以来とも言えるほどのキャストの充実ぶりで、俳優のパフォーマンスを楽しむ映画としてはかなりレベルが高いです。 中でも突出しているのがゲイリー・オールドマンで、やっちゃいけないことをやらかして事態をどんどん悪化させる狂犬役なのですが、それと同時に情に厚く、さらには持って生まれた愛嬌からどこか憎めない魅力を放っているという極めて複雑な役どころながら、オールドマンはこれを完璧に演じています。彼の隣に座れば、ショーン・ペンすら脇役に甘んじてしまうほどの圧倒的な存在感とパフォーマンスであり、彼が作品の要となっています。 それだけに、オールドマン退場以降は映画全体が急激に失速しました。ショーン・ペン演じる主人公・テリーの苦悩は表層的だし、ロビン・ライト(本作ではやたら脱ぐ)との関係にもロミオとジュリエットのような痛々しさが足りておらず、いろいろと中途半端。そのようにいろんな要素が少しずつ欠けた状態だったため、ブチ切れたテリーが二丁拳銃で殴り込むクライマックスには唐突感があり、何とも消化不良でした。 また、敵役となるエド・ハリス演じるフランキーの人物像もうまく定まっていません。若いボスであるため隣町のイタリア系大親分からはボクちゃん扱いされている上に、そもそも貧弱なアイリッシュ系組織をまとめあげることにも苦労しており、内外からの批判にあっている不遇の存在。その苦悩はある程度描かれているものの、一方で人間性に問題があるともとれる言動も多く、同情すべき悪党なのか、断罪すべき悪人なのか、作品中での位置づけがよくわからないのです。彼が弟や幼馴染に対して抱く感情もはっきりと描写されていないため、組織防衛のための苦渋の決断にもドラマ性が伴っていません。エド・ハリスによる演技は悪くなかっただけに、脚本レベルでの掘り下げが不足していることが残念でした。[DVD(字幕)] 5点(2015-08-15 02:27:27)《改行有》

267.  炎628 冒頭、二人の少年がドイツ兵の銃を掘り出すところから、何とも言えない不気味な雰囲気が漂っています。題材や内容のショッキングさも然ることながら、全体に渡って訳のわからんアクがあって、人の心に残る強い映画だと思います。 とはいえ、ヨーロッパ映画特有のよく分からない場面や、冗長すぎる描写が多々あって、特に前半は退屈させられました。俳優もオーバーアクト気味で、素晴らしい部分以上におかしな部分が目立っていました。 後半は主人公の少年の地獄巡りとなりますが、祭りみたいな大騒ぎをしながら人を殺しまくるドイツ軍は山賊か何かにしか見えず、もはや軍隊の有り様ではありませんでした。この辺りの極端なデフォルメも、歴史映画としての魅力を低下させる原因となっています。 なお、ドイツ軍が民間人にまで手をかけざるをえなくなった理由の一端は、ソ連にありました。モスクワ政府はドイツ軍の後方攪乱のためにベラルーシで赤軍パルチザンを結成しましたが、こうしたゲリラ作戦をとられてしまうと、ドイツ軍は正規軍以外の民間人も敵と疑わざるをえなくなります。本当に自国民が大事であればゲリラ作戦はとらないのですが、ソ連は民間人を戦争に巻き込んでしまう作戦を選択したわけです。さらに、ドイツ軍の現地調達手段を断つために焦土作戦もやっており、人命軽視はソ連側の方が酷かったくらいです。 また、本作が制作されたのは1985年ですが、その後にソ連が崩壊し、第二次世界大戦の東部戦線では、ソ連軍もかなり酷い虐殺をやっていたことが判明しています。東部戦線は共産主義vsファシズムの戦場であり、共産主義を嫌ってドイツに味方する人々も少なからずいました。特にウクライナは国を挙げて反共の姿勢を示しましたが、ドイツ敗走後、ソ連はそうした人々を許しませんでした。まさに、本作でドイツ軍がやったとされるような蛮行をソ連軍は行い、略奪や強姦はかなり酷かったと言われます。 映画ではドイツ軍のみが悪とされていますが、それを額面通りに受け取ったのでは戦争の恐ろしさの一部分しか理解できていないことになります。特に、東部戦線で起こったことに対しては誤った理解をすることになるため、本作は危険性の強い作品だと言えます。世界的に評価の高い作品であることは知っていますが、私としては作品のあり方に疑問があるため、低評価とさせていただきます。[DVD(字幕)] 4点(2015-08-15 02:23:38)《改行有》

