43.ネタバレ 原作小説は昭和13年発刊。劇中の舞台設定は明治30年。実に100年以上前のお話です。当然ながら常識や価値観は現代日本と異なります。とはいえ「時代劇」と呼ぶほどかけ離れてもいません。まだ当時から地続きにあるのが現代です。ゆえに(私を含む)年配者の口からは「あの頃は良かった」「古き良き」といった感想が漏れがち。顕著な例が芝居小屋の一件です。松五郎は親分さんに詫びを入れた事で騒動を不問とされています。今では考えられない決着でしょう。でもこれが心地良いのです。理由は明快。私たちが幼い頃最初に叩き込まれた「悪いことをしたらごめんなさい」に他ならないから。もちろん言われた方は「もういいよ」許すのがお約束です。超基本的な対人ルールが厳密に適応されている点が心地よく感じる所以かと。逆に言えば、現代日本では謝ったくらいでは許されない厳しい社会になったとも言えます。とはいえ当時の価値観を無条件に肯定したり、現代を簡単に否定したりするのも違います。あくまで「あの頃はあの頃」「今は今」です。 決して成就しない恋に一生を捧げた松五郎。最期は野垂れ死に。現代で置き換えるならアイドルにガチ恋の挙げ句、勝手に失恋して引きこもりになったオタクってところでしょうか。どちらも憐れには違いありませんが、受ける印象はまるで違います。前者が「切ない」後者は「アホか」です。この違いはまさに時代の価値観に紐付くもの。当時の価値観に照らし合わせれば、松五郎の生き方を否定する者等いないでしょう。もちろん傍から見れば奥様以外の誰かと所帯を持つ方が幸せだったと思いますが、夫を亡くした奥様を支え続けた松五郎は讃えられて然るべき。でも、あまりに不器用で報われぬ献身に胸が締め付けられる訳です。一方、現代の引きこもりオタク君の場合はどうでしょう。同情心など一切湧きませんよね。ただのアホです。当時と現代の社会背景で大きく異なるのは、人生の選択肢の数、教育の質と量、そして多様な幸せのかたち。極論すれば、あの時代の松五郎にはあの生き方しか出来なかった(考えられなかった)ということ。如何に現代の私たちが恵まれていることか。ですから「あの頃は良かった」はピンポイント事例に対する心証に過ぎず多分に思い違いであり、客観的に、あるいは総合的に考えれば今の世の中の方が良いに決まっています。少なくとも今を生きる私たちは「そう言わなければいけない」義務があると考えます。でなきゃ、ご先祖様に申し訳ない。 最後に。「松五郎にはあの生き方しか出来なかった」と書きましたが、もし奥様が松五郎を頼らなければ話は変わります。それこそ奥様が再婚話を受け入れてさえいれば松五郎は自由になれた訳で、野垂れ死ぬ事も無かったかもしれません。奥様が松五郎の好意を利用したのは間違いなく、そういう意味で奥様は罪深い。ただし一人息子を育てるために必死だった奥様の「母としての強かさ」を責めるのも酷な話です。当時の社会情勢を考えれば尚更のこと。やはり今の世の中の方がいいですよ。 【目隠シスト】さん [インターネット(邦画)] 8点(2025-05-29 01:13:48) ★《新規》★
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42.ネタバレ ずっと観たかったんだよね。 三船敏郎の松五郎は、喧嘩っ早いけど、非を認めたらすぱっと謝る。気持ちいいくらい謝る。 笠智衆演じる親分さんが場を収めるくだりは、観ていてほんとに気持ちよかった。 ちょっとやりすぎだけどね。 縁あって少年を助けたことで、吉岡一家との付き合いが始まるのだけど、車引きが無学で世間様から軽く見られている描写は、今見るとかなり切ない。松五郎から見たら、吉岡の奥さんは決して手を出せないお姫様みたいに見えただろうなあ。 年老いた松五郎が、久しぶりに会った同業者に身を固めろと言われるあたりから、やっと松五郎が奥さんを意識し始めるシーンが入るんだけど、もう少しそれを匂わせるシーンがあっても良かったんじゃないかな。「ひとりぼっちで寂しい」なんてセリフがあるけど、松五郎がそれを聞いてどう思ってるかなんてカット、ほぼないんだよね。 どうやったって手の届かない恋だからって、あんまりストイック過ぎるよなあと思いながら、三船敏郎の漢っぷりを観てた。 そしてラスト。 なんだよ、やっぱり親分さん出るんじゃねえかよ。ずるいよ。こういう役やらせたらこの人にかなう人いないんだから。 車引きで奥さんと息子名義の貯金五百円って、どれだけ奥さんに惚れてたんだよ。 切ないなあ。 手だって一度も触れてないんだぜ。 これが漢気なんだろうけど、つらいなあ男って。 いや、いい映画。
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41.ネタバレ 期待値が高かったせいで逆に。確かに胸にぐっと来る部分はあるものの。きっぷのいい人を際立たせるための演出がえぐい、しつこい。これでもかこれでもかと。わかったからいやもういいって。 【ほとはら】さん [DVD(邦画)] 5点(2023-06-19 20:24:20)
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40.ネタバレ この作品も良いが、未見の阪妻版の方が期待大。阪妻にあって、三船が弱いもの。おかしさ、切なさ。 【にけ】さん [映画館(邦画)] 7点(2019-01-18 19:45:36)
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39.ネタバレ これが九州男児なんですかねえ。東京下町の寅さんを見慣れてると、乱暴で粗雑な所がちょっとアレで粋や美が感じられないですけど。『シェーン』や『遥かなる山の呼び声』のように立ち去るわけでもなく、小倉に留まり続けて少年から青年まで成長を見守り、夫人に心情を吐露して死んでしまうストーリーはあまりにも切ない。太鼓のシーンはインテリ先生への対抗意識、己の存在のアピールなのかなと考えると人間臭さも感じます。全体的に駆け足でもあり、心情表現が弱く、やや人間の機微が感じられないところが難点かな。それにしても奥さん鈍感にもホドがあるだうよ。歌子(吉永小百合)のような女子大生じゃないんだからさ。
