341. シャークネード<TVM>
《ネタバレ》 「サメ映画」というジャンルは、非常に当たり外れが大きいです。 もしかしたら当たりよりも外れの方が多いのでは……と考えてしまう事も屡々。 それだけに、本作のような掘り出し物に出会えた時は、その喜びも一入ですね。 無数のサメが竜巻によって空に舞い上げられ、それが浸水状態の市街地に降り注いでくる。 そのアイディアだけでも拍手喝采なのですが、本作が面白い要因としては、きちんとパニック映画としての基本を押さえた筋運びになっている事が大きいのだと思います。 「アイディアと勢いさえあれば、面白い映画は撮れる!」という考えも間違いではないでしょうけれど、やはり基本は大事。 まず、この作品においては「誰が死ぬのか分からない」というドキドキ感の煽り方が、とても巧みなのですよね。 冒頭にて、主要人物っぽく登場した船上の二人が、すぐに殺されてしまう辺りは少々やり過ぎ感もありましたが、それが結果的に上手く作用しており、後に登場する人物達の生存予測を、適度に困難にしてくれています。 そして、もう一つ大事なのが「観客が納得するような人物を生き残らせる」という点。 上述の「誰が死ぬのか分からない」展開と相反してしまう、この条件。 生き残りそうな人物でも死ぬからこそ油断ならない面白さに繋がる一方で、やはり観賞後の爽快感を考えると、生き残って欲しいと思わされた人物が死んでしまうのは、納得出来ないものがありますからね。 大抵のサメ映画は、この矛盾を解消する為に四苦八苦している印象がありますが、本作においては、そのバランス感覚が絶妙。 ラストには反則的な「実は生きていた」展開も駆使して、観客の後味を良くしてくれるのだから、嬉しい限りです。 サメが泳いでいる「道路」の上を、車で走って避難するという絵面だけでも面白いし、血生臭いシーンは控えめになっている辺りも好み。 主人公のフィンは「困っている人を放っておけない」という、典型的なタイプではあるのですが、決してテンプレをなぞるだけで終わっていない点も、良かったと思います。 その性格ゆえに 「私達家族よりも、他人の方が大事なの?」 と妻に責められて、家族関係が不和となっている設定など、きちんと個性が確立されているのですよね。 他人よりも家族を優先して守ろうとする事だって、決して間違いではない。 それでも主人公は、孤立したスクールバスを見かければ、避難する足を止めて、子供達を助け出そうとする。 あまりの「良い奴」っぷりに、惚れ惚れさせられます。 中盤から終盤にかけて、やや間延びしてしまった印象があるのは残念でしたが、その代わりのように「チェーンソーを携えてサメの口の中に飛び込む主人公」なんていう、トンデモないクライマックスを用意してくれているのだから、もう大満足。 愛すべき映画でありました。 [DVD(吹替)] 7点(2016-06-22 11:16:24)(良:3票) |
342. フォーエヴァー・ヤング/時を越えた告白
《ネタバレ》 あらすじは承知の上で観賞したのですが、冷凍保存されるまでに二十分以上も掛かる構成には驚かされました。 主人公が軍人という事も相まって、どうしても「フィラデルフィア・エクスペリメント」を連想する内容となっているのですが、あちらの品とは異なり、元の世界で一緒だった女性への一途な純愛モノとして仕上げた事に、独自の魅力を感じられましたね。 途中、現代で出会った女性も交えた三角関係に発展する事を匂わせるミスリードもあったりしただけに、主人公が初志貫徹してくれたのが嬉しかったです。 ラストシーンまで辿り着けば、上述の「元いた世界」の尺が長い事にも納得がいくのですが、それでも「序盤と最後だけ別の映画みたい」という印象も拭えなかったりして、そこは少し残念。 その分、過去からやってきた主人公と、現代で出会った少年との交流部分に関しては、凄く良かったと思います。 ツリーハウスに主人公を匿ってくれて、食べ物や飲み物なんかを届けてくれる辺りも、幼少時の「秘密基地」感覚を刺激してくれて楽しかったし、幼くして父と別れた少年との間に、疑似的な親子のような絆が育まれていく様が、とても微笑ましかったのですよね。 好きな女の子に対してどう接するべきかと恋愛相談してくれる辺りも可愛かったし、何と言っても一緒に「飛行機の操縦ごっこ」をしてみせる場面が最高。 それが終盤の「実際に二人で飛行機に乗ってみせる」展開に繋がる流れには、そう来たかぁ……と感心させられました。 ラストシーンにて、愛する女性と再会して抱き合うだけで終わりではなく、駆け寄って来た少年を彼女に紹介してみせる姿も描かれていましたが、どんな風に話してみせたのかが気になるところです。 [DVD(吹替)] 6点(2016-06-22 03:32:28)(良:2票) |
343. ハンター(1980)