268.  レインマン 《ネタバレ》 昨日まで存在すら知らされていなかった兄に親の金融資産をすべて持って行かれ、さらにはチャーリーが触ればマジギレされていた父親の愛車で運転を教わっていたというレイモンドの思い出話に、チャーリーは憤ります。それは、アテにしていた遺産を相続できないという現実問題に加えて、父親との関係が悪かったチャーリーにとって、自分が得られなかった親の愛情がレイモンドに注がれていたのではないかという嫉妬心によるものですが、物語の後半において、二人は似た境遇であったことが明かされます。元々、レイモンドは実家で育てられていたものの、チャーリーの誕生により幼い弟を傷つける恐れが発生したことから、病院へと隔離されました。弟すらその存在を知らなかったという事実が示す通り、レイモンドという人物は半ば葬り去られており、父親が遺産のすべてを彼に相続させたのも、レイモンドが人生を終えるまでの面倒を赤の他人に見させるための前払金としての意味合いが強いものでした。二人とも、親から捨てられた子供だったのです。 その事実が判明して以降、レイモンドに対するチャーリーの態度が一気に軟化します。この辺りの導線の作り方は見事なものだと感心したのですが、一方でクライマックスは感動の押しつけが酷すぎて、少々うんざりさせられました。あれだけ自己中だったチャーリーが兄弟愛とヒューマニズムに目覚め、兄を引き取りたいと言って医者とケンカをするのですが、さすがにこれはやりすぎ。私にも自閉症の親戚がいるので多少は現実が見えていますが、自閉症患者と過ごしてあのような感情に至ることはまずありません。自閉症を患う身内がいると本当に大変で、愛情とか愛着以前の問題として、家族全員の日常生活に大きな支障が生じます。 当初の構想ではダスティン・ホフマンがチャーリー役で、ロバート・デ・ニーロかジャック・ニコルソンをレイモンド役にと考えられていたようなのですが(それはそれで見たいかも)、紆余曲折あってトム・クルーズが参加したことから、新境地開拓に挑むベテラン俳優と伸び盛りのアイドルスターの共演作となり、作品に幅ができました。怒鳴ってばかりで不快感を抱かれかねないチャーリーも、トムが演じたおかげでギリギリ観客から受け入れられる人物となっているし、現在あらためて見返すと、オスカーを受賞したホフマンよりもトムの活躍の方が目を引きました。[DVD(吹替)] 7点(2015-08-11 01:39:42)《改行有》

269.  機動戦士ガンダム 第08MS小隊 ミラーズ・リポート 《ネタバレ》 全10話(+番外編1話)から成るOVAの要約版で、しかもそのシリーズが完結していない段階で製作・公開されたという奇妙な立ち位置にある劇場版。50話に及ぶテレビシリーズなら要約の価値もあるというものですが、全部見ても4時間強で終わってしまうコンパクトなシリーズを要約する必要性がそもそも低い上に、元のシリーズ自体が完結していないために明確なオチをつけられない、シリーズ中もっとも盛り上がったグフ・カスタムとの戦闘は未収録と、残念な要素しか見つかりません。さらに問題なのは、本劇場版オリジナルキャラであり、タイトルロールでもあるアリス・ミラー少佐に魅力がないことで、仮に彼女がしっかりとしていれば劇場版にも幾ばくかの価値が出ただけに、この部分の手落ちは致命的でした。 元のOVAシリーズは良作です。兵器としてのMSという面を極限まで追求し、第二次世界大戦やベトナム戦争を連想させる戦場に、その兵器のひとつとしてMSを介在させるというコンセプトが優れていたし、作戦行動は細かく考えられていて隙がありません。泥で汚れ、過去の戦闘で受けたダメージが残された状態で登場する量産型MSには、シャアやアムロが乗るピカピカの最新鋭機とは違うかっこよさがあったし、ジオン軍のMSの損傷が特に酷いことから全体の戦況を伝えるという演出も気が利いていました。 他方、主人公・シロー・アマダの個性については、概ね低評価となっています。ジオン軍のコロニー落としで家族と故郷を失ったという背景を持ちながら、本編中ではジオンに対する憎悪を見せることがなく、さらにはジオンの名門・サハリン家出身であるアイナとの恋愛にも迷いがありません。その設定と劇中での行動が整合していないため、感情移入が難しい人物となっているのです。 また、表面上は部下思いの隊長のようでいて、その実、軍法会議ものの独断作戦に部下を巻き込んだり、小隊を捨ててアイナの元に走ったりと直情的な面があり、隊長として大局を見る目が備わっていません。さらには、本人の戦闘スキルが高いことから無茶な行動が多く、付き合わされる部下にとっては厄介なタイプの上司だと言えます。部下に対して「とにかく生きろ」と繰り返すものの、敵を倒すことこそが隊長としての責任であり、部下を生きて帰すためにも有効な手段であるという認識が欠けており、そもそも軍人としての適性に問題があったように思います。[DVD(邦画)] 4点(2015-08-07 18:20:26)《改行有》