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38.抱いていたイメージとちょっと違ってましたがなかなか面白かったです。松五郎に無理なく感情移入させてくれる三船は見事ですが、当時の映画に子役の自然な演技を期待するのはやっぱり無理なんですね。 【ProPace】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2015-06-13 23:02:52)
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37.ネタバレ 前作「阪東妻三郎」の無法松から15年。 バンツマ以上のエネルギーと荒々しさを持ち合わせた三船敏郎が松五郎を演じきった。 いつも一本調子などなり声で叫ぶ(そこが良いのだが)三船が、今回は方言も見事にまったく違う三船を見せてくれた。 悪党から正義感、屈強な無頼漢から優男まで動きで魅せてきた三船敏郎の真骨頂とも言える作品の一つ。 表向きは博打に興じる暴れ者、本当は女子供に優しい繊細な男。その二面性が見事。 そして極めつけの祇園太鼓! 太鼓も上手な三船の腕が唸る唸る! あばれ太鼓のように太鼓を打ち鳴らす様は迫力満点。 園井恵子と違った切り口で良子を演じきった高峰秀子、涼子の夫の小太郎に扮する芥川比呂志、撃剣師範役の宮口精二の演技も良い。 前作が不本意なカットで泣かされた稲垣浩にとって、今作は前作以上のパワーと映像(+カラーとシネマスコープ)で完成させられただろう。 これほど血が騒ぐ日本映画は滅多に無い。 【すかあふえいす】さん [DVD(邦画)] 9点(2014-12-18 19:00:37)
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36.ネタバレ 「無法松」というからにはもっとハチャメチャな人物を想像していたのですが、意外とまともで気骨ある人物だと思いました。その分、ストーリーは平坦に感じてしまったのが残念です。團伊玖磨の音楽も、変に力が入っていて耳に障る感じがしてしまいました。高峰秀子演じる吉岡婦人は、残酷な人だと思ったのは私だけでしょうか。 【川本知佳】さん [DVD(邦画)] 6点(2014-10-05 22:09:55)
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35.阪妻を見た後、再度三船を見る。(最初に見たのは何年も前) ほとんど同じ内容なのに阪妻よりずいぶんわかりやすい。三船の方が少々荒くれだがその方が原作に近いのかも。小倉祇園太鼓のシーンは実に鮮やかだし、終盤の松五郎の思いも十分伝わってくる。しかし阪妻より作りすぎかも・・・。 【ESPERANZA】さん [DVD(邦画)] 8点(2012-10-24 21:04:18)
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34.松五郎と吉岡の奥さんとの関係って要するに、ヨハネス・ブラームスとクララ・シューマンみたいなもんですな(笑)。とは言っても、不器用なところ以外は、全く違うキャラクターですが。こういう「武骨で豪快で気風が良くて、でも奥手」というキャラは、本当に憎めない(これでモテモテだったら、許せない)。内容的には、短いエピソードの積み重ねで、いわばオムニバスと言ってもいいくらいのもの、しかも長い映画ではないので、その点、やや軽い印象はあるのですが。でもそれを補うのが、若き日から年老いるまでの松五郎を全身で演じ切った三船敏郎で、流れる歳月を実によく表現しています。そしてまた、映画において、「主人公の内面」なんて実はどうでもよいということ、そんなものを表現するのが役者の仕事ではない、ということ。「内面」が宿るのは、登場人物の中ではなくて、映画そのものの中であることが、よくわかります。撮影も見事ですね、時代を表現する屋外の光景もいいですが、屋内シーンのセット撮影は、何だか、空気が澄んで感じられるような。 【鱗歌】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2012-06-17 10:23:39)
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★33. ず~と、観たかった作品、やっとBSで鑑賞..思った通りの作品でした..無骨な松五郎を上手く描ききっていました... 【コナンが一番】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2012-03-22 12:57:38)
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32.ネタバレ エピソードを連ねた構成なので、途中でちょっと飽きてしまいました。テレビドラマ向きの題材でしょう。作品としては優れていると思います。ポスターの使い方などうまいです。三船敏郎の「野性的でありながらシャイ」というキャラクターが生きています。ただ、高峰秀子はベストな配役だったかどうか……。最後の泣き崩れるところはさすがにすばらしいので、そのための出演だったのかな? 【アングロファイル】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2011-11-03 11:22:38)