《ネタバレ》 始まって十数分、粉塗れになる乱闘シーンで「あれ?」と思い、そこから更に三十分後の爆発シーンで、ようやくコメディ映画なのだと気が付きました。 かと思えば、クライマックスにおける電車上のアクションは中々の迫力であったりして「一粒で二度おいしい」タイプの作りとなっていますね。 これが遺作であるというスティーヴ・マックィーンが、色んな面を見せてくれたという意味においては、非常に嬉しい内容。 ただ、自分としては正直コメディ部分は退屈だったりもして、残念でした。 その分、終盤のアクションパートでは画面に釘付けになる事が出来たのですが(どうせなら両方を楽しんでみたかったな……)と、切なく感じてしまったのですよね。 好きな俳優さんの作品であるだけに、全面的に肯定出来ない事が、もどかしかったです。 ラストに関しては、ほのぼのとしたハッピーエンドで締められており、驚くと同時に癒されるものがありましたね。 西部劇、刑事ドラマ、脱獄物と、シリアスな作風の品に出演している印象が強いマックィーン。 そんな彼が、何とも優しい手付きで赤ちゃんを抱き上げて、父親として笑ってみせている。 その姿が、最高に似合っていて、最高に決まっているのだから、本当に凄い事だと思います。 映画の内容そのものよりも、最後の出演作までマックィーンは格好良くて、魅力的だったという、そちらの方に感動させられた一品でした。 [DVD(吹替)] 6点(2016-06-21 12:56:14)(良:1票) |
344. ミリオンダラー・アーム
《ネタバレ》 ストーリーの概要を知った段階で「これは好みの映画のはず!」と予測していたのですが、それが当たっていて嬉しかったですね。 人物間の絆が育まれるまでの過程にて、さほど劇的なイベントは起こらない点。 そして、目標が「プロで活躍してみせる事」ではなく「プロになる事」に設定されている点など、実話ネタゆえの物足りなさのようなものは感じましたが、それ以上に胸をときめかされるものが多かったです。 涙腺を刺激された場面も幾つかあって、特に印象深いのは、父と子の別れの件。 母国インドを離れ、アメリカで野球に挑戦すると息子に告げられた父親が「お前なら、きっとやれる」と、強く抱き締めて送り出してあげる。 当初は息子の野球挑戦に反対していた、頑固者の親父さんとして描かれていただけに、この展開には「えっ、認めてくれるの!?」という意外性も内包されていて、凄く良かったと思います。 それは裏を返せば「何故、急に息子の事を認めて応援してくれたのか、描写が不足している」とも言えるのですが、少なくとも自分は全然気になりませんでした。 それまでは父親の言いなりになって生きてきた、内気な息子であった事が示唆されていただけに、はっきりと目を見て意思表示してくれた姿が、親父さんとしては嬉しかったのだろうな、と推測します。 上述のシーンが凄く良かったもので、そこが本作のクライマックスかなと思っていたら、それを裏切ってくれた辺りも素敵。 ラストのプロテストの場面。 「君達が成功する事は、インドの子供達に夢を与える事に繋がる」という通訳の言葉には、本当に感動させられましたね。 それによって勇気を与えられ、見事にプロ選手になってみせた二人。 そしてエンディングでは、彼らを真似して野球に興じるインドの子供達が描かれるとあっては、もう脱帽。大満足です。 良い映画だったと、確信を持って言える一品でした。 [DVD(吹替)] 8点(2016-06-19 10:05:43)(良:1票) |
345. ファーナス/訣別の朝
《ネタバレ》 クリスチャン・ベールが髭を蓄えた姿に、最初は違和感も覚えたのですが、すぐに慣れる事が出来て、一安心。 これはこれでワイルドな魅力があって良いんじゃないかと思えましたね。 特にお気に入りなのは「弟を思いやって、密かに借金を肩代わりしてみせる場面」と「別れた恋人の妊娠を祝福してみせる場面」の二つ。 主人公の優しさ、人の良さ、利己的になれない善人ゆえのもどかしさなどを丁寧に演じられており、相変わらず素晴らしい役者さんだなと、再認識させられました。 映画の内容はというと、往年のアメリカン・ニューシネマを彷彿とさせる作りとなっており、全体的に陰鬱な雰囲気が漂っているのが特徴。 鹿狩りが印象的に描かれている点などは「ディア・ハンター」へのオマージュではないかとも思わされましたね。 脇を固める俳優陣も非常に豪華であり、彼らの演技合戦を眺めているだけでも楽しかったです。 ただ、冒頭にてウディ・ハレルソン演じる悪役が、北村龍平監督の「ミッドナイト・ミート・トレイン」を観賞中に喧嘩を始めるシーンの意味は、少し分かり難くて困惑しました。 後にキーパーソンとなるキャラクターを、事前に紹介しておく事が目的だったのでしょうか。 上映作品のチョイスに関しても引っ掛かるものがあり、ともすれば映画がつまらないせいで作中人物が退屈して暴れ出したのかと邪推出来たりもするのですが…… まぁ、監督さんがあの映画を好きだから選んだのだろうなと、好意的に解釈したいところです。 基本的なストーリーラインとしては、弟を殺された兄が復讐する形となっているのですが、どうもそれだけでないような印象も受けましたね。 それというのも、主人公の境遇が余りにも悲惨過ぎて、弟の死さえもがその「不幸な要素」の中の一つにしか思えなかったのです。 老後は病に侵される事が約束されているような製鉄所での仕事。 交通事故によって人を死なせてしまった罪悪感。 刑務所で暴力に晒される日々。 愛する女性との別れ。 父親の病死。 これらの事件が次々に起こり、主人公は鬱憤を溜め込んでいた訳なのだから、弟の死はそれを爆発させた引鉄に過ぎなかったのではないかな、と。 