270.  テイラー・オブ・パナマ 《ネタバレ》 左遷、それはサラリーマンがもっとも恐れるもののひとつです。本作の主人公は、上司の奥さんを寝取ったことで組織から睨まれ、地方支局へ左遷された凄腕(と思われる)スパイ。そのキャラ設定と言い、ピアース・ブロスナンの演技と言い、まんまジェームズ・ボンドなのですが、現実は『007』のようにはいかないというひねくれた展開が笑わせます。また、左遷先で思わぬ事実に遭遇して主人公が孤軍奮闘し、最後には組織や上司を見返すという展開がこの手の物語の定石ですが、現実はそれほど容易なものではありません。左遷先にはネタらしいネタなどそうそう転がっていなくて(だからこその左遷先)、本人に頑張ろうとする意欲があっても、結局はくすぶったまま謹慎期間をやり過ごすしかないのです。それが普通のサラリーマン。しかし本作の主人公はタダモノではなく、ネタがないなら自分で作ってしまえという切り返しに出ます。 もう一人の主人公は、虚言癖のある仕立て屋。ウソをつく時には一瞬、良心が咎めるものの、「つまらない現実を話すより、面白い作り話の方が相手は喜ぶ」と自分を納得させてウソにウソを重ねていきます。利己的な目的でのウソではない分、良心の呵責は少ないようです。実際、たいていの聞き手はこの男の話はウソであることを了解した上で会話を楽しんでおり、実害は少なかったと言えるのですが、ネタを求めるスパイに目を付けられ、ありもしない国際危機がでっち上げられたことから、ウソが現実を侵食しはじめます。仕立て屋も途中から「これはヤバイ」ということに気付くものの、借金を肩代わりしてもらったことの負い目もあって降りられない状況となっており、何の策も打てないまま事態はどんどん悪化。悪魔的なスパイに取り憑かれて右往左往する男の姿が滑稽であり、ジェフリー・ラッシュの小市民演技が光っています。 当事者全員が作り話だと認識し、現地を知っている者であれば誰も真に受けないようなウソが軍事侵攻にまでエスカレートしていく展開にはある種のカタルシスがありますが、一方で恐ろしさもあります。実際、初動段階で現地へ行って聞き取り調査をすればすぐにおかしいことが分かる程度のウソや事実誤認が国際問題にまで発展した事例はわが国周辺でも少なからず発生しており、フィクションだと言って笑ってもいられないところがあります。[DVD(吹替)] 7点(2015-08-06 16:04:37)《改行有》

271.  脱出(1972) 《ネタバレ》 ド田舎には、常識の通用しない土人同然の集落があるのかもしれない。狭い国土の日本でもこの感覚は多少ありますが、広大な国土を抱えるアメリカともなれば、それは大きな恐怖でもあります。本作は、アメリカ人が潜在的に抱えるそうした恐怖を映像化した作品であり、根強い人気を誇るテキサスものの源流ともなった映画史上の重要作なのです。 世間知らずの頑固者っぽい地元住民と、田舎を小バカにした主人公グループが接触し、いつ爆発するかもしれない緊張感を孕んだ冒頭から、イヤ~な汗をかかされます。そんな中、ギターが得意なドリューと、バンジョーを持った地元少年が即興でセッションし、両者とも素晴らしい腕前を披露して場の緊張感を和らげます。通常であれば心温まる一幕となるはずの場面ですが、その少年が近親相姦を連想させる奇形チックな顔立ちなので、観客に残るのはむしろ不気味さだったりします。 本筋に入るとヴィルモス・ジグモントによる素晴らしい撮影によりアメリカの美しい自然が映し出されるのですが、その合間にも不吉な前兆がいくつも挿入され、またしてもイヤな気分にさせられます。アナルレイプとその反撃後には、人を殺した罪悪感と、田舎者に復讐されるかもしれないという不安感からグループは精神的に追い込まれていきますが、ここからの畳み掛けは最高でした。 ドリューが川に投げ出されたが、その理由は分からない。そのうち、「ドリューが撃たれるのを見た」と言い出すメンバーが現れ、見えない襲撃者との戦いが始まります。彼らは、近くにいたもうひとりの田舎者を襲撃者であると考えて殺害しますが、そいつがアナルレイプに加担した歯抜け男かどうかは分からないし、グループの命を狙っていたのか、それともたまたまそこに居ただけなのかも分かりません。 命からがら襲撃者(と思われる人物)を撃退したグループはドリューの遺体を発見しますが、そこに銃傷はなく、狙撃説は間違いだったことが明かされます。さらに、川下りのゴール地点へ行くと彼らの車が無傷で届けられており、田舎者が結託して襲ってきたという物語は、彼らの幻想だったことが判明します。極度の緊張と情報不足により、彼らには現実とは異なるものが見えてしまい、その幻想からさらに不安が増幅していくという悪循環に陥っていたのです。そのすべてを見透かした保安官による締めくくりも素晴らしく、70年代らしい含蓄ある作品となっています。[DVD(吹替)] 8点(2015-08-06 16:03:30)(良:1票) 《改行有》