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31.せつないですなー。宇和島屋のおとら、いい味だしてるなー 【ホットチョコレート】さん [地上波(邦画)] 6点(2011-05-25 20:41:23)
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30.真っ直ぐでさっぱりした男松五郎に、時に楽しく時に切なくさせられました。運動会や太鼓のところは名シーンだと思いますが、印象に残ってるのは序盤にあったシーンで、軍の偉い人を乗車拒否して棒で頭をどつかれて痛がる松五郎が子供のようで可愛くて笑えました。 【さわき】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2011-05-20 12:39:57)
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29.ネタバレ 運動会のシーンでも、太鼓のシーンでも、その底にじっと抑えた慕情と悲哀がそこはかとなくにじみ出ている。そこがいい。だから、ポスターのシークエンスが、何ともいえない重みをもって静かな光を発している。 【Olias】さん [CS・衛星(邦画)] 6点(2011-05-17 23:24:57)
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28.ネタバレ <阪東妻三郎版は未見> 敏雄(ボンボン)が幼かった頃の楽しい日々から一転して、敏雄の「親離れ」と「松五郎離れ」によって寂しくなっていく二人の気持ちがよ~く伝わってきた。ボンボンじゃなく、若大将でもなく、吉岡さん… 「他人みたいだ」、と元気がなかった松五郎が忘れられない。明治~大正時代だとまだ身分の違いがあったようで、おかしな事ではないだけに切ない。そういえば奥さんも自分の息子なのに「さん付け」で呼んでいた… 家督を継ぐ者ってそういう扱いだったんだよね。そんな時代の叶わぬ恋を三船敏郎と高峰秀子の共演で描く豪華な一作。松五郎の死に場所は一番楽しかった頃の思い出、運動会が行われた学校だったと…。涙を誘う。 【リーム555】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2011-05-16 23:05:52)
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27.豪快で不器用な男の心優しい物語です。松が問題を起こした時にうまくまとめ、ラストで松のことを語る笠智衆がなかなか良かった。 【きーとん】さん [DVD(邦画)] 7点(2010-07-18 16:16:35)
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26.ネタバレ 「無法松」というからには、もっと無茶苦茶な男を想像していたんだけど、大きく予想に反しました。あの程度の乱暴は現在の視点なら「合法」でしょう。一途で義理堅く子供好きな男の健気な生き様でした。自分の恋心を切り出せずに、その純情を墓まで持って行ったのは、死んだ旦那に対する義理だったのでしょうか。コンセプトが一貫している生き方は潔く美しいと思います。でも、自分は観賞後にすっきりしないものがまとわりつきました。というか、映画自体が面白く感じられなかった。それは主人公の「一生」が最も大切なものを我慢していたからだと思います。我慢を美徳とする精神があるならば、それは間違いも内包していると思います。 【アンドレ・タカシ】さん [CS・衛星(邦画)] 4点(2010-02-09 03:28:32)
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25.なにか心の中が動かされそうになるが、薄汚れてしまった私には、感動のようなものは生まれてこなかった。 【みんな嫌い】さん [DVD(邦画)] 6点(2009-07-20 13:02:00)
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24.ネタバレ 未見にもかかわらず、何故か観たようなつもりになっていた映画っていうのが自分の中に結構あるんですが、これもそのうちの一本。オリジナル=モノクロ阪妻版は大昔、子供の頃見た記憶があるけど、あまりに昔過ぎてよく覚えてないや(笑)先日観た川島雄三監督「わが町」(8点)で辰巳柳太郎が演じたタアやんと同じく、いまやほぼ絶滅種となった「正しい日本快男児の美徳」標本のような魅力的な男の一代記。画面作りや演出も、非常に厚みがあって丁寧で感心。内務省の介入で肝心なシーンをカットせざるを得なかったという、オリジナル版への稲垣監督の熱き想いが伝わってきます。憧憬の対象、吉岡未亡人が高峰秀子っていうキャストも文句なし。今の感覚だとこの未亡人が都合のいいように松五郎を使っていると感じてしまうのはどうしても無理からぬ事だが、明治時代ならこういう身分の格差はごく自然的なものだったはず。ジレンマに懊悩する三船の無償の献身愛っぷりに、とにかく自分は泣かされました。多分、序盤ちょっとだけ出てきた吉岡大将=芥川比呂志の男っぷりに惚れたせいじゃないかなあ・・・。あの旦那がたいした事のないフツーの亭主だったら、あそこまで未亡人に対してストイックな態度を取らなかったんじゃないかと自分は思うんですよね。それだけに花火の夜、遺影の前でうなだれる、彼の苦悩の大きさが実感として観客にも伝わってくるわけです。「正しい日本映画の美徳」が顕著に現れた秀作として高く評価させて頂きます。 【放浪紳士チャーリー】さん [DVD(邦画)] 9点(2008-03-07 11:30:47)
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