勿論「数々の不幸に対しても感情を露わにしなかった主人公が、弟の死に対してだけは本気で怒った」訳なのだから、それだけ弟を愛していたのだと解釈する事も可能だとは思います。 けれど、その場合はラストにて悪役に「お前の弟はタフだった」と言わせた事に、疑問符が残るのです。 本当に弟への愛情だけが動機であったのならば、そんな弟の凄さを認めてもらった事に対し、主人公のリアクションを描いて然るべきだと思うのですが、彼は超然とした態度のまま相手を殺してしまう。 そして、復讐を止めようとした保安官が、主人公の元カノを妊娠させた男であるとなると…… 一連の行いには「保安官への当てつけ」という意図もあったんじゃないかと、そんな風に感じちゃいました。 単なる復讐譚としての映画であれば、ラストシーンの主人公は満足感や達成感を抱いていてもおかしくないのに、その顔に浮かぶのは、どちらかといえば「やってしまった」「これで終わった」という諦観の念。 長く、深く吐息をつく姿には、未来を捨て去った人間だけが得られる、一種の解放感のようなものが漂っていたようにも思えましたね 積み重なった悲劇が更なる悲劇に繋がるという、一種の悲惨美。 そして、全てを台無しにしてしまったからこそ得られる、後ろ向きなカタルシスを描いた映画であるように感じられました。 [DVD(字幕)] 6点(2016-06-19 04:21:51) |
346. 恋と愛の測り方
《ネタバレ》 明るいラブコメ映画は好きだけど、こういう真面目な恋愛映画は苦手だなぁ……と、自分の嗜好を再確認させられましたね。 丁寧に作られているし、主人公の感情の機微を描いたという意味においては質の高い作品なのでしょうが、どうにも好みの内容とは違っていた為、楽しむ事が出来ませんでした。 男女の浮気の違いを描いている点は興味深いのですが、どうも女性贔屓な目線であるように思えてしまった点も、マイナスポイント。 夫は妻を愛しているのに、一時の欲情に流されて同僚の女性と浮気してしまう。 そして妻の方はといえば、夫と同じくらい愛している元浮気相手の男性と心を通わせ合うも、最後の一線は越えていない。 しかも、夫の浮気相手となる女性には殆ど好意的な描写が無かったのに、妻の浮気相手である男性の方は如何にも同情的に描かれているものだから、やりきれません。 「性欲に駆られた夫の浮気は醜い」「それに比べて妻の浮気は悲劇的で美しい」という対比が窺えてしまい、どうしても賛同する事が出来ませんでした。 観賞後に調べてみたら、監督さんは女性であったらしく、何だか妙に納得。 男性贔屓な内容の映画を観て、女性が呆れてしまうのと同じような現象が、今回我が身に起こってしまったみたいです。 そんな風に、今一つ魅力が分からなかった品なのですが、そんな自分でもハッとさせられる場面も盛り込まれており、作り手の力量を感じさせてくれましたね。 特にラストシーン。外出用のハイヒールが投げ出されているのを映し出し、その後の夫婦の衝突を予感させる終わり方には、素直に「上手いなぁ」と感心。 「あの後、どうなったと思う?」「やっぱり旦那に浮気バレたよね」「最後の吐息からするに、奥さんの方から告白しそうな気がする……」 などといった具合に、観賞後にアレコレ話し合う楽しみも与えてくれる映画でありました。 [DVD(吹替)] 4点(2016-06-17 07:06:09) |
347. ティファニーで朝食を
《ネタバレ》 冒頭、ヒロインがティファニーの展示品を眺めながら朝食を取るシーンは凄く良いですね。 さぁ、これからどんな映画が始まるのだろうと大いに期待させられたのですが……終わってみれば、そこが最も印象的な一幕だったというオチでした。 全体的に「オシャレ」な雰囲気が漂っており、主人公達の住んでいる部屋の内装や、街並みを眺めているだけでも結構楽しかったりするのですが、肝心のストーリーが凡庸な恋愛モノといった印象で、観賞中は退屈さを覚えてしまったのも事実。 オードリー・ヘプバーンは流石の可愛らしさだし、清楚なルックスとは正反対の役柄を演じてみせたギャップも、意外と悪くないと思えただけに、話にノリ切れなかった事が残念でした。 当初の予定では、ヒロインを演じるのはマリリン・モンローのはずだったとの事ですが、もしそちらの配役で撮られていたら、どんな形に仕上がっていたのかも気になるところです。 上述のように、色々と物足りない内容ではあるのですが、古き良き映画として、その時代の雰囲気を楽しむ事は出来ましたし 「あの朝食のシーン、素敵だね」 と会話のネタが一つ増えるという意味でも、観る価値はあった映画だと思います。 [DVD(字幕)] 5点(2016-06-16 10:44:27) |
348. オブザーブ・アンド・レポート