272.  ピアノ・レッスン 《ネタバレ》 美しい撮影に美しい音楽、俳優による渾身の演技と、ポテンシャルの高い映画であることは認めるのですが、私としては共感できる点が少なかったため、評価は低めです。 主人公・エイダは聾唖者ではなく、6歳の時に話すことをやめて音楽での表現にすべてを委ねたという設定。そんな彼女にとってピアノは体の一部なのですが、一方スチュワートはエイダにとってのピアノの重要性を理解できず、また理解しようともせず、重いピアノは家まで運べないと言ってピアノを海岸に放置した後、勝手に土地と交換してしまいます。ここでエイダのスチュワートに対する感情は致命的に悪化します。一方、ベインズはピアノを所有した直後に自発的に調律師を呼び、それまで野ざらしだったピアノのコンディションを整えます。また、興味本位でピアノを雑に扱ったりせず、このピアノを扱えるのはエイダだけであるという態度を示します。エイダはここにグッときたわけです。一家の大黒柱としての責任を果たしてくれるが、その価値観は狭く固定されて奥さんの感情に寄り添えない男と、社会的には不安定だがちゃんと配慮してくれる男と、どちらがいいですかという話です。 そんなエイダの気持ちは分からんでもないのですが、じゃあ、あなたはスチュワートの気持ちや立場を理解しようとしたんですかという点が引っかかりました。エイダは嫁いだ当初からスチュワートを毛嫌いする態度をとっていた上に、娘が分身のように寄り添っているため、夫婦の営みどころかキスすら交わせないという有様。夫婦とは、夫婦らしい行動をとり続けることでその関係が作られ、維持されるという側面があるのですが、エイダは初っ端からそれを拒絶していたわけです。「慣れるまで待ってあげよう」というスチュワートの気遣いを裏切ってベインズに走るという行為は、さすがに受け入れがたかったです。浮気がバレた後には、一応、夫婦関係修復の態度を見せるものの、「お触りはなしよ」という業者チックなルールを設けたもんで、「ベインズは本番OKだったのに、俺には無しかい」とスチュワートの自意識を余計に傷つけます。 その他、家の前で子供を待たせて浮気相手と事に及んだり、身動きがとれない場面では子供を伝令に使ったりと、浮気に子供を巻き込んでしまう点も受け付けませんでした。そこにいちいち噛み付くべき映画でないことは分かるのですが、人の親としてはどうしても気になりました。[DVD(吹替)] 4点(2015-08-04 14:24:12)《改行有》

273.  ブッシュ 《ネタバレ》 オリバー・ストーンは、政治的にはブッシュを毛嫌いする一方で、その出自には共通点が多く(同い年で、出身大学も同じ。強い父親の支配に苦しんだ経験も共通している)、ブッシュに対して同情的な視点で本作が作られている点は興味深かったです。『ニクソン』もそうでしたが、ストーンは嫌いなタイプの政治家を題材としながらも、その人となりをリサーチするうちに憐れみの感情を持つようです。 父親に決められたレールに乗っているうちは何もかもがうまくいかず、ブッシュの人生が好転したのは父の影響下から離れて自力で道を切り拓くようになって以降でした。実業家としての成功も自力であれば、政治家転身の際にも父親からの支援は受けられず(優秀な弟のジェブが優先された)、その人柄の良さと目的達成意欲の強さでコツコツと地盤を作って合衆国のトップにまで登りつめた苦労人であり、優秀すぎる父親を持ったことは彼にとって重荷でしかありませんでした。一方で内情を知らない第三者からは「親の七光り」だの「苦労知らずのボンボン」だのと言われ、そこを徹底的に攻撃されるという点が印象的でした。政治や外交について定見らしきものはなく、彼の政治活動は父親から認められようとする行為の延長だったようです。そこに、911が起こります。 戦争に係る意思決定は象徴的で、従軍経験のある父ブッシュは、湾岸戦争で米兵の犠牲が最小限で済んだことを幸いとし、イラク軍からの激しい抵抗が予想されるバグダッド侵攻を見送って早々に撤退する決定をしましたが、一方ベトナム戦争時代に兵役逃れをした子ブッシュは、どれほどの犠牲が出るのかも考えずに開戦の決定をします。父ブッシュとの繋がりが深いコリン・パウエルからは「911の弔い合戦なのに、なぜビン・ラディンではなくフセインと戦うのか」「フセイン政権を倒せばイラク国民に対する責任が生じるが、それを背負っていく覚悟はあるのか」と問われるが、それに対して明確に答えられない。イラク戦争で犠牲になった米兵やイラク人には気の毒ですが、ブッシュ個人の物語として見れば、イラク戦争も父親を越えようとするイベントのひとつだったのです。 ブッシュ本人は悪人ではない、むしろ近くにいれば友人になりたくなるような人物ではあるが、あの激動の時期の大統領としては最悪の人物だった。人生で常に望まれない場所に居る人物の悲喜劇として、本作は非常に見ごたえがありました。[DVD(吹替)] 8点(2015-08-03 18:07:24)《改行有》

274.  ベルリンファイル 銃火器の扱いが明らかに小慣れている、格闘がダンスにならず、ちゃんとクリティカルヒットを狙う動きをしている、表情や仕草が一般人のものではない。韓国のアクション映画は、こうしたディティールがよくできているため説得力が違います。本作においても、ある面では香港やハリウッドをも凌駕する見せ場が連続し、目を楽しませます。 問題は、ムダにややこしい話に魅力を感じなかったことです。多くの登場人物が絡む前半部分は非常に分かりづらかったのですが、一方で作品の骨格は至ってシンプルなものであり、本筋とは関係のないサブプロットや、存在価値のない登場人物が多すぎます。また、凄腕のようでいて全然役に立たないハン・ソッキュなど、主要登場人物の動かし方にも違和感を覚えました。ひとつひとつの展開に意味を持たせる、個々のキャラクターにちゃんと見せ場を作る。それができないのであれば、その展開、そのキャラクターには存在価値がないのだと判断するという、シナリオレベルでの練り込みが不足しているように感じました。 肝心の本筋部分についても、ベルリンという舞台をまったく活かせていません。南北朝鮮のスパイ組織を中心に、モサド、CIA、ロシアの武器商人、アラブ人テロリストまでが絡んでくる国際色豊かな設定をとりながら、結局は南北朝鮮の対立といういつもの展開に収まってしまう尻すぼみ感。ドイツ人は全然出てこないし、これなら舞台をソウルにしても成り立ってしまいます。 見せ場の出来や作品全体の雰囲気はいいだけに、話の内容の弱さが残念でした。[ブルーレイ(吹替)] 5点(2015-08-03 18:06:06)(良:1票) 《改行有》

275.  進撃の巨人 ATTACK ON TITAN 《ネタバレ》 言わずもがなの原作に加え、傑作の誉れ高いアニメまでを背景に抱え、この実写版はいかにして負け戦を戦い抜くのかという点に感心があったのですが、監督はかなり良い仕事をしています。エッジの立った世界観の醸成には成功しているし、残酷描写からも逃げていません。どうやって実写で表現するのか見当もつかなかった立体機動装置での戦闘シーンは期待以上によくできており、ビジュアル面では問題を感じませんでした。邦画の厳しい制約条件下でこれだけのものを作れたのであれば、成功と言えるでしょう。ビジュアル面ではの話ですが。 問題は、ドラマパートの出来が致命的に悪いこと。今どき青春ドラマでもやらないような臭いセリフの応酬戦には失笑の連続でした。これは役者や監督のせいではなく、マンガやアニメでは成立しても、実写でこれをやらせるとおかしいという判断ができなかった脚本家の手落ちです。脚本を務めたのは渡辺雄介氏と町山智浩氏。渡辺氏は『20世紀少年』『GANTZ』『ガッチャマン』といった粗悪品を連打している邦画界の要注意人物。一方の町山氏は映画秘宝のゴッドファーザーであり、彼の起用により、批判の急先鋒となるであろう映画秘宝を取り込み、渡辺氏に対して映画ファンが抱く懸念を中和しようとした製作陣の奇策は面白いと感じましたが、当の町山氏は映画評論家としては高名であっても脚本家としては素人同然であるため、作品のクォリティには貢献できていません。 作戦中にフラフラと個人行動をとったり、大声を出してはいけない場所で叫んだりして危険を呼び込むという、この手のパニック映画でやって欲しくない行動が多くてイライラさせられます。一応は自らの意思で志願して訓練まで受けた職業軍人でありながら、登場人物達には恐ろしく規律がなく、巨人が支配する危険地帯に足を踏み入れているという緊張感もありません。挙げ句の果てには、どうでもいい痴話喧嘩まで始める始末。エレンがミカサに惚れているのを知って「ミカサとヤってんだぜ」自慢するシキシマ、そんな二人の関係を知って落ち込むエレンに擦り寄り、「子持ちの女はお嫌い?」と言って胸を揉ませるヒアナと、もうメチャクチャなのです。安全の確保された基地でならともかく、最前線でいつ巨人から襲われてもおかしくないシチュエーションでこれをやってるのだから呆れます。 一応、完結編も見ますが、相当頑張らないと挽回は厳しいと思います。[映画館(邦画)] 4点(2015-08-02 00:57:57)《改行有》