《ネタバレ》 モールを舞台にした映画という事で楽しみにしていたのですが、ちょっと予想していたものとは違いましたね。 まず、コメディ成分が希薄です。 主人公は精神的な病を抱えた人物であり、笑いを誘う場面よりも、重苦しい雰囲気の漂う場面の方が中心。 警官となる為の体力テストを受ける件では、クスッとさせられる一幕もありましたが、印象的だったのは、そこくらい。 露出狂の犯人がシュールで面白いという面も、あるにはあったのですが、最後は主人公に撃たれて血まみれになって終わりという形なので、どうも爽快感に欠けていたような印象を受けました。 途中から「これはタクシードライバーに近しい映画だったのだな」と気が付き、何とか頭を切り変えようとしたのですが、上手くいかず仕舞い。 病人だから仕方ないとも思うのですが、どうしても主人公に感情移入が出来なかったのですよね。 社会から疎外された可哀想な人、という訳でも無く、実際は母親に同僚にヒロインの女の子にと、周りに良い人が沢山いて支えてもらっているのに、当人だけが自分勝手に悩んで暴走しているように思えて仕方なかったのです。 何といっても衝撃的だったのが、ラストにて犯人を撃ってモール内で殺人未遂を犯しているはずなのに、彼が作中でヒーローとして称賛されるエンディングを迎える事。 そりゃあ正当防衛が成り立つのかも知れないけれど、いくら何でもやり過ぎに思えたし、途中から彼の目的が「愛する女性を守ってあげたい」から「自分を振った女性を見返してやりたい」に摩り替っていたようにも感じられて、応援する気持ちにも、祝福する気持ちにもなれませんでした。 「警官」「化粧品売り場の美女」という主人公を悩ませていた二つの要素に対し、精神的な勝利を収めてみせた終わり方となっており、観客にカタルシスを与えようとしている事は感じられましたし、決して嫌いな映画では無いんですけどね。 音楽の使い方も良かったし、主演のセス・ローゲンも難しい役どころを丁寧に演じてくれていたと思います。 個人的好みとしては、仲良くなった友人が強盗犯だと気が付き、説得を試みるも結局は裏切られてしまう件が一番面白かったので、そこをもっと重点的に描いて欲しかったところです。 [DVD(字幕)] 4点(2016-06-15 03:51:18)(良:1票) |
349. 22ジャンプストリート
《ネタバレ》 シリーズ第二弾は、前作以上にメタフィクションな笑いが増えており、それが好みの分かれそうなところですね。 自分としては「ジャンプストリートの復活なんて誰も期待していなかったし、絶対大コケすると思っていた」「23ジャンプストリートマンション建設中」などのワードの数々に、クスッとさせられて、存分に楽しむ事が出来ました。 何といっても一番笑ったのは「もう予算が無い!」の件。 作中の捜査費用を指した言葉なのですが、それが映画の予算とも掛かっているのが分かる作りとなっているのですよね。 カーチェイスにて、主人公二人が「物を壊さないように」と怯えながら車を走らせたり、実際に物が壊れるシーンはカメラに映し出さずに「また壊しちゃった」という台詞だけで済ませたりと、本当に予算が足りないから仕方なくそうしたかのような演出が、もう可笑しくって仕方なかったです。 高校で仲良くなった三人組が、今度は同僚として登場するサプライズも嬉しかったですね。 ジェンコとの間に育まれた友情は偽りではなかったと分かり、じんわり胸に沁みるものがありました。 その一方で、シュミットと恋仲になったはずの前作ヒロインが登場しないのは残念でしたが、今作で新たに登場したヒロインの設定が面白過ぎたのだから、文句は言えません。 出会ったその日にベッドインまで済ませるなんて、初心なシュミットらしくないなぁ……と思っていたら、それが伏線だったのだから、もう脱帽。 「ヒロインが実は上司の娘さんだった」という展開自体は、ありふれたものかも知れませんが、その魅せ方が抜群に巧かったと思いますね。 二度目の観賞時には、シュミットと上司が笑顔でハイタッチするシーンにて、ついつい頬が緩んでしまいました。 互いに壁を感じている主人公達を、分割画面にて表現し、それがクライマックスにて一つの画面に繋がる演出なんかも良かったです。 また、前作を踏まえて(おおっ、今度はシュミットがジェンコを庇って撃たれるのか……)と思っていたら、やっぱりジェンコの方が撃たれてしまい「なんで俺ばっかり!」という叫びに繋がる辺りも面白い。 黒幕だった女の子も、悪役でありながら妙に憎めないキャラクターだったりしたので、次回作で登場するのかどうかも、気になるところです。 前作同様に、主人公コンビは聖人君子という訳ではなく、今作でも子供に対して石を投げて追い返す場面など、多少眉を顰めさせられる部分もありましたが、何とか許容範囲内。 クライマックスの「カッコいいことを言え」「カッコいいこと!」という掛け合いを目にした際には、もう二人の事が大好きになっており、映画が終わってしまうのが寂しく思えましたね。 そんな気持ちの中で始まったエンドロールの「ジャンプストリートシリーズ続編予告集」とも言うべき演出は、素晴らしいの一言。 契約で揉めて一時的に主役交代したり、原作ドラマの重要人物が登場したり、倒したはずの悪役が復活したりと、作り手も好き勝手にアイディアをぶち込んでみせている様子が、観ている側としても、非常に面白かったです。 個人的好みとしては、金髪美女が登場する「フライトアカデミー編」授業内容が気になる「マジック学校編」辺りに興味津々。 観賞後「一番観てみたいのは、どの続編?」と誰かと語り合いたくなるような、楽しい余韻が何時までも続いてくれる映画でした。 [DVD(吹替)] 9点(2016-06-13 22:02:26)(良:2票) |