276.  マーティン/呪われた吸血少年 他人より若干色白ということ以外に吸血鬼らしい特徴はなく、十字架も日光も平気で、カトリックの教会にまで出入りするマーティン。時折挿入される20世紀中頃と思われる回想も、彼が実際に経験したことなのか、それともただの夢なのかが判然とせず、マーティンは本当に吸血鬼なのか、それとも自分を吸血鬼だと思い込んでいる普通の人間なのかが意図的にぼやかされています。観客に解釈の余地を残した作りはいかにも70年代っぽくて、私は嫌いではありません。また、吸血鬼と言えば性的なアイコンでもあり、本作にもちょいちょいヌードが出てくるのですが、どの場面も艶かしく撮られていることには感心しました。ロメロはゾンビ親父としての印象しかありませんでしたが、監督としての引き出しは意外と多いようです。 こうして部分評価可能な点が少なからずある反面、作品全体としてはとっ散らかっていて、良作にはなりきれていません。例えば、マーティンとクーダの関係。クーダはマーティンを心の底から忌み嫌っているし、マーティンもクーダの頑固さには手を焼いているのですが、そんな二人が共同生活をするに至った経緯がまったく描かれていないため、ドラマの通りが悪くなっています。二人の間には捻れた依存関係があると思うのですが(信仰心の強いクーダは、神の存在証明の裏返しとして悪しき者を求め、内向的なマーティンは、吸血鬼という自分のアイデンティティを額面通りに受け取ってくれる人を求めていた)、そうしたものがまったく描かれていない点が残念でした。また、マーティンを「なまけもの!」と言って責め立てるババァの存在なども単発エピソードで終わってしまっていて、その意義を感じられるまで深掘りされていません。他方、マーティンがラジオの人生相談の常連になるものの、いたって真剣な本人の意図とは裏腹に「伯爵様」と呼ばれてネタキャラ扱いされてしまう件は、作品全体から見て明らかに不要です。 ファーストカットでは2時間45分もあったのですが、無名監督と無名キャストで内容も地味とあってはヒットが見込めないと、完成後2年もオクラ入りした後、世に出たバージョンは95分にまで縮められたと言います。その過程で重要なシーンの多くがカットされたようです。全体としては決して甘い作りではないだけに、まだロメロが元気なうちに完全版がリリースされることを望みます。[ビデオ(字幕)] 6点(2015-07-30 18:12:25)《改行有》

277.  戦場のメリークリスマス 日本人監督が撮ったとは思えないほど日本人キャラクターが薄っぺら。帝国軍人として一般に連想されるまんまの人物が出てきます。本作の4年後にスピルバーグが作った『太陽の帝国』の方が、まだ日本人キャラクターに奥行きがあり、ステレオタイプ化を避けようとする努力が見られました。しかも、切腹やら武士道精神やら、外国人が関心を示しそうな要素を前面に押し出していることもマイナスで、西洋文化と東洋文化の衝突というテーマを扱う割には、文化の比較方法が表層的で感心しません。だいたい、切腹なんて明治時代にはとっくに廃止されていて、以降は一部の高級士官がパフォーマンス的に切腹することは稀にあっても、軍隊内の処分として切腹を命じるなんてことはありませんでした。監督は象徴的な意味合いで切腹を出してきたのでしょうが、世界市場を意識した歴史もの映画なのだから、こういう大きなウソをつくことは好ましくありません。 また、録音が悪いため、セリフが聞き取りづらかった点もマイナス。日本人キャストのセリフすら分かったり分からなかったりの状態であり、カタコトの日本語を話すローレンス中佐(安倍晋三似)なんて、何を言ってるんだかほとんど聞き取れません。字幕スーパーがつく英語パートがオアシスに感じました。 評価できるのは意表を突くキャスティング。勝新太郎と監督が対立したからビートたけし、沢田研二のスケジュールが合わなかったから坂本龍一、ロバート・レッドフォードに断られたからデビッド・ボウイと、出演したのは当初意図されていたキャストではないのですが、プロの俳優に断られたから、ならば他ジャンルの巨人達を集めてきて主要キャラクターを演じさせるという思い切り。監督のこの判断は神がかっていたと思います。ビートたけしも坂本龍一も演技はうまくないのですが、それぞれの生きるジャンルではトップを走っているという、そのカリスマ性は映画にきちんと反映されています。各キャストの不得手を隠そうとするのではなく、のびのびとやらせて各々の強みを見せる。素晴らしい演出だったと思います。さらに、主要3人の不安定さを補うために配置されたローレンス中佐役のトム・コンティの縁の下の力持ちぶりも見所です。主要3人とは違って地味。一応はタイトルロールなのに見せ場も与えられずほとんど印象に残らないという損な役回りではあるものの、そのポジションを堅実に守りきっています。[DVD(邦画)] 5点(2015-07-29 17:59:52)《改行有》

278.  誰よりも狙われた男 《ネタバレ》 何の予備知識もなく鑑賞したので、フィリップ・シーモア・ホフマンはドイツ駐在中のCIA職員か何かだと思っていたのですが、途中でドイツの公務員であることに気づいてビックリ。ドイツ訛りの英語を話すアメリカ人俳優をドイツ人とみなすというハリウッド式の無茶設定は、そろそろやめてもらえませんかね。その他、主要登場人物は設定上の国籍に関係なくアメリカ人が演じているのですが、これまたややこしいのがロビン・ライト演じるCIA職員の存在であり、ドイツ人役を演じているアメリカ人俳優と、アメリカ人役を演じているアメリカ人俳優が同時に出てくるため、なんとも妙な気持ちにさせられます。 内容は地味です。007やミッション・インポッシブルのようなカーチェイスも銃撃戦もなし、主人公は中年太りのフィリップ・シーモア・ホフマンだし。テロの黒幕の正体を暴くといった類の謎解きもありません。怪しい奴はすでに分かっており、人権や法律といった社会的制約条件、さらには監督省庁間の縄張り争いもある中で、これをどうやって追い込むかという点が本作のハイライトとなっています。同じくジョン・ル・カレ原作の『裏切りのサーカス』もそうでしたが、手続きがじっくりと描かれているのです。アクション映画のような瞬発力はありませんが、「ほ~」と納得しながら見ることはできました。 また、「テロリストを捕らえる」という命題に向かってどのような方法をとるのかについて、アメリカとヨーロッパとの違いが描かれている点も興味深く感じました。正常な範囲内でのナショナリズムや愛郷心を刺激されてテロ協力者にはなっているが、本人に反社会性はないというケース。ヨーロッパ当局は彼らをターゲットとはせず、真の悪党を捕まえるための協力者としてこちらサイドに取り込み、成功の暁には元の社会生活に戻してやるという方法をとります。これはテロ協力者に対する温情ではなく、当事者の本質を見極めた上で、もっとも効率的と考えられる方法なのです。一方でアメリカはこれら悪意のないテロ協力者でも片っ端から捕まえて回り、その結果、第一目標であるテロ首謀者にはたどり着けないわ、本来悪人ではない人間を本当のテロリストに変えてしまうわと、即効性があるように見えて実は物凄く非効率な方法をとっています。こんなことしてれば、いつまで経っても対テロ戦争は終わらないわなと、妙なところで納得してしまいました。[DVD(字幕)] 6点(2015-07-28 16:05:27)《改行有》