350. 21ジャンプストリート
《ネタバレ》 ジョニー・デップ主演で、彼の出世作となったドラマを映画化した一品。 作中にて、ドラマ版主人公の未来の姿と思しき役どころで、ジョニー・デップ本人が出演しており、彼のファンには嬉しい驚きを提供してくれていますね。 残念ながら自分はドラマの方は未見なのですが、それでも情報として「元々はジョニー・デップが主演していた作品」という事は承知だった為、登場シーンでは大いにテンションが上がりました。 ただ、理由は何故か分からないのですが、彼の登場以降やたらと血が流れたり、目を背けたくなるような描写が続いたりして、せっかく盛り上がった気持ちに水を差されるような思いもありましたね。 撃ち合いのシーンなのだから、血が出るのは当たり前といえば当たり前なのですが、それまでは全くそんな素振りが無かったもので、少し戸惑いました。 今となっては、あの「急に血生臭い銃撃戦になる」という切り替えも一種のギャグなのかな、と思えてきますが、真相や如何に。 そんな訳で、クライマックスにて「あれ?」と違和感を覚えたりもしたのですが、全体的には楽しめる時間の方が、ずっと長かったですね。 何といっても「もう一度高校生に戻って、やり直したい」という願望を、疑似的に満たしてくれる作りとなっているのが心憎い。 例えば、両親が旅行に出掛けた隙に、家でパーティーを行うシーン。 二人が笑いながらアレコレと準備している様が、本当に楽しそうで、観ているこちらまでテンションが上がって来るのですよね。 「酒はどうする?」「偽のID無いよな……」と、惚けた会話を交わす辺りなんかも、お気に入り。 「子供の振りをしているけど、本当は大人」というズルい立場だからこその喜びを、上手く表現していたように思えます。 その一方で、過去に囚われる事を良しとする作風ではなく、きちんと作中で前向きな答えを出して終わる辺りも、好みのバランスでした。 他にも「スーパーマンII/冒険篇」に登場したゾッド将軍が、作中で妙にリスペクトされているのも可笑しかったし、やたらと扇情的な言動の女教師なんかも、魅惑的なアクセントになっていましたね。 特に後者に関しては、もっと出番を増やして欲しいと思ったくらい。 「俺は麻薬捜査官だ」「お前の盾になっても良い」などの台詞が、伏線として機能している辺りも心地良かったです。 人気の高さゆえに続編も制作されて、三作目では「メン・イン・ブラック」とのコラボも決定したという本シリーズ。 この一作目の終り方も、続編に直接繋がるような形となっており、観賞後もテンションの高さを持続させてくれたのが嬉しかったですね。 楽しい映画でした。 [ブルーレイ(吹替)] 8点(2016-06-13 06:33:22)(良:1票) |
351. 欲望のバージニア
《ネタバレ》 どうやら史実を基としたお話であるらしく、お酒をガソリン代わりに使って車を動かしたシーンなど、何処か微笑ましさを感じられましたね。 完全にフィクションであった場合、もう少しコミカルさを抑えた陰鬱なストーリーになりそうだっただけに、そういった「隙のある、ちょっぴり緩い感じ」が好ましく思えました。 主演のシャイア・ラブーフに関しては「トランスフォーマー」や「イーグル・アイ」で馴染みの顔なのですが、本作は少々感情移入しにくい役柄だったかと。 元々頼りないキャラクターを演じる事が多い俳優さんなのですが、今回は肝心な場面で兄の名前を出して難を逃れようとしたりして「虎の威を借る狐」感が強かったりしたのですよね。 クライマックスにて、そんな頼りない弟が兄に代わって敵役に銃弾を撃ち込むシーンに関しては、確かにカタルシスもあるのだけど、ちょっとそれまでが情けなさ過ぎて「最後だけ唐突に活躍した」という印象を受けてしまいました。 何せ、その数分前に「敵地に勇ましく乗り込んだかと思ったら、あっさり撃たれて倒れた」という、少々情けないシーンがあった直後の話でしたからね。 もう少し段階を踏んで、主人公が成長していくのをじっくり描いてくれていたら、ラストにも感動出来たかも。 監督さんは「ザ・ロード」と同じ人という事もあり、こちらにもガイ・ピアースが出演しているのには、何だかニヤリとさせられます。 他にもトム・ハーディにゲイリー・オールドマンと、脇を固める俳優陣も非常に豪華で、魅力的。 主人公とヒロインの恋模様なども描かれており、犯罪映画というよりは、若者を主役に据えた青春映画という印象の一品でした。 [DVD(吹替)] 4点(2016-06-08 22:39:19) |
352. 未来は今
《ネタバレ》 例の「丸いアレ」に関しては、最後まで謎のままなのかなと予想していたのですが、中盤にてアッサリと正体が判明。 しかも名前も機能もそのまんま「フラフープ」とは、意表を突かれましたね。 (これって、もしかして実話物だったりするの?)と思っていた矢先に終盤は「突然の時間停止」→「天使との対話」なんてトンデモ展開が飛び出すものだから、もう吃驚。 呆れる気持ち半分、笑ってしまう気持ち半分、といったところですが、こういった悪ふざけ演出は、決して嫌いではないです。 ……でも、出来ればもう少し伏線を張っておいて欲しかったなぁ、と思わされたのも事実。 ここを、もう少し丁寧に描いてくれていたら、もっと楽しめたかも知れません。 コーエン兄弟の作品にしてはブラックユーモアが薄めで、とても観やすい作りとなっているのも特徴ですね。 自分としては嬉しかったのですが、それによって個性を感じられなくなったという、痛し痒しな面もありそう。 善良だった主人公が出世によって心を歪ませてしまい、そこから改心して元に戻った後にヒロインと結ばれるハッピーエンドに関しては、非常に道徳的な作りだったと思います。 上述の「悪ふざけ」な演出と、この「道徳的」なストーリーラインのチグハグな感じを受け入れられるかどうかで、評価が変わってきそうな一本です。 とはいえ、あんまり難しく考えないで、子供向けのファンタジー映画のような感覚で観賞するのが、一番楽しめる方法なのかも知れませんね。 勤続四十八年になる主人公の同僚や、エベレーターボーイなど、脇役達も個性的で、魅力的。 ティム・ロビンスとポール・ニューマンの共演という一点に限っても、観る価値はある一本だと思います [DVD(吹替)] 5点(2016-06-07 06:02:24)(良:1票) |
353. 俺たちステップ・ブラザース -義兄弟-
《ネタバレ》 主役の二人が十歳と九歳であったなら、微笑ましいファミリームービーだったのだろうなと思います。 それぞれの父と母が再婚する事になり、義兄弟となった幼い二人が喧嘩しながらも絆を育んでいくという形。 新しい母親が自分をどれだけ甘やかしてくれるか確かめたり、二段ベッドを作っても良いかと両親に提案したりするシーンなんて、きっと可愛らしかったでしょうね。 それを四十歳と三十九歳の中年男にやらせているというギャップが本作の面白さなのでしょうが、自分としては少々観ていてキツいものがありました。 どちらかというと、主役の二人よりも二人の両親の方に感情移入させられましたね。 この「真っ当な社会人である両親」と「社会不適合者の息子達」の二つの視線を作中に用意している辺りのバランスは、作り手の巧みさを感じます。 そんな訳で、善良な両親が離婚する事になる終盤の展開はショッキングだったし、そこから二人の息子も奮起して社会復帰を果たしてくれる流れだった事には、心底ホッとさせられましたね。 就職すれば嫌味な上司に敬語を使い、苦しい思いもしなければいけないという部分を、キチッと描いている事には感心。 その一方で「働く喜び」のようなプラス面がオミットされていたのは気になりましたが、それに関してはラストの「二人が会社を辞めて起業家として成功する」オチに繋がるのだから、仕方のないところでしょうか。 クライマックスにて、二人がコンビを組んで演奏してみせる場面にはテンションが上がりましたし、それによって周囲の人々が主人公達を認める事になる流れも、王道の魅力がありましたね。 特に好きなのは、ウィル・フェレル演じる兄と、アダム・スコット演じる実の弟が、互いに不器用なハグを交わすシーン。 今では不仲となってしまっていたけれど、幼少期には仲の良い兄弟であった事が回想シーンで描かれていただけに、笑いの中にも微かな感動を覚えたりもしました。 ただ、最後の最後で意地悪な子供達に復讐する主人公コンビに関しては「なんて大人げない……」と感じてしまい、今一つカタルシスを得る事が出来ず、残念。 それでも、両親も無事に復縁し、主人公達も再び「兄弟」に戻れたハッピーエンドという形だった事は、良かったなぁと思えました。 [DVD(吹替)] 6点(2016-06-06 19:13:09)(良:1票) |
354. 星に想いを
《ネタバレ》 数学というテーマを扱ってはいるけれど、作りとしては王道なラブコメ映画ですね。 「相手のハートを射止める為に嘘をつく」→「嘘がバレそうになるけど何とか頑張って誤魔化す」→「相思相愛になる」→「でも嘘がバレる」→「相手が怒って喧嘩になる」→「仲直りしてハッピーエンド」というパターン。 そんな本作の個性としては、やはり作中にアインシュタインという大物を登場させている事に尽きるでしょう。 ウォルター・マッソーが飄々とした演技を披露しており、お茶目で憎めないお爺ちゃんっぷりを見せてくれています。 映画の中盤辺りで気が付いた事なのですが、ティム・ロビンス演じる主人公のエドよりも、むしろ彼の方に感情移入する場面が多いのですよね。 シンポジウムで演説する彼を見守る件、知能テストで答えをジェスチャーしてみせる件、そしてクライマックスで二人が結ばれるかどうかを望遠鏡で見守る件など、監督さんも意図的に彼を観客と同じ立場に置かれているのではないかな、と思えました。 最後にキスする二人を覗き見して、嬉しそうに微笑む姿は、正に観客の心情そのものかと。 ただ、それは裏を返せばエドに感情移入出来ないという事でもあり、映画はアインシュタインが主導する形となっていて、本来の主人公が状況に流されるままの人物としか思えなかった点は残念。 ヒロインのキャサリンが「天才の子供を産みたい」と考えている人物ゆえか、恋敵となるジェームズも知性以外の長所が窺えない人物として描かれており、ちょっと興醒めでしたね。 こういった場合、容姿も頭脳も完璧だけど性格に難ありとか、そういった設定の恋敵の方が「大切なのは互いのハートである」という結論に、自然に繋がったのではないかなと思う次第です。 ヒロインのキャサリンを演じるメグ・ライアンに関しては、流石の貫録というか、流石の可愛らしさ。 エドが一目惚れする展開にも、全く違和感が有りません。 そんな彼女と、星空の下で無事に結ばれるエンディングを目にすれば、多少の不満点などは吹き飛んでしまうのだから、これは凄い事だと思います。 やっぱり、こういった「安心して楽しめる映画」というのは必要なのだな、としみじみ感じました。 [DVD(吹替)] 6点(2016-06-05 20:01:20)(良:1票) |