279.  機動戦士ガンダムF91 《ネタバレ》 当初はテレビシリーズ用として考えられていた作品だけに、各要素はしっかりと作りこまれています。まず、クロスボーン・バンガードのMSデザインが秀逸。連邦系ともジオン系とも違う個性があり、新たな脅威が現れたという設定をデザインでうまく表現できています。また、クロスボーン・バンガードの創始者マイッツァー・ロナは人格者であり、その主張には一定の哲学と合理性が認められるものの、腹に一物持った部下たちが勝手に動き出したことから結果的にならず者集団になってしまったという展開には、現実の組織論が反映されているようで面白いと感じました。 戦場の描写は壮絶を極め、乳飲み子を抱えた母親がMSの薬莢に頭を割られて死ぬ、主人公グループのムードメーカーらしき人物が初戦で衝突死、大量殺戮兵器バグは子供を切り裂くなど、普通のアニメでは被害者にはならないタイプの人たちの死が克明に描かれており、戦争とは地獄であることを強烈に印象付けています。 作品の落としどころもよく考えられています。主人公は鉄仮面を倒すがそれはあくまで私闘のようなものであり、主戦場では連邦軍がボロ負けしてフロンティアⅠを放棄したという、勝利と敗北の両方が含まれた結末としたことで、一本の映画としてオチを付けると同時に、これから続く(と想定されていた)テレビシリーズにも繋げており、これは本当にうまいやり方だと感心しました。 問題点は、テレビの1クールに相当する分量を2時間に押し込めてしまったために、急な展開が多いこと。舞台が突然変わったり、何人かのキャラクターが唐突な心変わりをしたりと、ついて行けない点が多々ありました。また、テレビシリーズ用の作品だけあってセリフのあるキャラクターが非常に多く、キャラクターの把握にも時間がかかりました。そのキャラクター達は基本的に常識人なのでストレスなく見ることができたのですが、反面、強烈な個性を持った者がいないためにドラマ部分への関心が持続しなかったこともマイナス。登場人物の大半が狂っていた『Ζ』って、なんだかんだで面白かったなぁと遠い目をしてしまいました。 破綻気味のスケジュールで製作されたためか、MS戦の作画クォリティは『逆襲のシャア』どころか、数ヵ月後にリリースされたOVA『0083』にも完敗というレベルで、本家スタッフが再結集した作品としては期待はずれです。[DVD(邦画)] 6点(2015-07-28 16:03:55)(良:1票) 《改行有》

280.  紙の月 映画版独自の設定として舞台が1994年にされていますが、この時代設定が絶妙でした。それはバブル崩壊後の混乱期に当たり、数年前まで約束されていたはずの将来が目の前で崩れ去った現役世代は地獄の苦しみを味わっていました。専業主婦だった梨花が銀行へのパート勤めを始めた理由について劇中では触れられていませんが、こうした時代背景において、夫の収入だけでは生活が成り立たなくなったのかもしれません。一方で、バブルを勝ち逃げした老人世代もいました。現役世代がリストラに怯えながら仕事をしている一方で、遊びのことしか考えていない老人や、ひたすら蓄財に励むドケチ老人がいる。こいつらだって、若い世代の生き血を吸って私服を肥やす盗人ではないのか?こうした世代間格差が、梨花のモラルを低下させる一因となっています。少なくとも初犯は、富める老人から恵まれない若者への所得の移転を狙ったものでした。 しかし、一度あぶく銭を手にしてしまうと、それは癖になってしまいます。さらには、40才の主婦が20代のイケメン大学生から惚れられるという、今後の人生で二度と訪れないであろうチャンスを掴んだことや、ナイスタイミングで旦那の単身赴任が決まったこともあって、「後は野となれ山となれ。ここで楽しむしかないのよ」と、梨花は刹那的な生き方にどっぷりと浸かってしまいます。恋することでどんどん綺麗になっていく宮沢りえの姿が梨花の行動を心情的に応援したくなる要因ともなり、私は梨花の気持ちに同調して映画を見ることができました。結果的にヒモとなってしまう光太についても、その心情がうまく描写されています。当初は身内でもない人からお金を受け取ることに抵抗を示しているし、その後においても梨花に対して積極的に要求したことはありません。しかし、普通の20代では味わえない贅沢をさせられることで倫理観は徐々に低下し、「このお金はどこから来ているのか」という正常な猜疑心も失われ、さらにはまともに働こうという気力まで奪われ、本来は悪人ではない彼が人間的に腐ってしまうのです。これぞお金の魔力。恐ろしいものを見させられました。 恐ろしいと言えば、梨花の着服を暴く隅より子(映画版オリジナルのキャラ)の存在も同様で、すべてを見透かされているような眼光の鋭さ、職場のお局様特有の容赦のなさが素晴らしく、彼女の存在により、本作は一流のサスペンス映画にもなっています。[ブルーレイ(邦画)] 8点(2015-07-20 01:35:40)(良:2票) 《改行有》

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