355. ワン・デイ 23年のラブストーリー
《ネタバレ》 何シーズンにも亘って描かれるTVドラマを総集編として映画化したもの……という印象を受けました。 デクスターの母親や、エマの「小説家志望」設定など、尺が足りなくて描き切れなかったと思える要素が多く、もっと長めの上映時間が欲しかったところ。 毎年の七月十五日を舞台としたラブストーリーという発想は、とても面白いと思います。 けれど、それによって互いの感情が地続きになっていないというか「ある七月十五日に仲が進展したかと思ったら、次の七月十五日にはもう曖昧な関係に戻っている」という、数分毎に一種のリセットボタンが押されているかのような印象を受けてしまったのが残念でしたね。 「とうとう二人が結ばれた夜」「突然の彼女の死」などのイベントが発生しても、その前後が直接描かれていないのが、非常にもどかしい。 こういった斬新な設定は歓迎したいところなのですが、本作に関しては「普通の時間進行で観てみたかったな」と、ついつい思ってしまいました。 アン・ハサウェイは好きな女優さんなので、彼女と二人で旅行する1992年の場面なんかは、胸がときめくものがありましたね。 この映画を観た人達と「どの年の七月十五日が一番好き?」という話題で盛り上がれたりもしそうで、そう考えると、やはり素敵な設定なのかなとも思えてきます。 [DVD(吹替)] 6点(2016-06-05 15:51:55) |
356. エベレスト 3D
《ネタバレ》 「実話もの」であるのだから、最後は何だかんだで主人公は助かるのだろうな……と考えながら観賞していたもので、まさかの展開には本当に驚かされました。 全滅では無かった事が「救い」を感じさせてくれますが、やはりコレはハッピーエンドとは言い難いでしょうね。 雪原に倒れ込んだままの死体の描写や、凍傷の表現なども衝撃的で、中々頭から離れない。 観賞後は、非常に重苦しい気分を味わう事となりました。 中盤にて登頂に成功したシーンで盛り上げて、その後に遭難してしまうという展開の緩急などは、映画としての巧みさもを感じさせてくれます。 その一方で「実話だから仕方ない」とばかりに、ベックのキャンプ地への生還に明確な理由付けが窺えない辺りは、気になってしまいましたね。 実話を題材にしていたとしても、映画として観る以上「何故、彼は助かったのか?」という根拠を求めてしまう訳で、それが明かされないまま結末を迎えた事は、どうにも消化不良に思えてなりませんでした。 物語ではなく、再現映像による一種のドキュメンタリーとして観賞するのが正しい品なのかも知れません。 [DVD(吹替)] 6点(2016-06-05 01:11:31) |
357. グレンとグレンダ
《ネタバレ》 てっきり「特殊な性癖だからといって差別するのは良くない」という内容の映画かと思っていたのですが、少々異なる印象を受けましたね。 そういった道徳的な主張よりも「私は女装は好きだが同性愛者ではない」という監督の叫びが聞こえてくるかのような内容だったのです。 こんな時には、ついつい「どっちでも似たようなもんじゃないのか?」と思ってしまうものですが、それが特殊性癖の人にとっては「理解されない」という悲哀に繋がっているのかな……などと、色々と考えさせられるものがありました。 そんな深読みはさておいて、映画単品として評価すると、これが意外や意外。 シュールな映像表現が続いて、中々飽きさせない作りとなっているのですよね。 いきなり牛が飛び出す展開には思わず笑みが零れたし、デヴィッド・リンチが影響を受けたとしか思えない場面などもあったりして、若干の退屈さを覚えながらも、不思議と画面から目を離せない。 ヒロインが女物のセーターを主人公に手渡し、理解と愛情を示す結末なども、それなりに感動的に仕上がっていたと思います。 監督と主演を兼任しているエド・ウッドに関しては「史上最低の映画監督」などという称号も与えられていますが、本作を観賞した限りでは、それは不当な評価であると感じられました。 彼の破天荒な人柄、生涯、そして何よりも「作品から漂う不思議な愛嬌」ゆえに、親しみを込めてそう呼ばれているのではないかな、と考える次第です。 [DVD(字幕)] 5点(2016-06-04 18:09:35)(良:2票) |
358. ブロークンシティ
《ネタバレ》 マーク・ウォールバーグとラッセル・クロウの共演という事で、楽しみにしていた本作。 始まってすぐに 「あれ? これってもしかしてラッセル・クロウは悪役?」 と気付いてしまうような構成だったのは残念でしたが、それを補って余りある魅力的な演技を見せてくれたと思います。 悪役としての貫録もたっぷりだったし、逮捕後の見苦しい捨て台詞も最高。 むしろ主人公よりもオイシイ役だったかも知れません。 「アルコール中毒」「恋人との不仲」に関しては、中盤以降あまり必要性が感じられず、残念でしたね。 むしろコレらの設定がある事によって 「どうせなら逮捕されて刑務所で酒断ちし、彼女とも別れた方がスッキリするんじゃないか」 と思えてしまい、主人公の最後の選択における「自己犠牲」的な意味合いが薄まっているようにも感じられました。 そんな中で癒しとなっているのは、主人公の助手であるケイティの存在。 大物俳優が多い作品の中で、彼女は初めて見る顔だったという事もあってか、とても新鮮な印象を受けましたね。 可愛らしい彼女と、出所後の主人公が無事に再会出来た事を願いたいものです。 [DVD(吹替)] 6点(2016-06-04 16:26:09)(良:1票) |
359. ルビー・スパークス
《ネタバレ》 理想の恋人を現実世界に召喚してみせるも、結局は彼女も思い通りになってくれない……というお話なのかと思いきや「主人公が本気で彼女を操ろうとすれば、簡単に操れてしまう」と証明されるシーンが衝撃的。 ホラー映画テイストな演出も相まって、大いに恐怖を抱かせてくれましたね。 劇中で二人が観賞し、楽しそうに笑い合っていたゾンビ映画「ブレインデッド」よりも怖かった気がします。 「ありのままの自分を愛してくれる人」を作り出したはずの主人公が求めていたのは、結局「貴方は天才!」と絶賛してくれるだけの操り人形に過ぎなかったというオチも、何とも哀れ。 最後には「誰にも操られない、自由になった彼女」と再会する事となる訳ですが、これはココから本当の恋が始まるというハッピーエンドなのか、あるいは主人公が彼女の存在に囚われたまま離れられないバッドエンドなのか、解釈が分かれそうなところです。 自分としては、前者であると信じたいのですが、どうも後者であるようにも思えてしまい、今一つスッキリしない感じが残りました。 以下、映画の内容とは直接関係無い事なのですが、この脚本を書いたのはヒロイン役のゾーイ・カザンであり、プライベートでも恋人であるポール・ダノに主人公を演じてもらったというのが、とても興味深かったですね。 一見すると、本作は「女性に幻想を抱く男性」を揶揄した代物であるかのように思えます。 けれど実際は「理想の彼氏」を求める女性によって作りだされたものであり、ルビーではなく「悩める天才小説家の青年」であるカルヴィンこそが「(脚本家にとっての)都合の良い妄想の産物」ではないか、とも思えました。 キャスティングからしても、それを隠そうとする意図は無く、確信犯的に二重構造を楽しみながら、この映画を作ったのではないかな……と感じられて、何だか微笑ましかったです。 [DVD(吹替)] 5点(2016-06-02 17:35:23)(良:1票) |
360. リリィ、はちみつ色の秘密
《ネタバレ》 冒頭の展開から「ハックルベリー・フィンの冒険」の女性版のように、二人でアチコチを旅するお話なのかな? という印象を受けていたのですが、ロードムービーではありませんでしたね。 舞台となるのは、主人公が辿り着いた先の、もう一つの家。 自殺、母親殺し、差別など、色々と重苦しいテーマを扱っているのですが、全体的に落ち付いた雰囲気と優しさを備えた、良質な作品だったと思います。 こういった「家出モノ」映画においては、最後は何だかんだで我が家に戻るパターンが多いように思える中で、本作の主人公が「養蜂場に残る」事を選択したのは、大いに納得。 「私には三人の母親がいる」と語るラストのモノローグも、心に響くものがありました。 その一方で、旅立ちのキッカケとなったロザリンの存在意義が、中盤以降は薄まっているように感じられた事。そして主人公の父親が哀れに思えてしまい、どうにも後味が悪くなってしまった事は、残念でしたね。 勿論、後者に対しては、娘に体罰まで加えている以上は自業自得であり、同情などすべきではないとも思うのですが「妻に続いて娘にまで見捨てられてしまった」となると、流石に可哀想。 身勝手で不器用ながらも、本人なりに娘を愛しており「誕生日おめでとう」と呟くシーンなども描かれていただけに、スッキリしないものがありました。 こういった場合に、悪役となる側にも同情すべき点を残しておくバランスは好ましく思っているのですが、どうも今回はそれがマイナスに作用してしまったように感じられます。 主人公が「シュープリームス」について語る小ネタ(話し相手は「ドリームガールズ」に出演したジェニファー・ハドソン)にはクスッとさせられましたし、黒人青年との仄かな恋心が描かれる場面なんかは、とても良かったですね。 作中で人種差別問題が繰り返し提起されていただけに、主人公が偏見を越えて彼に愛情を示してくれた事には、癒されるものがありました。 蜂蜜を男の指から舐め取ってみせるダコタ・ファニングという、ドキッとさせられる絵面が飛び出す辺りなんかも、程好いアクセントになっていたかと思う次第です。 [DVD(吹替)] 6点(2016-06-02 14:06:36) |